もうひとつのバッドエンド その他

 氷室(20)は不良仲間の橋部ら4人と、湖のコテージで酒を飲んでいた。  そこで橋部が、ヤクザの先輩から貰ったという拳銃を取り出す。「試し撃ちしよう」と言い出し、テラスから向こう岸に向かって発砲する。その銃弾は偶然にも、釣りをしていた男性に当たってしまう。氷室達5人の、罪の擦り付け合いが始まるが、、、
永田勝栄=ガチ脚本家志望 57 0 0 06/29
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第一稿

 登場人物

氷室昴(20)大学生
柳川茶紀(やながわさき)(19)フリーター
橋部輝明(20)フリーター
窓瀬千秋(20)フリーター
桃山太郎(20)フリーター
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 登場人物

氷室昴(20)大学生
柳川茶紀(やながわさき)(19)フリーター
橋部輝明(20)フリーター
窓瀬千秋(20)フリーター
桃山太郎(20)フリーター
大竹虎治(42)刑事
岩城玄太(27)大竹の相棒、刑事
鈴木道夫(58)湖にいる釣り人
刑事A
医者
救急隊員
看守
面接官


○ミニバン・車内
   氷室昴(20)が運転している。
   助手席には窓瀬千秋(20)がいる。携帯でゲームをしている。
   後部座席に柳川茶紀(19)、橋部輝明(20)、桃山太郎(20)がいる。
茶紀「だから~、あの曲はヤリマンの歌だから」
桃山「何だよそれ」
橋部「というと?」
茶紀「だから、あれはフラれた女が、彼氏のこと想像しながらオナニーしてる曲なのよ。震えて るっていうのは電マのこと」
橋部「(半笑いで)何だよそれ」
茶紀「あの女はメンへラビッチよ」
氷室「メンへラって何だっけ?」
茶紀「病んでる女のことよ、リスカとか」
  煙草に火をつける茶紀、窓を開ける。
氷室「何の略だ?」
茶紀「え~っと、なんだっけ」
桃山「メンタルヘルスの略だよ」
氷室「けどそれだとメンヘルじゃね?」
桃山「知らねえよ、ネットのオタク共が考えたんだからよ」
橋部「じゃあチャキボーもあの女の気持ち分かんじゃね? お前もメンへラのヤリマンじゃん」
茶紀「は~? ちげぇし」
桃山「ったく下らねえなー、偏り過ぎだろ考えが。健全な女の考えじゃねぇよ」
茶紀「けどピンキーそういう女好きじゃん」
桃山「付き合いたいとは思わないね、セックスだけで十分。けどチャキボーとはもうヤんねえ 
 わ、ヤり過ぎてもう飽きた」
茶紀「ひど~い、私は用済みですか?」
氷室「病気には気をつけろよ」
橋部「けど俺は、そんなお前が好きだよ」
   と、茶紀の肩に手を回す。
茶紀「本当に? じゃあ付き合う?」
   と、得意げな笑顔で。
橋部「(笑顔で)それは遠慮しとくわ」
   舌打ちする茶紀。
   鼻で笑う氷室。横の窓瀬を見る。
   窓瀬は携帯をいじっている。
氷室「さっきから何やってんの? マドセン」
窓瀬「将棋」
氷室「(半笑いで)スマホで将棋かよ」
   窓瀬は携帯をポケットにしまう。
   窓瀬、煙草に火を点けて、
窓瀬「俺は違うと思うぜ、さっきの話」
茶紀「さっきの話って?」
窓瀬「あの曲は、オナニー大好きなメンへラ変態女の曲なんかじゃねえ。あれはシャブ中の歌 
 だ」
茶紀「あ~その話」
橋部「というと?」
窓瀬「会いたくて会いたくてってのはな、彼氏のこと言ってんじゃねえんだよ。ありゃシャブ中 のジャンキー女が、シャブが切れちまって、売人に会いたくて会いたくて、禁断症状のせいで 震えてんだよ」
茶紀「・・・なるほど、確かに」

○森に囲まれた峠道
   氷室達が乗る黒いミニバンが走っている。
   窓ガラスにはスモークが貼られ、車内は見えない。
   人も他の車も全く通っていない。
   セミが鳴き、日差しが強い。

○ミニバン・車内
   茶紀が車の灰皿で煙草を消す。
茶紀「ねえ、曲流そうよ!」
   自分の携帯を出す茶紀。
氷室「何流す?」
橋部「ヒップホップじゃね?」
桃山「もう散々聞いただろ?」
   と、嫌そうな顔で。
茶紀「あ、オレンジレンジとかは? 超懐かしくない!?」
橋部「(歌い始める)刺激が欲しけりゃ」
   茶紀も一緒に、
茶紀と橋部「馬鹿になれ! WOWOWO~」

○湖・外観
   山に囲まれた、綺麗な湖。
   鈴木道夫(58)が、岸辺で釣りをしている。

○コテージ・外観
   湖沿いに、一軒だけコテージがある。
   木造二階建て、山小屋な雰囲気。
   湖を一望出来るテラスもある。

○同・横の私道
   氷室達のミニバンが入ってくる。
   車から響く重低音は、外からでもオレンジレンジの『ロコローション』を聴いていると分   かる。
   コテージの横に停まる車。
   氷室達が車から出てくる。
氷室「やっと着いた~」
   と、背伸びしながら。
橋部「おお~!」
茶紀「いい感じじゃんムロッチ!」
氷室「だしょ~?」
   コテージに向かっていく五人。

○同・一階・LDK
   入って右手にテラス、暖炉もある。
   二階に上がる階段も見える。
   広々としてるが、かなり埃っぽい。
   玄関から氷室達が入ってくる。
橋部「すげ~!」
   橋部がはしゃぎながら見て回る。
桃山「アメリカのホラー映画に出てきそうだな」
   茶紀が咳き込む。
茶紀「やっぱ埃っぽいね」
氷室「もう二年位来てないらしいから」
   橋部、ソファに座り、
橋部「さすがボンボンのムロッチだな」
氷室「うるせーよ」
茶紀「ねえ、とりあえずジャンケンしよ!」
橋部「というと?」
茶紀「酒買いに行く係と、掃除係」
桃山「確かに、こんな埃まみれで寝たくねえしな」
   橋部がソファから立ち上がる。
   五人が無言で輪になる。
一同「最初はグー!」

○田舎道
   周りは畑と住宅しかない。
   ミニバンが通り過ぎていく。

○ミニバン・車内
   橋部が運転し、助手席に茶紀がいる。
橋部「マジクソ田舎だな~畑しかねえじゃん」
茶紀「確かに。てかコンビニ遠くな~い?」

○コンビニ・外観
   やたら広い駐車場。
   ミニバンが入って来る。

○同・店内
   橋部と茶紀が入ってくる。
   茶紀は酒の棚に直行する。
   橋部は立ち止まり、周りを見渡す。
   客が一人もいない。
橋部「(半笑いで)誰もいねえじゃん」
   酒を物色している茶紀。
茶紀「何にしよっかな~」
   橋部がカゴを持って、茶紀のもとに来る。
   茶紀の後ろ姿を眺める。
   突き出されたケツに目が行く。
   茶紀のケツを軽く引っぱたく橋部。
茶紀「(半笑いで)何いきなり」
橋部「ねえチャキボー、一発ヤラセてくんね」
茶紀「え~? 今?」
橋部「当たりめえじゃん。あいつらがヤった後にヤりたくねえよ」
   茶紀は橋部のカゴをひったくる。
茶紀「使い回しじゃないんですけど」
   と言って、酒をカゴに入れていく。
橋部「いいじゃんいいじゃん」
茶紀「ゴムは?」
橋部「今買ってくから」
茶紀「う~ん、じゃあ外がいい。景色良いし」

