四半世紀ウマクイカナイ ドラマ

28歳、有楽町のコールセンターで働く航。未だに高校時代から好きだった同級生・あすかが忘れられない。 年に1回はLINEを送ってしまう。今の彼女と寝てるときも、あすかがよぎってしまう。 同級生の結婚式に行くと、あすかとの将来を想像してしまう。 彼女との接点は、現在ほぼ皆無なのに。 ある日、仕事帰りに通る東京駅・駅前ロビーの新郎新婦のウエディングフォトの中に、あすかを目撃する。
古堅元貴 72 0 0 06/04
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第一稿

『四半世紀ウマクイカナイ』

■登場人物
竹林航(28)都内コールセンター勤務
芳野あすか(28)航が10年間片思いしている相手

権田健太(28)航の高校の同級生
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『四半世紀ウマクイカナイ』

■登場人物
竹林航(28)都内コールセンター勤務
芳野あすか(28)航が10年間片思いしている相手

権田健太(28)航の高校の同級生
小野澤幸介(27) 航の高校の同級生
伊藤和貴(28) 航の高校の同級生
向井剛(28) 航の高校の同級生
三嶋拓郎(28) 航の高校の同級生

城ノ内快(28)
城之内茉由(25)快の妻

諏訪部(40)探偵

佐野優理(35)ダブルドッヂメンバー・愛称・ユーリ


〇千葉・柏・東柏高校・野球部部室(夜)
ユニフォームから制服に着替えている大勢の部員。その中に竹林航(18)。ズボンを履こうとすると、ガラケーに通知音。航、開くと小野澤幸介(17)
から「先輩、来ました!」のメール。
航、急いで着替える。
×      ×      ×
野球部部室前・道。  
芳野あすか(18)が陸上部の同級生・本間望(18)と歩いてると、部室から出てくる航。鉢合う、航とあすか。
航「おおっ」
あすか「あ、竹林君」
航「おつかれ。あ、聞いた、ダブルドッヂの新曲」  
望「あすか、先行ってる~」
あすか「すぐ行く~」
望、先へ行く。
あすか「聞いた!」
航「サビのユーリやばくない!?」
あすか「最高」
×      ×     ×
帰り道。航とあすか、駅へ向かって話しながら歩いている。目の前にコンビニ。
あすか「あ!今週、新商品のミルクプリン出たんだよ!超おいしいらしい!」
航「そうなんだ」
あすか「竹林くん。奢って!」
航「今、金欠なんだよね~」
あすか「そっか~。じゃ一人で行きます」
航「いいよ!買うよ!」
あすか「いいの!うれしい」
ニヤニヤしてる航。コンビニに入る2人。

〇予備校・自習室(夕)
受験勉強をしている航。ふと窓を見ると、あすかが男と手を繋いで歩いている。航、思わずペンを落とす。絶望。

〇東柏高校・校門前(昼)
正門に卒業式の看板。
×     ×     ×
昇降口前。あすか、部活の後輩たちと別れの挨拶を交わしている。陰から見ている航と同級生・権田健太(18)。
権田「航、いけって!」
航「いや、でも・・・」
権田「最後のチャンスだぞ!」
航、あすかを見ているが踏み出せない。

〇都内マンション・航の家(朝)
10年後。航(28)、寝ている。
家事洗濯が疎かだと一目で分かる部屋。スヌーズが鳴り続けてる。
航、スヌーズに気づき、スマホを投げる。スヌーズ止まる。
物が山積みで埋もれているノートPC。壁や棚にはダンス&ボーカルグループ・ダブルドッヂのメンバー・佐野優理(愛称・ユーリ)のグッズが至る所に。
またスヌーズ。悶える航。ベッドから出て、スマホを止めに行く。

〇電車内(朝)
通勤帯で満員の車内。スマホゲームをしている航。目の前には女子高生が座っている。航、彼女をチラ見している。
航M「あ、女子高生を見ているわけではない。見ているのは制服だ。いや、そういう意味でもなく、これは母校の制服。いや、僕が来ていたのはブレザーだが」
女子高生、視線に気づく。スマホに視線を移す航。
航M「片想いというか、想いすら伝えられずに終わった」
駅に到着。女子高生、降りる。
航M「まだ残っている。もう10年経つのに」
×     ×      ×
5年前。電車に乗っている航。車内モニターには5号車の表示。
航M「卒業してから5年後」
東葛西駅到着。乗降する人々。一人の女性、航の横に立つ。航、横の女性をちらっと見る。あすかだ。
×     ×     ×
数分後。そわそわしている航。
航「・・・芳野?」
あすか「え?・・・んんっ?」
航「あ、えっと、竹林」
あすか「竹林!?」
×     ×     ×
数分後。話している航とあすか。
あすか「坊主じゃない!」
航「あれは部活だったから」
あすか「坊主系の会社行ってると思ってた」
航「どんな会社だよ。あ、聴いた、新曲?」
あすか「え?」
航「ダブルドッヂ。この前ライブ行ったよ」
あすか「あ~。もう聴いてないんだよね」
航「え、そうなの」
あすか「なんかどんどん売れて大きくなってさ、逆に冷めちゃったんだよね~」
航「そういうのあるよね」
×     ×     ×
西日本橋駅に到着。
あすか「わたし、ここなの。またね」
航「また」  
降りるあすか。その姿を見てる航。
航M「運命だ」

