デュプリケイト・サンクス ドラマ

カウンセリングの依頼をされた患者は重い病を抱え、近々心臓手術を受ける予定の女の子だった。 いつものように僕は患者に寄り添い、いつものように仕事をこなす。 「先生。今そこから飛び降りようとしてた?」 彼女に自殺の現場を見られるまでは。 これは僕と彼女が抱えるナゾと秘密が暴かれて、ほんの少しだけ許される話だ。
えだ 63 0 0 06/10
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第一稿

デュプリケイト・サンクス

登場人物

僕   ある秘密を抱えている。医者
私   あるナゾを抱えている。病人
姉   ある病気を抱えていた。私の姉
●   ト書き
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デュプリケイト・サンクス

登場人物

僕   ある秘密を抱えている。医者
私   あるナゾを抱えている。病人
姉   ある病気を抱えていた。私の姉
●   ト書き


 du・pli・cate
【デュプリケイト】
 1:複製
 2:瓜二つの
 3:
 4:

●僕、病室の前にて部屋をノックする。

私 はぁい。
僕 失礼するよ。

●僕、扉を開ける。部屋は簡素だが本やラジオ、音楽、テレビなどの設備がある程度ある。
●私、手紙を書いている途中。

私 ん?あぁ、先生!こんにちは。
僕 やぁ、体の調子はどうだい?
私 うーん、特には。今日はいつもより調子がいいかも。
僕 それは良かった。
私 どうかしたの?わざわざ病室まで来てくれるなんて。カウンセリングのお仕事は?
僕 今は少し休憩中さ。訪ねたのは……ほら、単にお見舞いだよ。
私 あはは、まだ一度しか先生に診てもらってないのにお見舞いなんて嬉しいなぁ。
僕 大事な患者様だからね。……それは?何を書いているんだい?
私 ん、えー……これ?お手紙。
  えっと……退院しちゃった友達から手紙が届いたから返事を書いてるの(何かをごまかすように)
僕 ふーん。今時手紙か。珍しいね。
私 時間かけて考えながら書くのもいいものなんだよ?ま、みんな退院しちゃったから暇なだけなんだけどね。……あ。ねえ、先生。
僕 ん?
私 私、まだお礼言ってもらってないよ?
僕 お礼?なんの。
私 もう。とぼけるんだから。あれだよ、ほら。昨日引き留めてあげたじゃん。……自殺。

●室内が静まり返る。

僕 あー……木戸さん。木戸立花(きどりつか)さん。
私 堅苦しいなぁ、ドリーでいいよ。
僕 ドリー?
私 うん。ドリー。あだ名なの。かわいいでしょう。
僕 …………(どこか複雑そうな表情で)
私 どうかした?
僕 あぁ、いや……なぁドリー。昨日も言ったけど、それは勘違いだよ。
  僕は死のうとなんてしていない。これでも医者だ。自殺なんて真似は……
私 嘘だぁ、あんな思い詰めた表情で屋上の手摺から身を乗り出してさ。
  今にも飛び降りるんじゃないかって、思わず声かけちゃったけど。
僕 驚かせて悪かったよ。ただ、お礼なんて言わないよ。本当に僕は自殺なんてするつもりはなかったんだ。
  逆にさ、ドリー?僕だってお礼を言われたっていい立場なはずだよ?
私 はぁ?どういうこと……
僕 ほら、あの屋上、普段は鍵がかかっていて立ち入り禁止だ。けどなぜだか君はそこにいた。
  そして僕と話をしている最中にやってきた田島婦長にハチャメチャに怒られそうに
  なったところを庇ってあげたのは誰だい?僕だ。
私 う。いや、確かに婦長はめちゃくちゃ怖かったけど、
  でもそれは先生が屋上にいなければ起こらなかった話であって……そもそも私は散歩してただけだし。
僕 散歩?
私 ……もうすぐ手術があるから。私の病気、知ってるでしょ?体力作り!だから私は悪くない!
僕 結局は堂々巡りだよ。君の指摘は事実じゃないから僕は謝らない。
  君も自分の非ではないから僕には謝らない。ここらで納めるのが良くないかい?
私 なんか腑に落ちない。……ありがとうぐらい素直に言ったらいいのに。
僕 そっちこそ。
私 絶対に嫌。
僕 ならこの話は終わり。ほら、手止まってるよ?手紙、いいのかい?
私 はぁ……今日はもういい。書くこと思いつかないし(手紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に投げる。
私 はぁー、残念。弱みに付け込んで色々とお願いきいてもらおうと思ったのに。
僕 おいおい、最後にとんでもない患者に捕まったもんだよ。
私 ……最後?
僕 いや……なんでもない。というか、そもそも僕は君の担当医なんだからそんな回りくどい事しなくても、
  相談事があるなら普通に言っていいんだよ?
私 …………
僕 何か悩みがあって僕のところに来たんだろ?紹介状までもらってさ。
私 ……手伝って欲しいの。
僕 手伝う?何を…?
私 仲直り。仲直りを、手伝って欲しいの。
僕 ……それは誰との(ノックの音に遮られる

●ノックの音。

姉 りっちゃん、ごめんね遅くなって。…あれ、お客さん?
僕 あぁ、えっと……こんにちは。失礼してます。
私 何しに来たの、お姉ちゃん(声色が少し冷たくなる。警戒している風に。姉に対しては終始反抗期っぽい態度)
姉 やだ、お見舞いに来たのよ。わかってるでしょ。えっと……

