恋するピーカは西へ飛ぶ「バイセクシャル×バイセクシャル」 恋愛

18歳のピーカは、初めて上がった一人暮らしの男の家で、とんでもないもの見つけてしまうが……。バイセクシャル×バイセクシャルのハートウォーミングなラブコメディ。【連続物第1話想定】
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第一稿

人物

ピーカ(18)(29) ネイリスト バイセクシャ

ゴロウ(18)(29) アニメーター バイセクシ
ャル

○札幌駅北口・バスロータリー前
   ピーカ ...続きを読む
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人物

ピーカ(18)(29) ネイリスト バイセクシャ

ゴロウ(18)(29) アニメーター バイセクシ
ャル

○札幌駅北口・バスロータリー前
   ピーカ(29)、待ち合わせのため、ベン
   チに座っている。
   隣に座った汗をかいている中年をちら
   りと見る。
ピーカの声「……うん。平気。……5月。よ
 うやくここ札幌にも桜前線がやってくる頃、
 私の体は変化する。今まで苦手だった男の
 人の匂い……汗とか髪の毛の匂いとかそう
 いうの。それが……好きになる。夏になる
 頃には、その『モードチェンジ』が完璧に
 終わって、私は『女』になる」
   ピーカ、大きくなったお腹を見る。
ピーカの声「この子の予定日が来月で、つま
 りHしたのは8月の暑い日。これにも……
 立派な意味がある。だって冬の間は……つ
 まり、私が『男』でいる頃には、たとえ一
 生の伴侶と決めた人とでも、『そういうこ
 と』はできっこない」
   ピーカ、行き交う人々をじっと眺める。
ピーカの声「それにしても、こんな私が母親
 になれるだなんて。考えてみるに、妊娠中
 はずっと『男』として、お腹の子に付き合
 ってきたけれど、それは良かったことかも
 しれない。だって、男の人にも心から自分
 の子を愛する気持ちがあるってことがわか
 った。私は季節によって『男』になったり
 『女』になったりする。私の経験は……ダ
 ブルと言えばダブル。ハーフと言えばハー
 フ。そんな人生だ」
   待ち合わせの相手、ゴロウ(29)がやっ
   てくる。
   髪の毛は肩まであり、女に負けないく
   らいさらさらと美しい。
ゴロウ「久しぶり」
ピーカ「久しぶり」
ゴロウ「(ピーカのお腹と左手の薬指を見て)
 本当に、おめでとう」
ピーカ「そう言ってくれる人、結構貴重よ」

