○テレビ局・スタジオ
バラエティ番組『今だからこそ占わせてもらうわよ!』の収録が行われている。
× × ×
占い師・英子アクチュアリ―(えいこ・あくちゅありー)40歳が、俳優・湊ワタル(みなと・わたる)29歳を占っている。
英子「あー、身体じゃなくて…頭?脳がSOSを出してる」
ワタル「マジ…いや!この前俺、病院行ったら、人の3倍脳が酸素を必要としてるって言われたんすよ!?」
○ 別室スタジオ・モニタールーム
ワタルと英子のやり取りを歌手・池袋理論派(いけぶくろりろんは)・33歳とタレント・ギャル美(ぎゃるみ)23歳が見て、コメントしている。
理論派「俺、ワタルとスケボー仲間なんだけど、この前まさにそれ言ってた!」
ギャル美「英子さん、ぱねぇ」
盛り上がっている理論派とギャル美。
○ スタジオ
引き続き占いをされているワタル。
英子「現場行くと元気保ってるけど、ここ数カ月ずっとある出来事に苦しめられてる」
ワタル「え…」
英子「日常生活にも支障が出るくらい、それが浸食してきている」
ワタル「…それってなんすか?」
英子「ここで言っていいの?」
ワタル「え…」
英子、タブレット画面を見ている。数秒の沈黙の後。
英子「それが原因で来年には、この業界からいなくなってます」
ワタル「!?」
頭を抱えてるスタジオ内のスタッフたち。
ワタル「…え?それは…」
英子「それに耐えきれなくなって、あなた自身が引退を決めます」
カンペで「英子さん!変えて!次!」と強調して出す40代男性のディレクター。英子、嫌々カンペに従って。
英子「あなた…スケートボードやってる?スケボーブランドプロデュースしたいって思ってるでしょ。それ絶対やめた方がいい。大失敗します」
そんな助言よりも、「業界にいない」という英子の言葉でいっぱいな様子のワタル。
○ 楽屋
収録後。帰り支度をしているワタル。未だ英子の言葉がよぎっている。
ワタル「…ちょっとたばこ」
マネージャーにそう告げ、部屋を出るワタル。
○ 英子の楽屋前
ワタル、ノックし部屋に入ろうとすると。近くにいた20代男性のADが。
AD「あ!英子さんですか?もう帰られました」
ワタル「え」
AD「いつも速攻で帰っちゃうんすよー」
ワタル「…」
その近くでスタッフたちが「事務所に確認取ってよ」、「念のため、20代でコメントできる女性タレントリストアップしとこう」などと言いながら、慌ただしい様子。それが目に入るワタル。
ワタル「(不安)」
○ 目黒・タワーマンション・外観(夜)
○ 同・ワタルの部屋(夜)
台本を読んでいるワタル。英子の言葉がよぎり、セリフが入ってこない。苛立ちと不安から持っていた台本を投げる。
ワタル「…」
○ 同・エントランス前(日替わり・朝)
黒のワンボックスカーが停まっている。事務所送迎車だ。するとエントランスからサングラス姿で出てくるワタル。
○ 車内(朝)
スタジオへ向かっている車。後部座席では、スマホをいじっているワタルと、タブレットで作業をしているマネージャー。
マネージャー「(タブレットを見て)うわっ」
ワタル「何?」
マネージャー「今日、Bスタに彼女いる」
ワタル「誰?」
マネージャー「英子アクチュアリ―」
ワタル「え!?なんで」
マネージャー「今やってる水9のアラサー女子ドラマ、あれのゲスト出演で出るみたい。占い師じゃあテコ入れにならねえよ」
ワタル「…」
マネージャー「てかワタル、大丈夫よね?彼女が言ってたこと」
ワタル「…」
○ 某テレビ局・Aスタジオ
ドラマの撮影現場。ワタル主演のラブサイエンスドラマの撮影が行われている。
× × ×
あるシーンの撮影が終わると、20代男性の助監督が。
助監督「昼休憩入りまーす。再開13時半です!」
その声を聞くと、すぐさまスタジオを飛び出すワタル。
○ 同・Bスタジオ楽屋ルーム
楽屋バリを一部屋ずつ見て回っているワタル。
すると「英子アクチュアリ―様」の楽屋バリを見つける。
意を決し、ノックするワタル。反応はない。数度ノックしても室内にはいないのか、反応はない。