〇電車内(朝)
後日。車内モニターには6号車の表示。東葛西駅に到着。乗降する人々。一人の女性、航の横に立つ。航、横の女性をちらっと見る。知らない女性だ。
ため息をつく航。
×     ×     ×
後日。車内モニターには7号車の表示。東葛西駅に到着。乗降する人々。一人の女性、航の横に立つ。
航、横の女性をちらっと見る。知らないおばあさん。目が合う。会釈する航とおばあさん。
航M「その後、乗る時間帯、号車を色々変えたが、芳野と会えることはなかった。誤解を与えかねないので、これは僕の通勤の気分転換も兼ねてだ。むしろ気分転換の方が重きだ」

〇航の家(夜)
LINEで「ご無沙汰!この前電車で会ったの、ほんと驚きだった!」と入力している。相手はあすか。
航M「運命は偶然だけでは繋がらない。自ら動く事も含めて、運命だと思う」
×     ×     ×
数時間後。あすかから「久しぶり!ね!びっくりした!最初不審者かと思った笑」と返事が来る。
航「きたぁ」
ニヤニヤして返信を打っている航。
×     ×     ×
後日。あすかとのLINEは続いている。
×     ×     ×
後日。航、「今度よかったらごはんいかない?」と入力。送信。
×     ×     ×
後日。あすかから「ごめん!しばらく仕事バタバタしそうなの」という返事とごめんねのLINEスタンプ。
航M「これは4年前」
×     ×     ×
航M「3年前」
航、LINEであすかに「おつかれ!中目黒でおいしいコーヒー屋見つけたんだけど、今度行かない?」
と送る。
×     ×     ×
数日後。あすか、ごめんねのLINEスタンプで返事。がっかりしてる航。
航M「これは課金で買えるLINEスタンプ」
×     ×     ×
航M「2年前」
航、LINEであすかに「久々!前にランチビュッフェよく行くって言ってたじゃん?青山にあるホテルのビュッフェ無料券貰ったんだけど、一緒に行か
ない?」と送る。
×     ×     ×
1週間後。あすかから、ごめんねのLINEスタンプ。硬直している航。
航M「これは最初からアプリに搭載されている無料のLINEスタンプ」
×     ×     ×
航M「去年」
航、LINEであすかに「ご無沙汰!超いきなりだけど来週ごはん行かない?」と送る。
×     ×     ×
2週間後。返信は無いが、既読は付いている。航、放心状態。
航M「遂に無料スタンプもなくなった」

〇電車内(朝)
現在。座っている航。
航M「諦めた。だが芳野のやさしさも感じた。普通未読無視もできる。だが芳野はあえて既読を付けてくれている。ほんとにやさしい」
「終点、東京駅」のアナウンス。電車を降りる航。

〇東京駅前・ロータリー(朝)
会社へ向かって歩いている航。
×      ×     ×
歩いている航。
×     ×     ×
まだ歩いている航。

〇有楽町駅前(朝)
依然、歩いている航。
航M「僕の会社の最寄りは有楽町駅。だが交通費と健康のために、東京駅で降り、20分ほど歩いて会社へ向かっている」

〇有楽町・オフィス内(朝)
30人以上が電話対応をしている室内。その中で見回って指示をしたり、サポートしたりしている航。バイトの1人が手を挙げ、
バイト1「すいません、竹林さん」
航「変わるよ」
電話対応を変わる航。
航M「僕の仕事はいわゆる電話代行サービスだ。会社にかかってくる電話を僕らが取次、依頼主の会社の業務効率化を促している」
×     ×     ×
バイトの子に説明している航。
航M「これだけ多いので、学生やフリーターも働いている」
×     ×     ×
航、自身のデスクで電話対応している。
航M「僕はバイトの子達の応対を管理しつつ、自身の担当者への架電も行う」
×     ×     ×
エクセルに記録を入力している航。
航M「バイトの子を対応しつつ、自身のクライアントも」
バイト2「すいませ~ん」
航、呼ばれた方へ向かう。
×      ×      ×
資料作成をしている航。
航M「対応しつつ、自身のクライアントも」
航、頭を掻き
バイト3「すいませ~ん」
航M「終わんねえよ」
バイトの方へ向かう航。
航「(バイト3に)どした~?」
×      ×      ×
仕事が片付いた航。オフィスの時計は20時過ぎ。
航M「リアタイでダブルドッヂ見れるじゃん」
航、デスクを片付け、退社。

〇東京駅前・ロータリー(夜)
駅へ向かっている航。東京駅を背景に、ウエディングフォトを撮影してい
る新郎新婦が多数。
航M「この時間帯だと、知らない新郎新婦のウエディング姿を見る事になるのだが、もう慣れた」
航、チラ見する。
航M「彼らはなぜここで撮るのか?」
航、チラ見する。
航M「彼らは東京駅のここが思い出の地なのだろうか?」
航、チラ見する。
航M「なぜここまでして、こんな人通りの多い場所で撮りたいのだろうか?」

〇電車内(夜)
満員の車内。スマホをいじっている航。ツイッターで「東京駅でウエディングフォト撮ってる新郎新婦、23区住み0人説」と呟く。するとLINEの通知。見ると城之内快(28)から「明日よろしく!」のメッセージ。 
航「そうだった・・・」

