金は秀でて青くなる 日常

怪しい宗教にハマる母にと弱気な父に嫌気がさし、恋人の金槻秀との未来を希望に生きていた小金井ちな。唯一の光だと思っていた秀。実は宗教を勧めてちなの家族を苦しめる元凶の詐欺グループの一味だった……。
鈴木夏櫻 18 0 0 07/26
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

〇登場人物
小金井ちな(17)高校生
小金井清子(45)ちなの母親
小金井道雄(45)ちなの父親

金槻秀  (23)ちなの彼氏・詐欺グループの下っ端
杉本陽(30)詐 ...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

〇登場人物
小金井ちな(17)高校生
小金井清子(45)ちなの母親
小金井道雄(45)ちなの父親

金槻秀  (23)ちなの彼氏・詐欺グループの下っ端
杉本陽(30)詐欺グループのリーダー
平野 (29)詐欺グループの一員
長谷川(28)詐欺グループの一員
村井 (30)ちなの担任教師

女性警察官(30代)
女子生徒
刑事



〇マンション・小金井家・玄関(夕)
  掃除が行き届いた玄関にサンダルと女物の靴。
  それと男物の革靴がある。
  セーラー服を着た小金井ちな(17)、玄関を開ける。
ちな「ただい─」
  ちな、革靴を見つけて口をつぐみ、静かに玄関を閉める。
  リビングから楽しそうな話し声。
  ちな、靴を脱いで自分の部屋へ。

〇同・ちなの部屋(夕)
  ちな、扉を閉める。
  話し声が廊下に移る。
  ちな、扉からこっそり覗く。

〇同・廊下から玄関(夕)
  上機嫌の母、清子(45)とスーツ姿の杉本陽(30)。
清子「杉本さん、今日もありがとうございました」
杉本「いえいえ、熱心な信者の方がいてこその教団ですから」
清子「熱心だなんて、そんな」
杉本「私たちの中でも清子さんの話題で持ちきりですよ。
 お布施やらいろいろ惜しみなく頂いて しまって、申し訳ないくらいです」
清子「教祖様のためですから」
杉本「ありがとうございます。
 清子さんと同じくらい道雄さんも積極的になっていただけると嬉しいんですが」
清子「すみません。言うこと聞かない夫で……」
杉本「いやいや、いいんですよ。個人のペースで」
  杉本、革靴を履く。
清子「これからもどうぞ、よろしくお願いします」
  清子、深々と頭を下げる。
杉本「こちらこそ」
  杉本、会釈して玄関を開ける。
  清子、頭を上げる。
杉本「ではまた来週に。それまでになにかありましたら気兼ねなく連絡してください。
 いつでも相談に乗りますから」
清子「ありがとうございます」
  清子、再び頭を下げる。
杉本「では」
  杉本、外に出て扉を閉める。
  頭を上げる清子、ちなの部屋を見る。

〇同・ちなの部屋(夕)
  扉を閉めるちな、急いでつっかえ棒を立てる。
  激しく扉を叩かれる。
清子(声)「ちな! アンタ居るんでしょ!
 いつまでたっても挨拶しないでなにやってるの!」
  ちな、小さく縮こまって耳をふさぐ。
清子(声)「コソコソ隠れて! そんなんじゃお恵み貰えないわよ!」

〇同・玄関から廊下(夕)

  作業着姿の父、道雄(45)が玄関を開ける。
道雄「ただいま……」
  ちなの部屋の扉を叩く清子。
  驚く道雄、慌てて清子を止める。
道雄「近所迷惑になるからやめなさい」
清子「(暴れる)でもちなが!」
  道雄、取り繕うように。
道雄「教祖様がびっくりするだろ」
  はっとする清子。
清子「そうね、そうよね。……謝ってこなくっちゃ」
  清子、急いでリビングへ。
  道雄、溜息を吐く。

