処分屋 ドラマ

主人公永島征丞は、普段通り処分屋としての仕事を難なくこなしていた。ある日、八戸会の若頭を務める六条令から呼び出され、征丞は同僚の聖堂海晴を連れて本部まで足を運ぶ。会長の八戸瑳和希と令を含めた少人数での処分依頼の具体的な会話をする四人。しかし、標的である楪桜介の処分依頼の理由に不満を持つ征丞だったかが、瑳和希の言葉でどうにか堪える征丞⋯⋯。処分屋としての意思を重視するか、己自身の意思を重視するかの選択を迫られ、自らが正しいと思う答えを見つけにいく——。
月摘史 35 0 0 09/07
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第一稿

◯キャバクラ・外 (夜)
   酔っ払って出てくる山田社長。
   少し離れた物陰から、山田社長を監視する永島征丞(23)。
   電話がかかってきて、ポケットからスマホを取 ...続きを読む
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◯キャバクラ・外 (夜)
   酔っ払って出てくる山田社長。
   少し離れた物陰から、山田社長を監視する永島征丞(23)。
   電話がかかってきて、ポケットからスマホを取り出す山田社長。
山田社長「はいはい、俺だけど⋯⋯んぁ、してねぇって、ただの飲み会だよ飲み会。今から帰る
 ってば。うん、はい、じゃあ」   
   電話を切り、チッと舌打ちをする山田社長。
   ふらふらと歩きながら帰っていく山田社長を尾行する永島。

◯道
   人気のない薄暗い道を歩いている山田社長と永島。
   永島、ナイフを片手に山田社長の背後に近づく。
   山田社長の心臓目がけて、勢い良くナイフで刺す永島。
山田社長「っうぐぅ!」
   背中から血が流れ、ゆっくりと地面に倒れこむ山田社長。
   永島、倒れた山田社長の心臓に触れて、動いていないか確認する。
永島「よし」 
   永島、背中に刺したナイフを抜いて、山田社長の手にナイフを握らせる。
   スマホで死んだ山田社長の写真を撮り、八戸会若頭の六条令(35)に依頼完了の写真を
   送る永島。
   永島、深くフードを被り、その場から立ち去る。

◯相談事務所・外観

◯同・三階相談室
   ソファーに座って、スマホをいじっている聖堂海晴(22)。
   トイレから帰ってきた永島、聖堂の隣に座ってテレビをつける。
聖堂「ニュース見るんですか?」
永島「うん」
   スマホをポケットにしまう聖堂。
アナウンサー「昨夜、都内の通路で男性が倒れていると通報があり、男性の背中には一箇所だけ
 刃物のような凶器で刺された形跡があったとのことです。また、男性に使用されたと思われる
 凶器は遺体で発見された男性の右手に握られていたことと、男性の遺体からアルコールが検出
 されたことから、警察は泥酔による自殺ではないかと見解を述べています」
聖堂「今回も何とか表に晒されずに済みましたね」
永島「そうだな」
聖堂「いやー流石としか言えないですわ。俺だったら絶対バレて即刑務所送りですよ」
永島「まぁいっても、今回の場合は山田社長の体内からアルコールが検出されたおかげだな。泥
 酔による自殺っていう事件は多くある。だから山田社長の死因もすんなりその枠に入れられた
 んだろ」
聖堂「意外と警察もめんどくさがり屋ですよね。警察なのに」
永島「警察も人間だからね、めんどくさいことはやりたくないんだろ。今回の山田社長の件も他
 殺って事で事件を頑なに捜査するのも時間がかかるし、泥酔による自殺ってことにすれば手っ
 取り早いからな」
聖堂「もしかすると、俺らの仕事よりも警察の仕事の方が楽なんじゃないですかね? どうで
 す、一緒に転職でもしますか永島さん?」
永島「楽かどうかは知らないけど、遠慮しとく」
聖堂「えぇ、なんで」
永島「今の警察に市民が求めている正義があると思う?」
聖堂「⋯⋯ない?」
永島「ないだろ。今回みたく他殺っていう疑いをせず、捜査しない時点で警察としてどうかと
 思う」
聖堂「それは⋯⋯そうですね。永島さんやっぱ警察の仕事の方が向いてるんじゃないですか」
永島「向いてないね。あんな薄情な奴らとの協力は無理。俺は一人でこの仕事やってた方が何倍
 も自由だし融通が効く」
   ソファーから立ち上がる永島、冷蔵庫に向かい、中からスポーツドリンクを取り出す。
聖堂「ま、何事にも自由が一番ですよね」
   聖堂、ソファーに掛かっていたジャケットを着る。
永島「なに、海晴用事でもあるの?」
聖堂「はい。大したことない用事ですけど、少しだけ外出てきます」
永島「そう、わかった」
聖堂「それじゃあ失礼します」
   相談室を離れる聖堂。
   永島、ペットボトルのキャップを外してごくごくと飲む。