ワタル「(苛立つ)」
○ タワーマンション・ワタルの部屋(日替わり・夜)
PCで「英子アクチュアリ―」と検索するワタル。
すると英子の公式サイトが出てくる。サイト内を見ていくと、問い合わせフォームを見つける。
ワタル「…」
× × ×
ベランダで電子タバコを吸っているワタル。
英子の言葉に思い巡らしていると、ふと誤って電子タバコをベランダから落下させてしまう。
ワタル「!?」
40階から落下した電子タバコはすぐさま夜の闇に消える。
ワタル「(苛立ちが募り)あぁぁあ!(と叫ぶ)」
× × ×
リビングに戻ると、ちょうどPCから通知音。
ダッシュし、すぐさま確認すると英子からのメールだ。
ワタル「!?」
○ 麻布・景観(日替わり・昼)
○ 英子の個人事務所(昼)
モダンなインテリアで統一された広々とした室内。
テーブルを挟み、対面しているワタルと英子。
英子、ワタルの言葉出しを待っている様子。
ワタル「…あれって、どういうことすか?」
英子「業界から消えるってこと?」
ワタル「…」
英子「消えるよ、君」
ワタル「…あいつが言ったんすか?」
英子「あいつ?」
ワタル「…」
英子、新品の電子タバコの本体を渡す。それはワタルがベランダで落下させたメーカー、デザインと全く同じモデルだ。
ワタル「!?(電子タバコを見て)なんでそれ…」
英子「預言」
ワタル「え?」
英子、紙を取り出し、何かを書き始める。
ワタル「?」
書き終わり、その紙をワタルに差し出す英子。
ワタル「…何すか」
英子「明日2人の芸能人が消える」
ワタル「!?」
英子「これはその出来事、起こる場所、そして時間」
ワタル「…」
○ 青山・タワーマンション前(日替わり・夜)
少し離れた位置に車を停め、車内からエントランスを見ているワタル。マスクに帽子、メガネをかけ、人相が分からない状態。手には、英子が書いた紙。
ワタル「…」
× × ×
スマホを確認すると、「23時06分」。すると救急車のサイレン音。
ワタル「!?」
サイレン音は近づいてきて、救急車がエントランスに停まる。
× × ×
数分後。エントランスを見ているワタル。すると担架に運ばれた女性が出てくる。その女性はギャル美。
ワタル「!?」
彼女に付き添うように出てきたのは、池袋倫理観。
ワタル「!!!?」
ワタルが手にする紙には、「グレイスタワー青山 23時17分、ギャル美、救急車で搬送、追う池袋理論派」と書かれている。
ワタル「(恐怖)」
○ タワーマンション・ワタルの部屋(日替わり・朝)
リビングに来て、TVを付けると朝のニュース番組がやっている。すると「ピッ、ピッ」とニュース速報音。
ワタル「?」
見ると、速報テロップには、「タレントのギャル美さん 歌手の池袋理論派さん 大麻取締法違反の容疑で逮捕」の文字。
ワタル「…」
直後ワタルのスマホに通知音。見ると英子からのメッセージ。
○ 麻布・景観(日替わり・昼)
○ 英子の個人事務所(昼)
対面しているワタルと英子。
英子「『ジュラシック・タイタニック』の監督だ。あの作品大好き」
ワタルにタブレットを見せる英子。そこには映像ディレクター・木谷亮(きたにりょう)・29歳の経歴と顔写真が載っているサイト。
ワタル「…」
英子「同級生ねー」
ワタル「…俺はただそのグループの奴と仲良くしてただけで!…復讐したいんだったら、そいつらにすればいいのに」
英子「彼らにしたって満足しないもん。有名人で、ポジションのある君にするからこそ、彼は悦に浸れる」
ワタル「…今さら過去のこと言い出すんじゃねえよ」
英子「当事者にとっては最近も過去もないんだよ」
英子の言葉に刺されたワタル。
英子「ただ君の場合は、有名になってしまった故の巻き込まれ事案」
ワタル「…」
英子「7月31日、制作発表会見」
ワタル「え!?」
英子「日10の主演は凄いね。頑張ったね。でも直後週刊誌が出る」
ワタル「うそ…」
英子「その後第二、三の記事が出て、主演降板。そして引退」
ワタル「…」
英子「さらにあなたが消えた後、彼は自分のいじめ体験談を元に映画を作る。主犯格の1人を、あなたをモチーフとして」