〇都内・結婚式場・ロビー(昼)
入口には城ノ内家・式会場の看板。
×      ×      ×
受付をし終える航。
「航!」の声。振り向くと権田健太(28)、伊藤和貴(28)、向井剛(28)。
航「おおぉ!」
久々の再会に盛り上がる。
×     ×     ×
挙式会場に向かっている航、権田、伊藤、向井。
航M「高校時代一番仲のよかったメンバー。特に権田は3年間クラスが同じで最も一緒にいた」
権田「サッカーのあの人も権田じゃん!今その余波で俺
の波も来てるのよ~」
伊藤「おまえ陸上部じゃん」
向井「え、軽音部じゃなかったっけ」
伊藤「いや、軽音部は入って1カ月でやめて、その後テニス部も入ってやめて、最終的に中学の同級生が多かった陸上部に落ち着いたんだよ」
向井「あ、部活自体よりも中のメンバーで部活選ぶタイプだ」
権田「中のメンバーで部活選んでもいいだろ!」
航M「俺は好きだったが、権田の学校での評判はまあまあ悪かった」

〇挙式会場
妻・茉由(25)に「誓います」と述べる城之内。それを観ている航ら参列者たち。  

〇披露宴会場 
高砂に座る城之内夫妻と写真を撮る航ら。
城ノ内「ありがとう!」
茉由「ありがとうございます!」
祝福の言葉をかける航たちの中で、
権田「逆にこんな機会もらって嬉しいよ!次みんなで会えるの、誰かの葬式だと思ってたからさ!」
空気が凍る。
権田「・・・なに。この空気!?」
航「晴れの場で葬式とか出すな」
茉由「・・・是非皆で集まってください!」
権田「はい!めっちゃ飲み誘います!」
航「ちがうちがう」
権田「なに?」
伊藤「言葉をそのまま鵜呑みにしないで」
権田「何が?葬式のやつ?だってこのメンツで城之内以外結婚式やれそうな奴考えられなくない?向井も彼女いないし」
向井「え?」
権田「航は未練たらたらだし」
航「は!?」
権田「前の彼女としてた時、ふいに芳野の事よぎったんだよね~って言ってなかった?」
空気が凍る。
航「おまえっ」
伊藤「権田、わきまえて」
権田「え、また!?」
向井「戻ろう!」
席に戻る航ら。
航M「権田はちゃんとアウトなラインで発言する。これが嫌われる所以でもあり、持ち味でもある」
×      ×    ×
披露宴、終盤。城之内、両親への手紙を読んでいる。感動してる航たち。号泣してる権田。

〇居酒屋(夜)
披露宴後。だらだらと飲んでいる航、権田、伊藤、向井。
航「探偵やってんの!?」
権田「あんま大きな声で言うなって」
伊藤「探偵ぶるなよ」
権田「だから探偵なの!」
伊藤「場をわきまえられない人は探偵やっちゃだめだよ」
向井「他人じゃなくてまず自陣を守らないと」
権田「それキーパーの権田!おれは探偵!」
中身のない話で盛り上がってる4人。
×     ×     ×
数十分後。
伊藤「別に結婚したら大人になるとは言わないけどさ、かっこよかったな」
向井「差を感じた」
権田「おまえらそういう相手作れよ~」
航「おまえはどうなんだよ?」
権田「殴っていい?ってか、まだ芳野に未練あるだろ」
航「だからないって」
権田「あの表情は今でもあったな」
伊藤「そうなの?」
航「ない」
権田「おれ、探偵だから」
向井「うぃいい~」
航「マジでない。もう完全に諦めた」
伊藤、スマホをいじり
伊藤「まだ苗字変わってないね」
あすかのLINEアカウントを見せる伊藤。
向井「でもLINEじゃそのままの人いるよ」
航「いいから!」
権田「結婚してないなら、まだノーチャンではない」
航「はい?」
権田「取り持とう」
航「はあぁ!?」
伊藤「権田じゃ無理だよ」
権田「俺、部活一緒だったから」
航「ほぼ喋ったことないだろ?」
権田「航。まだ気持ち、伝えてないだろ?」
航「伝えてないけど、向こうは気づいてる」
権田「でも言葉にしてねえよな!告ってないよな!当り前じゃねえからな!」
航「はい、おっけーおっけー」
権田「でっけぇ忘れ物、取りに行こうぜ」
航「・・・ダサっ」
伊藤、勢いよく立ち上がり
伊藤「それをダサいというお前の方がダサい」
航「は?」
向井も立ち上がり、
向井「同意」
航「え!?急にそっち側!?」
権田「前の彼女としてた時に不意に芳野がよぎったって言った時、俺は悲しかった!それくらい彼女の事がずっと好きなんだよ!」
伊藤「気持ち悪いとも思ったけど、純粋だよ」
向井「純粋」
航「それはあの時の空気で言っただけで!こういうノリ、ほんとよくない!」
話をさらに展開させていく権田たち。

〇居酒屋・外(夜)
駅へ歩いている航、権田、伊藤、向井。皆、足取りがふらつき、声がデカい。
権田「次会えるの葬式とか思ってねえから!」
航「声デけえよ」
権田「航!あすかの事、こういう時のノリじゃねえから!おれ動くからね!探偵だから!」
航「いいから!あと探偵なら大きな声出すな」
権田「旧友が協力してやんよ!」
伊藤「いいね~」
向井「やろうやろう!」
航「(向井に)おまえに持論はないのか」     
向井「ないよ!それが僕だよ!」
権田「よっ!日本教育の体現!」
向井「サンキュ~!」
航「褒められてないよ、向井」
盛り上がって足取りが速くなる権田、伊藤、向井。航、少し嬉しそうだ。