◯同・受付室
   永島、椅子に座りながら本を読んでいる。
   スマホから電話がかかってきて、すぐさま電話に出る永島。
永島「もしもし、永島です」
六条「永島くん、少しだけ話せる時間はあるかい?」
永島「えぇ」
六条「そうか。突然ですまないが、今日の六時に海晴くんも連れて本部まで来てくれないか?」
永島「あ、はい。了解しました」
六条「今回の依頼についてを話したい。詳細は来てから話すからとりあえずまた後ほど」
永島「わかりました」
六条「では」
   六条との電話が切れて、すぐさま聖堂に電話をかける永島。
聖堂「はいはい、どうかしました?」
永島「いやなんかさ、令さんから今日の六時に海晴も連れて本部に来てくれって頼まれたんだけ
 ど、その時間大丈夫?」
聖堂「はい、六時は全然空いてますけど⋯⋯永島さんなんかやらかしたんですか?」
永島「⋯⋯わからん。海晴の方こそ何かトラブルとか起こしてないの?」
聖堂「なーんにもしてないですよ! 俺ずっと事務所で寝泊まりしてただけですよ」
   永島、難しい顔をして首を傾げる。
永島「そうか。まぁとりあえず六時前に本部入り口集合で」
聖堂「了解です」
   電話を切って、再び本を読む永島。

◯八戸会本部・外 (夕)
   本部の門前で聖堂の到着を待つ永島。
   腕時計で時間を確認していると、八戸雪花(24)に声を掛けられる永島。
雪花「やっぱ永島くんだよね! 久しぶり!」
永島「あぁどうも雪花さん、ご無沙汰してます」
   雪花、永島の隣に歩み寄る。
雪花「まーた背丈伸びたんじゃないの?」
永島「え、そうですかね」
雪花「うん。前みた時よりも二センチ伸びてる」
永島「(苦笑いで)二センチって⋯⋯そんな絶妙な長さわかるものなんですか」
雪花「わからないかも」
   くすっと笑う雪花。
   離れたとこから、聖堂が小走りで永島達の方へと向かっている。
聖堂「おーい、永島さーん」
   聖堂の声に気がつく雪花。
雪花「あれ、聖堂くんも何か用事でもあるの?」
永島「俺ら令さんからの呼び出しで」
雪花「へぇ、そうだったんだ」
   永島と雪花の前で止まる聖堂。若干息切れをしている。
聖堂「あぁどうも雪花さん。二人で何か話してたんですか?」
   雪花、一度永島を見てから、首を横に振るい返答する。
雪花「なんでもない話だよ。ね、永島くん」
永島「まぁ」
聖堂「そうですか」
   永島、腕時計で時間を確かめる。
   時計の針は『五時五十八分』を刺している。
永島「それじゃあそろそろ行こうか」
聖堂「ですね」
雪花「もういっちゃうのか、もっと話したかったな」
   永島達を呼びに、門前に現れた六条。
六条「雪花さん、永島くんと海晴くんとのお話はもう終わりで?」
雪花「(こくりと頷く)」
六条「では二人とも、案内するのでこちらへ」
聖堂「雪花さんまた後で」
雪花「うん、また」
   永島、雪花に会釈する。
   本部へと入っていく永島と聖堂と六条。
   雪花、三人の背中を眺める。

