それいけルサンチマン! 第一話 SF

うだつのあがらない漫画家志望の男、前杉マコト(26)が天才発明家明夫に「人への嫉妬をエネルギーに変換するヒーロースーツ」を渡され、ヒーロールサンチマンに変身! 悪の使者「裏亜獣」との戦いが始まる……。
ビル・ローゲン 15 0 0 06/08
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第一稿

人物表
・前杉マコト(26)漫画家志望の男
・長谷川明夫(15)自称天才発明家の少年
・渡辺雄大(25)マコトの大学時代の後輩
・小川七海(25)マコトの大学時代の後輩。雄 ...続きを読む
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人物表
・前杉マコト(26)漫画家志望の男
・長谷川明夫(15)自称天才発明家の少年
・渡辺雄大(25)マコトの大学時代の後輩
・小川七海(25)マコトの大学時代の後輩。雄大の恋人
・裏亜獣 ロキ 悪の使者

〇帝王ホテル・外観(昼)
  日の光がそびえたつ帝王ホテルを照らしている。

〇同・大ホール
  20人ほどの記者とカメラマン、10人ほどのスーツをきた男たちがパイプイスに座ってい
  る。
  ステージには「第35回ヤングステップ佐々木三郎賞」と大きく書かれた横断幕。
  ステージにはマイクが置かれており、その横に年配の男性三人が並んで座っている。
  スーツの男たちに囲まれ、前杉マコト(26)が前から一列目の椅子に座っている。
  黒のスーツに赤のネクタイをつけたマコトは腰をまげ、前のめりになりながら、目をつぶり  膝の上に置いた拳を強く握りしめている。
マコト「(小声でぶつぶつと)俺は天才漫画家、俺は天才漫画家俺は天才漫画家……」
  ステージの右袖から女性が出てきてマイクの前に立つ。
  シャッターを切り始めるカメラマン。
  ざわつく会場。
  顔を上げるマコト。
  不安そう。
女性「あーあー。……お待たせしました、それでは第三十五回ヤングステップ佐々木三郎賞、大 賞作品の発表をいたします」
  持っていたメモを開く女性。
  静まり返る会場。
  マコト、唾を飲み込む。
女性「大賞作品は……(もったいぶるように間をあけて)前杉マコトさんの『君の歌を
 聞きたくて』です!!!」
群衆「(会場中から)おおー」
  安堵した表情のマコト。
  沸き起こる大きな拍手。
  マコトに大量のカメラが向けられる。
マコト「よしっ! よしっ!」
  カシャカシャカシャ!
  連続で何枚もシャッターを切られる。
  周りの人間に一人一人お辞儀しながら、壇上に上がるマコト。
  壇上で年配の一人から花束を受け取り、握手を交わす。
  中央のマイクの前に立つマコト。
マコト「えー……今まで辛いこと、悔しいこと、死にたくなるようなこと多々ありましたが…… 生きていてよかったと! そう思える日をやっと迎える事ができました!」
  大量のシャッターが切られる。
  満面の笑みのマコト。
男の声「前杉さん……前杉さん……」
  どこからか男の声が聞こえてくる。
  涙をぬぐうマコト。
  男の声に気づかない様子。
  拍手の音とシャッター音が段々遠のいていく……。

〇集園社・編集部
  編集部横のテーブル。
  パーカー姿のマコトが下を向きながらぶつぶつと独り言を言っている。
マコト「ここまでこれたのはひとえに両親と担当さんのおかげです……本当に……」
男の声「前杉さん!!!」
マコト「(顔をあげ)は、はい!!」
  テーブルをはさんで対面に座る男(服部)が冷めた目でマコトを見つめている。
服部「……聞いてます?」
マコト「あ、はい、いやえっと、はい……」
服部「……これ、どれくらいの時間、かけました?」
  トントンと机の上に置かれた『君の歌を聞きたくて』の原稿を人差し指でたたく服部。
マコト「……というと?」
服部「前いらっしゃた時から随分たちますけど」
マコト「あ、その……バイトの方が忙しくて」
服部「はあ」
  つまらなそうに原稿を手に取り流し読みする服部。
マコト「どうでしょうか?」
服部「バイト」
マコト「はい?」
服部「なにやってるんでしたっけ?」
マコト「あ、うちの近くのコンビニで」
服部「あー。ああいうのってバイトから正社員とかっていうのもあるんですよね?」
マコト「たぶん……」
服部「そうっすかあ……そうっすよねえ……うん……」
  パラパラと原稿を読む服部。
マコト「あの、一話目の時点ではまだ謎ばかりなんですが、それこそ第三話からが勝負といいま すか、そのプロットに書いてあるとおり……」
服部「(さえぎって)前杉さんのご実家って酒屋でしたっけ?」
  服部、原稿をトントンとそろえる。
マコト「……それが去年からコンビニ経営の方に……」
服部「へー、じゃあ、丁度いいじゃないですか」
  茶封筒に原稿をしまう服部。
マコト「……」

