普通ならブランコ ドラマ

アプリ開発の会社で働く村瀬沙織(32)は、孤児院の子供と里親をマッチさせるアプリの実現に向けて、日夜営業明け暮れていた。同時進行で携わっていたASMRのマッチングアプリにユーザークレームが入る。それは耳を塞ぎたくなるような断末魔であった。
M.K. 59 0 0 08/02
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第一稿

<登場人物>
村瀬 沙織(32・24)企画開発部の社員

藤原 一平(33)山海交番の巡査
廣木 和巳(41)山海署の警部補
二宮 晴人(27)廣木の部下

新倉 亮 ...続きを読む
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<登場人物>
村瀬 沙織(32・24)企画開発部の社員

藤原 一平(33)山海交番の巡査
廣木 和巳(41)山海署の警部補
二宮 晴人(27)廣木の部下

新倉 亮羽(26)沙織の会社の技術部
伊藤 喜朗(51)沙織の会社の営業部長

郁也   (9) 愛児園の園児
遠山 益美(51)愛児園の園長

奥村 春子(48)漁業組合のパート
奥村 良太(11)春子の長男
奥村 未来(9) 春子の長女

芹沢 聡志(32)無職

池田 知輝(25)沙織の元夫

事業家
社 長
スタッフ
中国人A・B
男性A・B・C
女性
男の子
女の子
漁師A・B・C
店長
フィリピン人女性
萌え声の女

<本文>
○倉庫・中
   暗い倉庫。
   一人分のシャッターが開き、人影が見える。
   煙草を咥えた芹沢聡志(32)、人が入る大きさの布袋を手に持つ。
   芹沢、吐き捨てた煙草を布袋で消す。
   布袋から男性Aの唸り声。

○同・小部屋
   薄緑の照明が点滅。
   手術台に乗せられる布袋。
   シンクに並んだ血みどろの工具。
   芹沢、肩を揉みながら出て行く。
   静かになった室内で布袋が暴れ出す。
   布袋から顔を出す男性A、周囲を見る。
   工具に驚く男性A、手術台から落ちる。
   男性Aの足首に切傷。
   這って出口に向かう男性A、擦った足音に振り返る。
   端のソファーで郁也(9)が眠る。
男性A「(小声)おい!おい!おい!」
   と、足を庇いながら立ち上がる。
   芹沢、郁也に近づく男性Aを凝視。
男性A「(小声)逃げるぞ。クソ、いてぇ」
   郁也を抱き抱える男性A、頭をトンカチで殴られる。
   芹沢、男性Aを殴り続ける。
   眠った郁也の首にヘッドホン、周りに返り血が飛ぶ。

○スクリーン
   ヘッドホンの資料。

○小会議室・中
   スクリーンの前でプレゼンする村瀬沙織(32)。
沙織「音声をメインにしたコンテンツは市場規模を拡大しています。中間参入、
 つまりはマッチングによって差別化を測ります」
事業家「今更では?」
沙織「より細分する事でオリジナリティーや話題を生みます」

○ゼクト株式会社・社長室
   湯気の立つお茶。
   社長と対座する沙織、後ろに立つ伊藤喜朗(51)。
社長「クライアントも気に入ってるみたいでね。この調子で頑張ってくれ」
沙織「ミミヨシの件ですが、新倉に引き継がせます」
伊藤「企画者が抜けてどうする。実装から一ヶ月は見てもらわないと、クライア
 ントに申し訳が立たんだろ」
沙織「……では、一ヶ月だけ入ります。孤児院の案件がありますので」
   と、退席する。
伊藤「(座って)継続でと言って頂かないと」
社長「(睨む)」

○同・技術部(夜)
   スマホを耳と口に当てる新倉亮羽(26)、ゲップをして耳から離す。
   沙織、資料を新倉の机に置く。
沙織「どう?良い感じ?」
新倉「全く理解できないっす。どこが良いんだか」
沙織「流行ってるのよ」
新倉「趣味趣向は人それぞれなんで否定はしないですけど、自分は無理ですね」
沙織「仕事だから、頑張って」
新倉「他人の咀嚼音を聴く生活はしんどい」
沙織「アプリの根底を否定しないで。それがASMRの良さなんだから」
新倉「先輩は……旅行っすか?」
沙織「プレゼンよ。やりたいの?」
新倉「より面倒そうなものやる訳ないじゃないですか。お土産っすよ」
   と、帰り支度を始める。
新倉「お先に失礼します」
沙織「予算確認しときたいんだけど」
新倉「さーせん。嫁が」
   スマホを見せる新倉、画面に『18時30分』と動く二次元の女の子のキ
   ャラクターが見える。
沙織「メールする」
新倉「あざっす」

○高速道路・俯瞰(夜)
   一台の車が入って行く。

○同・沙織の車・中(夜)
   運転する沙織。

○(回想)アパート・池田の家
   『2013年2月11日』のカレンダー。
   沙織(24)、赤ちゃんを愛でている。
   入って来る池田知輝(25)、沙織が抱える赤ちゃんを奪い取る。
池田「ごめん。やっぱ無理だ。無理だよ」
沙織「二人でなら何とかなる」
池田「何度考えても、ごめんだわ」
   と、出て行く。
   池田を引き止める沙織、足で跳ね除けられる。
沙織「ダメ!返して!」
   と、何度もせがむ。
   池田、顔を蹴り飛ばす。
   目覚める赤ちゃん、笑い出す。
   沙織、池田の足にしがみ付く。
   倒れる池田、沙織の顔を何度も蹴る。
   沙織の顔に赤いアザができる。
   力尽きる沙織、這ったまま動かない。
   池田、家を出る。
   (回想終わり)

○田舎町・俯瞰
   山や港のある田舎町。

○愛児園・沙織の車・中
   涙を拭う沙織、バックミラーで顔を確認して、外に出る。

○同・食堂
   ご飯を待つ子供たちがテーブルを囲む。
   スタッフが席に座り、
スタッフ「はーい、準備はいい?」

○同・中庭
スタッフの声「せーのっ!」
子供たちの声「幸せは皆んなに」
   中を覗く沙織、ご飯を食べる男の子を見つめる。
   後ろから遠山益美(51)が沙織の肩を叩く。
   振り返る沙織、微笑んで一礼。

○同・職員室
   テーブルに沙織の名刺。
沙織「メールでの資料は、ご確認頂けたでしょうか?」
益美「あまり理解は出来ませんでした」
沙織「一度改めて説明させてください」
   と、対面の益美にタブレットを見せる。

○同・公園
   遊具で遊ぶ子供たち。
沙織の声「私が提案するのは孤児院にいる子供たちと里親とのマッチングサービ
 スになります」
   遠くで見守る老夫婦。
沙織の声「全国ベースで統一化し、マッチングさせる事で多くの子供たちが家族
 になる可能性を格段に上げたいと考えています」

○同・職員室
   顔をしかめる益美。
   沙織、タブレットをスクロール。
益美「里親は簡単な事ではありません。直接見て、家に行き、問題が無いと判断
 する。とても慎重に行わなくてはいけません」
沙織「その点に関しては審査制の導入、民間企業との連携により、問題の解決を
 考えています。更に」
   ノックで会話が途切れる。
   入って来る廣木和巳(41)、沙織を横目で見る。
廣木「いいですか?」
益美「はい」
沙織「私が……」
益美「すみません。里親の件は思っているほど簡単な事ではないと考えくださ
 い」
   沙織、廣木を睨んで出て行く。

○同・廊下
   出て来る沙織、ドアを見る。
廣木の声「捜索の状況ですが」

○海岸・防波堤
   数名の警察が集まる。
   スポーツシューズに腐敗した足首だけが残っている。
   藤原一平(33)、スポーツシューズにブルーシートを掛ける。

○同・カフェ
   テラス席でパソコン作業をする沙織、
   防波堤に集まる警察を見ている。
新倉の声「すいませーん。送ったんですけど、見てくれました?」
沙織「ごめん。今見る」
   パソコン画面のファイルが開かれる。
音声ファイル「(女性の断末魔)ぎゃー!ああぅわ!ぎぁあああ!」
   沙織、咄嗟にファイルを止める。
沙織「何なの?」
新倉の声「規約違反で通報されてきたデータっす。これを考えるとエログロ系は
 増えそうな予感ですね」
沙織「本物なの?」
新倉の声「演出じゃないですか?ジャンル絞ると話題になりますし」
沙織「調べといて」
新倉の声「マジっすか」
沙織「本物だったらどうするの?」

○ゼクト株式会社・技術部
   パソコン画面に沙織。
新倉「予算と睨めっこは制作部の仕事だと」
沙織の声「(遮って)頼んだわ」

○ホテル・623号室(夜)
   夜景を眺める沙織の顔が窓に映る。
音声ファイル「(女性の断末魔)ぎぁあああ!いっだぁあぁぁ!」
   沙織、顔をしかめる。
音声ファイル「(男性の荒い鼻息)うう」

