恋愛就院 恋愛

全ての恋愛が成就する恋愛就院を舞台にした物語。
若林宏明 9 0 0 01/22
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第一稿

○恋愛成院

 恋愛成院とその裏山にある神社の景色。

 秋の紅葉。

 参拝の女性たちで賑わっている。

行人の声「恋愛成就院、通称、恋愛成院。北条政子と源頼朝と ...続きを読む
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○恋愛成院

 恋愛成院とその裏山にある神社の景色。

 秋の紅葉。

 参拝の女性たちで賑わっている。

行人の声「恋愛成就院、通称、恋愛成院。北条政子と源頼朝との恋愛成就にゆかりのある神社は伊豆にある。が、最近の研究で伊豆から遠く離れたとある寺院とその裏山にある神社に政子が恋愛を祈願したことが発覚した。その神社はSNSでは殆ど紹介されない、というよりも紹介それ自体がタブーとされている場所である。なぜタブーか。それは望んだ相手との恋愛がかなりの確率で成就するからである。参拝者の間ではSNSやマスコミに口外すると成就する可能性が下がるという噂が行き交い寺社の存在を知っていても殆ど話題にのぼることはないのだ」



1城

 男がふたり。

 西谷行人(41 )と北村政宗(41)は城下を 見ながらご満悦である。

西谷「政宗氏、大事な話があるんです」

政宗「何です? 行人氏」

西谷「西谷の行人、惚れてしまいました」

政宗「西谷の行人氏が恋情を」

 政宗、行人の横顔を見る。

 真剣である。

政宗「応援します」



2同・寺務室

 御朱印を貰う行人と政宗。

 可愛い巫女。

政宗「さて、行人氏のお相手の名前は?」

 政宗、軽く首をふる。

 些か、神経症的である。

 行人は気づかない。

 

