愛の消えた街 舞台

本音と建前の世の中。 人世に絶望した主人公の鬼塚は、その世の中で1日だけ本音のみで生活してみる。しかし、本音だけで生きると何事も上手くいかない。  しかし中には本音しか話さない鬼塚を良いと言ってくれる人がいる。  本音と建前の人間社会で1日、本音のみで生きた主人公がたどり着いた答えとは…。
古屋貴幸 607 6 0 04/14
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第一稿

「愛の消えた街」(戯曲)
        不条理劇。

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「愛の消えた街」(戯曲)
        不条理劇。

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古屋 貴幸(ふるや たかゆき)

【登場人物】
鬼塚…野良犬のような男。暴力的という意味ではない。
   人世に絶望し、心に極度の疲労倦怠感を抱えている。
優子…鬼塚の元同僚。八方美人。
センコー…鬼塚の元担任。現実主義者。
正子…鬼塚の元カノ。美人。サバサバしていて男っぽい。
輝男…鬼塚の学生時代の親友。成功者。何でも持っている。
男…謎の人物。

酔っ払いのおっさん。輝男の部下。キャバ嬢。



「愛の消えた街」
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1 路地裏
   客席が檻になっている。
   舞台下手には檻に入る為のドアがある。
   上手には何もない。

   現代。
   昼下がりの路地裏。
   舞台上に鬼塚の姿。
   下手から優子登場。

優子「あれ?おにくんじゃない?(手を振りながら駆け寄る)わー!やっぱりおにくんだぁ」
鬼塚「優子?」
優子「ねえねえ!会うのいつぶりだや?お元気してたっ?」
鬼塚「ああ、まあ」
優子「そかそか。なら良かった」

   優子、満面の笑みを浮かべたままさらに鬼塚に近づく。

優子「ね〜。ほんっとお久しぶりだね。何してたのぉ?」
鬼塚「することないから散歩してた」
優子「ほわわぁ〜。お散歩いいねぇ〜。今日はぽかぽかだから、お散歩気持ちいいだろうなぁ〜」
鬼塚「そっちは?」   
優子「ゆっこはねぇ、これからだーいすきなお友達のお誕生日プレゼントを買いに行ところなんだ
 ッ」
鬼塚「そうなんだ」
優子「ねぇねぇ!そう言えばおにくんあのお仕事は順調なの?」
鬼塚「ああ。頑張ってる」
優子「はりゃりゃー。なら良かったぁ」
鬼塚「毎日残業タダ働きさせられて不満しかないけど」
優子「ふふふ。おにくんは偉いね」
鬼塚「は?偉い?」
優子「だってさ、毎日タダで残業してあげてるんでしょ?そんなことゆっこにはできないもん」
鬼塚「…ありがと」

   優子、鬼塚をまじまじと見て

優子「…おにくんなんか雰囲気変わったね」
鬼塚「そう?」
優子「(可愛く笑って)なんかかっこよくなった」

   少しの間

鬼塚「(別に嬉しくない)ありがと」

   と、どこからともなく野良猫が飛び出してくる。
   優子野良猫に近づいていく。

優子「ほわわぁー。かわいい〜」
   
   優子野良猫を撫でる。
   被っていた帽子を取り野良猫と戯れる。
   しばらくその姿を面倒くさそうに眺めている鬼塚。

鬼塚「あれ?おまえ髪型変えた?」
優子「うん!パッツンにしてみたの」

  「全然似合っていない」

鬼塚「(まじまじと見て)前の方がいいと思うよ。正直、全く似合ってない」
優子「(嫌な気持ちを隠して明るく)ひどーい!ゆっこ自信なくなっちゃうからそんなこと言わな
 いでよぉ」
鬼塚「だって本当のことだから。(きっぱりと)前の方が似合ってた」
優子「ぶぅ…。今日から頑張ってワカメたくさん食べるからいいもん!」
鬼塚「たくさん食べるといいわ」
優子「でもでも、ゆっこのお友達はみんな似
合ってる。かわいいーって言ってくれたからいいもん!」
鬼塚「ならそのまんまでいいんじゃね?」
優子「もー!おにくんのばかばかばかぁ」

   優子、鬼塚のことをぽかぽかと叩く。

鬼塚「痛って。おまえさっきから何なんだよ」
優子「おにくん乙女心わかってない。そんなんじゃ女の子にもてないよーだ」
鬼塚「俺は嘘も世辞も嫌いなんだ」
優子「どうせゆっこはブサイクですよーだ」
鬼塚「そんなこと一言も言ってねぇだろ」
優子「(場の空気をよくしようと気を使って)じゃあ逆にどんな髪型ならゆっこに似合うと思
 う?」

   鬼塚携帯を取り出して調べだす。

鬼塚「これとかどう?あとこれとか可愛くない?」
優子「えー。これ絶対ゆっこ似合わないよぉ。モデルの女の子がかわいいから可愛く見えるだけだ
 よぉ〜」 

   鬼塚さらに調べる。

鬼塚「じゃあこれとか。これとか」
優子「ううん…」
鬼塚「(面倒くさくなって)じゃあぱっつんなる前の写真見せてよ」
優子「いいよ(優子携帯を取り出してキメ顔の自撮り写メを見せてくる)」
鬼塚「あ、いいじゃん!断然こっちだよ!せっかく可愛いんだからもったいないよ」
優子「(機嫌が直る)えー全然可愛くないよぉ。ゆっこブスだもん。ほんと自分の顔イヤ…」
鬼塚「女子のそういうのってさ、本当にそう思って言ってるの?」
優子「えっ?だってゆっこより可愛い子たくさんいるもん」
鬼塚「…」
優子「でもでも、可愛いって言ってくれて、おにくんありがとッ。嬉しかったや。おにくんに褒め
 てもらえて、ゆっこ自信ついた」

  と、上手から酔っ払いが歩いてきて派手に転ぶ。
  鬼塚駆け寄る。
  それを見て優子も駆け寄る。

鬼塚「おい。大丈夫か。」
酔っ払い「…すみません」

  鬼塚酔っ払いを起こしてやる。

鬼塚「うわ。酒くせえ。おっさん飲みすぎだろ」
酔っ払い「ありがとうございます」
鬼塚「気をつけろよ」

   鬼塚が立ち去ろうとすると、優子がバックから白いハンカチを取り出し、酔っ払いの顔につ
   いた泥を拭き始める。

酔っ払い「あ、すみません。すみません」
優子「(天使のような笑顔で)どういたしまして。お怪我はありませんでしたか?」
酔っ払い「(嬉しそうに怪我を探しながら)…大丈夫みたいです。」
優子「(とても安心して)はあー。良かったぁ〜」
   
   酔っ払い、ちょっと擦って赤くなった程度の軽い傷口を発見し、さりげなく優子にアピール
   をする
   が優子は気づいていないふりをする。
   酔っ払い、優子のハンカチが泥で汚れていることに気づく。
酔っ払い「あ、ハンカチが…」
優子「(天使のような笑顔で)いいんですよ。こんなの洗えばいいんですから」
酔っ払い「いやいやよくないですよ。私のせいでお姉ちゃんのハンカチが…」
鬼塚「おい。おっさん大丈夫そうだしもう行こうぜ」
酔っ払い「(聞こえないふりをして)でもお姉ちゃんのハンカチ汚してしまって…それにこんなに
 優しくしてくれて…(頑張って泣こうする)お姉ちゃんは本当に優しい人だね。私なんかに…(さらに頑張って泣こうとする)実は私…先月、長年勤めた会社を首になりまして…それで…」
鬼塚「(遮って)なあ!おっさん!。おまえもう大丈夫なんだろ。ぐちぐち言ってねぇでとっとと
 立てよ!」
酔っ払い「私はお姉ちゃんと話してるんだ」
鬼塚「うるせぇ。おい、行くぞ」

