GK ROLE〜ゴールキーパーの役割 スポーツ

大学生・岡部鞠菜は、ある日、サッカーJ2リーグの試合に行き、ゴールキーパー・砦 跳人のスーパーセーブを目撃。鞠菜に革命が起こる。 サッカー専門誌のスペイン語の記者となった鞠菜は、ラ・リーガから移籍したGKパウロに興味を抱き、取材に夢中になるが、J1リーグに昇格した跳人は苦しんでいる。鞠菜が、恋と仕事との狭間で成長して行く物語。
野田久美子 66 1 0 10/20
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第一稿

登場人物
岡部(おかべ) 鞠菜(まりな)(22)サッカー雑誌侍クロス・記者
砦(とりで) 跳人(はねと) (27)ファルコン狭間GK(ゴールキーパー)
パウロ・コクラン(25 ...続きを読む
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登場人物
岡部(おかべ) 鞠菜(まりな)(22)サッカー雑誌侍クロス・記者
砦(とりで) 跳人(はねと) (27)ファルコン狭間GK(ゴールキーパー)
パウロ・コクラン(25)チェイスマン赤倉GK
引田(ひきた)明日花(あすか)(22)ファルコン狭間スタッフ
ダイキ (28)ファルコン狭間・右SB
シュウヤ (19)ファルコン狭間若手GK
リョウマ(37)ファルコン狭間MF
タクミ(25)ファルコン狭間MF
ニシキ(33)ファルコン狭間FW・トップ下
ジェイ(24)ファルコン狭間FW
マサト(29)ファルコン狭間CB
アツヤ(30)ファルコン狭間左SB
カケル(23)ファルコン狭間右SH
片山(かたやま)(25)チェイスマン赤倉FW
池永(いけなが)(32)チェイスマン赤倉FW
長谷川(はせがわ)(28)チェイスマン赤倉MF
三井(みつい)(29)チェイスマン赤倉FW
福岡(ふくおか)(27)チェイスマン赤倉DF
士堂(しどう)(26)チェイスマン赤倉DF
佐古(さこ)(26)明日花の同僚
鏡華(きょうか)(30)ガールズバー“鏡華”のママ
梅蔵(うめぞう)(55)ガールズバーの常連客・ダイキの父
涼子(りょうこ)(42)大学教授
太田(おおた)(45)侍クロススポーツ事業部・記者
ソフィア(19)スペイン人サポーター
実紀(みき)(21)鞠菜の大学の友人
莉咲(りさ)(21)、〃


〇駒東大学・キャンパス
楽しそうに過ごす大学生たち。
岡部鞠菜(21)、他の学生を遮断するように、イヤホンを付けて歩く。

〇同・教授室・中
鞠菜、イヤホンを外し、壁に貼られた 大きなポスター “スペイン留学生募集”を見つめる。×印とともに、“無期延期”と書き足されている。 フラメンコ調の服装の大学教授・涼子(42)、残念そうに鞠菜を見る。
涼子「で、岡部さん、後期のゼミ、一体、いつまで休むつもりなの?」
鞠菜「(空虚に)……延期にならなくても、お 金用意できたかどうか」
涼子「留学の事、引きずってるよね?」
鞠菜「別に。仮に行けてたとしても、スペイン語なんて、日本ではマイノリティですし」
が、言葉とは裏腹に、手元にあったスペイン語の雑誌『ラリーガの栄光』を手に取る。表紙は、ゴールキーパーである。
鞠菜(西語)「Frío.(カッコいい)」
と、読み始める。
涼子、ふいに、鞠菜の目を覗き込む。
涼子「岡部さんって、サッカー好き?」
鞠菜「(素っ頓狂に)へっ?」
涼子の机には、中学生くらいの少年が、
ゴールキーパーとしてボールキャッチした姿の写真が飾られている。
涼子「Jリーグのファンクラブのチケット、一枚余っちゃって。岡部さんにあげる」
と、雑誌の間にチケットを挟む。
鞠菜「一枚ですか? 一人で? そもそも私、全然ルール知りませんよ」
涼子、写真を高く掲げる。
涼子「うちの子、ゴールキーパーなのよ」
鞠菜「GK、分かります。たった一人でゴー ルを守る、孤独なポジションですよね」
涼子「(心底可笑しそうに笑う)」
鞠菜、訳がわからず涼子を見つめる。
涼子(西語)「El fútbol es mi pasatiempo. Mi vida.(サッカーは私の道楽。私の人生)」
鞠菜(西語)「pasatiempo? Vida? (道楽?人生?)」

〇同・図書館
鞠菜、テーブルの片隅に座ろうとする。
鞠菜の元カレ(21)と、今カノ・知香(21)、少し離れた席で勉強している。
鞠菜、思い切って二人に近づく。
知香、鞠菜に気付き元カレを見る。
元カレ、居眠りを決め込む。
鞠菜、知香に軽く手を振る。
鞠菜「知香、やっぱ付き合ってるんだよね」
知香、突っ伏した元カレに困惑。
鞠菜「私、全然気にしてないから。二人のこと応援してるし」
知香「私たち、友達なの。(彼に)ね?」
しかし、元カレは顔を上げない。
鞠菜「二人とも私に気を遣わなくて良いからね。ずっとそれが言いたかったの」
と、イヤホンを付け、荷物を抱え帰る。

〇同・涼子のゼミ室
ゼミの仲間数名、集まっている。
鞠菜は、やはり来てない。
ゼミ生一「岡部さん、最近どうしたのかな」
ゼミ生二「何かヤバい事やってるらしいよ」
鞠菜の友人・実紀(21)、莉咲(21)、顔を見合わせる。
涼子「(明るく)さ、始めましょう」

〇鞠菜のアパート・鞠菜の部屋・中
スペイン語学習音声が流れている。鞠菜、熱心に聞きながら、気怠そうに濃いめのメイクを始める。スマホが鳴る。
ガールズバー“鏡華”のママ・鏡華から。音声をオフにし、出る。
鞠菜「あぁ、ママ? お疲れ様です」
ママ(電話)「マリちゃん、今日お店来るよね?」
鞠菜「行きますよ。どうしたんですか急に」
ママ(電話)「この前来たお客さん、梅蔵さん。今日も来たいけど、マリちゃん入ってるかって言うもんだからさ」
鞠菜、思い当たるが嬉しくはない。
鞠菜「梅蔵さん、何時に来るんですか」
ママ(電話)「十時位だって。頼むね」
鞠菜「(気乗りせず)はーい」
と、スマホをオフ。スペイン語の音声をオンにするが、すぐにオフにし、ため息。ふと、『ラリーガの栄光』からはみ出した、サッカーのチケットを手に取る。

〇狭間サッカースタジアム・フィールド
ファルコン狭間GK砦 跳人(27)、若手GK・シュウヤ(19)とアップ中。
GKコーチ・黒石(41)、ゴール手前にゴロを投げる。
ハネト、シュウヤ、スライディングキャッチに続き、後方のゴロを取りに行く。最後にゴール上ギリギリのボールをジャンプしてキャッチ。
キャッチ精度は、ハネトがシュウヤを上回っている。
〇同・ゴール付近の席
引田明日花(21)、通路の横の席で、一眼レフを覗いている。レンズに写る、ファルコン狭間DF・ダイキ(28)。しかし、画面が突如大ブレ。
明日花の列に入ろうとした鞠菜、望遠レンズに当たってしまった。
鞠菜「ごっ、ごめんなさい大丈夫ですか」
少し迷惑そうに微笑む明日花、ダイキのユニフォームシャツが目立つ。
鞠菜、やっと自分の席を発見して座り、見よう見まねで、スマホを構えピントを合わせる。
ファルコン狭間GK・ハネトが映る。

〇同・フィールド
ファルコン狭間vsトルマリン月光。
中盤でのボールの奪い合いが続く。
ボール奪取した、トルマリン月光FW、不意打ちのミドルシュートを放つ。
ダイキたちファルコン守備陣、万を辞しボールの行方を見守る。

〇同・同・ファルコンゴール前
スピードのあるループシュート。ゴール上部のポストの僅か下に、絶妙に決まりそうである。

〇同・ゴール付近の席
サポーターたち、万事休すと祈る。
鞠菜、スマホの画面を見つめる。
鞠菜「(呟く)あーっ、駄目だ」

〇同・同・ファルコンゴール前
ハネト、ボールの弾道を目で追いながら素早く下がり、大きくジャンプ。見事にボールをパンチングして、スーパーセーブ。ボールはゴール上へと弾き出される。

〇同・ゴール付近の席
サポーター、一変して歓喜のポーズ。
鞠菜、つられてガッツポーズ。
サポーターたち「ナイスキーパー!」
鞠菜「(大きく)ナイスキーパー!」

〇同・フィールド
試合終了のホイッスル。
仲間の祝福を受けるハネト。
喜びに沸き返るファルコンの選手たち、客席のサポーターに手を振る。
サポーターたち、『おめでとう』『祝!J1昇格』などのペナントを掲げる。

〇同・スタジアム周辺
鞠菜、鮮やかに撮れたハネトのスーパーセーブを満足げに眺めながら帰る。
明日花、前方に鞠菜を発見し近付く。
明日花「ね、もしかして、ファルコンのディフェンス押し?」
鞠菜、少し驚くが、首から下げた一眼レフで、近くの席にいた明日花だと気づく。
明日花「ファルコン狭間のゴール前のせめぎ合いの時、私の後ろで凄い声出してた!」
鞠菜「ゴールキーパー、凄かったですね」
明日花「そっか、キーパー推しね」
鞠菜「(咄嗟に)はい」
明日花「(嬉しそうに)私とかぶってないっ。因みに私はDFのダイキ押し。でも追っかけ女子のライバルが多くて、心折れそう」
鞠菜「(戸惑って)私、此処来たの初めてなんです」
明日花「ウソ、じゃあ、ファルコン狭間の練習も、観に行った事ない?」
鞠菜「練習も見学できるの?」
明日花「勿論。クラブの練習場でね。運が良ければ、練習の終わりに選手と話せるよ」
鞠菜「本当にそんなこと出来るの?」
明日花「何なら今から行ってみる?」
鞠菜「ごめんなさい、今日はちょっと」
明日花「あ、私ったらつい。いきなりゴメンね、じゃ!」
鞠菜と明日花、軽く手を振り別れる。
明日花、少し立ち止まり振り返る。
明日花「ファルコン狭間の練習! 場所とスケジュールは、HPに載ってるよ」
歩く鞠菜、明日花の声は届いている。

〇狭間十番街
小規模な商店街。その中に、ガールズバー“鏡華”がある。

〇同・ガールズバー“鏡華”・表
こじんまりとした外観―。
鞠菜、イヤホンを外し、入って行く。

〇同・同・中
鞠菜、カウンターの中で、グラスなど準備しながら、常連客・梅蔵(55)と話す。
鞠菜「梅蔵さん、私ね、今日初めてサッカー観に行ったんだ」
梅蔵「へぇ、そう」
と、上の空で鞠菜の顔ばかり眺めている。
鞠菜「(意地悪く)あー、ゴールキーパー格好良かったなぁ。スーパーセーブって言うの? バッチリ見えちゃった」
梅蔵「(見つめて)俺も知ってる! スーパーセーブ」
鞠菜「嘘ぉ。じゃあ、どういうの?」
梅蔵、いきなり鞠菜の顔を両手で挟むように掴む。
梅蔵「こういうの」
鞠菜、驚いて飛び退く。
鞠菜「いやぁ、梅蔵さんには敵わないなぁ」
と、ひきつった笑顔でおつまみを出す。
梅蔵「俺もさ、サッカー習ってた事あんのよ」
鞠菜「嘘っ」
梅蔵「小さい頃ね。俺、足遅かったから、いつの間にか辞めることになってた」
鞠菜「(不満そうに)えーっ、ボール持ったらドリブル出来るかもしれないじゃん」
梅蔵「ダメダメ。フォーメーション保って、ボール追っかけんだから。そっから一人遅れたら、スペース生まれて狙われるでしょ」
鞠菜「(感心し)梅蔵さん、サッカー超詳しい!」
梅蔵「今でも観るのは大好きだから」
鞠菜「凄いよ梅蔵さん。そうだ、私、キーパーは孤独なポジションですねって言ったら笑われたんだけど、何で?」
梅蔵「マリちゃん、サッカーは十一人でするスポーツでしょ?」
鞠菜「それ位わかる」
梅蔵「わかってないから、笑われたの。マリちゃん、十人プラス、キーパー一人じゃないんだよ。フォワードからキーパーまで、全部で十一人」
鞠菜「梅蔵さん、人格者だね」
梅蔵「今頃気付いた? ゴールキーパーは、十一人目のフィールドプレイヤーってね」
鞠菜、感心したように頷く。