3境内

 抹茶ソフトを食べる二人。

政宗「そう、勿体ぶらず」

行人「名前はない」

政宗「?」

行人「まだ、知らない」

政宗「話したことは」

行人「無論」

政宗「口すいは?」

行人「やめてくれ」

政宗「すまぬ」

 行人、遠くを見てため息。

政宗「かなり惚れておるのか」

行人「うむ」

政宗「一目惚れというやつか」

行人「どうやら」



4イメージ

 可愛い巫女。



5車内

 夕暮れ。

 運転席に行人。

 助手席に政宗。

政宗「可愛い系か」

行人「いや」

政宗「お姉さん系?」

行人「何んですかそれは」

政宗「落ち着いた美しいOLのような」

行人「いや」

政宗「和服の似合う大和撫子?」

 行人、思いを馳せる。

 メーター、ガソリンが減っている。

 政宗、薬を取り出しペットボトルの水で飲む。

政宗「教えてくだされ、応援するから」

行人「スタンドによる」

政宗「ガソリン代は折半で行きましょう」

 スタンドに入る。



6ガソリンスタンド

 行人の車が入る。

 スタンドの店員、佐藤時子(27)がいる。

政宗「このスタンド入るのはじめて」

 いらっしゃいませの声を出しながら時子が来る。

政宗「今どきセルフじゃないんですな」

行人「この人」

政宗「……え?」

行人「こちらの女性でありまする」

時子「いらっしゃいませ、何リッターいれます?」

行人「二十でお願いします」

時子「レギュラーで二十で大丈夫ですね?」

行人「はい」

時子「レギュラー二十入ります!」

 時子、給油の作業をはじめる。

 行人、サイドミラーで時子の姿を見る。

 すぐに目を逸らす行人。 

行人「この人です」

政宗「え?…え??」

 行人、頷く。

政宗「行人氏、思っていたタイプとは……少  

 し驚きました」

 時子、近づいて来て金額を知らせる。

 時子からお釣りを受け取る行人。

 手と手が触れる。

時子「いつもありがとうございます」

 時子の染めた髪色を見る政宗。

 車を走らせる。

 行人の車を見つめる時子。



7車の中

政宗「…義清(のりきよ)の子孫ですかな」

行人「そんなことはないでしょう。でも当たり。佐藤です。名前は」

政宗「ネームプレートみました」

行人「佐藤義清の佐藤に下の名前は時子」

政宗「佐藤時子…古風な名前」

行人「平清盛よりの妻と同じ名前」

政宗「言わずもがな、佐藤義清の佐藤に平時子 の時子、いい名前ですな、行人氏の名前は西谷   

行人、縮めると西行」

行人「武士の佐藤義清は出家して西行を名乗る」

政宗「なるほど、それで惚れたんですね」

行人「そんなわけはないです! たまたま」

政宗「たまたまですか、されどやはり縁はありますな」

行人「佐藤なんてありふれた苗字だけれど」

政宗「いやあ、縁です縁です、ただ…一点気になる点が…」

 行人、前方から政宗に振り向く。

政宗「いや、どうみても、その、派手な、所謂ギャルですよね」

行人「ギャルだとおかしいかな」

政宗「いやあ、意外なタイプだなあと思いまして」



8政宗の家

 行人の車が止まる。

行人「お疲れ様、また連絡します」

 車を降りる政宗。

 北村静(31)が帰ってくる。

静「こんにちは、何だ、お兄ちゃん今日休みか」

政宗「だと何なの」

静「お迎えに来てもらったらよかったなって」

 行人、会釈すると車を出す。

 行人の車走り去る。

静「西谷さんと歴史めぐり久しぶりだね」

政宗「お互い仕事してるからな」

静「カップルみたい、いいコンビだね」



9行人の自宅

 御朱印を眺める行人。

 脇に置く。



10ガソリンスタンド

 時子のイメージ。



11行人の自宅

 時子を振り払い携帯の史跡の写真を眺める。



12電車の中

 通勤する行人。



13政宗の会社の前

 会社の入り口に立つ政宗。

 顔色が悪い。

 入ろうとするが向きを変える。



14エスカレーター

 汗をかいている政宗。



15トイレ

 個室で薬を飲む政宗。



16道

 ふらつく政宗。



17公園

 ベンチに座る政宗。

 メールが来る。

行人からのメール。

 『今日の夜空いておりますか』という内容。



18ガソリンメーター

 満タンに近い。



19車内

 運転する政宗。

 助手席に行人。

政宗「行人氏、10リッターも入れられないかもです」

行人「もう少しぐるぐるして、ガソリンを減ら  

 そう」

政宗「ハイブリッドだからかなり乗らないと」

行人「エンジンオイルは?」

政宗「まだまだですね」 

 政宗、顔が曇る。

 行人、察知する。

行人「政宗氏、今日はやめよう。すまない、わがまま言って」

政宗「いや、そうじゃなくて、止めます」

 政宗、車を止める。

 政宗、脂汗をかいている。

行人「気分がわるいの?」

政宗「いや、いささか、薬飲みます」

行人「のんでのんで」

 政宗、薬を飲む。

行人「調子悪いの? なんの薬?」

政宗「最近、アレルギーがひどくて、かゆみと  

 かひどいんだ」

行人「今日はもう帰ろう」  

政宗「いや…落ち着いたから行こう」



20ガソリンスタンド

 政宗の車が入る。

 男の店員が来る。

政宗「満タンで」

 店員、離れる。

行人「外れだ」

政宗「休みみたいですね」

行人「まえは水曜日いたのに」