   鬼塚、優子の腕を掴んで連れて行く。
   優子が振り返ると、酔っ払いがよろけて転ぶふりをする。

優子「はわわ。おじさん大丈夫かや。一人で歩けるかなぁ」
鬼塚「んなこと知ったこっちゃねぇ」
優子「うー。おにくん酷いよぉ。おじさんのこと心配じゃないの?」

   鬼塚、優子の手を振り払って

鬼塚「そんなに心配ならおまえ一人で行ってこい」
優子「えー。一人は怖いもん…(鬼塚に気を使い)でもでもゆっこ一人だったら怖くて声かけられ
 なかったよ。おにくんが先に声掛けてくれたおかげで、ゆっこも声掛けることができたんだよ。
 だから鬼くんありがと」

       (間)

鬼塚「おまえ、そのハンカチどうすんだ」
優子「どうって?」
鬼塚「俺なら速攻捨てるな。だってあのおっさんすっげえ臭かったろ。フケとかもついてたし。汚
 ねぇじゃん」
優子「でもでも、これゆっこがずっとずっと欲しいって言い続けてたグラッチェのハンカチで…そ
 れを聞いたパピタスが、ゆっこの誕生日にプレゼントしてくれた大切な大切なハンカチなの」
鬼塚「…パピタス?」
優子「あ!ゆっこのパパのことだよぉ」
鬼塚「おまえすげーな…いろいろと…。てか、そんな大切なもん俺なら絶対あんなことには使わな
 い」
優子「だって必死だったから…」
鬼塚「(ぞんざいに)おまえは俺と違って優しいんだな」
優子「ねぇ。さっきから何なの?何なのその言い方!」
鬼塚「だってそれがおまえなりの優しさなんだろ?」
優子「おにくんってこれっぽっちも優しさなんて持ち合わせてないんだね。困ってる人を助けてあ
 げることがそんなにいけないことなの?悪いけどゆっこにはおにくんの考えてることが理解でき
 ない。ゆっこは困ってる人がいたら力になってあげたいし助けてあげたい。それに鬼くんなんで
 そんなに上から目線なの?自分勝手すぎるよ。もう嫌。もう無理!おにくん今日はありがとう
 ね。じゃあね」

   優子、上手に去る。
   鬼塚その後ろ姿を見つめてる。
   優子の態度に極度の疲労倦怠感を覚える。
   鬼塚、上手に去る。 


2 氷上高校
   校門がある。
   鬼塚、下手から歩いてくる。
   タバコをくわえた少年たちが学校を抜け出そうとしている。
   と、上手からセンコーの怒鳴り声。
   センコー上手より登場。

センコー「おい。待て!お前らみたいな出来損ないは全員退学処分にしてやるからな!」

   よく見ると鬼塚の元担任である。
   鬼塚その様子を憎しみと孤独の入り混じった表情で眺めている。
   センコー鬼塚に気付き。

センコー「(まだ興奮した顔つきで)おお、鬼塚。久しぶりだな。元気だったか?」
鬼塚「ああ。まあな…」
センコー「(鬼塚が敬語を使わないことに腹を立てつつも大人の対応で)いやあ。今な、うちのバ
 カ共が校内でタバコ吸ってたから叱ってたところなんだよ。ははは」
鬼塚「そういや退学処分って聞こえたんだけど?」
センコー「ああ、あれか。あれはうちの高校の問題だ。お前には関係のないことだよ。はいはいも
 う行きなさい。俺は忙しいんだ」 
    
   センコー上手に向かって歩き出す。

鬼塚「(小声で)おまえそれでも教師かよ」
センコー「鬼塚、今なんて言った?」
鬼塚「おまえはそれでも人にものを教えられる立場なのかって言ったんだ」
センコー「おい、おまえ誰に向かって口聞いてるんだ!!」
鬼塚「そういうところだよ」
センコー「あぁ?なにが言いたいんだ」
鬼塚「昔からずっと思ってたけどお前はセンコーには向いてないぜ」
センコー「鬼塚!おまえ先生に向かってなんて口の利き方だ!」 
鬼塚「いや俺、もうここの生徒じゃねぇし(笑う)それにこの際だからはっきり言うけど、俺、お
 まえのこと一度も先生だなんて思ったことねぇから」

   センコー怒りでみるみるうちに顔が赤くなっていく。
   鬼塚さらにたたみかける

鬼塚「俺がもしおまえの立場だったらあんな酷い言葉は口がさけても使わない。たかだタバコ一本
 で退学だと…笑わせんな!おまえら何様のつもりなんだよ。人の人生なんだと思ってんだ!悪い
 ことをしたからこそ学校や社会で生きていけるように導いてやるのがおまえらの役目なんじゃね
 ぇのかよ。生まれた瞬間から悪い奴なんていないんだ。だからあいつらの犯した小さな罪は、あ
 いつらが抱えてる悲しさの裏返しかもしれないだろ。(感情が徐々に溢れ出す)それなのに頭ご
 なしに怒鳴りつけて罰を与えるだけじゃおまえらをさらに憎むだけだ。罰を与えるよりもまず先
 にあいつらの抱えている不満や葛藤と向き合ってやるのが先なんじゃねぇのかよ。お前があいつ
 らの罪を許して理解しようと歩み寄ってやれば、あいつらは非行を犯さずに済んだかもしれねぇ
 だろ。あいつらが求めているものはきっと単純なことなんだと思うぜ。少なくともあいつらぐら
 いの頃の俺はそうだった」
センコー「(呆れた顔で)まるで子供だな。(哀れみの目で)鬼塚、人間ってのはな、社会で生き
 ていくためには自分を抑制できなきゃならないんだ。相手の気持ちを考えて他人を尊重して行動
 できなきゃならない。だから社会にはルールや規則があるんだ。それを守れない奴は社会では生
 きていけない。それを教えてやるのが俺たちの役目だ。人は妥協をして世の中と折り合いをつけ
 て大人になっていく生き物なんだ。だからな」

   鬼塚いきなりセンコーの胸ぐらを掴み、殴りかかる。

鬼塚「くそ!俺はな、俺はな、そういうことを言ってるんじゃないんだ。おまえらは何も分かっち
 ゃいない」
センコー「お、おい。何すんだ」
鬼塚「おまえはあいつらの人生をちゃんと考えてるのか!あいつらが何を求めてるのか、それにつ
 いて少しでも考えてやったことはあるのか!!」

   鬼塚殴り続ける
   SE「野次馬たちの声」

鬼塚「(涙ぐみ)くそ…くそ…どいつもこいつも」

   鬼塚、上手にはける。

3 保育園
   保育園の前。
   SE「子供達の声」
   子供達が遊んでいる姿をぼうっと眺めている鬼塚。
   初めて少しだけ柔らかい表情になる。
   舞台“下手”から子供の声。

声「先生、先生、さっきからずっとあそこに変な人がいるよ」

   正子 “下手”からやってくる。

正子「…あのすみません…そこで何やってるんですか」
鬼塚「…!?」
正子「…!!」
鬼塚「え?おまえ何でここに」
正子「そっちこそ」

    久しぶりの対面で気まずい二人

正子「…なんか変わったね」
鬼塚「今日その台詞言われるの二回目だよ…」
正子「だろうね。なんかすごく老けたもん。別人みたい」
鬼塚「(嬉しそうに)ありがとうな」
正子「は?なによ急に。気持ち悪い」
鬼塚「いや…(急に明るくなり)そんなことよりおまえにぴったりだな!この仕事!」
正子「どうして? 正直、私…この仕事自分には向いてないって思ってる…どうしてそう思う
 の?」
鬼塚「だって子供って心が綺麗だろう」
正子「そうね。思ってることを正直にぶつけてくれるもんね」
鬼塚「(嬉しそうに)だな」

    (間)

正子「ねえ…私、どう見える?」
鬼塚「そうだな…おまえって昔から暗い顔してる時、ほんっとブスだよな」
正子「そ、そっちだってしばらく会わない間に老け込んでダサくなったんじゃない?」

 笑い合う二人。
   しばらくしてから。

正子「…ねえ。どうして私を好きになったの?」
鬼塚「なんで急にそんなこと聞くんだよ」
正子「だって…そういえば初めて褒められたと思って。付き合ってた頃はけなされてばかりだった
 気がする。私さ…自分で言うのもなんだけど…美人だと思んだ。大学のミスコンだって優勝した
 し、街を歩けばしょっちゅうスカウトだってされるよ。みんなが私のことを綺麗とか可愛いとか
 言ってくれる。私から見た目をとったら何にも残らないんだから…」