○漁港(夜)
   タバコを吸いながら歩く沙織、海を眺
   めて立ち止まる。
沙織「(呟く)どうするかなー」
   と、人影に目を止める。
   三人の人影。
   沙織に二人の人影が近づいて来る。
   後退る沙織、尻餅をつく。
   二人の中国人が沙織の手を掴む。
   叫ぶ沙織、口を塞がれる。
中国人A「(中国語で聞き取れない)」
中国人B「(中国語で聞き取れない)」
   必死に抵抗する沙織、涙目になる。
   沙織たちに懐中電灯の明かり。
藤原の声「やめなさーい!」
   逃げて行く中国人の二人。
   藤原、沙織に駆け寄る。
藤原「大丈夫ですか?山海交番の藤原です」

○繁華街・沙織の車・中(夜)
   運転する沙織、助手席に藤原。
藤原「署の方で被害届を出しますね」
沙織「……」
藤原「夜の港には近づかないでください。簡単に言うと無法地帯なので」

○山海署・ロビー(夜)
   ファイルを読む廣木、藤原と沙織が近づいて来る。
藤原「すみません。港で暴行」
廣木「(藤原の全身見て舌打ち)そっちで受けとけよ」
藤原「管轄が」
沙織「被害届もまともに受けられないの?」
廣木「あ?あー、ビジネスしに来た。普通、夜の港は行かないけど。事業の可能
 性でも感じました?」
   と、指で二宮晴人(27)を呼び寄せる。
廣木「聞いとけ」
二宮「はい」
沙織「(廣木を睨む)」

○同・駐車場(夜)
   車に向かう沙織、追いかける藤原。
藤原「何かあれば連絡下さい。山海交番の藤原です」
   頭を下げる沙織、車に乗り込む。
   藤原、走り去る沙織の車に敬礼。

○ゼクト株式会社・技術部
   『10時00分』のパソコン画面。
   大きなあくびをする新倉の目の前に、お土産袋が置かれる。
   見上げる新倉、沙織が立っている。
沙織「終わった?」
新倉「さすがに昨日の今日ですよ」
沙織「とか言って、終わらせてるんでしょ」
新倉「登録情報だけだと、ほぼ不明っす。ログインの壁取っ払うから後々面倒に
 なるんですよ」
沙織「ユーザー獲得期間までは仕方ないの。今後アップデートする予定だからシ
 ステムの事は気にしないで」
新倉「ユーザー情報が全くないので特定しようがないです。アカウント停止でも
 しときます?」
沙織「IPアドレスからは?」
新倉「頑張って地域までです」
沙織「一応探って」
伊藤「(近づき)ミミヨシは順調か?」
沙織「はい」
伊藤「社長は言ってないがミミヨシが成功しなければ、孤児院のアプリのハンコ
 は押せんからな」
沙織「分かってます。大丈夫です」
新倉「とりあえず出ましたけど」
沙織「どこ?」
新倉「山海って所っす。これより追うのは細分化され過ぎなので、しんどいで
 す」
沙織「……」
伊藤「何か問題か?」
沙織「いえ……また営業行って来ます」

○高速道路・俯瞰(夕)
   夕日の中、沙織の車が走る。

○田舎町・俯瞰(夜)
   綺麗な夜景。

○繁華街・沙織の車・中(夜)
   赤信号で停車する沙織、外の客引きを眺める。
   路地の前に居る女性の客引きが、路地に引きずり込まれる。
沙織「えっ」
   と、振り返って後ろを見る。
   クラクションが鳴らされる。
   沙織、車を発進させる。

○山海交番・中(夜)
   藤原、カップ麺を食べている。
   入って来る沙織、ノックをする。
沙織「すみません」
藤原「(沙織を見て咽せる)」
沙織「……大丈夫?」
藤原「はいはいはい。どうしました」
沙織「ちょっといい?話したい事ある」
藤原「話したい事……はい!」
   と、カップ麺を掻き込む。

○漁港・沙織の車・中(夜)
藤原「漁船の光が綺麗だなー。何つって。人気の無い所に男女が二人……都会の
 女性は、大胆。ハハ」
   落ち着かない藤原、ゆっくりと沙織を見る。
   スマホをいじる沙織、話を聞いてない。
   藤原、着ている服のシワを伸ばす。
沙織「このアプリから断末魔」
藤原「断末魔!?」
沙織「そう。断末魔」
藤原「……断末魔」
   × × ×
   (フラッシュ)
新倉「これだけデカい音出すんですよ。悪質な奴なら音漏れハンパないっすよ。
 きっと」
   × × ×
沙織「断末魔が聞こえたら外出て、直接聞こえないか確認して欲しい」
藤原「僕が……」
沙織「都会では、交番の人の方が頼りになるって聞いた事あるから」
藤原「分かりました!すぐ聞きましょう!」
   マッチ検索中のスマホ画面。
藤原「マッチした相手のASMRが聴けるって面白いですね。来ました」
男性Bの声「さぁて、マッチした君に僕の鼻息を聴かせてあげるよ。んー、ん
 ー。んんんっ。どう?もっと聴きたい?んーはっ」
沙織「(切って)……次ね」
藤原「(首を縦に振る)」
   沙織、スマホをタッチ。
男性Bの声「なぁんで切っちゃうの?」
沙織「(切って)今は、今は配信側のユーザーが少ないのよ」
藤原「そ、そ、そうですよね。次は僕のスマホでやりましょう」
   藤原スマホ、マッチがしない。
沙織「一朝一夕には、いかないか」
藤原「来ました!」
   沙織と藤原、スマホに耳を傾ける。
   スマホからボタボタと液体が垂れる音。
   沙織の眉間にシワが寄る。
藤原「これ」
沙織「静かに」
女性の声「うえ。飲み過ぎた」
沙織「ごめん。仕切り直すわ」

○愛児園・公園
   子供たちと遊ぶ益美にスタッフが近づく。
スタッフ「お客様がいらしてます」

○同・職員室
   入って来る益美。
益美「あなたでしたか」
沙織「(立って)提案の件が中途半端に終わってしまったので」
益美「その件は、どんなに説明されても合意致しません。簡単に説明されます
 が、親子関係は複雑なのです」
沙織「複雑だからこそ、簡素化しようと」
益美「お帰り下さい」
沙織「……捜索されてるとか?子供が行方不明なら相当な問題に」
益美「すでに警察に届けています」

○海岸・灯台
   歩く釣り人、海を見る。
   足首だけのスポーツシューズが浮いている。
   釣り人、スポーツシューズに気付き、腰を抜かす。
   × × ×
   廣木と二宮、ブルーシートを見る。
二宮「またですね」
廣木「岬の監視カメラと巡回は?指示しといただろ」
二宮「すみません。岬は管理組合の予算がつかないとかで」
廣木「巡回は?」
二宮「交番との」
廣木「自殺の町なんて呼ばれたら、上から何言われるか。めんどくさ」
二宮「自殺で処理します」
廣木「子供じゃないだけ幸いか」

○山海交番・中
   スマホを耳に当てる藤原、ニヤつく。
   入って来る沙織、ニヤけた藤原を見て立ち止まる。
   沙織に気付かない藤原。
沙織「愛児園の行方不明の子って、どんな子なの?」
藤原「(口元緩く)確か、九歳の男の子」
沙織「(指を折って)……九。特徴は?」
藤原「(口元緩く)普通の男の子ですよ」
   と、ハッとする。
藤原「今の無しです」
沙織「ありがと」

○ゼクト株式会社・屋上
   株価の映るスマホ画面。
   スマホを見てる新倉、ガッツポーズ。
新倉「九万ゲットー!」
伊藤「(後ろから)どこで油売ってる」
新倉「油じゃないです。屋上で株売ってるんです」
伊藤「そんな事聞いてるんじゃない。この後の打ち合わせに」
新倉「それ制作だけでいいやつですよね。出る意味あります?」
伊藤「……」
新倉「こう見えても、自分やる事あるんで」
伊藤「株売ってるなら仕事しろ」
   新倉のスマホに着信。
新倉「もしもし。あ、お疲れ様です」
伊藤「(口を歪ます)」

○山海交番・前
   電話する沙織、沙織の車に腰掛ける。
沙織「愛児園って所に融資の話を持ちかけて欲しいの」
新倉「(電話越し)今っすか?」
沙織「そう、急ぎで。別に本当にしなくていいから。合図で動けるように待機し
 といて」
新倉「(電話越し)了解っす!」
沙織「よろしく」