●姉が戸惑いながら僕を見つめる

私 この人はカウンセリングの先生……紹介してもらったの。
姉 あ……失礼しました。いつもりっちゃんがお世話になってます
僕 ……はは、どうも
姉 あら、じゃあもしかして今カウンセリングの途中だった?ごめんなさい邪魔だったら
僕 あぁ、いえいえ。僕は今休憩中だったので……いや、それにしても

●僕が私と姉を比べるように見る

姉 何か?
僕 いえ、似てらっしゃるなぁと思って
私 ……
姉 あはは、姉妹ですから。ほら、りっちゃん。これ頼まれてた本。
私 ありがとう。
僕 ……

●姉が私の手元に本を置き、てきぱきと動く(花瓶の位置を変えたりカーテンを開け換気したり。おせっかいっぽい動き)

姉 でも良かったぁ。りっちゃん、カウンセリング受けてくれたんだね。
  大変な病気なのに1人で抱え込んでるんじゃないかなってお父さんもお母さんも心配してたんだから。
私 ふぅん
姉 またそんなそっけない返事して。私だって心配してて(さえぎられる)
私 わかってるようるさいなぁ
姉 ……はやく病気も治って退院できるといいね。大丈夫だよ、お姉ちゃんだって治ったんだから。
  先生、りっちゃんのこと、よろしくおねがいしますね
私 …………
僕 あー、ドリー?お姉さんも来られてるし、僕はそろそろ仕事に戻るよ。
  また話したいことがあったら診療室に(姉の表情が固まる)

●ドリーと聞いた瞬間、姉の雰囲気が変わる

姉 …ドリー?って
僕 え?あぁ…あだ名だとお聞きして
姉 りつかッ…!!そんな風に自分の事を呼ぶのはやめてって言ったじゃない!!なんであなたはまだっ…

●私、姉とは目を合わせない。淡々という

私 なんでって?なにかおかしいの?ただのあだ名じゃん
姉 おかしいよ!だってあなたは私の代わりなんかじゃ……
僕 あ、あの!すいません落ち着いて!!どうしたんですかいったい!!
姉 りつかっ!
私 お姉ちゃん。本、ありがとう。でも今日は帰って。具合が悪いの。
姉 ……りっちゃん。でも、
私 帰って。
姉 すいません、先生。失礼します…

●姉、退場。気まずい空気が流れる。りつかは少し落ち込み気味。

僕 あー、あのさ。
私 ごめんね、空気悪くしちゃって。気まずいでしょ?よく知らない患者の姉妹ゲンカ見せられちゃったらさ。
僕 ……お姉さんとは仲が悪いのかい?
私 さぁ、どうなんだろう……やだな、そんな顔しないで?深い意味なんてないから
  ……うちは少し複雑なの。誰だって特別な事情ってあるでしょ?
僕 特別な事情……か。
私 先生だって。
僕 僕がなんだって?
私 先生。私ね。もう何年も入院してるの。自殺する人も、死期が近い人もたくさん見てきた。
  ……見間違えるわけないじゃん。
僕 見間違えだよ。自殺するつもりなんてなかった。
私 自殺したいと思ってたんじゃなくて?
僕 …………
私 蒸し返してごめんなさい、別の話しよっか。
僕 ……さっき、仲直りしたいって言ってたのは、お姉さんかい?
私 いい人なんだよ。本当に、いい人。毎日お見舞いに来てくれるし、本だって持ってきてくれる。けどね……
僕 けど…?
私 (口ごもる

●僕が姉のおいていった本のタイトルを見る。話題を変えるように本の話をする

僕 難しそうな本ばかりだ。倫理学、論理、法律基礎……可愛げがないね。
私 田島婦長にもよく言われる。もっと面白い本貸してあげるよって。でも……考えたい事があったの。その為に読もうと思って。
僕 考えたいことって?
私 ん、少し前に、初めて誕生した人間のクローンが自殺したってニュースあったの知ってる?
僕 あぁ……知ってるよ、イギリスだったかな、飛び降りたんだろ?日本じゃまだ報道してるね。
私 クローンってさ。SF映画にあるようなカプセルで育つんじゃなくて、造った命を人間が産んで普通に育つんだって。
  なんていうか、案外そんなアナログなもんなんだなぁって思ったの
僕 ……生体クローンの技術自体は1990年代に確立しているよ。実は目新しいものでもないんだ。
私 ふうん。そうなんだ。その頃には造ろうと思えば人間なんて造れちゃったんだね
僕 はじめての成功例は羊だったかな。世界で始めて誕生した複製ひつじ……名前、知ってるかい?
私 ……なんだ、先生。意外だな。結構そういうの詳しいんだ。
僕 名前は、ドリー。
私 あはは、私、羊と同じ名前かぁ。
僕 君とお姉さんは、よく似ていたね。なんというか、雰囲気や、顔が。
私 姉妹だもの。やだ、もしかして変な想像してる?ないよ、ないない。漫画じゃないんだから。
僕 わかってるよ、人間のクローンは例外的に降りる認可以外、基本的にはガチガチの違法行為なんだから。
私 例外……なんだっけ?

