最後のデート ファンタジー

売れない絵本作家の野宮恵一の妻由宇は、ある日、自分はとある惑星の王女であることを告げる。父王が王座に復権し、帰還命令が下ったことで、恵一と別れ地球を離れなくてはならない。迎えの船が来る当日、二人は、最後のデートにでかける。
宮本一(PN) 11 0 0 04/07
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第一稿

登場人物
野宮恵一(28)絵本作家志望
野宮由宇(26)野宮の妻
石の声    由宇の執事



○公営の集合住宅・二号棟・外観(朝)
   ゴミ置き場に収集車が来 ...続きを読む
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登場人物
野宮恵一(28)絵本作家志望
野宮由宇(26)野宮の妻
石の声    由宇の執事



○公営の集合住宅・二号棟・外観(朝)
   ゴミ置き場に収集車が来る。
   白のワンピースにサンダル履きの野宮由宇(2 
   6)、ゴミ袋さげて駆けてくる。
   片手で背中のファスナーを押さえ、ゴミ袋を係り
   員に渡し、引き返していく。

○同・野宮家・和室六畳間・中(朝)
   部屋中、画材で散らかっている。
   野宮恵一(28)、絵本の応募原稿を丁寧にそろ
   え、大きな封筒に入れる。

○同・玄関・外(朝)
   玄関扉に吊り下げた手作り表札。
   『野宮 恵一&由宇』の文字。
   由宇、来て、玄関扉開ける。
由宇「ただいま。ギリギリ間に合った」
   と、中に入っていく。

○同・和室六畳間・中(朝)
   野宮、原稿入れた封筒を封緘している。
   襖開いて、由宇が顔を出す。
由宇「できたの?」
野宮「うん」
由宇「よかった。締切り、間に合うね?」
   由宇、野宮に背中見せ、
由宇「ね、後ろ、引っ掛ってるの。見て」
   野宮、立ち上がり、由宇のファスナー上げてやる
   と、後ろから前に腕を回す。
由宇「時間ないよ。今日は、私達最後の…」
野宮「あっ…」
   野宮、腕をほどき、由宇の顔を指さす。
由宇「ごめん…禁句だったね、今の」
野宮「今日は、ただの結婚記念日だろ?」
由宇「そうだったね。三回目の…」
野宮「よし。シャワー浴びて来るか…」
   野宮、部屋を出て行く。
   由宇、部屋の中を振り返る。
   机の上の封筒。
   宛先は『丸川絵本大賞募集係御中』。

○駅前の郵便局・外
   由宇、入口の脇でスマホを見ている。
   野宮、郵便局から出てくる。
野宮「出してきたよ」
   野宮、由宇のスマホ覗き、
野宮「天気? 今日、一日晴れだろ?」
由宇「ダメかな? 雨、降らないかな?」
   野宮、何か言いたさを堪え、微笑む。
野宮「そうね。雨、降らないかなあ…」
   野宮と由宇、空を見上げる。

○抜けるような青い空

○駅前の郵便局・外
   と、野宮、腕時計みて、
野宮「やべ。映画始まっちゃうな」
   野宮、由宇の手を引いて走り出す。
由宇「大賞獲ったら、引越ししょう!」
   野宮、立ち止まり、思わぬ顔で振り返る。
由宇「ね…」
野宮「…そうだな。引っ越そう…」

○映画館・場内
   映画を観ている野宮と由宇。
   野宮、ふと現実に戻る顔つきになる。

○野宮家・寝室(回想)
   寝間着姿の野宮と由宇が、布団の上に、
   緊張しながら向き合って座っている。
野宮「隠し事って…まさか、俺以外に…」
由宇「そんなことじゃない」
野宮「じゃあ、一体…」
由宇「言うね。あの、私ね、本当は、恵ちゃんからする
 と宇宙人だったの…」
野宮「…」
由宇「嘘じゃないの…」
   由宇、掌を差し出し開いて見せる。
   不思議な石が、緑色に発光している。
石の声「ええと…初めてお話させていただきます。私
 は、姫様の執事でございます…」
   野宮、石を見つめて固まっている。

○砂浜
   野宮と由宇、水際で遊んでいる。
   砂の上、由宇のバッグとハンカチの上に置かれた
   緑色の石。
石の声「幸せそうだ。せめて今夜一晩、雨でも雲でも、
 月を隠してくれれば、船は地球に下りてこれないんだ
 がな…」

○丸い月に雲がかかり始める(夜)

○カフェレストラン・中(夜)
   会話もなく、食事する野宮と由宇。
   と、窓に雨粒が当たり始める。
由宇「え…?」
   野宮、外を見る。
野宮「あ…」
   雨が、急に強くなり始める。
   由宇、表情が明るくなって立ち上がる。

