人 物
北山鈴(8)小学生。
北山香織(35)鈴の母。
浅野弘樹(37)保険会社員。鈴の父。
村山なお(8)小学生。
○(回想)ある一戸建て・リビング(夕)
戸建てのリビングのテーブルで北山鈴(3)が折り紙に手紙を書いている。
『サンタさんへ。いつもお仕事ごくろうさまです。サンタさんはみんなの家にプレゼントを届けないといけないので、冬でも大忙しでたくさん汗をかくと思うので、ハンカチをプレゼントします。お仕事がんばってください』
鈴、「suzu」と魚の絵の刺繍の入った赤いタオル地のハンカチを畳み、テープでとめる。
○小学校・教室・中(昼)
鈴(8)の机で前の席の村山なお(8)とおしゃべりをしている。
なお「もうすぐクリスマスだね!」
鈴「ん〜サンタさん何くれるかなぁ…」
なお「鈴ちゃん、まだサンタさん信じてるの?サンタさんはパパなんだよ?あ〜パパ、
スイッチかってくれないかなぁ」
鈴「サンタクロースはいるよ!…、だって、鈴の家にお父さんいないもん……」
なおは「ふ〜ん」と言いながら自分の机に向きなおる。
鈴はモヤモヤとした表情をしている。
○北山家マンション・リビング(夜)
古いマンション一室で鈴は家中の引き出しの中身をひっくり返し、なにかを探している。
北山香織(35)が帰ってくる。
香織「ただいま…って、鈴なにやってるの!」
鈴「ねぇお母さん、サンタさんのハンカチ、誰が持ってるの?サンタさんだよね?サンタクロース、いるんだよね?」
鈴は不安な表情で問い詰めてくる。
香織「…お母さんも持ってないわ。鈴の言う
通り、サンタさんが持ってるのよ…」
香織、困った顔で鈴を抱きしめ、
頭を撫でた。
○公園・ブランコ(夕)
鈴、ブランコからぼんやりと住宅街を眺めている。
○公園近くの住宅地(夕)
赤いダウンジャケットを着たスーツ姿の男性、浅野弘樹(37)、一軒一軒家を訪ね、インターホンを押し、家人と「本年はありがとうございました」と挨拶をかわして、たくさん抱えた紙袋の中から、筒状のものを渡している。
○同じ公園・ブランコ(夕)
鈴、弘樹の様子をじっと見ている。
○同・ベンチ(夕)
17時のチャイムが聞こえる。
弘樹、公園の自販機でホットコーヒー
を買い、ベンチに座り、両手にかかえていた紙袋をドサドサっと地面に置く。
弘樹、赤いタオル地のハンカチで缶コーヒーを包んで手の中に持つ。ハンカチには魚の絵と「suzu」と刺繍がある。
弘樹、少し離れたところからじっと見ている鈴に気がつく。
鈴「あの…、サンタさんですか?」
弘樹「へぇ?」
鈴「わたし…、それと同じハンカチをサンタさんにお手紙でプレゼントしたことあって…」
弘樹、手に持ったハンカチを見ようとして、缶コーヒーをこぼす。
弘樹「あつッ…つ、ハンカチ、あっ…!」
弘樹、紙袋にこぼれたコーヒーをあわてて拭き、中身が無事か確かめる。
鈴、落とした缶を拾い、弘樹に近づく。
弘樹、鈴の胸の「北山鈴」と書かれた名札に気づき、「鈴…」と鈴にも聞こえ
ないほどの声でつぶやく。
× × ×
鈴と弘樹、公園のベンチにすこし間を開けて座っている。二人の間には、先程の缶コーヒーとミルクココアの缶がある。
鈴・弘樹「あ、あの」
弘樹、どうぞとジェスチャーする。
鈴「その中身、プレゼントですか?」
弘樹「えっ?」
鈴「いろんなおうちに届けているの、さっき、見てました。」
弘樹「これは、…まぁプレゼントっちゃプレゼントか。カレンダーだよ。毎年、この時期にお世話になった人に配ってまわるんだよ」
鈴「ふぅん…、サンタさんってインターホン鳴らして玄関から来るんですね。なんか、変。」