〇電車内(朝)
物思いにふけっている航。
「終点、東京駅」のアナウンス。電車を降りる航。

〇東京駅・駅前ロータリー(朝)
有楽町へ向かっている航。
×     ×     ×
歩いている航。
×     ×     ×
まだ歩いている航。

〇有楽町・オフィス内(朝)
バイトらの電話対応を見回っている航。
航M「今日もいつもと変わらない」
×     ×     ×
デスクで資料作成をしている航。
航M「ただ先週の月曜より数倍気分がいい」
バイト4「すいません、竹林さん」
航「はいはい!」
バイトの方へ駆け寄る航。足取りが軽い。

〇社員食堂(昼)
定食セットを食べている航。その横には冷凍パイン。
航M「月曜は週初めなので、いつもの定食にデザートを追加している。この追加がなければ、午後の仕事は出来ない」
×     ×     ×
冷凍パインを食べる航。
航M「冷凍パインうまっ」
向こうのテーブルでバイト達が男女で楽しく話している。それを見て、高校の昼休みを思い出す航。

〇東柏高校・3年A組教室(昼)
10年前。高3の昼休み。騒がしい教室。
昼飯を食べている航と権田。紙パックのパイナップルジュースを飲む航。
航「これうまっ」
権田「竹林ってさ、芳野といい感じ?」
航「え?」
権田「最近よく話してるじゃん。クラス違うのに」
航「好きなアーティスト一緒なだけ」
権田「ダブルうんちだっけ?」
航、権田を蹴る。
権田「わかったわかった!部活の時、芳野が航のこと話してたから!」
航「おまえに?」
権田「いや。俺じゃなくて女子たちで」
航「そういうの盗み聴きしたら殺されるぞ」
権田「で、好きなの?」
航「だから好きなアーティスト一緒なだけよ」
権田「あ、そう。付き合えそうだけどな」
パイナップルジュースを飲む航。
航M「最初に意識したのはこの時」

〇居酒屋(夜)
現在。飲んでいる航、権田、伊藤、向井。
航M「その3日後には好きになってた」
権田「航、パインサワー?」
航「あ、うん」
店員、注文を取り去っていく。
権田「あの時、告ってればな~」
航「てかさ、スパン早くない?」
権田「なにが?」
航「飲み会。城之内の結婚式からまだ1週間も経ってないから」
権田「航のために開いてるのに~」
航「いや、このメンツで飲んだって意味ないでしょ」
権田「航さ、段階踏めよ!いきなりサシで誘うから向こうも引いちゃうんだよ!」
伊藤「確かに」
向井「さすが探偵」
航「なんか芳野のくだりを口実に、飲み会を開きたいだけのような感じするのだが」
権田「馬鹿野郎!今日は段階材料あるのに!」
航「なんだよ?」
航のスマホに通知。
権田「来たか!?」
航「は?」
権田「航がトイレ行ってる間に、芳野にLINE送って
みたんよ」
航「おまえ!?」
航、権田に掴みかかる。
航「なにが段階だよ!全く踏んでねえじゃねえか!」
伊藤と向井、それを止める。
伊藤「うそうそ!!権田のうそ!」
航「どっち!?」
向井「権ちゃん、航のスマホのロックが8949なの知
らないから!」
航、権田から手を離す。
航「・・・なんでお前、知ってんだよ」
航、すぐさまスマホを確認すると、小野澤幸介(27)
から「明日13時迎え行きます!」のメッセージ。
航「そうだ・・・」

〇車道(昼)
横浜方面の標識。車を運転している小野澤。助手席に航。

〇横浜アリーナ・入口前(夕)
「ダブルドッヂ・ライブツアー」の看板。会場前には多くの客。
小野澤「来ましたね!」
航「・・・そうだね」
会場を見つめている小野澤。
小野澤を見ている航。
小野澤、見つめてる時間が長い。
小野澤「・・・次こそ行きましょう!」
会場に深々と一礼する小野澤。
小野澤「先輩も!当たりませんよ!」
渋々と会場に一礼をする航。
航「いつ観れるのやら」
小野澤「僕のせいにしてません?」
航「おまえと行くようになってからだよ。チケットが全く当たんなくなったの」
小野澤「いやいや!いやいやいやいやいや」

〇レンタカー屋(夕)
レンタカーを返却している小野澤。店の外で待っている航。
航M「野球部時代の後輩・小野澤。卒業後もちょくちょく会っている」
店から出てくる小野澤。
小野澤「終わりました!」
航「サンキュ~」
飲み屋街の方へ向かう航と小野澤。
航M「彼もダブルドッヂが好きで、ライブに行きたいほどハマっているのだが、小野澤と行く予定のライブは必ず外れる」
×     ×     ×
飲み屋を探している航と小野澤。
小野澤「串カツいいっすね~」
航M「運営に何かをして、ブラックリスト入りさせられてるんじゃないかと思うくらい外れる」
×     ×     ×
飲み屋を探している航と小野澤。
小野澤「海鮮もいいっすね~」  
航M「なのでチケットはないが、ライブの日はレンタカーで現地に行って、その空気感を味わって、その後は居酒屋をはしごして飲むという事が続いている」

