人物
四方田太(34) 会社員
四方田咲江(27) 四方田の妻
甘利美菜(26) 四方田の後輩
〇四方田家・リビング(夕)
四方田太(31)、小型のホールケーキを半分に切り分ける。
四方田咲江(24)、羊羹を半分に切り分ける。
四方田、半分をお皿にのせ、咲江に渡す。
咲江、半分をお皿にのせ、四方田に渡す。
咲江「和洋折衷カップルらしいよ、私たち」
四方田「なにそれ」
咲江「和菓子好きの私と洋菓子好きの太さん」
四方田「今じゃ両方好きだけど」
咲江「私も」
四方田と咲江「いただきます」
四方田と咲江、食べて、顔を見合わせる。微笑む。
咲江「ねえ、どうして甘いもの好きなの?」
四方田「誘われるんだ」
咲江「誰に?」
四方田「こいつら」
と、ケーキを頬張る。
四方田「食べなきゃ人生損するぞ~、って」
咲江「太さんが誘惑に負けてるだけじゃん」
四方田「この誘惑に勝てると思うか?」
咲江「……」
四方田「ほら」
咲江「じゃあ、一ヶ月スイーツ禁止って言われたらどうする?」
四方田「無理だな、一日も持たない」
咲江「ダメじゃん」
四方田「咲江はできるか?」
咲江「条件によるかも」
四方田「条件?」
咲江「守らなきゃ太さんを殺すって言われたら守る」
四方田「条件きっつ」
咲江「太さんも、流石にそこまでいけば我慢するでしょ?」
四方田「さすがにね」
と、微笑む。
咲江も微笑む。
〇廃工場
砂埃が待っている。
フードを目深にかぶった男が歩いている。その手には三脚。
四方田咲江(27)はパイプ椅子に座らされている。口には猿ぐつわを噛まされ、手足はロープで縛られている。
咲江「……たふへて……たふ……」
咲江、足をじたばたさせていると、転倒する。
男がやって来る。咲江を起こし、服に着いた埃を払う。
咲江「……あなは、だえあの……?」
咲江、男を睨みつける。
男は咲江から離れて、近くに三脚を立てる。そこにスマホを立てかけて、画面を開く。
画面、録画モード。
男は録画ボタンをタップする。
〇カフェ・店内
おいしそうにショートケーキを頬張るカップル。ショートケーキ片手に自撮りする女子高生。ショートケーキを食べながら談笑するマダム。
四方田太(34)、彼らを順に見渡して、視線を対面の甘利美菜(26)に移す。ごくりと生唾をのむ。
美菜はショートケーキのイチゴを口に入れる直前で止めて、
美菜「先輩?」
四方田「ん?」
美菜「こっちが、“ん?”です。私、なんかついてます?」
四方田「いや、全然」
美菜「よかった」
と、イチゴをパクっと食べる。
四方田「なんでここなんだ?」
美菜「え?」
四方田「打合せ」
美菜「前からインスタで気になってたんですよ」
〇同・入口・外
「short cut」の看板と「ショートケーキ専門店」文字。
美菜の声「いまどきショートケーキ一本って珍しいですよね」
〇同・店内
美菜、スマホを四方田に見せる。
画面、インスタの投稿の数々。ショートケーキ単体や、店の看板を背景にしたものなど。
美菜「シンプルイズベスト、それが逆に刺さってるらしくて、今大バズり。ちょうどお得意先の社長も甘いもの大好きだっていうんで、手土産の試食もかねてちょうどいいかなって」
四方田「なるほどね」
と、ブラックコーヒーを一口啜る。
美菜「先輩も無類のスイーツ好きじゃないですか。……って、食べない感じですか?」
四方田「……ああ、まあ」
美菜「ええ!? もしかして、ショートケーキは嫌いとか?」
四方田「そんなこと言ったことあるか?」
美菜「ないです。和洋どんなスイーツも大好きって思ってましたけど」
四方田「その通りだ」
美菜「じゃあ……?」
四方田「……色々あるんだよ」
美菜「ダイエット中とか?」
四方田「……まあ、そんなところだ」
美菜「へー、そうなんですね」
と、ニヤリと笑って、ケーキを頬張る。
四方田「……まさか」
美菜「ん?」
四方田「ああ、いや」
美菜「あ、そうですか。……わー、おいし」
四方田、羨ましそうに美菜を見る。拳を握る。
〇四方田家・リビング(夜)
真っ暗は室内。カーテンが開いている。
四方田、入る。電気をつける。
四方田と咲江の写真が多数飾られている。中には、スイーツを頬張る2人や、結婚式の写真もある。
四方田、荷物を置くと、キッチンで手を洗う。そのまま顔を洗う。
四方田「……」
四方田、大きくため息をつく。そして冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫の中には、和洋様々なスイーツが入っている。
四方田、ごくりと生唾をのむ。しかし、背後に何かを感じて、さっと振り返る。
開かれたままのカーテン。
四方田、冷蔵庫を閉じる。窓際に近づき、外を見やる。
四方田「……」
四方田、ほっと胸を撫でおろす。
〇回想/商店街・たい焼き店前
食べかけのたい焼きが四方田の手から落ちる。
四方田「……え、それって……?」
ロボット音声「四方田咲江は預かったと言っている」
四方田「いたずら、ですよね?」
ロボット音声「動画を送った。確認しろ」
四方田、慌てた様子で、スマホを確認する。
画面、拘束された咲江の姿。
四方田「……咲江!」
四方田、スマホを耳に当てて、
四方田「どういうことだ!」
ロボット音声「何度も言わせるな。四方田咲江は我々の手中にある」
四方田「咲江を返してくれ」
ロボット音声「彼女を解放する手段はひとつ」
四方田「金か、いくら出せばいい」
ロボット音声「勘違いするな」
四方田「……」
ロボット音声「これより一ヶ月、お前はいかなるスイーツも口にいれてはならない」
四方田「……は?」
ロボット音声「無類のスイーツ好きと心得ている。その中でもたい焼きは1,2を争うほどの好物らしいな」
四方田、ハッとして、周囲を見る。
ロボット音声「これより一度でも口にしようものなら、四方田咲江の命はないと思え」
四方田「……馬鹿げてる。正気か」
ロボット音声「我々は冗談を言っているつもりはない」
四方田「……」
ロボット音声「甘美なる甘い蜜の誘惑に負けるか、誘惑に打ち勝ち妻を救うか、お前が選べ」
電話が切れる。
四方田、呆然として、腕を落とす。
地面に落ちたたい焼き。
〇四方田家・リビング(夜)
閉じられたカーテン。
四方田、冷蔵庫の前に立っている。
冷蔵庫に入った和洋様々なスイーツ。
四方田、拳を握りしめる。
四方田「……くそっ!!」
四方田、なりふり構わずスイーツをゴミ箱に放り投げていく。
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