○ゼクト株式会社・屋上
   電話を切る新倉、頭を軽く下げ、
新倉「急ぎの案件で動けなそうです」
   と、スキップしながら出て行く。
伊藤「(怒りを堪えて)転べ!」

○愛児園・入口
   沙織、静かにドアを開けて入る。

○同・廊下
   貼られた子供たちが描いた絵。
   沙織、絵を見て微笑む。
   窓から遊ぶ子供たちが見える。

○同・職員室
   益美、自席で事務作業をしている。
   二回のノックの音。
益美「はい?」
   沙織が入って来る。
益美「いい加減にして下さい。これ以上は」
沙織「今回は別の提案です」
   と、後ろ手のスマホでメールを送る。
沙織「私が所属している会社では、様々な事業に取り組んでいます。その中で使
 えそうな物を幾つかピックアップしたのですが」
益美「だとしてもです」
沙織「例えば地域農家と連携した、見切り品の低価格販売なんかもやっていま
 す。食費のコストカット、大幅削減できます」
益美「それは、どの町でも?」
   デスクの電話が鳴る。
   沙織、電話に手を向ける。
   子機で電話に出る益美。
益美「はい。愛児園」
新倉「(電話越し)あのー、私、個人でですね孤児院専門の融資を行っている者
 何ですが」
益美「そう言ったお話はちょっと」
新倉「(電話越し)詐欺などの不安ですよね。なので、個人の銀行口座教えて下
 さい。勝手に振り込みます」
益美「資金はどこから出てますの?」
新倉「(電話越し)それ何ですけど。宝くじ当たって、家に融資の話のチラシが
 大量で、ウザかったんで、一発振り込んでやろうと」
   益美、沙織をチラチラ見る。
   軽く微笑む沙織。
   益美、受話器を押さえ、
益美「少し席を外しますね」
   と、出て行く。
   沙織、益美が出て行った瞬間、資料棚を物色する。
   棚に『決算表』『備品リスト』『議事録』が並ぶ。
   沙織、『名簿』のファイルを手に取る。

○同・廊下
   益美、角に向かって電話をしている。

○同・職員室
沙織「男の子、九歳」
   と、呟きながらファイルを見る。
   該当しない子のリストが次々に捲られる。
   沙織、郁也のリストで手を止める。
   『2013年出生』『入所日 2013年2月12日』を指でなぞる。
沙織「(呟く)早朝、ゆりかごと共に発見。両
 親、親族共に不明」
   黒く塗り潰された備考欄の一文。
   ドアが開き、スタッフが入って来る。
   郁也のリストが写真に撮られる。
   沙織、咄嗟にファイルをしまう。
スタッフ「園長ですか?」
沙織「融資の話をしているらしく、長くなりそうなので私は失礼します」
   と、出て行く。

○同・公園
   子供たちが遊んでいる。
   沙織、遊ぶ子供たちを見つめる。
   廊下の窓に電話を終えた益美とスタッフが見える。
沙織「郁也くーん!郁也くん居る?」
   立ち止まったままの子供たち。
   沙織、その場を立ち去る。
   子供たちの元に近づく益美。
益美「どうしたの?」
女の子「郁也くーんって女の人が言ってた」
男の子「お母さんかな」
益美「違うわ。子供が好きなのよ」
   と、血相を変えて園内に戻る。

○ホテル・623号室(夜)
   カバンから母子手帳を取り出す沙織、
   『娩出日時』『出産の場所』『出血量』などを見て微笑む。
沙織「……優斗」
   沙織のスマホに新倉からのメール。

○漁港・廃棄場
   砂が山積みになっている。
   奥村良太(12)と奥村未来(9)が砂山を登って遊んでいる。
   スマホをかざしながら歩く沙織、道に迷っている。
   点でバラバラなGPSのマップがスマホに映る。
沙織「こんな電波不安定な所でやるかな」
   沙織の視界に砂山から転げ落ちる未来が見える。
   転げ落ちる未来。
   沙織、砂山に向かって走る。
   落ちる未来を見ている良太。
   落ちた未来、ピクリとも動かない。
   沙織、未来に駆け寄る。
沙織「大丈夫。大丈夫?救急車、救急車」
   笑いながら起き上がる未来。
   沙織、呆気に取られる。
   良太、ぴょんぴょん飛び跳ねながら降りて来る。
沙織「大丈夫って事?」
良太「誰?」
未来「もっかいやるー」
沙織「良かった」
春子の声「ご飯だよー!」
   と、奥村春子(48)が来る。
春子「あら、見ない子だね」
沙織「この子が落ちたんですけど、大丈夫なんですか?」
春子「(笑って)問題ないよ、ほら」
   良太と未来、砂山に登っている。
春子「一緒にどう?ご飯食べるでしょ」
沙織「は、はぁ」
   良太と未来が砂山から滑り降りる。

○同・車庫
   漁師仲間の中に藤原が混ざっている。
   沙織と春子、良太、未来が来る。
春子「手、洗って来な」
   と、良太と未来が中に入って行く。
藤原「(沙織に気付き)あー!」
沙織「あー、交番の」
藤原「藤原ですよ、藤原」
春子「知り合いかい?」
藤原「そうです。偶然」
漁師A「立ち話はええ、さっさと座れ」
漁師B「ホタテが焦げちまうよ」
春子「んだよ、若い子に鼻伸ばして。飲んだくれが」
漁師C「ワシの隣に座りなさい」
沙織「(苦笑い)」
   網で焼かれたホタテが開く。
   藤原と春子の間に座る沙織、ホタテの黒い部分を必死に取り除く良太と未
   来を見て微笑む。
沙織「可愛い」
藤原「えっ?」
春子「あんたな訳あるかい。ねぇ」
漁師A「こんなブ男の見た事ないぞ」
漁師C「可愛さならワシだろ。芋と米を間違いちまった」
漁師B「飲んだら一緒だべ」
   と笑い合う。
春子「うるさくて敵わんだろ」
沙織「新鮮で楽しいです。美味しいですし」
春子「そうかい。お嬢さんは子供はいないのかい、その歳なら」
藤原「聞くのは野暮ですよ。都会と田舎じゃ勝手が違うんですから」
春子「すまんね」
沙織「いいえ。子供はいないので、見てると欲しくなります」
漁師C「ワシとどうだい?」
   サイレンを鳴らしたパトカーが止まる。
   全員がパトカーを見る。
   降りて来る廣木と二宮。
   廣木、沙織の元に近づく。
廣木「愛児園に関して、色々被害届が出ています。何した?」
沙織「子供の被害届は早く受理されるのね」
廣木「任意でいいですか?」
沙織「いいわよ。郁也くん探し、手こずってるみたいだし」

○道路・走るパトカー・中
   後部座席に乗る沙織と廣木。
廣木「首突っ込まないでくれます?」
沙織「なんの事?」
廣木「嗅ぎ回ろうとしてんだろ」
沙織「知った上での同行じゃなくて」
廣木「注意だ。人探しは危険が伴う」
沙織「安心して、大丈夫よ。夜の港には近づないから。警察官は対応してくれな
 いし」
廣木「降りろ」
沙織「ホテルまでは送ってよね」

○ホテル・623号室
   沙織、ベッドに寝転ぶ。
沙織「疲れた」
   新倉から着信。
沙織「もしもし。さっきはありがとね」
新倉「(電話越し)通話いいっすか?」
   × × ×
   パソコンの前に沙織、パソコンに新倉が映る。
新倉の声「また通報あったんで送りました」
沙織「演出でしょ」
新倉の声「聴いて下さいよ」
   沙織、音声ファイルを再生する。
音声ファイル「(男性Cの断末魔)うあぁぁああ!足が、足が無い。やめろよ、
 聞いてない(グチャと潰れる音)」
沙織「よくやるわね」
新倉の声「同じユーザーっす」

○ゼクト株式会社・技術部
   パソコン画面に山海の漁港の地図。
新倉「自分優秀なんで、位置をちょいと絞りました」
沙織の声「昨日、送られてきた位置情報で迷ったけど」
新倉「それは誤差っすね」
沙織の声「誤差って何よ」

○ホテル・623号室
新倉の声「もしその辺りの地区で行方不明者が居たら確定なんですけどね」
沙織「行方不明者」
   × × ×
   (フラッシュ)
   路地の前に居る女性の客引きが、路地に引きずり込まれる。
   × × ×
沙織「それは警察の仕事でしょ」
新倉の声「そうっすけど。ちなみにお土産はいつですか」
沙織「まだ先よ」
新倉の声「やっぱ孤児院は難攻不落ですか。首長くして待ってます」