〇集園社正面玄関前
  自動ドアが開き茶封筒を抱えたマコトがとぼとぼと出てくる。
  マコト、ため息をついてから歩き始める。
  ビルによりかかり、スマホを見ている茶髪の男(雄大)の前を通りすぎる。
雄大「(マコトに気づき)ん? マコト先輩? 先輩!」
マコト「はい!」
  びくつきながら振り返るマコト。
雄大「あ、やっぱり、マコト先輩じゃないですか。お久しぶりです!」
マコト「あ、うん、久しぶり」
マコトM「誰だ、こいつ」
雄大「こないだのOB会なんで来なかったんですか~」
マコト「あ、その……忙しくて」
女の声「ゆうくーん!」
  若い美人な女(七海)が近づいてくる。
七海「(雄大のところまでやってきて)ゆうくんがいつも飲んでるコーヒー探すの大変だ
 った」
  缶コーヒーを雄大に渡す七海。
マコト「……あ」
  七海を見てなにかを思い出すマコト。
  ギュン!
  勢いよくマコトの過去回想に入る。

〇漫研部室(回想)
  散らかった部室。
  机に向かう若かりし頃のマコトとそれを覗き込む雄大、すみで漫画を読んでいる七海。
マコトM「こいつら漫研の後輩だ!!」
雄大「まじぱねえっすよ、先輩! そんな技術、ほかの先輩持ってないですよ!」
マコト「いや、普通の集中線だから」
雄大「なんかこう、意識が違いますよ! 俺も本気でマンガ描き目指してるんでわかる
 っす!」
マコト「そ、そうかな」
雄大「俺、マコトさんのことマジでリスペクトしてるんで! ほら、七海も見てみろっ
 て!」
七海「(立ち上がり)えー、そんなにー?」
マコト「あ……」
  七海、マコトのイラストを覗き見る。
  マコトと顔が近づく。
マコト「あう・・・」
マコトM「ちか! 近い! え、なんなのこの子、俺のこと好きなの!? ねえ、好き
 なの!?」
七海「ええ! すごい、うまいうまい!(手を叩きながら)すごいですね、先輩、プロ
 みたい!」
渡辺「だろう!」
マコト「え、あ、うん、一応一回雑誌にのっ
 たことあるからね」
七海「え! そうなんですか、プロじゃないですか、握手してください!」
  マコトの手をとる七海。
マコト「あ、うん・・・」
マコトM「(甲高い声)イヤーーーーー!」
七海「すごーい、これがペンだこかあ。わたしもプロ目指してるんだから見習わなくっ
 ちゃあ」
マコトM「ああ、もう確定しました! 好き! 俺、この子好き!!」

〇集園社・正面玄関前
  回想終わり。
マコトM「あー、そうだそうだ……雄大と……七海ちゃんだ」
  七海を見つめるマコト。
雄大「あ、ほら七海。大学の先輩の、マコトさん」
七海「え?」
マコト「ひ、ひさ」
七海「(笑顔で)はじめましてー!」
  落ち込むマコト。
雄大「ちょ、バカ、お前何度も話したことあるだろ!」
七海「え、そうでした……っけ?」
  とぼとぼと歩き出すマコト。
マコト「あ、俺いくわ……締切とかあるし」
雄大「え、あ、まじっすか、なんかすみません」
七海「すみませーん……」
  とぼとぼと二人から離れる。
  後ろから二人の小さな声が聞こえる。
雄大の声「ほら、お前にちょっと気があった」
七海の声「えー……あ、思い出した、あの一回雑誌載ったとかいってた人?」
雄大の声「そうそう」
七海の声「載ったっていっても、一コマだけ、残念賞みたいのなのに! ウケる」
雄大の声「あー、まあたしかにあれは失望したわ」
七海の声「あー、なんか色々思い出してきたなあ」
  2人の声が遠のいていく。

