くれよん 舞台

ある日、母が出ていった。何も言わずに、姉妹を置いて。 二人の姉妹は両親の過去を旅していく。柔らかなくれよんで、家族の形をなぞるように。
髙尾 大樹 10 0 0 05/22
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第一稿

「くれよん」
                

父 
母 
姉 
妹 
ヤン1 
ヤン2 
先生 
子供 




 開演。舞台上には父親と姉妹がい ...続きを読む
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「くれよん」
                

父 
母 
姉 
妹 
ヤン1 
ヤン2 
先生 
子供 




 開演。舞台上には父親と姉妹がいる。
 セリフきっかけで照明。

妹 何で、ねぇ何で!?
父親 …………。
妹 何か言ってよ!
父親 ……。
妹 何も言わない。いっつもそうだね。
父親 ……。
妹 そんなんだからお母さん出てくんだよ!!
姉 ちょっと、マイ。言い過ぎ、
妹 知らない。バカ!!
父親 母さんの、
妹 何!?
父親 母さんの荷物だけ、まとめといてくれ。
妹 バカ!

 父親、去っていく。その背中に、

妹 バカァ!!!

 ホリ黄緑
 母親出てくる。(過去)

母親 こら! また汚したの!?
妹 ごめんなさい。
母親 ここに書きなさい。この中だったら、自由に書いていいから。出ないようにね。
妹 …はーい。
姉 制限された紙の中で書くのって、自由って言うのかな。お母さんだって、出てったのにね。

 ホリ黄緑消す
 時間は現在へ。

妹 お姉ちゃん。
姉 ん? 何?
妹 これ、どっちのだと思う?
姉 何それ?
妹 分からないから聞いてるんじゃん。
姉 えっ。何それ?
妹 分かんないって。

 妹の手には、よく分からない外国の置物。

妹 ……どこで買ったんだろ?
姉 ……お父さんのかな。
妹 分かるの?
姉 顔、似てるし。
妹 えぇっ。…まぁ、確かに。
姉 荷物、多いなぁ。
妹 ってか、何で荷物まとめなくちゃいけないんだろ。
姉 そういうことでしょ。
妹 分かるの?
姉 えっ? あっ、いや、分かんない。
妹 だよねぇ。いっつもお父さん訳わかんないよね。喋んないし。
姉 あっ、これ、可愛い~。

 パンダの帽子を取り出す。

姉 シンガポール、ズー。へー、すごい。これ、シンガポールの動物園で買ったみたい!
妹 シンガポール?
姉 シンガポール分かんない?
妹 うん。
姉 ほら、あの…。

 姉、マーライオンの真似をする。

妹 …どういう状態?
姉 分からない? ほら、ごぱー、ごぱー(吐く擬音)
妹 何してるの?
姉 水吐いてるの。
妹 水吐いてるの!? …大丈夫?
姉 体調悪いとかじゃないから! マーライオンだから!
妹 マーライオン?
姉 上がライオンで下が魚のやつ。
妹 気持ち悪くない?
姉 リアルに考えるとね。
妹 えー、でもパンダ「は」可愛い。
姉 マーライオンに失礼でしょ。
妹 いいなぁ。

 探しに行く妹。
 パンダの帽子を被ったまま、整理を再開する姉。
 すぐ戻ってくる妹。

妹 これ! これで買います!

 外国のお金を受け取る姉。

姉 チッ、チッ、ここはシンガポールデース。
妹 誰?
姉 シンガポール人デース。
妹 めっちゃ日本語じゃん。
姉 英語でー。イン、イングリッシュでお買い求めくださーい。
妹 はぁ? 英語?
姉 シンガポールでも英語使えるから。
妹 あっ、日本語。
姉 日本語分かりませーん。
妹 え~~。
姉 中学校でも習ったでしょ。頑張れ中二。
妹 あっ。
姉 分かりませ~ん。
妹 はぁ。えぇっと、買う、買いたい、だから。えっと、アイ、ウォントゥ、バイ、パンダ……。
姉 お客さん。パンダはレンタルしか出来ないんですよ。
妹 うるさい。アイ・ウォントゥ・バイ・パンダ・キャップ! はい! お姉ちゃんの番だよ!
姉 ……OK!!
妹 ずるっ!!!
姉 はいっ、どうぞ。

 妹、スマホを取り出し、カメラで確認する。そして、深く被りなおす。

姉 シンガポールかぁ。私も行ってみたいな。
妹 お姉ちゃんも行ったことないの?
姉 うん、ないよ。
妹 じゃあ、二人で行ったのかな?
姉 じゃない?
妹 新婚旅行とか?
姉 あー、ありえる!
妹 楽しそー。いいな~。
姉 動物園には確実に行ってるみたいだね。
妹 他、どんなとこ行ったんだろ。
姉 置物置いてあるとこ?
妹 お父さんそっくりの?
姉 そうそう。
妹 どこにあるの。

 二人、笑う。

妹 探したらもっとあるかな。
姉 何か目的変わってない?
妹 ついでにお母さんのやつも探すから。
姉 ついでじゃん!
妹 冗談だって。どこにあるかな?
姉 押し入れとか?
妹 あ~、押し入れね!

 押し入れの前へ。

姉 開けるよ…?
妹 (こくり)
姉 ふんっ!

 物の雪崩。

姉 ああっ!
妹 お姉ちゃん!
姉 私は、もう、ダメみたい……。
妹 喋らないで! 体力が…。
姉 最期に…。
妹 喋らないで!
姉 伝えたいことが……。
妹 喋らないで!! 死ぬよ!!
姉 こういう時は、黙って聞くお約束でしょー!!

 電話が鳴る。

姉 取ってきて!