〇居酒屋(夜)
焼き鳥を食べている航と小野澤。
航M「俺は勝手にその日を、小野澤はしご酒の日と呼んでいる。今日で6度目」
小野澤「先輩!」
航「ん?」
小野澤「また脳内ポエトリーリーディングしてたでしょ?」
航「日本社会を憂いてたんだよ」
小野澤「そんなに思う事あれば、ブログとかやればいいじゃないすか?ツイッターで駄文呟くより」
航「うっせえわ」
×     ×     ×
数十分後。飲んでいる航と小野澤。
小野澤「絶対付き合えたと思いますよ!」
航「もうその話は散々したから」
小野澤「そういうとこっすよ!」
航「おまえどうなんだよ?」
小野澤「イイ感じっす」
航「へえ~」
小野澤「まじで今の子、結婚してもいいって思ってます」
航「よかったじゃん」
小野澤「先輩もアプリやった方がいいですよ」
航「いい、俺は」
小野澤「出た、偏見。アプリでもいい子沢山いますよ!」
航「見せてよ、写真。彼女の」
小野澤「写真は見せられないっすね~」
航「なんでよ」
小野澤「彼女に許可取ってないので」
航「芸能人か」
小野澤「あ、その子もダブルドッヂ好きでしたよ!共通の趣味でマッチングも出来るので、合う人見つけやすいっす!」
航「じゃその子とライブ行けよ」
小野澤「でも彼女、今はあんまりなんすよ。韓国とエヴァにハマっちゃって!」
航「聞いてない」
小野澤「未練は捨てて、先輩もアプリやりましょう!」

〇飲み屋街(夜)
次の居酒屋を探している航と小野澤。
小野澤「次、先輩行きたい店でいいっすよ!」
航「前見て歩け~」
小野澤「あ、ここにしましょ!」
小野澤、店に入っていく。言動の伴わない小野澤に引いてる航。

〇有楽町・オフィス(昼)
日曜日。オフィス内の人はまばら。
スマホでマッチングアプリを調べている航。
「毎月1万人以上がカップル成立!」
「20代の3人に1人が利用!」などの見出しが書かれている。
航M「城之内も奥さんとの出会いはアプリって言ってからな・・」
LINEの通知。開くと、権田から「今、会社?」のメッセージ。
航、「そうだけど」と返信。すると権田から「近くまで来てるから、昼食べない?」、続けて「ゲストもいるから!」のメッセージ。
航「ゲスト?」

〇洋食屋(昼)
テラス席で食べている航、権田、三嶋拓郎(28)。
三嶋「卒業以来だね~」
航「でも全然変わってないよ」
三嶋「2人もね。いや、権ちゃんからいきなり連絡来てさ。ってか権ちゃん探偵なの!?」
航「あ、2人とも陸上部か」
権田「そうそう。で、こひちゃん、仲良かったじゃん。俺と違って」
三嶋「え、なに?」
×      ×     ×
食べ終わって話している3人。
三嶋「結婚してないと思うよ。聞かないし」
権田「ほら~」
航「そんな仲良かったの?」
三嶋「最近は会ってないけど、一時期芳野と家近くて、あと俺の彼女が仲よくて、3人で飲んでる時あってさ」
航「彼女って中川さん?」
三嶋「そうそう。もう結婚して3年かな」
航「あ、結婚したの!?おめでとう!」
三嶋「ありがとう!」

〇東京駅前改札(昼)
有楽町へ向かっている航、権田、三嶋。
三嶋「日曜出勤大変だな」
航「まあおれの仕事、曜日とか関係ないから」
三嶋「そっか」
権田「航歩くの?有楽町まで」
航「いつものルーティーンだから」
権田「ルーティーンは作らない方がいいぞ」
三嶋「まあ、さりげなくセッティングしてみるよ」
権田「まずは三嶋の奥さんと俺らが何度か飯食って仲良くなって関係性を作って、そしたらその輪の中に芳野を誘う!」
三嶋「探偵~、段階踏んでる~」
×     ×     ×
別れる航と権田、三嶋。
東京駅の改札へ入っていく権田と三嶋。有楽町方面へ向かう航。

〇東京駅・駅前ロビー(昼)
職場の有楽町へ歩いている航。ウエディングフォトを撮っている数組の新郎新婦。
航M「日曜は特に多いな」
歩きながら見ていると、
権田「ん?」
航、立ち止まる。1組の新郎新婦を見ている。あすかだ。
航「え・・・」
通り過ぎ、少し離れた所で立ち止まる。
航M「いやいや・・・」
来た道を戻り、再び新郎新婦を見る航。
通り過ぎ、少し離れた所で立ち止まる。
航M「ん?三嶋、結婚してないって・・・」
来た道を戻り、また新郎新婦を見る航。何度も同じ場所を行ったり来たりしている。はしゃいでいる新婦。言動からもあすかだと確信する。
通り過ぎ、少し離れた所で立ち止まる航。
航M「・・・芳野だ」

〇有楽町・オフィス内(昼)
黙々と仕事をしている航。
×     ×     ×
18時。黙々と仕事をしている航。
×     ×     ×
22時。デスクを片付け、退社する航。

〇有楽町駅前(夜)
有楽町駅改札へ入っていく航。

〇電車内(夜)
窓からの景色を見ている航。
航M「・・・驚いた」

〇風俗店・待合室(夜)
順番を待っている航。爪を切っている。
航M「よりによってウエディングフォトで知るか?そんな知り方あるか?好きな人の結婚を知る手段で最も最悪だろ。てか権田、探偵ならその情報掴めよ。てか三嶋、まじ何しに来たんだよ」
店員が来て、
店員「どうぞ~」
航、行こうとするとLINE電話。小野澤から。店員と目が合う航。
店員「(電話出て)どうぞ~」
航「・・・すいません」
航、電話に出る。
航「(電話に)なに?」
小野澤「先輩!ああああぁあああ~!」
航「え?」