〇ロイヤルコーポ
  寂れたアパート。
  すぐ近くに線路があり、電車の音がうるさい。
  外階段をあがってくるマコト。
  ため息をつく。
  206号室の前に立ち、ポケットをさぐる。
  ポストにはたくさんの郵便物が溜まっている。
  鍵を開け、中に入るマコト。

〇同・二〇六号室
  マコト、電気のスイッチをいれ部屋に入ってくる。
  衣服や漫画本、原稿、ペットボトルや空のカップメンなどが散乱した部屋。
  壁にはたくさんの原稿や下書き、ネームなどが貼り付けられている。
  机の上にも描きかけの原稿。
マコト「……」
  手に持っていた原稿を見つめるマコト。
マコト「くそおおおおおおお!!!!」
  持っていた原稿を破ろうとする……!
  しかし、
マコト「……」
  静止。
マコト「ああ!」
  原稿を机に放り、ベッドに仰向けに倒れこむ。
  しばらく天井を見つめる。
マコト「……」
  携帯の着信が鳴る。
  携帯に出る。
マコト「はい」
母の声「おお~、マーくん元気?」
マコト「ああ、うん、まあ……なに?」
母の声「いやねえ、全然連絡よこさないから心配になっちゃって……どう? もう漫画
 に専念し始めて二年くらい経つけど」
前杉「……ぼちぼちだよ……」
  起き上がるマコト。
母の声「ぼちぼちねえ……ぼちぼちじゃあ困るんだけどねえ……」
  机に置いてあったペットボトルを手に取り、口をつける。
  しかし空である。
母の声「あ、そうだ、ユミちゃん覚えてる? 結婚するんだって!」
マコト「ああ、ふーん」
  ペットボトルを投げる。
母の声「なおちゃんもしたし、ゆうきくんもしたから公園のお友達はみんなしたねえ。
 まーくんはどうなの、最近」
マコト「……最近ってなにが」
母の声「ほら、彼女とか」
マコト「彼女って……ぼちぼちだよ」
母の声「ぼちぼち……ぼちぼちねえ……」
  机に置かれていた潰れたタバコの箱を手に取る。
  残り一本。
  火をつける。
母の声「まーくん、こっちに帰る気ない?」
マコト「……なんで」
  タバコをふかすマコト。
母の声「漫画ならこっちでもできるじゃない?」
マコト「……こっちのがなにかと都合いいんだよ……」
母の声「お母さん、思うよ、夢を追いかけることも立派なことだとは思うけど、しっか
 りお仕事して、家庭を持つっていうのも……」
  タバコを灰皿に置き、机を殴るマコト。
  タバコが床に落ちる。
マコト「うるせーなー! こっちにも人生設計ってものがあるんだよ!!」
母の声「(怒って)人生設計って、なによ! ただ適当にだらだら生きてきただけじゃない
 の!」
マコト「うるせえ、この……バーカ、バーカ!!!」
  携帯を切り、放り投げ、ベッドに転がる。
マコト「くそ……くそ……俺だって……俺だってなあ……好きでボツになってるわけで
 も、すきでふられてるわけでもないんだよ……くそ……俺だって……俺だってなあ…
 …」
  鼻をヒクつかせるマコト。
マコト「ん?」
  床に放置されていたゴミ袋に火がついていることに気づく。
マコト「あーーー!!!」
  ドタバタと起き上がるマコト。
    ×    ×    ×
  しゃがんで床を見つめるマコト。
  床には焦げ目がついており、水浸しである。
マコト「……大家になんて言おう……」
  頭をかきむしる。
マコト「あーあ、ついてないなあ……」
  ピンポーン。
  チャイムが鳴り響く。
  驚くマコト。
  そろーりとドアの方を見る。
  ピンポーン。
  再びチャイムが鳴る。
マコト「(小声で)大家さん……?」
  そろりそろりと床のゴミを避けながら玄関まで行くマコト。
  そーっと覗き穴を覗く。
マコト「ん?」
  ドアを開けるマコト。
明夫「おー! あなたが前杉マコトさんですかあ!」
  白衣をきた中学生くらいの少年(明夫)がマコトを見上げている。
マコト「はあ……どなたさまで……」
