もういいよ ファンタジー

人外が出てくるシュールな追いかけっこ妄想です。特に深読み要素もありません。
みちすすき 4 0 0 11/13
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第一稿

○電車内

外はどんよりとした曇り空。車内は少し立っている人がいるくらいの空き具合で、静か。
ダウンジャケットを着た今川(19)、座って英単語帳を見ていたが、疲れたように目を ...続きを読む
「もういいよ」(PDFファイル:554.41 KB)
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○電車内

外はどんよりとした曇り空。車内は少し立っている人がいるくらいの空き具合で、静か。
ダウンジャケットを着た今川(19)、座って英単語帳を見ていたが、疲れたように目を閉じる。
今川の頭の中の脳が透けて見える。たった今見ていた英単語や数式、化学反応式などの文字が張り付いたり埋まったりしている。
目を開き、自分の頭に手を当てる今川。もう頭は透けて見えない。
今川、何かに気づき周囲を見る。
ほかの乗客たちの頭が透けてその脳が丸見えになっている。座っている乗客も、立っている乗客も。
たくさんの脳をぼんやりと眺める今川。
と、銃声が響く。奥を見ると、ハットをかぶり銃を持った男が乗客の頭に発砲している。
撃たれた乗客の頭の中では、脳がぐちゃぐちゃに。だが撃たれた本人も、周りの人も何も気づいていない。今川以外。
一人、また一人と乗客の頭を撃ち、銃の男が今川に近づいてくる。息を潜め、横目でそれを見る今川。男の顔はハットと立てられたコートの襟に隠れて暗い影しか見えない。
やがて今川の隣の乗客が撃たれ、銃が今川の頭に向けられようとして――
電車が止まる。今川はばっと席を立ち、ちょうど開いた扉からホームに飛び出す。銃の男も今川を追って駆け出す。

○駅

人を避けながらホームを走る今川、後ろに追ってくる銃の男が見える。
階段を下り、改札に向かうまっすぐな地下通路へ。避けはするが誰も今川や銃の男に注目しない。
銃の男が今川に追いつき、首元をつかんで引き倒す。転がって壁に激突する今川。壁面にめぐらされていた古く細いパイプの一部が外れて落ちる。
痛みにうめく今川。その頭に向かって男が銃を向ける。
だが今川は目の前にあったパイプをつかみ、男に向かって振る。ばっと後ろに退き、それを避ける男。
立ち上がった今川、再び向けられた銃口を避けるように弧を描いて迫り男にパイプを振りかぶる。
その一振りを銃を持ったのと反対の腕で受け止め、今川に銃を向けようとする男。今川、パイプを男の顔めがけて振る。
男はさっと避けるが、パイプが男のハットをかすめ、ハットが落ちる。そこにあるのは人間の頭ではなく、ガラスの球体にワインのような透明の赤黒い液体を満たした頭。
男が今川に発砲。弾は外れ後ろの壁に穴が開く。
今川、むちゃくちゃにパイプを振り回しながら男に向かっていく。男が今川に銃を向けようとするが今川がその手に向かってパイプを振るうので手を引いて、が何度か続き、男が今川のパイプをつかむ。
それを引き抜こうとする今川の頭に銃を向ける男。
今川、パイプを手放し男に体ごとつっこむ。
パン、と宙に放たれる弾。今川はよろけた男の手からパイプを引き抜き、間合いを取るように下がる。そこへ再び銃を向ける男。今川、それを避けるよう銃を持った手の側に回り込みパイプを振り下ろす。
男はとっさに銃を持った腕で頭をかばうが腕ごと頭に打撃をくらい、ガラスにひびが入ってよろける。
その頭にさらに一振りをくらわす今川。ばきゃ、という音とともにパイプがガラスを割って男の頭にめりこむ。
立ったまま動きを止め、脱力したように腕をだらんと垂らす銃の男。割れた頭から中の赤黒い液体が漏れ出す。
今川、荒く息をつきながらそれを見る。
と、今まで二人のことなど気にしていなかった通行人たちが、銃の男を見て嬉しそうに立ち止まる。頭から溢れる液体に注目しているようだ。
次々に懐からワイングラスを取り出し男に寄ってくる人々。溢れる液体を、もったいないとばかりに途切れることなくグラスに受け止め、乾杯し合って飲み始める。
飲んだ人々は満足げな顔をするが、急に白目をむくと頭が後方に倒れて消え、銃の男と同じ液体で満たされたガラス球が首元から生えてくる。
そこかしこで出現する赤黒いガラス頭。今川は立ち尽くしてそれを見ている。
やがてガラス頭たちが、銃の男の手に残っていた銃を奪い合って乱闘し始める。
今川、そっと走ってその場から逃げ出す。だがそれに気づいたガラス頭の一部が追ってくる。
先ほど降りたホームに戻ってきた今川。電車が止まっており、扉が開く。
今川、降りてきた乗客を避けながら前方に走る。後ろからガラス頭数人が追ってくる。
発車のベルを聞き、近くの扉に飛び込む今川。それに続き飛び込もうと迫って来るガラス頭。だが直前で扉が閉まり、一番前のガラス頭が扉に激突し頭が割れる。

