アオノヒマワリ 恋愛

入学一カ月、絵をやめた少年が、ぶつかり落ちた生徒手帳をきっかけに“拙いがまっすぐな向日葵”と出会い、忘れていた「描くこと」の痛みとときめきを取り戻していく青春物語。
豊和 11 0 0 11/05
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第一稿

【校内・廊下/放課後】
初夏のぬるい風が廊下を抜ける。帰り支度の生徒たちのざわめき。青太郎と柚月が昇降口へ歩く。

柚月「枦山君は、まだ部活、決めないの?」
青太郎「……う ...続きを読む
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【校内・廊下/放課後】
初夏のぬるい風が廊下を抜ける。帰り支度の生徒たちのざわめき。青太郎と柚月が昇降口へ歩く。

柚月「枦山君は、まだ部活、決めないの?」
青太郎「……うん。まだ、ちょっと悩んでてね」
柚月「美術部は? もう絵は描かないの?」
青太郎「……うん。絵はもう描きたくないんだ」
柚月「……そっか」
柚月はすぐ笑顔に戻る。
柚月「じゃあ、うちの水泳部は? 先輩たちも優しいし、すごく楽しいよ」
青太郎「いや、僕は泳げないって知ってるだろ?」
柚月「泳ぎ方なら私が教えるよ」
青太郎「いやいや、いいよ。他の部員の人にも迷惑かけちゃうし」
柚月「大丈夫。誰も迷惑だなんて思わないよ」
青太郎(小さくため息)「……気持ちだけで十分だよ。ほんとに大丈夫」

右の視界で影がふくらみ、勢いよく何かがぶつかる。
青太郎は体勢を崩して倒れ、女子生徒が胸の上に覆いかぶさる。至近距離、群青色の瞳が揺れる。

葵「ごめんなさい! あの、私、急いでて! ごめんなさい!」
葵は慌てて身を起こし、頭を下げて走り去る。
柚月「大丈夫!? 枦山君?」
青太郎「うん、平気だよ」

足元に生徒手帳が落ちている。
青太郎「……手帳だ」
拾い上げると、一ページ目に「1年A組 早坂 葵」。
青太郎「早坂葵さん……A組の子だね」
柚月「手帳がないと困るかも。届けてあげたほうがいいよ」
青太郎「そうだね」
柚月「じゃあ私は部活あるから、また明日ね」
青太郎「うん、じゃあね」

【1年A組 教室→廊下/同日】
放課後の教室。多くは帰り支度を終えている。

青太郎「すみません。早坂さん、いますか?」
女子生徒「早坂さん? もう帰ったよ。あ、でも部活があるから、美術部の部室にいるかも」

「美術室」という言葉に、青太郎の胸にわずかな戸惑いがよぎる。

【美術室前 廊下/夕刻】
静かな廊下。半開きの扉の向こうから、絵の具と油の混じった匂い。

【美術室/夕刻】
窓際で葵がイーゼルに向かっている。キャンバスには向日葵。線は拙いが、ためらいのない色がまっすぐに伸びている。
青太郎はそっと入る。手帳を渡そうと近づき、絵に目を奪われる。

青太郎(独り言)「……下手だ」

葵は肩を跳ねさせ、振り返る。廊下でぶつかった相手だと気づき、表情が引き締まる。

葵「うわぁ、びっくりした! ……ん? ちょっと待って。いま、『下手』って言った?」
青太郎は視線を泳がせる。
葵(眉を吊り上げ)「はぁ!? 失礼じゃない? 一生懸命描いてるのに!」
青太郎「ご、ごめん。そんなつもりじゃ……えっと、すごく上手だと思う。野菜、かな?」
葵「ちがう! 向日葵!」
気まずさを悟った青太郎は手帳を差し出す。
青太郎「これ、早坂さんのだよね?」
葵は受け取り、短く息を吐く。
葵「……ありがとう。でも、人の絵を勝手に見て『下手』はないと思うな」
青太郎「本当に、ごめん」

少しの間。
葵「ねぇ、君は絵を描くこと、好き?」
青太郎(迷って)「え? あ、うん。いや、どうだろう」

葵の表情がわずかにやわらぐ。どこか切なさが混じる。
その時、扉が開き、女子生徒が顔を出す。

女子生徒「え、君は? もしかして入部希望?」
青太郎は会釈して下がる。
青太郎「いや、ちがいます。すみません。失礼します」

青太郎は早足で退出。
女子生徒「え、行っちゃった」
葵は手帳を握りしめ、去っていく背中を見つめている。

— 終 —

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