明夫「うん、うん! 想像していた通り、平均よりちょい下って感じのお顔立ちですね
 え!」
マコト「は? なにいって……」
明夫「あがらせてもらいますねえ」
  マコトを無視し、ずかずかと土足で上がり込んでくる明夫。
マコト「ちょ、ま……靴、靴!!」
  部屋を隅々まで見る明夫。
明夫「いい! いいですよ! ワンルームですか! 溜まってそうでいいですよ~」
  明夫は終始笑顔である。
マコト「あのねえ……見ず知らずの人間上げる気はないので用がないなら帰ってもらえませんか ねえ?」
  明夫、前杉の方に向き直る。
明夫「見ず知らずではありませんよ~、静岡県沼津市出身の漫画家志望、26歳前杉マコトさ  ん」
マコト「……え?」
明夫「ま、ま、ま。お座りください、汚いところですけど」
  マコトをベッドに座らせる明夫。
マコト「なんで俺の名前知ってるん……」
明夫「いくつか質問させていただきますねえ」
マコト「聞けよ」
  明夫、どこからかノートとペンを取り出す。
明夫「お名前と年齢を」
マコト「さっき自分で言ってたじゃねえか」
明夫「形式的なものですので」
  明夫、ニッコリ。
マコト「……前杉マコト、26歳」
  ノートに何やら書き込む明夫。
明夫「ご職業は?」
マコト「……漫画家……」
明夫「漫画家?」
マコト「……志望」
明夫「フリーターですね~」
  明夫、書き込む。
明夫「恋人などは?」
マコト「はあ? んなことお前に関係ないだろうが」
明夫「あー、もうめんどくさいのでこちらで読み上げるんで間違っていたら止めてください」
マコト「はあ?」
  明夫、ノートを読み始める。
明夫「恋人なし。どころか、異性と付き合った経験なし。告白された経験も0。マコトさんから の告白回数計4回。直近は大学中退前。後輩の女性に手紙で告白しましたが、当然のごとくフ ラれる。当時、サークル内でその件で笑いものにされていた」
マコト「ちょ、ちょ、ちょい! なんでそんなこと知ってるんだよ、え、笑いものにされてた  の!? 七海がくっちゃべってたのか!?」
明夫「申し訳ありません、こちらとしましても守秘義務がありますので……」
前杉「俺の守秘義務はないのか!」
明夫「あー、もうめんどくさいので大事なことだけ」
  ノートをめくる明夫。
マコト「なんだよ」
明夫「今まで一番をとったことは?」
マコト「……」
明夫「運動会とか」
マコト「……ないよ」
明夫「勉強」
マコト「ない」
明夫「賞をとったことは?」
マコト「ない!」
明夫「性経験は?」
マコト「ないっていってるだろ!」
明夫「素晴らしい!」
マコト「ほんと、ムカつくなあ、お前は!!」
  明夫の胸ぐらをつかむマコト。
明夫「いや、褒めてるんですよ! その歳で性経験のない男性は珍しいんです! 絶滅危惧   種!」
マコト「おら、ストーカーさんは帰った帰った!」
  玄関の方に連れて行かれる明夫。
  床に落ちていたゴミ袋を蹴り飛ばす。
明夫「だれがあなたみたいな不細工、ストーキングしますか!」
マコト「ぐぬぬぬ」
  玄関から押し出される明夫。
明夫「うわ」
マコト「じゃあな!」
  ドアを閉めようとするも、
明夫「待ってください!」
  明夫に止められる。
明夫「話! 話だけでも!」
マコト「もう俺の苦労話したろうが!」
  再度閉めようとするも
明夫「じゃあ! じゃあこれだけでも受け取ってください!」
  ドアの隙間からリングのようなものを投げ入れられる。
  バタンと閉まるドア。
明夫の声「ああ~。気が向いたときに付けてみてください~。ああ~」
マコト「なんなんだあいつ、気持ち悪い……」
  マコト、リングを拾う。
マコト「ふん!」
  投げるマコト。
  リングが机に置かれていた原稿の山に当たる。
  バサバサと音を立てて崩れる原稿の山。
マコト「……」
  部屋を見渡す。
マコト「とりあえず、掃除するか……」

