○コンビニ・中(深夜)
客のいない静かな店内、カウンターの中で茶髪の男子店員A(18)と女子店員B(17)が立ち話をして いる。
ドアが開いて竜崎 純平(39)が入ってくる。
純平は、やや小太りで薄毛のサラリーマン風。
店員は、振り返りもせず、
男子店員A「いらっしゃいませ」
女子店員B「いらっしゃいませ」
竜崎に目もくれず雑談を続けている店員。
竜崎、書籍コーナーで立ち止まり男性向け雑誌に目を止める。
アダルトな表紙を見つめる竜崎。
竜崎心の声「おー、いいね。エロいわー。今晩のおかずにしようかな」
竜崎、チラッと店員の方を見る。店員は、相変わらず立ち話をしている。
竜崎、手を伸ばし雑誌を手に取る。
竜崎心の声「ちょっとだけね。よければ買うから」
竜崎、雑誌をめくる、中ほどの袋とじで手が止まる。
竜崎心の声「何だ! 袋とじかよ。見えねーじゃん」
竜崎、袋とじの隙間を広げて覗き込む。
× × ×
店員Aが竜崎を見る。
店員A「(小声)ほら、見て見て、あれ」
店員A,竜崎を指さす。
その方向を見る店員B。
店員B「(小声)やっだー、また見てる。あの人来るたび見てるよね」
店員A「(小声)エロいんじゃネー」
店員B、眉間に皺を寄せて、
店員B「何何? エロインジャー?」
店員A「エロインジャーかよ。笑える」
ケタケタと笑う2人。
店員B、竜崎に指を差しながら、
店員B「あいつデブだしチビで、はげてる。」
大笑いする店員。
× × ×
竜崎、店員を睨む。
竜崎と店員Aの目が合う。
店員、雑談を止めて別の作業を始める。
竜崎心の声「ふざけんなよ! お前ら。さっきから黙って聞いてりゃ勝手な事ほざきやがって。客だろ俺は!」
竜崎、雑誌を握りしめて険しい顔でレジに向かう。
ドアが開きサングラス姿の強盗Aとパンストを被った強盗Bが入ってくる。
強盗Bのパンストは、破れていて目から口の部分までほぼ顔が見えてる
強盗Aの手には、包丁を持ってる。
竜崎、それを見て驚き立ち止まる。
店員A、Bも手を止め強盗を見る。
強盗A、包丁をレジ脇の店員Aに突きつける。
強盗A「おい! だまってレジの金出しな」
店員B悲鳴を上げて屈みこむ。
強盗A「騒ぐんじゃねえ!」
店員A両手を上げて、
店員A「少々お待ちください…… あのーお持ち帰りですか? 袋は、いります?」
強盗A「(困ったように)あん? あーなんだ…… 温めなくて良いから。 (大声)ちがう! 金よこせ!」
キョロキョロと周りを見る強盗Bが竜崎と目が合う。
強盗B「兄貴! そこ(竜崎を指さし) 誰かいる」
強盗A「何!」
強盗Aが振り向き竜崎を見る。
強盗A「お前、見てたな! そこ、動くんじゃねーぞ」
竜崎、雑誌を持ったまま両手を上げて、
竜崎「あのー、こう言う事は、あんまり良くないんじゃ……」
強盗A「なにー、うるせー! デブ、チビ、ハゲ!」
竜崎、怒りを滲ませた険しい顔になる。
竜崎「なにー! デブじゃないわい! ぽっちゃりと言わんかい! ハゲてるんじゃない薄毛と言わんかい!」
竜崎、怒りに燃えて雑誌を丸め振りかざす。
後ずさりする強盗達。
うずくまった店員Bがスマホを片手に電話している。
店員B「もしもし、警察ですか。強盗です」
強盗A,Bがそれを見る。
強盗A「ヤベー! 逃げるぞ!」
強盗達は、慌てて外へ逃げて行く。
後を追う竜崎。
店員A、レジ後ろのオレンジ色のカラーボールを手に取り、その後を追う。
○コンビニ・前・路上(深夜)
ドアが勢いよく開き強盗A、Bが飛び出してくる。
後を追うように竜崎が飛び出してくる。
その後ろからカラーボールを手にした店員Aが飛び出してくる。
竜崎「待て! 泥棒!」
後ろからカラーボールを投げる店員A。
前を走っている竜崎の後頭部に当たる。
竜崎「痛い!」
竜崎、オレンジ色にまみれた後頭部を押さえ、うずくまる。
店員、竜崎の所で立ち止まり、
店員A「大丈夫ですか?」
パトカーサイレンの音
竜崎のすぐ脇にパトカーが止まり警察官2名が降りてくる。
警官A、竜崎に向かって銃を構える。
警官A「動くな、おとなしくしろ。現行犯で逮捕する」
竜崎、屈んだまま警官Aを見上げながら、
竜崎「俺じゃねえ、犯人は、あっちだ」
竜崎、犯人たちが逃げて行った方を指さすが、だれも居ない。
警官B「嘘をつくな」
店員A「本当です」
警官B「じゃあ、こいつは、何なんだ?」
店員A「エロインジャー」
竜崎、立ち上がり、
竜崎「ふざけんな! それは、お前達が付けたあだ名だろ」
店員A「お客さん。それ(足元を指さし)お会計まだなんですけど」
竜崎「ああ……」
竜崎、足元のオレンジ塗料まみれになった雑誌を見つめる。
ナレーション「頑張れ! エロインジャー! 世界の平和を守るため」
〈了〉
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