○コテージ・LDK
   氷室が掃除機をかけている。
   電源を切る。
氷室「お前らさ、少しは手伝えよ」
窓瀬「ごめん、今良い所なんだ」
   窓瀬は携帯の将棋アプリに夢中。
桃山「なんか言った?」
   テラスで煙草を吸っている桃山。
   氷室は溜息を吐き、掃除を再開する。

○同・テラス
   桃山が煙草を吸いながら、向こう岸を眺めている。
   釣りをしている鈴木がいる。

○同・横の私道
   ミニバンが入ってくる。

○ミニバン・車内
   後部座席に大量の酒。
   運転している橋部。
橋部「あ~スッキリした」
   助手席にいる茶紀。
茶紀「結構時間掛かったちゃったね」
橋部「平気っしょ」
   と言って、車をコテージの横に止める。

○コテージ・一階・LDK
   氷室、桃山、窓瀬がソファでくつろいでいる。
   橋部と茶紀が帰ってくる。
   二人は酒でパンパンのビニール袋を、両手に持っている。
橋部「超おめ~!」
桃山「おせぇよお前ら、絶対ヤってただろ?」
橋部「まあいいじゃんいいじゃん」
茶紀「てかまだあるから誰か手伝って」
橋部「あいいよ、俺持ってくるから。忘れ物もあるし」
   と言って、微笑を浮かべる。
茶紀「忘れ物?」

○同・横の私道
   駐車してあるミニバン。
   橋部がミニバンに歩いてくる。
   助手席を開ける。
   ダッシュボードを開ける。
   一丁の拳銃が出てくる。
   黒のトカレフ。新品ではない。
   橋部がその銃を手に取る。
   不敵な笑みで銃を見つめる。
   そして、コテージを見つめる。
   銃を腰に隠す橋部。

○同・テラス
   氷室達五人が、テーブルを囲み座っている。
   橋部の前には窓瀬がいる。
   皆片手に缶ビールを持っている。
一同「かんぱ~い!」
   勢いよく飲み始める五人。
茶紀「あ~うまい!」
桃山「ったく、最高だな」
   橋部が缶ビールをテーブルに置く。
   橋部、少し前のめりになり、
橋部「なあ、今日面白い物持ってきたんだよ」
氷室「何?」
桃山「どうせハッパだろ?」
橋部「うわっ、それ忘れてたわ~」
氷室「だから何だって」
   橋部が腰から銃を取り出す。
   両手で構え、窓瀬に銃口を向ける。
茶紀「え?」
   窓瀬は無言で、橋部を睨んでいる。
橋部「お前のこと、撃ってみていい?」
   窓瀬は黙って睨んだまま。
茶紀「ねえ、何の冗談?」
橋部「俺はマジだぜ?」
氷室「まさか」
   桃山、少しビビった様子で、
桃山「いや、これ、本物だよ」
   茶紀は怯える様に、銃を見つめている。
茶紀「嘘だよね」
   氷室も銃を見て、慄いている。
   突然、吹き出して笑い始める橋部。
   窓瀬は鼻で笑い、薄ら笑いを浮かべる。
橋部「冗談だよ! そんなビビんなって!」
氷室「ふざけんなよ」
茶紀「心臓止まるかと思ったじゃん」
桃山「結局偽物かよ」
橋部「いやいや、本物だよ」
   と言って、テーブルに銃を置く橋部。
   ポケットから弾倉を取り出し、それもテーブルに置く。
   窓瀬以外は驚いて、後ろに退く。
氷室「おいおいマジかよ! 何でこんなもん持ってんだよ!」
橋部「コバ先輩覚えてるだろ?」
氷室「・・・誰だっけ?」
茶紀「私一回エッチしたことある」
桃山「あ~、いたなそういえば。あの人、ゲソ付けたんだろ?」
橋部「そうそう。ヤクザになってから、何丁か買ったみたいでさ」
   窓瀬、缶ビールを飲み干し、握り潰す。
窓瀬「何で持ってきたんだよ」
橋部「やっぱ撃ってみてぇじゃん? 一回ぐらい。どうせ使う機会なんてねぇんだし、こういう 誰もいない所ならバレねぇだろ」
茶紀「ヤバ、ちょっと引くわ」
橋部「何で?」
茶紀「いや、別に」
橋部「(半笑いで)何だよそれ」
窓瀬「撃ってみろよ、俺も撃ちてえ」
茶紀「マジ? マドセンまで」
橋部「イイね~、そうこなくっちゃ」
   橋部は立ち上がり、銃を手に取る。
   弾倉を装填する橋部。
橋部「気をつけろよ? このチャカトカレフっていうんだけど、安全装置がねぇんだよ。だから 絶対人には向けんなよ?」
桃山「お前が向けてただろうが」
橋部「え? ありゃ平気だよ、弾が入ってなかったから」
   橋部が柵の前に立つ。
   銃を両手で構え、向こう岸に向ける。
   氷室と桃山が、橋部の両隣に行く。
   窓瀬と茶紀は、座ったまま見ている。
茶紀「ちょっと! 怖いから撃つ時言ってよ?」
   と、両耳を塞ぐ。
橋部「はいはい。じゃあ、321で撃つからな?」
   氷室は生唾を飲み込み、橋部が握る銃を見つめる。
橋部「・・・3」
桃山「(小声で)あれ?」
   桃山が向こう岸を見ながら、首を傾げる。
   向こう岸には誰もいない。
橋部「2・・・」
   向かいの森の中から、鈴木がトボトボ歩いてくる。
   目を見開く桃山。
橋部「1」
桃山「ちょっと待」
   銃声が反響し、湖全体に広がっていく。

○湖・外観
   コテージから離れた場所。
   銃声の余韻が聞こえる。

○コテージ・テラス
   耳を塞いでいる茶紀。
   ゆっくりと目を開ける。
   茶紀は橋部らを見て、怪訝な顔をする。
茶紀「どうしたの?」
   橋部がトカレフを両手で構えている。
   銃口から、仄かに硝煙が上がっている。
   橋部は口を開け、呆然としている。

○湖・コテージの反対岸
   鈴木が両膝を地面に落とす。
   頭を撃ち抜かれている。
   地面に倒れる鈴木。

○コテージ・テラス
   橋部がゆっくりと銃を下ろす。
   茶紀が橋部達の元に行く。
   向こう岸を見て、口を押える。
橋部「何だよ、あいつ」
桃山「お前何やってんだよ、待てって言っただろ!」
橋部「おせぇんだよ言うのが! なんでもっと早く止めなかったんだよ!」
桃山「逆ギレすんなよ!」
氷室「とりあえず早く救急車!」
窓瀬「いや、もう死んでる。多分頭に当たった」
茶紀が橋部の腕を掴み、揺さぶる。
茶紀「ねえ! どうすんの!?」
橋部「まだ分かんねぇだろ」
   と言って、銃を腰に入れる。

○ミニバン・車内
   湖沿いの道を走っている。
   行きと同じ席順、氷室が運転している。
   皆口を開かない。
   氷室が沈黙を破る。
氷室「ここら辺だ」

○湖沿いの道路・コテージの反対側
   車がガードレールに横付けされる。
   ガードレールの先は森。
   奥の方から湖の岸辺が少し見える。

○湖・コテージの反対側・森の中
   氷室、橋部、窓瀬、桃山の四人が、枝をかき分けながら歩いている。

○同・岸辺
   氷室ら四人が森から出てくる。
   周りを見渡す四人。窓瀬が見つける。
窓瀬「いたぞ」
   鈴木がうつ伏せで倒れ、死んでいる。
   死体は森から出てすぐの場所で、テラスの真正面。
   恐る恐る近づいていく四人。
   氷室と桃山はすぐに顔を背ける。
氷室「うわっ」
桃山「マジかよ」
   橋部は呆然と死体を見つめている。
   窓瀬は死体のそばまで行く。
   しゃがんで死体を観察する窓瀬。
窓瀬「俺の言ったとおりだ。完全に逝っちまってる」
桃山「おいテル。どうすんだよ」
橋部「知らねえよ」
桃山「お前が撃ったんだぞ!?」
橋部「分かってるよ! 畜生」