    (間)

鬼塚「なあ、そういやさっき鈴木のセンコーにあったよ」
正子「(露骨に嫌な顔をして)うわ、出た。鈴木。私、ああいう熱血体育会系のノリで自分の価値
 観を押し付けてくるタイプ!ホント無理なんだよね。ナルシストって感じがしてきもい」

   鬼塚笑顔で聞いている

正子「なによ、気持ち悪い」
鬼塚「(笑顔で)いや、なんでもない」
正子「ちょっと私の質問にちゃんと答えてよね」
鬼塚「おまえはさ、可愛いって言われてどうなのよ?」
正子「そりゃあ好きな人に言われたら嬉しいよ。でも男なんて結局顔しか見てないんだなって思っ
 ちゃう。中には内面を褒めてくれる人もいるけどさ…もし私が大火傷をして顔が爛れて美しさを
 失うか、年老いて美しさを失ったら…内面を褒めてくれた人たちだってすぐに離れていって相手
 してくれなくなると思うの。だって褒め言葉の裏側はいつも必ず、もし良かったら今度一緒にお
 食事でもって言葉が隠れていたから…。私を口説いてきた人達、きっとブスな女の子には同じ態
 度で優しく語りかけたりしないわ。だから…私にとって内面はおまけでしかないの。飾りなの
 よ…(切り替えて)って私めちゃめちゃ性格悪いね。ほんっと嫌な女」
鬼塚「(笑いながら)確かに性格悪いかもな。さっきの言葉なんか世の中のブスを全員敵に回すぜ(真顔になって)でもだからおまえは美しいんだよ。愛することもなく、傷つけることもなく、互
 いに本音を隠し合って生きている…今の世の中、美人の仮面を被った奴らが多すぎるからさ…」

   (長い間)

正子「ありがと…嬉しい」

   と、園児たちの先生を呼ぶ声が聞こえて来る。

園児たちの声「せんせー。正子せんせー。どこにいるのー?おやつまだー?あそぼー。絵本読んで
 ー」などど口々に言う。

正子「はーい。みんな待たせちゃってごめんね。今行くよー」
鬼塚「(笑顔で)大人気だな」
正子「ごめんね。私もう行かなきゃ。久しぶりに会えて良かった。私…なんか頑張れそう」
鬼塚「おまえさっきすごくいい笑顔してたよ。それにあの子たちもおまえのことが大好きなんだ 
 な。(微笑みを浮かべ)それはきっとおまえがあの子達と同じで、仮面を被れない人間だから
 だ」
正子「(とびっきり可愛い顔で)もう!!さっきから泣かせようとしてるでしょ。やめて!でも…
 やっぱり私にはこの仕事が向いてるのかなって思えた。ありがと。また今度ゆっくりした時に話
 したいな。もしよかったら今度一緒にお食事でもしながら。なんちゃってね…ふふふ」
   正子嬉しそうに小走りで下手にはける。
   鬼塚、上手にはける。

4 夜の路上
   鬼塚、下手より登場。
   上手から、キャバ嬢と酔っぱらった親父が腕を組んで歩いてくる。
   キャバ嬢がしきりに親父を褒めて何かをおねだりしている。
   次に上手から、社長らしき立派な身なりの人物とその部下が歩いてくる。
   部下がしきりに社長に媚を売り胡麻を擂っている。社長は迷惑そう。
   社長が何やら指示をすると部下は頭を下げて足早に帰っていく。
   鬼塚、深いため息をつく。

鬼塚「虚飾と欺瞞に満ちた世界だ…あいつらの中に幸せな人はいるのかな」

   と、社長らしき人物が手を上げながら鬼塚の元に近づいてくる。
   鬼塚の学生時代の親友、輝男である。
   どこか悲壮感こそあるものの、重々しい威厳と品格のある立派な身なりの人物である。

輝男「(緊張感のある厳しい表情のまま)…鬼塚?…だよな?」
鬼塚「え、え?おまえ輝男か?」
輝男「やっぱり鬼塚か」

   鬼塚、輝男のあまりの変貌ぶりに驚く

鬼塚「一瞬、誰だかわからなかった…」
輝男「それ昔馴染みの奴等によく言われるよ」
鬼塚「だろうな。昔のおまえ地味だったもんな」
輝男「今はどうかな?」
鬼塚「ま、多少は垢抜けしたんじゃね!少なくとも俺と比べたらな」
輝男「鬼塚節は健在ですな」
鬼塚「帰ってるところなのか?」
輝男「ああ。でもせっかく久さしぶりに会ったんだ。少しそこの公園で話さないか」
鬼塚「だな」

6 夜の公園
   輝男と鬼塚がベンチに座っている。
   ベンチの後ろには美しいバラの花壇が広がっている。
   輝男、被ってた高価そうな帽子を取りネクタイを緩める。
   頭皮が少し禿げ始まっている。
   輝男、この場面から徐々に肩の力が抜けてゆき、表情も柔らかくなっていく。

輝男「はぁ。久しぶりにのんびりしたよ」
鬼塚「そんなに忙しいのか?」
輝男「まぁな」
鬼塚「だから禿げてんのか」
輝男「あははは。これは違うんだ」
鬼塚「違う?」
輝男「ああ。きっとストレスさ。(冗談めかしく)お金を稼ぐってのは色々と大変なんだぞ」
鬼塚「ストレスって仕事のか?見た感じ身なりもいいし、金に困ってるようには見えねーけど」
輝男「(鬼塚の本心を探る為にわざと明るく)おや?おや?。鬼塚くんは僕のサクセスストーリーに興味
 がおありかい?」
鬼塚「(きっぱりと)いや、正直言って全くねぇな。だって俺にとって今のおまえはただの禿げた
 おっさんだからな」
輝男「(その言葉を聞いて嬉しそうな表情で)禿げ、か、け、た、な!」
鬼塚「俺の中のおまえは大学時代のままで止まってるからさ(鬼塚愛情を持って輝男を弄りだす)
 まあ残念なことにこの辺は別人になっちまったみたいだけどな。これ以上禿げたら一緒に歩くの
 恥ずかしいから友達やめるかもわからんぜ(笑う)」

   輝男の顔から完全に緊張が解ける。

輝男「(柔らかい笑顔で)ははは。残念だったな鬼塚くん。この禿げ、か、け、た、おじさんはお
 金だけは持っているんだ。今の時代は植毛技術が発達してるんだぞ」
鬼塚「でも金はあってもアートネーチャーに通えるだけの暇がない」
輝男「あ…う…負けました」

   笑い合う二人。
   鬼塚、拳を突き出す。
   鬼塚と輝男、拳と拳をぶつけ合う。
   しばらくして、

輝男「ごめんな」
鬼塚「は?何がだよ?」
輝男「俺は一瞬、鬼塚のことを疑いそうになったよ」
鬼塚「疑う?」
輝男「ああ。他の人達と同じなんじゃないかと思って…」
鬼塚「他の人達?」  
   輝男、少し考えてから話し出す。
輝男「俺は今とある会社の社長をしてるんだ。経営は上手くいってるし、生活にも不自由してな
 い。でもお金を持つと人が集まってくるんだ…そしてお金に集まってきた人間はろくな人間じゃ
 ない。それにな、成功したら手の平を返したかのように周りの人間が急に優しくなったんだ。初
 めて起業した時は散々バカにされたのにだよ。ずっと連絡取ってなかった人達からいきなり連絡
 が着たりもした…。この間なんか高校時代にこっぴどく振られた女の子から会いたいって連絡が
 来たよ(笑う)もちろん最初の頃は素直に嬉しかったさ。みんなが俺の成功を自分のことのよう
 に喜んでくれている。応援してくれているって感じたよ。でも違ったんだ。実際にその人達と接
 してみてそうじゃないってことがよく分かった。あいつらが興味を持っていたのは俺にじゃな
 い。俺の地位と名誉と金にだったんだって…もし俺が、今持っている地位や名誉や金を失った
 ら…きっと今俺の周りにいる殆どの人間が俺から離れていくだろうな…」
   
