ラパンへようこそ、ヤクザさん。 日常

ヤクザ組織「鳥羽会」会長の末っ子である鳥羽宏輔は生まれながらにして気弱な性格。家族からは呆れられ、せめてものシノギとして下っ端構成員の隅海斗と共にウサギカフェ「ふわふわラパン」を経営している。ある日カフェにやって来たのは、鳥羽会の本部組織である「四条組」の若頭。ヤクザとウサギが触れ合う奇妙な光景を鳥羽は目の当たりにすることになる。
播磨つな 21 0 0 08/10
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第一稿

〇人物
 鳥羽宏輔(22)『ふわふわラパン』店長
 万願寺龍(45)『四条組』若頭
 隅海斗(18)『ふわふわラパン』店員
 鳥羽誠也(28)宏輔の兄
 高辻正信(30) ...続きを読む
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〇人物
 鳥羽宏輔(22)『ふわふわラパン』店長
 万願寺龍(45)『四条組』若頭
 隅海斗(18)『ふわふわラパン』店員
 鳥羽誠也(28)宏輔の兄
 高辻正信(30)『四条組』組員


〇ふわふわラパン・店内
   開店前の店内。
   隅海斗(18)が店内を走り回るウサギに餌をやっている。
   店内の掃き掃除をする鳥羽宏輔(22)、隅の方を向いて、
宏輔「海斗、みかんにはそっちのペレットあげて」
隅「ああ、そうだった。さーせん」
   ペレットの袋を開ける隅。
隅「オープンして三ヵ月経ちますけど、なかなか慣れないもんッスね」
宏輔「そう? 最初に比べたら随分立派なスタッフになったと思うよ。海斗目当てでお店に来るお客さんも多いし」
   ウサギを抱き上げ、微笑む宏輔。
宏輔「それに、海斗はもうこの子達の虜だ」
隅「そりゃそうッスけど・・・・・・」
   宏輔を見る隅、ため息をつく。
隅「俺はオジキの息子ともあろう方がどうしてウサギカフェなんてやってるのかさっぱり分からねえッスよ・・・・・・」
   ウサギの背中を優しく撫でる宏輔。
宏輔「良いんだ。俺は体も気性も弱いからヤクザなんて向いてないよ。自由にシノギさせてもらえるだけで御の字」
隅「そんなもんッスかねえ・・・・・・。ま、俺も人のこと言えないんスけど」
宏輔「入門早々東山会のボスにお母さんって言っちゃったやつね」
   恥ずかしさで真っ赤になる隅。
隅「それは言わない約束だったじゃないッスか!」
×   ×   ×
   女性客で賑わう店内。
   宏輔、厨房から運んだ飲み物を客のテーブルに置く。
宏輔「お待たせしました。ラパン特製もこもこクリームココアでございます」
   ドアに掛かるチャイムが鳴る音。
   店内に中折れの帽子を被った万願寺龍(45)が入って来る。
   少しだけざわめく店内。
   宏輔、慌てて万願寺の元へ近寄る。
宏輔「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
万願寺「ああ」
宏輔「こちらの席へどうぞ」
   宏輔に案内された席に座る万願寺。
宏輔「良かったらドリンクを先にお伺いします」
   万願寺、テーブルの上のメニューをまじまじと見る。
万願寺「・・・・・・おすすめはどれだ」
宏輔「えっと・・・・・・珈琲がお好きなら、『ウサギさんのしっぽカプチーノ』がおすすめですよ」
万願寺「じゃあ、その・・・・・・『ウサギさんのしっぽカプチーノ』を」
宏輔「かしこまりました」
   一匹のウサギが足元に近寄る。
   ウサギをじっと見下ろす万願寺。
宏輔「あの、良かったら待ってる間にウサギさん達と遊んであげてください」
   ウサギを抱え上げ、万願寺の膝の上に乗せる宏輔。
宏輔「この子は甘えん坊だから、撫でてあげると喜びますよ」
万願寺「良いのか・・・・・・?」
   恐る恐るウサギに触れる万願寺。
   おでこを撫でるとウサギは気持ち良さそうに瞳を閉じる。
宏輔「撫でるのお上手ですね。すもも、とっても嬉しそうです」
万願寺「ああ。幼い頃、母親がよくこうやって飼っていたウサギを撫でていた」
宏輔「そうでしたか・・・・・・。どうぞごゆっくりお過ごしください」
   踵を返すと、厨房からこちらを凝視する隅と目が合う。