○電車内

走り出す電車。今川は離れていくガラス頭たちを見て、大きく息をつく。

○大学・門前

ぞろぞろと受験生たちが門をくぐっていく。

○同・教室

ずらっと席に並んだ受験生たち。試験監督たちによって数学の問題冊子と解答用紙が配布される。
今川も席で問題冊子と解答用紙に向き合っている。
前方の壇上で試験監督Aが時計を見つめながら
試験監督A「はじめ」
受験生たちが一斉に問題冊子を開く。今川も冊子を開いて目を走らせる。
×      ×      ×
教室内に紙のめくれる音、シャーペンで書きつける音だけが静かに響く。
今川、肘をつき頭を抱えている。解答用紙は真っ白で、手が全く動いていない。
とんとん、かたかた、と扉のほうから音がする。
試験監督Aが扉の窓から覗くと、廊下をガラス頭数人がうろついている。
教室内を振り向き、ほかの試験監督たちと目を合わせ、頷く試験監督A。
試験監督たちは片隅にあったほうきを手に取り、廊下に出ていく。

○同・廊下

出てきた試験監督たちを振り向くガラス頭たち。試験監督たちがほうきを振りかざし、その頭を割っていく。

○同・教室

教室内に残った試験監督Aが侵入しようとしてくるガラス頭を蹴り倒し、ほうきで頭を割る。
その音や廊下からの音に、眉根を寄せる今川。いらつくようにシャーペンを揺らす。
と、試験監督の一人が、窓の外を見て指をさす。
試験監督Aやほかの試験監督も窓を覗く。試験監督Aが指示を出すように廊下のほうを指さす。

○同・建物屋上

扉を開けやってきた試験監督A。見下ろすと、門の外の道に何十体ものガラス頭たちがわらわらと集まってきている。
ほかの試験監督たちが、奥から布の掛かった大きな機械を押して出してくる。
布が取り払われると、現れたのは巨大な砲身のついた人の背丈よりも大きなガトリング砲。
門の外のガラス頭たちに砲身が向けられる。その隣に立った試験監督Aが上げていた腕を下げて合図を出すと別の試験監督がクランクを回し、大量の銃弾が放たれる。

○同・門前

集まったガラス頭たちに銃弾が当たり、頭が割れて液体がこぼれたり、倒れたりする。

○同・建物屋上

弾を発射し続けるガトリング砲。その隣で試験監督Aが冷たい目で門前を見下ろしている。
一度射撃が止み、新たな弾が装填され、射撃が再開される。
門前ではガラス頭からこぼれた液体を飲もうとグラスを持って近寄ってきた人がいたが、それも撃たれて倒れる。

○同・教室

銃撃の音が教室内にも響く。今川はうるさそうに顔をしかめ、筆箱から耳栓を取り出す。
耳栓をすると音が聞こえなくなり、満足げな顔の今川。問題に向き直る。
今川の手がすらすらと動き、解答用紙が埋まっていく。

○同・建物屋上

ガトリング砲の射撃が止まっている。
門前を見下ろす試験監督たち。そこにはガラス頭たちと数人の普通の人間の死体が転がっている。

○同・教室

試験監督A「やめ」
と壇上の試験監督A。ほかの試験監督たちも教室に戻っており、受験生たちの解答用紙を集め始める。
今川、自分の解答用紙を満足そうに見ている。それも回収されていく。

○同・門前

ガラス頭と人間の死体は放置されたまま。だが受験生たちは誰もそれを気にせず、疲れたように門をくぐって出てきて歩いていく。
今川も邪魔そうに避けるだけで特に気にせずだらだらと歩いている。
と、急に銃声が。
今川の前を歩いていた受験生の頭が、被弾したように傾いている。
見ると、頭が割れかけたガラス頭が転がる死体の中からよろよろと立ち上がっている。今川と目が合う。
一瞬動きを止める両者。
今川、自らガラス頭に近づき、向けられた銃口を握って自分の頭に押し付けると幸せそうな弛緩しきった顔で
今川「もういいよ」
少し雲が晴れた空に、パン、と発砲音が響く。
今川の足元に、赤黒い液体が静かに流れる。

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