弘樹「ああ…、日本の家は煙突がないし…、
最近法律が厳しいから、丁寧に訪問しないといけないんだ」
鈴、あまり納得していない様子。
弘樹「…あの、お家、帰らなくても大丈夫…?」
鈴「お母さん、いつもお仕事で帰ってくるの遅いから…」
弘樹「…」
鈴「でも、もう帰らなきゃ」
弘樹「あ、そうだ、これ、あげるよ、クリスマス、まだだけど。」
弘樹、紙袋の中から筒状のカレンダーではなく、卓上カレンダーを鈴に渡す。
鈴「わぁ…可愛い…」
鈴、カレンダーのビニールを開け、次々とページをまくる。カレンダーには絵本調の可愛いイラストが描かれている。
鈴「サンタさん、ありがとう!」
鈴、帰ろうとする。弘樹、少し迷って、
弘樹「…あ、待って…!これ、かお、…
お母さんに渡してくれないかな」
弘樹、名刺ケースから名刺を1枚取り
出して、電話番号を書き、鈴に渡す。『株式会社あさひ生命 営業・浅野弘樹 090-XXXX-XXXX』
鈴「わかりました」
鈴、名刺をボタンのついたポケットにしまって、家に向かって走る。
公園で一人になった弘樹、はぁ、と小さくため息をつく。
○北山家マンション・リビング(夜)
香織、スーパーの袋を両手に下げて帰宅する。
鈴、玄関の方に勢いよくやって来る。
鈴「サンタさんいたよ!」
香織「えっ?」
鈴「今日、公園で!サンタさんの赤いハンカチ、持ってた」
香織「えっ?ハンカチ?」
鈴「みんなのお家にカレンダーを配ってたんだけど、疲れて公園のベンチで休んでた。鈴、サンタさんとお話したよ。これお母さんに渡してって」
鈴、香織に弘樹の名刺を渡す。香織、戸惑いながら受け取る。
鈴、自分の部屋の方に駆け込んでいく。
○同・鈴の部屋兼寝室(夜)
鈴、勉強机に卓上カレンダーを飾る。12月までカレンダーをまくり、じっと眺めて「ニィっ」と笑う。そして、ランドセルに明日の準備をする。
○同・リビング(夜)
少し空いたふすまから、隣の寝室で鈴が眠っているのが見える。
香織、電話をしている。テーブルの上には弘樹の名刺がある。
電話がつながり、香織が「もしもし…」と切り出す。
○小学校・教室・中(朝)
なお、自席で授業の準備をしている。
鈴、走って教室に入ってくる。
鈴「なおちゃん!」
鈴、なおの後ろの自席に座りながら、
鈴「わたし見たの!サンタクロース!」
なお「えっ?クリスマスでもないのに?」
鈴「紙袋にカレンダーをいっぱいに入れて、今年もありがとうございましたってみんなに配って回るんだよ!すずも可愛いカレンダーもらっちゃった…!」
なお「えー、カレンダーってなんかショボい。なお、スイッチとかがいいな〜」
と、なお、自分の机に向きなおる。
鈴、それでも終始ニコニコしたまま、朝礼の時間になる。
○住宅地・外(夜)
新しい戸建ての玄関先にはイルミネーションが光っている。
窓からオレンジ色の光が漏れる家からは、父・母・子供の談笑が聞こえる。
○北山家マンション・リビング(夜)
鈴、さみしそうにテレビを見ている。テレビではキャスターがクリスマスの話題を話している。
時計は19時少し前を指している。
香織、玄関ドアを開ける。鈴、ドアの音に振り向く。
香織「鈴、ごめん!遅くなって……」
香織の後ろ、大きなくまのぬいぐるみを持った赤いダウンジャケットの弘樹が立っている。
鈴「え?どうして!?どうしてサンタさんがここにいるの…!」
鈴、玄関の方へ駆けていく。
弘樹、しゃがみこみ、くまのぬいぐるみの手を掴み、
弘樹「鈴、メリークリスマス」
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