 上サス
 電話の前へ。

妹 もしもし香波です。

 下サス

母 もしもし、マイ?
妹 ! お母さん!?
母 連絡遅くなってごめんね。
妹 いいよ。でも、何で家のやつに?
母 スマホ置いてきちゃって。急に出たから。
妹 あっ、そうなんだ。
母 カナもいる?
妹 いるよ。代わる?
母 ううん、大丈夫。伝えてもらえる?
妹 うん。
母 明日の一時、駅の中のドーナツ屋さん、分かる?
妹 うん。
母 そこに、お母さんいるから。
妹 分かった。二人で行くね。
母 いやっ、
妹 ?
母 一人で、一人だけ来てほしいの。
妹 どうして? 何で?
母 …もう、お父さんとお母さん、一緒には暮らせないの。
妹 じゃあ、お母さんのとこに、二人で…
母 お母さんにも、生活があるの!
妹 ……。
母 ごめんなさい。それに、あの人も一人で生きていける程、器用じゃないから。
妹 お父さん?
母 うん。
妹 そうかな…。
母 そういうことだから、話し合って、一人、決めて欲しいの。いい?
妹 ……分かった。
母 お願いね。

 ガチャっと切れる電話。

妹 ……分かんないよ。

 全体明かり
 座り込む妹。
 そこにクレヨンの箱を持った姉がやってくる。

姉 どうかした?
妹 ううん。何も。

 ぎゅっと抱きしめる姉。

姉 大丈夫だからね。すぐ、お母さんも戻ってくるよ。
妹 ……うん。
姉 あっ、電話、誰からだった?
妹 …間違いだったみたい。すぐ切れちゃった。
姉 そっか。
妹 それ、何?
姉 これねー。
妹 クレヨン?
姉 そう、見て。ピンクだけ全然ないの。
妹 ホントだ~。
姉 懐かしいね。

 二人、顔を見合わせる。

二人(歌う) どんな色が好き? ピンク! ピンク色が好き 一番先になくなるよ ピンクのクレヨン♪

 二人歌い終わったらホリ黄緑
 楽し気に落書きをする二人。

母 壁に書かないでって言ったでしょ!

 母、登場。

妹 だって……。
母 はぁ……。
父 好きにさせたらいいだろ。

 父、登場。

母 そう言うけど、あなた……!

 口喧嘩を始める父母。

妹 昔からホント仲悪いよね。
姉 ほら、ケンカするほどって言うじゃない。
妹 そうなのかなぁ。
姉 最近は確かに、ケンカばっかりだけどね。
妹 お母さんも出てったし。
姉 でも仲良くなきゃ、十年以上も一緒にいないでしょ。
妹 これからも、一緒にいてくれるかな?
姉 …いるよ。いさせるよ! 私たちが、何回も二人の間を取り持つエンジェルになればいいでしょ!
妹 エンジェル?
姉 そう、エンジェル。
妹 面白そう。
姉 ね? でしょ。となるとまずは!
妹 まずは?
姉 二人のことをよく知る大作戦だ!
妹 よく知る大作戦、イエイ!
姉 荷物をまとめながら、探っちゃうぞ! オー!
妹 オー!
姉 まずは初デートから!

 音楽と共に、準備が始まる。
 ホリ水色
 喧嘩している父母の元に姉妹が行く。

妹 デートだよ? スーツじゃダメでしょ!
姉 メイクしよう、お母さん!
妹 嘘っ。スーツしか持ってないの? 色が違うとかどうでもいいいから!
姉 お母さんメイク道具何でこんな少ないの?
妹 仕事着と寝間着しかないとか、本当に現代人?
姉 私の使おっか。髪もセットするね。
妹 何か買いに行こっか。

 全員ハケて、姉妹だけ戻ってくる。
姉 じゃあ、後はエンジェルはさりげなくサポートしよう。
妹 うん。あっ。
姉 ?

 妹、おーいと手招きする。
 すると、見るからにヤンキーみたいな二人組が出てくる。何か耳打ちすると、またハケていく。

姉 何あれ?
妹 エキストラの人。
姉 エキストラの人ぉ?
妹 うん。
姉 今時見ないタイプの人たちだったけど。
妹 昭和ってみんなあんな感じでしょ。
姉 ありえないぐらい失礼だよ。
妹 隠れよっ。

 姉妹が隠れると、先に父親が出てくる。

姉 あっ、かっこよくなってる。
妹 でしょ?

 腕時計と、設置してある時計を交互に見て確認している。
 顔には出ないが、緊張しているようだ。

妹 めっちゃ緊張してない?

 体をほぐし始める。どんどんエスカレートしていく。アスリートがやるようなものにまでなっていく。

姉 それプロ野球選手がやるやつだよ!

 ストレッチの最中、母親が出てくる。

母 あのっ……。

 父、ぴたりと動きを止め、気まずそうに姿勢を正す。

父 …………。
母 えっ、あのっ……。

 妹が隠れ場所から出てくる。

妹 喋るのォ! レッツ、エスコートォ!
父 えっ?
妹 この、ヘタレ! 親の顔を見…たことあるよお爺ちゃん!! もう、繰り返して!
父 …。
妹 繰り返して! 化粧も服も!
父 化粧も服も、
母 はいっ。
妹 大変お似合いで、お綺麗ですね!
父 大変お似合いでお綺麗ですね。
母 あっ、ありがとうございます……。
妹 しっかりしてお父さん。デートプランぐらいは考えてるよね。
父 えっと、行きましょうか。

 歩いて、席に座る父母。

姉 いいじゃん恋愛映画。
妹 ロマンチックに行こう…!

 ピンスポで両親照らす
 ガチガチに緊張してる父。
 飲み物を勢いよくズズズと飲む。

姉 没収。

 次はポップコーンを勢いよく食べる。

妹 これも!

