路上の二人 恋愛

「好きです!」 突然、引きこもりが遠隔操作する、カメラとマイクを搭載したラジコンに告白されたOLの緑。 だが緑は生きるのに疲れ、殺し屋に自分殺しを依頼していた。 殺し屋に追われながら、一人と一台の決死の逃避行が繰り広げられる。
鈴木俊哉 118 0 0 09/08
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第一稿

登場人物

岩土 緑(いわづち みどり)(24)・・・OL
真浦 兵吾(まうら へいご)(20)・・・ラジコン
六原(ろくはら)(36)・・・殺し屋
バンジョー弾き(35 ...続きを読む
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登場人物

岩土 緑(いわづち みどり)(24)・・・OL
真浦 兵吾(まうら へいご)(20)・・・ラジコン
六原(ろくはら)(36)・・・殺し屋
バンジョー弾き(35)・・・バンジョー演奏者

○ 走行中の電車内(昼)
   数人の乗客が乗っている車内。
   席が空いているにも関わらず、立って
   いる女が一人。
   スーツ姿の岩土緑(24)だ。
   車内、中ほどに立ち、俯いている。
   ゆっくり顔を上げる緑。
   揺れている吊革を見ている。
   吸い込まれるように見続ける緑。
   すっと両手が上がり、吊革を両手で握
   る。自分の首を、吊革に入れる様な動
   作をした時、
アナウンス「次はー、○○駅ー、次はー・・・」
   ハッと我に返る緑。
  慌てて電車を降りていく。

○ 駅のホーム(夕方)
   緑がビニール傘をさして、ホームのベ
   ンチに座っている。
   傘には雨粒がついており、さっきまで
   雨が降っていたことが分かる。
   今は降っていないにも関わらず、さし
   続ける緑。
   緑はうな垂れており、髪が顔にかかっ
   ている。
   その時、強めの風が吹き、緑の髪を揺
   らす。
   我に返った緑、腕時計に目をやる。
   午後5時30分。
   緑、立ち上がり、ホームへ続く階段へ
   と急ぐ。

