君日記 ドラマ

残り僅かな生活だと告げられた春奈。千広は毎日のように彼女の見舞いに行っており、そして彼女の命がもうまもないことを突然知る。驚愕のあまり心底落ち込む千広に対して、春奈はどうにか千広を慰めようと次々と優しく言葉をかける。その励みもあり、千広は春奈に向けて「日記を書いて欲しい」と伝え、二人の切ない日常の物語が始まる。
月摘史 21 0 0 08/25
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第一稿

◯埼玉総合病院・303号病室(夜)
   渡辺千広(17)、コンビニ弁当の入った袋を持って、303号病室のドアをノックし、開ける。
   病室の窓を眺めている向田春奈(17)。 ...続きを読む
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◯埼玉総合病院・303号病室(夜)
   渡辺千広(17)、コンビニ弁当の入った袋を持って、303号病室のドアをノックし、開ける。
   病室の窓を眺めている向田春奈(17)。
   ドアの開く音に気がついて、振り返る春奈。
春奈「お、今日は遅かったね」
千広「ごめんなさい。バイトが長引いちゃって」
春奈「べつに問い詰めてるわけじゃないから、謝らなくていいよ。あーでも、少しだけ寂しかったから、そのお詫びにそれちょうだい」
   春奈、千広の持つコンビニ袋を指差す。
   ドアを閉めて、春奈のベッドに歩み寄る千広。
千広「はい」
   コンビニ袋から唐揚げ弁当と海苔弁を取り出し、ベッドの横の椅子に腰を下ろす千広。
   春奈、唐揚げ弁当を受け取りすぐさま蓋を開ける。
春奈「うわぁ〜、美味しそぉ」
千広「また慌てて食べて喉に詰まらせないようにね」
春奈「もぉー、わかってるってばー」
千広「それならよし」
春奈「それじゃあ、いっただっきまーす」
   美味しそうに唐揚げ弁当を食う春奈。
千広「それで、今日の診察の結果報告は?」
春奈「⋯⋯」
   突然、春奈の手がぴたりと止まる。
春奈「診断結果ねぇ、数時間前に院長に報告されたよ」
千広「そう。それでどうだったの、その報告は」
春奈「いやぁ、とうとうあのもじゃ先生にさ⋯⋯長くないって言われちゃったよ」
   驚愕のあまり、一瞬固まる千広。
千広「⋯⋯っえ、長くないって、具体的にどういう⋯⋯?」
春奈「えー具体的にって、診断結果細かく伝えたところで千広には理解できないでしょ」
千広「それは、まぁそうだけど⋯⋯。でも、一応聞いとかないと」
春奈「んー、まぁそうだなぁ。簡潔に言えば、もう私の体は長くないってこと。本当簡単に言えばね」
   無言で俯き、唇を紡ぐ千広。
千広「⋯⋯」
春奈「あれれ、どうした?」
千広「(失望した瞳を浮かべて)いやっ、どうしたって⋯⋯。だって、春奈の命がもうこの先短
 いってことだろ」
   春奈、微笑みながらそっと千広の手を握りしめる。
千広「春奈は、怖くないの?」
春奈「怖いって、なにが」
   千広、顔を上げて春奈を見る。
   目尻には少しだけ涙が溜まっている。
千広「もう少しで死んじゃう恐怖みたいなものは、ないの」
春奈「そんなのあるに決まってるよ。これから高校を卒業して大人になって、好きなこといっぱ
 いしたい。いろんな場所に行ったりもしたいし、友達ともくだらない話でずーっと笑って過ご
 してたい。⋯⋯でももうそれができない、叶わないんだなっていう後悔での恐怖があるかな」
   春奈、千広からゆっくり手を離す。
   窓の外の夜空を眺める春奈。
春奈「けどさ、大声上げて誰かに縋りたいほどの恐怖心はないんだ。どちらかといえば、ようや
 くその時が来たか、随分と長く待ったよって感じでなんていうか、これでもう誰にも迷惑かけ
 ることないんだなって思って、むしろ楽っていうか、ほっとしたっていうかね」
   病室に向田莉緒(47)が入ってくる。
   手にはスーパーのレジ袋とバッグを持っている。
   千広、莉緒に向けて会釈する。
莉緒「あら、千広くんまたお見舞い来てくれてたのね。ほんと、いつもありがとうね」
千広「いえいえ、とんでもない」
春奈「あ、お母さんその袋なに入ってるの?」
莉緒「あぁそうだった、これ、二人で食べなさい。多く買ってきちゃったから」
   レジ袋からたくさんのフルーツを取り出し、机に置く莉緒。
千広「わぁ、ありがとうございます」
莉緒「礼なんていいのよぉ。いつもこうして春奈の見舞いに来てくれてるんだから、これくらい
 のお礼はしとかないとね」
   病室のドアが開き、看護師が入ってくる。
看護師「向田春奈さんの母親様でしょうか?」
莉緒「ええ、はい」
看護師「ちょっとお時間空いいですか?」
莉緒「はあ⋯⋯」
   病室を離れる莉緒と看護師。