 緊張の逃げ場がなくなった父の目に映るのは。母の手。
 握れ握れとはやし立てる姉妹。
 意を決して、握る父。
 少しだけ驚く母。
 そのまま流れていく映画。
 ピンスポ消える
 デートの帰り道。(父母だけに)
 全体明かりホリ水色

母 今日は、誘っていただいてありがとうございます。
父 …楽しかったですか?
母 え? はい。楽しかったです。急なお誘いだったので、驚きましたけど……。どうして、急に私なんか誘ったんですか?
父 その、……お近づきになりたくて。もっと、親しくなりたいな、と。
母 えっ……。ありがとうございます。

 妹が出てくる。

妹 何だよ、言えんじゃん!

 姉が出てくる。

姉 ちょっと…!!
妹 なになに。
姉 エンジェル前に出てきすぎ!
妹 いいじゃん上手く行ってるんだから。
姉 それはそうだけど……。
妹 だけど、もう一押し欲しいかな。
姉 もう一押し?
妹 お願いしまーす!

 見るからにヤンキーな二人組(ちょっとレベルアップしてる)が入ってくる。

姉 レベルアップしてる!
ヤン1 何笑ってんだよ。
妹 違う違う、お客さんはダメだから。
ヤン1 何見てんだよ。
姉 そりゃ見るって。
父 いや、その……。
妹 いいぞー! 昭和っぽい!
姉 さっきから昭和に失礼だね?!
ヤン2 おっ? お姉さん美人じゃ~ん。
ヤン1 こんな、高校演劇してそうなやつ置いて、俺らと遊ばない?

 父が立ちはだかる。

ヤン1 何だやんのか? 確かにこの人数は厳しいけどよぉ。
妹 お客さん関係ないから!
ヤン1 おらぁ!
ヤン2 けっ、ザッコ!

 父、殴り飛ばされても、立ちはだかる。

ヤン1 (気圧されて)な、何だよ……。
父 俺の大切な人に手を出すんじゃない。
ヤン1 ……好きにしてろ!
ヤン2 あ、兄貴!? ちょっと待ってくださいよぉ!

 ヤンキー二名、ハケていく。

母 大丈夫ですか?!
父 大丈夫です。そちらこそ、お怪我はありませんか?
母 おかげさまで、無事です。

 見つめ合う父母。

妹 いいじゃんいいじゃんいいじゃん! いい雰囲気じゃ~ん? キスしちゃおう! キッスキッス!
姉 ちょ、ちょっとマイ!
妹 お姉ちゃんもほら、一緒に! キッス! キッス!
姉 お父さん目に見えて困惑してるから!

 電話が鳴る。

姉 ああ、ああ! へ、変なことさせちゃダメだからね!

 上サス
 姉、電話の元へ。

姉 もしもし香波です。

 下サス

母 カナ?
姉 お母さん?
母 よかった。もう話した? 決めた?
姉 話した?
母 うん?
姉 何の話?
母 マイから聞いてない? 明日の一時に駅のドーナツ屋って。
姉 何も。
母 ……あのね、落ち着いて聞いてね。お母さん、お父さんと離婚しようって思ってるの。
姉 え?
母 だから、どっちがお母さんと暮らすか決めて欲しいの。
姉 ちょっと、急すぎるよ。
母 急かもしれないけど、ごめんなさい。もう、我慢できないの。
姉 そんな……。
母 マイとちゃんと話してね。お願いね。お姉ちゃんなんだから。

 電話はぷつっと切れてしまう。

姉 お姉ちゃん、だもんね。

 全体明かりホリ水色
 とぼとぼと戻ってくると、妹が駆け寄ってくる。

妹 お姉ちゃん聞いて! 結局お父さんキスしなかったの! ヘタレじゃない!?
姉 マイ……。
妹 どうしたの? 何かついてる?
姉 ううん。今は何してるの?
妹 今はね、シンガポール新婚旅行編になったよ!
姉 おおぉ! 展開が早いね!
妹 シンガポール・ズー観光してるよ!
ヤン1 ごぱー、ごぱー。
姉 何あれ?
妹 あれはマーライオンの檻だね。
姉 マーライオン!?

 ヤン2出てくる。

姉 また、何か出てきた!
妹 つがいのマーライオンだね。
姉 つがいも何も実在しないからね!?
妹 えっ、そうなの?
姉 そうだよ! あんなのいないの!
ヤン1&2 ごぱー。
妹 お土産屋行こう!

 妹が指示を出すと、ヤンキー共はお土産屋の店員になる。先生はハケる。

ヤン1 いらっしゃいませー。
姉 日本語! 日本語はマズい。
ヤン2 ハロー。ウェルカーム。
姉 中二の限界。
母 楽しかった~。どこが良かった? 私は、パンダの檻かなぁ。
父 俺は、マーライオンの檻かなぁ。
ヤン1 ありがとうございます!
姉 今は違うから!

 え? って空気が流れる。

姉 ほら! 変なことになってる!
母 初デートから色んなことがあって大変だったけど、あなたとここに来られて本当によかった。ありがとね。
父 いや……。
母 照れて~。
父 ……。
母 何か、お土産買ってく?
父 俺は特に……。
母 あっ、置物買ったしね。
父 あの置物か。
母 そっくり。
父 そうか……?

 出際に。

母 (妹が被ってるパンダの帽子に向かって)可愛い。

 そのまま父母出ていく。

妹 …………そんなに可愛いなら、何で置いていったの!? 出て行ったの?!

 姉が妹に駆け寄る。

姉 大丈夫。大丈夫だからね。
妹 何で、何で置いてくの。(泣きじゃくってる)

 父が走って戻ってくる。

父 えぇっと、買う、買いたい、だから。えっと、アイ、ウォントゥ、バイ、パンダ……。
妹 日本語喋るのも、苦手なくせに。
父 アイ・ウォントゥ・バイ・パンダ・キャップ!