〇居酒屋(深夜)
飲んでいる航と小野澤。小野澤はうなだれている。
小野澤「3週間はおかしいっすよ!?」
航「逃げられたんじゃない?」
小野澤「彼女はマジそんな事しないです」
航「でもね~」
小野澤「事故とか?」
航「まあゼロではないけど」
小野澤「事故だ・・・、何の事故だ?交通、災害、・・・人身事故だったら・・・」
航「最近、お金渡したりした?」
小野澤「はい!?」
航「なんかそういう場合、そういう事よく聞くじゃん」
小野澤「お金はちょくちょく出しますよ!彼氏なんすから」
航「いくら?」
小野澤「分かんないっすよ!」
航「・・・写真は?」
小野澤「お互い写真撮らないタイプなんで」
航「知らねえよ」
小野澤「え、詐欺なんすか!?そんな感じ、全然ないで
すよ・・・」
泣く小野澤。店内の時計は3時を過ぎている。航、ため息。

〇有楽町・オフィス(昼)
デスクワークをしている航。大きなあくび。小野澤が気になる。航、小野澤に「大丈夫か?」とLINEをする。
×     ×     ×
22時過ぎ。仕事が終わる航。
スマホを出し、小野澤からの連絡を確認するが、既読も付いていない。ため息する航。その時、
航「あっ」
航、権田の探偵話を思い出す。

〇喫茶店(昼)
航と小野澤、座っている。対面には、権田と探偵・諏訪部(40)。
諏訪部「チアアップ探偵社の諏訪部です」
航「ん、えっと・・・」
権田「俺の上司です」
諏訪部「研修期間に勝手に案件引き受けてはいけないって言ったよね」
権田「すいません」
気まずい沈黙。
諏訪部「ごめんなさいね」
航「・・探偵もそういう期間あるんですね」
諏訪部「あるよ。いきなり現場出れないでしょ。どの仕事も同じ。詐欺師も強盗犯にも研修期間ってありますから」
航「え、あ、そうなんすね・・・」
諏訪部「まあでも学生時代の友人と今でも付き合いがあるのはいい事ですよ」
航「あ、・・ありがとうございます」
諏訪部「私の学生時代のフレンズ達は会社に飲み込まれたか、奥さんに飲み込まれたか、はたまたもうこの世にいないかで連絡取れないですから」
航「・・・そうなんすね」
諏訪部「私の話、かったるいですか?」
航「いや、全然」
小野澤「・・・いえ、はい」
諏訪部「冗談ですよ。案件の話だとどうしても重苦しくなるので。心のアイスブレイクです」
航「・・ありがとうございます」
諏訪部、写真を出す。
諏訪部「お伺いした情報から調べました」
小野澤「それで!?」
諏訪部、女性の写真を取り出す。
小野澤「あ!彼女です!」
航「え?・・・これ」
航、写真を取り上げ、まじまじと見る。
権田「まさかだよ・・・」
小野澤「先輩知ってるんすか!?」
航「おまえ、この人・・・」

〇歩道(昼)
歩いている航と小野澤。
小野澤「あいつ・・・」
航「・・・付き合ってたの?」
小野澤「なんなんだよ・・・」
航「・・・結婚考えてたのって」
小野澤「あすかですよ!聞いて驚きましたよ!」
航「最初会った時に気づくだろ」
小野澤「先輩の好きだった人なんて覚えてないっすよ!?」
航「そうじゃなくて、付き合ってたら途中で高校どこみたいな話になって、そこからさ!だって高校の時芳野と帰る為に、俺お前に部室前で張り込みさせて、芳野が来たら、お前が俺にメールして、偶然装って一緒に帰ろと・・・」
小野澤「普通、高校どこだったのとか聞かないっすよ!
あとそこまで高校の時の事覚えてないです」
航「ああ?」
小野澤「俺、先輩みたいに高校時代振り返らなきゃいけないほど、今に不満ないですから!」
航、小野澤の胸ぐらを掴む。
航「なにそれ?」
小野澤「・・・運命だと思ってたのに・・・」
小野澤、地面に崩れる。航、発狂。それに驚く小野澤。
航「・・・なんでお前が付き合ってんだよ」
小野澤「まだ好きだったんすか?」
航、小野澤の胸ぐらを再び掴む。
小野澤「やめてくださいよぉお!」
航「・・・ああああぁああ!」
航、小野澤を振りほどく。
小野澤「なんでおれの人生・・・」
泣き崩れる小野澤。
航「・・・こっちだよ」

〇東京の景観(数日後)