○ 駅前を歩く緑(夕方)
   どこか陰鬱な雰囲気を出して、緑は歩
   いている。
   その緑の後をつけてくようにして、一
   台のラジコンが走っている。
男の声「あの、すみません!」
   声を掛けられ振り向く緑。
   しかし、そこには誰もいない。
男の声「す、すみません・・・」
   足元から声がする。
   緑が視線を下げると、ラジコンが一台
   置いてある。
   ラジコンには、小型のカメラと、マイ
   クの様なものが付けられている。
   ラジコンがバックし、緑と少し距離を
   とる。
ラジコン「あの、俺、真浦兵吾って言います。・
 ・・岩土さん、ずっと前から好きでした!!」
   緑、多少驚いている。が、優しく微笑
   み、
緑 「私、今日死ぬんです」
兵吾「へ?」
   緑、スタスタ歩きだす。慌ててついて
   いくラジコン。
兵吾「ど、どういうことですか!?」
緑 「今夜6時に。この先のトンネルで」
兵吾「どうして!?」
   緑、笑って、
緑 「疲れちゃった」
兵吾「そんな・・・。あ、歩道側歩いて下さ
 い」
緑 「あ、はい」  
   緑、歩道側に移る。ラジコンは車道側
   へ。
緑 「自分からはなかなか死ねなかったから、
 ネットで見つけた殺人狂に自分を売ったの」
   緑、はたと立ち止まり、ラジコンを持
   ち上げる。
緑 「って、何でこんなこと喋ってるんだろ
 う。(考えて)無機物だからかな」
   ラジコンを色んな角度から眺める緑。
   突如、
兵吾「死んで何になるんですか!!」
   兵吾の大きな声。緑、兵吾の勢いに少
   し押されつつ、
緑 「だって、・・・それしかないもの」
   と言いながら、ラジコンを地面に下ろ
   す。歩きだす緑。
兵吾「俺と一緒に生きよう!」
   緑、「あはは」と力なく笑って、
緑 「小さなラジコンさんに、一体何ができ
 るのかしら」
兵吾「君を救える!」
   話している間に、トンネルに着いた。
   中は薄暗く、僅かな外灯がトンネル内
   をぼんやり照らしてる。
   中に入っていく緑とラジコン。
   トンネル内には誰もおらず、ひっそり
   としている。
   その時、どこからともなく、バンジョー
   の音色が響いてくる。音色に乗って歌声も。
男の声「♪殺っちまおう 殺っちまおう 岩土を」
   声の主が、トンネルの向こうから現れ
   た。
   松葉杖をつき、サングラスをかけた男、
   六原(36)だ。
   六原の隣にはバンジョー弾き(35)が
   おり、演奏を終える。
   六原に、去れ、と手で促されたバンジ
   ョー弾きは去っていく。
   緑、殺人狂の登場に、顔が凍っている。
緑 「六原・・・」
   六原が動いた。松葉杖2本の先を緑に
   向け、2本を合わせる。
   ガチン、という音を出し合体する松葉
   杖。中から機械が動きだす音がする。
   六原のサングラスは、黒レンズを上げ
   ると無色のレンズが現れるタイプ。
   六原が無色のレンズにする。レンズの
   右目には十字のターゲットマークが書
   いてある。
兵吾「逃げよう」
緑 「だめ・・・」
兵吾「早く!」
   ラジコンが緑の足にぶつかってくる。
緑 「いたっ!」
兵吾「×マークを思い出せ!」
   緑、それを聞いてハッする。
   ラジコンがなおも緑の足に激しくぶつ
   かってくる。
   緑は急かされるように走り出す。
   六原が冷静に、松葉杖の先端と、サン
   グラスのターゲットマークを合わせ、
   逃げる緑に照準を合わせる。
   そして撃つ。
   静かな銃声がし、飛び出した弾丸は、
   緑の右足の脛をかすめる。
緑 「痛っ!」
兵吾「大丈夫!?しっかり!」
   二人は走り去っていく。
   六原、ゆっくりと松葉杖を本来の役目
   に戻し、右足をひきずるようにして歩
   きだす。

○ 緑のアパート前(夜)
   息切れ切れに走ってくる緑。アパート
   前の階段を上がっていく。
   階段を上れないラジコン。
兵吾「持ち上げてー!」

○ 緑の部屋、リビング(夜)
   ラジコンがその場で360度急回転し
   ている。
   緑がやってくる。ラジコンの動きを見
   てビクッとする。
緑 「何してるの!?」
   ラジコンが止まり、
兵吾「いや・・・、よく部屋を見ておこうと・・・」
緑 「普通の部屋でしょ?」
  緑、台所に行き、コーヒーを淹れる。
   ボソッと呟く。
緑 「やっぱりこんな事良くない・・・。死
 ななきゃ・・・」
   ラジコンが少し緑に近づいてくる。
兵吾「・・・自殺願望はまだ治ってないの?」
   緑、ハッとして、
緑 「なぜ知ってるの・・・?」
兵吾「俺は・・・、(ためらって)もう10年近
 く君につきまとってんだ」
緑 「・・・ラジコンで?」
兵吾「そう」
   緑、淹れたコーヒー片手にソファに座
   る。
兵吾「9年前、緑さんが十七歳の時だ。学校
 からの帰り道、緑さんはいつもと感じが違
 った。あれは学校で何かあって、自殺を考
 えてたんだろう?」
   緑、黙ってゆっくりコーヒーを飲む。
兵吾「そんな君を見て、俺はどうにかしなけ
 れば、と思った。そこで俺がやったのが・・・」
   緑、コーヒーカップから唇を離す。記
   憶がフラッシュバックする。