〇ロイヤルコーポ・外観(夜)
  星がきらめいている。

〇同・206号室
  先程よりも多少片付いた部屋。
  床が見え始めている。
  床を掃いているマコト。
マコト「……ん?」
  ベッドの下からなにか封筒のようなものが出てくる。
  封筒を手に取る前杉。
  封筒には「七海さんへ」の文字とハートのシール。
マコト「くっそおおおおお……」
  ラブレターをゴミ袋に詰める。
  机に置かれたタバコの箱を手に取る。
  しかし、一本も入っていない。
マコト「ああ!」
  タバコの箱も投げてしまう。
マコト「あああああああ、もう七海七海七海―!」
  ベッドの上でジタバタ。
  ベッドの横に転がっていたリングが目に入る。
マコト「ふん」
  それを手に取りベッドに仰向けに転がるマコト。
  リングを観察する。
マコト「ん?」
  内側になにか文字が彫ってあるのに気づく。
  読み上げるマコト。
マコト「ルサンチマン……」
  リングを見つめる。
マコト「見た目は……悪くないよな……」
  リングを左手につけてみる。
  リングが赤く輝く。
マコト「は!?」
  リングから機械的な声が発せられる。
リング「ルサンチマンパワー、基準値を超えました!」
  赤い光がマコトを包み込む。
マコト「うわうわ、なんだこれ!」
  ピカー!
  気づくと赤と白を基調としたラバースーツのようなものを着ているマコト。
  頭にはフルフェイスのヘルメット。
前杉「イテテ……なんだあ?」
リング「センサー、反応。急行します」
  ギュン!
  玄関の方向へ走り出す前杉。
マコト「うわうわ、なんだ、体が勝手に動く!」
  玄関ドアの前で急停止し、窓の方へ方向転換するマコト。
マコト「なに?」
  窓の方に走り出す!
マコト「いやいやいやいやいやだめだめだめ!!!」
  窓に突っ込む前杉。
マコト「大家さん!!!」
  ガシャーン!
  大きな音をたてて窓を突き破るマコト!

〇ロイヤルコーポ前の通り
  膝をつく形で着地するマコト!
  唖然とする道行く人々。
  アパートの前を猛スピードで走り出すマコト。
マコト「ちょ~、どこいくの!? てゆうか速い!!」
  ぐんぐんとスピードをあげるマコト!
  マコトの走り去ったあとに風が吹く!
  道行く女子高生のスカートがめくれる。
女子高生「キャ~!」

〇コンビニ前
  コンビニの前で一人カップメンをすする明夫。
  ビュン!
  目の前をマコトが物凄いスピードで通り過ぎる!
  吹き出す明夫。
明夫「おお!」
  マコトを追うように自身も猛スピードで走り出す明夫。