〇同・厨房
   厨房へ戻る宏輔、ホールを覗く隅に話しかけられる。
隅「何スかあのお客さん。どう見てもカタギじゃないッスよ」
宏輔「知らないよ。ウサギ好きなんじゃない?」
隅「え、感想それだけ!?」
   冷蔵庫から食パンを取り出す宏輔。
宏輔「ほら、カプチーノオーダー。俺サンドイッチ作るからあの人に持ってって」
隅「絶対嫌ッス!」
   隅、宏輔から食パンを奪い取る。
宏輔「ったく」
   厨房からちらりと万願寺を見やる宏輔。
宏輔「・・・・・・(呟く)にしてもあの人、どっかで見たことあるような気がするんだよね」

〇鳥羽家・廊下(夜)
   バスタオルで髪を拭きながら廊下を歩く宏輔。
   前からスーツ姿の鳥羽誠也(28)が歩いて来る。
宏輔「兄さん」
誠也「おう、ピヨ輔。どうだ? ヒヨコカフェの経営は」
   宏輔、むっとして
宏輔「ウサギカフェです。それより遅くまで忙しそうですね。何かありましたか?」
誠也「ああ。敵対組織の山科組の動向が近頃怪しいって噂が流れててな。俺らの本家組織である四条組の縄張りをうろつく様子が目撃されているらしい」
宏輔「そうですか」
誠也「ピヨ輔が気にするこたあねえよ。お前はそのヒヨコカフェで鳥羽会に貢献してくれりゃ十分だ」
宏輔「だからウサギカフェですって」
   ため息をつく宏輔。

〇ふわふわラパン・店内
   カプチーノを飲む万願寺。
   膝の上でウサギが眠っている。
   近付いて話しかける宏輔。
宏輔「すもも、すっかり懐いてますね」
万願寺「ああ。ウサギと触れ合うのなんて数十年振りだったが・・・・・・。いつになっても可愛いものだな」
   電話の着信音。
万願寺「おっと、失礼」
   万願寺、ウサギをそっと宏輔に渡し、スーツの内ポケットからスマートフォンを取り出す。
万願寺「・・・・・・何? 分かった。いや、迎えは寄越すな。すぐ行く」
   急いで立ち上がる万願寺、テーブルに千円札を置く。
万願寺「すまない、急用ができた。釣りはいらない」
宏輔「あ、ちょっと・・・・・・!」
   ドアが閉まる音。
   万願寺が椅子に帽子を忘れていることに気付く。
   帽子を手に取る宏輔、内側に『R.M』のイニシャル。
宏輔「やっぱり・・・・・・!」
   厨房を振り返る宏輔。
宏輔「海斗! ちょっと店番お願い」
隅「えっ!?」
   驚く隅を置いて店を出て行く宏輔。

〇海浜公園
   地面にのびる数人の男がスーツ姿の男に引きずられ連行されて行く。
   近くで様子を眺める万願寺と高辻正信(30)。
万願寺「この人数で乗り込むとは四条も舐められたものだな」
高辻「見張りがいただけ良しとしましょう。一緒に事務所まで戻られますか?」
万願寺「ああ・・・・・・いや」
   ふと右手を頭上にやる万願寺、帽子が無いことに気付く。
万願寺「忘れ物をした。先に戻っていろ」
高辻「了解しました」
   立ち去る高辻。
   目の前に宏輔が立っていることに気付く万願寺。
万願寺「どうして貴様がここにいる」
宏輔「忘れ物を届けに来ただけですよ」
   笑顔で帽子を振る宏輔。
万願寺「誰かに似ているとは思っていたが・・・・・・。貴様、鳥羽会の次男坊だな」
   頷く宏輔。
万願寺「何故ここが分かった」
宏輔「四条組の縄張りくらいは頭に入っています。それに、これを忘れるくらい大切な場所なら、ここなのかなって。あくまで推測ですけど」
   視線を横に向ける宏輔。
   青く綺麗な海が広がっている。
万願寺「見事だな。ここには母親の墓がある。死んでも守りたい縄張りだ」
   宏輔から帽子を受け取り、頭に乗せる万願寺。
万願寺「どうだ、組のポストくらいは用意してやれるが」
宏輔「良いんです。俺はシノギやってるくらいが性に合ってるから」
万願寺「・・・・・・そうか。まあそれもそれで良いのかもしれないな」
宏輔「あなたのことは組織の誰にも話しませんから・・・・・・良かったら、また来てください。あの子達に会いに」
万願寺「ああ。また邪魔させてもらおう」
   宏輔と万願寺、微笑み合うと別々の方向に歩いて行く。

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