   (短い間)

輝男「(切り変えて)でも一人だけそんなものよりも、俺の後頭部に興味を持った変わり者がいた
 けどな(笑う)」
鬼塚「(笑いながら)へー。そんな変わり者がいたのか。一体どんなやつなんだ?」
輝男「(微笑みを浮かべて)多少乱暴で、でも自分に正直で、俺にないものをたくさん持っている
 俺の古い親友さ」

   輝男、柔らかい笑顔で拳を突き出す。鬼塚拳を突き合わせる。
   鬼塚、涙をこらえる。
   涙を見せまいと、話題を変えようと、

鬼塚「なあ!おまえラップって知ってるか?」
輝男「え?…まあ。詳しくはないけど」
鬼塚「最初にラップを考えた人って愛情深いよな」
輝男「どうして?」
鬼塚「だってラップは相手のことをディスるだろう」
輝男「MCバトルのことか?」
鬼塚「そう。MCバトルって喧嘩が絶えなかった貧困地区で喧嘩をなくすために生まれたものらし
 いぜ。殴り合いの喧嘩になるのを避けるために音楽で勝敗をつけようとたのがきっかけなんだ
 と」
輝男「へえーそうなのか。ああ、なるほど。だからMCバトルは悪口を言い合うのか」
鬼塚「すごいよな本音を言い合った方が喧嘩にならないんだぜ」
輝男「(自分にも思い当たるところがあって)…なんか深いな」
鬼塚「人間社会は本音と建前の世界だからな」
輝男「…そうだよな」
鬼塚「みんな違ってみんないいとか言うけどさ、あれ、みんな一緒でみんないいの間違いだろ」
輝男「(苦笑して)すごいパンチラインだな」

   と、輝男の携帯が鳴る
   輝男の帰りが遅いのを心配した妻からの電話である。

輝男「遅くなってごめん。実はさっき鬼塚に会ってさ…うん。うん。分かったよ。もうすぐ帰るか
 らね」
鬼塚「奥さんか?」
輝男「ああ、そろそろ帰らなきゃ」
鬼塚「(おどけて)おい!パンチラインは飛んできたか?」
輝男「(笑顔で)ああ!どぎついのがな!」
鬼塚「(羨ましそうに)仲いいんだな」
輝男「まあね。俺の妻は俺が成功してからも全く態度を変えなかったんだ。まあそれでたまに困る
 こともあるけど(笑う)でもこれだけははっきりと言える。自分が何も持っていなかった頃に側
 にいて支えてくれた人、そして成功してからも態度を変えなかった人。そういう人達だけは絶対
 に大切にしなきゃいけない。そういう人たちはなかなかいないものなんだ。お金よりも価値のあ
 る財産なんだ。成功した途端に人は態度を変える生き物で、集まってくる生き物なんだ。だから
 鬼塚が昔と同じように接してくれて嬉かったよ。(時計を見て)そろそろ帰らなきゃ。今度また
 ゆっくり話そうな。仕事が落ち着いたら連絡するよ」
鬼塚「おまえも色々と苦労してんだな。ああ、またな」

   輝男、上手に去る。
   鬼塚、しばらく一人でベンチに座わり考え事をしている。
   辺りが徐々に暗くなっていく。
   鬼塚、誰かに語りかけるように独り言を言う。
   
鬼塚「僕は今日一日、本音と建前の世の中で、本音だけで生きてみた。人と深く関わり合いたかっ
 たからだ。僕は誰もが幸せになれる、そんな瞬間を本当に求めているんだ。だけどいつかそんな
 不自由にも慣れてしまうから、いつかそんな苦しみにも慣れてしまうから、いつか諦めがつくか
 ら。そんなふうに風が言うんだ。僕はそのたびに耳を塞ぎ、僕はそのたびに、まるで誰かを傷つ
 けるように、愛と正義と真実を求めて歩き続けたんだ。でも偽りの幸せしか見つけることができ
 なった。世間は常に虚飾に満ち溢れているんだ」

   と、いつの間にか身なりの悪い男が鬼塚の側にいて話しかけてくる。

男「隣いいですか」

   鬼塚、別段驚かない。

鬼塚「ああ」
男「今、何時ですか」
鬼塚「22時30分だ」
男「終電までまだ時間があるな…少しここで時間を潰させて貰ってもいいですか?」
鬼塚「ああ」
男「…話をしてもいいですか」
鬼塚「好きにしろよ」
男「えーっと、とても美しいバラですね」
鬼塚「ああ。そうだな。それに美しいトゲだ」
男「美しい花にはトゲがあるといいますからね。(侮蔑的な皮肉を込めて)人間とは逆です
 ね」   
鬼塚「ああ。その通りだ」

    静寂。

男「…私、どう見えますか?」
鬼塚「乞食みたいだな」
男「はっきり言いますね」
鬼塚「ああ。俺は嘘も世辞も嫌いなんだ」
男「他にはどう見えますか?」
鬼塚「顔は土人のように真っ黒だし、不潔そうだ」
男「他には?」
鬼塚「ビッコ引いてるし、まるでかたわのようだな」
男「(嬉しそうに)あなたは優しいお方ですね」
鬼塚「なぜそう思う?」
男「例えば5人の人間がいたら、きっとその中の4人はこんな身なりの私を差別するでしょう。中
 には優しい言葉をかけてくれる人もいるかもしれない。でもきっと私はその言葉を聞くたびに死
 にたい気持ちになるでしょう。みんな私のことを見下して誰一人として私と対等に接してくれな
 った。でもあなたは違った。他の方々と接した時と同じように本音だけで私と接してくれた。だ
 からあなたはいい人なのです」

    静寂。

男「もう少し話をしてもいいですか?」
鬼塚「…ああ」

   (少しの間)

男「(客席を見て)いやぁ綺麗な夜景ですね」
鬼塚「そうか?薄汚れた雲に隠れてて俺にはよく見えないな」
男「あの灯りの一つ一つに人が暮らしているんですよね。あの灯りの一つ一つに、そこで暮らす
 人々のドラマや人生が詰まっているってわけだ」
鬼塚「こうやって見るとどの灯りもほとんど同じに見えるな」
男「おたく面白いことを言いますね。灯りに個性を求めるなんて」
    
鬼塚、ビル(客席)を指差して。

鬼塚「あのビル見てみろよ。どの部屋も同じ色の灯りがついてるだろう」
男「そりゃあビルの一部屋だけ全く違う色の灯りがついてたらおかしいですからね」
鬼塚「人間と同じだ」
男「(興味深げに)どういう意味ですか?」
鬼塚「みんな一緒で…みんないい…」
男「みんな一緒?」
鬼塚「俺にはあのビルの灯り一つ一つが、檻で隔離されているように見える」
男「(不気味な笑みを浮かべ)なんか動物園みたいですね」

鬼塚、動物園という言葉に過剰反応する。

鬼塚「そうだ。人間社会は動物園のようなものなのかもしれない。自分らしさの檻で隔離されてる
 からだ。誰だって自分らしく生きたいと思うはずだ。でも自分らしさに拘り過ぎると社会からは
 み出してしまう。人間社会は本音のみでは生きていけない。建前が必要なんだ。人間は歳をとる
 ごとに妥協をして自ら檻の中に入っていく。(失望して)そうして他人と心の底から関わること
 をやめてしまうんだ…」
男「(嬉々として)やっぱり思った通りだ。あなたは優しいお方だ」
鬼塚「なあ…人間と動物の違いって何だと思う?」
男「難しい質問ですね…うーん…言葉を話せるかどうかとかですかね?」
鬼塚「違うな」
男「じゃあ、あなたはどうお考えなんですか?」
鬼塚「人間は全ての生き物の中で唯一、自殺をする生き物だと思う。そしていつか死ぬ事を知って
 いて生きている生き物だと思う」
男「面白い見解ですね。もっと続きが聞きたいです」
鬼塚「だから人間一人一人の存在にはかけがえのない価値があるんだ。思考する力だ。だからこそ
 人間には、他人に支配されることなく自分の意思で自由に人生を生きる権利があるはずだ」
男「ほうほう。なるほど。自分の意思で生きている人とは?」
鬼塚「芸術家はもしかしたらそうなのかもしれないな。だって一流の芸術家は口を揃えて言うじゃ
 ないか。やらして戴いてるんじゃない。俺が、私が、やってるんだって。…そう、きっと大切な
 のは主体性なんだ」
男「どうして?」
鬼塚「人生は自分のしたいことのためにあるべきだからだ」
男「これまた興味深い。あなたは自分の人生を生きていない人達がいると仰るのですね?」
鬼塚「そうだ。自由は仕組まれているんだ。その仕組まれた自由に縛られた人達のことだ」
男「面白い!!それはどんな人達なんですか?」
鬼塚「安全な檻にこもり…あるがままの姿でと関わることをやめてしまった孤独な人達…」
男「ふむふむ、つまりは?」
鬼塚「つまりは…植物的な人達…」
男「なるほど、ではあなたは?あなたなどんな植物なんですか?」
鬼塚「(気力なくうなだれて)俺は…俺は…きっと動物的だ。でも…例えて言うなら野良犬だと思
 う…」
    