○ミニバン・車内
   茶紀が後部座席にいる。
   窓を開け、煙草を吸っている。
   煙草を挟む指が、震えている。

○湖・コテージの反対側・岸辺
   窓瀬が死体の前にしゃがんでいる。
   立ち上がる窓瀬。
窓瀬「どうする?」
氷室「どうするって?」
窓瀬「残念だけど、テルにとっては最悪の選択肢しかない」
橋部「というと?」
   窓瀬、水辺の方に歩きながら、
窓瀬「選択肢は二つ。一つ目は、今すぐ自首すること。まあ、自首しても死刑はまず無いだろ 
 う、故意に殺したわけじゃないからな」
   水辺に立つ窓瀬。
窓瀬「だけど、コバ先輩を道連れにすることになる。あの怖いヤクザの先輩が、後輩の下らない 罪でムショにぶち込まれる。確実に殺されるだろうな」
橋部「あの人の名前は、死んでも出せねえよ」
窓瀬「じゃあ、その銃はどう説明する」
橋部「・・・」
桃山「もう一つは?」
   窓瀬、三人の方に振り返り、
窓瀬「埋める」
氷室「おいおい、正気かよ?」
窓瀬「けど俺らは一切手伝えない。死体遺棄の共犯になっちまうからな」
   俯いている橋部、小さく舌打ちをする。
桃山「確かに。どうすんだよ、テル」
   橋部、窓瀬を睨み、
橋部「さっきから何なんだよ、てめぇ」
窓瀬「あ?」
橋部「そんな冷たい言い方しか出来ねぇのかって言ってんだよ、俺ら親友だろ? もっと俺の立 場になって考えろよ!」
窓瀬「お前の立場になって考えてるよ」
橋部「ほ~う。さすが天才マドセン、名推理ですね。立場が逆転しても、そんな冷静でいられる カ、ナ?」
窓瀬「馬鹿過ぎるお前が起こした事件だ、てめぇでケツ拭け」
橋部「んだとてめぇ!」
   と、窓瀬の胸倉を掴み上げる。
   氷室が止めに入る。
氷室「おいやめろって!」
桃山「こんな状況で喧嘩すんなよ!」
   橋部は渋々、窓瀬を突き放す。
桃山「テル、残念だけど、マドセンの言うとおりだ。そのどっちかしかねぇよ」
   橋部は貧乏揺すりしながら、煙草に火をつける。
橋部「ムロッチ、スコップあるか?」
氷室「マジで言ってんのか?」
橋部「しょうがねえだろ? 自首したら、俺の人生もう終わりだよ! 埋めるしかねえって」
   地面に座り込む橋部、頭を抱える。
氷室「おい、お前らは賛成なのか? 俺は絶対反対だぞ! 埋めるなんて、いつか絶対バレるに 決まってんだろ!? 埋めるの手伝わなかったとしても、通報しない俺たちも共犯みてえなも んじゃねえかよ!」
   応えない四人。
   氷室が携帯を取り出す。
氷室「お前らが掛けないんだったら、俺が掛ける」
橋部「分かった」
   と、立ち上がる。
   安堵の息を吐く氷室。
氷室「良かった。やっと正気に戻っ」
   橋部が腰から銃を取り出し、両手で構える。銃口は氷室に向いている。
   氷室の隣には桃山、橋部の隣には窓瀬がいる。
橋部「頼むよムロッチ、それは止めてくれ」
氷室「おいおい、冗談だろ?」
橋部「俺だってこんなことしたくねえよ!」
窓瀬「落ち着けテル」
桃山「そうだよテル! 何考えてんだよ!」
窓瀬「これで撃ったら本末転倒だぞ。マジで死刑もんだ」
   橋部は唇を噛み締める。
橋部「うるせえー!」
   と言って、引き金に人差し指を当てる。
   窓瀬が橋部の銃に手を伸ばす。

○ミニバン・車内
   後部座席に座る茶紀。
   窓を開け、煙草を吸っている。
   アイラインが崩れ、目の周りが黒ずんでいる。
   突然、銃声が響いてくる。
   驚いて窓の外を見る茶紀。

○湖・コテージの反対側・岸辺
   氷室、窓瀬、橋部が、呆然と見つめている。
   見つめる先は、仰向けで倒れている桃山である。
   銃弾が頭に命中している。
   橋部が銃を握っている。下に降ろしている。
   銃口から硝煙が上がっている。
氷室「嘘、だろ」
   足音が聞こえ、窓瀬が森の方を見る。
   茶紀が森から出てくる。
窓瀬「来るなチャキボー! 車に戻れ!」
   茶紀、倒れている桃山を見る。
茶紀「ピンキー? 嘘でしょ?」
   桃山に駆け寄る茶紀。
   泣きながら死体を揺さぶる。
茶紀「ピンキー、ピンキー! 何でよ」
   茶紀は、橋部を睨む。
   橋部は首を横に振る。
橋部「俺じゃない、俺じゃないって!」
茶紀「何で、こうなったの?」
   後ろを向き、鈴木の死体を見る茶紀。
   再び桃山を見る。
   吐き気を催し、口を押える茶紀。
   水辺に走り、激しく嘔吐する。
氷室「ふざけんなよ、何やってんだよ!」
橋部「お前がいきなり奪おうとするからだろ!」
窓瀬「銃を向けたお前が悪いんだろ!? 人のせいにすんなよ!」
   窓瀬、橋部に手を差し伸べる。
窓瀬「よこせ、いい加減にしろ」
   窓瀬を睨む橋部。
氷室「何してんだよ、早く渡せよ」
橋部「お前に渡してどうなんだよ」
窓瀬「湖に投げ捨てる」
橋部「それはどうだか」
氷室「はー!?」
窓瀬「どういうことだ」
橋部「結局どっちにすんのか教えてくれよ。通報すんのか、埋めるのか」
氷室「お前それ、マジで言ってんのか?」
窓瀬「こうなったら通報するしかねえだろ? ピンキーが死んでんだぞ!」
   氷室、涙ながらに、
氷室「そうだよテル、冷静になれよ! お前、親友の死体、埋める気かよ?」
   橋部は無言で悩んでいる。
   茶紀が戻ってくる。
窓瀬「戻れって言っただろ!」
橋部「いや、戻んなくていい」
窓瀬「あ?」
   橋部、窓瀬に銃を向ける。
橋部「頼むよお前ら、捕まりたくねぇんだよ」
茶紀「何やってんの? 私たち友達でしょ?」
橋部「うるせぇよ! 色々あったんだよ」
窓瀬「分かったから下ろせ。埋めればいいんだろ?」
橋部「そうだよ、さっさと俺の言うこと聞きゃ良かったんだよ!」
茶紀「もう嫌だ!」
   と言って、森に向かい走り始める。
   橋部は茶紀に銃を向ける。
橋部「どこ行くんだ! 戻ってこい!」
窓瀬「やめろ! 銃は俺に向けろ」
   茶紀が森に入る手前で、石につまずく。
   勢い良く倒れ、頭を強く石にぶつける。
   気絶する茶紀。
   額から、少し血が流れている。
窓瀬「おい! 大丈夫か!」
橋部「チャキボー戻ってこい! 何回も言わせんな!」
   氷室が倒れている茶紀に、目を凝らす。
氷室「おい、チャキ?」
   窓瀬も怪訝な顔で、茶紀を見つめている。
   橋部の銃を見る窓瀬。
橋部「何で起きねぇんだよ」
   両手で構えている橋部。
   銃口は茶紀の方に向いている。
橋部「おい! 起きろチャキボー!」
   窓瀬が突進する。
   橋部の銃に掴みかかる。
   その反動で、地面に一発発砲される。氷室が跳ねるように驚く。
   銃を握る橋部の両手首を、窓瀬が必死に掴んでいる。
   橋部は引き剥がそうと、必死にもがく。
橋部「離せよ!」
窓瀬「逃げろムロッチ! 警察呼べ!」
氷室「けどお前は!」
窓瀬「いいから早く! チャキボー連れて逃げろ!」
   慌てて逃げ始める氷室。
   倒れている茶紀に駆け寄る。
   茶紀を揺さぶる氷室。
氷室「おい! チャキボー起きろ!」
   茶紀はビクともしない。
   岸辺に振り返る氷室。
   窓瀬が股間を蹴り上げ、橋部が銃を落とす。もみ合って転ぶ二人。
   窓瀬がマウントを取り、ひたすら橋部を殴る。橋部は両手でガードする。
   氷室は茶紀の上体を起し上げる。
   茶紀の肩を揺さぶりながら、
氷室「起きろ! 起きてくれ!」
   目を開ける茶紀。
   すぐに頭を押さえ、痛そうな顔。
   額に血がついている。
氷室「逃げるぞ」
   氷室が茶紀の肩を担ぐ。
   四度目の銃声が響いてくる。
   振り返る氷室と茶紀。
   橋部が顔を腫らして、立っている。
   銃を握っている橋部。下に降ろしている。
   足元で、窓瀬が仰向けで倒れている。
   頭を正面から撃ち抜かれている。
   氷室と茶紀はその光景を見て、固まっている。
茶紀「生きてる、よね?」
氷室「行こう、早く!」
茶紀「マドセンまで、何でよ!」
   橋部が二人を見て、歩いてくる。
氷室「行くぞ!」
   森の中に逃げていく氷室と茶紀。
橋部「止まれ!」
   走り始める橋部。