〇同・ちなの部屋(夕)
  耳をふさいでいた手を下ろすちな、優しいノックの音に驚く。
道雄(声)「落ち着いたら出てきなさい。夕食は家族そろってとるものだから」
  離れていく足音。
ちな「(ぼそっと)なにが家族……」
  ちな、うずくまる。
  携帯に金槻秀(23)からメッセージが届く。
  ちな、携帯を取り出して見る。
秀『アイス当たった!』
  当たりと書かれた棒の写真。
  ちな、ほっとしたように微笑む。
タイトル【金は秀でて青くなる】

〇同・リビング(夜)
  薄暗いリビングにまがまがしい置物や怪しい壺が置いてある。
  場所を取っている祭壇。
  追いやられたような食卓の上にはモヤシとニラの炒め物とご飯。
  部屋着姿のちな、箸を置く。
ちな「ごちそうさま(席を立つ)」
清子「またこんなに残して。これもお恵みなんだから感謝していただきなさい」
ちな「……いらない」
清子「ちな!」
道雄「やめなさい」
  清子、道雄をにらむ。
  一瞬ひるむ道雄、祭壇を見る。
  はっとする清子、態度を改める。
清子「ちゃんと食べないと、体にもよくないでしょ?」
  ちな、無視してリビングから出る。
清子「ちな!」
  清子、飛びつくように祭壇の前へ行き、懺悔の儀式をする。
  道雄、困った顔。

〇同・ちなの部屋(夜)
  ベッドに仰向けで寝ているちな、携帯を見る。
  新しいメッセージは届いていない。
  ちな、うつ伏せに寝がえりを打つ。
  携帯が震える。
  ちな、見る。
秀『仕事終わった』
  起き上がるちな、にこにこしながら文字を打つ。
ちな『おつかれさま!』
  送信するとすぐに着信。
ちな「(出る)秀くん?」
秀(声)「はや(笑う)ちなメシ食った?」
ちな「あ……食べてない!」
秀(声)「なら一緒にメシ食お。家出れる?」
ちな「大丈夫、すぐ行く!」
  電話を切るちな、急いで支度をする。

〇同・廊下から玄関(夜)
  着飾ったちな、そっと部屋を出る。
  リビングから清子の声が漏れてくる。
  顔をしかめるちな、静かに靴を履いて家を出る。

〇公園(夜)
  ベンチと遊具がある小さな公園。
  ベンチに座っているちな、携帯を見つめている。
  金髪でパーカーとチノパン姿の秀、コンビニの袋を持って公園にやってくる。
秀「ちな」
  顔を上げるちな、笑顔になる。
  秀、ちなの隣に座る。
ちな「なにか買って来たの?」
秀「肉まん(ごそごそ)」
  秀、ちなに肉まんを差し出す。
ちな「(受け取る)ありがと」
秀「あとコーラとー、あ、ちなにはオレンジジュースね(渡す)。それとアイス(出す)」
ちな「アイス?」
  完全に溶けた形をしているアイスの袋。
秀「あ?」
  秀、顔をしかめる。
ちな「そりゃそうなるよ」
秀「あの店員……」
ちな「もう一回冷凍すれば? それに、秀くんお腹壊しちゃうよ?」
秀「ちなと一緒がよかった」
  しょぼくれる秀、思い出したように袋をあさる。
秀「(飴を出して)これがあった!」
  ちな、微笑む。
  × × ×
  ブランコに乗っている二人。
  秀、棒付きの飴をくわえて立ちこぎ。
  ちな、飴を手に持って座っている。
秀「明日仕事休みだからどっか行く?」
ちな「明日学校だよ」
秀「あ、そっか。学校行ってるんだった」
  飴をかみ砕く秀、棒を持ってブランコから飛び降りる。
  秀、棒をごみ箱に投げ入れる。
  秀、ちなの前でしゃがむ。
秀「また喧嘩でもした?」
  ちな、首を振る。
ちな「なんか、……また変なのにはまってるだけ。
 どう考えてもおかしいのになんでわかんないんだろ」
秀「それはもうどうしようもないよ。騙される方が悪い」
ちな「騙す方じゃなくて?」
秀「そうだよ? あんねー、騙された人ってみんな自分がかわいそうって顔すっけど、
 気づかないのが悪いからね? そんで騙されやすいってのは死んでも治んない。
 だから、ちなは早く俺のとこおいで?」
ちな「(笑う)なぁにそれ」
秀「マジで言ってるよ? ホントに」
  秀、飴を持っているちなの手を両手で包み込む。
秀「俺んち来る?」
  ちな、悩むが首を振る。
ちな「帰らないといけない家はまだあそこだから」
秀「わかった」
  秀、立ち上がってちなに手を差し出す。
  ちな、秀の手を握って立ち上がる。
  公園を出る二人。