●僕、本を手に取り

僕 その1、医療研究の場合に限る。2、生体クローンである必要性があり、
  その研究によって人類史の発展が大いに見込めること。3、世界的に見ても稀な症例を持っていること。要約するとこんな感じ
私 ふうん。それってつまりその例外に限り倫理や人権を踏みにじる事を許可しますって事でしょ?
  ひどい話だよね。私にはこの本に書かれてる法律が命を冒涜する為の長い言い訳にしか聞こえないよ。
僕 それは…
私 それにさ、死んだんだよね。その例外で生み出されたクローン人間。
僕 ……そうだね。
私 正直、そんな例外知ったこっちゃないよね。どんな気分だったんだろう。
  そうやって、本来与えられるはず愛情が欠けて生まれてくるのって。
僕 ごめん、そろそろ仕事に戻らないと。
私 ……そうだね。ごめんね、先生。時間取らせちゃって。
僕 いや、また来るよ。その時に君のお願いの話をしよう。
私 うん。…そうだね。

●僕退室。(僕と私が同時に深いため息を吐く)

私 ……はぁ
僕 ……はぁ

場面転換・翌日

僕 失礼しましたぁ……ふう。

●僕、部屋(献血室)から出てくる。呼ばれるのを待つ姉とばったり顔を合わせる。

姉 あ。
僕 あぁ……昨日は、その
姉 すいません。初対面の方に恥ずかしいところをお見せして。
僕 いえ……今日もド…りつかさんのお見舞いですか?
姉 今日は……いえ、少し顔を合わせ辛くて……あの後私のことは何か言ってました?
僕 いえ、特には……
姉 そうですか……(ため息)
僕 ……あまり、仲は良くないんですか?
姉 そんなことないとは思うんです、けど……一般的に見たらそう見えるかもしれないですね。
  あの子は入院してからずいぶん経つし、私は先に退院しちゃったから、それからどうもぎくしゃくしちゃって。
僕 え、入院されてたんですか?お姉さんも?……同じ病気で?
姉 いいえ。私は全く別の……先生、あの子、カウンセリングでどんなこと言ってました?
僕 すいません。ご家族といえどプライベートなことなので……
姉 そうですよね……あの、もしあの子が悩みや相談事をしたときは、できる限り聞いてあげてほしいんです。
僕 相談事……
姉 先生は、あの子の心臓の事は、知ってるんですよね?
僕 ……ええ。
姉 治る可能性が薄いことも、手術中の死亡率が高いことも。
僕 ……はい。知ってます。
姉 術日はもうすぐなんです。けど……私はあの子になにもしてあげられない。家族なのに…
僕 ……
姉 先生、お願いです。りっちゃんと仲良くしてあげてください……あの子の周り、もう誰もいないんです。
  入院中に仲良くなれた子はみんな……亡くなってしまって。
僕 え……友達はみんな退院したって……昨日は手紙も書いていて……

●姉、その言葉を聞いて顔を覆う。
●先生、遺書だと察する。電話が鳴りだし姉の前から去る

僕 失礼します……ええ、はい。はい。僕は……大丈夫です。はい、しかしご迷惑をかけるわけには……
  はい、わかりました。その時は……責任を取ってこの病院から……はい。恩を仇で返すことになってすいません。
  ありがとうございます。理事長。
  
● 電話を終える。何かを考えこむ様に

僕 ……そうか。あの手紙は、遺書か。
  

●場面転換僕、私の病室の前。ノックする。返事の後、無言で入る。私はまた手紙を書いている。

私 はーい……先生?また来たんだ。
僕 屋上にいるとクレームが入るからね。緊急避難さ。
私 あはは、新しいサボり場って感じ?
僕 一応往診って形で……あぁ、ごめん、今日は少し体調が悪そうだね。
私 ん。うん……ちょっと、検査の数値が悪くて……薬が増えたの。もうすぐ手術なのにね。
僕 出直すよ。悪かったね、急に
私 いいよ、どうせ暇だし。ね、少しだけ相手してよ
僕 あぁ……手紙は進んだかい?
私 ん……ぼちぼち。

●私が進んでいない手紙を折りたたみしまい込む。

僕 あぁ、そういえばお姉さんと会ったよ。さっきそこでばったり。
私 ふーん。今日も来てたんだ……あ、わかった。献血室の前で会ったでしょ?
僕 ん。よくわかったね。
私 お姉ちゃん、退院してからも定期的に献血にいってるから。昔ね……あー、言っていいか。完治してるし。
  昔ね、白血病で入院してたの。ほら、あれって治療には輸血が必要でしょ?
  けど珍しい血液型だったからその時苦労したのがトラウマらしくて。それ以来欠かさず。
僕 へぇ。稀血(まれけつ)ってやつか。
私 まれけつ?
僕 珍しい血液型の事。白血病に稀血だなんて組み合わせとしては最悪なレベルだよ。よく完治まで持っていけたね。
私 ……一度は化学治療で治ったみたいなんだけど、それも再発しちゃったの。最終的な完治の決め手は骨髄移植だったから。
僕 へぇ、それは……
私 その時再発なんてしてなければ、私は……
僕 私は、なんだい?
私 ……なんでもない。

私 そうだ、先生。ニュース見た?イギリスで自殺したクローンのニュース。続報入ってたね。
僕 ……あぁ、見たよ。驚いたね……日本人だったんだろ?
私 一気にマスコミに熱が入ったよね。ワイドショーなんて凄いんだよ。
  命を踏みにじった悪魔の所業、だなんて。まるで犯罪みたいな見出しになってるの。怖いよね。
僕 マスコミからしたら犯罪者とそう変わらないんだろうさ……いいネタだよ。
私 先生はどう思う?人を作ること。なにかの目的の為だけに命を生み出す行為は、許されないと思う?
僕 ……造った命に対して責任を持たないなら、それはきっと……許されないんじゃないかな。
私 なら、産んだ命に対して責任さえ持てば、間違ってないの?そこに愛がなくても。
僕 ……
私 ごめんなさい。難しいね。
僕 ……クローン問題に対して感心があるのかい?
私 どうだろう。たしかに気になるけど。私が関心があるのは……命の在り方のほうかもしれない。
  ほら私、次の手術で死んじゃうかもしれないから。
僕 手術が難しい事は聞いているよ。けど生きる事を諦めると
私 やめて。いいのそういうのは、別にいいの。もちろん。死ぬのは怖いよ?けどね、先生……私が1番こわいのは