○同・森の中
   森の中を走る氷室と茶紀。
   氷室が後ろを見る。
   橋部が走って森の中に入ってくる。

○湖沿いの道路・コテージの反対側
   ガードレールに横付けされているミニバン。
   氷室と茶紀が森から走って来る。
   氷室の後ろを茶紀が走っている。
   氷室がガードレールまで辿り着く。
   横にミニバンがある。
   ガードレールを跨ぐ氷室。
   その瞬間、五度目の銃声が響く。
   振り返る氷室。
   唖然としている茶紀。吐血する。
氷室「チャキボー!」
   茶紀が膝から崩れ落ちる。
   真後ろで、橋部が銃を構えている。
   氷室は悔しげに、涙を零す。
   橋部が銃を構えたまま、氷室に近付いていく。
   ガードレールを挟み、氷室と橋部が向かい合う。
氷室「何で、こんなこと」
橋部「分かんねぇよ、俺だって」
氷室「早く殺せよ!」
橋部「どうしたらいいんだよ、俺は」
   氷室は黙って泣き続ける。
橋部「なあ、どうしたらいいんだよ!」
氷室「自首しよう」
   橋部が無表情で、涙を零す。
橋部「ごめん」
   橋部は自分のこめかみに、銃口を当てる。

○湖・水面
   コテージから離れた場所。
   六度目の銃声が響いてくる。
   さざ波が揺れている。

○コテージ・テラス
   テーブルには沢山の酒缶が置いてある。
   蓋が開いているのは、最初に乾杯した缶ビールだけ。

○湖・コテージの反対側・岸辺
   仰向けで倒れている桃山。
   俯せで倒れている窓瀬。
   二人とも頭を撃ち抜かれている。

○同・森の中
   俯せで倒れている茶紀。
   背中を撃たれている。
   湖沿いの道路が近くに見える。

○湖沿いの道路・コテージの反対側
   ガードレール沿い(森側)で、橋部が横向きに倒れている。
   銃を手に、こめかみから血を流している。
   道路側に、氷室が立っている。
   地面に膝をつき、崩れる。
   橋部の銃を見つめる。
   携帯を取り出し、110を押す。
   発信ボタンを押そうとするが、指が止まる。銃を見る。携帯を見る。交互に見る。
   最後に、銃を長く見つめる。
   (映像が一時停止する)
大竹の声「それで君は、通報することにしたんだね?」
氷室の声「・・・はい」

○警察署・取調室(夜)
   氷室が俯いて座っている。
   前に大竹虎治(42)が座っている。
   岩城玄太(27)は、ドアに寄り掛かっている。
大竹「分かった。辛いと思うけど、もうちょっとだけ付き合ってほしい。他の人に変わ
 るから、また後で」
   虎治と岩城が取調室を出る。

○同・廊下(夜)
   大竹と岩城が歩いている。
   岩城、調書を見ながら、
岩城「所轄に話した証言と、違いは無さそうですね」
大竹「近くに人は?」
岩城「湖周辺には氷室家の別荘しかなく、周りは人も車も、ほとんど通らないようです」
大竹「最高の立地だな」

○同・取調室(夜)
   氷室と刑事Aが向かい合っている。
刑事A「二人が拳銃を取り合っている時、君は加勢しようとは思わなかったの?」
氷室「あと、何回話せばいいんですか?」
刑事A「え?」
   氷室が泣き始める。
氷室「もう限界です! 思い出したくないんです! もう何も聞かないでください!」
   刑事Aは困惑した表情。

○同・喫煙所(夜)
   大竹と岩城が煙草を吸っている。
岩城「どう思います? あの証言」
大竹「随分細かい所まで話してたな」
岩城「他愛もない会話まで、よく覚えてますよね」
大竹「何でだ?」
   と、怪訝な表情で。

○同・取調室(夜)
   氷室が座って俯いている。
刑事A「じゃあ、次の人に変わるから」
   刑事Aが出て行き、氷室一人になる。
   氷室の口角が、微かに上がる。
氷室のN「僕の名前は氷室昴」
   顔を上げる氷室。無表情である。
氷室のN「申し訳ないけど、僕が今まで語ってきた内容は、全くのデタラメ」

○湖・コテージの反対側・岸辺(夜)
   鈴木、桃山、窓瀬の死体周辺を、鑑識官や刑事達が調べている。
氷室のN「あれは僕が考えたシナリオ。かなりのバッドエンドだよね」
   カメラを持っている鑑識官。
   桃山の死体に向け、シャッターを切る。

○警察署・取調室(夜)
   氷室が一人で、微笑んでいる。
氷室のN「これから皆に見てもらうのは、本当のシナリオ。つまり、もう一つのバッドエンド 
 だ。覚悟して観てほしい」

○タイトル『もうひとつのバッドエンド』

○森に囲まれた峠道
   人通りもなく、車も通っていない。
   日差しが強い。
   黒いミニバンが走っている。
   窓ガラスにはスモークが貼られ、車内は見えない。

○ミニバン・車内
   氷室が運転している。助手席に窓瀬、後部座席に茶紀、橋部、桃山がいる。
   窓瀬は携帯で将棋アプリをしている。
茶紀「だから、あれはフラれた女が、彼氏のこと想像しながらオナニーしてる曲なのよ。震えて るっていうのは電マのこと」
橋部「(半笑いで)何だよそれ」
茶紀「あの女はメンへラビッチよ」
氷室「メンへラって何ですか?」
橋部「うっせんだよ! 黙って運転してろ」
   茶紀がクスクス笑う。
   軽く頭を下げる氷室。
氷室「すいません」
橋部「てめぇ俺の車運転させてやってんだぞ? 車用意出来なかったてめぇが悪いんだから 
 な?」
  萎縮している氷室。また頭を下げる。
氷室「すいません」
桃山「ったく、乗ってみたかったぜ~? ムロッチのベンツ」
茶紀「確かに! 良いもんだよね~、ムロッチはボンボンでさー」
   氷室は暗い顔で黙り込む。