 妹の被っていた帽子を持ってハケていく父。

妹 バカァ。

 去っていった背中に言葉を吐きかける。

妹 最後までちゃんと追いかけてよ! 明日、一時、駅のドーナツ屋! 明日、一時、駅のドーナツ屋だからね!

 ホリ水色消す
 ハッと姉の様子に気付く妹。

妹 違う。違うの。違うの。
姉 いいんだよ。
妹 違うの。違うって。
姉 いいってば。
妹 良くないって。ごめん。
姉 お母さんから聞いてたから。
妹 知ってたの?
姉 さっきね。マイ。
妹 …。
姉 お母さんのとこには、マイが行っていいよ。
妹 ……行かない。
姉 気使わなくていいよ。
妹 使ってない。
姉 お母さんのとこ行きたいんでしょ?
妹 その聞き方嫌い。
姉 じゃあ、何で私に言わなかったの?
妹 …お姉ちゃんがお母さんのとこに行くって言うのが怖かった。
姉 じゃあマイが行けばいいでしょ!
妹 私は、みんなで一緒にいたいの!!!!
姉 !
妹 それが普通じゃないの!? 何でみんなみんな離れるのが普通みたいにしてるの!?

 父の背中に

妹 道間違えないでよ! ダサいスーツ着ちゃダメだよ!! 走るんだよ!!!!
姉 ごめん。
妹 お姉ちゃんはどうしたいの?
姉 私?
妹 (こくり)
姉 私は、マイがしたいようにしたら……。
妹 私じゃなくて、お姉ちゃん。
姉 ……分かんない。
妹 おかしいよ。自分がないみたい。
姉 そんな言い方しないでよ!!
妹 ……ごめん。 
姉 ………………荷物、まとめなくちゃね。
妹 嫌。
姉 何で?
妹 そういうことなんでしょ。
姉 違うよ。
妹 嘘。
姉 違うって。
妹 嘘だもん。
姉 エンジェルしよう。
妹 え?
姉 私だって、みんな一緒がいいもん。マイが、じゃなくて、私も。ね、マイ。
妹 (うん)

 音楽が流れ、家をひっくり返すように思い出の品を探し始める。

妹 お姉ちゃん!
姉 どうした?
妹 これ。
 
 姉が妹に近寄り、箱を開ける。
 ホリ水色

母 こっちこっち!

 ちょっと疲れたように、父が出てくる。

母 疲れた?
父 少し。
母 もー、シンガポールって言ったらここなんだから。
父 ごめん。
母 ほら、行こうっ。…あれ、ここだと思うんだけど…。
父 ないな…。

 ヤン1、出てくる。

ヤン1 やっべ…!
父 あっ、出てきた。
姉 出てきたぁ?
妹 急だったから!
ヤン1 ごぱー。
母 うわっ、何か、
妹 小さいんだね、マーライオンって。
姉 世界三大がっかり遺産だからね。
母 すみません。Excuse me.あー、写真を、えっと、Could you take a picture,ok? Thank you.

 父を急かした後、パシャっと撮られる。

母 Thank you! ホント、来れてよかった! あなたもそう思うでしょ?
父 俺は、君と来れたら、どこでも嬉しい。
母 も~~~、五十点!
父 痛っ!
母 私だって、同じよ。でも、女の子って、それでも特別な場所に、特別な人と行きたいの。
父 女の子って年でもないだろ。
母 二十五点! 赤点!
父 痛っ!
母 いつでも女の子なんです~。

 母に、父が袋を渡す。

母 何? 賄賂~?

 袋には、パンダの帽子が入っている。

母 えっ…?
父 可愛いって、言ってたから。

 すぐに被って「どう?」という感じの母。

父 すごく、可愛い。
母 も~~~!
父 痛っ!
母 撮る前に渡してよ! また撮らなくちゃいけないじゃない!
姉 がっかり遺産なんかじゃない…。
妹 お母さん、綺麗……。

 ホリ水色消す
 写真に見惚れる姉妹(箱の中から取り出している)。
 だが、箱の中にしまってしまう妹。

姉 どうしたの?
妹 辛くなってきちゃった。
姉 どうかした?
妹 私、こんな顔のお母さん見たことない。
姉 …私もだよ。
妹 こんな幸せそうに笑ってるの、あったっけ?
姉 覚えてないだけかもよ?
妹 何でもガミガミって、言っちゃう印象しかないや。
姉 お父さんがあんまり言わないから、代わりに言ってるんだと思うよ。
妹 うん。だと思う。だから、怖いけど、嫌いじゃない。
姉 うん。
妹 むしろ悪くない。ってか、幸せなんだって思ってた。
姉 幸せ?
妹 学校の先生がね、クレヨンしんちゃんは、幸せなんだって言ってたの。お母さんが下品だからって見せてくれなかったから、どんなのか知らないし、先生が戸建てとか出世とか言ってもピンと来なかったけどさ、幸せだから、きっと私の家はクレヨンしんちゃんみたいな家なんだなって思ってたの。でも、ケンカが増えて、お母さん出てって、何か、全部なくなっちゃいそうで…………怖い。
姉 どこにも行かないよ。
妹 お母さんのあんな顔見てたらさ、今は幸せじゃないんだって! 私、不幸なんだって思ったの。
姉 マイ! だとしてもね、私がいるからね。
妹 …うん。ありがと。
姉 一人じゃないだけで、気が楽になるからね。
妹 それだけで、私は幸せなのかもね。
姉 そうかもね。私には、分からない。
妹 分かんない?
姉 うん。幸せがどんな形で、どんな色なのか分からないから、不幸も、どんなものなのか分かんない。
妹 きっと、汚くて嫌な色だよ。
姉 かもしれないね。だとしたらね、
妹 うん。
姉 昨日までって、そんなに酷い色してなかったって、思うの。
妹 …確かに。
姉 ただいまって言ったらおかえりって帰ってくるし、テレビ見ながら温かいご飯が食べれて、笑えてた。部屋にいる時に、ケンカの声が聞こえてきて、嫌だなって思うことはあったけど、最悪だって思うほどじゃなった。晴れ晴れとはしてないけど、及第点?
妹 私も、そうかも。
姉 でしょ?
妹 お母さんはどうだったんだろ。
姉 お母さんは…。
妹 笑わなくなった。
姉 お母さんも幸せだって。
妹 だったら、置いて出て行かないもん。
姉 それは急だったから。電話もしてくれたじゃん。
妹 でも、私たちが生まれる前はあんな風に笑えてたんだよ? 私たちが、幸せじゃなくしてたのかな?
姉 そんなことないよ。
妹 分かんないじゃん!
姉 分かるよ。
妹 何で。言い切れるの?
姉 探せばいいんだよ。私たちが生まれて幸せだったって物、見つければいいんだよ。
妹 ……。
姉 ね? …ほら。
妹 …探さない。
姉 何で?
妹 だって、一つも、見つかんなかったらどうするの?
姉 見つかるよ。
妹 本当に見つからなかったら、どうしたらいいのか分かんないよ……。いなくなりたくなるよ。