ワタル「は!?それはでっち上げだろ!…自分を上げるために過去のこと利用しやがって…」
英子「この業界にいたい?」
ワタル「……いたいです」
英子「うん。じゃあ予知して、新たな出来事を先回りして作っちゃおう。それを積み重ねれば、1人の人生くらいは捻じ曲げられる」
ワタル「え…」
○ 世田谷区・某スタジオ(日替わり)
映画の撮影が行われている。監督の木谷、フラットなトーンだが、シャープで的確な演出を俳優に指示している。
○ 同・入退館ゲート(夕)
撮影後。高級外車でゲートを出る木谷。するとそこには30代男性の週刊誌記者が立っている。記者に気づく木谷。
記者「来ちゃいましたー」
木谷「…どうぞ」
木谷の外車に乗り込む30代の記者。日比谷方面へ向かう車。
○ タワーマンション・ワタルの部屋(夕)
PCで409号日比谷芝浦線の定点カメラを見ているワタル。
手に持つ紙には「7月15日 17時34分 日比谷芝浦線 トラックと衝突 死亡」と書かれている。現在時刻は17時。
ワタル「…」
○ 車内(夕)
木谷の運転で渋谷方面に向かっている車。助手席には記者。
記者「他の同級生の証言も取り始めたところなので」
木谷「集まってきますねー。本当の事かは分かんないすけど。さっきのだって僕は全然覚えないですよ」
記者「でも証言で出ちゃってるから。嘘でもそれを提供してくれる人がいればいいんです」
木谷「週刊誌の記者だけは敵に回したくないです」
記者「その代わり今度ウチでエッセイ書いて下さいねー」
赤信号で止まる車。日比谷芝浦線の十字路だ。
○ 409号日比谷芝浦線(夕)
信号が青に変わる。木谷の車が発進し、左折しようとした瞬間、大型トラックが侵入してきて木谷の車と衝突。
「ガガァあガンッ!」と大破音。煙が上がる。鳴り響くクラクション音。大破している木谷の車。集まってくる人々。
そして近くに車を停め、その光景を目撃していたワタル。
ワタル「(微笑む)」
自分が笑っていることに気づき、すぐに表情を戻すワタル。
○ 有楽町・景観(日替わり・昼)
○ 某ホテル・控室
緊張から逃れようと、電子タバコを吸っているワタル。
その電子タバコは英子から貰ったものである。
するとノックし、マネージャーが入って来る。
マネージャー「そろそろです」
ワタル「…」
○ 同・大ホール
100人近くの記者や大勢の運営スタッフの中、ワタルが登場。主演の日10ドラマの制作発表会見が始まる。
× × ×
晴れ晴れしい表情で作品への意気込みを話しているワタル。
○ 地下駐車場
制作発表会見後。ワタルの横にはマネージャー含め、多くの大人たち。送迎者に乗り込むワタルを見送っている。
ワタル、車内に乗り込むと。
ワタル「(運転手に)麻布で降ろして」
○ 車内(夕)
麻布へ向かっている車。途中、日比谷芝浦線と通ると、路肩にたくさんの花束。そこは先日、木谷が死亡した事故現場だ。
ワタル「…」
○ 英子の個人事務所(夜)
封筒に入った札束を英子に渡すワタル。だが受け取らない。
英子「欲しいって言った?」
ワタル「いや…」
英子「そんなの、君にとっては、はした金でしょ。君が出てるお洗濯のCM。あれだけでも1千万くらいもらってるでしょー」
ワタル「…」
英子「なんで半日、洗濯物の匂いを嗅いで、3言セリフ言っただけで1千万も貰えんのよ」
ワタル「それが…企業CMですから…」
英子「この業界ってほんとズレてるよね」
すると写真を差し出す英子。それは木谷の事故現場近くに車を停めて見ている車中内のワタルの写真。
ワタル「!?」
英子「生で見たかった?」
ワタル「え…」
英子「脳の疲れが吹っ飛んだ?」
ワタル「…」
英子「あ、脅しじゃないよ」
ワタル「…」
英子「私の預言とあなたのポジションがあれば、出来ると思うの」
ワタル「……何をですか」
英子「芸能界を変えること」
ワタル「!?」
つづく
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