   【ここから男の様子が徐々におかしくなってくる】

男「(狂気的なまでに嬉々として拍手喝采を送りながら)ブラボー!ブラボー!いやーいいね!!
 もう一声!もう一声だ!もっともっと聞かせておくれよ。その話を。君の葛藤を!!!君の渇望
 を!!!君は、君は、幸せって何だと思う?真実の情愛とはなんだと思う?僕に聞かせておく
 れ。人間の真実を!君の言うこの世の間違った心理ってやつを!!頼む!!頼むよ!!プリーー
 ーズ、プリーーーーズ!!!」

   鬼塚は謎の男に操られたかのように語りだす。

鬼塚「…みんなの求める幸せはつまらない。本当に愚かでつまらない。みんな残酷なんだ…」
男「その気持ち、俺ならわかってあげられるかもしれない。だから続きを聞かせておくれ。(急に
 優しくなり)君はずっとずっと孤独だったんだね。ずっとずっと一人ぼっちで、ずっとずっと愛
 情に飢えて生きたんだね。だから愛して欲しいがために全てを愛そうとしたんだ。だって、だっ
 て、こんなにも人とのコミュニケーションを希求しているじゃないか。こんなにも愛について深
 く考えてるじゃないか。きっと君にしか見えない世界があるんだろう?僕に話してごらん。なあ
 に恥ずかしがることはない。僕は君の味方さ」

   次の長台詞は演説のようなイメージ。
   ヒトラーの演説のようなイメージで、静寂から始まり徐々に盛り上がりを見せていく。抑揚
   やメリハリがあり、大切な言葉をあえて繰り返し使ったり、ジェスチャーなどを駆使して、
   徐々に人心掌握していき、聴衆を暗示にかけるようなイメージ。
   その際、書かれている指示は無視して頂いても構いません。

鬼塚「(しばらくの静寂)僕は…ずっと真実の愛について考えてきた。みんなに本当の意味で幸せ
 になって欲しかったからだ…。そしてある結論を導き出した。現状に適応してトラブルなく日々
 を過ごしている僕らのその行為が、身近な人間関係に敏感すぎるほど敏感な人間関係を作り出し
 ていると…そしてその行為こそが、現代人の断絶をより深刻なものにしてるんだと…だって誰も
 が安全な檻にこもって自分を守るばかりで、愛することもなく、傷つけることもなく、互いに本
 音を隠し合って生きているんだ…。  
  
    しばしの静寂   
    【ここから徐々に力強い権威を帯びていく】
  
 だから僕は考えた。誰かが人間の真実を証明し、この世の間違った真理を覆えさなければならな
 いと。だってそうだろう?差別を受けて生きてきた君ならきっと理解してくれるはずだ。上っ面
 の優しさは相手に嫌われたくない自分の弱さや、自分を良く見せるための自己愛なんだ。自己欺
 瞞なんだ。決して他人愛じゃない。偽りの情愛だ。(さらに権威を力強く示し)だが実際はどう
 だ?今日の僕の姿を見ていたらよく分かるだろう(誇張して)本音を話すと世間からつまはじき
 を食らうんだ。分かり合えるのはほんの一握りの人間とだけ。(侮蔑的に)この愛の消えた街で
 生き残れるのは一流の役者になれる者だけなんだ!だからみんなの求める幸せは愚かで下らない
 んだ。(叫ぶ)俺はこの世界を支配している間違った真理をぶっ壊したい!!!
     
      静寂。

(訴えかけるように)だって本当はみんな自由になりたいんだ。愛したいし愛されたいはずだ。自
 分以外の他人に支配され、縛られて生きていたないはずだ。みんなが幸せを求めている。つまり
 はみんな自由になりたいんだ。でも現実はどうだ。(皮肉と侮蔑を込めて)まるでこの世は動物
 園だ。人々は自分以外の他人に支配され、檻の中で言動を制限された息苦しい日々を過ごしてい
 る。人間はみんな檻の中にいて、他人に自分の人生を歩まされているんだ!だってそうだろう?
 君達だって本当に大切な人々の前では本当の自分をさらけ出せるだろう?怒り狂えるだろう?そ
 れは相手のことを心から受け入れて信頼しているからなんじゃないだろうか…。

     短い静寂

(ここぞとばかりに強調して)本当の愛情とは時には相手を傷つけることにあるんじゃないだろう
 か。それなのに人は人を傷つけることを恐れ、次には優しさを口にする。それの繰り返しだ。優
 しさを口にするたびに人間はみんな傷付いていくんだ!!!

     静寂。

(失望し、ため息まじりに)…この何も起こらない…何の関係も生まれない…矛盾した世界で…僕
 たちは妥協をして…互いに交わることなく…孤独にまみれて生きていく…。この心がすれ違い続
 ける世界で…どうして愛なんて言葉が生まれたのだろう…もしも僕に愛する人がいたのなら…愛
 してくれる人がいたのなら…いつの日かその答えを見い出せたのかもしれない…。

   神経をすり減らし、極度に疲弊仕切った様子の鬼塚。
 
 我々は互いに仮面を被り合い、自分を演じた、偽りの言動で関わりあって生きている…人間一人
 一人の存在には掛け替えのない価値があるはずなのに…だからこそ神は、我々に思考する権利
 と、それを伝えるための言葉を与えたのではないだろうか。人々が互いを愛するために(強調し
 て)そして人々が自分の人生を歩むために…(この上なく哀願して)なあ、みんな、そうだろ
 う」    

   上手から優子、センコー、正子、輝男が出てくる。
   が、誰一人として、鬼塚の声に耳を傾けない。
   
   SE【大勢の人々の笑い声】
  
鬼塚「…そうやって真実から目を背け、まともなふりをしていたいのなら、俺のことをおかしな奴
 だと笑い続けていればいい。何がこの世で一番大切なのかを知っているのは俺の方だ!!