○コテージ・横の私道
   氷室達のミニバンが入ってくる。
   車から響く重低音は、外からでもオレンジレンジの『ロコローション』を聴いていると分   かる。
   コテージの横に止まる車。

○同・一階・LDK
   入って右手にテラス、暖炉もある。
   二階に上がる階段も見える。
   広々としてるが、かなり埃っぽい。
   玄関から氷室達が入ってくる。
桃山「アメリカのホラー映画に出て来そうだな」
茶紀「うわっ! ホコリっぽ!」
   と、咳き込む。
橋部「てめぇ何だよこれ、超キタネーじゃん」
氷室「ごめん。うちの親、もう二年位来てないみたいだから」
橋部「掃除しとけよ」
   と言って、氷室の頭を引っ叩く。
氷室「す、すいません。僕が掃除しておくんで、皆さんは、買い出しに行っちゃって下さい」
橋部「言われなくても分かってるっつーの」
   氷室の頭を、前より強く引っ叩く。
氷室「イタタ」
   と、苦笑いする。
茶紀「ダッさ、ゲイみたい」
   悲しい表情を見せる氷室。

○同・外・横の私道
   橋部、茶紀、窓瀬、桃山が車に乗り込んでいく。

○同・一階・LDK
   氷室が一人、掃除機をかけている。
   掃除機を止め、テラスを見る。

○同・テラス
   氷室がテラスに出てくる。
   柵の前まで行き、向こう岸を見る。
   釣りをしている鈴木がいる。
   鈴木を見つめ、中に戻っていく。

○同・LDK
   氷室が中に戻って来る。
   ソファにある自分のバッグを探る。
   ゆっくりと、黒のトカレフを取り出す。
   銃を見つめ、不敵な笑みを浮かべる。

○湖沿いの道路・コテージ側
   コテージの私道から、氷室が走って出て来る。そのまま道路を走っていく。

○同・コテージの反対側
   氷室が走って来る。
   汗だくで立ち止まる。
   両手を膝につき、激しく息切れ。
   後ろのポケットに軍手、腰にはトカレフが隠されている。

○湖・コテージの反対側・岸辺
   鈴木が水辺で釣りをしている。
   釣り針を遠くに飛ばす。
   後ろの森から氷室が出てくる。
   軍手を取り出し、装着する。
   ゆっくりと鈴木に近付く。
   両手を後ろに組み、軍手を隠す。
氷室「(笑顔で)こんにちは」
   驚きながら振り向く鈴木。
鈴木「ビックリした~。こんにちはー」
氷室「どうですか? 釣れてます?」
鈴木「まあ、ぼちぼちかな。もしかして、あそこの別荘の」
   と、コテージを指差し。
氷室「はい、そうです」
鈴木「やっぱそうかー。久しぶりなんじゃない? 来るの」
氷室「そうですね~、二年ぶりです。すいません、お名前、鈴木さんですよね?」
鈴木「(半笑いで)そうそう、よく覚えてるね」
氷室「良かった。いつも夏に来た時見かけたので、今日もいるかなぁと思って」
鈴木「ここは穴場だからね」
氷室「じゃあ、良い死に場所ですね」
鈴木「え?」
   振り返る鈴木。
   腰から銃を取り出す氷室。
   両手で鈴木に向ける。
   腰を抜かす鈴木。
鈴木「そ、それは、何だ?」
氷室「見て分からない?」
鈴木「ほ、本物か?」
   氷室は適当に、地面に威嚇射撃する。
鈴木「分かった分かった! 頼むから、殺さないでくれ」
氷室「何でもするか?」
鈴木「分かった、何でも、する」
氷室「立て」
   立ち上がる鈴木。
氷室「森の方まで行け」
   ゆっくり歩いていく鈴木。
氷室「止まれ」
   森に入る手前で鈴木が止まる。
氷室「こっちを向け」
   振り返る鈴木。真正面の向こう岸に、コテージのテラスが見える。
氷室「動くなよ?」
   氷室は銃を向けたまま、鈴木に近付いていく。
   銃口を鈴木の額に付ける。
   強く目を瞑り、震えている鈴木。
鈴木「何でこんなことするんだ、俺が、何かしたか?」
氷室「何も」
   引き金を引く氷室。
   鈴木の頭が撃ち抜かれる。
   氷室は撃った反動で、銃を持つ手が上に持っていかれ、後ろに退く。
氷室「うわすっげー!」
   と、興奮気味に言う。
   楽しそうな笑みを浮かべる氷室。
   氷室は手に握る銃を、角度を変えながら、ジロジロと眺める。
氷室のN「やっぱりね、かなりの衝撃だ。両手でしっかり握って、目の前で撃たないと」

○コテージ・LDK
   氷室が掃除機を掛けている。
   汗だくで焦った様子。
   橋部達が帰ってくる。
氷室「お帰り」
   橋部達は、酒でパンパンのビニール袋を持っている。
橋部「お前まだ掃除してんの?」
茶紀「(半笑いで)ヤバ、超汗だくなんだけど」
氷室「ごめん、もう終わるから」
桃山「早く飲もーぜー」
   と言いながら、テラスに出る。
   他もそれに続き、テラスに出ていく。
   氷室は一人、掃除機を掛け続ける。

○同・テラス
   橋部達が楽しく呑んでいる。
   一缶目の缶ビールである。
   窓瀬が気持ち良さそうに、向こう岸を眺めている。人影を見つける。
   目を凝らす窓瀬。
   森の木の葉で、鈴木の死体が見え隠れしている。
窓瀬「おい」
橋部「どした?」
窓瀬「誰か倒れてるぞ」
橋部「は? どこだよ?」
   一同、向こう岸を見つめる。
   氷室が静かにテラスに入ってくる。
   氷室の存在に誰も気づかない。
   桃山が立ち上がり、柵の前まで行く。
   向こう岸を見つめ、
桃山「あ、本当だ」
   缶ビールを取る氷室。
   静かに開け、一口飲む。
   橋部と茶紀も柵の前に行く。
   向こう岸を見つめ、
橋部「うわ! ガチじゃん」
茶紀「どこ? いないじゃん、キャ!」
   と、口を押える。
   氷室は嘲るように微笑む。
   缶ビールをそっと、テーブルに置く。
橋部「あれ、死んでんのかな?」
氷室「どうしたの?」
桃山「うわっ! ビックリさせんなよ」
橋部「(半笑いで)お前何ビビってんの?」
茶紀「ねえ、早く救急車呼んだ方が良いんじゃない?」
窓瀬「死んでたりして」
氷室「見に行ってみない? もしかしたら、まだ生きてるかも」
   橋部たちが、氷室を見つめる。