〇鞠菜のアパート・部屋・中(深夜)
鞠菜、帰宅する。放置していたコンビニ弁当の殻を捨て、上着を脱いで、クローゼットを開ける。
スマホが鳴る。母・和枝(47)である。
鞠菜「(恐る恐る)もしもしお母さん?」
和枝(電話)「鞠菜、最近、夜電話に出ないけど、大丈夫?」
鞠菜「ごめん、疲れて寝ちゃうから、全然気付かなくて」
和枝(電話)「早起きしてる?」
鞠菜「(言いにくそうに)早起きはしてない」
和枝(電話)「部屋ちゃんと片付けてる? 鞠菜は特に、クローゼットの中が真っ先にひどくなるから」
鞠菜、雑然としたクローゼットに目を遣
る。バーでのバイトの服が目立つ。
和枝(電話)「(怪しんで)鞠菜、最近、何かしてるの?」
鞠菜「(苦し紛れに)実は、サッカーの追っかけしてる」
和枝(電話)「サッカーって、何でまた急に」
鞠菜「友達に誘われて断れないんだもん。応援行った時に限って延長戦でさ、接戦の末に勝つと、友達が盛り上がり過ぎちゃって、お酒が進んじゃうみたいで」
和枝(電話)「そうなの?」
鞠菜「そうなの! 友達がさ、お酒強いんだもん」
和枝(電話)「ふーん、二十歳過ぎたからって、
あんまり飲み過ぎないようにね。ママの家系は、お酒強い方じゃないんだから」
鞠菜「はーい、ごめんお母さん、明日授業早いから、寝るね。お父さんにも宜しく。おやすみ」
と切り、ホッと胸を撫でおろす。
× × ×
鞠菜、やっとクローゼットの片付けを終え、バタンとベットに倒れ込むが、目が冴えてしまい、スマホでファルコン狭間のHPを検索。練習場の行き方の画像など、丁寧に掲載されている。
鞠菜、起き上がり熱心に見始める。

〇同・同・同(朝)
ベットの中の鞠菜、目を覚まし、カーテンを開ける。温かい日差しが眩しい。

〇ファルコン狭間・クラブ・練習場
練習に励むファルコンの選手たち。
ゴール付近に、ハネトとシュウヤがいる。
黒石「ハネ! ゴール右隅ね」
と、ゴール右上に緩めのシュート。
ハネト、ゴール右に素早く移動し正面気味にキャッチ。黒石にボールを返す。
黒石「次! ボール奪って逆サイドに蹴って」
と、ハネトにドリブルで迫る。
ハネト、前に出て黒石から華麗にボールを奪い、サイドに流す。

〇同・同・見学コーナー
鞠菜、初めて見る練習風景に釘付け。ハネトのいるゴール前が気になる。
スペイン人女性サポーター・ソフィア(19)、鞠菜の隣りに来る。
ソフィア(西語)「portero, te respeto.(GK、あなた方を尊敬しています)」
鞠菜「En Japón, portero es una posición bastante modesta.(日本では、GKは、どちらかと言えば地味なポジションです)」
ソフィア(西語)「No puedo creerlo.(信じられない)」

〇同・同・練習場
黒石の蹴ったボール、外に飛んで行く。
ハネト「俺、取ってきますよ」
と、練習場を出る。

〇同・同・見学コーナー
ソフィアと鞠菜、スペイン語で話し込む。
ソフィア(西語)「Los porteros son héroes en España. Un jugador que asumió la posición del portero habitual puede tener su auto pinchado por los aficionados como venganza.(スペインではGKは英雄。正GKのポジションを奪った選手が、腹いせにサポーターに車をパンクされられる事もあります)」
鞠菜(西語)「¿De verdad? Si un portero japonés lo escucha, podría envidiarlo. (本当? 日本のGKが聞いたら、羨ましがるかもしれない)」

〇青空から飛んで来るサッカーボール

〇ファルコン狭間・クラブ・見学コーナー
笑顔で向かい合うソフィアと鞠菜の元に、落ちて来るサッカーボール。
鞠菜、すっぽりと偶然キャッチ。
ハネト、やや近くまで走り来る。
ハネト「すいませんっ」
と、投げ返してのジェスチャー。
鞠菜「(緊張して)えっ、砦 跳人?」
ソフィアは感激で狼狽えている。
ハネト、ついに二人の目の前に来る。
鞠菜、ボールを両手で差し出す。
鞠菜「この前のスーパーセーブ、凄かったです。猫みたいでしたっ!」
ハネト「猫ォ? 俺、猫に似てるの?」
ソフィア(西語)「¡Nos parecemos! Lince español! (似てます! スペインオオヤマネコ!)」
ハネト「(意味がわからず)???」
鞠菜「ソフィアは、跳人さんがスペインオオヤマネコに似てるって言ってます」
ハネト「あ、ありがとう。そちらソフィアさんね、君は?」
鞠菜「鞠菜です。岡部鞠菜。大学生です。J1昇格がかかった最終節の跳人さんのスーパーセーブ、本当に素晴らしかった。あの瞬間、私の中で革命が起こりましたっ」
ハネト「(照れて)ありがとう。これからも頑張るよ。またいつでも練習覗きに来て」
ソフィア、鞠菜の腕をつつく。
鞠菜「(西語でソフィアに通訳) Gracias. Seguiré dando lo mejor de mí. Ven y mira la práctica de nuevo en cualquier momento.」
ソフィア、感激して何度も頷く。
ハネト、爽やかに手を振り戻って行く。
鞠菜とソフィア、魔法にかかったようにハネトの背を見つめる。
ソフィア(西語)「En este lugar otra vez! (またこの場所で)」
鞠菜「またこの場所で!」
遠くのハネト、鞠菜を振り返る。
ハネト「鞠菜さんも大学で頑張って。じゃあ!」
鞠菜、ハッとして時計を確認。
鞠菜「大学……ゼミに間に合う!」

〇駒東大学・ゼミ室・中
鞠菜、涼子とゼミ生に頭を下げる。
実紀と莉咲も、驚いて鞠菜に注目。
鞠菜「長らく欠席してしまい、ご迷惑おかけしました。すみませんでした」
涼子「おかえり。待ってたわよ」
と、専門書や語学CDを差し出す。
鞠菜「あ……リスニングは大丈夫です。ずっと、聴いてましたから」
と、語学CDを涼子に返す。
鞠菜(完璧な西語)「Definitivamente me pondré al día con todos. (必ず皆に追いつきます)」
ゼミ生たち、上手いと感心する。
実紀「(ヒソヒソと)良かったね。鞠菜戻って来て。でも、一体何があったんだろう」
莉咲「きっと、革命が起きたんだよ」
実紀「本物の恋かな?」
と、したり顔で頷きあう。

〇同・同・同(時間経過)
窓の外は暗くなっている。
一人勉強に没頭している鞠菜、時計を見てため息。本を閉じる。

〇狭間十番街・“鏡華”・中
鞠菜、カウンター内で、接客中。
梅蔵、特に酔った様子で鞠菜に絡む。
梅蔵「マリちゃん、ここでどん位稼いだ?」
鞠菜「何言ってんですか、全然ですよ」
梅蔵「あれか、男に貢いでんの?」
鞠菜「違います! そうだなぁ、車の免許取ったりぃ、教科書買ったりもしてるよ」
梅蔵「エライなマリちゃんは。もう乾杯!
マリちゃんも飲んで」
鞠菜「ありがとう梅蔵さん、じゃあ一杯だけ」
と、梅蔵とグラスを合わせる。
鞠菜「本当はね、留学資金貯めようと思って、此処入ったんだけど、根性無くて」
梅蔵「良かったよ、外国行っちゃったら、マリちゃんに会えなかったもん」
鞠菜「本当? 良かった。そう言って貰えて」
梅蔵「こんな馬鹿な爺さんが、出来の良い大学生の女の子と酒飲んでさ……」
と、酔って寝てしまう。
ママ「マリちゃん、タクシー来たから、梅蔵さん乗せてあげて」
鞠菜、やれやれとため息を吐く。

〇同・通り
ハネトとダイキ、ブラブラ歩いて来る。
ハネト「なぁダイキ、俺、猫に似てる?」
ダイキ「ハハ、何だそりゃ」
ハネト「うちの練習見学に来てたコにさ」
ダイキ「何々、愛の告白?」
ハネト「“スーパーセーブ、猫みたいでしたっ。革命が起こりましたっ“って言われた」
ダイキ「微妙だな。告白ではないか。いや」

〇同・“鏡華”・前
鞠菜、タクシーに梅蔵を押し込む。
鞠菜「梅蔵さん、またね」
タクシー、ちょうど出発する。
ハネトとダイキ、ブラブラ歩いて来る。
ハネト「あのコだ! 猫みたいでしたっ!」
ダイキ「え? どのコどのコ?」
と、目を丸くして立ち止まる。
鞠菜、目の前に現れたハネトたちに驚く。
ハネト、鞠菜に軽く手を振る。
鞠菜、バツが悪く、店に戻ろうとする。
ママ・鏡華(30)、出て来る。
鏡華「あれ、ダイキじゃなーい? お帰り! 懐かしの故郷、狭間商店街へ!」
ダイキ、バレたと言う顔。
ハネト「お前こそママと知り合い?」
ダイキ「まあ、逆らえない、くされ縁的な」
ハネト、勘違いして納得する。
鏡華「ダイキ冷たいじゃん、寄ってってよ」
数人の通行人、面白半分に見て笑う。
鏡華「私とダイキはねぇ……」
ハネト「(咄嗟に鞠菜に)お店入れる?」
鞠菜「はい、お客さん誰もいません」
ハネト「さぁ二人とも、中でゆっくり話そう」
と、ダイキと鏡華の背中を押し店内に
入る。

〇同・同・店内
ハネトとダイキ、カウンターに座る。
鞠菜、二人の前にビールを置き、良い人だという風にハネトを見る。
鏡華「私が、この狭間十番街の会長の息子さんに失礼な真似する訳ないじゃん」
鞠菜「(驚いて)会長さん?」
ダイキ「少し先の唐揚げ屋だよ。鏡華とは、子どもの頃、町内対抗の運動会に出された頃からの付き合い」
ハネト「良かった~、泥沼かと思った」
鞠菜、好ましくハネトの笑顔を見る。
鞠菜「唐揚げ十番、知ってます! お客さんに何度かお勧めされた事あります。あ、ママ、ダイキさんのお父さん、ここの常連さん何て事ありませんよね?」
ダイキ「鏡華、そうなの?」
鏡華「(茶化して)お客さんの個人情報は一切秘密でーす。ファルコン狭間のJリーガー、狭間商店街の星! ダイキが今、此処にいる事もね」
ダイキ「来シーズンは、J1リーガー!」
鞠菜、グラスを掲げる。
鞠菜「J1昇格、おめでとうございます」
ダイキ・ハネト・鏡華「乾杯!」
鞠菜「J2からJ1に昇格するのって、やっぱり大変だったんですか」
ダイキ「そりゃもう。先月、今シーズン残り5節の段階で、ファルコン狭間は俺たち史上最高順位の第3位」
鞠菜「何位まで昇格できるんですか?」
ハネト「今年は、上位2チーム」
ダイキ「うちと2位のトルマリン月光は、勝ち点十の差だった」
鞠菜「えーっ、じゃ奇跡だったんですね。サッカーって一対0とか多いし、5試合で十点差追うって、普通無理でしょ?」
ダイキ「マリちゃん、相当サッカー知らない感じ?」
鞠菜「すみません」
ハネト「Jリーグの順位は、勝ち点が多い順。勝ったら3点、引き分け1点、負けは0」
鞠菜「わかった。じゃあ、2位のチームに3連勝して、一回引き分けたら追い付くってことですよね」
ダイキ「エライ簡単そうに言うね~。しかもリーグ戦は、ホームとアウェイ一試合ずつ。同じ相手とは基本2試合しかしないよ」
鞠菜、半分理解したような顔。
鏡華「ダイキとハネトがいれば、ファルコン狭間はJ1でも十分通用するわよ」
ダイキ「ありがとうママ。よしっ、そろそろ帰るわ」
鏡華ママ「えー、もう?」
ハネト「ごめんねママ。30近いと、夜更かしすると動き悪くなるからさ。ママも夜更かしするとお肌に響くよ」
と、席を立つ。