  【この辺りから徐々に盛り上がっていき、この長台詞の中で最大の盛り上がりを見せる】
  
(誇張して)人間、一人一人の存在には偉大な価値と可能性があるはずなんだ!!それなのに、そ
 れなのに、どうしてこの街はこんなにも悲しみに満ち溢れているんだろう…。この街を、耳を澄
 まし、目を凝らし、注意深く見てみるんだ。幸せそうなふりをして孤独の海を泳いでいる人たち
 の存在に気づくはずだ。(ここから最大限の権威と愛情を示し出す)どうしてあの少女たちは少
 ないあぶく銭の為に自分の体を売るような行為を繰り返すんだ。あの少女達にはそんな汚いあぶ
 く銭とは比べ物にならないくらいの価値と可能性があったはずだ。ただ人よりちょっと優しく 
 て、ただ人よりちょっと傷つきやすくて、ただ人よりちょっとだけ自分の存在価値に気付けなか
 っただけだ。さらに注意深く街角を見るがいい。どうして、貧富の差が生まれるんだ。どうして
 イジメが起きるんだ。どうして虐待が起きるんだ。どうしてあの子にはパパがいないんだ。どう
 してあの子にはママがいないんだ。どうしてあの人は泣いているんだ。どうしてあの人はナイフ
 で刺されたんだ。どうしてあの人は殺されたんだ。どうして不倫なんかしたんだ。どうしてあい
 つは首を吊ったんだ。どうして、どうして、どうして、どうして、どうして人間は平等じゃない
 だ!!自由じゃないんだ!!孤独な人が、不幸な人が、生まれるんだ!!だからだ、だからだ、
 だから自分の存在に誇りを持って、自分の意思で!自分の力で!自分の人生を切り開いていかな
 ければならないんだ!!誇りを持って社会の不条理と戦うんだ!自分の為に!!自分の権利の為
 に!!自分の夢の為に!!自分のプライドの為に!!守りたい人の為に!!愛する人の為に!!
 戦え、戦え、戦え、戦え、戦え、戦えー!!!このみじめで、臆病な、檻の中で怯えているだけ
 の植物野郎どもめ!!!この残酷な世界では誰もおまえ達のことを助けてくれやしないぞ。おま
 え達を守れるのはおまえ達自身だ!おまえたちの人生を切り開いてくれるのはおまえ達自身だ。
 戦え、戦え、戦え、戦え、戦えよ……(涙を流し)どうして…どうしてなんだ…どうしてお前達
 は立派な牙を持っているのに檻の中で怯えているだけなんだ。どうして妥協をするんだ。どうし
 て本音を隠すんだ。どうして諦めるんだ…どうして…どうして…」
  
   鬼塚、極度に疲弊しきった様子。
   
   静寂。
   
   ようやく、疲れ切った様子で弱々しく話し出す。
  
鬼塚「…誰だって自分らしく生きたいと思うはずだ…でも自分らしさに拘ると社会からはみ出して
 しまう…だから人は大人になるにつれて妥協をして、自ら安全な檻の中に入っていくんだ…そし
 て他人と心から関わることを辞めてしまう…本当の愛情というものは、時には相手を傷つけるこ
 とにあるのに…そしていつの日か自分以外の他人に支配されることにも慣れていき、主張をしな
 くなってゆく…そしていつの日か自分らしく生きることを忘れてしまう…夢を忘れ、自分の価値
 を主張することも忘れてしまう。人生は自分のしたいことのためにあるんだ」 
 
   鬼塚、その場に立っていられないほど、神経をすり減らし、疲弊して、崩れ落ちるようにそ
   の場に座り込む。
   男がその様子を満足そうな笑みを浮かべて眺めている。

男「(おどけるように)だ、そうだ。確かになぁ!人生は一度きりしかないんだぞ!それなのにな
 ぜ君たちは自分の人生を生きようとしていない?だから君たちの本音を聞かせておくれよ!普段
 建前で隠している君たちの本音をだ!教えておくれ。本音と建前の世界で生きる葛藤を!世間の
 声ってやつを!なんたって俺は……(不敵に笑い)君たちの味方でもあるからな」

   舞台後方明転。
   優子、センコー、正子、輝男の姿。 
   優子にピンライトが当たる。
   男が聞き役になる。

優子「ゆっこはね、みんなが幸せで、みんながキラキラ笑顔で毎日を過ごせますよーにッ!ってい
 っつもそうお願いしてるの。だってだって、ゆっこはみんなのことだいだいだーいすきだから。
 だからね、誰にも嫌われたくないの。みんなと仲良くしていたいの。みんなのことがとおーって
 も大切なの。みんなの気持ちをもっともっと考えてあげたいの。だからね、ゆっこの周りでいじ
 められてる人や嫌われてる人がいたら、ゆっこはその人たちの味方になるよ。ゆっこはその人た
 ちのお友達になるよ。ゆっこの周りで困ってる人がいたらゆっこは絶対に親切にする。お年寄り
 や子供たちのことはとおーっても大切にする。(急に真顔になり)私、人に優しくしてる自分が
 大好きなの。だから人に優しくしてるところをもっと見て欲しい。みんなに可愛いね。いい子だ
 ね。って言って欲しい。(残酷な表情になり)私、自分のことが大好きなのよ。みんなに私だけ
 を見て欲しい。常にみんなのアイドルであり続けたいの。常に私が一番じゃなきゃ嫌なのよ。で
 もそれっていけないことかしら?」
男「そんなことないさ!だって自分を愛せない人は他人を愛せないっていうだろ。それに君の優し
 さに喜んでる人達だってきっとたくさんいるはずだ」
優子「(またいつもの調子に戻り)ぶう…ゆっこあんなに酷いこと言ったのに…優しい言葉たちを
 ありがと。ゆっこ本当はね…自分に自信がないだけなの。だからたぶん、無意識なうちに自己防
 衛してたり…人に優しくしてしまったり…ゆっこなりに一生懸命な行動してるつもりなんだけ
 ど…悪気はないんだけど…なにが正解なんだろうね。みんなと仲良くしていたいだけなのに…た
 まにゆっこが原因でお友達のことを傷つけちゃうことがあるんだ…。この間もね、一緒にご飯食
 べたり水族館に遊びに行ったりしてた男の子にいきなり告白されて…ゆっこは、その男の子のこ
 とは人として好きなだけだったから…お断りしたら…思わせぶりだって言われちゃったんだ
 や…。(泣き出す)高校生の頃もね、同じクラスで虐められている男の子がいたから…お話しし
 たり一緒に帰ったりしてあげてたら、その男の子に好きになられちゃったんだや…。その時も同
 じ言葉を言われたの…(さらに泣く)ゆっこね、ゆっこね、たまに自分のことが嫌いになっちゃ
 う…。ゆっこはみんなといい関係でいたいし、ずっとずっとみんなと仲良くしていたいだけな
 の。だから誰のことも傷つけたくないの。でもそれが原因で八方美人とかぶりっ子とか言われち
 ゃうこともあるの…。だからたまにね…自分でもどうしたらいいのか分からなくなっっちゃう
 の…。(守ってあげたくなるような可愛い表情で男のことを見る)」
男「ゆっこはとっても優しい子だと思うよ。人のために自分を犠牲にできる人なんだね。まるで天
 使のようだ」
優子「ぶう…。でもでも、ゆっこそんないい子じゃないもん…」
    
   男、優子の頭を撫でながら

男「俺はこんなに優しい子、見たことないよ」
優子「じゃあ、じゃあ、あなたはゆっこが泣いてるの見てどう思った?」
男「どうしてそんなこと聞くの?」
優子「みんなによく、泣けばいいと思ってるんでしょって言われるから…。ゆっこもね、女の涙は
 ずるいって思うから頑張って堪えてるんだよ…でもでも…我慢してても涙ぽろぽろしちゃうんだ
 もん…ゆっこ泣き虫だから…(泣く)」
男「ゆっこが泣いてる所を見てどう思ったか…俺は正直、抱きしめてあげたい と思ったかな」
優子「(天使のように微笑んで)抱きしめられたらきっと幸せな気持ちになったんだろうなあ」

   男、優子を抱きしめる
   暗転。
   センコーにピンライトが当たる。

センコー「前にも言ったが、人は世の中と折り合いをつけて、妥協をして大人になっていく生き物
 なんだ。世間や人は、自分の思い通りにならなくて当たり前だ。だから自分を変えていくんだ。
 年を取るごとに自分を抑制できるようになっていく。確かに10代の頃はアイデンティティにつ
 いて深く考えるだろう。自分は何のために生まれてきたのか?自分は何者なのか?とかな。そし
 て反抗もするだろう。俺も教師の端くれだ。その辺の思春期の心の動きは理解でしているつもり
 さ。確かに自分らしく生きることにこだわりを持って生きることは大切なことだ。その通りだ。
 しかし、その上で俺の意見を言うとだな、いつまでも自分を捨てずに生き続けることなんて不可
 能なんだ。妥協せずに生きていくことは不可能なんだよ。勝ち続けることは不可能なんだ。世の
 中、当たり前のことを当たり前だと思うことが大切なんだ。おまえは戦っても無駄なものと戦っ
 ている。自分の未熟さを受け入れろ。いつまでも叶わない夢や理想を追いかけては生きていけな
 いんだ。可能性よりも現実を見ろ。リスクのあるチャンスより安定を求めろ。いい加減、大人に
 なれよ。人生、諦め時が肝心なんだ」
  