〇マンション・小金井家・ちなの部屋(夜)
  ベッドに寝るちな、溜息を吐く。
  携帯に秀から着信。
ちな「(出る)どうしたの?」
秀(声)「言うの忘れてたんだけど、明日学校終わったらデートしよ」
ちな「いいの? 秀くんお休みの日はいつも寝てるって」
秀(声)「んー、だけど楽しみあった方が学校頑張れるしょ?
 なんかねぇ、ちなの学校の近くに人気のカフェがあるらしいからそこ行こ」
ちな「嬉しい。ありがと、楽しみにしてる」
秀(声)「じゃあ、学校終わったら連絡して。迎えに行くから」
ちな「うん、じゃあまた明日」
秀(声)「おやすみー」
ちな「おやすみ」
  電話を切るちな、一息ついて勉強机に向かう。
  ちな、鞄から進路調査票を出す。
  なにも書き込まれていない進路調査票。
  ちな、悩んだ末、就職希望に丸を付ける。
  ノックの音。
  ちな、進路調査票を隠す。
ちな「なに?」
  道雄、顔を覗かせる。
  ちな、振り返る。
  道雄、コソコソしながら部屋に入ってくる。
  ちな、眉を寄せる。
  道雄、通帳を差し出す。
ちな「え、なに?」
道雄「おじいちゃんとおばあちゃんがちなのために貯めてくれていた」
ちな「……え?」
道雄「死んだら渡してくれって、なかなか言い出せなくてごめんな。
 これを使って大学に行ってもいいし、この家から出る資金にしてもいい。
 どう使おうとちなの自由だから」
  ちな、通帳を受け取って中を見ると百万円貯金されている。
道雄「母さんは知らないから。隠しておきなさい」
ちな「本当にいいの?」
  道雄、頷く。
ちな「……ありがと」
  ちな、大事そうに通帳を抱える。
  満足そうに微笑む道雄、コソコソ部屋を出て行く。

〇高校・職員室(昼)
  教師の村井(30)、簡単な昼食を取りながら仕事をしている。
  職員室に入ってくるちな、村井のところへ。
ちな「先生」
  村井、振り返る。
村井「小金井さん、どうしたの?」
  ちな、進路調査票を差し出す。
  村井、受け取って見る。
  就職から進学希望に変わり、国立大学の名前と学科が記入してある。
村井「考え直してくれたの?」
ちな「(頷く)国立だけですけど、行けたらいいなって思ってます」
村井「うん、大丈夫。小金井さんなら行けるよ。これから頑張ろうね」
ちな「はい」
  ちな、嬉しそうに笑う。