 箱を開けて、そこに絵を見つける。

姉 ね、マイ!

 ホリ黄緑
 俯いてしまっている妹に、寄り添う。それは、過去へと繋がる。

姉 どーしたの?
妹 今日、幼稚園でね…。

 先生が出てくる。

先生 自由に絵を書いて、家の人に渡しましょう! いつもありがとーって、渡しましょうね~。
子供たち(袖からもガヤ) は~い!
先生 何書くの~?
男の子 僕はね~、ハンバーグ書くよ!
先生 ハンバーグ書くの?
男の子 うん! テレビで面白いの!
先生 あっ、そっちなんだ。何書くのー?
ヤン2 バット!
ヤン1 単車!
ヤン2 かっけ~~~!
先生 何か分かんないけど、暴力的な匂いがするね。マイちゃんは?
妹 パパ!
先生 お父さんの絵書くんだ。
妹 うん!
男の子 どんな感じ?
妹 はい!
男の子 これ、お父さん?
妹 うん!
男の子 おかしいよ、こんなのお父さんじゃないでしょ!
妹 パパだもん!
男の子 ぐちゃぐちゃじゃん! へたっぴ!
妹 パパはパパなの!! いじわる! バカ!! ハンバーグ!! ……って。
姉 うん。確かにこれ、パパより、あの変な置物に似てる。
妹 お姉ちゃんまで!
姉 でも、マイはこれパパだって書いたんでしょ?
妹 …うん。
姉 じゃあ下手でも、これがパパだね!

 妹、大事そうに姉の手から絵を取る。

姉 私もママの絵書こっ。二人で渡そっ?
妹 うんっ。

 二人で寝転がって書き始める。

姉 マイも書くの?
妹 うん。あっちはぐちゃぐちゃにしちゃったから。
二人(歌う) どんな色が好き? ピンク! ピンク色が好き 一番先になくなるよピンクのクレヨン♪ …出来た!

 姉が父母を呼びに行く。

母 何々、どうしたの?
父 袖伸びちゃうよ。
姉 来て! いいから来て!
妹 お二人に! お渡しするものがあります!

 父母一瞬顔を見合わせて

母 はいっ。

 姉と妹、ちゃんと渡すものを確認する。

姉妹 はいっ!

 渡す。

母 嬉しい~。
父 (頭をわしゃわしゃと撫でる)
母 でも、どうしてママにパパの絵なの?
妹 だって、ママも、パパ好きでしょ? だからあげる!
母 大好きよ。ママも、パパのこと。
父 二人のことも大好きだぞ。
姉 どーしたの?
母 嬉しいの。
妹 そーなの? 変なの? でも、パパとママが嬉しいなら、マイも嬉しい!

 はっ、と閃く。

妹 もっといっぱい、マイ、絵書く!
姉 カナも書く!
父 自由に、いっぱい書きなさい。

 歌いながら、絵を、舞台上に大きく書いていく(パント)
 父母はハケる。

姉 どんな色が好き?♪
妹 ピンク!
姉 ピンク色が好き 一番先になくなるよ、ピンクのクレヨン♪
妹 どんな色が好き?♪
姉 ピンク!
妹 ピンク色が好き 一番先になくなるよ、ピンクのクレヨン♪
二人 どんな色が好き? ピンク! ピンク色が好き 一番先になくなるよ、ピンクのクレヨン♪

 二人で書いた大作を前に、ハイタッチする。
 そこに、母が入ってきて、愕然とする。

母 壁に書かないでって言ったでしょ!
妹 だって……。
母 何でこんなことするの…!

 衝動的に手を上げそうになる。ハッと止めて、自己嫌悪の表情。

姉 …ごめんなさい。
妹 ごめん。ごめんね。

 姉妹を放って、クレヨンを落とそうとこすっている。上手くはいかないようだ。
 父が出てくる。
 姉妹は、ふすまから覗くように、この言い合いを見ている。

父 好きに書かせたらいいだろ。
母 あなたは…! クレヨン消したこともないでしょ!
父 仕事だから仕方ないだろ!
母 私だって仕事してるわよ!
父 パートだろ。
母 パートも仕事よ。何、正社員だから偉いって?
父 そんなこと言ってないだろ。
母 言ってないだけでしょ。そもそもあなたが、あの子たちに、自由に書きなさいなんて言うから、こんなことになったんでしょ!?
父 全部俺のせいか!?