〇同・同・表
鞠菜、ハネトとダイキを見送る。
鞠菜「また、ファルコンの試合観に行きます」
ハネト「嬉しいな。宜しく」
ダイキ「俺がサイドバックからシャーッと上がって、絶妙なクロス上げてアシストするトコも見て。じゃあ、お先」
ハネト「ゴメンね、ダイキ。親父さんに挨拶、また今度で」
ダイキ「OK。もう爆睡してる時間だからいいよ」
と、ダイキだけ徒歩で帰る。
鞠菜「ありがとうございました~」
鞠菜、通りの向こうを眺める。
鞠菜「今日はタクシー来ないなぁ。私、営業所行って頼んで来ますね」
ハネト「営業所?」
鞠菜「この商店街を抜けた所に、タクシー営業所があるんですよ。タクシー5台位しかないから、迎車に出る運転手さんに、直談判して、次の予約するんです」
ハネト「そこまでしなくて良いよ。少し待とう。マリちゃんは、時間、大丈夫?」
鞠菜「はい。学生ですし。私、大学でスペイン語習ってるんです。(ため息)スペイン語、日本の中ではすごくマイナーですけど」
ハネト「スペインには、ラリーガっていう有名なサッカーリーグがある。俺も、一度で良いからプレーしてみたい。サッカーの聖地だからね」
鞠菜「ラリーガ? へぇ、知らなかった」
ハネト「本当? どうしてスペイン語を?」
鞠菜「子どもの頃、お隣にスペイン人ファミリーが引っ越して来たんです。そこに、3つ年上のパウロって少年がいて、同じ小学校に通っていたんです。学校での接点は全然なかったんですけど、ある日、飼っていた小鳥を逃がしてしまって……」

〇(回想)鞠菜の実家・中
鞠菜(9)、鳥かごを開け、水を取替える。小鳥がお気に入りの様子だが、小鳥は、不意に鳥かごから出て、開いていたベランダへ飛ぶ。
小鳥、低く飛び、外へ逃げる。
鞠菜「ピースケ! いやーっ!」
と、後を追い、ベランダから外へ出る。

〇(回想)ベランダに面した駐車スペース
雑草の生えた空きスペース。
サッカーボールを抱えて来たパウロ(12)、地面に着地した小鳥を素早く掴む。
鞠菜、パウロを見上げる。
ブロンドヘアが太陽光を受け輝く。
パウロ、明るい笑顔で小鳥を掴んだ手を鞠菜に差出す。
パウロ(西語)「Lo tengo.(取れたよ)」
鞠菜の笑顔、喜びに輝く。(回想終わり)

〇狭間商店街・ガールズバー鏡華・表
ハネト「じゃあスペイン語は、パウロから?」
鞠菜「いいえ。それから何度かパウロを見かけたけど、一家はいつの間にか引越してた。私は、パウロに助けて貰ったピースケに、片言のスペイン語を教えながら、自分も少しずつ覚えていった」
ハネト「パウロとは、それっきり?」
鞠菜「はい。今も、大学以外でスペイン語話す機会は全然無いし。だから、ファルコンの練習場で、ソフィアさんと話せたのは、ほんっと嬉しかった」
ハネト、鞠菜の横顔に惹かれる。
鞠菜「私、ハネトさんのスーパーセーブ、撮ったんですよ」
と、スマホを出して画像を探す。
鞠菜「あった!」
ハネト「ホント? 見せて」
と、スマホに手を伸ばし、つい鞠菜の手首を掴んでしまい、慌てて離す。
ハネト「ごめん、勢い余っちゃった……」
鞠菜、クスクスと笑う。
鞠菜「こんなの、ハネトさん沢山あるでしょ」
ハネト「いや、FWで、ゴール決めたぜってのに比べたら、キーパーのは全然少ないよ」
俯き加減に笑顔を見せるハネトの横顔。
鞠菜、ハネトに恋する気持ちが確定。
鞠菜「じゃあ、宝物にします。いつかハネトさんが、ラリーガの選手になったら、価値が上がるかもしれませんし」
鞠菜、冗談抜きで信じている様子。
ハネト、思わず鞠菜にキスする。
タクシーが来る。
鞠菜とハネト、慌てて乗り込む。

〇ジュネーブパレス・202号室・中
ハネトと鞠菜、見つめ合い、抱き合う。

〇ファルコン狭間・クラブ・練習場
ハネト、スライディングキャッチ。ボールが僅かに毀れ、相手選手が群がる中、はいつくばり、必死にボールを掴む。

〇駒東大学・カフェテリア
実紀、就職関連の資料を見ている。
莉咲、PCで履歴書を書いている。
普段着の鞠菜、感心した様子でいる。
鞠菜「莉咲も実紀も、就活頑張ってるね」
実紀「スペイン語関係は諦めたけど。鞠菜は?」
莉咲「本物の恋で忙しいんだよね~」
実紀「鞠菜、彼氏、学生じゃないでしょ」
鞠菜「(改まって)うん、Jリーガーなんだ」
莉咲「嘘っ、えっ、じゃあ就職しないで結婚?」
鞠菜「そういう訳じゃないけど。私はやっぱり、スペイン語が使える職場が良くて」
実紀、PC画面に目を止める。
実紀「鞠菜見て、編集者募集だって!」
“侍クロス 新卒採用 編集者募集 スペイン語採用枠”のコーナーがある。
鞠菜「侍クロスって、サッカー雑誌の?」
莉咲「スペイン語枠、鞠菜にピッタリだよ」
実紀「うん、鞠菜しかいないでしょ」
莉咲「今、オンラインセミナーやってるよ。ゲスト講演・元リバティ浮島FWアントニオ・ベル。あ、繋がったよ」
鞠菜、実紀、莉咲、画面に注目。

〇“侍クロス”オンラインセミナー画面
アントニオ(西語)「Me iré de Japón esta temporada y volveré a España. Japón, donde pasé tres años, era un país extraño y frío.(私は今シーズンで日本を去り、スペインに帰る。3年間過ごした日本は、不思議で冷たい国だった)」
画面に反射して写る鞠菜の顔、非常に真剣な様子に変わる。
アントニオ(西語)「En el partido de fútbol, muchos japoneses me vitorearon.(サッカーの試合で、私は多くの日本人から声援を受けた)」
アントニオ(西語)「Un paso fuera del club, ningún japonés me habló.(一歩クラブを出ると、日本人は、誰も私に話しかけなかった)」
鞠菜「(呟いて)そうだね。私、このままじゃ駄目だね」
実紀「鞠菜?」
鞠菜「(我に返り)ありがと実紀、莉咲。侍クロス、受けてみるよ」

〇鞠菜のアパート・部屋・中
鞠菜、狭いキッチンに立ち、作り置きした惣菜を大き目のタッパーに入れ、煮込んでいる鍋の火加減を調節。
スマホが鳴る。鏡華からである。

〇狭間十番街・“鏡華”・中
鏡華ママ、開店準備しながら通話。
鏡華「マリちゃん、今週のシフトまだだよね。こっちは毎日でも大歓迎……」

〇鞠菜のアパート・部屋・中
鞠菜「(ためらい)ごめんママ、シフト、もう少し待って。今日の夕方、お店行っていい?開店準備手伝う。じゃあ後で」
と切り、吹切った表情で料理を再開。

〇狭間十番街・“鏡華”・中
鏡華、椅子などを拭き、準備中。
鞠菜、楽しげに手伝っている。
鞠菜「ごめんママ、私、お店辞める」
鏡華「やだ、マリちゃん、男できた?」
鞠菜「うん、そうなの。大丈夫、騙されてないからね。ママ、今までありがとう。ママのこと、絶対忘れない。人生の先輩として尊敬する。結婚式、絶対呼ぶね」
鏡華「(涙声)やだ、私みたいな人、結婚式なんて正式な場に呼ぶもんじゃないのよ。でも、ありがとう」
鞠菜「ママ、雑巾、新しいの貰うね」
と、しなやかに動く。

〇ジュネーブパレス・外観
ごく普通の低層マンション。

〇同・202号室・中
ハネト、ダイニングテーブルに着く。
鞠菜、作り置きした食事を並べる。
ハネト、顔を上げず黙々と食べ始める。
鞠菜「(心配そうに)味、大丈夫?」
ハネト「旨いよ。ごめん、俺一人暮らし長い
から、黙って食べる癖付いちゃって」
鞠菜「美味しいならOK。そうだ、ハネさん、ユニフォームの洗濯ってある?」
ハネト「ある。結構溜まってたかも」
鞠菜「洗濯するよ。今日、洗剤安かったの」
と、数種類の洗剤を出して見せる。

〇同・同・脱衣スペース
洗面台の近くに洗濯機がある。
鞠菜、洗面台に水を張り、汚れたユニフォームを広げる。肩周辺の汚れが目立つ。
ハネト、様子を見に来る。
鞠菜「キーパーって、上半身こんなに汚れるんだ……」
ハネト「肘も結構汚れちゃったな」
鞠菜「本当だ。でも任せて」
と、スプレーや石鹸で、ゴシゴシと洗う。
ハネト「鞠菜、最近、毎晩うちに来てくれるのは大歓迎だけど、バイト入ってないの?」
鞠菜「あぁ……私ね、お店辞めたの」
ハネト「(驚いて)そうだったの?」
鞠菜「ごめん黙ってて。そろそろ就活も始まるし、学校もあるし。潮時かなって思ってたから」
ハネト「(心配そうに)お店辞めちゃって、生活大丈夫?」
鞠菜「(明るく)大丈夫」
ハネト「困ったら、何時でも此処に来て」
と、背後から鞠菜を抱きしめる。
鞠菜「好きを仕事にって、こういうことかな」
ハネト「ユニフォームの洗濯なら、来シーズンはJ1だから、クラブがやってくれるよ」
鞠菜「じゃ、意味ないか」
ハネト「(まんざらでもなく)まぁね。でも、取りあえず、これ(洗濯)はお願い」
鞠菜、任せてと力を込める。

〇駅の洗面所・鏡の前
リクルートスタイルの鞠菜、キリリと髪を束ね、前髪をピンで留める。

〇出版社“侍クロス”・面接会場
鞠菜、採用面接に臨んでいる。
面接官の中には、スペイン人もいる。
鞠菜「御社のオンラインセミナーに深く感銘を受けました。アントニオの“冷たい日本人”というフレーズが、今も胸に突き刺さっています。アントニオのような外国人選手の支えになれたらと、強く思いました。また先日、サッカークラブの見学に出掛けた際、スペイ
ン人の方とお話する機会がありました。彼女によると、ヨーロッパにおけるGKの地位は非常に高いそうです。異国のサッカー事情についても詳しくなりたいです」
スペイン人面接官(西語)「Frío japonés, portero de bajo rango. Es como las palabras negativas que te impulsan(冷たい日本人、地位の低いGK。あなたを動かすのは、ネガティブな言葉のようだ)」
面接官たち、和やかに笑う。
日本人面接官「その後も、サッカー観戦には行かれてるんですか」
鞠菜「勿論です。私の人生の一番の道楽になりました」

〇レストラン“サフラン”・外観
サッカーの練習帰りの子どもたちが通って行く。

〇同・店内
シックなカウンターバーがある。
鞠菜、テーブル席で待つ。
ハネト、隣りに来て、傍らにスポーツバッグをドサリと置いて座る。
ハネト「ユニフォーム、今日も相当汚れた」
鞠菜、わざと残念そうな顔になる。
鞠菜「ゴメン、もう毎日洗えなくなるかも」
ハネト、えっ?と首を傾げる。
鞠菜「私、就職決まったの。侍クロス」
ハネト「おめでとう鞠菜、今夜はお祝いだ。マスター、シャンパン!」
シャンパンが注がれる。
鞠菜とハネト、グラスを合わせる。

〇出版社“侍クロス”のあるビル・前
T ―数ヶ月後。翌シーズン。
ハネトの運転する車、ビルの前に停車。
鞠菜、車から降り、運転席のハネトに軽く手を振る。
鞠菜「ありがとうハネさん。試合、今日はテレビ中継だよね、流石J1リーガー」
ハネト、寝不足なのか冴えない表情。
鞠菜「ハネさん、最近ちゃんと眠れてる?」
ハネト「大丈夫。鞠菜も頑張れよ」
鞠菜、心配しながらビルへ向かう。

〇狭間サッカースタジアム・ロッカールーム
ファルコン狭間チームスタッフ明日花、同僚・佐古(26)と、清掃用具を抱え、疲れた様子で掃除している。
明日花「あー、一体いつになったら……」
佐古「(ニヤニヤして)多いんだよね、サッカー選手と付き合えると思って入社するコ」
明日花「ち、違いますよ。私は」
佐古「じゃ、これ何?」
と、ポケットからはみ出した、ダイキのキーホルダーを指す。
明日花「ちょっとっ、お願い黙ってて……」
ハネト、やや覇気のない感じで現れる。
明日花・佐古「(慌てて)お疲れ様です」
ハネト「(だるそうに)お疲れ~」
明日花、心配そうにハネトを見守る。