○ フラッシュバックする過去
   九年前。夕方。高校から出てくる緑。
   カバンを持つ右手から血が滴っている。
   カバンには取っ手にも表面にも底面に
   も、いたるところに画鋲が貼り付けら
   れている。
   泣きながら、血を流しながらトボトボ
   歩く緑を、背後から見守るラジコン。
   地面に滴った血を見ている。どこかへ
   走り出す。
     ×     ×     ×
   路上にそっと絆創膏のセットを置く男
   の手。
   向こうから、緑がトボトボと歩いてく
   る。ピタッと足を止める。地面をじっ
   と見ている。
   地面にはラジコンのタイヤについた血
   で×マークが大きく書かれている。
   マークのそばには絆創膏のセットが置
   いてある。
   緑、不思議そうに見ているが、少し救
   われる。顔に希望が満ち始める。

○ 回想終わり。緑の部屋
緑 「あれ、・・・あなただったの?」
兵吾「うん」
   緑、言葉に詰まっている。
兵吾「(照れ臭そうに)絆創膏は俺が置いたん
 だ・・・。俺の人生で外出したのはあれき
 りだよ」
緑 「・・・救われたわ、×マークにも絆創
 膏にも」
兵吾「もう一度救うよ。(考えて)・・・六原
 からは完全に逃げられた?」
緑 「住所も教えてないし、連絡先はメール
 アドレスしか知らないはず・・・」
   緑、テーブルに置いてある包帯とテー
   プで、右脛のかすり傷の手当てを始め
   る。
兵吾「そっか・・・」
   ラジコン、動き、ある事に気づく。
   部屋の床にラジコンのタイヤ痕がつい
   ている。
兵吾「・・・やっちまった!今すぐ逃げよう!」
緑 「ええっ!?」

○ 路上(夜)
   路上を歩く六原。
   道についた、ラジコンのタイヤ痕を頼
   りに歩いていく。
   緑のアパート前まで来た。
   サングラスをかけてない六原の目が、
   鈍く光る。

○ 緑の部屋
緑 「ねえ、どういう・・・」
兵吾「静かに!」
   緑、黙り、部屋がしんとする。
   すると、六原がアパートの階段を不器
   用に上がってくる音が、かすかに聞こ
   えてくる。
   しばらくすると緑の部屋の玄関をガチ
   ャと動かす音がする。鍵はかかってい
   る。
   静まり返る二人。
緑 「(小声で)恋人のフリをして」
   兵吾、答えない。
緑 「ねえ・・・、ねえ・・・!・・・聞い
 てる?」
   動かないラジコン。

○ 緑の部屋前、玄関
   六原が松葉杖を二本合体させ、銃にす
   る。
   狙いをドアノブに定め、撃つ。ドアノ
   ブが壊れ、地面に落ちる。

○ 緑の部屋
   その音を聞いた緑、恐怖で震えている。
   緑、素早くリビングの明りを消す。そ
   して思案する。
   棚にしまった金づちを取ってこようか。
   いや、それとも台所の包丁か・・・。
   その時、テーブルに置いたタバコが目
   に入る。それを取り、寝室へ向かう緑。
   緑、タバコに火を付け、指に挟んだま
   ま布団をかぶる。
   六原を待つ緑。タバコの火が熱い。耐
   える緑。
   アパートのドアが開いた。稲妻が鳴り
   響く中、六原が立っている。
   松葉杖をつき、靴のまま部屋へと上が
   る六原。ポケットから懐中電灯を取り
   出し家を照らす。
   六原が廊下を歩く音が、寝室の緑にも
   聞こえてくる。ギュッと強く目を瞑る
   緑。
   六原、一度リビングの方を見るが、居
   ないと察し、寝室へ向かう。
   緑、そっと布団から顔を出し、薄目を
   開ける。
   開いた寝室のドアから六原が覗いてい
   るのが見える。
   驚いて布団をかぶる緑。
   寝室に入ってくる六原。
   六原、静かに松葉杖を二本合体させる。
   杖の先を緑の頭の辺りに向ける。
   その時、寝室にラジコンが現れる。
兵吾「ごめん!トイレ行ってた!」
   六原が兵吾の声に振り向いた瞬間、緑
   が素早く立ちあがる。握っていたタバ
   コの先を、六原の右目に押し当てる。
   目が焼けるジュッという音。六原が懐
   中電灯を落とし、壊す。
   六原から苦痛を噛み殺した声が漏れる。
   右目を手で覆い、苦痛に耐える六原。
   その隙に、緑とラジコンは家から出て
   いく。自分のスニーカーを持っていく
   緑。
   寝室に一人残った六原。手には、押し
   つけられたタバコがある。
   くしゃくしゃになったタバコをほぐし、
   ポケットからマッチを取り出し、タバ
   コに火をつける。
   そして一服する。味わうかのように、
   深く吸い、長く吐き出す。
   外からは緑たちが走る音が聞こえる。
   六原、タバコを捨て、ポケットからハ
   ンカチを取り出す。それを傷んだ右目
   を覆うように頭に結ぶ。
    六原、寝室のカーテン・窓を開け、ベ
   ランダのフェンスに足をかける。そし
   て飛び降りる。