○(回想)ゴロウの部屋・居間(深夜)
   11年前。東京。
   ゴロウ(18)の部屋に、恐る恐る入るピ
   ーカ(18)。
   男の一人暮らしの部屋に入るのは初め
   ての経験。
ピーカ「お邪魔……しまーす」
   居間をバタバタ片付けているゴロウ。
ゴロウ「どうぞー」
   居間に入り、部屋を観察するピーカ。
   ゴロウとその彼女が仲良く並んで自撮
   りしている写真も目ざとく見つける。
ピーカ「へぇ。かわいい彼女だね」
ゴロウ「うん……まあね……」
   少し含みのある答え方にピーカ、一瞬
   引っかかるが、あえて気付かなかった
   振りをする。
ピーカ「始発の時間にはすぐ出てくからね」
   ピーカ、写真を見ながら、ゴロウの彼
   女と自分の髪の長さと色がほぼ一緒で
   あることを確認する。
ピーカ「今も彼女、こんな感じ?」
ゴロウ「うん、大体そうかな」
ピーカ「じゃあ髪の毛落としていっても平気
だね」
ゴロウ「気にすることないってー」
ピーカ「嫌だよ。変な誤解されて、破局なん
 てされたら私が困るー。別にネカフェで良
 かったのに」
ゴロウ「いやぁ、だってピーカ酔ってたもん」
ピーカ「……今日は楽しかった。ありがとう。
 ゴロウちゃんフォローしてくれなかったら、
 ずっと輪に入れなかったわ」
ゴロウ「君、変なところで人見知りだよね。
 ……じゃ、僕、シャワー浴びてくるから」
   ゴロウ、タンスを指差す。
ゴロウ「そこから適当に寝巻き選んでいいか
 らね。着替えはあっちの部屋でどうぞ」
   ゴロウ、そう言い残し、シャワーを浴
   びに行く。
ピーカの声「高校を卒業すると、元々美術部
 だった私は上京してアニメーターの専門学
 校に進んだ。慣れない一人暮らしでいっぱ
 いいっぱいで、生来の人見知りの私はなか
 なか仲間に入り込めなかった。例外的に彼
 だけは不思議と打ち解けられた。今日は半
 ば強引に飲み会に引っ張り出されたけど…
 …、参加して良かった。1度打ち解けられ
 れば、その後は早い私だ。あっという間に
 みんなと仲良くなれた。これで……明日か
 ら学校に通うのも憂鬱じゃなくなる」
   ピーカ、シャワー室に向かって手を合
   わせる。
ピーカ「ありがとう友よ」
   ピーカ、着替えを探すためにタンスを
   漁る。
   下着がきれいに畳まれている段を開け
   る。
ピーカ「ひゃああ。私より几帳面かも。……
 でもここじゃないな……。スェットでいい
 んだけど……」
   他の段を開けてみると、ようやく目当
   てのスェットの上下を見つける。
   やや勢いよくそれを取り出すと、何や
   ら1つ箱が一緒に引っ張り出される。
ピーカ「あ」
   ゴロンゴロンと箱から中身が飛び出る。
   するとそれは、SEXに使うためのバ
   イブだった!
ピーカ「え!えええ!」
   ピーカ、マジマジとそのバイブを観察
   する。
ピーカ「これは…」
   ゴロウと彼女が写っている写真を見る。
ピーカ「いやぁ。色んな楽しみ方があってい
 いと思う。……うんうん。…あれ? だけ
 ど……」
   ゴロウ、シャワーから上がってきて、
   ピーカがバイブを観察している様子に
   気付く。
ゴロウ「ピーカもどうぞって、ああああ!」
ピーカ「ああああ! ごめん! ごめん! 
 ス、スェット出したら、これも一緒にゴロ
 ンと飛び出て、私はこういうの初めて見た
 からついつい!」
ゴロウ「あああああ!」
ピーカ「あああああ! ごめん! 見なかっ
 た! 私は何も見なかった!」
   ゴロウ、放心。
   そしてピーカはあることに気付く。
ピーカ「え……(バイブに書いてある注意書
 きを読む)『男性のアナルにのみ使用して
 ください」……? あれ? これ男性用な
 の?」
   ゴロウ、何かつぶやく。
ゴロウ「…なの」
ピーカ「え?」
ゴロウ「これは僕のなの! 僕が僕に使うも
 のなの! だから……彼女にはナイショに
 してて!」
ピーカ「え! ゴロウちゃんがゴロウちゃん
 に使うもの……? ちょっと待ってわかん
 ない。ゴロウちゃんって、その……ホモ君
 なの?」
ゴロウ「違う! 彼女のことは本気! でも
 僕はその……お尻も好き……なの」
   ピーカ、バイブを指差し言う。
ピーカ「お尻に……これを……挿れるの?」
   ゴロウ、恥ずかしそうにうなずく。
   (回想終わり)

○札幌駅・喫茶店・中(夕方)
   ゴロウとピーカ、初めてピーカがゴロ
   ウの部屋で男性用バイブを発見した時
   のことを思い出し、ケラケラ笑ってい
   る。
ピーカ「あの時はわけわからなくなったなぁ」
ゴロウ「それを言ったら僕だってそうさ」
ピーカ「なんで?」
ゴロウ「だってさ…」

○(回想)ゴロウの部屋・居間(深夜)
   ひとしきり騒ぎが収まり、冷静になっ
   た2人。
ピーカ「彼女のことは本気って言ったよね?」
ゴロウ「そうだよ」
ピーカ「でもその…男の人のアレをお尻に挿
 れてみたくもなる…のよね?」
ゴロウ「(こくんと頷き)いいよ、軽蔑しても」
ピーカ「……多分、私も同じかもしれない」
   (回想終わり)

○札幌駅・喫茶店・中(夕方)
ゴロウ「最初はぜんっぜん言ってる意味わか
 んなかった」
   ゴロウ、紅茶を一口飲んで、大きくな
   ったピーカのお腹を見て言う。
ゴロウ「10年ぶりの再会ついでに勢いで聞い
 ちゃうけどさ、その……今の人は……、ピ
 ーカのこと全部理解してるの? それとも
 『女』としての君しか知らないの?」
   ピーカ、自分のお腹を撫でて何も答え
   ない。
ゴロウ「それとも……シングルマザーとか?」
ピーカ「だとしたら……どうする?」
ゴロウ「うーん。僕が父親になってもいいよ」
   ピーカ、笑い出す。
ゴロウ「本気だよ。だって僕は……今だって
 君と恋人に戻れるし夫にもなれる。……っ
 ていうか……ちゃんとさよならもしていな
 い」
   ピーカ、懐かしそうにゴロウを見つめ
   る。