〇居酒屋(夜)
座敷席にいる航、権田、小野澤、伊藤、向井、城之内、三嶋。  
最初の注文が終わり、店員はけていく。
小野澤「なんすか、これ・・・」
航「知らねえよ・・・」
権田「皆さん2時間制だからね!」
伊藤「三嶋~!久々っ!」
三嶋「伊藤!」
向井「(三嶋に)あ、A組、ワンダーフォーゲル部だった向井です」
三嶋「(向井に)話すの初めてだよね?D組、陸上部だった三嶋です」
城之内、三嶋の横に来て、
城之内「A組、バレー部だった城之内です~」
三嶋「城之内!結婚おめでとう!」
城之内「ありがとう!三嶋どうなんだよ?」
三嶋「おれも・・・してる!二児の父」
「うぇ~い!」、「すげ~!」などと盛り上がる航と小野澤以外の面々。
×     ×     ×
飲み食いしながら喋ってる面々。気まずそうな航と小野澤。
航M「どうやら権田が企画したらしい」
×     ×     ×
数十分後。盛り上がってる面々。まだ気まずそうな航と小野澤。
航M「だが決してあの話題を触れてきたり、なぐさめられたり、愚痴を聞いてくれたりしたわけではなかった」
×     ×     ×
さらに盛り上がっている面々。航と小野澤も輪の中に入って盛り上がっている。
航M「ただ酒の力と思い出話のおかげで、いつの間にかいつも通りになっていた」

〇城之内家(深夜)
和室で雑魚寝している航、権田、小野澤。
航M「この日終電を逃した俺と権田と小野澤。城之内の新居に泊めさせてもらった」

〇同・玄関(朝)
城之内家を出る航、権田、小野澤。お見送りをしている城之内夫妻。
航「ほんとありがとう」
小野澤「すいませんありがとうございました」
城之内「全然。頑張って」
茉由「また是非!」
権田「また来ます!」
一瞬固まる空気。
航「・・・そうじゃないのよ」
権田「なにが?」
城之内「出た」
権田「(茉由に)いいっすよね!?」
茉由「え、うん。はいっ」
航「(権田に)行くぞ」
出発する航、権田、小野澤。

〇レンタカー屋(朝)
一台の軽自動車の前に航、権田、小野澤。
権田「・・・健闘を祈る」
小野澤「ありがとうございます」
抱き合う権田と小野澤。その後運転席に乗る小野澤。
航「(権田に)サンキューな」
権田「航!グッドラックぅう!!」
航、助手席に乗る。発進する車。

〇高速道路(朝)
走る車。八王子方面の標識。

〇八王子市内・住宅地(昼)
車内。張り込んでいる航と小野澤。
小野澤「俺が言うのもなんすけど、この緊張、部活以来っす」
航「社会人になって緊張する事ってなくなったな~。ストレスは沢山だけど」
小野澤「先輩もあすか好きですもんね」
航「地獄落とすぞ」
路地から茶髪でツーサイドアップの髪型に赤スウェットで歩いている女が通る。あすかだ。気づく2人。航、あすかの姿に驚く。
航「・・・あれ?」
小野澤「・・・はい。寝起きあんな感じです」
航「・・・そうなんだ」
小野澤「・・・行ってきます」
×     ×      ×
歩道。あすか、歩いていると目の前に現れる小野澤。
小野澤「・・・あすか」
あすか「え!?」
小野澤「なんで?」
あすか「ごめん・・・」
あすか、行こうとする。
小野澤「待ってよ!ねえぇ!?」
小野澤、あすかを引き留めると、
あすか「やめて!」
あすかの声に注目してくる歩行者たち。
小野澤「いやいや!?え、ちょ・・・」
あすか、振りほどき行こうとすると、
航「芳野!」
航、あすかの前に立つ。
あすか「は!?・・・ん?えっと・・・」
あすか、誰だか分かっていない。
航「・・・。あ、竹林。高校同じだった・・」
あすか「そうだ!・・・え、なんで」

〇ファミレス(昼)
航と小野澤、座っている。対面にあすか。
あすか「みんな東柏高だ!」
航「うん、それは今いいから」
小野澤「・・・結婚してるよね」
あすか「ごめんなさい。だから清算したかった。というか・・・」
小野澤「清算?え、俺はなんだったの?」
あすか「なんて言えばいいか、分からなくて」
ジャージにサングラスの男性、店内に入ってくる。
あすかの隣に座る男性。
男性「何?」
小野澤「・・・おまえか」
男性「ああ?」
小野澤「・・・あ?してんのか、結婚」
男性「何言ってんの?」
サングラスを取る男性。ダブルドッヂのメンバー・佐野優理(35)。
小野澤「え!?ユーリ?ダブルドッヂの・・」
航「うそ・・・」
佐野「なんなん?」
小野澤「いや・・・ファンです」
呆然としている航。
佐野「あ、芸能人だからとかで、脅そうとするのやめてくださいね」
小野澤「え・・・」
佐野「こっちもあんたたち一般人くらい、簡単に事務所の力でやれますからね」
あすか、佐野に身体を寄せる。
小野澤「お2人はご結婚され・・・」
航「(小野澤に)いや、違う・・・」

〇航の回想
先日の目撃したあすかのウエディングフォト。相手の新郎は佐野とは全く別の男性。

〇ファミレス(昼)
現在。佐野に身体を寄せているあすか。
航M「ん?」

〇航の回想
5年前の電車内。話している航とあすか。
あすか「あ~。もう聴いてないんだよね」
航「え、そうなの」
あすか「なんかどんどん売れて大きくなってさ、逆に冷めちゃったんだよね~」

〇ファミレス(昼)
現在。佐野に身体を寄せているあすか。
航M「んん?」

〇航の回想
先日の居酒屋。飲んでいる航と小野澤。
小野澤「でも彼女今はあんまりなんすよ。韓国とエヴァにハマっちゃって!」
航「聞いてない」

〇ファミレス(昼)
現在。佐野に身体を寄せているあすか。
航M「あ、ユーリも騙されてるのか。そしたら芳野、何人と・・・。てかもうダブルドッヂ聴いてないって・・・」