○海岸・防波堤(夜)
   足首までのスポーツシューズが二足。
   廣木、口を尖らせる。
廣木「この靴の販売店は?」
二宮「閉店してまして」
廣木「店長居るだろ」
二宮「亡くなった事が原因で閉店してます。防犯カメラも無いほどの店でした」
廣木「他のパーツが見つかればな」
二宮「自殺なんじゃないですか。掲示板とかで同じ靴履くみたいな文化があっ
 て」
廣木「あって?」
二宮「あって……流行り?」
廣木「だとしても、閉店した店の靴渡すトップとか、サイトで発信してる奴が居
 んだろ」
二宮「街のサイバー課に」
廣木「待て。浮浪者や移民を狙ってたら、サイバー課でも無理だ」
二宮「難しいですね」
廣木「バカ、足使うんだよ」

○繁華街・フィリピンパブ・中
   沙織、作業中の店長に話を聞く。
沙織「十歳くらいの男の子が行方不明になった話、知ってます?」
店長「(片言)知らないね。子供こんな場所来ない」
沙織「他の人が行方不明になったとかは?」
店長「(片言)こんな店、誰でも急に飛ぶ。行方不明気にしない」
沙織「協力ありがとうございました」
   店長、手で沙織を追い払う。

○同・前
   出て来る沙織、廣木と鉢合わせる。
沙織「うわ」
廣木「なんで居んだよ。副業か?」
沙織「副業は認められてる会社なので。そちらも昼からキャバクラって、ザ田舎
 ですね」
廣木「首突っ込むなよ」
沙織「そこまで暇じゃないですよ」
廣木「けっ、帰れ帰れ」
沙織「言われなくても」
   と、立ち去る。

○漁港・車庫
   走り回って遊ぶ良太と未来。
   牡蠣の身が手際よく取り出されていく。
   牡蠣の身を仕分ける春子、隣に沙織が座る。
沙織「手際が凄いですね」
春子「こんなもん慣れだ」
沙織「職人技です」
春子「(笑って)もっとカッコいい職人になりたいもんだ。あんたも凄いんだ
 ろ」
沙織「私は別に」
春子「一平が言ってた」
沙織「一平?」
春子「藤原だ。交番の」
沙織「あー」
春子「よく子供の面倒見てもらってる。世話焼きだから」
沙織「そうなんですね」
春子「相手が居ないならどうだい?」
沙織「(苦笑い)」
藤原「(入って来る)勝手に決めないで下さいよ。こう見えて遠距離恋愛苦手な
 んですから」
   藤原に駆け寄る良太と未来。
未来「一平だー!」
良太「一平、相撲しようぜ」
   沙織、子供たちを見て微笑む。
沙織「この辺で十歳くらいの男の子が行方不明になった話って聞いた事ないです
 か?」
春子「ないね。あったらすぐ組合で話題になるよ。探してるのかい?」
沙織「いえ。この前の警察の方が、犯人を私だと勘違いしたらしくて」
春子「とんだ災難だね」

○倉庫・小部屋(夜)
   猿ぐつわを着けられたフィリピン人女性が横たわっている。
   芹沢、血の付いた手を洗っている。
   フィリピン人女性、音を立てないように猿ぐつわを外そうとする。
   手を洗い終える芹沢、振り返る。
   フィリピン人女性、咄嗟に横たわる。
   芹沢、フィリピン人女性をじっと見て、部屋を出て行く。
   フィリピン人女性、すぐさま猿ぐつわを外して、部屋を出る。
   フィリピン人女性の悲鳴と共に、フィリピン人女性の髪を持ちながら芹沢
   が入って来る。
   フィリピン人女性の手足が手術台に縛り付けられる。

○漁港・沙織の車・中(夜)
   外を眺める沙織、隣に藤原。
沙織「子供っていいよね。欲しくない?」
藤原「(驚き)ええ、急だな。子供……」
   と、ズボンを直す。
沙織「春子さんたち見てたら思うよね」
藤原「そそそそうだね」
   と、財布の中のコンドームを取り出して、しまう。
沙織「今夜マッチングするかしら?」
藤原「マッチング!相性は最高です」
沙織「何言ってるの?大丈夫?」
藤原「ツンデレだ」
   首を傾げる沙織、スマホをタップ。
   スマホのアイコンがくるくる回る。
藤原「ローラー作戦しかないんですか?システムに住所入れる設定とか入れれば
 解決しそうですけど」
沙織「できるならしてるわ。アプデするほどの事じゃないかもしれないし。不確
 定要素が多すぎるのよ」
藤原「知らずにすみません」
沙織「予算がないの」
   マッチの音が鳴る。
アプリ「(フィリピン人女性の声、タガログ語)やめて!やめて!やめて!」
藤原「何語?」
沙織「知ってる?」

○倉庫・小部屋(夜)
   フィリピン人女性、必死に抵抗する。
   手術台にマッチ中のスマホ。
   トンカチを持つ芹沢、手術台を叩く。

○漁港・沙織の車・中(夜)
   手術台の叩く音で驚く沙織と藤原。
沙織「……」
藤原「……」

○倉庫・小部屋(夜)
   芹沢、ソファーに座る郁也を見る。
   フィリピン人女性の手首を縛るロープが千切れる。
   芹沢、フィリピン人女性が手術台から落ちる様を凝視する。
   フィリピン人女性、這いながら郁也に覆い被さって、芹沢に背を向ける。
   ニヤける芹沢、トンカチを振り上げる。

○漁港・沙織の車・中(夜)
   ドスっと鈍い音が車中に響く。
   マッチが解除される。
   固まる沙織と藤原。
藤原「さすがに本物な訳ないですよ」
沙織「……」
藤原「少し、辺りを見てきます。車からは出ないでください!」
   と、飛び出して行く。
   沙織、新倉に電話を掛ける。

○新倉の家・中(夜)
   パソコン作業をする新倉、沙織の着信を無視する。
新倉「営業時間外でーす」

○漁港・沙織の車・中(夜)
萌え声の女の声「(電話越し)ただいま、旦那様はご就寝中です。無理に起こそ
 うとすると、プンプンプンプンですよ」
   沙織、電話を切る。

○倉庫・前(夜)
   懐中電灯を持った藤原が通り過ぎる。
   布袋を持った芹沢が身を潜める。
   布袋から血が滴る。

○漁港・漁船
   水揚げされた鯛の首から血が滴る。
   網を裁く春子。
春子「そんな音、聞いてないね。ジジイ供なら聞いてるかもしれないけど、あい
 にく皆んな出ちまってるよ」
   沙織、船の前に立っている。
沙織「ありがとうございます」
春子「あいよ」

○ゼクト株式会社・技術部
   新倉、パソコン画面に映る沙織と藤原を見て苦笑い。
新倉「新しい家族ができました。じゃないんですよ。仕事しましょうよ」

○海岸・カフェ・テラス席
   横並びで座る沙織と藤原。
沙織「どの口が言ってるの。ユーザーの解析は進んだ?」
新倉の声「変わらないっすよ。詳細までは。もうエログロ系演出って事でいいん
 じゃないっすか?」
藤原「山海交番の藤原です。昨日の最後の音声は、間違いなく鈍器で殴る音で
 す」

○ゼクト株式会社・技術部
新倉「マジっすか」
   と、辺りを見渡す。
新倉「どうするんですか?メンテナンスに切り替えます?」
沙織の声「ダメよ。孤児院の方が動けなくなる。今は伊藤さんに見つからないよ
 うに、犯人を特定する」

○海岸・カフェ・テラス席
新倉の声「孤児院諦めましょうよ。裏でこっそりでもバレないですって」
沙織「第一号が許可取れそうなの。諦められないわ」
新倉の声「とりあえず、バレない程度になんとかしときます」
沙織「良いお土産っ買ってくね」
新倉の声「ういーっす」
   と、通話が切れる。
沙織「と言う事です」
藤原「警察に届けを出して」
沙織「ダメ。あの刑事は信用してない」
藤原「でも」
沙織「証拠はないでしょ」
藤原「少し僕なりに調べるけど、それは良いですね?」
沙織「いいけど、怪我とかはしないでね」
藤原「(頬が赤くなる)」

○漁港・公園
   錆びついたブランコ、シーソー、砂場だけの公園。
   シーソーの中間に立つ良太、左右に傾けて遊んでいる。
   ブランコに乗る未来を沙織が押す。
   振り返る未来、沙織を見て微笑む。
未来「お姉ちゃん、楽しい?」
沙織「うん。楽しいよ」
未来「未来ね、ブランコが一番好きなの。お姉ちゃんは?」
沙織「んー、私もブランコかな」
未来「一緒だね」
沙織「一緒だ」
未来「お姉ちゃんが作ったゲームって何?」
沙織「ゲーム?」
未来「一平が言ってた」
沙織「ゲームか。少しやってみる?」
未来「うん」
沙織「良太くん、ちょっと来てー」
   良太、走って来る。
沙織「ゲームだよ。ルールはなぞなぞを先に答えた方が勝ち。いい?」
良太「勝つ!」
未来「未来が勝つ」
沙織「それでは第一問!」
   スマホから効果音。
なぞなぞアプリ「パンはパンでも」