〇赤倉スタジアム・フィールド
ファルコン狭間VSチェイスマン赤倉
ハネト、チェイスマンFW片山(25)の緩いシュートをキャッチ。ダイキ、マサト(29)、アツヤ(30)らDF陣のラインが整うと、ダイキにボールを送る。
その途端、片山、ダイキをめがけハイプレスを掛ける。
ダイキ、辛うじて片山をかわし、CB・マサトにボールをパス。
マサト、ボールを確実に足元に納めたその瞬間、チェイスマンFW池永(32)が、鮮やかに駆け付けボールを奪い去る。
ダイキ、猛然と池永を追い、マサトと二人で池永のボールを奪おうとする。
ハネト「ダイキ上がれ!」
ダイキ、我に返り定位置に上がる。
池永、マサトからボールを奪いきり、片山へクロスを上げる。
片山、やや強引なシュート。
ハネト、一度は弾くが、ボールはゴールに吸い込まれる。
副審のホイッスル。オフサイドフラッグが上がる。
ハネト「オフサイ(ド)!」
ホッとするファルコン選手たち。
ダイキ、ハネトの肩に手を置く。
ダイキ「サンキュー」
ハネト「真ん中入れて、中央で時間作ろう!」
と、ダイキにボールを繋ぐ。
ダイキ、センターライン付近にロングボール。MFリョウマ(37)を狙う。
待ちかまえるリョウマの前を、チェイスマンの長身MF長谷川(28)が遮り、ヘディングで前線へ戻す。
ハネト、PA内ギリギリでジャンプし、パンチング。ボールはラインを割る。

〇同・ファルコン側ベンチ
ハーフタイム
ハネト、血走った雰囲気で立っている。
ダイキ、ユニフォームを脱ぎ汗を拭く。
ダイキ「ハイプレス、キッつい。俺とマサト、速攻でやられる」
マサト、浴びるように給水する。
マサト「チェイスマンのFW、神出鬼没だよ。片山と池永、J2の時はいなかったからな」
リョウマ「(サバサバと)化けモンだな。ミッドの長谷川も、今シーズンから入ったヤツだ。デカイ上にジャンプも高い」
ダイキ「大丈夫だろ。前半ゼロで押さえた」
リョウマ「(明るく)ハネ、なるべく早くフリーな選手を見極めろや。DFやMFだけじゃなく、トップ下のニシキまで視野広げて」
トップ下・ニシキ(33)、笑顔で、
ニシキ「ロングフィード、待ってるぜ」
ハネト「(動揺しつつ)任せろ」
監督・白田(50)、選手の輪に入る。
白田「ハネ、私が教えたこと思い出して。敵のハイプレス。GKの前に、敵の前線の壁ができる。その壁を崩すのは、攻撃の起 点である、GKなんだよ」
ハネト、プレッシャーを感じる。

〇同・フィールド
ゴール前、池永、マサトを背負いながらボールを保持し、振り向き様にシュート。
ハネト、這い蹲る様にして止め、トップ下のニシキにロングフィード。
長谷川、またもヘディングで前線へ戻す。
サイドでボールを持ったダイキを片山と池永が囲み、ラインが押し下げられる。
ハネトに迫り来る、チェイスマンの壁。
チェイスマンFW三井(29)、走り込んで来てパスを受け、強烈なシュート。
ハネト、一歩も動く事ができない。
場内アナウンス「ゴーール!」
ファルコン選手一同、ハネトに注目。
ハネトの視界、焦りと疲労のため揺れる。
試合終了のホイッスル。
喜び合うチェイスマン選手たち。
ハネト、震えが止まらず飲水ボトルを落とす。吹き出す汗も止まらず、よろめき膝をつく。
ダイキ「ハネ、大丈夫か? ドクター!」
チームドクター・澤田(48)、ハネトの元に駆け寄り、脈をとる。

〇侍クロス・オフィス・資料室
鞠菜、書棚の一角にある、スペイン語雑誌『ラリーガの伝説』コーナーから、最新刊を手に取り、嬉しそうに眺める。
スポーツ事業部・太田(45)、バタバタと来る。
太田「岡部さん、ファルコン狭間の資料、何処か知らない?」
鞠菜、ファルコン狭間の資料を素早く持ってくる。
鞠菜「どうぞ」
太田「早っ、ファルコンに恋人がいるみたい」
鞠菜「まっ、まさか」
太田から、作成中の原稿が滑り落ちる。
見出しに“ファルコン狭間4連敗。降格の危機!”失点シーンに、ハネトが大きく写っている。
鞠菜、原稿を拾い、太田に差し出す。
鞠菜のスマホが鳴る。

〇とある病院・廊下
ほぼ終わりそうな点滴スタンド。
ハネト、長椅子で点滴袋を見ている。
鞠菜、仕事を抜けて来た様子で来る。
鞠菜「ハネさん、ごめんね、来るの遅くなっちゃって。大丈夫?」
ハネト「不眠による体力の消耗だってさ」
鞠菜「ハードな試合で疲れている筈なのに、眠れないの?」
ハネト「メンタル弱いって事だろ」
鞠菜「そんな。あ、点滴終わった。看護師さん呼んでくるね」
と、受付へ行く。

〇走る車の中
ハンドルを握る鞠菜。
助手席のハネトの表情は冴えない。
鞠菜「次の試合には出られるみたいで、良かったね。今日はゆっくり休もう」
ハネト「仕事中に悪かったな。お礼にキムチ鍋でも作ろうか。お一人様時代の得意料理」
鞠菜「無理しちゃダメ。今、ファルコン大変なんだから」
ハネト「俺のせいで、だろ?」
鞠菜「何言ってるの。今日対戦したチェイスマン赤倉は、昨シーズン、一緒に昇格したライバルだけど、過去にはJ1で優勝経験もある。今シーズンは、FW中心に補強を行って、J2だった昨シーズンとは全く違うチームになったと言っても過言じゃない。伝統のあるクラブだから可能な事で、元々格上のチームなんだから」
ハネト「格下は一生格下だけどな」
鞠菜「ハネさん、少し寄り道して帰ろう」

〇スタジアムの見える丘
小さな飛行場が眼下に広がる小高い丘。
ハネトと鞠菜、丘の上から遠くのスタジアムを眺める。
ハネト「スタジアム、綺麗だな」
鞠菜「今日の失点はしょうがないよ。DFのダイキから、ミッドのリョウマまで、ずっとハイプレス掛けられて。どうしようもないタイミングでキーパーに戻されて、またすぐ奪われて。いつかは押し込まれて当然」
ハネト「(驚いて)鞠菜、そんな事考えてたの?」
鞠菜「まぁね。会社の資料室で猛勉強したの」
ハネト「凄いな。でも適切なタイミングでパスを要求出来なかった俺にも責任がある」
鞠菜「GKの役割は沢山ある。フィールドへのコーチングは、その中の重要な一つ。他にも、ポジショニングやキャッチングの正確性。足下の技術。私、サッカー雑誌の仕事してるのに、スーパーセーブだけでGKを評価してた自分が、恥ずかしくなった」
ハネト「俺ってバカだな。皆、俺の事ちゃんと判ってくれてるのに、全部一人で背負い込んでるって勘違いして」
鞠菜「皆、ハネさんを信じ続けてるよ」

〇ジュネーブパレス・202号室・寝室
ハネト、安心したような寝顔で眠る。
鞠菜、添い寝し、ハネトを見守っている。
鞠菜のスマホがマナーモードで鳴る。
鞠菜、ベッドを抜け、慌てて出る。
鞠菜「岡部です。え、ラリーガから、GKが移籍? わかりました。すぐ行きます」
と、ハネトを起こさないよう支度する。

〇ファルコン狭間・クラブ・練習場
コーンの列をくぐり抜ける選手たち。
俊敏な動きが何度も繰り返される。
ハネト、入念にストレッチを行っている。
明日花、駆けつける。
明日花「選手の皆さん、ニュースです。至急クラブに集まってください」
ハネト「明日花さん、どしたの?」
明日花「チェイスマン赤倉に、ラ・リーガのビルバエダから、GKパウロ・コクランがレンタル移籍です」
ハネト、すぐには思い出せない様子。
ハネト「パウロ? ラリーガ……」

〇侍クロス・資料室
鞠菜、『ラ・リーガの栄光』のバックナンバーを探し当て、急いでページをめくる。パウロの小さな写真付き記事が掲載されている。
鞠菜「あった! 今月の注目サブキーパー!」
と、小さなパウロの写真を見つめる。
鞠菜「パウロ……まさかね」
太田、来て、チラリと記事を覗く。
太田「そんなにガツガツしても意味ないよ。パウロ・コクランはそんな有名じゃない」
鞠菜「そうなんですか?」
太田「どっちにしても、スペイン語事業部の岡部さんには、パウロ・コクランのインタビュー2、3取ってきて貰えれば。後は俺たちスポーツ事業部が書くから」
鞠菜、鞄を抱え、飛び出して行く。

〇空港・ロビー
鞠菜、他の記者たちとパウロを待ち構えている。
パウロ・コクラン(25)、スーツ姿で到着する。
パウロに囲み取材する記者たち。
記者A(英語)「ウェルカム、パウロ。ハウアバウト、ジャパニーズインプレッション」
鞠菜(西語)「Esta es Marina Okabe de Samurai Cross. Una cálida bienvenida, Pablo. ¿Cuál es tu impresión de venir a Japón después de cruzar el puente arcoíris desde LaLiga?(侍クロスの岡部鞠菜です。パウロ、心から歓迎します。ラリーガから虹色の橋を渡り、日本に来た印象はどうですか)
パウロ、何処か懐かしそうに鞠菜を見る。
パウロ「日出ずる国日本。遠い昔、そう習った」
流暢な日本語に驚く一同。
パウロ「少年の頃、少しの間日本で暮らした事がある。お隣りには、鞠菜、今ちょうど君くらいの年頃になっている筈の、キュートな少女の一家がいたよ」
鞠菜、ハッとする。

〇(回想)・鞠菜の家・ベランダ横の駐車スペース
ベランダから、外に飛び出すピースケ。
裸足で飛び出す鞠菜(9)。
パウロ、ピースケを掴み、鞠菜にその手を差し出し微笑む。
鞠菜、喜びと安堵の表情に溢れる。

〇空港・ロビー・会見コーナー
簡易テーブルに着いたパウロ、別の記者の質問に応えている。
鞠菜、メモを取りながら、パウロの顔に少年時代の面影を探してしまう。

〇ファルコン狭間・クラブ・中
ファルコンの選手たち、集合している。
パウロについて、皆殆ど知らない様子。
明日花「パウロ・コクランが移籍するチェイスマン赤倉とは、最終節にホーム対戦を残してます。パウロのプレー動画、流します」
モニター画面、ラ・リーガでのパウロの
セーブ集の動画が流れる。
選手たち、真剣に見つめる。
白田、ハネトの元に来る。
白田「ハネ、君は、これから自分自身の戦略をもっと立てるべきじゃないか。戦略の選択肢は多い方が良い」
ハネト「パウロ・コクランのプレーを見た限り、僕に勝ち目はないと?」

〇同・ロッカールーム
シュウヤ「(無邪気に)パウロのプレー、ヤバかったっス。あー、パウロかっけーっ」
ハネト、悩んでいる様子。
ダイキ「ディフェンスも頑張るから安心して」
ハネト「俺、GKとして取り柄ないかもしれない。J1に上がってそう思ったけど、今日、パウロのセーブ集見て、確信したよ」

〇空港・ロビー
パウロの記者会見が終わり、パウロや記者たち、徐々に場を離れて行く。
鞠菜、鞄からスペイン語雑誌『ラ・リーガの栄光』を取り出しページをめくる。
パウロのプロフィール、‘少年時代、長野県に在住。好物は日本食のしゃぶしゃぶ’とある。
パウロ、鞠菜に近付く。
パウロ(西語)「Bien encontrado, Marina. Un articulo tan pequeno en espanol.(よく見つけたね、鞠菜。スペイン語の、そんな小さな記事を)」
パウロの笑顔、少年時代の面影が宿る。
鞠菜の口元からも笑みがこぼれる。
鞠菜(西語)「Ojalá pudiera agradecerte. Gracias por ayudar a mi precioso pajarito. (あなたにお礼を言う事ができるなんて。私の大事な小鳥を助けてくれて、ありがとう)」
パウロ、少し半信半疑の様子。
パウロ(西語)「Marina, me acorde de ti. Por favor, espero con ansias mi exito en la J.League en Japon.(鞠菜、君の事は覚えたよ。日本のJリーグでの私の活躍を楽しみにしてくれ)」
鞠菜「¡Paulo Cochrane, el guardián del arcoíris de LaLiga! Ilumina Japón con siete colores de luz.(パウロ・コクラン、ラリーガの虹の守護神! 七色の光で、日本中を照らしてください)」
パウロと鞠菜、自然と握手。
鞠菜「パウロ、これからは、私に何でも相談してください」
パウロ「実は、お腹が空いて大変だ。僕のクラブの近くに、お勧めのしゃぶしゃぶの店はある?」
と、茶目っ気たっぷりにスマホを示す。