〇商店街・大通り
  物凄いスピードで走り続けるマコト。
  明夫がマコトに追いつく。
明夫「つけてくれたんですね! リング!」
マコト「ああ、てめえ、なにしやがった!」
明夫「いやあ、スーツ、お似合いです!」
マコト「スーツ?」 
  横を向き、ショウウィンドウに映る自分の姿を確認するマコト。
マコト「どうわ!? 全身タイツにフルフェイスって完全に変態じゃないか!」
明夫「そのスーツはルサンチマンスーツです! ルサンチマンパワーをエネルギーに
 かえ身体能力を強化するスーツです!」
マコト「ルサンチマン? なんだそりゃ?」
明夫「全く学がない人ですねえ。いいですか、ルサンチマンとは哲学用語で弱者が、強者
 に対して憎悪の心を溜め込んでいる状態のことです! つまりは人への恨み妬み僻み! そん なルサンチマン的な感情をパワーに変換するのが私の開発したルサンチマンスーツなのです! それを着ることによって、あなたのような嫉妬に狂った人間はヒーロールサンチマンに変身す るのです!!」
マコト「全く迷惑な話だな! ってアイタッ!」
  急停止するマコト。
  転ぶ。
明夫「(マコトにあわせ止まりながら)おっとっと、どうやら、我らの敵、裏亞獣がここ
 ら辺にいるようですね」
マコト「リア充って、なに、お前、リアルが充実してる人たちが憎くてこんなもの作っ
 たの?」
明夫「違いますよ、憎んでるのはマコトさんでしょ? そうじゃなくって……あ、あれ
 です!」
  喫茶店のテラス席に座る男女を指差す。
マコト「ん?」
  ヘルメットのシールドを上げるマコト。
マコト「あれは……」
  男女は雄大と七海。
  雄大はうなだれ、七海はスマホをぼーっと見ている。
雄大「あー、なんかまじだりい……」
七海「(スマホから視線を外さず)ちょっと、あんたマンガ家になるんじゃなかったの」
雄大「えー、もうそんなんいいだろー。てゆうかお前もじゃん、そんなこといってたべ
 ー」
七海「私はいいの私は。なんか……だるいし」
雄大「じゃーん」
マコト「雄大と七海ちゃん……」
明夫「そう! ゆう……ああ、もう、シールドさげて!」
  マコトのヘルメットのシールドを下げる明夫。
マコト「うお? なんだありゃ?」
  シールドを下げることによって、二人の後ろにもうひとり、長身の男が見えるようになる。
  髪が長く、目鼻立ちが整ったその男は真っ黒のロングコートを着ており、頭から二本の角が  生えている。
明夫「あれが裏亞獣です。彼らは人々から『夢を追い続ける心』や『努力する心』などの
 感情をすいとってしまい、堕落や傲慢など不の感情を芽生えさせてしまうのです!」
マコト「それってダメなの?」
明夫「ダメに決まってるでしょ! 彼らはそうすることによってすべての人間をダメダ
 メにし、世界を滅ぼそうと……ああ、もうめんどくさい説明はあとです!」
マコト「うお」
  明夫、マコトを裏亞獣の前に押し出す。
明夫「やい、裏亞獣! お前は俺たちが許さ
ないぞ!」
マコト「いや、俺は……」
雄大「あ? なんすか?」
七海「え、なんか全身タイツとかキモいんですけど」
マコト「……」
  マコト、雄大、七海を尻目に見つめ合う明夫と裏亞獣。
ロキ「我の名前はロキ。堕落を司る裏亞獣だ。うぬたちには我が見えるのか」
マコト「はあ」
明夫「勝負しろ!」
ロキ「よかろう……」
マコト「ちょっと待った」
明夫「ええ!?」
  マコト、明夫をつれて少し離れる。
マコト「あれを倒したらとりつかれている二人はどうなる?」
明夫「当然、堕落の心は消え、本来の血気盛んな夢を追いかける若者になるわけです!」
マコト「そう……(少し悩み)じゃあ俺パスで」
  マコト、歩き出す。
明夫「ええ!?」
マコト「あいつらをこれ以上幸せにするのは俺のプライドが許せない」
明夫「そんなちっぽけなプライド捨ててください!」
マコト「悪いな、俺はヒーローにはなれない」
  ロキ、飛び立ち、マコトの目の前に降り立つ。
マコト「う……」
  その大きさに圧倒されるマコト。
ロキ「勝負を売られて買わんわけにはいかん。相手してやろう」
  前杉に息を吹きかけるロキ。
マコト「う……。クサ……くない、ラベンダーの香り……」
  目がトロンとするマコト。
明夫「あ!」
ロキ「ふん」
  片手でマコトを突き飛ばすロキ。
明夫「(マコトにかけより)大丈夫ですか、マコトさん!」
マコト「だ~、めんどくせー。だからヒーローとかやる気ないって」
明夫「またそんなこといって!」
ロキ「そやつからやる気を吸い取り、堕落の心を芽生えさせてやった。元々我を倒す気
 などほとんどなかったがな」
明夫「え、じゃあこれ何か変わったの!?」
マコト「俺ももう、漫画とかいいや~、何度持ってってもボツだし~。田舎帰って、親
 の年金でぶくぶく太る生活してやる~。俺も俺以外もみんな不幸せになればいいのさ~」
明夫「ああ、もう! 人として最低だなあ、あんた!」