●ノックの音。姉が入ってくる。

姉 あ、先生……こんにちわ。さっきは…
僕 どうも。
姉 りっちゃん、調子は……

●私の声が冷たくなる。

私 ……何か用?
姉 ううん。検査の結果、どうだったかなって。
私 そんなの……パパかママに聞いたらわかるじゃない!わざわざ聞きに来ないでよ!
姉 ごめんなさい……お父さんもお母さんも……最近は忙しくてあまり話す時間が。
私 ……っ!!
姉 ごめんね。りっちゃん、その、体調が悪いなら帰るから。あ、何か読みたい本とかある?明日また来るけど…
私 そんなのいいから!!

●姉、立ち去ろうとする。先生は気まずそうに。

私 お姉ちゃんは……いいよね。
姉 え?
私 病気も完治して退院できてさぁ。いいよ無理して毎日お見舞いなんて来なくても。
  せっかく治ったんだから私なんて放って遊んでおけばいいじゃない。
姉 何言ってるの、りっちゃん……
私 何って?だってそうでしょ?パパもママもお姉ちゃんが治れば私なんて用済みでしょ?いてもいなくてもどっちだって……
姉 そんなわけないじゃない!私がどれだけっ!

●姉、りつかに詰め寄る。先生が抑える。

僕 ちょ、ちょちょ、落ち着いて!
姉 そんなわけないでしょ……家族なのに……

僕 とにかく。落ち着いてください。ほら、一歩下がって!
  リツカも……少し休もう?検査の結果が悪かったから気が立ってるのは……
私 そんなのじゃない……そんなんじゃないの……!何が家族よ……望んで産んだ訳でもないのに……!
僕 え?
姉 りっちゃん……違うよ。
私 違わない!言えばいいじゃん!!私はお姉ちゃんのドナーとして生まれてきたって!
  白血病が再発した時を見越して骨髄移植をする為に生まれてきた妹だって!!
僕 ……(驚いてるアクション
姉 違う…違うの。
私 何が?骨髄の適応率は親姉妹で1/4。パパやママにしたら賭けみたいなものだったんだろうけど、
  数万分の1のドナーを待つより可能性はあるよね。かわいい娘の為だもん。もう1人子供を作るぐらい訳ないよ。
  嬉しかっただろうね。1人目の骨髄がぴったりあって。1人だけで済んで!!
姉 もうやめてぇ!!!
私 ……っ!

●姉が崩れ落ちる。私が苛立つように病室を出て行くのを僕が追いかける。

私 追いかけて来ないでよ。
僕 僕の患者は君だよ。……姉妹ドナーだったんだね。
私 つまらない話でしょ?ドナーとして生まれた木戸立花は遺伝子に欠陥を抱えていたの。
  心臓病っていう短命の欠陥をね。まるで人間に造られてすぐに死んだクローン羊のドリーみたい。ほんと、笑っちゃう。
僕 ドリーって呼ぶのは……当てつけかい。
私 下らない?産んでくれた家族に対して嫌味を撒き散らしてる子供だって、笑う?
僕 ……笑わないよ
私 なんで?笑ってよ。笑ってくれないと……これがただの癇癪なんて私が1番わかってるんだから。
  先生、私は……もう手術だって近いのに。もうすぐ死んじゃうかもしれないのに……
  ダメなの。お姉ちゃんの目を見て話が出来ないの。なんで私がって、なんでお姉ちゃんは助かったのに……
  私のお陰で助かったのに私はこんな辛い目にって!そればっかり考えちゃって。まともに、会話も……
僕 お姉さんの事は、嫌いなのかい?
私 嫌いなんかじゃない。嫌いなんかじゃ……けど、ダメなの!
  なんで、なんで、わたしだけ取り残されなきゃいけないの……?
  これじゃまるでお姉ちゃんの為に生まれてきただけみたいじゃない。
  先生、私は……何の為に生まれて来たの?
僕 ……
私 ごめんなさい。困るよね。こんな事聞かれても。
僕 ……
私 ……こんなの嫌だよ。私、こんな気持ちで死にたくない……
  自分の心なのに、どうすればいいかわからないの……たすけて。

●電話が鳴る。

私 ……ごめんなさい。さっきのは忘れて(逃げるように目の前から去る)

●電話を取る。

僕 はい……そうですか。はい……責任はとります。すぐにでも。ただ、1つお願いがあるんです。
  今、受け持っている患者だけは……ええ、はい。その患者を見届けてから、僕は……