〇ジュネーブパレス・202号室・中
風呂上がりのハネト、TVを点ける。
今週のJリーグニュースに、パウロの記者会見の様子が映る。
鞠菜が食いつくようにパウロに声をかける場面が映る。
驚くハネト。腰を下ろし画面に見入る。

〇しゃぶしゃぶ店“虹の橋”・表(夜)
鞠菜、やっと探し当てた様子で店内へ。

〇同・店内
鞠菜、仕事しながら、一人食事中。ふと
誰か探すように眺めた後、諦めたような表情になる。
店員「お客様、お待ち合わせでしょうか」
鞠菜「いえ、すみません」
店員「(愛想良く)ごゆっくり」
目の前に、パウロが現れる。
鞠菜、落ち着いてパウロを見つめる。
鞠菜(西語)「Buenas noches, Guardián del Arcoíris.(こんばんは、虹の守護神さん)」
パウロ、フッと笑みを漏らす。
× × ×
パウロ、ゆっくりと箸を口に運ぶ。
パウロ「この野菜は美味しいね」
鞠菜「京都で採れた京野菜です。日本語も、お箸の使い方も上手なんですね」
パウロ「手の使い方には自信がある」
鞠菜「私も自信あります。才能あるスペイン人GKを見つける自信」
パウロ「それは皮肉かな? 僕の記事はあれが全てだよ。ラ・リーガの栄光どころか、下位チームの3番手止まり。もうラリーガの誰も、パウロ・コクランの事を覚えてやしないさ」
鞠菜「(力強く)そんな事ありません。キーパーのプレーは素晴らしい。一瞬で好きになって忘れられません」
パウロ、鞠菜の目を覗き込む。
パウロ(西語)「Tengo que preguntarle a los porteros que estan activos en la J.League en Japon. Crees que el prometedor portero japones jugara en ligas extranjeras en el futuro?(日本のJリーグで活躍するGKに、尋ねたい事がある。将来有望な日本のGKは、将来海外リーグでプレーすることは考えてるのかな)」
パウロの瞳を見つめる鞠菜、以前の記憶が呼びさまされる。

〇(回想)狭間十番街・鏡華・表
タクシーを待つ、鞠菜とハネト。
ハネト「スペインには、ラリーガっていう有名なサッカーリーグがある。俺も、一度で良いからプレーしてみたい。サッカーの聖地だからね」

〇しゃぶしゃぶ店“虹の橋”・店内
鞠菜(西語)「Por supuesto que estoy pensando en ello. Pasar a la Europa League es el sueño de un jugador japonés. (勿論考えてると思います。ヨーロッパリーグへの移籍は、日本人選手の夢です)」
パウロ(西語)「En Europa, los porteros ahora estan jugando agresivamente. Es asi la J.League?(今、ヨーロッパではGKも攻撃型のプレーが主流だ。Jリーグもそうなのか)」
鞠菜(西語)「Es cierto que el juego de pies está en demanda. Además, por ejemplo, un equipo nuevo como Falcon Hazama, que fue ascendido a J1 por primera vez esta temporada,
puede necesitar adoptar varios estilos de juego y atacar al oponente para permanecer. (足元の技術が求められているのは確かです。それと例えば、今シーズン初めてJ1に昇格を果たしたファルコン狭間のように新しいチームは、残留のためには、正GKであっても様々なプレースタイルを取って相手に仕掛ける必要があるかのかもしれませんね)」
パウロ(西語)「En realidad. Espero que el Falcon portero pueda responder con flexibilidad a las expectativas del entrenador. Si te apegas a un estilo de juego, es menos probable que recibas ofertas de ligas extranjeras.(そうか。そのファルコンのGKが、監督の期待に応えて柔軟に対応できる事を祈るよ。一つのプレースタイルで固定されると、海外リーグからのオファーが来る可能性は低くなるからね)」
鞠菜、バンッとテーブルを叩き立上がる。
鞠菜「ファルコン狭間のGK砦 跳人は、私の恋人です。可能性と才能に溢れています!」
鞠菜、しまったと口元を押さえる。
パウロ、肉を鍋に沈め、微笑む。
パウロ「怒った? ごめんね鞠菜。GKは、攻撃の起点だからね」
鞠菜、必死で感情を抑える。
鞠菜「日本のサッカー選手となった今、どんなGKでありたいと思っていますか」
パウロ「信頼されるGK。激しい雨の後には、必ず虹が出ると、信じてほしい」
鞠菜「素敵な言葉。ありがとうパウロ」
パウロ「鞠菜、君は僕に、日本での新たな選択肢を示してくれた。そのお礼さ」
鞠菜、首を傾げる。
パウロ「“虹の橋を渡る”空港での君の言葉さ。僕は必ず、この日出る国、日本でブレイクして、もう一度虹の橋を渡り、ラリーガに帰る。悪いけど、君の恋人より、僕の方が真剣だよ」
鞠菜、パウロから目が離せない。

〇ファルコン狭間・クラブ・グラウンド(夜)
ダイキ、一人で練習している。
明日花、通りかかり、見守る。
ダイキ「明日花、こんな時間まで仕事?」
明日花「ダイキさんだって。ちゃんと食事取ってますか」
夜空に飛行機のライトが見える。
明日花、嬉しそうに見上げる。
明日花「わぁ、飛行機近い」
ダイキ「今頃気付いたのか? 近くに小さい飛行場あるんだよ」
明日花「へぇ、知らなかった。良いなぁ」
ダイキ「飛行場のすぐ近くに、丘があってさ。
そっから、ファルコンのホームスタジアムも見えるんだぜ」
明日花「うそっ、それ絶対行かなきゃ」
ダイキ「アハハ、俺たち選手も、たまにフラッと行ったりするよ。たまには必要じゃん、そういうのも」
二人、無心で飛行機を見上げる。
ダイキ「行ってみっか。飛行場の見える丘」
明日花、思わずダイキを見つめる。
ダイキ「誰か誘ってさ。皆で必勝祈願」
と、フィールドに走り、自主練を再開。
明日花、暫しダイキを眺め、周辺の片づけ作業を始める。

〇ジュネーブパレス・202号室・中(夜)
鞠菜、帰宅する。
鞠菜「ただいま」
ハネト「お帰り。Jリーグニュースに映ってたよ。鞠菜のスペイン語、やっぱ上手いな。最初にファルコンの見学コーナーで聞いた時の事、思い出したよ」
鞠菜「やだ恥ずかしいな。一応仕事だから。ハネ、夜ご飯ちゃんと食べた?」
ハネト「ああ。鞠菜は? パウロとディナー、美味かっただろ」
鞠菜「疲れてないよ。お腹一杯で苦しいだけ。パウロの事、二時間も待って、食べ始めたの遅かったから」
と、ハッとして口元を押さえる。
鞠菜「仕事よ。私、パウロの取材に行ったの」
ハネト「パウロに夢中なんだな。俺には一度も、取材頼んで来ないのに」
鞠菜「(必死に)スペイン語担当だもん。私、自信あるの」
と、真剣にハネトを見つめる。
ハネト「(刺さり)自信か、鞠菜は変わったよ」
鞠菜「(ショックで震え)……え?」
ハネト「それが、なりたかったデキる女か」
鞠菜「私を責めるの? 何で? 意味分かんない」
ハネト「プレイヤーは色んなもんしょってる。自信無くす時だってある! 取材するだけの奴より大変なんだ。引っ掻き回すのは止めろよ」
鞠菜「(怒りで言葉を失う)……」
ハネト、ベランダに出て扉を閉める。
ソファの上で膝を抱え、泣く鞠菜。
ハネト、ベランダから出て来る。
ハネト「ごめん鞠菜……言い過ぎた」
鞠菜、嗚咽がひどくなる。
ハネト、咄嗟に鞠菜を抱きしめる。
ハネト「もう一度、俺を信じて……」
鞠菜、ハネトを振り払い、出て行く。

〇レストラン“サフラン”・前(夜)
明日花、店内に入ろうと進む。
ダイキ、背後から、明日花の肩を叩く。
ダイキ「明日花、お疲れ」
明日花「あれ、ダイキさんもサフランで夕食ですか?」
ダイキ「おう、たまにはな。一緒にどう?」
明日花「(ドキッとして)結構です。ダイキさん気を付けないと、炎上しますよ」
ダイキ、なるほどと頷く。
鞠菜、明日花の肩越しに、泣き顔を隠しながら、店内に入って行く。
明日花「(小さく)大丈夫かな、あの人」
ダイキ、ポンッと手を打つ。
ダイキ「あのコ! 猫みたいでした……何で此処に?」
明日花「ダイキさん、知り合い?」
ダイキ「(あっけらかんと)一回飲んだかな」
明日花「(早とちりして)あのコは私に任せて。ダイキさんは、あのコから見えない席で食べてください」
ダイキ「(気圧されて)う、うん」

〇同・カウンター・中(夜)
鞠菜、カウンターに腰を下ろす。
明日花、鞠菜の後ろで、少し離れたダイキの席が死角になっているのを確認し、明日花のすぐ傍に座る。
そっと涙を拭う鞠菜、次第に嗚咽。
明日花「(狼狽えて)ここ、良い店だよね」
鞠菜、嗚咽を必死に抑えながら、
鞠菜「えぇ。サッカースタジアムも近いし」
明日花「サッカー好きなの?」
鞠菜「はい。私、自分の全てをサッカーに救われたんです」
明日花「恋人もサッカーやってたりして」
鞠菜「実は、喧嘩しちゃって。前にね、二人で此処に来たの。楽しかったなぁ」
明日花「そっか。きっと夢みたいな時間だったんだろうなぁ」
鞠菜、少し落ち着き、一口飲む。
鞠菜「私、彼と出会ってからの人生全部、彼を好きな気持ちだけで突っ走るような気がしてたんです。でも、仕事も大事。今、自分がそう思ってることが意外で」
明日花「わかる。私も去年までは学生で、大のサッカーファン。今は大好きなチームの、スタッフになった」
鞠菜「そうなんですか?じゃあ私たち、二人ともサッカーを仕事にしてるんですね」
明日花「私たち?」
鞠菜「侍クロスの雑誌記者なんです。極小スペイン語事業部ですけど、憧れの仕事です」
と、名刺を出し、明日花に渡す。
鞠菜「侍クロスの岡部です」
明日花「岡部鞠菜さんですね。それじゃ私も」
と、名刺を差し出す。
鞠菜、驚いて明日花を凝視。
明日花「ファルコン狭間チームスタッフ広報担当の引田です。よろしく、岡部さん……岡部さん、どうかした?」
鞠菜「いえ、ごめんなさい。引田さんは、一番選手に近い所にいるんですね。いいな」
明日花「じゃやっぱり、岡部さんの彼氏って」
と、ダイキがいる方向に目を遣る。
鞠菜「私、彼を信じられなくなってしまって」
明日花「でしょうね。こっちはそのつもりでも、向こうは一度っきり」
鞠菜「私、自分が恥ずかしい。どうして、もっとすぐに許す事ができないんだろう。私だって、皆に色んな事許されて、信じて貰ってたくせに」
明日花「許せないのは、大切な人だからでしょ?」
鞠菜、グラスを一気に空ける。
明日花、まじまじと鞠菜を見つめる。
明日花「ね、私たち、前に何処かで会ってない? 岡部さん、ファルコンサポって事は……昨シーズン、J1昇格を掛けたファルコン狭間の最終節」
鞠菜「(ぼんやりと)いた。ゲームが終わった後、大きなカメラを提げたコが、話しかけて来た。私は、偶然穫れたハネさんのスーパーセーブを眺めてた……(思い出せず)」
明日花「(ハタと)そっか、キーパー推しね! って事は、岡部さんの彼氏って、まさかハネさん?」
鞠菜「当り前じゃないですか」