◯同・廊下
   莉緒、看護師の後を歩いている。
   背後から不安そうに問いかける莉緒。
莉緒「あのー、娘に何かあったのでしょうか?」
看護師「⋯⋯それは、もう少ししたらで」
莉緒「⋯⋯はい」
   無言で歩き進んでいく莉緒と看護師。

◯同・303号病室
   春奈、窓際の椅子に座って外を眺めている。
   春奈の横顔を見つめる千広。
千広「春奈のお母さん、なに話されてるんだろうな」
   クスッと笑う春奈。
春奈「そんなの決まってるじゃん。今日あたしが報告されたことをそのまんま伝えられてるんだ
 よ」
千広「やっぱ、そうか」
   視線を手元に落として手をいじる千広。
千広「(弱々しく)⋯⋯春奈が言ってたことと、いま春奈のお母さんが聞かされてることって、もう事実ってことでいいんだよな」
春奈「うん。もうあたしはこの世に長くはいられない。これは事実だし、確定だよ」
   千広、目からじわじわと涙を流す。
   震えた声で言葉を発する千広。
千広「なんで、なんで春奈なんだよ。どうして春奈だけこんな、苦しい思いをしなくちゃいけな
 いんだよっ!」
春奈「⋯⋯」
千広「ずっと、頑張って生きてきたのに。なんで、どうして」
春奈「⋯⋯千広、それは違うよ」
千広「え?」 
春奈「あたしはべつに、苦しい思いでここまで生きてきたわけじゃないよ。お母さんとか、学校
 の友達とか、千広とかに支えてもらって生きてこれて、むしろ辛いこと、苦しいことの方が少
 なかったよ」
千広「⋯⋯」
   千広に近寄り肩をくっつける春奈。
春奈「だからそんな、あたし以上に辛い思いを抱かなくていいんだよ。千広は優しくて頼もしい幼馴染。それだけで十分十分」
千広「春奈⋯⋯」
   千広を見上げてニヒッと微笑む春奈。

◯同・診断室
   病院の先生と向かい合わせで座っている莉緒。 
   莉緒、看護師から一枚の紙を受け取り、目を通す。 
先生「それを見てもパッと内容が頭に入らないと思うので、直接私の口から申しますと、春奈さんの身体はもう限界を迎えています」
   驚きの表情を浮かべる莉緒。
莉緒「先生、春奈の身体が限界とは、一体どういう⋯⋯」
先生「先月の上旬あたりから春奈さんの身体の異常を確認しておりまして、急な血圧上昇だった
 り、頻繁にめまいを起こしたり、吐き気に襲われたりということが続いていて、そろそろ限界
 なのではと」
莉緒「それは、それは治すことってできないんですか?」
先生「(無言で深く頷く)」
莉緒「そんな⋯⋯」
先生「一応娘さん、春奈さんには直接このことは伝えました。なので、可能な限り残り僅か
 な春奈さんの生活に付き添いあってあげてください。我々ができることはもう、これ以上あり
 ません。力及ばず申し訳ありません」
   深くお辞儀をする先生と看護師。
   紙を握りしめながら、啜り泣く莉緒。