 父母の言い合いは怒号に変わっていき、何を話してるのかは聞き取りづらくなる。
 いたたまれなくなり、妹は去ろうとするが、姉が止める。(ここは、現代の二人)
 父が、母の手を振り払う。
 勢い余って、耳の辺りを打ち、手で押さえる母。少し気にするが、父はそのまま出ていく。
 静かに泣き始める母。
 姉妹は母に駆け寄る。

妹 ママ…?
母 ごめん。起こしちゃったね。寝てていいよ?
姉 大丈夫?
母 大丈夫だよ。
姉 ママ、ぐしゃぐしゃ。
妹 クレヨンみたい。

 声を上げて泣き始める母。
 ホリ水色消す

妹 お母さんごめん。ごめんね。忘れてた。私すっかり忘れてた。
姉 ひどい言葉、かけちゃった。
妹 傷つけちゃったなんて、知らなかった。
姉 泣かないで。お母さん。
母 …もう大丈夫。ありがとね。

 立ち去っていく母。

妹 辞めちゃったんだね、女の子。
姉 だからメイク道具、あんなに少なかったんだね。
妹 全部、全部私たちのせいだったんだ。

 父、入ってくる。

父 荷物はまとまったか?
姉 お帰りなさい。
父 まとまったのか?
姉 ……まだ。
父 今日一日、何時間あった? 何をしてた?
姉 ……ごめん。
父 カナ。お前がお姉ちゃんなんだから、しっかりしてくれないと困るぞ。
姉 …うん。
妹 お父さん。これ、どこで撮ったの?
父 うん?
妹 どこで、撮ったの?
父 ……シンガポールだ。
妹 いつ、行ったの?
父 ……新婚旅行だ。
妹 お母さん、綺麗だよね! そう思わない!?
父 …何をしてたんだ? こんなことしろとは言ってないぞ。
妹 綺麗じゃない!?
父 だから何だ。荷物をまとめろと言ったろ。
妹 やだ。
父 何?
妹 何でまとめなくちゃいけないの。
父 もう、家に必要ないからだ。
妹 必要だよ。帰ってくるから。
父 無理だ。
妹 帰ってこさせるよ。だって、エンジェルだもん。
父 エンジェル?
妹 次は仲直り未来編なの!
父 意味の分からないことを言うな。
妹 思い出して。好きだったんでしょ? ごめんなさいって、言おう。ね?
父 いい加減にしろ。これは大人の問題だ。口を挟むんじゃない。
妹 嘘! 二人の問題なら、私たちに荷物まとめさせないでよ! …ださスーツ!!

 妹、出ていく。(部屋に戻る)

姉 マイ!
父 明日、まとめておけよ。
姉 …自分でまとめられないからって、私たちに押し付けないでよ。

 姉、出ていく。(妹を追って部屋へ)

父 おい!

 仕方なく、箱を片付けようとする(雑に)が、大切そうに持ってしまう。
 中から、一つの絆創膏を見つける。

父 絆創膏…。

 父の目の前を、ヤンキーに肩を抱かれてどこかへ連れていかれそうな母が通る。

父 …………。(目を背け見ないふり)

 また目を向けると、まだヤンキーと母がいる。そして目を背ける。
 姉妹が出てくる。

妹 チキン! このヘタレ野郎!! カーネルさんとこ送るよ!
姉 フライドされちゃえ!
父 マイ? カナ?
妹 違います。
父 でも、
妹 違います。名もなきエンジェルです。
父 エンジェル…?
姉 あ、私は名前あります。カナエルです。
妹 ずるっ、ぽいじゃん。私、マイエルになりました。
姉 ジャクソン感強いな。
父 その、エンジェルが何だ。

 姉妹、手で双眼鏡を作って、父を囲む。

父 ?
妹 見てましたよ。
姉 クソダサでしたよ。
父 何が?
姉 分かってるでしょ?
妹 男、すたりまくり。
父 ……。…どうしろって?
妹 自分が一番分かってるでしょ?
姉 ガツンと、やったれやったれ!
父 ……だが。
妹 …あーもう! うじうじするな! ダサいジャケットを脱げぇ!

 姉妹、父のジャケットを剥ぐ。

妹 行け! 正直になれ!

 前には母とヤンキー、後ろには娘たち(やれーやれーって感じ)。逃げられずに、覚悟を決める父。

父 て、手を離せ。
ヤン1 何だてめぇ。
ヤン2 お呼びじゃねえんだよ。
母 危ないですよ!
父 嫌がってるだろ。
ヤン1 あぁ? そうか? 嫌じゃないよな?
母 あの、その…。
父 そうなのか?
妹 んなわけないでしょ!
父 んなわけないだろ!
ヤン1 言うじゃねぇか。
ヤン2 高校演劇面がよぉ。
ヤン1 おらぁ!(殴る)
父 痛っ!

 うずくまる父。立ち上がらない。

父 うぅっ…。
姉 大丈夫? 変なとこ入った?
父 思ったより痛い。
妹 言ってる場合じゃないって!

 立ち上がる父。

ヤン1 根性あるじゃねぇか。
父 もうやめてくれ。
ヤン1 そういうわけには行かねぇな。おい。
ヤン2 へい!

 ヤン2、父を羽交い絞めにする。

ヤン1 後悔すんなよ。

 ヤン1、父の顔や体をボコボコにする。力を失い、倒れた父に、トドメで踏む。

母 あぁっ。
父 ぐぅっ…。
姉 立って。立ち上がって!
妹 お願い!
父 うぅ…。
姉 ここで、立たなきゃ!!
妹 お父さん!!
父 !
姉 お父さん!
妹 頑張って!!
姉 お母さんを守って!!
妹 最愛の人なんでしょ!
父 ! う、うおぉぉぉぉ!
ヤン1 うるせぇよ!