●電話を切る。

僕 望まれない命、か……

●場面転換・献血室の前で姉と会う。

僕 ……こんにちわ。
姉 先生……先日はお見苦しい所を、すいません。
僕 いえ……

●気まずい雰囲気。

僕 あー、そういえば……木戸さんは稀血だとか。珍しい血液型なんですか?
姉 あぁ、りっちゃんから聞いたんですか?……昔はそうでしたけど、今はただのA型ですよ。
  骨髄移植すると血液型がドナーの型に変わるんです。だから、今はリツカと同じA型。
僕 ……そうでしたね。勉強不足でお恥ずかしい。
姉 いえ……幼い頃、事故に遭ってこの病院に運び込まれたんです。
  輸血が必要ってなったその時に珍しい血液型って事が発覚して……あの時は大変だったなぁ。
  私、日本でも500人くらいしかいない血液型だったらしくて。
僕 500。それは……なんというか……大変だったでしょう。
姉 本当に。事故の時は奇跡的に輸血できる血液が病院にあったらしくて……
  でも、血液検査の最中に白血病だって判明したんです。そこからは……地獄でしたね。
  あの子が生まれていなければ今頃、私は……
僕 リツカさんは……その。姉妹ドナーとして?
姉 両親は……そんな希望も兼ねていたみたいですね。私は……いえ。私も、可能性があるならって心の中では思ってました。
  だって……毎日の化学治療も、投薬も。輸血も。痛みも。死ぬ事の恐怖も……耐えきれなかったから。
僕 ……あの子はその事を、
姉 もちろん、私もリツカも両親から変わりのない愛情をもらって育ったと思ってます。
  ほんと、仲良かったんですよ。毎日お見舞いに来てくれて……けど、心臓病が発覚してからは……
僕 ……
姉 妹が出来るって聞いた時、嬉しかったんです。新しい命が生まれてくる事に、家族が出来ることに。
  もし私が死んでも、妹っていう私がいた証が生きてくれる事に……なのに。
  ……りっちゃんは、きっと私を許してくれないんでしょうね。
  あの子のお陰で助かったのに私はのうのうと生きていてるんだから
  私さえいなければ……苦しい思いせずに済んだのにって
僕 それは、違いますよ。
姉 ……気休めなら
僕 もし、もし僕があなたと同じ立場だったとしたら……おそらくリツカさんの言葉にも、気持ちにも。何も返さないと思います。
姉 ……え?
僕 なぜなら。僕が同じ状況になった時、どんな可能性であっても、自分が助かるための存在を求めるからです。
  例えそれが血を分けた存在であっても、愛情は二の次でしょう。
姉 そんな……
僕 けどあなたは違う。僕とは……ちがう。なら言うべきだ。リツカ、君は羊のドリーではなく木戸リツカなのだと。
姉 そんなこと、何度も言いました。
僕 なら、わかるまで伝えればいい。そうするしか分かり合える道がないのなら。
  あなたたちは言葉を交わせる距離にいるのだから。
姉 ……

●場面転換

僕 やぁ。
私 先生……昨日はごめんなさい。あ、ニュース見た?あのさ、
僕 リツカ。
私 ……
僕 今日は……少し話をしようか。
私 ……話って?

僕 リツカ、人を許す事って、どういう事だと思う?
私 え?え……と。自分が実害を受けた事に対して許容する事、とか……?
僕 正解だよ。君が昨日持っていた本にも書いている事だ。……じゃあ、人に許されない事ってどういう事だと思う?
私 許されない事……人を殺したり、
僕 それは酷い事だよ。……けど違う。
  人に許されない事。それは相互関係に置いて許す人間が存在しない事を指すんだ。
  行為を許容出来る人がいないなら、その人は永遠に許される事が出来ない。

私 先生、ごめんなさい。話の内容が、

僕 君は、誰を許せないんだい?
私 え?
僕 リツカ、君の感じている思いや感情はわからない。僕は明確な目的の為に生まれた人間じゃないからだ。
  立ってる側が違う僕には、君の気持ちは永遠にわからない。
私 ……
僕 だから教えてほしい。どうしてそんなに苛立っているんだい?なにが嫌で、誰を許せない?
私 誰をって……私は
僕 白血病になったお姉さん?
私 ちがう
僕 ドナーとして君を産んだご両親?
私 違う
僕 君は…産まれた事を後悔してるのかい?
私 ……違う。そんな訳ない。
僕 なら、
私 私は……私は……許せない。自分を許せないの。誰も悪くないのに、お姉ちゃんは頑張ったのに。
  それを妬んで……八つ当たりした自分に。

僕 ……

私 だって、死んじゃうんだよ!?私、もっとしたい事沢山ある。あるのに!なのに……
  辛い事の方が多かったけど、楽しい事だって沢山あった。けど、ダメなの。割り切れないの!
  私のおかげでお姉ちゃんは病気が治ったのになんで私は。ってそんな事ばかり考えちゃう。ずっと、ずっと!
  こんな自分が許せなくて、情けなくて。死んじゃってもしょうがないやって……最低だよね、私。

僕 ……リツカ。君は、許されない事をしたのかい?
  君は、世界中の誰からも許されない人間かい?……僕はそうは思わない。
私 でも、私は……私を、
僕 君は許されない人間じゃない、ただ、自分を許そうとしていないだけだよ。
  なぁ、言ってごらん。君はお姉さんと仲直りして、何を伝えたいんだい。
私 私、は……最後にお礼を言いたい。私を産んでくれた人達に。愛してくれた人達に。
  そこにどんな意思があったとしても私が生まれるきっかけをくれた人達に、ありがとうって。
  その為に、仲直りしたい。こんな私を許してほしい。……ごめんなさいって、謝りたい。
僕 なら、君はまず自分自身を許してあげないと。そうしないと、謝る事も出来ないよ。
  覚えておくといい。誰かを許す事は、誰かに許される事と同じなんだ。
私 自分を許す……そしたら、お姉ちゃんに謝れるかな。ありがとう。って、言えるかな。
僕 言えるよ。大丈夫。……もう、遺書なんて必要ないだろ?
私 なんだ、ばれてたんだ……ねぇ、どうしてこんな話してくれたの?
僕 君がお願いしてきたんだろ?お姉さんと仲直りしたいって。
私 そうだけど……急に優しくなったから。普通避けるでしょ?こんな面倒な患者。
僕 まぁ、そうだね。
私 ちょっと!
僕 冗談。……まぁ、これは昔の話なんだけどね。僕も子供の頃ここに入院していたことがあるんだ。
私 そうなの?。
僕 婦長とはその頃からの付き合いでさ……頭が上がらないんだよ。
  難しい病気だった。余命宣告までされて……随分荒れてたよ。
  君みたいに誰かに当たり散らかした事もあった。だから、昔の自分と少し重ねてしまってね。
私 そうなんだ……
僕 あと……実はね、病院を辞めることになったんだ。
私 え?
僕 本当は今月いっぱいの予定だったんだけど、早まってね……
  今日明日くらいには、病院、というか日本からも出て行かないと行けなくなった。
私 そんな!どうして……
僕 ミスをしてね。それも結構大きな。高飛びみたいなものだよ。さっきの話じゃないけど……色々許してもらえないさ。
私 だから、私が最後の患者だって…
僕 そういう事。
私 ……じゃあ、私の手術の結果がわかる前に先生は出て行っちゃうんだね。
  会うのは、これで最後かもしれないんだ。
僕 ……ごめん、今何を言っても、君にとっては気休めにもならないね。
私 ううん。大丈夫。ねえ、先生も私と同じだったんだよね……先生は、自分を許せたの?
僕 ……いや。許されなかった。
私 え?
僕 僕は、許されなかったんだ。
私 ……それって

