〇人物
久留米翔(19)『ジャスパー』構成員
由良天音(19)看護専門学生
遠藤雄吾(17)久留米の友人
橘ゆりか(19)天音の友人
西原健二(18)『ジャスパー』構成員
茂木治(18)『アルシン』構成員
監視員
医者
〇池袋西口公園(深夜)
複数の少年が殴り合いの喧嘩をしている。
久留米翔(19)、走って喧嘩の輪へ入る。
久留米「おい!」
人をかき分けながら西原健二⒅を探す久留米。
輪の中心で茂木治(18)に殴りかかる西原を見つけ、背後から取り押さえる。
久留米「おい! 西原、やめろって」
西原「離せ!」
暴れる西原。
挑発的な表情の茂木、西原に顔を近付ける。
茂木「ジャスパーのザコが手ぶらでアルシンのテリトリーに入って来んじゃねえ」
西原「んだと・・・・・・!」
久留米を振り払う西原。
ポケットからサバイバルナイフを取り出し、茂木に振りかざす。
久留米「やめろ!」
間に入る久留米、左腕を刺される。
驚きで目を見開く西原。
懐中電灯を持った監視員が怒鳴りながら公園に入って来る。
監視員「お前等何やってんだ。警察呼ぶぞ!」
茂木「ちっ」
四方に逃げて行く少年達。
地面に膝をつく久留米、左腕を押さえて息を荒げる。
地面に落ちる血。
西原「・・・・・・くそっ!」
呆然と立ち尽くしていた西原、ナイフを握ったまま走り去る。
〇路地裏(深夜)
左腕を押さえ、よろめきながら歩く久留米。
左腕から血が滴っている。
久留米「痛ってぇ・・・・・・」
閉じたシャッターを背に座り込む久留米。
久留米「くそ、ここで死ぬとか格好悪すぎだろ・・・・・・」
向かいのドアが開き、ドレス姿の由良天音(19)がゴミ袋を手に出て来る。
天音「ぎゃっ!」
ゴミ袋を放り投げ、久留米の元へ近寄る天音。
天音「ちょっと、大丈夫⁉」
苦しそうに息をする久留米。
久留米「ああ、喧嘩で刺された」
血で染まる久留米の右手。
天音「とりあえず止血しないと」
天音、ポケットから取り出したハンカチを久留米の腕に巻く。
ハンカチを思い切り引っ張る天音。
久留米「痛っ、痛ってー!」
足をばたつかせる久留米。
天音「強く巻かないと血、止まんないの! 大人しくしてて」
手際よくハンカチを結ぶ天音。
天音「スマホ借りるよ」
久留米のポケットから取り出したスマートフォンを耳に当てる天音。
天音「救急お願いします。池袋一丁目三番地、左腕刺傷による大量出血。通報者由良天音。はい、平和通りまで連れて行きます」
ぽかんと天音を見つめる久留米。
電話を終えた天音、立ち上がると久留米に手を差し出す。
天音「ほら、大通りまで行くよ。立てる?」
久留米「あ、ああ」
久留米、天音の肩を借りて歩き出す。
〇病院・診察室(朝)
医者と久留米が向かい合って座っている。
医者「手術も済んだので今日はもう帰って大丈夫です。一週間後にまた経過観察に来てください」
久留米「あざっした」
頭を下げる久留米。
久留米に微笑みかける医者。
医者「今回は応急処置が適切だったので、最小限の縫合で済みました。大事に至らなくて良かったですね」
久留米「はあ・・・・・・」
きょとんとした表情で医者を見つめる久留米。
〇池袋駅・構内
久留米と遠藤雄吾⒄が並んで歩いている。
遠藤「にしても翔さん、本当にこの前の晩のこと、警察に言わなくて良かったんですか?」
久留米「ああ。サツに言っても話がこじれるだけだろ。あの夜は個人的に抗争を止めに行って、俺の不注意で刺された。それだけの話だ」
ため息をつく遠藤。
遠藤「にしてもいくら同じグループの仲間とは言え『アルシン』に喧嘩売るとか西原達も頭おかしいですよね。アルシンのトップにはあの人がいるって言うのに」
久留米「『悪魔の豪』だろ」
遠藤「そう。由良豪徳。この前もあの人の力でデキシーの集会所が一晩で潰されたばっかだったのに。はあ、名前言うだけで呪われそう」
肩をすくめる遠藤。
久留米、橘ゆりか(19)と喋りながら歩く天音とすれ違う。
勢い良く振り返る久留米。
久留米「あーっ!」
振り返る天音、しまったという表情。
久留米「あん時のキャバ嬢!」
怪訝な表情で天音に耳打ちするゆりか。
ゆりか「ちょっと天音、あの人誰?」
天音「知らない。赤の他人」
久留米「知らない訳ねーだろ! 俺、お前に言いたいこと沢山あんだよ」
天音「ああもう、分かったから!」
天音、久留米に近付いて右腕を掴む。
久留米を睨みながら小声で囁く天音。
天音「人前でキャバ嬢とか言うのやめて」
天音、ゆりかの方を振り返り、
天音「ゆりか、悪いけど今日はここで」
久留米の腕を引いて大股で歩き出す。
ゆりか「ちょっと、天音⁉」
遠藤「翔さん⁉」
遠ざかる久留米と天音の後ろ姿。
遠藤、ゆりかと顔を見合わせる。
〇公園
久留米の腕を引いて歩く天音。
久留米「おい、どこまで行くんだよ」
天音、腕から手を離す。
久留米に背を向けて話す天音。
天音「・・・・・・腕、無事だったみたいね」
久留米「ああ。『応急処置が適切だった』って、お医者せんせーが言ってたぞ」
天音「ふうん」
久留米「なあ、お前も実は医者の資格持ってたりすんの?」
天音「はあ?」
呆れて振り返る天音。
天音「な訳ないじゃん。私はただの看護学生」
久留米「キャバクラで働いてんのに?」
天音「『ベリーニ』はキャバクラじゃないから! そもそも私、まだお酒飲める年齢じゃないし」
久留米「どっちにしろ昼は学生で夜は店で働いてるってことだろ? お前も大変なんだな」
天音「余計なお世話。人には事情がそれぞれあるの」
天音、包帯が巻かれた久留米の左腕をちらりと見る。
天音「その傷、喧嘩で刺されたって言ってたよね」
久留米「ああ。この前うちのグループに入ったばっかの奴がアルシンの縄張りに入って殴られてよ。報復しに行くっつーから止めに行ったらこのザマだ」
慌てて頭をかく久留米。
久留米「って、そんな話お前にしても分かんねーよな、悪い」
天音「アルシン・・・・・・」
顔をしかめて呟く天音。
久留米「そうだ。それよりお前に渡したいものがあったんだ」
ポケットをまさぐる久留米。
取り出したハンカチを天音に投げる。
キャッチしたハンカチを見つめる天音。
天音「・・・・・・これ、私のじゃないけど」
久留米「ああ。血、洗っても取れなかったのと、コインランドリーの乾燥機に入れたらしわくちゃになっちまって」
恥ずかしそうに天音から視線をそらす久留米。
久留米「女物とか良く分かんねーけど、店員に聞きまくって選んだからそれで許してな」
ぽかんとした表情の天音。
天音「・・・・・・馬鹿じゃないの」
天音、呆れたように笑う。
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