政宗「行人氏、くれぐれもストーカーにならな   

 いように」

行人「私は北条義時」

政宗「しつこいタイプだったみたいですね義時」

 店員、お金を渡す政宗。

政宗「でも実際いたとして助手席からなんて話  

 しかける気で…」

行人「あ…」

 私服姿の時子がスタンドの部屋からあらわれる。

店員「お疲れ様です」

時子「お疲れー」

 時子、車内の行人に気づく。

 時子、ニコッと笑って手を振って去る。

 行人、固まる。

 時子の後ろ姿。

政宗「行人氏、でかしましたぞ、脈アリですぞ」

行人「かなあ…」

政宗「作戦を考えましょう」

行人「作戦…いや、それよりもまず、政宗氏、日曜日時間ある?」



21恋愛成就院

 女子が多い。

行人「政宗氏、来ましたなあ、恋愛成就院、通称、恋愛就院

政宗「いくら歴史好きでもここだけは、男子たる者行かないと決めておりましたが」

行人「いや、政宗氏、これまでは必要がなかっただけですぞ」

政宗「北条政子が祈願して頼朝との恋愛を成就させたという史実はありますが」

行人「政宗氏、応援してくれるんでしょう」

 幅広い年齢層がいるが全て女性。



22同・トイレ

 用を足している二人。

 外から若い子の声が聞こえる。

女の声1「ねえ、まじさ、まじあんなイケメンのユウキくんがさ、なんか最近可愛いねって」

女の声2「あ、それやばい、今日拝んだらマジ付き合うわ」

女の声1「うそ? ホント、やばいどーしよ」

 盛り上がる声。

政宗「いや、やはりここは行人氏、我々には」

行人「凄い効き目だ、お賽銭は札ですな」

政宗「……」



23時院

 女子たちやカップルにまじって拝む二人。



24寺務所

 『恋のおみくじ』を見つめる行人。

政宗「行人氏、男子が買うのは…」

 女の子のひそひそ声が聞こえる。

女1「早く、このくらいにして」

 行人、なんとなく気になる。

女2「そうだね、木の花さんいるかも知れない」

 女の子、立ち去る。

 後ろ姿を目で追う行人。

政宗「女子に急に目覚めましたか」

 行人、スマホを出して調べる。

行人「出ないな」

政宗「なにがですか」

行人「さっきの子、木の花とか言ってたから、ここに女性の住職でもいるのかなと」

政宗「尼さん? 聞いたことないですな」

行人「浮き足立ってから何かあるのかと思って」

政宗「恋愛成就への情熱、凄いですね行人氏」

 行人、人の流れを見る。

行人「やはり、何も知らないで出てゆく人と何かいそいそとあっちに行く人と分かれている気がするんだよね」

政宗「先程、木の花って言ってましたよね」

行人「そう聞こえたよ」

政宗「この寺院の裏に確か頼朝が源氏再興を祈願した小さな神社があるんじゃないかな」

行人「(スマホ見ながら)あるね神社、マークだけだけど、祠?」

政宗「たしかその神社の御祭神が木花咲耶姫だと思う」

行人「さすが政宗氏、そこだ」

政宗「いやあ、戦国もいいけど、僕は源平関係の歴史には目がないから」



25道

 古びた看板がある。

 『木花神社↑』

行人「道が細いけど、ここかな」

政宗「ネットでも出ないですね」

 女のはしゃぐ声が聞こえる。

行人「ここだ」



26坂道

 道なき道を進む二人。



27山道

 両脇に地蔵が並んでいる。

 苔がついている。

政宗「なんだか不気味ですね」



28砂利道

政宗「こんな道を女子たちは歩いてるんですかね」

 道の奥から肩を落とした女の子が降りてくる。

 下を向いたままで顔を上げない。

行人「……」



29林の中

 進む二人。

 今度はきゃっきゃ言いながら女二人が降りてくる。

 行人たちを見てニコッと笑う。

女の子「マジ凄いから百発百中」

行人「そうです…っすか」



30鳥居

 小さな鳥居をくぐる二人。

 行人、立ち止まる。

行人「わかる? 政宗氏」

政宗「私も霊感とかないんですがわかります」

行人「キリッとしたよね、冷たい澄んだ空気」

政宗「箱根神社行った時みたいな、それよりも強烈です」

 行人、携帯で写真を撮る。

行人「凄い穴場ですな」

政宗「あ、圏外だ」

行人「……こっちもだ、急に」

政宗「これだけの雰囲気ならネットにもっと情報が出てもいいようだけど」

行人「一般にはまだ、知られてないのかもですね」

政宗「昔、コンサルの作家が紹介したら急に有名になった金運神社あったよね」

行人「まあ、参拝してどうかだよね、単に山の空気にかわっただけなのかも知れないし」



31境内

 歩く二人。

行人「空気が澄んでいる感じだ」

 社が見える。

 人が並んでいる。

政宗「恋愛成就院ほどは混んでいないですね」

行人「しかも、みんな無言」

政宗「かえってそれが怖いですね、恋愛に対する女の念というか、本性というか」

行人「政宗氏、そういうことわかるの?」

政宗「妹もいるしね」

行人「この間の、妹さんもそーなんだ」

政宗「いや、あやつは淡白」

行人「適当ですな」

政宗「いや、ネットでも女の人の恋愛関係のもつれって凄いって書かれているじゃん。好きな男を誰にも取られたくないみたいな」

行人「我々にはうらやましい限りですな」

列が進む。

 看板を見る政宗。

政宗「めずらしい四拍手だ」

行人「恋愛が成功し幸せになるの四(し)だ」

政宗「行人氏はもっと理性的な人間だと思ってましたが」

行人「恋愛は理性を超えた先にあるもの」