○愛児園・職員室
   対座する廣木と益美、廣木の後ろで二宮が立つ。
廣木「郁也くんですが、現在も行方が分かっていません。捜索範囲を広げるのは
 いかがかと。電車に乗って隣町など行った可能性もあります。好奇心が芽生え
 る頃なので」
益美「それはありません」
廣木「何故?」
益美「それは……」
廣木「(目を見て頷く)」
益美「郁也は、その……生れつき盲目なのです」
部下「盲目……」
廣木「情報には……黒塗りの箇所ですか?」
益美「ええ。以前の職員と、郁也を普通の子として接する。と揉めた事がありま
 して」
廣木「なるほど。進展次第、連絡します」

○漁港・公園
   『3―2』のスコアがアプリに映る。
沙織「今回は未来ちゃんの勝ちー」
未来「やったー、未来の勝ちー」
良太「もう一回だ、もう一回」
沙織「良太くんさ、拍手で敵を倒すゲームしたくない?」
良太「する。めっちゃカッケェじゃん」
   シーソーの上に立てたスマホ。
   良太、スマホに向かって拍手する。
未来「一緒にブランコしよ」
   と、沙織の袖を引っ張る。
   沙織と未来、二人乗りでブランコを漕ぐ。
未来「お姉さんは、なんでたくさんゲーム使ってるの?」
沙織「楽しんでもらうためだよ。なぞなぞは楽しかった?」
未来「うん」
沙織「昔、お姉ちゃんの家族に目が見えない子が居たの。目が見えなくても楽し
 めるように、元気でいられるように、たくさん作ってるんだよ」
未来「今は?」
沙織「ちょっと離れ離れになってるんだ。こんな事言っても分からないか」
未来「歌も楽しいよ。それとね貝を耳に当てると海の音がするよ」
沙織「(笑って)そうだね」

○春子の家・居間(夜)
   良太、ずっと拍手している。
   ご飯の用意をする春子、手伝う未来。
春子「うるさいよ!」
未来「お姉ちゃんのゲームずっとやってる」
春子「携帯も無いのに、バカだねぇ」
未来「お姉ちゃん。昔、目が見えない子と家族だったんだって」
春子「そう。だからってバカにしたりしたらダメだからね」
未来「うん。色々教えてあげた」

○山海署・喫煙室(夜)
   煙が舞う。
   一点を見つめる廣木、ドアを隔てて二宮が立つ。
廣木「なんで隠してたかなー」
二宮「ですよね!」
廣木「明日、一通り聞き込みして、打ち切りだな」
二宮「了解しました」

○倉庫・前(夜)
   芹沢、クーラーボックスを中国人AとBに引き渡す。
芹沢「行け」
中国人A「(片言)ありがとね」

○同・小部屋(夜)
   ソファーに座る郁也の顔に返り血。
   芹沢、濡れた雑巾で郁也の返り血を拭き取る。
芹沢「綺麗な顔して」
   と、血の付いた自分の手を見る。

○ホテル・623号室
   パソコン画面に『新倉』の名前。
   コーヒーを飲んで待つ沙織。
   パソコン画面が切り替わり、伊藤が出て来る。
   沙織、コーヒーを咽せる。
伊藤の声「お疲れさん」
沙織「お疲れ様です。どうしました」
伊藤の声「クライアントからクレームが来てるんだ」
沙織「クレーム?なんでしょう?」
   画面の端で新倉が謝っている。

○ゼクト株式会社・技術部
   パソコン画面にスマホを見せる。
伊藤「なかなかマッチしないそうだ」
沙織の声「なるほど。ミミヨシはいつやってます?」

○ホテル・623号室
伊藤の声「いつだったかな。聞かないとな」
沙織「早朝が狙い目だとお伝えください」
伊藤の声「分かった、分かった。確認してくるよ」
新倉の声「てな感じで、色々問題が起きそうっす」
沙織「引き続き、誤魔化しといて」

○漁港・車庫
   二宮が春子に聞き込みしている。
二宮「こんな男の子見かけませんでした?」
春子「……見てませんね」
二宮「盲目なんですけど、知りません?」
春子「そんな子居たわね。目が見えないのに海に遊びに来るもんだから、怖くて
 怖くて仕方なかったよ。本人曰く、大丈夫って言ってたけど」
二宮「いつ頃の話ですか?」
春子「三ヶ月も前の話さ」
二宮「そうですか、ありがとうございます」

○山海署・廊下(夜)
   廣木、肩を回しながら歩いている。
   廣木に駆け寄る二宮。
二宮「お疲れ様です。リストの聞き込み終わりました」
廣木「どうだった?」
二宮「三ヶ月ほど前に漁港で見かけたと」
廣木「そんな前の話か……明日にでも、連絡入れとけ。資料もな」
二宮「はい」
廣木「お疲れさん」
   と、煙草を取り出す。

○漁港・漁船(夜)
   漁師A、B、Cが漁の準備をしている。
漁師A「最近ここらで幽霊が出んだぞ」
漁師B「老眼も、ここまでくると引退でねぇか?」
漁師C「女しか見えてねえな」
漁師A「見たんでねえ。聞いたんだ。ち、ち、ち、ちって、ずっと聞こえたもん
 だから怖くて」
漁師C「乳か?」
漁師B「怖いって、死んだカミさんが化けて出たんだろ」
   と、笑い合う。
   巡回中の藤原が近寄る。
藤原「皆さん、楽しそうですね」
漁師B「コイツが幽霊見たって」
漁師A「見たでねえ、聞いたんだ」
藤原「それって、ちっちっちの?」
漁師A「そうだ、そうだ」
藤原「それ、僕も聞きました!」

○(回想)同・倉庫街(夜)
   暗闇の中を漂う懐中電灯の明かり。
   懐中電灯を持つ藤原、巡回している。
   藤原、潮風で軋むシャッターに驚く。
   懐中電灯の明かりで照らされたネズミの親子が居なくなる。
   グチャと何かを踏む藤原、懐中電灯で足元を照らすと血の塊がある。
   藤原、驚いて尻餅をつく。
   転がる懐中電灯。
   懐中電灯が照らした先に、『岡野魚介加工センター』の文字。
   安堵する藤原、眉間にシワがよる。
   チッチッチッチと鳴り響く怪音。
   藤原、懐中電灯を拾い、猛ダッシュで立ち去る。
   (回想終わり)

○同・漁港(夜)
   暗闇の中を漂う二つの懐中電灯の明かり。
   懐中電灯を持った沙織と藤原。
沙織「なんで、そんな所に呼ぶかな」
藤原「怪しい匂いがしたんで、刑事の勘」
沙織「この辺?」
藤原「そう、この加工センター辺り」
   と、立ち止まる。
   懐中電灯の明かりが四方八方を照らす。
沙織「特に何も無さそうね」
藤原「爺さん供も聞いたって言ってたんだけどな」
沙織「それなら俄然、勘違いよ」
藤原「潮風とかだったのかな」
   チッチッチッチと鳴り響く怪音。
   固まる沙織と藤原。
藤原「これです」
   沙織、一歩ずつ前に進む。
   倉庫の陰から歩く人影。
   藤原、固唾を飲んで様子を見守る。
   倉庫の陰から郁也の姿が見える。
   沙織、郁也に懐中電灯を向ける。
   芹沢が郁也を引っ張り、間一髪で陰に隠れる。
   倉庫の陰には誰も居ない。
   沙織、郁也の居た倉庫の陰を見る。
藤原「どうしました?」
沙織「別に、なんでもない」
   倉庫の陰に隠れた郁也と芹沢。
   芹沢、沙織の顔を見る。
   × × ×
   (フラッシュ)
   タバコを吸いながら歩く沙織。
   × × ×
   芹沢、郁也を抱えて、倉庫の中に入る。

○愛児園・入口
   廣木と益美、対面して立っている。
廣木「郁也くんの捜索ですが、ここで打ち切りとさせて頂きます」
益美「そんな……あと一日だけでもいいんです。探して下さい」
廣木「申し訳ありません。詳しくは、他の者が来ますので対応頂けたらと思いま
 す」
   と、公園で遊ぶ子供たちを見る。

○繁華街・パトカー・中
   運転する二宮、助手席に廣木。
廣木「しっかしまぁ、大変だねぇ」
二宮「何がです?」
廣木「大家族だなーって思って」
二宮「廣木さん独身ですもんね」
廣木「それでも家族だ、同じだな」
二宮「族してないですよ」
廣木「ちゃんと運転しろ!」