 立ち上がりかけた体に蹴りを入れる。

姉妹 お父さん!
ヤン2 ひゅ~、やるぅ~。
父 ううぅ、おおおぉ。(立ち上がろうとする)
妹 もういい、もういいよお父さん。ごめん。私たちの想像と全然違った。
姉 こんなに、痛い思いをしてたんだね。
ヤン1 何だお前ら。
妹 もう触れさせない。
ヤン1 はぁ?
妹 消えろ! どっか行け!!
ヤン1 邪魔なんだよ! お前らこそどっか行けよ
妹 行かない! エンジェルだから!
姉 二人に幸せになってもらうの!! えいっ!

 姉、ヤン1に金的。

ヤン1 おうっ!
ヤン2 兄貴ぃ! 兄貴ぃ! お前、何て残酷なことを……。
妹 知るかバーカ!
姉 何でお父さんまでちょっと痛そうなの?
ヤン1 取れた。
ヤン2 え? なんすか兄貴。
ヤン1 取れた。ぜってー取れた。
ヤン2 兄貴。絶対大丈夫っす。ヒャクパーないっす。
ヤン1 だって痛ぇもん! こんな痛ぇの絶対取れてるよ!!

 おろおろした挙句、あっと閃きポケットの錠剤(マイムでいいよ)を取り出すヤン2.

ヤン2 兄貴! これを!

 差し出され飲み込むヤン1.

ヤン1 ん? おぉ、痛みが、引いてきたじゃねぇか。何だこりゃ?
ヤン2 やさ、です?
ヤン1 あ?
ヤン2 しさ、の方かもしれません。
ヤン1 お前もしかして、バファリンのこと言ってんのか?
ヤン2 はい。
ヤン1 五十パーの優しさのことそう表現するのお前だけだよ!
ヤン2 はぁい。
ヤン1 何でちょっと嬉しそうなんだよ。

 姉妹に向きなおるヤン1.

ヤン1 舐めた真似してくれたじゃねぇか! 女といえど、覚悟はできてんだろうなぁ!!

 ヤン1が殴ろうとする。

父 うおおおおおおおぉぉぉぉ!!!

 父が不格好に体当たりする。

父 俺の大切な娘たちには、指一本触れさせないぞ!!

 鬼気迫る父に圧され、ヤン1、2ハケる。
 気が抜けたのか、すとんと座り込む父。母が駆け寄る。

母 大丈夫ですか!?
父 あ、いや…。
母 ケガしてる!
父 大丈夫…。
母 じっとしてて!

 母、絆創膏を取り出し、顔の傷に貼ろうとする。

父 痛っ。
母 あっ、ごめんなさい。

 何とか貼り終える。
 見つめ合う形になっていることに気付いて、距離を取る父。

母 嫌いですか? 私のこと。
父 いや…。
母 嘘。距離取るじゃないですか。
父 好きに決まってるじゃないですか。今でも、ずっと。
母 じゃあ、何で近くに来てくれないんですか。
父 傷つけてしまうから。
母 え?
父 どんなに好きで大切に思っていても、その好きな人を一番傷つけるのが自分なら、どうすればいいんですか。もう、諦めるしかないじゃないですか。好きですよ! 好きだから、大切だから、傷つけたくない……。自分のせいで、傷ついて欲しくない。
妹 お父さん……。
姉 そんなこと思ってたんだ…。
母 勝手ですね。勝手で、言葉が足りない。
父 よく言われます。

 母、父の手を取る。

母 お返しです。私も、勝手なことします。
父 そんな、
母 傷つけあっていいじゃないですか。
父 え?
母 手の届かないところにいるのが、家族ですか?

 父母、キスをする。
 眠っていた父。そこに姉妹が声をかけている。

妹 お父さん。
姉 起きて。
父 夢か。
妹 駅のドーナツ屋さん。
父 駅?
姉 お母さん、待ってるから。

 すっと立ち上がる父。

父 何時だ?
妹 まだ間に合う!
父 分かった。

 (音楽 TOKIO 「リリック」)走って行く父。全力疾走。信号待ちで肩で息をする。青になり、慌てて走り出すと、転んでしまう。だが、なりふり構わず走り出す。そして辿り着く。

母 え?

 息が切れて、何も話せない父。驚く母。何とか息を整える父。

父 あっ……。

 紡ぐ言葉が見つからない。

父 ……。
母 えっ……。

 ぷっ、と母親が吹き出す。

母 初デートの時みたい。
父 すまん……。
母 なんにも、変わらないじゃない。あっ、じっとして。
父 え?

 絆創膏を取り出して、貼る。(この辺りで娘たちもやってきて、遠くから見ている)

父 …ありがとう。
母 いいの。…来てくれたんだ。
父 ああ。
母 ありがとね。
父 いや……。…………謝りに来たんだ。
母 謝り?
父 ああ。今まで、ごめん。お前の、痛みを、苦しみを、分かろうとしてこなかった。……話を、聞いてなかった。いや、聞こうとしてなかったんだ。本当に、申し訳ない。
母 ……いいの。頭を上げて。私も勝手なことをしたから。家を飛び出して…。分かってもらおうとするのを、諦めてたのかもしれない。