●ノックの音。

僕 ほら、お姉さんがきたよ。
私 え、え?…よ、呼んでたの!?
僕 じゃあ後は
私 あ、待って……た、立ち会って欲しい。
僕 ……わかった。頑張っておいで。

●姉が入ってくる

姉 あの、りっちゃん……
僕 ほら。
私 お姉ちゃん、あの……昨日の、本。ありがとう。
姉 うん。
私 それで、あの……ごめんなさい。
姉 ……何が?
私 私……お姉ちゃんにひどいことばかりして、ひどい態度ばかり取って、
  お姉ちゃんは何も悪くないのに。お姉ちゃんは、すごく頑張ったのに。
姉 ……
私 私、怖くて……お姉ちゃんは助かったのになんで自分は死んじゃうんだろうって。
  治ったのは私のおかげなのにって。そう思ったら、お姉ちゃんの目が見れなくて……私、
  お姉ちゃんが元気になって、あんなにうれしかったはずなのに。……ひどいよね
姉 いいの。
私 ごめんなさい。私、死にたくなくて、怖くて、お姉ちゃんに八つ当たりして、最低な事を
姉 いいってば。私こそごめんね。私のせいでたくさんたくさんつらい思いさせて、ごめんね。
私 そんなことない……そんなこと。ドリーなんて名前だって私、あんな嫌味な。
姉 ホントに、ホントだよぉ……りっちゃんは私の、妹で……!代わりなんていなくて、1人だけで……!
  羊なんかじゃなないんだから!だからあんな、あんな悲しいこともう言わないで……!
私 ごめんなさい……ごめんなさい。お姉ちゃん、私……ぅ、
姉 りっちゃん……?
私 うぅ……(苦しそうにうずくまる)
姉 りっちゃん!?どうしたの!!ねぇ
僕 もしもし!西棟6階の木戸さんの容態が急変した。人呼んで、早く!!
  リツカ……!大丈夫かい!?リツカ!!

●場面転換。病室には僕と私の二人だけ。私がゆっくりと起き上がる。

僕 リツカ。大丈夫かい。
私 先生……私。
僕 起き上がらないで、寝たままでいいよ。
私 私……死ぬの?
僕 ……もうすぐ手術が始まる。昨日の検査結果が悪かったのは、予兆だったみたいだ。
私 ……そっか、早まっちゃったんだ。なら、やっぱり死ぬのかな。
僕 リツカ。
私 いいの。これで、もう大丈夫。思い残す事は、山ほどあるけど。
  お姉ちゃんと仲直りできた。それだけで……
僕 ……
私 先生。一つだけ答えて欲しい事があるの。
僕 なんだい?
私 先生は、誰に許されないの?
僕 ……
私 だから、死のうとしてたの?あの日、屋上で。
僕 その話は……
私 蒸し返してごめんなさい。けど、やっぱり私には誤魔化してる様にしか見えなかったの。
  だって、先生はずっとどこか私と似た顔をしていた。今だって何かに苦しんでいる。
僕 ……気のせいさ。
私 先生、もし話して楽になるような秘密なら、私じゃダメ?最後に、相談のらせてよ。
僕 ……つまらない話だよ。
私 いいから。

●重い沈黙。僕が目をそらし。ぽつぽつと話を始める。

僕 入院していた。って、言っただろう?
私 うん。
僕 血液の病気だったんだ。ただ進行がおそくて、どんな人でも長期的な治療をして経過さえ良ければ完治する病気だった。
  ただ、僕だけは例外でね、治療に必要なあるモノがどうしても用意出来なかったんだ。
私 あるものって……?
僕 輸血用の血液。僕もね、稀血なんだよ。
私 稀血……お姉ちゃんと、同じ?けど用意できないぐらい珍しい血液型なんて……
僕 あるんだ。O型のRH null(アールエイチヌル)って特殊な型が。
  これ、万能血液って呼ばれていてね。どんな型に対しても輸血が可能な珍しい血液型なんだ。
私 なに、それ。
僕 漫画みたいだろ?でも医療の現場じゃ凄い価値でさ。僕の輸血パック1つで同じ量の金が買えるぐらい。
  けど、誰に対しても輸血できるって事は、裏を返せば必ず同じ血液型でしか輸血を受けられないって事なんだよ。
  当時、血液センターが管理している限りでは僕と同じ血液型の人間は世界に一人もいなかった。
私 世界に一人も……?日本じゃなくて……?でも、でも先生は生きてる……助かったんでしょ?
  お姉ちゃんみたいに、奇跡的に輸血できる血液が見つかったんでしょ…?
僕 あぁ……見つからなかった。誰1人。
私 なら、どうやって……