○埠頭(夜)
   土砂降りの雨の中、駆けてくる由宇。
由宇「雨だ…雨、降ってくれた!」
   追いついた野宮に、由宇が抱きつく。
由宇「延期だよ! お迎えは延期!」
   野宮も、笑いながら抱きしめる。
   が、雨は萎むように止む。
   丸い月が、空に顔を出す。
由宇「…やだよ。待って。止まないで…」
野宮「延期したって、いつかは来るんだ…」
由宇「私と別れるの、平気なの?」
野宮「バカやろう…」
   野宮、由宇を抱く腕に力籠める。
野宮「こっちが、どんだけ頭に来てるか、お前の親父に分からせてやりたいよ…!」
   由宇も、野宮の腰を抱きしめる。

○公営の集合住宅・外観(夜)
   丸い月がかかっている。

○野宮家・居間(夜)
   野宮、部屋の隅で膝を抱えている。
   タブレットのZOOM画面。
   由宇が野宮聡子(57)と話している。
聡子「宇宙人でも関係なかんべよ。あんたみたいにイイ
 嫁、地球にはいねえよぉ…」
由宇「…本当に、隠しててごめんなさい。父は反乱で死
 んだと聞いてたもんで…」
聡子「生きてたんだから何よりでしょうな」
由宇「…でも、王座を奪還したから、私に戻るようにと
 勅命が下ってしまって…」
聡子「断れないの…?」
由宇「私は、第一皇女ですから…」
聡子「でも、あんた急にいなくなったら、みんな騒ぎ出
 すでしょ? どうすんだい?」
   野宮、脇から入り込んでくる。
野宮「あるんだよ。人の記憶を好きに消去できる、そう
 いうのが、あっちの星には!」
由宇「船が去ったら、空から金色の粉が降ってきます。
 その粉は、私に関する全ての記憶を、地上からかき消
 してしまうんです」
聡子「全部忘れちゃうの? やだよぉ。オレ、由宇ちゃ
 んのこと忘れたくねえよ!」
野宮「俺だってそうだよ! 母ちゃん、悪いけど、時間
 ねえから。もう切るわ!」
   野宮、通信を切る。
   野宮、由宇をせっかちに抱きしめ、由宇も受け止
   め、床に倒れ込む。
   座卓の上の石が点滅している。
石の声「…あの、ヤボなこと言いますが、お迎え、零時
 ですからね。それまでには…」
   石の上に、ブラジャーが飛んでくる。

○公営の集合住宅・二号棟・外観(夜)
   巨大な宇宙船が、音も無く、月を隠す。
石の声「…姫、恵一様、起きて下さい」

○野宮家・寝室(夜)
   野宮、由宇のワンピースのファスナーを上げてや
   る。
野宮「一人ぼっちで地球に逃げてきた、異星人のお姫様
 がね、絵本作家の卵と知り合って、結婚するまでの話
 なんだ」
由宇「…?」
野宮「今日、応募した奴…」
由宇「そう。じゃ、有名になったら、子供も生まれて、
 ずっと楽しく幸せに暮らしてる、そういう続きを書い
 てね…」
野宮、由宇を後ろから抱く。
由宇「…やっぱ行くな。忘れたくない…」
  由宇、野宮の手に自分の手を添え、
由宇「ありがとう。でも、もう…」
  由宇、野宮の結婚指輪を抜き取る。
由宇「ほんの小さな痕跡も残せないから…」
   野宮、膝をついてくずれ落ちる。
由宇「私たちの平均寿命は千年なの。でも、あなたと過
 ごした三年間が、私の一生で一番愛おしい宝物だ
 よ…」
野宮「もっといい暮らしさせたかった…」
由宇「いい暮らしだったよ。あなたとの夢と思い出、一
 杯胸につめ込んだもの…」
   由宇、しゃがんで野宮の目見つめ、
由宇「私は、あなたを忘れない。絶対に」
野宮、涙で頷くのが精一杯。
   由宇、キスをして、立ち上がる。

○同・玄関・外(夜)
   出て来る由宇、振り返り、表札見る。
由宇「…」
   表札を外し、胸に抱きしめ、去る。

○同・寝室・中(夜)
   野宮、窓を開ける。
   光の輪の中を由宇が上っていく。
野宮「由宇ッ!」
   由宇を吸い込んだ船は、飛び去る。
   空から金色の粉が降ってくる。
   野宮の顔にも粉が舞い落ちる。
   辺り一面、金色に包まれていく。
                                    (終)

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