○ 路上(夜)
   飛び降りた六原が地面に着地する。あ
   まりの衝撃に地面に亀裂が入る。
   少し先を走っていた二人が止まり、振
   り返る。
   二人、慌てて走り出す。
   六原、ポケットから注射器を取り出す。
   キャップを外し、注射器を右足ふくら
   はぎに刺す。
   蛍光緑の色をした液体が注入されてい
   く。
   右足を少しブラブラ揺らした後、六原
   はクラウチングスタートの構えをとる。
   そして走り出す。右手に松葉杖二本を
   持っているが、すごい速さだ。
   走る緑、振り返って、六原の走る姿に
   気づく。
緑 「助けを呼ばなくちゃ!」
兵吾「大音量で音楽を流す!」
   ラジコンから大きな音楽が流れ出す。
   住宅街を走る緑とラジコン。追ってく
   る六原。
緑 「(息継ぎをしながら)たぶん、私たち、
 暴走族だと思われてる・・・!」
   走る緑とラジコン。ラジコンから聞こ
   える音楽が途切れ途切れになる。
兵吾「まずい!ラジコンのバッテリー切れだ!」
   速度が遅くなるラジコン。
緑 「ど、どうすればいいの!?」
兵吾「(途切れ途切れ)電池が、あれば、代用、で
 きる!持って、ない!?」
緑 「持ってない!」
   どんどん遅くなるラジコン。
兵吾「(途切れ途切れ)もう、だ、め、だ・・・」
   途切れ途切れでザーザーというノイズ
   も混じる兵吾の声。
   それでもこれだけは、なぜかハッキリ
   聞きとれた。
兵吾「緑さん、生きてください」   
 ラジコンが完全に止まってしまう。
緑 「兵吾!」
   緑、しゃがみこみ、大事そうにラジコ
   ンを抱え、建物の陰に身を潜める。
   迫っていた六原が、緑を探している。
 身を潜める緑、体中が震えている。
緑「(小声)兵吾・・・!兵吾・・・!」
   ラジコンから返答はない。
   緑、そっと建物の陰から身を乗り出し、
   六原の様子を探る。
   まだ探している。見つかってはいない。
   緑、建物の陰の反対方向から出ていく。
   ラジコンを抱えて、夜の街を走る緑。
   しばらく走ると、向こうに人影が二つ
   見える。
   カップルのようだ。ラジコンを抱いて
   駆け寄ってくる緑を見て、
女 「わー!かわいい!チワワだー!」
   緑がすぐそばまで来ると、
女 「ってラジコン!」
   緑に引いてるカップル。
   緑、ぜえぜえと息をしながら、
緑 「あ、あの、電池!電池、持ってないで
 すか!?」
男 「も、持ってないかなー・・・」
女 「な、なんでラジコンを・・・」
   緑、二人に見切りをつけ、すぐ走りだ
   す。
   しばらく走ると懐中電灯片手に散歩し
   てる男1を見つける。
   駆け寄る緑。不思議そうな顔の男1。
緑 「あ、あの、電池ください!」
男1「はい?」
緑 「(ラジコンを持ち上げ)このラジコン、
 走らせたいんです!」
男1「い、いやですよ・・・」
緑 「大変なんです!殺人鬼に追われてて・・・!」
男1「・・・こっちの電池ならいいですよ」
   と、男1、持ってるバッグから電動バ
   イブを取り出す。
   緑、絶句。
   気にせずバイブから電池を取り出す男1。
男1「どうぞ」
   紳士的だった。
   緑、苦笑して受け取る。少し嫌そうに。
男1「では」
   と、男1は去っていく。 
   とにかく電池を手に入れた緑、素早く
   ラジコンを裏返し、パーツを外し、電
   池を挿入する。
   入れた瞬間、ラジコンから大音量で音
   楽が流れてしまう。
     ×     ×     ×
   路上を走る六原。音楽が聞こえ、ピタ
   ッと足を止める。
   音の所在を探っている。当たりをつけ、
   すぐさま走りだす。
     ×     ×     ×
緑 「音楽切って!」
兵吾「待って待って!(音楽が切れる)どうし
 たの!?」
緑 「六原から隠れてる!今の音楽で・・・」
   道の向こう、離れた所に六原が現れる。
緑 「六原・・・」
兵吾「とにかく逃げよう!また走れる!」
   緑、急いでラジコンを地面に置き、走
   り出す。
   それを見て、六原も走りだす。
   緑たちが少し走ると階段が見えてくる。
   一段飛ばしで上る緑。
   階段を上れないラジコン。
兵吾「持ち上げてー!」
   引き返した緑を、六原は見逃さなかっ
   た。
   素早く松葉杖銃を構え、撃つ。二発撃
   つ。薬きょうが飛ぶ。
   撃った内の一発が、緑の右足に当たる。
   倒れるのを必死にこらえ、ラジコンを
   持ち上げる緑。右足を引きずりながら
   階段を上がっていく。
   六原の右足がまた痛みだした。右足の
   痛みに耐えながら、松葉杖をつきなが
   ら跡を追う。