〇公園(夕)
  公園にやってくる秀。
  ちな、滑り台の上で秀に手を振る。
  秀、手を振りながら滑り台へ。
  ちな、滑る勢いで秀に抱き着く。
  秀、抱きとめる。
秀「どうしたぁ、なんかいいことあった?」
ちな「あたし大学行く!」
  秀、ちなを下ろす。
秀「うん?」
ちな「おじいちゃんとおばあちゃんがあたしのためにお金を貯めててくれたの!」
秀「よかったじゃん。なんかやりたいことあんの?」
ちな「秀くんのお仕事、金融って言ってたでしょ?
 その助けになればいいなって思って経済学部に行こうかなって」
  なるほどという顔の秀、ちなを抱き上げてくるくる回る。
  ちな、嬉しそうにはしゃぐ。
  秀、ちなを下ろす。
秀「応援する! あ、でも遠距離はやだな」
ちな「それはあたしも嫌だから近くの大学にしたよ」
秀「いいの? 全部俺基準だけど」
ちな「いいの。あたしの世界の中心は秀くんだから秀くん基準で決めるの」
  秀、優しく笑う。

〇商店街(夕)
  若者でにぎわう商店街。
  手を握って歩く秀とちな。
  ちな、秀の手が絆創膏だらけなのに気付く。
ちな「秀くん手どうしたの?」
秀「え? ああ、今日ちょっと(縫う動作)やったから」
ちな「なんで?」
秀「仕事で」
ちな「金融なのにお裁縫するの?」
  秀、立ち止まってちなと向かい合う。
  ちな、不思議そうに秀を見ている。
  秀、ちなと手を離して左右を指さす。
秀「団子だけだけど焼いてくれるとこと、いろいろあるけど焼いてあるとこどっちがいい?」
  左右を見るちな。
  左には和菓子屋、右には店先で焼いてくれるお店。
ちな「焼いてくれるところ!」
  秀、ちなと手を繋ぎ直す。
秀「行こ」

〇マンション・小金井家・玄関(夕)
  そっと玄関を開けるちな、革靴がないことを確認。
ちな「ただいまー」
  ちな、リビングへ。

〇同・リビングからキッチン(夕)
  キッチンで清子が夕飯の準備をしている。
  リビングに入るちな、キッチンのカウンター越しに。
ちな「なにか手伝う?」
清子「(びっくり)あら珍しい。じゃあ……お箸運んでくれる?」
  清子、三人分の箸をカウンターに置く。
ちな「わかった」
  ちな、箸を食卓に運ぶ。

〇マンション・小金井家・リビング(夜)
  食卓にはこんにゃくのきんぴらとご飯。
清子「─それでね、私言ってみたのよ。
 教団に入会している方に会ってみたいから今度皆さんで集会でも開きませんかって。
 そうしたら杉本さんがびっくりしちゃってね~」
  愛想笑いをしながら話を聞くちな。
  棚の上に石や不細工なぬいぐるみが増えている。
  ちな、ぬいぐるみに気づく。
ちな「ねえ、あれなに?」
  清子、ぬいぐるみを見る。
清子「ああ、あれ? (ちなに)かわいいでしょ。教祖様のお付きの子分ちゃん」
ちな「(ぼそっと)お付きの子分とか意味わかんない……」
清子「神聖なものなんだから触らないでね」
ちな「触る気はないよ」
  ちな、きんぴらに箸を伸ばす。
清子「やっぱ買って正解」
ちな「(止まる)え?」
清子「あっ言っちゃった」
ちな「うちにそんな余裕あったの?」
清子「いやでもね、今買わないと運気も逃げちゃうって言われて─」
ちな「(遮る)そうじゃなくて。そのお金、どうしたの?」
  清子、ばつが悪そうにちなをチラチラ見ながら。
清子「……ちょっと、借りた」
ちな「どこから?」
  清子、顔をそむける。
  はっとするちな、急いで自分の部屋へ。
  道雄、顔を上げる。