○漁港・公園
   ブランコの柵に腰掛ける沙織と春子。
春子「急に呼び出してごめんね」
沙織「いえ」
春子「あんた、人探してるんだろ」
沙織「……」
春子「いいんだ。深くは聞かないよ。辛くなったら頼っても構わんから」
沙織「……」
春子「私ら、家族みたいなもんだろ」
沙織「ありがとうございます」
春子「三ヶ月前、目の見えない男の子会ったよ。名前は知らんが、探してるの、
 その子なんだろ」
沙織「どこで見ました!」
春子「警察に伝えたから、待っていれば大丈夫さ。心配要らんよ」

○山海交番・中
   コンビニ弁当。
   藤原、一気に弁当を掻き込む。
   入って来る沙織。
沙織「手伝って」
藤原「はい?」
沙織「子供の捜索よ」
藤原「ん?迷惑ユーザーじゃなく?」
沙織「……そうね」
藤原「愛児園の件は止められてますよね」
沙織「行方不明になった子の為に、あのアプリがあるの」
藤原「だとしても無理です。今夜から署と合同で漁港近辺の巡回が決まりまし
 た」

○ホテル・623号室
   パソコン画面に新倉、その前に沙織が座る。
新倉の声「どうしました?」
沙織「この子を探して。送った」

○ゼクト株式会社・技術部
   パソコン画面に郁也の資料。
新倉「誰っすか?」

○ホテル・623号室
沙織「孤児院の男の子、今、行方不明になってるの」
新倉の声「田舎町の行方不明者なんて、見つけれる訳ないじゃないですか」
沙織「その子が居ないと、私のやってきた事が全部意味なくなるの」
新倉の声「孤児院は自分の担当じゃないっすよ。警察にって言ってましたよね」
沙織「警察が見つけたら、一生会えなくなるでしょ」
   と、画面を切る。

○(回想)アパート・池田の家
   『2013年1月18日』のカレンダー。
   池田、ネクタイを緩める。
   赤ちゃんかごで眠る赤ちゃん。
   沙織、洗い物をしている。
池田「他に、お袋とかに任せようぜ。俺らには厳しすぎる」
沙織「産む前の言葉はなんだったの?」
池田「俺、自信ないんだよ。ちゃんとした親になれないと思う」
沙織「それは私だってそうだよ。でも、二人で助け合うの」
池田「施設のパンフ貰って来たんだけど」
   と、カバンからパンフレットを出す。
   沙織、パンフレットを弾き飛ばす。
池田「目、見えないんだぞ。どうすんだよ」
沙織「なんで簡単に預けるみたいな発想になるの?やっと家族になれたのに」
   と、泣き出す。
   呆然と立ち尽くす池田、部屋の隅にベビーグッズが積み重なっている。
   池田、沙織を抱きしめる。
池田「ごめん」
沙織「三人で幸せになるの」
   (回想終わり)

○ホテル・623号室(夜)
   母子手帳を持って眠る沙織、目を覚ます。
   母子手帳に挟まる池田と赤ちゃんを抱く沙織の家族写真。
   涙を払う沙織、窓からの夜景を見る。
沙織「今は一人か……母は強し。ってほど一緒に居ないね」

○漁港・船舶場(夜)
   藤原と二宮が巡回している。
藤原「子供の捜索って打ち切りなんですか」
二宮「さすがに生きてないですよ」
藤原「ですよね。あー寒い、倉庫側がよかったな」
二宮「廣木さんの嫌がらせですよ」

○同・倉庫街〜廃倉庫・前(夜)
   陰に隠れる沙織、目の前を二人の警察官が通り過ぎる。
   沙織、一棟一棟倉庫の扉を確認する。
   鍵の閉まった倉庫。
   前方の人影に気付く沙織、コンテナの陰に隠れる。   
   中国人AとBがクーラーボックスを積み重ねている。
   クーラーボックスを開く中国人A、中国人Bに見せつける。
   中国人B、嘔吐するリアクション。
芹沢の声「ちゃんと処理しろよ。毎回、同じ所に捨ててないよな」
中国人A「(片言)捨て場変えた。潮で上がってこない場所」
   芹沢、スポーツシューズを三足渡す。
   沙織、音を立てずに近づいて行く。
芹沢「三人分、忘れるなよ」
中国人B「(片言)忘れてない」
   中国人Aの顔を見て隠れる沙織、引き返そうとすると、チッチッチッチと
   怪音が聞こえる。
   沙織、怪音の方を見る。
   チッチッチッチと音を立てながら歩く郁也が近寄って来る。
   芹沢、中国人二人を手で追い払う。
   クーラーボックスを持った中国人AとB、談笑しながら居なくなる。
芹沢「勝手に出て来るな」
   と、郁也の手を繋ぐ。
   手を繋いで歩き出す芹沢と郁也。
   その後ろから顔を覗かす沙織、二人を尾行する。
   沙織、クーラーボックスの置かれた位置ある血痕で口を抑える。
   歩いて行く芹沢と郁也の後ろ姿。
   沙織、藤原に電話するが出ない。
   半開きのコンテナの前で立ち止まる芹沢と郁也。
   芹沢、周囲を警戒して中に入る。
   恐る恐る半開きのコンテナの前に立つ沙織、スマホを握りしめて辺りを見
   回す。

○漁港・岩場(夜)
   積み込みを行う中国人AとB、懐中電灯で照らされる。
   中国人A、乗り込んで船を発進させる。
   岩場を降りる藤原、中国人Bの首根っこを掴み、引き摺り下ろす。
藤原「ちょっと来い」
二宮「至急、怪しげな中国人二名を発見」

○山海署・取調室(夜)
   二宮と中国人Bが向かい合う。

○同・裏(夜)
   廣木が見ている。
廣木「沈黙の一点張りか。目の見えない子供は居なかったか聞けるか?」
   二宮と中国人Bのやり取りが見える。
中国人Bの声「(片言)見た」
廣木「どこで見たか聞け!」
   中国人B、口の前でばつ印を作る。
廣木「クソ!」

○漁港・コンテナ・前(夜)
   家族写真を眺める沙織、足音で振り返る。
   藤原が立っている。
藤原「どうしました?」
沙織「子供が、優斗が中に!」
藤原「落ち着いて下さい。優斗?」
沙織「私の子供です」
藤原「子供!?」

○ゼクト株式会社・技術部(夜)
   暗い社内、新倉の席のスタンドライトだけが光っている。
   新倉、紙コップを咥えながらパソコン作業をしている。
新倉「どう頑張っても、見つけられましぇんね。無理ですね。うん……と言いつ
 つ、やっちゃうのが自分なんですよー。はは」

○漁港・コンテナ・前(夜)
   コンテナに腰掛ける沙織と藤原。
藤原「郁也って子が、生き別れの優斗くんって事か。特徴的にそうなるか」
沙織「早く助け出さないと」
藤原「落ち着いて下さい。兎も角犯人なんです。署の協力を待ちましょう」
沙織「それはダメ。そしたら優斗と暮らせなくなる」
藤原「愛児園に連絡すれば会えるでしょ」
沙織「(目を逸らし)アプリの為に色々やってまして……」
藤原「都合が良い事ばっかしてるから」
沙織「優斗の為だったの」
藤原「音系のアプリが多いのも、その為ですか……」
沙織「私には、それくらいしかできないし」
藤原「息子の為に頑張る母は好きですけど、嘘はダメですからね!」
沙織「うん」
藤原「子供か!様子見てくるので、この場で待機しといてください。何かれば連
 絡を」
   と、中に入って行く。

○同・階段(夜)
   藤原、薄暗い階段を降りて行く。
   階段下の扉から薄明かりが漏れる。
   扉から中を覗く藤原。

○同・小部屋(夜)
   散らばった血痕。
   芹沢、ホースで血を洗い流している。
   台所に座る郁也、微動だにしない。

○同・階段(夜)
藤原「屠殺場かよ」
   と、上を見てから電話を掛ける。

○山海署・喫煙所(夜)
   一服中の廣木に着信。
   廣木、電話に出る。
藤原「(電話越し)郁也くんと誘拐したと思われる犯人の居場所を特定しまし
 た」
廣木「場所は!?」
藤原「(電話越し)地図情報、メールで送ります!」
   廣木、タバコを消して、飛び出す。

○同・廊下(夜)
   同僚と談笑する二宮、走って来る廣木を見る。
廣木「郁也くん見つかった!人かき集めろ」
二宮「はい!」

○漁港・コンテナ・中・階段(夜)
   藤原、扉の中を固唾を飲んで見守る。
   中を覗くん藤原の後ろ姿。
   藤原の肩に忍び寄る手が、肩を掴む。
   咄嗟に振り返る藤原、視線の先に沙織。
藤原「(小声)なんで来たんですか」
沙織「(小声)外で一人も怖いの」
   と、扉から中を覗く。
   血みどろの床が見える。
   目を逸らす沙織、吐かないように口を抑える。