政宗「……」

 二人の順番が来る。

 作法どおりに行う。

 風が吹く。

 木々が揺れる。

 清々しい表情の行人。

 政宗、一瞬、ふらつく。

行人「政宗氏、大丈夫?」

政宗「はい、ちょっとめまいがしただけです」

行人「これからめまいがするような出会いがあるんじゃないのかな?」

政宗「行人氏」

 参拝者が奥の屋敷へと向かっている。

行人「あそこに誰かいるんじゃないかな」

政宗「恋愛相談でもしてるんですかね」

行人「行こう」

政宗「……行人氏…」

 政宗、内訳話をしようとするがやめる。

行人「行きましょう。御朱印もあそこにあるはず」

 行人、先に進みだす。

 政宗の表情は暗い。



32社務所

 広い玄関。

 和室。

 人々が静かに待っている。

 帳面に名前を記入している。

 行人と政宗も静かに待つ。

 行人、携帯を見る。

行人「電波ゼロだ」

 行人、視線を感じる。

 皆が白い目で見ている。

 押し黙っている。

 机に注意書きがある。

 『大変申し訳ありませんが、取材は一斉お受  

 けできません。また個人でのSNSへの投稿、書き込みもできる限りご遠慮ください』

 巫女が現れて、順に人を呼ぶ。



33同・通路

 洗面所がある。

 巫女が立っている。

巫女「作法はありませんので、手を洗い、口をお濯ぎください」

 美しい顔立ちだかどこか冷たい。

 手洗いを終える二人。

 奥の部屋に誘導される。



34部屋

 奥に人影。

 鮮やかな衣装。

 布ごして姿は見えない。

 正座する二人。

 姿が見える。

政宗「!」

行人「男」

政宗「しかも、おじさん」

 扇子で床を叩く男。

 女装の木花重郷である。

重郷「木花重郷と申します。よろしく。はじめに言うが、お金はいらない。五分間だけ恋愛相談にのろう」

政宗「おじさんっていうかおじいさんだ」

行人「あのう、私好きになった人がいて、ちょっとそのタイプが自分と違うっていうか」

政宗「行人氏、あせらないで整理して」

重郷「タイプ? 見かけで判断してはならん。話してみなければ素性はわからない」

政宗「いや、ギャルなんです。彼とは見た目不釣り合いというか」

重郷「どうアプローチしていいかわからんと。でも何とかして付き合いたいんだな」

政宗「はい、その通りです」

行人「なんで政宗氏が答えてるんですか」

重郷「わしがはじめに言ったことを思い出してみ、はじめに発したことが神様からおりてきたことだ」

行人「?」

重郷「人は見かけ通りではない、ガソリンスタンドに勤めるからといって低くみてはならない」

行人「下になんて見てない」

政宗「何でガソリンスタンドってわかったんだ」

重郷「下に見ている」

政宗「そういうことは政宗氏はしませんよ」

重郷「している。すこし待て」

 重郷、神棚に向き直り、柏手を打ち、祝詞を唱える。

 振り返る。

重郷「大局的に捉えればもう恋愛は始まっている。うまくいく」

行人「え?やったー、時子さんとですよね?」

重郷「これ以上は話せない。未来を語ることはできない」

 巫女、部屋に入って来る。

巫女「お時間です」

政宗「で、交際するためのアプローチは?」

重郷「時間だ。当神社に参拝し願掛けをした時点で願いは叶う。恋愛への流れを作ったとも言える。つまり自然の流れよりは早く流れるように軌道修正した。その分、反発が生まれる」

政宗「反発?」

行人「反発って大丈夫なんですか?」

重郷「起こるべくして起こることを早めたまでだ」

巫女「お時間です」

 重郷、闇に消えて姿が見えなくなる。



35同・駐車場

 ペットボトルで薬を飲む政宗。

行人「さすがに帰り道、スタンドに寄るのは無謀過ぎるかな……政宗氏、明日は時間ありますか?」

政宗「……仕事終わりなら」

 政宗、ため息をつく。

行人「いや、無理しないで」

政宗「私……」

行人「やはり作戦を考えないと……?どうしました?」

政宗「何でもないです」

行人「じゃあ、また仕事終わりにお願いします」

 行人、政宗が手に持つペットボトルを見る。

行人「花粉症、大丈夫ですか? 今年は随分と酷いみたいですね」

政宗「……薬、飲んでいるから、なんとか」



36駅

 出勤する政宗。

 ふらつきがある。



37会社

 働く行人。

 昼休み。



38蕎麦屋

 同僚と蕎麦を食べる。



39ガソリンスタンド

 時子のイメージ。



40蕎麦屋

 ニヤけている行人。

 同僚、白い目で行人を見る。



41カフェ

 働く静。

 店長が呼びにくる。

店長「ご家族の方から」

静「……」



42病院

 廊下。

 静の母、緑が椅子に座っている。

緑「静」

静「お母さん、全然、わかんないんだけど」



43同・喫茶室

 緑と静。

緑「あの子が怪我したことはしょうがないと思うの」



44駅

 政宗、調子が悪くなる。

 薬を地面に落とす。

 薬までの距離が急にのびる。

 崖の上に立っているようになる。

 政宗、ふらつき、階段を転がり落ちる。



45喫茶室

緑「あの子、私たちに内緒で精神科に通っていたみたいなの」

静「なにそれ……」

緑「さっきまで会社の人がいたんだけど、よく休んでいるみたい、今日も無断欠勤だったみたい」

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