 嬉しそうな姉妹。

母 でも、ごめんなさい。今すぐには…。
父 ……そうか。
母 本当にごめんなさい。謝りに来てくれたのは、驚いたけど、嬉しかった。でも、少しだけ、あなたのことを怖く思ってしまったの。
妹 ちょっとちょっと待って待って何で何で。
父 マイ。
母 ごめんね。
妹 何で、何で? いい感じだったじゃん。
姉 マイ。
母 ちょっと、時間が欲しいの。
妹 何それ。
母 少し、距離と、時間が欲しいの。
妹 一緒にいれないの?
母 ……うん。
父 俺が謝るのが遅かったんだ。少しずつ直さないと……。
妹 嘘。みんな大人のふりしてる! 分かったふりしてる!
父 マイ。分かってくれ。
妹 だって家族だもん。一緒にいなきゃ嫌だよ!
父 俺だって嫌だ。
妹 じゃあ駄々こねてワガママ言えばいいじゃん!
父 そういうわけにはいかない。
母 ごめんね、マイ。
妹 勝手だよ。みんなだけで完結してる! 私だけ、仲間外れ!
姉 マイ。
妹 お姉ちゃんは!?
姉 私も、みんなでいたいよ。
妹 ほら!
姉 でも、お母さんの気持ちは無視できないよ。
妹 ! ……そう。そうだけど……。そうだけど…。分かってるよぉ。私だって無視したくないもん。…そうだ! キスしよ! 仲直りのキス! キスキスキッス! ほら、キスしてよ! キスしてよ! してよぉ! してよぉ…。ヘタレ…。
母 ちゃんとやり直すから。
妹 そういうことじゃない! そういうことじゃないもん!
父 マイ。
妹 分かってるよ! でも、ただいまって言っても、いないんだよ? お帰りなさいって、言ってくれないんだよ? みんな想像した? これおいしいね、ってみんなで感想伝えられないんだよ? それで、いいの? ……私は、寂しいよぉ。
父 (黙って頭をポンポンと叩く)
妹 ダサいスーツなんか着てるから!
父 ごめんな。
妹 違うもん!

 妹、ハケていく。

姉 マイ!

 姉も追っていく。
 妹、一人で、うずくまる。そこに姉がやってくる。

姉 マイ! マイ? マイ。マーイ? ……キスしちゃうぞ。
妹 バカ。
姉 ごめんて。
妹 お姉ちゃんってさ、
姉 なーに?
妹 お姉ちゃんって感じだよね。
姉 何それ~。
妹 そのままの意味。
姉 お姉ちゃんって感じじゃないとこもあるよ?
妹 分かってるよ。
姉 出来た妹だね。本当にキスしてあげよっか?
妹 いらない。
姉 もっと優しい断り方なかった?
妹 あんなこと言うつもりじゃなかった。
姉 二人とも分かってるよ。
妹 もっと別のこと言うつもりだったのに。
姉 言えなかったね。
妹 ずっと、言えてない。
姉 私もだよ。
妹 お姉ちゃんも?
姉 うん。
妹 …何か安心した。
姉 安心してどうすんの。
妹 どうしよ。
姉 これから、言えばいいんじゃない?
妹 …………うん。そうする。
姉 少しずつって、お父さんも、言ってた。
妹 少しずつ、だけど、たくさん。
姉 …ね。ねぇ。
妹 何? え? 持ってきたの?
姉 持ってきちゃった。
妹 何でよ。何に使うの。
姉 いざという時?
妹 もっといいのあると思うけどぉ?
姉 私もそう思うんだなぁ、それが。
妹 奇遇だね。
姉 奇遇だねぇ。気が合うし、姉妹にでもなる?
妹 私がお姉ちゃんならいいよ?
姉 バカ、譲んないし。
妹 ケチ~~。
姉 どうして、クレヨン二つあるか、覚えてる?
妹 え? ……ピンクを取り合うから?
姉 そう、ピンクばっかりなくなってた。
妹 ピンクかぁ。ピンクでたくさん書いてたね。
姉 ね。本当に一番先になくなってた。
妹 またピンク買ってって。
姉 泣きながら言ってた。
妹 泣いて…! た、かも。
姉 私が貸さなかったから、また泣いてた。
妹 いじわる。
姉 お姉ちゃんなんだから我慢しなさいって、お母さんに怒られてた。
妹 ざまーみろ。
姉 (無言ででこぴん)
妹 泣くよ?
姉 いいよ。置いてくよ?

 姉妹、笑いあう。

姉 お姉ちゃんだからって言われても、全然分かんなかった。
妹 うん。
姉 何で我慢しなくちゃいけないの、って思ってた。
妹 性格悪いなぁ。
姉 お姉ちゃんどうぞ。
妹 遠慮しときます。
姉 正直、今も分かんない。
妹 え、そうなの?
姉 ただ、まぁ、可愛いとこもあるから、譲ってあげよっかなって感じ。
妹 可愛くないとこもあるみたいな?
姉 ……OK!
妹 誤魔化さないでよ!
姉 そういうのさ。窮屈じゃん。
妹 ん?
姉 なになにだから、っての。
妹 あー、確かに。
姉 だからさ、ちょっとだけ、そんなの休んでもいいんじゃないかって、思うの。寂しいよ? 寂しいけど、どこにいたって、家族じゃん。どんな形でも、どんな色でも、さ。

 姉、クレヨンの箱からピンク色を手に取り、妹に見せる。
 妹も同じようにピンク色を手に取る。

二人(歌う) どんな色が好き? ピンク ピンク色が好き 一番先になくなるよピンクのクレヨン

 互いの顔や壁にハートを書き始める。
 そこに父が入ってくる。

父 いいな。じゃあ、俺は真っ赤なのを書こうかな。

 妹が、赤いクレヨンを手渡す。母が入ってくる。

母 お母さんは何色にしようかな。
姉 お母さんも、赤にしよう。
母 赤がいい?
姉 うん。リップみたいで、綺麗。

 姉がお母さんにクレヨンを手渡す。
 互いの顔や壁にハートを書き連ねる家族(舞台上の布でもいい)
 はみ出すのをやはりどこか恐れている姉妹。

母 いいんだよ。
妹 え?
母 いいんじゃない。

 とびきり大げさにハートを書く母。
 笑いあう家族。
 競い合うように大きいハートを書き比べていく。
 ハートでいいと思うんですが、幸せや愛情を表現するものなら、何でもいいんです。
 エンディングで曲流す。

 終幕。

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