○ 住宅街(夜)
   物陰に身を潜める緑。右足から血が流
   れている。
兵吾「包帯と消毒液を買ってこないと・・・。
 俺の上にお金を置いてくれ」
   緑、財布から5千円札を出し、ラジコ
   ンの上に置く。風で飛ばないよう、お
   札の上に石も置く。
兵吾「すぐ戻ってくるから!待ってて!」
   走り出すラジコン。見送る緑。
   六原が松葉杖をつく音が近づいてくる。
   手には男1が持っていた懐中電灯を持
   っている。懐中電灯には血がベッタリ
   と付いている。それで辺りを照らして
   いる。
   緑、足下に、右足から流れた血ででき
   た血だまりがあることに気づく。
   ハンカチを取り出す緑。傷口にあて、
   血が出ないように銃創にきつく押し当
   てる。
   歯を食いしばって痛みに耐える緑。 
   そして違う建物に身を潜める。
   六原が近づいてきた。先ほどまで緑が
   いた建物の陰で立ち止まる。
   懐中電灯で地面を照らしている。血だ
   まりを見ている。
  六原、何か考えている様子。
   少しして、緑が居るのとは全く違う方
   向に歩きだす。
   ホッと胸をなで下ろす緑。疲れたのか
   座ってしまう。
緑 「兵吾・・・」

○ ドラッグストア前(夜)
   ドラッグストアへ近づいていくラジコ
   ン。自動ドアが開かない。
   客が出ていく時に開いた自動ドアに滑
   り込む。
   そのままドラッグストアへと入ってい
   く。
    ×     ×     ×
   ドラッグストアから出てくるラジコン。
   ラジコンの上には袋に入った包帯と消
   毒液が置かれている。