〇サフラン近くの駐車場(夜)
ハネト、車を止め、駆け出して行く。

〇サフラン・店内・カウンター
鞠菜、疲れと酔いでグダグダ。
明日花、ダイキの席の方を見る。
ダイキ、トイレに行く様子で席を立つ途中、明日花と目が合い、軽く手を振る。
明日花、疑惑が晴れ、余裕で鞠菜をなだめる。
明日花「帰り危ないよ。ハネさんに連絡すれば?」
鞠菜、頑固に首を振る。
明日花「仕方ない。今夜は付き合ってあげる」
鞠菜「本当? 友達になってくれる?」
明日花「もしかして友だちいないの?」
鞠菜「(酔って)全っ然。男と仕事に全部奉げてるの。もう胸張って言える」
明日花「可哀そうに。これから私の事、明日花って呼んで良いからね」
鞠菜「ヤッター! 明日花ぁ、私、今、泣くほど嬉しい」

〇サフラン・出入り口(夜)
ハネト、急いで入って来る。
ダイキ、席に戻ろうとして、ハネトと鉢合わせる。
ダイキ「ウッス! 俺も一人。一緒に……」
ハネト、鞠菜を見つけ、カウンターに真っしぐら。
ダイキ「(納得して)なるほどね」

〇同・カウンター(夜)
鞠菜、明日花に気を許している様子。
鞠菜「明日花、私の事、鞠菜って呼んで。ま・り・な。だよ」
ハネト、鞠菜を見つけ傍に来る。
ハネト「鞠菜、帰ろう」
鞠菜「ハネさん……」
と、瞳を潤ませ、立ち上がる。
明日花「(呆気に取られ)ハネさん……」
驚くハネト、ゴメンと手を合わせ、鞠菜と店を出る。
明日花「(思考が崩壊)一体どうなってんの?」
ダイキ、明日花の隣りに来ている。
ダイキ「猫みたいでした! って、あのコ、ハネの彼女になってたのか」
明日花「侍クロスの記者さんだそうです。私、友達になっちゃった」

〇サフラン近くの駐車場(夜)
鞠菜とハネト、手を繋いで来る。
鞠菜、酔って、やや斜に構えている。
フードで顔半分を覆った不審者・梅蔵、ハネトの車を念入りに眺め、袋から何か取出す。
鞠菜「(叫ぶ)あーっ、何してるんですか!」
梅蔵、車にシュークリームを投げ付け、逃げる。
鞠菜、すぐに車を確認する。
鞠菜「車に傷は無いみたいだけど……ひどいイタズラ。通報しようよ」
ハネト「いや、鞠菜も無事だし、いいよ」
鞠菜「そんなお人好しな事言って……」
ハネト、言葉と裏腹に相当なショックを受けている。
鞠菜「運転する前に、コーヒーでも飲もっか。ほら、あっちにコンビニある」

〇コンビニ・手前の道
明日花とダイキ、歩いて来る。
明日花、軽く立ち止まる。
明日花「ダイキさん、私、この辺で大丈夫ですから。ほんっとに」
ダイキ「タクシー捕まえるまで駄目。ウチの大事なスタッフを夜中に一人で帰せないよ」
明日花、恐縮しながらも嬉しそう。

〇コンビニ・店内
梅蔵、缶ビールを購入すると、すぐに缶を開け、飲みながら出入り口に向かう。

〇同・前
梅蔵、辺りを伺いながら出て来る。少し
先のダイキたちに気付き、慌てて方向を変える。

〇コンビニ・すぐ近くの道
鞠菜とハネト、ダイキたちと逆方向から、並んで来る。
梅蔵とすれ違うが、二人とも俯き加減のため、気付く事なく店内に入って行く。
ハネト「情けないよ。俺がファルコンのGKとして認められてないせいだな」
鞠菜「ヨーロッパはね、新しく正GKになった選手の車が、パンクさせられたりするんだって。でもそれは、キーパーの注目度が高い証拠なんだよ」

〇同・店内
鞠菜、マシンでコーヒーを淹れる。
ハネト、じっとコーヒーを見つめる。
鞠菜「ヨーロッパでは、キーパーが、勝敗の重要な鍵を握る存在だって認められてる。だからハネもそう思えばいい。一流になった証拠なんだって」
と、コーヒーをハネトに差出す。

〇同・近くの道
鞠菜とハネト、コーヒーを飲み、歩く。
近くの花壇に腰掛けビールを飲んでいた梅蔵、立ち上がり、鞠菜たちの後ろを歩き始める。
× × ×
向こうから、明日花とダイキ、来る。
ダイキ、まだタクシーを探し、辺りを見回す。
ダイキ「あれ? ハネ? (大きく)ハネ―っ」
と、手を振る。
× × ×
ハネト「ダイキ?」
鞠菜「あ、明日花さんも一緒だ」
梅蔵、前から来るダイキに気付き、続いて、少し先を歩く二人が鞠菜とハネトだと気付くと、素早く歩道脇に寄り、木の陰に身を隠そうとするが、その拍子にビール缶を派手に落とす。
後ろを振り返るハネトと鞠菜、梅蔵と目が合う。
鞠菜「(恐怖で震え)梅蔵さん? まさか、さっきの車の不審者って、梅蔵さんなの……」
ハネト「鞠菜、知り合いなのか?」
鞠菜「(震え止まらず)うん、ごめんハネさん、車のイタズラ、私のせいだった」
ハネト、素早く梅蔵を捕える。
ダイキと明日花、駆けつける。
ダイキ「(驚き)ハネ、何やってんだよ!」
ハネト「こいつ、俺の車に変なモン投げてきやがったんだよ」
と、梅蔵のフードを勢いよく外す。
ダイキ「親父……」
ハネト「え?」
と、反射的に、梅蔵に掛けていた手を緩める。
明日花、鞠菜の元に駆け寄り肩を抱く。
ダイキ「親父、ホントなのか? おいっ、何とか言えよ」
梅蔵、地面に転がっていたビール缶を蹴飛ばし、ふざけたように土下座する。
梅蔵「申し訳ございませんでした」
ダイキ「ふざけんなよ。今までどんなに家で騒いでも、ただの酔払いだと思ってた俺が甘かったよ。土下座で済まされると思ってんのか?」
と、梅蔵を揺さぶる。
ハネト「ダイキ、俺の事なら気にすんな。もういいから」
梅蔵、小馬鹿にしたように笑う。
梅蔵「誰がお前ら野郎に構うもんか。な、マリちゃん」
鞠菜、観念して目を閉じる。
梅蔵「探したんだよ。息子の友達と付き合ってんだ。随分大人になったじゃない、マリちゃん。ね、お目々開けて」
と、鞠菜の顔を覗き込む。
ハネト、梅蔵を羽交い絞めにする。
ハネト「止めろ。鞠菜、警察に連絡!」
鞠菜、スマホを出すが、ためらう。
ダイキ「110番、掛けてください」
梅蔵「(叫ぶ)あーあー、誰のお蔭で生活できたと思ってんだ。ダイキ、今までお前育てる為に使った金、全部返せ!」
ダイキ「っせーな。またそれかよ。聞き飽きたよ」
梅蔵「(酔って)いいよ、マリちゃんいるもん。マリーっ、俺の金で取った免許返せ! 教科書も返せ!」
ハネト、羽交い絞めの片腕に力を込め、反対の手でスマホを出し110番。
ハネト「不審者捕まえました。私の車に悪戯して、路上で酒飲んで、騒いで女性に絡んでます」
ダイキ、がっくりと肩を落とす。
ハネト、梅蔵を捕えた手を緩めない。

〇同・同(時間経過)
梅蔵と警察官を乗せたパトカーが出発。
鞠菜、ハネト、ダイキ、明日花。
明日花、ダイキの事が心配な様子。
ハネト「ダイキ、ごめん」
ダイキ「いいんだ。親父、酒癖超悪くてさ、俺が物心付いた時から、母さんずっと泣いてた。やっと踏ん切りついたよ。サンキュ」
明日花、辛そうな様子。矛先が鞠菜に向けられる。
明日花「鞠菜さん、ダイキさんのお父さんとは、一体どういうご関係なんですか」
鞠菜「ごめんなさい明日花さん、私、明日花さんに友達になって貰う資格なんて無いんで」
と、深々と頭を下げる。
明日花「(全く理解できず)え?」
鞠菜「明日花さんと初めて会ったファルコンの昇格戦の後、私、ガールズバーで働いてたんです」
明日花「(遠い世界で)ガールズバー……」
ダイキ「俺の地元の商店街の中の、こじんまりした店だよ。ママは俺の幼なじみ」
明日花、少し抵抗を感じている様子。
鞠菜「最近よく思い出すんです。夜の街、狭間十番街の風景……私、鏡華でのバイトの事、後悔してない。それまでずっと優等生で、親とか先生の言う通りに生きてきた。鏡華は、気の良い地元のお客さんばかりで、楽しかった。鏡華で働いて、今まで関わらなかった人たちの中にも、良い人が沢山はいるって知った。そしたら、自分も確実にマシな人間になった実感があった」
明日花「(グッと言葉に詰まる)」
ハネト、そっと鞠菜の肩を抱き、二人で帰って行く。

〇走る車の中
ハンドルを握るハネト。
鞠菜、相当落ち込んだ様子である。
鞠菜「ごめん、今夜は久しぶりに自分のアパートに帰る」
ハネト「わかった」
鞠菜「ごめんねハネさん。私が出て行ったせいで、皆にすごい迷惑かけちゃった。ハネさんの言う通り、私、出会った頃とは別人だ。ハネさんのユニフォーム洗濯してた頃が懐かしい。あんな風に、ずっとハネさんだけを支えられれば良かったのに」
ハネト「結婚しよう、鞠菜」
鞠菜「(驚いて)嘘……どうして?」
ハネト「鞠菜の全部を受け止めたい。今夜、その決心がついた。俺の一生かけて、鞠菜を守り続ける」
鞠菜「私なんかと、これ以上関わっちゃダメだよ」
ハネト「行き着く所まで行く覚悟は決めた」
鞠菜「ハネさんには沢山のサポーターがいる」
二人を乗せた車、アパートの前に停車。
鞠菜、断腸の思いで車を降りる。
ふいに、ハネトの手が鞠菜の腕を掴む。
ハネト「返事は、スタジアムの見える丘で。連絡する」
鞠菜「……考えとく」

〇鞠菜のアパート・部屋・中
鞠菜、帰宅し明かりを点ける。
ガランとした生活感の無い部屋。
ハネトと2人で写った写真、埃を被っている。
鞠菜「ただいま」
鞠菜、床に倒れ込み、眠る。

〇侍クロス・スペイン語事業部
鞠菜、パウロの記事を黙々と書いている。
太田、来て覗き込む。
太田「おっ、偉い。全部自分で書いてる」
鞠菜「ありがとうございます太田さん。スポーツ事業部に言ってくれたんですってね。パウロの記事、私に全部任すって」
太田「まあね。今後もネタ集め頑張って」
鞠菜のスマホが鳴る。パウロから電話。
パウロ(電話)「Marina, que estas haciendo ahora?(鞠菜、今何してるの?)」
鞠菜(西語)「Es trabajo.(仕事です)」
パウロ(電話)「Estas de buen humor. Peleas con el amante de GK?(ご機嫌斜めだね。GKの恋人と喧嘩?)」
鞠菜、太田や周囲を気にする。
鞠菜(西語)「Es una empresa en este momento. Nadie sabe de mi y de el.(今、会社です。私と彼の事は誰も知らない)」
パウロ「Conoces a alguien mas en espanol? (スペイン語、他に誰かわかるの?)」
鞠菜、フッと自嘲的な笑みを漏らす。
鞠菜(西語)「le propuso. Esa fue la primera vez que sentí que entendía. Lo estoy arruinando. (彼にプロポーズされました。それで初めてわかった気がしたんです。私、彼をダメにしてる)」
パウロ「(軽く笑い) En realidad. ¿Escribiste mi artículo correctamente? (そうか。ボクの記事は、ちゃんと書いてくれてる?)」
鞠菜(西語)「¿No es eso obvio? Ahh, desearía poder ser tan bueno en el amor como en el trabajo.(当たり前でしょう? あーあ、恋も仕事くらい上手く出来ればいいのに)」
と、うっすら涙ぐむ。
パウロ(電話)「Marina, quiero que me hables de porteros en todo el mundo a partir de ahora. (鞠菜には、これから世界中のGKの事を伝えてほしいな)」
鞠菜(西語)「Estoy de acuerdo. Ahora me odio a mi mismo. (そうですね。私、今の自分は嫌)」
パウロ(電話)「Entonces es fácil. Marina debería hablar más español. (それなら簡単さ。鞠菜は、もっとスペイン語を話せばいい)」
鞠菜(西語)「Si.(はい)」
パウロ(電話)「La práctica termina a las 5:00. Ven al campo de entrenamiento.(5時に練習が終わる。練習場に来て)」
鞠菜(西語)「Si. Es una entrevista a partir de las 5:00.(はい。5時からインタビューですね)」