〇同・ちなの部屋(夜)
  ちな、引き出しを開けて通帳を探す。
  通帳を開くちな。
  九十八万引き出されて残高が二万円。

〇同・リビング(夜)
  通帳を片手にふらっと戻ってくるちな。
ちな「これ、使ったの?」
  清子、誤魔化す様に笑う。
ちな「なんのためのお金だったか知ってるの?」
清子「さあ? でもそんなにあるなら教祖様のために使った方が─」
ちな「(被せる)大学の学費!
 あたしが困らないようにおじいちゃんとおばあちゃんがくれたお金なの!」
清子「……大学に行かなくても、生きていけるでしょ。
 それに、もう教祖様に差し上げたものだから文句言わないの」
ちな「は……? じゃあ、あたしの進路はどうなるの?
 大学行ってもいいんだって思えたのに……。受験料は? 授業料は? 教科書代は!?
 どこから出るの!?」
清子「わかった! 明日杉本さんに相談するから─」
ちな「(遮る)ふざけないでよ! そんなことしてもなんにもなんないよ!
 うちのお金巻き上げるだけでなんにもしてくれないじゃん!
 こんなのに貢いでなにか返ってきたことある!? ないよ! 一回もない!」
清子「アンタ教祖様になんてこと言うの!」
ちな「あたしの人生めちゃくちゃにする奴なんか神でもなんでもない!」
  ちな、通帳を床に叩きつけて飛び出す。

〇マンション前・歩道(夜)
  マンションから出てくるちな、涙をぬぐいながら歩く。
  ちな、携帯を取り出して秀に電話。
  コール音。

〇公園(夜)
  走ってくる秀。
  ちな、俯いてベンチに座っている。
秀「ちな」
  ちな、顔を上げる。
秀「どうした」
  ちな、泣き出す。
  × × ×
  秀、ちなの肩を抱いている。
秀「ちなにとって大学ってそんなに大事?」
ちな「……」
秀「あ、悪く取んないでよ? 俺が勉強嫌いだったからちょっとわかんないだけ。
 高校も途中でやめたし。でもこうやって好きな仕事できてるしちなもいて、
 こんな俺でも結構幸せだからさ」
  秀、ちなの手を握る。
  ちなの顔は晴れない。
秀「……どうしても大学行きたいなら俺がなんとかしようか?」
  驚くちな、首を振る。
ちな「秀くんがなにかする必要はないよ」
秀「昼間、大学行くって言ってたちながすごく嬉しそうだったから、
 俺はそれを応援したい。ちなの幸せが俺の幸せだからね」
ちな「いくらかかるか知らないのに」
秀「難しいことはわかんねーからスギさんに聞いてみるよ。なんとかしてくれるっしょ」
  秀、ちなの頭を撫でる。
  ちな、涙をこぼす。
  秀、ちなの涙を優しく拭う。
秀「帰れそう?」
  ちな、首を振る。
秀「無理かあ……。そうだよな、帰りたくないよな」
  ちな、頷く。
秀「どーしよっかね」
ちな「……秀くんのお家行ってもいい?」
  秀、驚く。
秀「い、いいよ、いいよ!」

〇アパート・外観(夜)
  古いアパートの階段を上る二人。

〇同・秀の部屋(夜)
  秀、玄関を開けて電気を点ける。
  整理整頓されず、ごみが散らかっている1K。
秀「散らかっててごめん。掃除しとけばよかった」
  秀、足でごみをどかして道を作るように歩いていく。
  ちな、部屋に入る。
  秀、台所の戸棚を開ける。
秀「なんか買って来ればよかった。(カップ麺を出して)こんなのしかないけどいい?」
ちな「うん!」
  × × ×
  カップ麺を食べる秀。
  ちな、熱くてうまく食べられない。
  秀、笑う。
  × × ×
  秀、テレビを見ている。
  風呂場から髪が濡れたまま出てくるちな。
  秀、ちなに手招き。
  ちな、秀と向かい合うように座る。
  秀、ちなを百八十度回転させる。
  秀、ドライヤーを発掘してちなの髪を乾かす。
  テレビを見ているちな、秀を見上げる。
  秀、微笑む。
  ちな、微笑み返す。
  × × ×
  一つの布団に入っている二人。
  ちな、秀を見る。
  気づく秀、腕枕をする。
  ちな、嬉しそうに笑って秀に抱き着く。