●僕、意を決するように話を切り出す。

僕 ……ニュースは、見たかい?
私 ニュース……イギリスで自殺した日本人のクローンの?えっと、今日はテレビを見てなくて……
僕 僕なんだ。
私 ……え?
僕 あれは、僕のクローンなんだよ。
私 ちょっと……ちょっと待って、意味が、
僕 余命を宣告された頃、血液センターからWHO(世界保健機関)へ、
  さらにWHOから要請を受けたイギリスの研究機関から連絡がきた。
  僕の血を研究する事で見込める医療史の発展と、現状の僕の境遇を鑑みれば
  国際医療法を適応して医療クローンを作ることが可能だと。
私 まさか……造ったの?
僕 2つ返事で首を縦に振ったよ。生まれてくる命の事も、それがどれだけ許されない事なのかも、考えなかった。
  死にたくなかったんだ。生きたかった!……ただそれだけだった。……最低だろ?
私 そんな……
僕 そして僕はクローンの血液をもらって、あとは報道の通りだよ。もう少ししたらマスコミがここに押し寄せてくる。
  倫理を踏みにじった僕を叩くためにね。でもなにも間違っていない。……死んだんだ。
  会ったこともない僕のクローンは自分で死を選んだ。それが彼の答えで、僕の選択の結末だよ。
  生きたいってエゴが人間を1人生みだして、殺したんだ。
私 ……
僕 最後は飛び降りだったらしいよ。……どんな気分だったんだろうね。どれだけ考えてもわからなかったよ。
私 ……だから、屋上にいたの?だから、先生も死のうとしたの?
僕 なぁ、リツカ。君なら許せるかい?自分のエゴのために生み出した僕を、同じ立場だったら。
私 ……私、なら……そんなのわからない。けど、
僕 そう。けど僕のクローンは許さなかった。僕が生きる選択をした事を許せる人間は、もうどこにもいないんだよ。永遠に許されないんだ。
私 ………
僕 僕の選択は間違っていたんだろうな。あの時、何もかもを受け入れて死んでいればよかったんだって、そんなことばかり考えてしまう。
  そしたら、こんな生きているだけで苦しい人生を送ることはなかったのに。
私 そんなこと……そんなことないよ、先生。
僕 君とお姉さんの関係を知ったとき本当は自分と、自分が生み出したクローンの関係を重ねたんだ。
  これが贖罪になるだなんて思ってないけど、君とお姉さんの関係を繋ぐことでほんの少し心を軽くしたかった。
僕 ……ほら、もうお休みリツカ。もうすぐお姉さんが来るよ。
私 待って、先生……待って。
僕 ……僕の最後の患者が君でよかった。
私 ……先生。

場面転換。再び目覚める私

私 ん……
姉 りっちゃん?よかった……具合、大丈夫?
私 お姉ちゃん……?
姉 うん。大丈夫。ここにいるよ。
私 私ね、間違ってるとは思わない。死にたくないのなんて、誰だってきっとそう。
姉 りっちゃん?
私 でもね。私の言葉は……先生にとっては、私は赤の他人なんだもん。どうやっても、届かないの。
姉 うん。
私 私、先生になんて言えばよかったのかな。
姉 りっちゃん、休もう?もう手術がはじまるから……
私 やだ……
姉 リツカ……
私 いやだよ……私、死にたくない。怖いよ。
姉 大丈夫よ。大丈夫。1人じゃないから。私は、ずっとそばにいるから。
私 お姉ちゃん……
姉 ありがとうりっちゃん。生まれてきてくれて。りっちゃんのおかげで、私は生きてここにいるんだよ。
私 私の……おかげで……なら、私は誰の……

● 私、何かに気付く。

姉 りっちゃん、そろそろ……
私 まってお姉ちゃん。最後に……婦長さんと話がしたいの。
姉 え?どうして……
私 お願い。呼んできて……
姉 う、うん……

●姉が出ていく。私が辛そうにしながらゆっくりと起き上がり、紙とペンを取り出す。。
●場面転換。荷物を持ち出ていこうとする僕、姉が僕を追いかけてくる

姉 先生!……こちらにいたんですね。
僕 いいんですか、こんな所にいて。今も手術中でしょう?
姉 ええ、すぐに戻ります。あなたにこれを渡したら。
僕 ……これは?
姉 あの子は……遺書だと。
僕 ……僕に?
姉 はい。先生に宛てた。あの子の最後の言葉です。

●僕、受け取るのを躊躇う。

姉 もし、助からなかったら渡して欲しいと頼まれました。
  けど、ごめんなさい。書くのは私も手伝ったから、先生には今……
  あの子が頑張っているこの瞬間……今、読んで欲しいんです。
僕 ……どうして、僕なんかに。

●僕、受け取る。
●姉、出て行く。僕がゆっくりと封筒を開け、手紙を読み出す。

僕 先生、これを読んでいるころには……えっ

●静かに読む。ところどころ驚きの声が漏れる。読み終え、堪えきれないように荷物を置いて走り出す。
●静かに私の独白が始まる。演出はお任せ。


私 先生、これを読んでるなら……手術は失敗して、私はこの世にはいないと思います。
  だから、手紙を書きます。あはは、お姉ちゃんに書いてたこの遺書を、
  先生に宛てることになるなんて思わなかったな。
  