◯同・玄関 
   靴を脱ぐ永島と聖堂と六条。
六条「ではこちらへ」
   案内に従い、先頭を歩く六条について行く永島と聖堂。

◯同・会長部屋・前〜中
   六条、こんこんとドアをノックする。
   中から八戸瑳和希(57)が返事をする。
八戸「どうぞ」
六条「失礼します」
   ドアを開き、部屋へ入っていく永島と聖堂と六条。
   八戸の前に二枚の座布団。そこに正座で座る永島と聖堂。
   六条、八戸の横で正座する。
八戸「いやいや征丞久しぶりじゃないか。大きくなったな」
永島「ご無沙汰してます八戸さん」
聖堂「どど、どうもお久しぶりです八戸会長」
八戸「おぉ海晴くんか、久しぶりだな。だいぶ前のことだが申し訳なかった。君の願望を叶えら
 れずこちらの要件を無理に受け入れてくれてほんと、この会も征丞も助かってるよ。どうだ、
 征丞と同じ部署に行ってからの生活は」
聖堂「すごくひま⋯⋯いや、毎日苦労するばかりです! 何気にやりがいもありますし、充実し
 た日々を送ってます!」
八戸「そうか。それならよかった」
   六条、永島と聖堂の前に『処分屋の依頼情報』と書かれた紙を置く。
   紙を手に取る永島と聖堂。
永島「これは」
八戸「昨日の夜に情報屋から届いた次の処分依頼の紙だ。六条、説明を」
六条「はい。昨晩情報屋から処分依頼の詳細を聞いたのでまずはそれをお伝えします。紙に書い
 てある通り、次の処分依頼の標的の名前は『楪桜介』だそうです。年齢は五十六歳、十年前に
 何かのトラブルに巻き込まれたとかなんかで離婚し、家族は息子ただ一人、仕事は一般企業に
 勤めているとのことです」
   聖堂、紙に書かれた文字をざっと目を通す。
聖堂「え、息子一人いて一般企業に勤めてる人がなんで処分依頼の標的に? 軽く読んでみたん
 ですけど、特に処分依頼されるようなことはしてなくないですか?」
永島「確かに。これまでの標的とは違って楪桜介に何一つ問題点が見当たらないのですが」
六条「そのことについては直接私の口から申します。過去に楪桜介はどこかの組に所属していた
 らしく、組に入っている間は殺害や薬物の闇取引を頻繁に繰り返していたとのことで、今回の
 処分依頼の標的になりました。⋯⋯が、この情報はあくまで情報屋の噂話程度のものです。事
 実かどうか曖昧だったので渡した紙には書いていません」
永島「事実かどうか曖昧なのに処分依頼が通ったんですか?」
六条「それは私も疑問に思ってます。情報屋の情報を確証にする情報捜査屋か、あるいは情報
 屋と情報捜査屋の両方に何か問題があるのか⋯⋯それか、我々八戸会に処分依頼を送っている
 依頼屋なのか。必ずこのどこかに処分依頼を送るきっかけになった理由があるはずだと私は見
 ています」
聖堂「なんかややこしい話ですねぇ」
   永島、悩ましい表情。
永島「とりあえず依頼が通った理由はまた後ほど考えるとして、なんで今回の処分依頼は俺と海
 晴の二人で行うんですか?」
   しんみりとした表情を浮かべる六条。
六条「先ほど楪桜介が元組員であると伝えましたが、もし仮に楪桜介が情報屋の言う通り本当に
 元組員であったとすると、楪桜介は殺害を頻繁にするという観点からして、自分の命を狙って
 くる永島くんや聖堂くんに対し凶器を使用してくると思うんです」
聖堂「っきょ、凶器⁉︎」
六条「えぇ。なので万が一を考えたときに二人係の方が身の安全のためにと思いまして」
永島「なるほど⋯⋯」
八戸「だがまぁ、最低限いつも以上に気を引き締めて取り掛かれ」
聖堂「了解です!」
永島「⋯⋯」
   無言で考え事をする永島を気にする八戸。
八戸「征丞? どうかしたか」
永島「あっ、えっと、今回の標的である楪桜介は殺害しなくてはいけないんですか?」
六条「というと?」
永島「結局のところ楪桜介が処分依頼された大まかな原因って、情報屋の確証のない話なわけ
 じゃないですか。でももし情報屋の言ったことの全てが違ければ⋯⋯って考えたときに、処分
 ではなく捕らえるという選択の方が無駄な犠牲を出さずに済むのではないかなと」
聖堂「永島さんと同感です。まだ楪桜介が殺害や闇取引をしたっていう決定的な証拠が出ていな
 い以上、処分依頼が通されたとはいえ、殺害というのはあまりにも酷いのでは⋯⋯」 
六条「⋯⋯私も今回の処分依頼ではその選択が妥当だと考えていました。しかし現段階ではそれ
 は難しいかもしれません」
永島「それはなぜ?」
   八戸、立ち上がって窓辺に歩み寄る。
八戸「これは契約上の問題なんだ征丞。処分屋というのは、依頼屋から処分依頼をされて標的を
 処分し金を受け取る。たとえ標的の犯した罪が事実かどうか曖昧だとしても、依頼屋から処分
 依頼された時点で処分屋は標的を殺害をしなくてはいけない決まりなんだよ」
永島「⋯⋯」
八戸「もちろん私も今回の依頼は捕らえる方を優先したい。だが、それを決められるのは我々会ではない。情報屋と依頼屋だけだ」
永島「それは⋯⋯わかってます」
   俯く永島を、切なさそうな目で見る八戸。
八戸「だから、今回だけは我慢してくれ征丞。お前の気持ちはよくわかる。わかるが、今の立場
 上そう思い通りになんていかない。それは私も六条も同様だ」
   心配そうに永島を見やる聖堂と六条。
八戸「それに、お前自身の目的を忘れるな。処分屋がなくなれば、お前の目的は叶わなくなる」
永島「(無言で顔を上げる)」
八戸「今だけの辛抱だ征丞。堪えろ、その時まで」
永島「⋯⋯はい」
   立ち上がって、ネクタイをぎゅっと締める六条。
六条「これで話は終わりです。二人とも、玄関まで送ります」
   六条に続いて、部屋を出ていく六条と聖堂と永島。
   最後に出ていく永島に、一声かける八戸。
八戸「またな、征丞」
   八戸に向かって一礼し、部屋を出る永島。 
   窓の奥の景色を眺める八戸。 《続》

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