○湖・コテージの反対側・岸辺
   橋部、窓瀬、桃山、茶紀、氷室の五人が、森の中から出てくる。
   すぐに窓瀬が見つける。
窓瀬「あ、いた」
   鈴木がうつ伏せで倒れている。
   テラスの真正面、森の手前である。
   恐る恐る近づいていく五人。
   橋部と桃山がすぐに顔を背ける。
橋部「うわっ」
桃山「マジかよ」
   茶紀、氷室の後ろに隠れながら、
茶紀「ねえ! 死んでるの?」
   窓瀬が死体のそばまで行く。
   しゃがんで、鈴木の死体を観察する。
窓瀬「やっぱり、完全に逝っちまってる」
桃山「何でこんな所で」
橋部「そいつ、頭撃たれたのか?」
窓瀬「みたいだな」
   と、立ち上がる。
窓瀬「こんな誰も来ないような所で、銃で撃たれて死んでる。おかしいと思わねぇか?」
橋部「確かに」
茶紀「警察呼ぼうよ!」
窓瀬「待て、一回離れよう」
   一同が水辺に向かう。
   氷室はバレないように、ポケットから軍手を取り出す。
   軍手を装着し、後ろポケットに手を入れる。
窓瀬「テル、お前チャカ貰ったとか言ってたよな? コバ先輩から」
橋部「ああ、貰ったけど、黒のトカレフ」
窓瀬「家に隠してあるんだよな?」
橋部「そうだけど。何お前、俺のこと疑ってんの?」
窓瀬「ちげぇよ。ここに来るのは、せいぜいこの釣り人か、俺らか、ムロッチの家族、ぐらいの もんだろ? それに、テルも含めて俺らはずっと一緒にいた。だから殺せない。けど、そいつ だったらどうだ?」
   と言って、氷室に視線を向ける。
   氷室を見る一同。
氷室「ちょっとマドセン君、どういうこと?」
橋部「(半笑いで)お前が殺ったの?」
桃山「(半笑いで)確かにあり得るかも」
   茶紀は怪訝な顔で、氷室を睨む。
窓瀬「早く取り押さえた方が良いぞ」
橋部「てめぇ俺のチャカパクったのか、あ?」
氷室「待って待って、何でそうなっちゃうかな」
窓瀬「お前がテルの銃を盗んで、こいつを殺した。何でか分かんねぇけど」
   氷室、両手を前に出しながら、
氷室「はいはい分かった分かった!」
茶紀「軍手?」
   氷室は腰から素早く銃を取り出す。
   両手で構え、桃山に向ける。
   銃口は桃山の目の前である。
   窓瀬以外は驚いて、一歩後退する。
桃山「おいおい、冗談だろ?」
橋部「マジだったのかよ」
茶紀「嘘でしょムロッチ、何の冗談?」
氷室「いや~、マドセン君は鋭いな~。こいつら馬鹿とは違って」
橋部「てめぇ、調子乗ってんじゃねえぞ!」
氷室「お~っと、あんま騒がないでくれ、ピンキー君を撃つことになる」
窓瀬「何が目的だ」
氷室「分かるだろ?」
   氷室、全員を睨みながら、
氷室「貴様らはずっと、僕のことを、奴隷のように、いや、虫けらのように扱ってきた! そ 
 の、復讐だ」
桃山「わ、分かったから、俺に銃向けんなって」
   桃山の額の先に、銃口がある。
氷室「貴様らが僕にやってきたことを、そっくりそのままやってもらう」
窓瀬「お前にやってきたこと」
   と、考え始める。驚愕する窓瀬。
窓瀬「まさか」
橋部「てめぇ、後でどうなるか分かってんのか?」
氷室「威勢を張れるのも今のうちだよ? テル君」
橋部「いい加減にしろよ? てめぇに殺せんのかよ! このクソヘタレが!」
窓瀬「やめろテル、冷静になれ」
氷室「簡単に殺せるけど?」
   桃山は震えている。
桃山「やめてくれ! テル、とりあえず、こいつを挑発すんのはやめろ」
   橋部は黙って、氷室を睨んでいる。
氷室「いい選択だ。ピンキー君」
   茶紀が秘かに、携帯を取り出す。
   ダイヤル画面を開き、1、1と押していく。氷室がその光景を目にする。
氷室「茶紀さん? 何してるの?」
   茶紀の指が震えている。
   指が0の前で止まっている。
茶紀「やめてよ、こんなこと」
氷室「もうイライラするな~。何で僕の思い通りに行かないかな~、みんな」
   桃山は慄いた表情で、横の茶紀を見ている。
氷室「ほら、こっち向いて」
桃山「え?」
   桃山が氷室の方を向く。
   銃口と目が合う。
   引き金を引く氷室。
   桃山の頭が撃ち抜かれる。
   氷室は銃撃の反動を耐え、少し退く。
   仰向けに倒れていく。
   橋部達は驚愕し、言葉を失う。

○湖・水面
   コテージから離れた場所。
   銃声が響いてくる。
   さざ波が揺れている。

○湖・コテージの反対側・岸辺
   氷室が両手で銃を構えている。
   銃口から、硝煙が上がっている。
   桃山が仰向けで地面に倒れている。
   撃たれた頭から血を流し、死んでいる。
   橋部の顔が段々と、憤怒の表情になっていく。
橋部「てめえ、何してんだよオラー!」
   と、氷室に突進しようとする。
   窓瀬が橋部を押さえる。
   氷室は表情一つ変えず、テルに照準を変える。
茶紀「嘘、でしょ」
橋部「離せよ!」
窓瀬「やめろ! お前も撃たれるぞ!」
   茶紀が死んだ桃山に駆け寄る。
   桃山の体を揺さぶる。
茶紀「ピンキー、ピンキー! 何で、こんなこと」
   茶紀の目から、涙が零れる。
窓瀬「何で撃ったんだ!」
氷室「まあ、見せしめかな?」
橋部「てめぇ、絶対殺す」
氷室「これで分かったよね? 僕に従わなかったら、どうなるか」
   後ろを向き、鈴木の死体を見る茶紀。
   再び桃山を見る。
   吐き気を催し、口を押える茶紀。
   水辺に走り、激しく嘔吐する。
   橋部が氷室を睨んでいる。
橋部「何が目的だ、クソ野郎」
氷室「さっきも言ったよね? 僕にしてきたことを、やってもらうって」
   窓瀬が不安げな顔で、茶紀を見る。
   湖に向かって嘔吐している茶紀。
   氷室が茶紀に近付いていく。
窓瀬「おい、やめろ」
   氷室は茶紀の髪を鷲掴み、引っ張っていく。
茶紀「(叫ぶ)やめて!」
橋部「てめぇ!」
   氷室は茶紀を、地面に放り捨てる。
   茶紀の後頭部に、銃口を押し付ける。
   地面にうずくまる茶紀。
   震えながら、泣いている。
氷室「ではまず、テル君とマドセン君、二人にやってもらいたいことがある」
橋部「何だ」
氷室「殴り合いの喧嘩をして下さい」
橋部「殴り合い?」
窓瀬「俺らがやらせただろ、こいつに」
氷室「そう。覚えててくれて嬉しいよ」
橋部「(舌打ちして)あれか」
氷室「本気でやってよ? じゃあ、ムロッチの大反省会、開始~!」
   と、大きく叫ぶ氷室。
   橋部と窓瀬は氷室を睨んでいる。
   見計らう様に、動き出さない二人。
   氷室は呆れて、溜息を吐く。
氷室「撃ちま~す」
窓瀬「待て! あの時の事は謝る。だから」
氷室「(遮って)さっさとやれ」
橋部「クソっ」
   黙り込む、橋部と窓瀬。
   窓瀬は拳を強く握っている。
窓瀬「テル」
橋部「あ?」
   と、窓瀬の方を向く。
   その瞬間、窓瀬が橋部の顔をぶん殴る。吹っ飛ばされる橋部。
氷室「(半笑いで)お、始まった始まった」
   地面に倒れている橋部。
橋部「何すんだよいきなり!」
窓瀬「やるしかねえだろ!」
   立ち上がる橋部。
   窓瀬に突進していく。
橋部「クソがー!」
   と、拳を大きく振りかぶる。
   茶紀、地面で頭を抱え、震えている。