   徐々にセンコーのピンライトが消えてゆく。

センコー「俺は分別のある人間だ。大人だ。俺の言うことは全て正しいんだ」
  
   徐々に暗転していく。

男「よ!さすが、先生!短い言葉の中にも説得力がある。理想より現実!リスクより安定!いやい
 やその通り!普通に生活して普通に生きて行くことだって立派な幸せだ!俺もその通りだと思い
 ますぜ!!(拍手喝采を送る)」

    暗転。
   
   正子にピンライトが当たる。
   正子、いつも通りサバサバした話し方で話し出す。

正子「私に勝手な幻想を抱かないで。私は自分が美人だってちゃんと自覚してる。でもこういうこ
 とを言うと自信過剰だのなんだの言われて批判の対象になる。だからといって私なんて可愛くな
 いよ。普通だよ。なんて言った日にはもっと批判される。よく人から羨ましがられるけど、私は
 美人と言われるせいで、悩みまくり損しまくりの人生だった。美人を活かせる仕事に就けば少し
 は違ったのかもしれないけど…でも私は芸能界やキャバクラみたいな派手な世界が苦手なの。私
 は手に職をつけて堅実に生きていきたい。現実的な人間なの。私が勤めてる保育園にははっきり
 言って美人なんて一人もいない。ブスばっかりよ。だから私だけいつも過大評価されて、目立っ
 て、噂されて、他の女の子たちとは違う扱いをされてきたわ。そのせいで他の女の子たちから嫉
 妬されてたくさん陰口を言われた。面接の時なんか、この仕事は女を捨てなきゃいけないくらい
 大変な仕事なんだよ。あなたはきっとモテてきただろうから、デートも合コンもできないような
 生活なんて無理でしょう?って言われて落とされたりもしたわ。仕事でミスをした時なんて、先
 輩にあなたはチヤホヤされて甘やかされて生きてきたから根性がないんだね。だから何もできな
 いんだ。どうせすぐ男作って寿退社するんでしょ?若くて綺麗な子は気楽でいいわね。って一回
 りも年上の先輩に真顔で嫌味を言われたわ。それで悔しくって泣いたら、その人なんて言ったと
 思う?今までそうやって泣いて許して貰って生きてきたんだろうけど、私はその辺の男たちと違
 って甘くないから。って言ったのよ。ほんっとぶん殴ってやろうかと思った!美人だからって先
 入観もたれて、誤解されて、嫉妬されて、いろんな人に悪口も言われて…。(言葉に詰まる)他
 にも痴漢だってしょっちゅうされるし、しつこくナンパしてくる人もいるし…。それに今の職 
 で働く前に働いてた職場なんか上司のセクハラが酷くて、それが原因で不眠症になって辞めた
 し…高校生の頃はバイト先の客にストーカーされたこともあるわ。それにね、私を口説いてくる
 男って基本自分に自信があるかナルシストが多いの。私と街を歩いていると男の品格が上がると
 かわけわかんないこと言って私のことをアクセサリーみたいな扱いしたり、性の対象として扱わ
 れたり…私はいつも見た目で判断されて生きてきた。(悲しみに溢れて)中身なんて誰にも見て
 くれないのよ。誰も私自身を見てくれないの。だから時々ね、鏡で自分の顔を見ていて怖くな
 る…見た目に全てが掛かってるって思うととても怖くなる…。チヤホヤしてもらえるのは若いう
 ちだけだって分かってるから…。私も女だから不細工に生まれたかったとは言わないけど…で
 も…普通に生まれて、普通の公務員と結婚して、普通の生活がしたかった。私の人生この顔のせ
 いでめちゃくちゃなのよ!!!」

   正子、本音を話すたびに傷つき、神経をすり減らし、精神的に疲弊仕った様子。
   本音を話したことで正子の心に恐怖が生まれる。

正子「(うつむいて)…私って本当に…嫌味な女ね。(客席を見て)…あなたたちの目にもきっと
 私は性格の悪い高飛車な女に写ってることでしょうね…。贅沢で、自意識過剰で…悲劇のヒロイ
 ンになりたがってる自分のことが大好きな女…」

   正子のピンライトが消える。

男「彼が君に惹かれた理由が分かった気がする。君は本音を話せる(強調して)美しい女性だから
 だ。そして君が彼みたいな男に惹かれた理由もね」

    暗転。

   舞台のひときわ高い位置に座ってる輝
   男にピンライトが当たる。

輝男「勝ち続けることも大変なんだ。私の家はとても貧乏だった。私は生活保護を受けていた母親
 に、女手一つで育てられた。貧乏が原因でイジメられた事もあった。小学生の頃、近所に住んで
 た金持の家の子供に、お前の家は貧乏だからこんな物食えないだろうと言われ、顔にケーキを投
 げつけられた事もあった。その時、私はどうしたと思う?…私は怒る所か顔についたそのケーキ
 を必死になって食べたんだ。挙げ句の果てには地面に落ちたケーキまで綺麗に食べた。(徐々に
 感情的になるがしっかりと自制できている)…私は子供の頃からずっと成り上がる事を夢見てき
 た。いつか必ず金持ちになってこんな生活抜け出してやると熱望し必死に働いた。成功するまで
 に何度も何度も挫折を重ねたが、私は決して諦めなかった。失敗や逆境の中には必ずそれに見合
 った利益があると信じ、常に前だけを見て走り続けた。私は自分の力で成り上がったんだ。リス
 クのない所にチャンスはない。そしてチャンスは自分で作って掴むものだ。
     
       (間)

 それなのにどいつもこいつも下らないアピールばかりしてくる…(感情的にはなっているが怒鳴
 るわけではない。しっかりと自制を保ったまま)…俺はお前達が信用できない。どいつもこいつ
 も馬鹿みたいな欺瞞の笑顔を ぶら下げて話しかけてきやがって。あいつら俺のことをしきりに
 褒めたり、俺の話をアホズラ下げて熱心に聞いてるふりをする。でもそれは俺から仕事を貰いた
 いからだ。あいつら結局自分のことしか考えていないのさ。俺のことを尊敬してるだと?ふざけ
 んな。自分の力で這い上がってこい。言葉じゃなく行動で示せってんだ。仕事が欲しいなら人一
 倍、誰よりも努力をした上でアピールしてこい。中途端な覚悟で楽しようとするな。(自制を保
 ちつつもさらに怒りが漏れ出る)簡単に負けず嫌いという言葉を口にできる奴らにも注意が必要
 だ。簡単にそういう言葉を口にする奴らは決まって頑張ってる自分に酔ってる奴らだ。そして決
 まって他人の評価をいちいち気にするちんけな奴らだ。自分の評価は自分でするもんだ。世間が
 どう思うかじゃない、自分がどう思うかが大切なんだ。本当に負けたくないと思ってる奴は見え
 ない所で誰よりも努力してる。そして努力は人 に話した時点で努力じゃなくなるんだ。(輝
 男、鬼塚と会った時のように目に力を帯びていく)自分、ヤル気あります、何があっても絶対に
 諦めません。みたいな強い言葉を平気で口にできる奴らにはもっと要注意が必要だ。俺の経験
 上、そういう言葉を平気で口にできる奴らは必ず消えていった。結婚したり、新しい目標を見つ
 けたり、何かと聞こえのいい言い訳をつけては辞めていった。俺はそんな中途半端な連中が大嫌
 いだった。俺には何が起きても絶対に諦めない強い覚悟があった。俺は人生の全てをかけて、命
 をかけて、この仕事をしてきた。お前らとは掛けてきたものと覚悟が違うんだ!!…でも一人だ
 け俺の部下で骨のある奴がいた。そいつはただただこの仕事が好きだからずっと続けていたい。
 僕は何をするよりもこの仕事が大好きなんです。といつも楽しそうに言っていた。俺は、こいつ
 は何があっても諦めない根性のある奴だと思った。そしてそいつは仕事が好きだから誰よりも努
 力のできる奴でもあった。(声を大きくして)努力は自信に比例する 自分が積み重ねてきた物
 に信念とプライドを持ってるそいつは、平気で俺にも意見をぶつけてきた。俺はそれが嬉しかっ
 た。俺はこの地位に着くまでにいろんな人間と付き合ったからそいつの目を見たら分かる。そい
 つは俺に媚を売って成り上がる気持ちなんて微塵もなかった。誰よりもいい仕事がしたい。大好
 きなこの仕事で認められたい。という情熱が伝わってきた。俺はいつしかそいつにチャンスを与
 えてやりたいと思うようになった。誰よりも気持ちが強くて、常に仕事のことを考えてるくらい
 自分の仕事に誇りを持っていたそいつは、どんどん結果を出していき、今ではうちの会社の副社
 長に成長した。