○(回想)東京都内某所・クリスマスツリー前
(夜)
   ライトアップされたきれいなクリスマ
   スツリーの下で、ピーカとゴロウ、プ
   レゼント交換をしている。
ピーカの声「いつの間にか……というほど修
 羅場がなかったわけではないけれど、結局
 ゴロウちゃんは元の彼女と別れて、クリス
 マスを迎える頃には私とくっついていた」
   先にピーカのプレゼントをゴロウが開
   ける。
   マフラーが出てくる。
ゴロウ「うわぁ。このマフラー! 欲しいっ
 て言ってたの覚えててくれたんだ!」
ピーカ「お気に召した?」
ゴロウ「うん! とっても! じゃあ僕のも
 開けてみて」
   ピーカ、ドキドキ、ワクワクしながら
   箱を開ける。
   出てきたのはなんと男性用の装着ベル
   ト付きのバイブだった!
ピーカ「な! ちょちょちょちょっとお!」
ゴロウ「あれ。ダメだった?」
   人目につかないように慌てて箱のラッ
   ピングを元に戻すピーカ。
ピーカ「と、とりあえず! 場所を考えない
 さいよ!」
ゴロウ「そうか! そうだよね。ごめん、気
 が利かなくて…!」
ピーカ「いやいやいや、それだけじゃくって
 ! いやそれも大事だけど、そうじゃなく
 って!」
ゴロウ「えぇ…」
ピーカ「もう…。なんかもっとさぁ、あるっ
 しょやぁ…」
ゴロウ「ふふふ。たまに出る北海道弁かわい
 いよね」
   ピーカ、なんだか暖簾に腕押しで怒っ
   てるのやら、はずかしいのやらわから
   なくなる。
ゴロウ「でもさ…、今、ピーカ『男』でしょ」
ピーカ「え…」
ゴロウ「冬になる頃、君は『男』になる」
   ゴロウ、とびっきりの笑顔を見せる。
ゴロウ「最近……、僕とHするのちょっと辛
 そうだったから。『それ』があれば、僕も
 『女』になれる」
ピーカ「覚えてて、くれたんだ」
ゴロウ「もちろん。僕にはそういうスイッチ
 はないからわからないけどね。君はそのス
 イッチのせいで苦しんだって言ってたから」
   (回想終わり)

○札幌駅・喫茶店・中(夕方)
   ゴロウ、1枚のプリクラを見せる。そ
   れは彼とピーカがその夜撮ったプリク
   ラだった。
ピーカ「懐かしい! この頃流行ってたよね
 ! 今の子はどうなんだろうね?」
ゴロウ「わかんない。会社には若い子もいる
 けど、僕はほとんど誰とも話さないから」
ピーカ「ええ。そんなキャラだっけ?」
ゴロウ「そうだよ。だから、僕も君に助けて
 もらってたと思ってるよ。君という漫才相
 手がいなければ、僕もみんなとは仲良くな
 れなかったと思う」
ピーカ「ふーん……。そうなんだ。ねえ、あ
 の頃のみんなでまだアニメーターやってる
 のって誰?」
ゴロウ「ほとんどいない。僕とあと数人。君
 は……僕を振ってでも札幌に帰ってきたん
 だから、てっきりまだ夢を追っているかと
 思ったよ」
ピーカ「はははは……。まあそれも話せば長
 い話でして」

○(回想)羽田空港・屋上デッキ・外
   ピーカとゴロウ、飛行機の離着陸を見
   られるデッキで、新千歳空港行きの飛
   行機を2人で待っている。
ゴロウ「あらためて、おめでとう。ピーカ」
ピーカ「ありがとう」
ゴロウ「まさかあんな有名なスタジオに入れ
 るなんて、さすがはピーカだ」
ピーカ「親も喜んでる。こんなに早く夢を叶
 えて娘が戻ってくるなんて思ってなかった
 みたい。……そっちもがんばんなよ」
ゴロウ「うん。できるだけ早く、就職先決め
 るよ」
   飛行機が飛び去っていく。
ゴロウ「あれが君で…」
   今度は飛行機が着陸する。
ゴロウ「これは僕かな」
ピーカ「何言ってんの。あなたはまだどこに
 もたどり着いてない。これからよ」
ゴロウ「うん……そうだね。僕もがんばらな
 きゃね」
   ピーカ、バシンとゴロウの背中を叩く。