〇東柏高校・野球部部室(朝)
10年前。朝練終わり。着替えている部員たち。航、ガラケーからダブルドッヂの曲を大音量で流している。
部員1「航、曲うるせーよ!」
航「聴いて!めちゃくちゃいいから」
ドアのノック音。
部員2「誰?」
あすか「だれかけてるの?この曲!」
部員3「いや、あなたは誰!?」
あすか「ダブルドッヂ好きなんですか~!」
ザワザワする航と部員たち。しびれをきらしてドアを開けるあすか。
裸を隠す部員たち。「ふざけんなよ!」「閉めろよ!」などと言っている。
あすか、反応から航が曲をかけていたと察する。
あすか「・・・ですか?」
航、軽く会釈する。
あすか「え、好きなんですか?ダブルドッヂ」
航「・・・。はい」

〇ファミレス(昼)
現在。泣き笑いの航。
あすか「え?」
小野澤「・・・先輩?」
航「ごめん。・・曲はもう聴かないのに、そういう関係にはなるんだと思って・・」
さらに泣き笑う航。
あすか「え」
佐野「なに?やば」
小野澤「ちょ!先輩!?」
より泣き笑う航。
佐野「なんなんだよ、こいつ!?」
あすか「え、(航に)大丈夫?」
店内の客たちの視線が集まる。「あれ、ユーリじゃない?」、「芸能人!?」などの声や、スマホを向ける客も。
佐野「(それらに)ざけんなよっ」
小野澤「(航に)ちょ!?泣けるなら僕が泣きたいんですよぉ!泣くべきなの僕なんすよぉおお!」
収集が付かない状態。
 
〇高速道路(夕)
八王子から都心へ戻っている車。車内。
小野澤「クソがぁああ!!」
航「ごめん。でも、ちょっとボリューム落として」
小野澤「とんでもねえ女だわ!あとあいつ、ユーリ!!今までライブ外れててよかった~!外す運命だったんすよ俺ら!運営感謝っすわ!」
航「・・・前見て」
小野澤「まじ、おれあいつの悪口ネットでめっちゃ書き込みます!」
航「捕まるよ。このご時世すぐバレるから」
小野澤「いや、悪いのあいつらじゃないすか」
航「でもそのやり方もなんかダサくない?」
小野澤「ツイッターで駄文呟いてる先輩の方がダサいっす」
航「前から思ってたけど、俺のツイート、駄文っていうのやめて」
小野澤「あ~!先輩、おれのスマホ、Bluetoothで繋いでください」
航「え」
小野澤「音楽かけましょ」
航、小野澤のスマホをBluetoothで車内と繋げる。
小野澤「シャッフルで」
航、シャッフルボタンを押すと、Mr.Childrenの『HANABI』が流れる。
小野澤「あ~、やっぱミスチルですわ」
航「間違いないね」
小野澤「ダブルドッヂじゃなくてよかった~」
航「・・・・・たしかに」
車内に夕日が差し込む。

〇航の家(朝)
寝ている航。スヌーズが鳴り続けてる。航、スマホを投げる。だがスヌーズは止まらない。布団から出て止めに行く航。

〇電車内(朝)
満員の車内。スマホをいじっている航。

〇有楽町駅(朝)
改札から出てくる航。会社へ向かう。
有楽町駅からは徒歩3分なのですぐ着く。
  
〇社員食堂(昼)
定食セットを食べている航。横にはミルクプリン。スマホでマッチングアプリを調べている航。「女性無料、男性1か月4000円」の見出し。
航M「高っ」

〇航の部屋(夜)
缶ビールを飲みながら、スマホでマッチングアプリを調べている航。
「カップル・新婚の幸せ体験の声!」のページを見ている。
×     ×     ×
缶ビールを飲みながら、部屋の掃除をしている航。掃除をしているとノートPCが物の山に埋もれている事に気づく。
×     ×     ×
PCの電源ボタンを押し、操作する航。

〇有楽町・オフィス内
自身のデスクで電話対応をしている航。
  
〇航の家(夜)
PCを操作している航。ブログ作成の会員登録のページだ。
×     ×     ×
ブログを書いている航。
「高3の夏、朝練後の部室である曲をかけていた・・」などと入力している。
×     ×     ×
数時間後。まだ書いている航。
×     ×     ×
朝。ようやく書き終わる航。スマホのスヌーズが鳴る。止める航。
時刻は、いつもの起床時間。航、文章を保存しようとすると画面に「タイトルを入力してください」と出る。
航「タイトル・・・」
悩む航。スマホの時間を確認する。
航「(時間が)やばい」
悩む航。先日会ったあすかの容姿と服装を思い出す。
航「あれっ、なんだ・・。あっ」
航、「茶髪 赤い服 ツーサイドアップ」とネット検索する。スクロールし見ていくと、新世紀エヴァンゲリオンの登場人物・アスカが出てくる。
航M「うわっ・・・まじか・・・」
エヴァのタイトルロゴを見ている航。
タイトル欄に「四半世紀ウマクイカナイ」と入力。
航M「とりあえず・・・」
ブログを保存し、出勤の準備をする航。
                      おわり

「四半世紀ウマクイカナイ」(PDFファイル:639.21 KB)
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