○ 住宅街(夜)
   うずくまり、兵吾の到着を待つ緑。
   その時、ラジコンが向こうからやって
   くる。
   パッと顔色が明るくなる緑。
   緑の傍で止まるラジコン。
緑「待ってたよ!ちゃんと買えた?」
   袋の中を覗こうとする緑。
   突如、ラジコンからバンジョーの音色
   が聞こえてくる。
   硬直する緑。
   今度はラジコンから男の声がする。六
   原だ。
六原(声)「袋の中を見ろ」
緑 「兵吾は・・・?」
兵吾「大丈夫。生きてるよ」
緑 「良かった・・・」
   六原が淡々と告げる。
六原「さっさと袋の中を見ろ」
   緑、少し怯えながら袋を開けてみる。
   そこには一枚の折りたたみ剃刀が入っ
   ていた。
   刃が少し開かれており、月の光で輝い
   ている。
六原「自害しろ」
緑 「・・・」
六原「しなきゃコイツを殺す」
   六原が兵吾を殴る音。兵吾の痛がる声。
緑 「分かった・・・」
   緑、弱弱しくも決意した声。
   袋の中の剃刀に手をのばす。剃刀を掴
   む。手が震えている。
   緑、右手首に剃刀をあてる。両手とも
   震えてしまい、切れない。
   緑、地面に膝をつき、右腕を右膝で押
   さえつける。震えが抑えられている。
   ギュッと剃刀を握った左手を、右手首
   にあて、切り裂く―
   その前に、ラジコンから冷たい声がす
   る。
六原「待て。これじゃつまらない」
   しばしの間。
六原「ラジコンに剃刀をつけろ」
   緑、よく分からないまま、右脛のケガ
   の手当てで貼っていたテープを剥がし、
   それでラジコンの屋根部分に剃刀を貼
   る。
六原「お前が切れ」
兵吾「(きっぱりと)いやだ」
   殴る音。2回。
兵吾「い、いやだ・・・」
   緑、ラジコンのカメラ部分を見つめる。
緑「いいよ・・・。兵吾、切って・・・」
兵吾「緑さん・・・」
   静かな間。
   ラジコンが、少しずつバックし、緑と
   の距離を取る。
   緑が右手首を下げ、ラジコンの剃刀が
   あたるよう、位置を調節する。
   ラジコンがバックするのを止めた。
  少しして、全速力で走り出す。
   緑が右手を力強く握った。
   手首まで十数センチのところで、ラジ
   コンはピタッと止まる。
   兵吾の、はっきりとした声が聞こえて
   くる。
兵吾「緑さん、生きて下さい」
   パンッ、と静かな銃声がラジコンのマ
   イクから響く。
   少しして、
六原「殺しの待ち合わせ場所に行け。殺して
 やる」
   六原が兵吾の家から出ていく音が聞こ
   える。
   呆然としていた緑、ラジコンを持ち上
   げ、
緑 「兵吾、返事して・・・」
   ラジコンからは何も聞こえてこない。
緑 「ねえ・・・、返事してよ!」
   緑、力なくラジコンを下ろす。
   緑の表情が、悲しみから怒りへと変化
   する。
   緑、ラジコンにつけた剃刀を取り、力
   強く握りしめる。
   ラジコンを抱え、緑は夜の路上を歩き
   だす。