○コテージ・テラス
   テーブルには沢山の酒缶が置いてある。
   蓋が開いているのは、最初に乾杯した缶ビールだけ。

○湖・コテージの反対側・岸辺
   氷室が口を押え、クスクス笑っている。
   橋部と窓瀬が、氷室を睨んでいる。
   二人の顔は腫れていて、口や鼻から血を流している。
窓瀬「もう、いいだろ」
氷室「では、勘弁してあげよう」
   茶紀は地面にうずくまっている。
   氷室に銃を向けられている。
氷室「じゃあ、次はね」
橋部「いい加減にしろ、まだあんのか」
氷室「当たり前だろ? けどあんまり時間を掛けたくないから、次で最後だ」
窓瀬「何だ」
氷室「お前らにされて一番嫌だったこと、それはね、しゃぶり合いだよ」
橋部「しゃぶり合い?」
窓瀬「(呟く)クソ、やっぱりか」
氷室「あんな酷いことしたのに、覚えてないんだね。ますます腹が立ってきたよ」
橋部「は?」
茶紀「ムロッチと親友に、二人でしゃぶり合えって脅したじゃん。本当に覚えてないの?」
   記憶を辿る橋部。
   茶紀、激昂しながら、
茶紀「あんたが命令したんじゃん!」
   思い出す橋部。
橋部「あ~! あれか。けどあれは、結局ヤる手前で止めさせたじゃねぇかよ!」
   氷室、怒りの表情で、
氷室「手前で止めさせた? ふざけるなよ? あの時、あいつのが、俺の顔に触れたんだ 
 ぞ!?」
窓瀬「けど、それで俺らがしゃぶり合うのはフェアじゃないだろ?」
橋部「そ、そうだよ!」
氷室「うるさい! そんなの関係ないんだよ。いいからズボンを下ろせ!」
窓瀬「他に手はないのか」
茶紀「(叫ぶ)もういい!」
   茶紀を見る一同。
茶紀「もういい。ムロッチ、私何でもするから、あんたの奴隷にでも何にでもなるから、この二 人は許してあげて。一生、あなたの言うこと聞くから」
橋部「お前」
氷室「あなたは本当に優しい人だ。あの時も、こんな風に止めてくれたね。あなたがいなかった ら、僕はどうなっていたことか」
茶紀「だから、お願い」
   氷室が、橋部と、窓瀬を見つめる。
氷室「ダメだ、やれ」
茶紀「何で」
   と、悲しげに俯く。
窓瀬「俺はやんねえぞ?」
氷室「何?」
   橋部と茶紀が、窓瀬を見る。
窓瀬「俺を撃てよ、それでチャラにしてくれ」
橋部「お前何言ってんだよ?」
窓瀬「元々全員殺す予定だったんだろ? だったら変わらねぇよ。俺を殺せ」
氷室「(半笑いで)僕と駆け引きするつもり?」
窓瀬「俺は男のナニなんて死んでもしゃぶりたくねぇんだわ。だったら死んだ方がマシなんだ 
 わ。さっさと撃てよ」
   氷室は眉をひそめる。
茶紀「やめなよマドセン!」
橋部「お前マジで撃たれるぞ? さっきこいつ、余裕でピンキーのこと撃っただろ!」
窓瀬「いや、こいつはもう撃てない」
氷室「どういうことだ」
窓瀬「こいつが本当にやりたいことは、殺しじゃなくて、復讐だ」
橋部「復讐?」
窓瀬「そう。お前はどうしても俺らのしゃぶり合いを動画に収めたい。けどそれは俺とテルじゃ ないとダメなんだ。お前が惚れてるチャキボーに、変な事はさせられないからな。自分がやら れたことをそのままやり返すには、絶対男二人は生かしておかなきゃならなかった。だろ?」
茶紀「じゃあ、ピンキーを撃ったのって」
窓瀬「元々決めてたんだろ? 最初にピンキーか俺を撃つって。お前のことを散々イジメてきた テルのことは、生かしておきたかったはずだ。簡単に殺すのはもったいないからな」
   氷室が窓瀬を睨んでいる。
氷室「(舌打ちして)ベラベラ喋りやがって、調子に乗るなよ?」
   氷室は照準を、窓瀬に変える。
窓瀬「殺す順番ミスったな、ムロッチ」
氷室「お前の事なんか、簡単に殺せる。そんなに早く死にたいんだったら、殺してやる」
窓瀬「おう、やってみろよ」
氷室「・・・分かった」
   と言って、茶紀に銃口を向ける。
窓瀬「やめろ!」
   氷室に突進していく窓瀬。
橋部「マドセン!」
   氷室は茶紀に銃口を向けたまま、突進してくる窓瀬を睨む。
茶紀「やめて!」
   茶紀が駆け出し、窓瀬の前に出る。
   窓瀬は茶紀に衝突し、二人は地面に転んでいく。
   氷室は転んでくる二人を避ける。
   橋部は緊迫した顔で、その光景を見ている。
   転んでいった窓瀬が、地面で仰向けになる。苦痛の表情を浮かべている。
   氷室は即座に、窓瀬に馬乗りする。
   銃口を窓瀬の額に付ける。
氷室「残念賞」
窓瀬「え?」
   引き金を引く氷室。
   頭を撃ち抜かれる窓瀬。
   地面に倒れている茶紀が、絶叫する。
   橋部は呆然と、その光景を見つめている。
   氷室は片腕を茶紀の首に回し、絞める。
   茶紀の頭に銃を突きつける。
橋部「おまえ、マドセンまで」
茶紀「(小声で)ごめんなさい、ごめんなさい」
   顔面蒼白で、虚ろな表情の茶紀。
氷室「台無しだ、こいつのせいで。とりあえず車に戻ろう」
   橋部は死んだ窓瀬を見つめ、涙を流す。
氷室「ほら、早く。先に歩け」
   橋部が森の方に歩き始める。
   氷室が茶紀を突き放す。
   茶紀の背中に銃口を向ける。
氷室「茶紀さんも行って下さい」

○同・森の中
   橋部、茶紀、氷室の順で歩いている。
   氷室が茶紀に銃を向けている。

○湖沿いの道路・コテージの反対側
   橋部、茶紀、氷室が森から出てくる。
   橋部がガードレールまで辿り着く。
   横にミニバンがある。
   橋部がガードレールを跨ぐ。
氷室「ちょっと待って」
   振り向く橋部。
氷室「そこで止まって、そのガードレールから先には行かないで」
   橋部は怪訝に氷室を見つめる。
   跨いだ足を、森の中に戻す橋部。
   氷室はまた、片腕を茶紀の首に回す。
   茶紀の頭に銃を突きつける。
   茶紀は変わらず放心状態。
橋部「今度は何だよ」
   氷室は茶紀に銃を突きつけたまま、共に橋部の前に行く。
氷室「道路側を向いて」
   橋部が道路側を向く。
   氷室と茶紀が共に、橋部の横に立つ。
氷室「そのまま、動かないでね」
   目を瞑る橋部。
   氷室は片手で、橋部のこめかみに銃を突きつける。
   引き金を引く。
   橋部のこめかみが撃ち抜かれる。
   氷室の片手が、銃撃の反動で上に持っていかれる。
   横向きに崩れ落ちていく橋部。
   茶紀もつられるように、気を失う。
   氷室、沈んでいく茶紀を抱き抱え、
氷室「おーっと!」
   氷室は驚いて、茶紀の顔を見る。
   気を失い、目を閉じている茶紀。
氷室「あ~、なるほど」
氷室のN「これは都合がいい」
   氷室は茶紀を後ろから抱いたまま、森の方に引きずっていく。
   茶紀をひっくり返し、俯せの状態で地面に寝かせる。
   周りを見渡す氷室。
   大きい石を見つける。
   氷室はその石を持ち上げ、茶紀の頭のすぐ前に置く。
   茶紀の髪を掴み、頭を持ち上げる。
   足で石を、茶紀の頭の下に移動させる。
   氷室は両手で、茶紀の頭を強く石に叩き付ける。
氷室のN「頭を石にぶつけて、気絶」
   茶紀の額から、少し血が流れる。
   氷室は銃口を、茶紀の背中に当たる寸前まで近づける。
氷室のN「全員頭を撃ち抜かれるのは、余りにも不自然だ。茶紀さんには、綺麗な状態
 で死んでもらう」
   引き金を引き、茶紀の背中を撃つ。
   銃を腰に入れ、一息つく。
   急いではめていた軍手を取る。
   裏返しにして、橋部の両手にはめさせる。茶紀の頭の下にある石を、持ち上げる。
   岸辺に向かって走る。