    静寂。

 (深いため息)金や地位を持つと人は集まってくる。そして金や地位に集まってきた人間はろく
 な人間じゃない。(さっきまでとは別人のように目に力がなくなり)私が成功してから私の周り
 の人間は本当に変わった。急に優しくなったり親切になったりした。ずっと連絡を取ってなかっ
 た人からいきなり連絡が来て飲みに誘われたりもした。(孤独と葛藤に溢れ)…もううんざりな
 んだ…色眼鏡で見られることに…あいつらの媚び諂ったつくり笑いを見ることに…俺のことを利
 用しようとする奴らに…。だからな…鬼塚…おまえが俺を色眼鏡で見ずに昔と同じように接して
 くれたことが心から嬉しかった。些細なことかもしれないけど…俺にとっては金や名誉よりも…
 もっともっと遥かに価値のあるものだった…」

   輝男のピンライトが弱まっていく。

男「まさか成功者の君が、何も持っていない敗北者の鬼塚くんに憧れていたとはなあ!」

   緊張が抜け、優しい表情になる輝男。

輝男「俺はな、今まで自分の本心を偽って、本当の自分を抑制して生きてきたんだ。でも鬼塚と出
 会って、鬼塚が自分を偽ることなく自分に正直に生きていることや、俺に対して他の人に接する
 のと同じように接してくれている事に気付いて、その中に鬼塚の愛情を感じたんだ。本音の裏に
 建前がないと生きていけないこの世の中で、鬼塚が誰に対しても自分を飾ることなく本音で接し
 ていることに俺は悪意なんか感じられなかった。人に対する愛情を人一倍強く持ってる奴なんだ
 って感じたんだ。だからかな。俺はあいつが羨ましかったし、自分とは正反対の生き方をしてい
 るあいつに興味を持ったんだ」
男「君がこの4人の中で一番話したね!それだけ普段自分を抑えてるってことだな!…そして君だ
 けが必死に戦おうとしていた。自分の人生を生きようと必死にもがいていた。ただ正子と違って
 本音を話すことが少々苦手なようだがな…」

   暗転。  
   静寂。
   男にピンライトが当たる。

男「なるほどねぇ!いろんな生き方があることがよく分かったよ!本音を隠し、自分を演じて生き
 る者。夢や理想よりも安定を求め、社会に適応して現実を生きる者。自分らしく生きたいともが
 き苦しむ者。夢を求め、リスクを冒し、全てを手に入れたはずなのに本音と建前の世間に苦しむ
 者。たった四人の人生だけでもこれだけの物語があるわけだ。しかしそれは君たちの本音が聞け
 たから分かったことだ。こんなにも普段の君たちが本音を隠して生きていたとはなぁ。(不敵に
 笑いながら)自分を殺して生きていたとはな。さあ!さあ!さあ!せっかく楽しくなってきたん
 だ!この調子で世間の本音と建前を見ていこうじゃないか!建前の裏にある本音ってやつに、迫
 ってみようではないか!」

   舞台後方明転。
   優子、センコー、正子、輝男の姿。
   ここからは一旦自分の役を忘れて個々がそれぞれの人物になる。
    
優子「この猫可愛いー」
SE「この猫可愛いって言ってる私可愛いー」
正子「お客様、その服とっても似合いますね。すごく可愛い〜」
SE「んなこたどうでもいいからとっとと買えよ」
輝男「今日は俺が誘ったし俺が奢るよ」
SE「せめて財布くらいは出してくれよおお」
男「へーお前彼女できたんだ。(写メを見る)めっちゃ性格良さそうな子じゃん」
SE「あんなに自慢するから期待したのに…めっちゃブス(爆笑)」
優子「(可愛く)今度舞台出るから○○くんに見に来て欲しいな。頑張ってる姿を○○くんに見て貰
 いたいの」
SE「チケットノルマ! チケットノルマ!」
正子「(口説かれている)仕事が忙しいので落ち着いたらまた連絡しますね」
SE「一生落ちつかねーよ。察してくれ」
優子「○○君だったら絶対素敵な彼女できると思うな」
SE「社交辞令です」
男「そんなに落ち込むなよ(優子の頭をポンポンと撫でる)
SE「(いやらしい声で)確か女はこれが好きなんだよな」
優子「抱きしめられたらきっと幸せな気持ちになったんだろうなあ」
SE「ほんっと男って単純。ちょろいな」

   落ち込む男。

正子「フリスク食べる?」
SE「口くせーよ」
男「俺、恋愛とか興味ないんだよね。彼女とかいらないし」
SE「(鼻息荒く)オンナ!オンナ!オンナ!」
優子「個性的な服ですね。雰囲気ある!」
SE「だっせえwww」
正子「○○くんやっぱり頼りになる〜」
SE「って言っとけば、また便利に使えるでしょ」
男「ストッーーーープ!!!」

    暗転。
    男と鬼塚を残し、全員上手にはける。
    長い静寂。     

男「(男の態度が豹変する)これがおまえの言う残酷な世界の姿なんだろう?」

    長い間。

鬼塚「(極度の疲労倦怠感を覚えて)…ああ。そうだ。でもこれはかなりいい方さ。社会はもっと
 複雑で残酷なんだ…だからおまえたちの生き方は誰一人として間違っちゃいない。だってそうす
 ることが社会に適応して生きていくって事なんだもんな。俺は本当の愛情とは、時には相手を傷
 つけることにあると思っていた。今でもそう信じているよ。でも…今日一日、本音だけで生きて
 みてよく分かったよ。そしておまえ達の隠し持っていた本音を聞いてよく分かったよ……この虚
 飾と欺瞞にまみれた社会を生き抜くためにはずる賢くならなきゃいけない。そして計算高くなら
 なきゃいけない。つまり自分を殺して生きていかなきゃいけないんだ。

   長い間
   客席の方を向く。

 (皮肉を込めて)……だから俺もおまえ達と同じように自分を殺すことにしたんだ」

   男、不敵な笑みを浮かべる

男「さあ。そろそろ終電の時間だ」

   鬼塚、ピクリと反応する。

男「なあ、おまえはみんながみんな、言いたい事を言えるような世の中になったらどうなると思
 う?」
鬼塚「おまえはどう思うんだ?」
男「社会の均衡がめちゃくちゃになるだろうな」
鬼塚「そうかな?俺は自殺者が減ると思うけどな」
男「じゃあ、みんながみんな自分のやりたいことのために人生を費やすようになったらどうなると
 思う?」
鬼塚「おまえの答えは?」
男「失業者が増えるだろうな」
鬼塚「そうか?俺は街に笑顔があふれて幸せな人が増えると思うけどな」   

    静寂。

男「じゃあ行こうか」
鬼塚「ああ」
    
    男、舞台後方に向かって歩き出す。
    少しして鬼塚も歩き出す。
    男と鬼塚、交差し交わるように歩く。
    やがて二人の影は一直線状で重り、男の姿が鬼塚の影に隠れて見えなくなる。
   (客席からは一人の人間に見える状態)   
    鬼塚と男、舞台奥で立ち止まる。
    遠くで踏切の音がする。
    遠くで列車の汽笛の音がする。
    列車の音が近づいてくる。
    列車の音がさらに近づいてくる。
    列車のブレーキ音。
                                         


  
                    【幕】

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