○ 路上(夜)
   緑が確かな足取りで歩いている。

○ 殺しの待ち合わせ場所、トンネル(深夜)
   トンネルに入っていく緑。
   六原が既におり、トンネルの壁に背を
   もたせ掛けている。ゆらっと体を起こ
   し、松葉杖をつきながら緑の方に向か
   ってくる。
   緑はラジコンをそっと地面に下ろし、
   ポケットに手を入れる。ポケットから
   出した手には、折りたたまれた剃刀が
   握られている。
   六原の歩みが、ぎこちないながら速く
   なる。
   緑、剃刀を握った右手を背中にまわし、
   六原に見えないよう左手で刃を開く。
   六原が全速力に近い速さで近づいてく
   る。
   緑、バチッと剃刀の刃を出し、近づい
   てきた六原に切りつける。
   六原、それを避ける。が、左頬に切り
   傷ができる。
   緑、再度切りつけるも、六原が松葉杖
   を使ってガードする。
   さらに切りつけるも避けられてしまう。
   六原に顔面を殴られる緑。
   鼻血を出しながら仰向けに倒れる緑。
   六原が緑の上に仁王立ちする。
   緑の右手を右足で、左手を左足で踏み
   つけ、動けないようにする六原。
   松葉杖を合体させ、銃の型にする。狙
   いを緑の額に合わせる。
   緑、鼻血を出しながら、必死にラジコ
   ンに手をのばす。
   とても届きそうにない距離だが、緑は
   必死に手をのばす。
   緑が口を開くと、血が流れ出るが構わ
   ず、緑はラジコンに向かって、
緑 「兵吾、生きて・・・。生きて・・・!」
   しかしラジコンからは何の反応もない。
   その様子を見て、六原はうっすら笑み
   を浮かべている。
   緑が力を振り絞る。
緑 「生きて!!」
   ラジコンが、少しずつ動き出す。
   奇跡を目の当たりにした緑。喜びの感
   情が溢れる。
   ラジコンが、猛スピードで六原目がけ
   て突進していく。
   ジャンプしたラジコンが、六原の松葉
   杖にぶつかる。
   折れる松葉杖。体勢を崩した六原がよ
   ろめく。
   その隙に立ち上がる緑。鼻血を手でさ
   っと拭う。
   緑の前に、ラジコンが立ちはだかり、
   守っている。
   立ち上がる六原。
緑 「武器が無くなったわね」
   六原、笑い、自分の上唇をめくり、歯
   を見せる。
六原「噛みちぎってやる」
   ラジコンが前に出る。
   六原、それを受け、上着を脱ぎ、シャ
   ツの袖を捲り、ファイティングポーズ
   をとる。
   ラジコンが走り出す。六原の右足に突
   撃する。
六原「がっ!」
   激痛に耐えかね、ひざまずく六原。
   ラジコンが六原の顔に突っ込む。血を
   吹く六原。
   ラジコンの猛攻撃が続く。何度も何度
   も六原に突っ込んでいく。
   疲労困憊、フラフラの状態で立ってい
   る六原。
   ラジコンが緑の足下で止まる。何も言
   わないが、緑には分かった。
   落ちてる剃刀を取り、ラジコンの屋根
   にテープでつける。
   ラジコンが、六原目がけて走り出す。
   六原が恐怖の表情を浮かべる。
   ジャンプしたラジコンが、六原の腹を
   かっ切る。
   六原の白いシャツが裂け、みるみる血
   で染まっていく。
   華麗に着地するラジコン。緑の方を見
   ている。
   緑もラジコンを見ている。緑が笑みを
   浮かべる。
   その時、瀕死の六原がラジコンを踏み
   つぶす。
   倒れる六原。絶命している。
   ラジコンのボディーは割れ、車体の下
   からは黒い液体が漏れている。
   ラジコンの元に駆け寄る緑。ラジコン
   を抱きしめる。
   緑の服が黒い液体で汚れていく。
   緑、涙をこらえて、
緑 「死なないで・・・」
   ラジコンの、回転していたタイヤの速
   度が、徐々に遅くなっていく。
   緑、それに気付き、
緑「死なないで・・・!死なないで・・・!」
   と必死に呼びかける。
   しかしタイヤの回転は完全に止まって
   しまう。
   静寂。
   緑、静かにラジコンの割れたボディー
   にキスをする。
   トンネルから立ち去っていく緑。力強
   い表情だ。
   六原の死体と、壊れたラジコンがトン
   ネル内に残される。
   どこかから、バンジョーの音色が聞こ
   え、それも消える。
                 終わり

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