  マコトのヘルメットをとる明夫。
マコト「人の金で焼肉が食べたーい」
明夫「とりゃ!」
  マコトの顔をはたく明夫。
マコト「イタっ……うお……」
明夫「正気に戻りましたか?」
マコト「ああ……ちくしょう……なんかムカつくな……」
  立ち上がり、ヘルメットをかぶりなおすマコト。
ロキ「ふん」
明夫「さあ、倒しちゃってください! イケメン嫌いでしょ! その顔ならいくら殴っ
 てもいいですから! 正義のために!」
マコト「まるで俺の性格が悪いみたいな言い方だな……」
  ロキ、マコトの方に走り出す!
マコト「まあ」
  マコトになぐりかかるロキ!
マコト「たしかにイケメン好きじゃないけどな!」
  パンチを受け止めるマコト!
マコト「うお!……つええ……なんだこれ……」
ロキ「ふん、そんなものか……つまらん……」
  吹き飛ばされるマコト。
明夫「大丈夫ですか!」
マコト「ん……ああ、不思議とダメージは少ない」
明夫「スーツのおかげですね!」
マコト「なあ……やっぱ俺あいつらを……とくに七海を救う気になんかなれないよ、俺、
 あいつにフラレたんだぜ……」
明夫「しゃきっとしてください! いいですか、あなたは選ばれたんです、ヒーロー
 に! 力を授かったからにはそれなりの義務がある。あなたは世界を救わなければな
 らない責任があるのです!」
マコト「……」
  しばし考えるマコト。
マコト「(立ち上がり少し笑って)はた迷惑なヒロイズムだ……だいたいこのスーツだめ
 じゃねえか」
明夫「ルサンチマンパワーが足りないんです! リングについているボタンを押して!」
マコト「ん? ここか?」
  リングのボタンを押すマコト。
リング「メモリー、再生します」
マコト「うお!?」
  シールドに様々な映像が映し出される。
  七海と初めて会った日、イラストを褒められた時、そしてフラレたとき。
マコト「……」
  プルプルと震えるマコト。
明夫「どうですか、マコトさん!」
ロキ「これでとどめだ」
  マコトに向かって走り出すロキ。
マコト「なんてもの見せやがる……」
  ロキのパンチが前杉に襲いかかる……!
マコト「オラア! 付き合う気がないならその気にさせるような接し方するなパンチ!」
ロキ「ブフォオ!」
  一瞬早く、マコトの右手がロキの腹にヒット!
明夫「おお! いいですよ、たたみかけて!」
マコト「うおおお、勇気をふりしぼって告白してきた相手を酒の肴にしてんじゃねえキ
 ック!!」
  ロキを蹴り飛ばすマコト。
明夫「おお、強い!」
    ×    ×    ×
  マコトを見ている雄大と七海。
  二人にはロキが見えていない。
雄大「なにしてんの、あれ」
七海「さあ? なんかクスリでもやってるん
じゃない?」
    ×    ×    ×
マコト「ハアーっ!」
  パワーを貯めるように両手を胸の前に突き出すマコト。
リング「ルサンチマンパワー、限界値超えます」
マコト「くそお! くそお! 俺まだ彼女の幸せ願えるほどふっきれてねえよ!」
ロキ「チョッ待って……」
明夫「いけー! ルサンチマン!」
マコト「俺はいつか絶対にビッグになってフッたことを後悔させてやるんだビーム!!」
  右手を前に突き出す前杉!
  右手からどす黒い光線が放射される!
ロキ「ギャーーーーーー!!!」
  爆散するロキ。
  変身が解除されるマコト。
  息切れしている。
明夫「すごい、すごいですよ、マコトさんはヒーローです……」
  少し笑うマコト。
  その瞬間、急に雄大と七海が立ち上がる!
雄大「お、俺、なんか急にやる気わいてきた!こんなことしてる場合じゃない、俺はマン
 ガ家にならなきゃ!」
七海「わたしも! 絶対人気マンガ家になってやるんだって気がしてきたわ!」
雄大「おう、いいぞ! じゃあ一週間以内に次の作品もってここで見せ合おうぜ!」
七海「望むところよ! それまでちょっとだけお別れ」
雄大「おう」
  キスする二人。
  それを見つめる汗だくのマコト。
マコト「……だあああ……」
  見つめ合い、うなづき、走り出す雄大と七海。
雄大「(汗だくのマコトに気づき、)おっとマコトさん、なにしてるんすかこんなところ
 で! 油売ってるとすぐにぼくらが抜かしちゃいますよ」
  肩をポンと叩き走り去る雄大。
マコト「……」
明夫「うんうん、やはり夢を追う若者とはいいものですなあ」
マコト「……(小さな声から段々大きく)あああああああああああ!!!! くっそお
 おおおおお!!!!!」
  走り出すマコト。
明夫「さあ、マコトさんも負けてられないですよ! 漫画もヒーロー活動も! 悔しさ、
 恨み、妬み、全ての人間的な感情を余すところなく使って、フルスロットルで走り抜
 けましょう! それいけ、ルサンチマン!」

                 終

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