〇チェイスマン赤倉・クラブ
パウロ、外国人選手数名と仲良く談笑し ながら、鞠菜に手招き。
パウロ「話そう、鞠菜。おいでよ」
鞠菜、パウロたちの側に座る。
外国人選手A、B、パウロと肩を組み、陽気にスペイン語の歌を歌う。
鞠菜、手拍子で聴き、合間に夢中で雑談し交流する。
鞠菜(西語)「Hubo un seguidor que comparó a portero con un lince español. (GKをスペインオオヤマネコに例えたサポーターがいました)」
と、活き活きと明るく説明する。

〇同・同・練習場
誰もいない練習場の芝生の片隅、鞠菜とパウロが寝そべっている。
鞠菜、晴れ晴れと練習場を見渡す。
鞠菜「ありがとうパウロ。あなたは私の心の守護神です」
パウロ「もし鞠菜が、ハネトより先にボクのスーパーセーブを目にしていたら、ボクの恋人になったかな」
鞠菜「それは考えても無駄。先制点は、相手チームに入ったんです」
パウロ「(明るく)そうだね、気持ち切り変えなきゃ」
鞠菜「GKと一緒に、虹の橋を渡ったら、私だけ太陽で火傷しちゃう。私は無力です」
パウロ「君はボクに夢を与えてくれた。此処、日出ずる国、日本から、虹色の橋を架けてラ・リーガへと渡る夢。感謝してるよ」
と、勢いよく立ち上がり、鞠菜に手を差し伸べる。
鞠菜、パウロの手を取り、握手を交わす。
鞠菜「(心から)頑張ってください。今日はありがとうございました」
と、しっかり一礼して出て行く。

〇ファルコン狭間・クラブ・練習場
明日花、チーム練習の様子を動画撮影。
ボールを保持したダイキ、FWジェイ(24)のプレスをかわす練習。
リョウマ、マサト、タクミ(25)、ニシキ、4人で高速パス回し。
明日花「リョウマさん、魅惑のプレーでトコトン翻弄して、チェイスマンを完全に崩してね」
リョウマ「(飄々と)うん、明日花ちゃん。生配信の時は、いつでも呼んで」
ジェイ、ハネトのいるゴールを見る。
ジェイ「ダイキ、ハイプレスの相手するのも光栄だけど、FWとしては、そろそろシュート練したいんだけど」
ダイキ「ゴメン、ジェイ。どうぞ」
ジェイ「ハネ!俺のシュート受け止めてくれ」
と、ハネトの元に走る。
明日花、ゴール前にカメラを向ける。
ハネト、巧くはないシュウヤのシュートをひたすらキャッチしている。
ハネト「ジェイのは巧すぎるからダメ」
ジェイ「嘘ぉ」
ハネト「冗談だよ。後でね」
シュウヤ「ハネさん、俺の出来損ないシュートで良いんスか?」
ハネト「良いよシュウヤ、どんどん打って」
と、黙々と、シュウヤの甘いシュートキャッチを続けている。
ビデオを外し、首を傾げる明日花。
ダイキ、明日花のそばに来る。
ダイキ「おかしいよな。甘いシュートキャッチばっかしちゃって。ついに俺の弾丸シュートに恐れをなしたか」
ジェイ「(即座に)それはない」
ダイキ、拗ねてみせる。
明日花「皆、熱入ってますね~」
ダイキ「次節のチェイスマン戦、J1残留が掛かった、最終節だからな」
リョウマ、練習を止め、近くに来る。
リョウマ「ダイキ、チェイスマン戦、ハイプレスキツかったら、長谷川の背中まで走れ」
ダイキ「えっ、相手ボランチの裏に抜けるんすか?」
ハネト、練習を中断し、こちらに来る。
ハネト「リョウマさん、チェイスマンのハイプレスの話? だったら俺も聞きたい」
リョウマ、皆に集合をかける。
リョウマ「皆、作戦会議! 集合!」
グランドの選手たち、集まって来る。
ボードを使いながら、リョウマを中心に、話し合いが始まる。
白田、来る。
選手一同「(緊張しつつ)お疲れ様です!」
白田、笑顔で制する。
白田「私に対して固くなる必要はない。ファルコン狭間は、ファミリーだ。良い雰囲気である事は、チームにとって重要な要素だ」
リョウマ「監督、次節のチェイスマン戦の作戦を皆で考えてたんです。監督にも相談させてください」
白田「勿論だ。後で私の部屋に来てくれ」
リョウマ「はいっ」
選手一同、白田の元に集合する。
白田「次節はいよいよ最終節だ。対戦するチェイスマン赤倉は、我々と同様、昨シーズンにJ2から昇格したチームだが、昇格を機に大胆に選手の入れ替えを行った結果、ハイプレスによる波状攻撃が上手くフィットし、現在9位。18位のファルコンとは、大きく差を付けている。とは言え、最終節ともなれば、ハイプレスをかけ続けてきた、チェイスマンのFWの疲労はピークに達しているだろう。だが、油断はできない。勝ってJ1残留を勝ち取ろう」
選手たち、それぞれの切実な思いがこもる表情。

〇同・同・同(時間経過)
明日花、ダイキ、空を見上げている。
飛行機が飛んでいる。
明日花「私、最終節はダイキさんの事、スタジアムで見守ろうかな」
ダイキ「ハハ、ナイスジョーク!」
明日花「スタジアムの見える丘、行って見たいな。J1残留できますようにって、祈りたい」
ダイキ「明日花もファミリーなんだよな」
明日花「え?」
ダイキ、空を見つめながら、
ダイキ「今から行ってみるか。残留祈願」
明日花、密かにガッツポーズ。

〇同・同・廊下
練習後の私服のハネト、帰る所。
スマホが鳴る。鞠菜からである。

〇ジュネーブパレス・前
鞠菜、スマホで話しながら歩いて来る。
鞠菜「ごめんねハネさん、仕事、また遅くなっちゃった。今からスタジアムが見える丘には行けない……。今ね、ハネさんのマンションに着いたの……私の荷物、取りに行かせて」
と、スマホをオフ。マンションに入る。

〇ファルコン狭間・クラブ・廊下
ハネト、静かにスマホをオフ。窓外に目を遣り、遠くの飛行機を見る。

〇夕方の空に飛行機が飛んでいる。
夕焼けが、夕闇に変わっていく。

〇スタジアムの見える丘(夜)
明日花、ダイキ、小高い丘の麓に到着。
丘の上に、一人の人影がある。
ダイキ「ハネじゃね?」
明日花、ダイキ、途中まで登った所で、ハネトが振り返る。やや憂いを含んだ顔。
明日花、ダイキ、ハネト、丘の上から、ライトアップされたスタジアムを見つめる。
明日花「うわぁ、きれい」
ダイキ「やっぱ夜景が良いな」
明日花「ハネさんも、残留祈願?」
ハネト「俺はフラれちゃったよ。情けないな」
明日花「鞠菜言ってた。これ以上一緒にいたら、ハネさんをダメにしてしまうって。ハネさんには、もっとサッカーに集中して欲しいんじゃない?」
ハネト「バカだな、アイツは。あんな事があった位で」
ダイキ「些細な事でも、積み重なって行けば、ある日突然崩れるさ。わりぃ、俺ん家と一緒な訳ないか」
明日花「ダイキさん、狭間十番街ってどの辺ですか」
ダイキ「大体あの辺だな。小さすぎて見えないけど」
と、夜景の一部を指す。
明日花「ダイキさんは、あそこで育った。ハネさんは、あそこで恋に落ちた……羨ましいな。でも私も、この夜景の中にいる。私は、何万人のファルコン狭間サポの為に頑張る。チェイスマン赤倉との最終節、勝ってJ1残留できますように」
と、大きく一礼一拍手し目を閉じる。
ダイキ、明日花をまねて手を合わせる。
明日花「ほら、ハネさんも、ちゃんとお願いして」
ハネト「ごめん、やっぱ俺、帰るわ」
明日花「何? 守護神は、神頼みしないって事?」
ハネト「もう一度、鞠菜と話してみるよ」
ダイキ「何だよ、ただの恋愛バカかよ」
ハネト、丘を走り下りて去る。
ダイキ「(大きく)守護神だけでゴール守れると思ったら大間違いだからな! このダイキ様も一緒に守ってやるから、安心して行って来い!」
ハネト、振り返らず、大きく手を振る。

〇ジュネーブパレス・202号室・中
鞠菜、最後の荷物をバッグに詰めた後、飾ってある写真に目を留める。
鞠菜が最初に撮った、ハネトのスーパーセーブ。
鞠菜、写真を抱え、ストンと腰を下ろす。
スマホが鳴る。母・和枝からである。
鞠菜「もしもしお母さん? (聞こえにくく)もしもし? お母さん今、外なの?」

〇とある地方のスタジアム・応援席
空席の多い応援席。
和枝、はしゃいだ様子で電話中。
和枝「鞠菜、お母さん、今サッカー観に来てるの。(通っぽく)J3」

〇ジュネーブパレス・202号室・中
鞠菜「えーっ、地元の長野マドリーズ?」
和枝(電話)「ピンポーン。今ハーフタイム」
鞠菜、急いでTVを点ける。
長野スタジアムの応援席、元気そうな和枝の姿がハッキリ映っている。
鞠菜「お母さん、今、TVに映ってるよ」
和枝(電話)「本当? 鞠菜―っ!」
と、カメラに向かい手を振る。
鞠菜、思わず手を振り返す。自然と涙が溢れる。
鞠菜「お母さん、元気そうだね。良かった」
和枝(電話)「鞠菜、泣いてるの? 仕事で疲れてるんじゃない? 帰って来たら」
鞠菜「(涙こらえ)大丈夫。もう少し頑張る」
和枝(電話)「OK。そういう頑固なトコ、私に似てる」
鞠菜「そうなの? 何か嬉しい」
和枝(電話)「あ、後半戦、始まった。切るね」
鞠菜「ごめんごめん、今度は、こっちから架けるね」
和枝(電話)「ハーイ、またね」
鞠菜「うん、またね」
と、切る。そのままソファに腰掛け、楽しそうにTVの試合を観る。

〇同・同・同(時間経過)
TVの試合が終わり、選手たちが客席に挨拶する。
鞠菜、TVを消し、バッグを抱え立ち上がる。
ハネト、急いだ様子で帰って来る。
ハネト「(ホッとして)鞠菜」
暫し見つめ合う二人。
鞠菜、傍らにあった写真を懐かしそうに見つめる。
鞠菜「猫みたいでしたっ。覚えてる?」
ハネト「ああ」
鞠菜「ハネさんのスーパーセーブを見た日、私の中で革命が起こった。この歴史は変わらない。たとえどんなに辛い事があっても」
ハネト「(何か言おうと)……」
鞠菜「(インタビュー調に)J1残留をかけた戦い、いよいよだね。今、何考えてる?」
ハネト「勝つか負けるか。引き分けは嫌だ」
明日花「(思わず)ウソ、何で? 引き分けなら、GKはヒーローでしょ?」
ハネト「そうだよ。だけど俺は、どっちつかずのストーリーの中では生きられない」
鞠菜「セーブするか、得点を許すか」
ハネト「だから、GKが好きだ」
鞠菜「(納得して)安心した。ハネさんは、根っからのGKだね。きっとプレッシャーを跳ね除けて、サポーターがわくわくするプレーを見せてくれる気がする」
ハネト、鞠菜をしっかりと見る。
鞠菜「さよなら。ハネさんには、サポーターが待ってる。ハネさんが思ってる以上に沢山の人がハネさんを見てる。もっと顔を上げて、確かめてみたら」
鞠菜、部屋を出て行く。

〇スタジアムの見える丘
徐々にスタジアムにズームアップ。

〇狭間スタジアム・ロッカールーム・中
ファルコンの選手たち、試合の準備を整えている。
ユニフォーム姿のハネト、『侍クロス』を読む。
‘キーパー特集 “虹の守護神vs昇格をもたらした男” 個性あふれるGKの役割。ファルコン狭間のJ1残留をかけた負けられない試合!’
編集者に、岡部鞠菜の名がある。

〇同・フィールド
VSチェイスマン赤倉
両チーム、正面に向かい整列している。
パウロ、隣りのDF士堂(26)に作戦を耳打ち。
相槌を打つ士堂。
ハネト、ダイキ、真っ直ぐ前を見ている。

〇同・客席スクリーンに映る順位表
実況「J1最終節、ファルコン狭間対チェイスマン赤倉の一戦。ファルコン狭間にとっては、J1残留をかけた大事な一戦となります。ただ今ご覧いただいております順位表の下から3番目、18位がファルコン狭間。19位のリバティ浮島とは共に最終節一試合を残して勝ち点の差は1。この試合、ファルコン狭間が勝って、勝ち点3を取れば、自力でのJ1残留が決定します」
解説「ファルコン狭間にとって、絶対に負けられない試合ですね。必ず勝って、サポーターの皆さんと残留の喜びを分かち合いたいところですね」