○湖・コテージの反対側・岸辺
   氷室が森から走って出て来る。
   茶紀の血が付いた大きい石を持っている。
   森と岸辺の境目で立ち止まる。
   茶紀の血が付いた部分を上にし、石を置く。
   また森に走って戻っていく氷室。

○湖沿いの道路・コテージの反対側
   氷室が走って戻ってくる。
   橋部の軍手を取り外し、自分の手にはめる。
   腰に入れていた銃を取り、橋部に握らせる。

○湖・コテージの反対側・岸辺
   氷室が木の枝を持っている。
   枝の先には軍手が掛けられている。
   ライターを取り出す氷室。
   軍手に火をつける。
   軍手が徐々に燃えていく。

○湖沿いの道路・コテージの反対側
   氷室が地面に膝を付けている。
   ガードレールを挟み、橋部の死体の正面にいる。
   自分の携帯を取り出す氷室。
   110番に掛ける。
氷室「もしもし・・・警察ですか?」
   と、暗い面持で話し始める。

○同・コテージ側
   パトカー三台、救急車一台が通る。
   サイレンが鳴り響いている。

○同・コテージの反対側
   氷室がガードレールに腰をかけ、頭を抱えている。
   パトカー三台と救急車が付近に停まる。
   氷室の元に、所轄の刑事Aと他数人の警官が駆けつけてくる。
刑事A「君が、氷室昴君?」
氷室「・・・はい」
   と、暗い表情で。
刑事A「悪いが、すぐに署で話を聞かせてほしい。良いかな?」
   氷室は無言で立ち上がる。
   刑事Aに連れられ、パトカーに乗る氷室。
   走り出すパトカー。
   救急隊員が、森で茶紀を診ている。
   脈を確認し、驚いて眉をひそめる。

○警察署・外観(夜)
   あまり大きくない、田舎の警察署。

○同・取調室(夜)
   氷室が俯いて座っている。
   暗い表情をしている氷室。
   大竹と岩城が入って来る。
   氷室の前に座る大竹。
   岩城はドアの前に立つ。
大竹「ごめんね、何回も」
   答えない氷室。
大竹「氷室君に、朗報がある」
氷室「何ですか?」
大竹「一人、生きてたんだ」
   氷室の眉毛が、一瞬動く。
   ゆっくりと顔を上げる。
   氷室、驚いた顔をして、
氷室「それは、本当ですか?」
大竹「ああ。柳川茶紀が、生きていた」
   氷室は安堵の溜息を吐く。
氷室「良かった、本当に、良かった」
   泣き始める氷室。
   大竹は腕を組み、氷室を怪訝に睨む。

○大学病院・入口・外(夜)
   パトカーが前に停まる。
   大竹と岩城が車から出てくる。
   病院に入っていく。

○同・待合室(夜)
   医者、大竹、岩城が廊下に立っている。
医者「あと5ミリずれていたら、命はありませんでした」
岩城「そうですか」
大竹「で、今の容態は?」
医者「手術は成功しましたが、今はまだ昏睡状態です」

○同・茶紀の病室(夜)
   茶紀が眠っている。
   医療器具が繋がれている。

○警視庁・廊下(夕方)
   大竹と岩城が歩いている。
大竹「畜生、証拠が足りない」
岩城「このままだと、氷室の拘留期間が過ぎてしまいます」
大竹「マズいな」
岩城「釈放どころか、嫌疑不十分で不起訴になる可能性も」
   大竹の携帯が鳴る。
   画面を見て、急いで電話に出る。
大竹「もしもし。はい、意識が戻った?」

○大学病院・廊下(朝)
   医者が立っている。
   大竹と岩城が、急ぎ足でやって来る。
大竹「様子はどうですか?」
医者「状態は良好なのですが」
岩城「何か、あったんですか?」
医者「その、事件の時のストレスが、かなり大きかったようで・・・」

○同・茶紀の病室(朝)
   茶紀が窓の外を眺めている。
   大竹と岩城が入ってくる。
岩城「こんにちは」
   茶紀は振り向かず、黙っている。
大竹「こんにちは、警視庁から来た大竹です。よろしくね。気分は、どうかな?」
茶紀「・・・」
   椅子に座る大竹。
大竹「辛いと思うけど、話を聞かせてほしい」
茶紀「みんなは?」
大竹「え?」
茶紀「みんな、どこに行ったの?」
大竹「本当に覚えてないの? 事件のこと、全部」
茶紀「みんなに、会いたい」
大竹「・・・皆には、もう会えない」
   茶紀が大竹の方に向く。
茶紀「もう会えないって、どういうこと?」
大竹「氷室以外は、亡くなった」
茶紀「嘘でしょ?」
大竹「嘘じゃない」
茶紀「何でそんな嘘つくの? 酷いよ」
大竹「覚えてる限りでいい、何か、教えてくれないか」
茶紀「嘘だよ、そんなの」
大竹「氷室の別荘に行ったのは、覚えてるか」
茶紀「ムロッチの別荘、覚えてる」
大竹「橋部が拳銃を持って来たのは?」
茶紀「テルが、何でそんなもの」
岩城「氷室とは、話したかな?」
   突然、両耳を塞ぐ茶紀。
茶紀「嫌だ、嫌だー!」
   と、叫び始める。
岩城「ど、どうしたの?」
茶紀「うるさい! もう何も聞かないで!」
   茶紀は過呼吸になる。
大竹「おい、大丈夫か!?」
   岩城がナースコールを押す。
   大竹は驚きながら、茶紀を見つめている。

○警察署・留置所・雑居房・中(朝)
   氷室が胡坐をかき、本を読んでいる。
   他にも拘留者が数名いる。
   雑居房の前に看守が来る。
看守「氷室昴」
   顔を上げる氷室。
看守「釈放だ」
   扉が開かれる。
   氷室は何食わぬ顔で立ち上がる。

○同・前の廊下(朝)
   氷室が雑居房から出て来る。
   看守に連れられ、雑居房が続く廊下を歩いていく。
   微笑む氷室。
   看守と共に歩いていく、氷室の後ろ姿。
氷室のN「まさか、こんなバッドエンドになるなんて。いや、ある意味、ハッピーエンドか 
 な?」

○オフィスビル・会議室・中
   スーツ姿の就活生5名が、並んで座っている。
   一番奥に、スーツ姿の氷室が座っている。前には面接官2名がいる。
面接官「では、次、氷室昴君」
氷室「はい」
   と言って、姿勢よく立ち上がる。
氷室「御社を志望した理由は」

○住宅街(夜)
   スーツ姿の氷室が歩いている。

○氷室家・外観(夜)
   大豪邸である。
   電気がついている。

○同・玄関前・外(夜)
   氷室が玄関まで歩いてくる。
   ドアを開け、中に入っていく。

○同・中(夜)
   氷室が入って来る。
   ネクタイを緩める。

○同・廊下(夜)
   廊下を歩く氷室。
   リビングのドアを開き、中に入っていく。

○同・リビング(夜)
   広いリビング。
   氷室がリビングに入って来る。
氷室「ただいまー」
   氷室はすぐに、驚愕する。
氷室「え?」
   氷室の父、母、妹の3人が、両手足を縛られて、座っている。
   口はガムテープで止められている。
   氷室は怯えながら、家族を見ている。
氷室「何だよ、これ」
   奥から茶紀が歩いて来る。
   包丁を手にしている。
茶紀「久しぶり」
氷室「茶紀さん?」
   茶紀は、氷室の家族の後ろに立つ。
氷室「まさか、全部、覚えてたのか?」
茶紀「当たり前でしょ」
   茶紀は氷室の妹の首元に、包丁の刃を当てる。
氷室「やめろ!」
   と、駆寄ろうとする。
茶紀「動かないで! 殺すよ?」
   怯え泣く、氷室の妹。
氷室「何で、こんなことに」
   と言って、膝から崩れ落ちる。
茶紀「もう一つのバッドエンドは、これからよ」

〈終〉

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