◯同・一階の廊下の自動販売機
   飲み物を購入している千広。
   二本のペットボトルを抱えて病室に戻ろうとすると、暗い顔をした莉緒と出くわす。
   莉緒、千広を見つけて地べたに尻から倒れ込む。
   慌てて莉緒に駆け寄る千広。
千広「っおばさん! 大丈夫ですか!」
   千広、莉緒の背中を支える。
莉緒「ごめんなさい、ちょっと足に力が入らなくて」
千広「いえ、今はこのままの体制で大丈夫ですよ」
莉緒「そう。ごめんなさいね。それより、千広くんは春奈の身体のことはもう知ってるの?」
   一度、言葉に詰まる千広。
千広「はい。俺も今さっき春奈から聞かされました」
莉緒「そうだったの。(苦笑気味に)あの子、私よりも先に千広くんに伝えるなんてね⋯⋯。ほ
 んとうに、あの子には驚かされるわ」     
 千広「すみません、あの時黙ってなにも言えなくて」
   莉緒、千広の頭を優しく撫でる。
莉緒「バカ、謝らなくていいのよ」
千広「え?」
莉緒「私だって今さっき先生から春奈の状況を聞いて声すら出なかった。誰だってあんなこと聞
 かされたら言葉なんて失うわよ。だから千広くんは間違ってなんかない、当然の反応だわ」
千広「でも恋人でもない俺がおばさんよりも状況を知るのは無礼でしたよね」
   首を小さく横に振る莉緒。
莉緒「そんなことない。たとえ恋人とかの関係じゃなくても、二人はそれ以上の関係をすでに
 持っている。それに、春奈が私よりも先に千広くんに事情を伝えたってことは、今の春奈に
 とって千広くんは一番大切な存在なんじゃないかしら。少なくとも、私はそう感じる」
千広「⋯⋯」
莉緒「だからそんなに自分を責めちゃいけません。間違いなく千広くんは優しい子なんだから
 自信持って」
千広「はい、わかりました。ありがとうございます」
莉緒「うん」
   ゆっくりと立ち上がる莉緒と千広。
   ズボンの後ろを軽く叩く。
莉緒「私はこれで帰らなくちゃだけど、千広くんは? 帰るんだったら家まで送るけ
 ど」
千広「いえ、俺はまだ病院にいますんで」
莉緒「そう、わかった。何かあったらすぐ連絡して」
千広「はい」
莉緒「うん、じゃあ後のことはよろしくね。春奈にまた明日お見舞い来るからって伝えておい
 て」
千広「わかりました」
莉緒「それじゃあ」
   その場を立ち去る莉緒。
   莉緒の背中を見届けてから病室に戻る千広。