○同・小部屋(夜)
   芹沢、ノコギリに付着した血を洗い流している。

○同・階段(夜)
   再度中を覗く沙織。
藤原「(小声)見なければいいのに」
沙織「(小声)優斗を見たいの」
藤原「(時計を確認する)」
   沙織の視線の先に郁也。
沙織「(小声)優斗、もう少しだからね」
   沙織のスマホが鳴る。
   驚く藤原。
   沙織、スマホの音を止める。

○同・小部屋(夜)
   芹沢と郁也が扉の方を見る。
   芹沢、トンカチを握りしめる。

○ゼクト株式会社・技術部(夜)
   新倉、イスでくるくる回っている。
新倉「自分、天才っすわー」

○漁港・コンテナ・中・階段〜小部屋(夜)
   スマホに新倉からのメール、『子供は無理でした』の文字が見える。
   沙織、中を見ずに画面を消す。
沙織「(小声)あのバカ」
藤原「(小声)隠れて」
   扉の隙間から、トンカチを持った芹沢が近づくのが見える。
   階段下の箱の陰に隠れる沙織と藤原。
   扉が開き芹沢が顔を出す。
   誰も居ない階段下。
   芹沢、中に入る。
   恐る恐る出る沙織と藤原。
   沙織、扉の中を覗く。
   突然現れる芹沢。
   悲鳴をあげる沙織。
   扉を蹴り飛ばす芹沢、ぶっ飛ぶ沙織。
   藤原、芹沢を中に押し込める。
   芹沢、トンカチで藤原の脇腹を強打。
   郁也の顔が芹沢の方を向く。
   怯んだ藤原に芹沢が馬乗り。
   藤原、トンカチで連打する芹沢の猛攻を腕で防いでいる。
   立ち上がる沙織、郁也の元に駆け寄る。
   芹沢の方を向く郁也、沙織に気付いてない。
   藤原の視界に沙織が見える。
   一瞬だけ沙織の方を向く藤原、トンカチが頭に当たり、血が流れる。
沙織「優斗、優斗」
   と、近づく。
   沙織の髪を引っ張る芹沢、沙織の顔をを何度も殴りつける。
   沙織の方を見る郁也の口角が上がる。
   グッタリとする沙織に芹沢がトンカチを振り上げる。
   藤原、トンカチの腕に飛びかかる。
   床に倒れる沙織と芹沢。
   藤原、流血で視界が見えない。
   蹴り飛ばされる藤原、視線の先に馬乗りの芹沢が見える。
   芹沢、何度も藤原を殴る。
   沙織、グッタリする藤原を見て悲鳴をあげる。
沙織「ダメー!それ以上は死んじゃう」
   郁也、芹沢の元に近寄る。
沙織「優斗、ダメ、そっちは」
郁也「もっと聴かせて、もっと大きい音がいい。待って、皆んなに聴かせるアプ
 リやってないよ」
沙織「……どうしたの?」
郁也「幸せは皆んなの為に、園長の言葉は守らないと」
沙織「優斗、優斗、優斗。違う。優斗」
芹沢「こいつ、お前の子供なの?」
沙織「……」
芹沢「異常だよ」
郁也「もう終わり?まだ聴きたい」
芹沢「(微笑み)次、頭にするね」
郁也「うん!」
   唖然とする沙織。
   パトカーのサイレン。
芹沢「ごめん。また今度だ」
郁也「仕方ないなー」
   芹沢、郁也を抱えて出て行く。
沙織「ダメっ!」
   と、足に力が入らない。
   沙織、這って藤原の元に駆け寄る。
沙織「大丈夫。もう少し、もう少しだからね。死んじゃだめだからね」
   藤原の口角がピクッと動く。
   入って来る廣木、続いて二宮。
廣木「(壁を見て)これは酷い」
二宮「(藤原に駆け寄り)救急!救急!」
   沙織、黙って涙を流す。
   廣木、上着を沙織に掛ける。

○山海署・取調室
   痣と包帯だらけの沙織、廣木の聴取を受けている。

○山海病院・病室
   酸素吸入器に繋がれた藤原。

○山海署・入口(朝)
   力無く出て来る沙織。
   見送る廣木と二宮。
   沙織、振り返る事なく、その場を後にする。
二宮「大変ですね。やっと出会えた息子が……それでも一緒に暮らしたいんです
 かね」
廣木「無理だ」
二宮「ですよね。いくら母でも息子が」
廣木「一度、捨ててるから、引き取れないだろ。それが本人の意思でないとして
 も、当時の家族が決めたのなら、個人が同意したのと同じ事だ」
二宮「なんかアレです」
廣木「それでも一緒に居たいと思うのが母ちゃんなんだろうな。知らんけど」
二宮「(小声)独身」
廣木「うるせぇ。さっさと帰れ」
二宮「えー、別に帰ってもやる事ないんですよー」

○ホテル・623号室
   沙織、パソコンを開く。
   傷だらけの顔が黒い画面に映る。
   パソコンを閉じる沙織、ベッドに倒れ込む。
   沙織、胸ポケットから家族写真を取り出す。
   家族写真を眺める沙織、咽び泣く。
沙織「分かんないよ。私、どうしたらいいの。ねぇ、教えてよ」

○海岸・防波堤
   波が当たる。
   テトラポッドにスポーツシューズを履いた足首が挟まっている。

○同・岬
   芹沢、手すりから下を覗き込む。
   潮が引いて岩場が見える。
   芹沢、下に向かって嘔吐する。

○(回想)同・岬(夜)
   ヨタヨタ歩いて来る芹沢、みすぼらしい格好。
   一銭も入っていない財布。
   芹沢、海に財布を投げ捨てる。
芹沢「結局、一人なんだよな」
   と、前方の人影を見て立ち止まる。
   前方の人影が海に飛び降りる。
芹沢「ほらな」
   人影の居た場所に向かう芹沢、海を覗き込む。
   細波が立つ海面。
郁也「(後ろから)あなたも音を出すの?」
芹沢「(振り返る)」
郁也「でもダメ。今日は聴こえない」
芹沢「……」
郁也「それに……泣いてない」
   と、チッチッチと言って立ち去る。
   芹沢、後を追う。

○漁港・廃倉庫・前〜中(夜)
   歩く郁也、急に立ち止まる。
   芹沢も郁也に合わせて立ち止まる。
   郁也、横の軽トラの隅でしゃがむ。
   鈍い音が何度も響く。
   芹沢、中を覗く。
   笑顔の郁也。
   横たわる血だらけの女性が見える。
   出て行く作業着の男。
   芹沢、中に入って行く。
   女性の顔を覗き込む芹沢、顔の形が無
   くなった女性に尻餅をつく。
   横に放置されたファイル。
   芹沢、ファイルを見る。
   ファイルに『パブ 愛美叶夢のメロ』『高架下の男』『酔った水商売の
   女 詳細不明』と書かれている。
   作業着の男が入って来る。
   芹沢、ファイルを放り投げる。
芹沢「見てないです」
   作業着の男、ハンマーで殴りかかる。
   間一髪かわす芹沢、作業着の男に突進する。
   飛ばされて頭を打つ作業着の男、その場で動かなくなる。
   中国人AとBが来る。
中国人A「(片言)新人、今日二人ね」
中国人B「(片言)この男、顔ある。ダメだよ潰さないと」
芹沢「……はい」
   と、ハンマーを持つ。
   芹沢、震えながら、ハンマーで作業着の男の顔を潰す。
中国人A「(片言)次もね」
   と、お金を渡す。
   中国人B、クーラーボックスに女と作業着の男を詰める。
   息を乱す芹沢に郁也が近づく。
郁也「今日も良い音だった。また聴ける?」
芹沢「ああ」
   (回想終わり)

○倉庫・中
   郁也、壁に手を当てて歩いている。

○同・小部屋
   郁也、チッチッチと言いながら入って来る。
   芹沢、工具を布袋に詰める。
郁也「芹沢、どうしたの?」
芹沢「移動する」
郁也「この前、一番良い音した。いつもと違う感じ」
芹沢「どの人?」
郁也「分からない。でも、また聴きたい」
芹沢「郁也」
   と、郁也の目線に合わせる。
芹沢「次、聴きたくなったら人の、ここを力いっぱい殴ってみるんだ。いいな」
郁也「うん」
   芹沢、郁也の手を頭に当てている。

○漁港・公園
   ブランコを漕ぐ沙織。
   買い物帰りの春子、沙織に気づいて近づいて来る。
春子「どうしたの、その顔」
沙織「(声を上げて泣く)」
春子「大丈夫、大丈夫」
   と、抱きしめる。
   泣き止む沙織、春子の胸に顔を埋める。
春子「落ち着いた」
沙織「(頷く)」
春子「話してみ、今なら良いものある」
   と、缶ビールを見せる。
   沙織、缶ビールに手を伸ばす。