○(回想)羽田空港・搭乗ゲート前
ピーカの声「私はどうしても言えなかった。
 『また連絡する』って。それはあまりにも、
 『別れ』を意識させすぎる。口に出さなく
 ても2人共わかっていた。これは『別れ』
 なのだと。だから『さよなら』なんてなお
 さら言えるわけがない」
   手荷物検査を終えたピーカ、搭乗ゲー
   トの向こう側に歩いて行く。
   ゴロウ、ずっと見ている。
   手を振ることもなく、ただじっとピー
   カを見ている。
ピーカの声「いつも彼の家でのデートが終わ
 った後、最寄りの駅の改札口でこんな風に見
 送ってくれていた」
   ピーカは1度彼に振り返り、手を振る。
ピーカの声「そして私はこんな風に手を振っ
 ていた」
   ピーカ、後ろを振り返り、彼から見え
   ないところまで来ると、もう涙を流す
   ことを我慢できなかった。
   ゴロウもまた、ピーカが見えなくなる
   と一筋の涙をこぼしていた。
   (回想終わり)

○札幌・道(夜)
   ピーカとゴロウ、暗くなった札幌の街
   をすすきの方向へ歩いている。
ピーカ「言い訳するわけじゃないけど、私は
 私なりに考えてこっちの道に進んだの」
   ピーカ、自分で塗ったきれいな爪を見
   せる。
ゴロウ「うん。たしかにこれはピーカだ。ピ
 ーカの線だ。……あの頃より、ずっと繊細
 で……優しい」
ピーカ「あとね。……シングルマザーでもな
 い」
   ゴロウ、少しがっかりしたような表情
   を見せるが、少しの間の後、優しい表
   情に戻る。
ゴロウ「……良かった。なんにしても『母親』
 か。また僕は君に先を越されたな」
   ピーカ、1枚のケースに入ったDVD
   をバッグから取り出す。
ピーカ「そんなことないよ。これ何回も見て
 るの。優しくて、暖かくて、おどろおどろ
 しいシーンなんて1つもなくて。胎教にぴ
 ったり」
   ゴロウ、そのDVDを受け取り、サイ
   ンをする。それを返す相手はピーカで
   はなく、彼のサイン会に訪れたファン
   の女の子。

○ゴロウのサイン会会場・中
   若い男女を中心に、ゴロウにサインを
   もらうために行列を作っている。
   それを遠くから見守るピーカ。
ピーカ「すごいな。ゴロウちゃん、本当にが
 んばったんだね」
   ピーカ、お腹に話しかける。
ピーカ「あの人はね、あなたが何回も見たあ
 のアニメはね、昔お母さんの大好きな人が
 作ったんだよ。大切な大切な、お母さんの
 全部を受け入れてくれた恋人であり親友だ
 ったの」
   ピーカ、サインを続けるゴロウと目が
   合うのを待つ。
   そして目が合った瞬間、ピーカは手を
   振る。
   デートの終わりだと言わんばかりに。
   ゴロウは一瞬だけ頷いて、ファンの対
   応に戻る。
ピーカの声「私達はまた『さよなら』を言わ
 なかった。でも今度は2人共涙は流さない。
 これが会うことのできる最後の機会かもし
 れないし、またどこかでふらっと道が交わ
 ることがあるのかもしれない。別れ際に『
 さよなら』を言わないほど、大切にしたい
 人がいることを、彼は教えてくれた」

○道
   ピーカ、桜の木の下を歩く。
ピーカの声「私はいわゆる『バイセクシャル』
 『両性愛者』というやつだ。男の人も女の
 人とも恋に落ちる。私は恋に迷った時、普
 通の女の子や男の子のように、気軽に誰か
 に相談する相手などいない。なーんもかん
 も、いっつも体当たりだったんだ。だから
 あーっちこっち傷ついて」
   ちらりと腕にできた大きな傷跡が見え
   る。
   それをさっと隠すピーカ。
   X  X  X
   フラッシュ
   かつてレイプされた記憶。
   X  X  X
ピーカの声「『ピーカ』とはかささぎという
 小さな鳥だ。ゴロウちゃんが言ってくれたよ
 うな大きな飛行機なんかじゃないけど、空を
飛ぶ。恋するピーカは空を飛ぶ!」
   青空に小さな鳥が飛ぶシルエット。
   それを微笑ましく見上げるピーカ。
ピーカ「さあ帰ろう『あの人』が待つ家へ」
   小さな鳥が宿り木に止まり、そんな『
   2人』を枝の上から見守っている。

○ピーカの自宅・居間
   ピーカ、『ピーカへ 再会のしるしに』
   と書かれた箱を開ける。そこから出て
   きたのは……。
   やっぱりバイブだった!
   今度は女性用のものだ!
ピーカ「だから! なぜ!!!」

(終)

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