  ……最後、まともに話もできなくてごめんなさい。
  先生の抱えていた秘密は本当にびっくりしました。
  重くて、つらくて、悲しくて、想像もできなくて、
  まるで私と正反対の場所に立っている先生になんて言葉をかけていいのかわからなかった。

  先生の心を救える言葉を持っている人はこの世界にいないのかもしれない。そう思いました。
  ぐちゃぐちゃになっていた私の心をほどいてくれた様な言葉を、私は先生にかける事は出来ません。ごめんなさい。

  けどね、たったひとつだけありました。本当は直接伝えたかったんだけど、
  他の人が先生にかける事が出来ない言葉がたったひとつだけ、私にはあったの。

  ありがとう。
  
  先生、ありがとう。これは、お姉ちゃんとの仲を取り持ってくれたことじゃないよ。
  ……元々ね、私は産まれてくるはずじゃなかったの。
  だって本当ならお姉ちゃんは助からないはずだったから。
  
  白血病だってことがわかる前に、事故で死んでいたはずだったから。
  
  運び込まれたとき、お姉ちゃんに治療の手立てはなかった。一刻を争う中で、
  日本にたったの500人しかいない稀血だったお姉ちゃんに輸血できる血液を確保している病院なんてなかったの。

  先生がいる、この病院以外には。

  婦長さんが覚えていたよ。お姉ちゃんの輸血に使われたのはね、先生の血液なの。
  だから、もし先生がいなかったらお姉ちゃんは事故で助からなかった。
  助からなかったら、お姉ちゃんの妹として私は生まれてくる事はなかった。だから、だからね。
 
  ありがとう、先生。
  
  お姉ちゃんを救ってくれて。
  
  ありがとう、先生。

  私がこの世に生まれるきっかけを与えてくれて。

  ありがとう、先生。
  
  生きる事を選んでくれて。

  先生は、たしかに許されない事をしたのかもしれない。
  もし先生が造った命と私が同じ立場に立ったら、許せないかもしれない。
  
  でも、私は……私だけは、許すよ。
  
  先生が生きる選択をしたおかげで、私は生きてここにいたんだから。
  それを、どうか忘れないでください。
  私は生まれてきてよかった。幸せだった。最後に、先生に会えてよかった。

  だから、ありがとう。

  さようなら。
  

●暗転、場面転換。僕、走って手術室前へ。姉が項垂れている。

僕 はぁっ…はぁっ……
姉 先生……
僕 リツカは……手術は……
姉 (姉がゆっくり首を振る)
僕 そんな……
姉 先生、ありがとうございました。全部、リツカから聞きました。
  先生の事、血液型の事も。何から何まで、本当に…
  ……あの子、最後にたくさんありがとうって言ってくれたんです。それだけで、私は……
僕 ……リツカ。僕は、間違ってなかったのかな……あれだけぐちゃぐちゃだった心が、たった一言で僕はさ……
  なぁ、リツカ。君に言いたい言葉があるんだ。今になって……こんなにたくさん……!
  リツカ……あ、あぁぁぁ!!
  

●暗転。ナレーションが始まる。白衣はもう着ておらずどこかに向かいながら歩く僕。


僕 結局、僕は日本をそのまま去ることになった。
  法的な問題はクリアされていたとはいえ、医療関係者が自分のクローンを生み出した事に対して
  マスコミや宗教、人権団体からのバッシングは想像以上に激しく、世論は徐々に否定的なものに傾いていく。
  自然の摂理、人の営み、世の理。それらを捻じ曲げる過ぎた科学技術は間違っていると。
  ただ、僕は知っている。世界中の人間がそれを許さなかったとしても、たった一人肯定してくれた存在がいた事を。
  間違いだと認めた上でなお、僕を許すと言ってくれた女の子がいた事を。
  僕は、きっと生きている限りその言葉を忘れる事はないだろう。
  例え、その相手がもう……。

●僕が扉をノックする。

私 はーい……えっ!!嘘!!本物!?
僕 やぁ。久しぶり。
私 うわー、本当に先生だ!こんな所にいて大丈夫なの!?
僕 ん?あぁ、ようやく報道も落ち着いてきてからね。さっき帰国したところ。
私 本当にすごかったもんね、ニュース。連日先生の顔がテレビでさ〜
僕 あー、いいよもう。ちゃんと墓参りも行ってきたから。
私 ん。そっか…
僕 それより、完治おめでとう、リツカ。
私 へへへ、まさかの手術大成功だもんね。あんなに癇癪起こしてたのが恥ずかしよ。
僕 いや、君1回本当に死んでたから。僕もお姉さんも大泣きしてたからね。
私 あはは、それお姉ちゃんから聞いた。そのあと心臓動き出したときはみんなびっくりしてたって。
僕 思いのほか君の心臓はタフだってことさ。まぁ何はともあれよかったよ。
私 で、退院前日に先生はここに何しに来たのかな?
僕 君に直接伝えたい言葉があってね。手術を見届けて僕はすぐ日本を出たから、言えずじまいだったけど
私 ふうん。奇遇だね、先生。私も手術が無事におわって目が覚めてから先生にずーっと伝えたい言葉があったの。
僕 あはは、そりゃ奇遇だ。
私 当ててあげようか?5文字でしょ?
僕 当てようか?「あ」から始まる言葉だ。
私 あはは、おかしい。会ったころはお互いに絶対言わないって意地張ってたのに。
僕 あー、あったなそんな事。ほんとに。笑える

●2人でくすくすと笑う。

私 せーので言おっか?
僕 ああ、いいよ。

2人 せーのっ、


 du・pli・cate
【デュプリケイト】
 1:複製
 2:瓜二つ
 3:重なる
 4:二重の


終わり。

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