〇同・フィールド
レフェリー、キックオフの合図。ゲーム開始。

〇同・ホームゴール裏
鞠菜と明日花、並んで着席。それぞれハネトとダイキのユニフォームを着用している。
明日花「私、今日だけは、ファルコン狭間チームスタッフじゃなく、サポーターとしてファルコンを応援する」
鞠菜「(笑顔で)明日花はダイキ押し。私はハネ押し」
二人、緊張した顔でゲームを見守る。
明日花「チェイスマンのハイプレス、どうにかして崩さなきゃヤバいね」

〇同・フィールド
ハネト、チェイスマンFW片山の緩めのシュートをキャッチ。
ハネトからのボール、ダイキに渡る。
片山、すぐさまダイキに付き、猛然とプレスをかけ、執拗にボールを狙う。

〇同・ホームゴール裏
鞠菜「ハネさんがボール持った瞬間、チェイスマンのFWがファルコンのDFにプレスをかけて、ゴールを狙い続ける体勢」
明日花「ダイキ、頑張れ!」

〇同・フィールド
ダイキ、向かってくる片山をかわし、逆サイドのアツヤにボールをパス。
アツヤもプレスをかけられてコーナーに追い詰められ、苦し紛れにMFリョウマにパス。
リョウマ、流石のトラップでボールをキープするが、展開を読んだ長谷川が奪う。
鞠菜の声「で、長谷川のゲーゲンプレス。これを突破しないと、勝利はない」
長谷川、奪ったボールを再び前へ送る。
サイド寄りでパスを受けた片山に対し、ダイキが必死についてコースを消そうとする。
片山、サイドからのシュート。
ハネト、落ち着いてキャッチし、ボールを出す味方を素早く探す。
ダイキ、上手くマークを外し、一瞬フリーになる。
ハネト、ダイキに素早くボールを出し、ダイキからリョウマへ。
リョウマに対し、長谷川、池永、片山が向かう。
リョウマ、それでも周りも見ながら粘る。
ハネト「キープ、そこでキープ!」
ついに、池永の前にボールが出る。
池永のシュート、中途半端に終わる。
ハネト、ボールをキャッチする。

〇同・ホームゴール裏
明日花「危っない。中途半端なシュートで良かった。ダイキのリョウマさんへのパス、甘かったかな」
鞠菜「大丈夫。ダイキもリョウマさんもナイスだよ。あの位置でキープできれば、奪われてシュートされても中途半端。ハネさんが絶対取る」
明日花「(ハッとして)ハネさん、中途半端なシュート確実にキャッチする練習、ひたすらやってた。このためだったんだ」

〇同・フィールド
長谷川、MFタクミからボールを奪い、
長めの浮き球で、池永へのロングパスを試みるがリョウマが直前に身体を入れ、パスはややコントロールを失う。
池永、ヘディングでゴールを狙うも、合わない。
ハネト、余裕を持ってをキャッチし、味方に戻す。
明日花の声「奪われても危ないシュートに持ち込ませないよう、相手の嫌な位置で少しでも長くボールキープするファルコンの作戦」
ハネト「上がろう!」
と、ファルコンの陣形が整った後、敵陣へのパントキック。
右SH・カケル(23)、ハネトからのパスを受け、トップスピードで駆け上がり、シュート。
しかし、パウロがキャッチする。
レフェリー、前半終了のホイッスル。

〇同・応援席・ホームゴール裏
明日花も『侍クロス』を広げ、鞠菜が書いた特集に目を通す。
明日花「あー、運よくカウンターできても、ゴールには虹の守護神パウロがいるか」
鞠菜「そうだね。でもハイプレスをかけ続けてきたチェイスマンFWの片山や池永は、後半、とてつもない疲労感とも戦わなきゃいけない」
明日花「うん。後半は、ファルコンの、反撃ののろしが上がるよ」

〇同・フィールド
ハネト、ダイキにボールを出すと見せかけ、左SBアツヤへ送る。
アツヤ、中央にボールを入れる。
ダイキ、全力で上がり、MF長谷川の背中を取る。
明日花の声「あれ? ダイキ上がったね」
鞠菜の声「本当だ。作戦変わった?」
ボランチのリョウマとタクミに加え、CBマサトとトップ下ニシキが入ってボールを回し、攻撃の態勢を整えていく。
右SHカケル、下がってパスを受ける。
左SB士堂、上がってカケルにつく。
その瞬間、ダイキ、斜めに走り、サイドのアタッキングサードにオーバーラップ。カケルからパスを受けると、ゴール前のジェイに対し、クロスを上げようと狙いを定める。
パウロ、突如現れ、ダイキの足元からボールを奪うと、士堂にボールをパスし、ゴールに戻る。

〇同・ホームゴール裏
ファルコンサポーター陣、ため息が大きくなる。
明日花「嘘でしょ。キーパーであんなに足技が使えるなんて……」
鞠菜「でも今の良い形だった。ハネさんの、アツヤへのパスと同時に、ダイキが相手ボランチ長谷川の背中に走るアイディアで、ハイプレス突破。ファルコンは、ペース掴みかけてる」

〇同・フィールド
パウロ、前線にロングキック。
ボールを待ち構えるチェイスマンFW陣、密かに息が上がっている。
ファルコンDF陣、示し合わせ頷く。
アツヤ、チャンスとばかりに仕掛け、ボ―ルをトラップし、マサトにパス。
マサトからリョウマにボールが渡る。
リョウマ、タクミ、トップ下ニシキでのパス回し。
ダイキ、長谷川の背後を取っている。
右SHカケル、下りてサイドでパスを受ける。
士堂、再びカケルをマーク。
パウロ「福岡!」
と、ダイキをマークするよう指さす。
チェイスマンDF福岡(27)、ダイキをマーク。斜めにサイドに駆け上がるダイキに必死でついて行く。
カケル、今度は中央へ絶妙なクロスを上げる。
ジェイのシュート。パウロが何とか弾くが、上がって来たニシキ、毀れ球を振り抜くシュート。ゴールが決まる。
場内アナウンス「ゴーーール!」

〇同・ホームゴール裏
喜ぶサポーターたち。
鞠菜・明日花「(大喜びで)やったーっ!」
と、ハイタッチして喜ぶ。

〇同・フィールド(時間経過)
1対0で、ファルコン狭間のリード。
チェイスマン、必死の攻めで、ファルコンサイドでボールを保持し、猛攻。
スクリーンに、“アディショナルタイム 7分”が表示される。
チェイスマンのセットプレー。
ハネト、チェイスマン選手たちに動きを制限されながら、ハイボールをキャッチ。続いて片山のプレスをかわし、ロングボールを中盤に送る。
ボールはピタリとリョウマに届く。
ハネト「ライン上げよう!」
と、気持ちを込めて、やや上がって行く。
ダイキたち、駆け上がって行く。
ダイキ、カケルとオーバーラップし、PAに突入。

〇同・ホームゴール裏
鞠菜「ダイキ、PA入ったよ」
明日花「スゴい! カッコイー!」

〇同・フィールド
パウロ、ダイキのパスコースを切るように立ちはだかる。
ダイキ、パスを受けて必死にボールを操り、新たなパスコースを探す。
ニシキ、ゴール中央に詰めて来る。
パウロ、ニシキの動きを察知。大胆にサイドのダイキに寄り、素早く横に倒れ、ダイキのボールをキャッチ。すぐに投げたボールは、瞬時にゴールから遠ざかる。
鞠菜の声「ヤバイ! 片山に渡っちゃった」

〇同・フィールド
一人自陣に残っていたマサト、片山に対応。リョウマも何とか片山に追い付き、2対1。
片山、意表を突くミドルシュート。
ハネト、ダイビングキャッチ。

〇同・ホームゴール裏
鞠菜「ナイスキーッ!」
明日花「よしっ、ハネさん起点に速攻! 攻めるが勝ち」

〇同・フィールド
ハネト、フィールド全体を見渡し、キックの狙いを定める。

〇(回想)スタジアムの見える丘
鞠菜「ハネさんには、サポーターが待ってる。ハネさんが思ってる以上に沢山の人がハネさんを見てる。もっと顔を上げて、確かめてみたら」

〇狭間スタジアム・フィールド
ハネト、吹っ切れた様に、空に向かって大きくボールを蹴り出す。
ボールは、ジェイへの絶妙なフィード。
ジェイ、足下にピタリと収まったボールと共に、ドリブルでゴールに迫る。

〇同・ホームゴール裏
鞠菜、不安げに見つめる。
明日花「そろそろラストプレーだね」

〇同・フィールド
パウロ、ポジションをニア寄りに移動し、ジェイのシュートに備え、構える。
パウロ「(鋭く)士堂、ファーサイド!」
DF士堂、ゴール逆サイドに詰める。
ジェイ、パウロの頭上へ、浮かせたシュート。
パウロ、ジャンプで弾くが、ボールはファーサイドに流れる。
ファルコン選手たち、ボールに詰めかけるが、士堂が大きくクリア。
血走った瞳の池永、ボールをトラップし、トップスピードでゴールを目指す。

〇同・ホームゴール裏
明日花、時計を確認する。
ハネト、ゴール左にポジションを取る。
明日花「ヤバい。池永とハネさんの一対一」
鞠菜の声「あのポジションは、ハネの得意エリア。あそこへのシュートは絶対止める」
と、緊張し、祈るようにフィールドを見つめる。

〇同・フィールド
ハネト、池永との一対一に備え、小刻みにポジションを変えて構え続ける。
ダイキたちDF陣を先頭に、全員、必死の形相で自陣に戻って来る。
仲間を見るハネトの表情に力が漲る。
片山は、ファルコンDFの前に来ていて、ゴール中央へのシュートエリアでチャンスを伺っている。
アツヤ、池永の前へ出て、コースを切る。
片山「(叫ぶ)パス! ボールくれ!」
ハネト、局面を把握し、素早い判断を下す。
ハネト「ダイキ! 右マーク。リョウマさんとジェイは真ん中! 残り全員で、シュート俺んトコに誘え!」
ボールが片山に渡る。
ファルコン、選手一丸となり、ハネトの限定した、左シュートコースに片山を追い詰めて誘導。
追い込まれた片山のシュート。
ハネト、左に大きく横っ飛びでダイビングキャッチ。しかしボールはファンブルし、手前に毀れる。
毀れ球に群がるチェイスマン選手たち。
ハネト、必死に手を伸ばし、這いつくばりながらボールを抱える。
ホイッスル。
喜びを露わにするファルコンの選手たち。
ハネト、立ち上がる。目を閉じて大きく深呼吸し、振り返って後方のサポーター席を見る。

〇同・ホームゴール裏
歓喜溢れるファルコン狭間サポーター。
鞠菜「(感激して)勝った……良かった」
明日花「鞠菜、ハネさん見て。サポーター席に詰めてる」

〇同・アウェイゴール近くの応援席
ハネト、席に向かい、雄叫びを上げる。
ハネト「(叫ぶ)愛してるよーっ」
振り返ったハネトをファルコンサポが熱狂的に讃える

〇同・フィールド
ファルコン選手全員、喜びを身体中で表している。
ハネト、その輪に勢いよく入って行き、選手たちにもみくちゃにされ、嬉しそう。
フィールドに全員集合したファルコン選手陣、応援席沿いを周回し、手を振って応える。

〇同・ホームゴール裏
ファルコン選手陣、やや遠くで挨拶している。
鞠菜と明日花、ドッと脱力した感じ。
鞠菜「あーっ、キーパー押しってキツイ」
明日花「DF押しの身としてわかる! 守りに入った時の緊張感、半端じゃないよね」
鞠菜、クスッと笑う。
明日花「何?」
鞠菜「明日花は凄いよ。自分の事そっちのけで、24時間、全身全霊でダイキを応援し続けてる。そんな明日花の恋、純粋に応援したくなる」
明日花「嬉しい。じゃあ、もうちょっと勇気出しちゃおうかな」
と、バッグから手作りのペナントを出して見せる。
“ダイキ LOVE”と書かれている。
鞠菜「いいじゃん、出しなよ」
明日花「(覚悟を決め)うん」
ファルコン選手陣、鞠菜たちの前に来る。
明日花、思い切ってペナントを掲げる。
鞠菜、負けじとユニフォームを脱ぎ、ハネトの背番号を掲げる。
明日花と鞠菜に気付き、大きく手を振って応える、ダイキとハネト。
鞠菜たちの目に、涙が溢れている。
(終わり)

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