○愛児園・職員室
   益美、廣木と二宮が対座する。
廣木「郁也くんが見つかりました」
益美「(安堵)よかった」
廣木「……しかし趣向に社会的な問題があります」
益美「問題?郁也は普通の子です」
廣木「郁也くんは、人が殴られる音、潰される音に快楽を得る体質のようです」
益美「(唖然とする)」
廣木「保護した際は、こちらで」
益美「(遮って)お願いします」
廣木「郁也くんが変に思わないように段取りだけ合わせてもらえますか?」
益美「はい」

○漁港・公園
   三本の缶ビールの缶がブランコの間に置いてある。
   ブランコに座る沙織と春子。
沙織「もし良太くんや未来ちゃんが優斗と同じだったらどうします?」
春子「……そうだね。想像もできないね」
沙織「私、どうしたら」
春子「いつも通りしなさい。相手がどうだからで、変わっちゃう事なのかい。ど
 うせ記憶なんて成長と共に消えるさ。子供の頃好きだったものは、親に聞かな
 いと分からないだろ」
沙織「……」
春子「だから今は休みなさい。その口じゃ、はっきり物を言えないし、その目じ
 ゃ、しっかり見てやれない。子育ては大変よ」
沙織「……はい。少し知ってます」

○同・公園前の道
   春子を背にして歩いて行く沙織、スマホを見る。
   スマホの新倉のメールを開く。
   倉庫街の地図が添付されている。
新倉の声「子供は無理でした。でもでもでも迷惑ユーザーの場所、確定しまし
 た!」
   振り返る沙織、春子の背中を見る。

○倉庫・中
   シャッターが開く。
   布袋を持った芹沢が出て来る。
   芹沢の顔面をシャベルが襲う。
   顔面を抑えた芹沢、のたうち回る。
   沙織、中に居る郁也を抱き抱える。
郁也「何?誰?」
沙織「お母さんよ」
郁也「知らない!」
沙織「今はいいから」
   郁也、沙織の腕を噛む。
   沙織、郁也を離す。
   シャベルの上に落ちる郁也、シャベルを触っている。
芹沢「郁也!今!最高の音が聞こえるぞ!」
郁也「ほんと?」
   と、シャベルを振り回す。
   シャベルが膝に当たる沙織、膝をつく。
   振り回されたシャベルが再度、沙織のこめかみに直撃。
芹沢「どうだ郁也?」
郁也「これだ。この音が一番安心できる音」
   と、シャベルを乱雑に叩きつけている。
   シャベルの音が断続して聞こえる。
芹沢「親ってのは大変だな」
沙織「親じゃないでしょ」
芹沢「ある意味、育ての親ってな」
沙織「育ての親も生みの親も私だから」
芹沢「(郁也を指差し)本気で言っている?ヤベーだろ。これの親とか、無理だ
 から捨てたんでしょ」
沙織「趣味趣向は人それぞれだから、他人がとやかく言わないで」
芹沢「他人じゃない!俺が居なかったら、コイツは死んでたんだ!毎日、死ぬや
 つの音を聞くために夜抜け出して、殺されるやつの音聞くために倉庫彷徨っ
 て、遅かれ早かれ死んでたんだ。それを救った俺に感謝だろ!」
沙織「そういうの愛児園や警察がやるの。変な正義感振り回さないで」
芹沢「子供一人に何もできない奴が上から言うな!」
   と、郁也のシャベルを奪い取る。
郁也「痛い」
芹沢「コイツには俺が必要なんだ!」
   ミミヨシのマッチ音。
   芹沢、立ち止まる。
郁也「とても良い音です。聞いてください」
沙織「郁也くんは優しいね。このアプリは楽しい?」
郁也「うん。聞く事もできるから、僕にも楽しめる。ボタンも二つだから、簡
 単」
沙織「聞いてなぞなぞは?」
郁也「パンはパンでも!」
沙織「クラップアドベンチャーは?」
郁也「(連続で拍手)」
沙織「(涙を堪えて微笑む)」
芹沢「そんなアプリになんの意味がある!たかがゲームだろ」
沙織「ゲームでも喜ばせられるの。狂った方法でしか思いつかない、あなたが狂
 ってるの。ヤベーのはあなたで、私の息子はヤバくないないから!」
芹沢「一緒にすんじゃねぇ!」
   と、沙織にシャベルを振り上げる。
   シャベルを見つめる沙織。
   芹沢、振り上げた自分の手を見る。
廣木の声「確保!」
   と、芹沢に飛びかかる。
   シャベルが飛んで行く。
   廣木、芹沢を抑え込める。
   沙織、郁也抱えて保護。
廣木「犯人確保!」
   二宮を筆頭に警察官が現れる。
芹沢「俺は狂ってないんだ。あの子に俺が必要だったんだ」
廣木「そう言うのは後で聞くから黙ってろ」
   芹沢の手に手錠が掛かる。
   芹沢の小指が異常に短い。
   廣木、二宮に芹沢を引き渡す。
芹沢「(呟く)人それぞれなら、何しようと勝手だろ。それぞれの形だろ。少し
 違うからって、変な扱いするな」
廣木「根底にあるものは平等だと思うけど」
芹沢「(舌打ち)」
廣木「気にすんな。人それぞれだ。目が見えない遠くの息子の為に、耳で楽しむ
 アプリを開発する人だっている。孤児院に居るであろう息子の為に家族を作る
 アプリを開発する人もいる。こんなクソ田舎まで来てな。自分自身が踏ん張れ
 なかった言い訳すんな。平等は口に出した瞬間、価値ねぇよ」
芹沢「(首を傾げる)」
廣木「ちなみに努力とかも同じな」
   二宮、芹沢をパトカーに連行する。
   廣木、郁也を抱きしめる沙織を見る。
   芹沢、パトカーに乗る直前、
芹沢「なぁ、郁也ぁぁぁぁぁ!」
   と、パトカーに頭を打ちつける。
   芹沢を見る郁也、口角が上がる。
   芹沢、二宮の制止を振り切り、何度も打ちつける。
   廣木、芹沢をパトカーに押し込む。
廣木「落ち着け」
   郁也、沙織の顔を見る。
   微笑む沙織、郁也の頭を撫でる。
   郁也、沙織のこめかみを殴る。
   沙織の顔が歪む。
   郁也、何度も沙織のこめかみを殴る。
沙織「大丈夫、大丈夫。大丈夫」
郁也「良い音」
   と、何度も殴る。
   唖然とする二宮と廣木。
   沙織、郁也を真っ直ぐ見る。
沙織「大丈夫、大丈夫」
   と、郁也を抱きしめる。
   郁也の渾身の一撃が沙織のこめかみを捉える。
   顔を背ける沙織、
沙織「大丈夫」
   と、郁也を見る。
郁也「痛い、痛いよ。いだぁぁい」
   と泣きじゃくる。
   口を歪ます沙織。
   郁也の動きが止まり、手の力が抜ける。
   天を見上げる芹沢。
   郁也、沙織の胸に顔を埋める。
   沙織、郁也に頬を寄せる。

○愛児園・公園(夕)
   遊具で遊ぶ子供たち。
   ブランコで遊ぶ郁也と沙織。
沙織「どう?」
郁也「揺れて気持ち悪い」

○同・入口(夕)
   益美、廣木に書類を渡す。
   廣木、書類に目を通す。
   保護者の欄に『村瀬沙織』の文字。
   廣木、ブランコで遊ぶ沙織を見る。
廣木「では段取り通りに」
益美「はい。郁也!来なさーい!」

○同・公園(夕)
   郁也を見て微笑む沙織。
沙織「行こっか」

○同・入口(夕)
   後部座席のドアが開いた車、運転席に
   二宮。
   沙織、郁也とハグをする。
沙織「人は殴ったら、絶対にダメよ」
郁也「うん」
沙織「(郁也の頭を撫でる)」
廣木「母ちゃん」
沙織「羨ましい?」
廣木「別に。独り身でいいよ。いや、独り身がいい」
沙織「できないだけでしょ。でも、人それぞれだから。気にしなくていいよ」
   廣木、鼻で笑う。
   郁也、益美と一緒に車に乗り込む。
   ドアを閉める沙織。
   廣木、二宮に出発の合図を送る。
   車がゆっくりと発進。
   沙織と廣木、見送りに出る。

○愛児園の前の道・走る車・中(夕)
   沙織の姿が徐々に小さくなって見える。
   郁也、振り返って後ろを見る。
   沙織の姿が微かに見える。
                 終わり

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