◯同・駐車場
   車に乗り込もうとする莉緒。
   莉緒、しんみりとした表情で病院の外観を眺めている。   
   車に乗り込み帰っていく莉緒。

◯同・303号病室
   ベッドで横たわりながらスマホをいじる春奈。
   千広、座ってみかんの皮を剥いている。
千広「そう言えば学校の人たちには言ったの?」
   首を横に振る春奈。
春奈「まだ言ってない」
千広「早めに言っといたほうがいいと思うよ。ほら中野とか、あと池上なんたらさんとか」
春奈「流星先輩ね」
千広「そう、その人とか。池上先輩はまだいいとして、中野とかすっごい心配しそうだけど」
   春奈、スマホの電源を切って起き上がる。
春奈「知ってる。だからなおさら南には言いづらい」
千広「なぜ?」
春奈「だって絶対毎日お見舞い来るでしょあの子。それは流石に南の体力面も精神面も疲れさせ
 ちゃうよ」
千広「確かに」
春奈「だから言えない」
   剥き終えたみかんを春奈に手渡す千広。
   不安げな表情で、みかんを一つちぎり口に放り込む春奈。 
   千広、再び新しいみかんの皮を剥き始める。
千広「まぁ春奈が伝えたくなければそれでいいんじゃない。俺も普段通り接するよ」
春奈「(もじょもじょと)そうしてくれると助かる」
   途端に手が止まる千広。
   春奈、千広に対して違和感の視線を向ける。
春奈「どうかした? みかん剥くの飽きた?」
   数秒ほど間を置いてから、曖昧な反応で答える千広。   
千広「あぁ、まぁそろそろ飽きてきたなって感じ。ほら、指ももうこんなだよ」
   オレンジ色に染まった指を春奈に見せる千広。
春奈「うわぉほんとだ。じゃあこれ半分あげるよ」
千広「え、いいの」
春奈「うん」
   春奈、残っていたみかんの半分を千広に渡す。
千広「じゃあ、ありがたく」
   一つちぎって口に入れる千広。
   それを微笑みながら見る春奈。
春奈「そういえばさ、千広は将来何になりたいとか夢みたいなのはないの?」
千広「え?」
春奈「いやさ、千広ってなんていうかいっつもぼんやり生きてる感じがするから何かこう、そ
 ういうのないのかなーって」
千広「夢か。ないな」
春奈「えぇ嘘だー」
千広「いやいやほんとに。特にこれと言って目指したい職業とかないし。あーでも強いてあげる
 なら、収入も安定しててぼんやりのんびり生きていくみたいな生活を手に入れるのが夢か
 なー」
春奈「え、なにそれ。しょうもな」
千広「結構真面目な夢なんだが」
春奈「(大きくため息を吐く)」
   面目なさそうにみかんをちまちま食べる千広。
   と、急に何か思い出したかのようにぴたりと手を止める。
千広「あ。あるかも、夢」
春奈「(無言で顔をあげて千広を見る)」
千広「小説家になりたかったんだ俺」
春奈「小説家? なんで?」
千広「中学生の頃だったかな、太宰治の小説読んでてなんていうか、一ページ一ページ作者の人生
 が詰まってるって感じがぐっときた覚えがある」
春奈「ふーん。あるじゃん、しっかりした夢」
千広「え、これってしっかりした夢なのかな」
春奈「さっきのだらだらした夢よりかは何倍もマシだよ」
千広「(苦笑)まぁ確かにそうだな」
   千広、みかんの皮をゴミ箱に捨てる。

◯同・屋上
   点々と明かりの灯った住宅街やマンション。
   柵に手をおいて、感激しながら夜景を眺める千広と春奈。
春奈「この病院の屋上からまさかこんな景色が見れるなんて知らなかった」
千広「何気に初めてきたからな」
春奈「そうだね」
   無邪気に楽しむ春奈を横目で見つめる千広。
千広「あのさ、さっき言った俺の夢のこと覚えてる?」
春奈「うん、小説家でしょ」
千広「そう。それでさ、そのー⋯⋯これから春奈に日記を書いて欲しいんだ」 
春奈「日記?」
千広「うん。箇条書きで構わないし、なんならメモ程度でいいから、その日の出来事を記してほ
 しい」
   不思議そうな顔で、理由を尋ねる春奈。
春奈「それは、なぜ?」
千広「(少し照れくさそうに)そ、その、春奈が書いた日記を小説にしたいなぁっと⋯⋯」
春奈「⋯⋯」
千広「っあ、あぁあべつに強制じゃないから、うん。春奈が書きたくなかったら全然断ってくれて構わないからさ」
   春奈、夜景を眺めながら答える。
春奈「いや、書くよ日記。書きたい」
   千広、「ほんとに!?」という顔で春奈を見る。
春奈「それをさ、千広が小説にしてくれるんだったら、あたし頑張るよ」
千広「春奈⋯⋯」
   春奈、ニヒッと笑む。
春奈「まぁでもその頃にはあたし、死んじゃってるかもしれないけどね」
千広「⋯⋯大丈夫。必ず完成した小説、春奈に見せるから」
   後ろで手を組んで、微笑む春奈。
春奈「そう。それじゃあ楽しみに待ってようかな」
千広「うん。絶対に完成するまでいかないでね、約束だよ」
春奈「はい、約束」
   小指を曲げて、約束を交わす千広と春奈。

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