〇アパート・秀の部屋(朝)
  ちな、目を覚ます。
  体を起こすちな、隣に居ない秀を探す。
  秀、コンビニの袋を片手に部屋に戻ってくる。
秀「(気づく)おはよ」
ちな「おはよ」
  秀、ちなの横に座る。
秀「朝と昼買って来たから好きなの食って」
  秀、袋からおにぎり、サンドイッチ、ゼリー、ケーキ、お菓子などを出す。
ちな「ご飯……?」
秀「ちなが好きそうなもの買ったらこうなった」
ちな「秀くんらしい」
  秀、にっこり笑う。
秀「俺これから仕事だけど、ちなは? 学校どうする?」
ちな「学校は……行く」
秀「じゃあ鍵渡しとく。ついでに荷物も持ってきていいし、
 なにか欲しいもんあったらこれで買って」
  秀、合鍵と一万円札をちなに渡す。
ちな「こんなに?」
秀「細かいの持ってないんだ」
ちな「……ありがと」
  秀、ちなの頭を撫でて玄関へ。
  ちな、ついていく。
  秀、靴を履く。
ちな「いってらっしゃい」
  嬉しそうにニヤつく秀、ちなを抱きしめる。
秀「いってきます」
  秀、手を振って部屋を出る。
  ちな、手を振って見送る。

〇雑居ビル・外観(朝)
  人が少ない裏通り。
  年季が入ったビルに入っていく秀。

〇同・事務所(朝)
  事務所の戸を開ける秀。
秀「おはようございまーす」
  小規模の事務所。
  窓際にはテレビと大きいソファー。
  向かい合うように置かれた事務机と椅子。
  傍にホワイトボード。
  パソコンで作業している長谷川(28)と電話をかけている平野(29)、秀を見る。
長谷川「はよー」
  平野、秀に向かって手を上げる。
平野「(電話に)あ、着きました? じゃあ先ほどお伝えした通りに。はい、そうです。
 その番号を─」
  秀、長谷川の向かいの席に座る。
秀「(小声)うまくいってそうですね」
長谷川「(作業しながら)珍しくなー」
  秀、事務所を見回す。
秀「スギさんは? まだですか?」
長谷川「あー……あれだ。(手を合わせる)これ」
秀「(真似)ああ、最近調子いいですよね」
長谷川「スギが適当にそれっぽいこと喋ってるだけで金落としてくるからな」
秀「俺らがそこらへんのごみで作ったよくわかんないやつを買ったって聞いた時は
 びっくりしました」
平野「(電話を切る)よっしゃあ終わり! ようこそ五十万!」
長谷川「おつー」
秀「お疲れさまです」
平野「あー疲れた。耳遠いばあさんが相手だとマジきっつい」
長谷川「オッケー五十入ってる」
平野「秀よろー」
秀「はい」
  秀、ホワイトボードに向かう。
  ボードに縦軸が金額、横軸に名前が書かれた表が作られている。
  秀、平野の上に五十万分付け足す。
  杉本、長谷川、平野、金槻の順に金額が多い。
平野「秀ももっと頑張れよー」
秀「俺もいつか大金稼いでみたいっす」
平野「じゃあ釣りだけでもするか?」
長谷川「おい、勝手にやんなって」
平野「いいじゃん別に」
  平野、椅子に座ったまま秀の机に移動。
  秀、席に戻る。
  平野、秀のパソコンで出会い系サイトを開く。
平野「ここでカモ捕まえて俺に回す。オッケー? 
 とりあえず最初は片っ端からメッセ送って、返事来た中でよさそうな奴だけでいいから」
秀「よさそうってどんな感じすか?」
平野「そりゃ、恋愛してこなくていい感じにこじらせてる女だよ。
 ついでに金持ってたらラッキー大当たり」
秀「はあ……(よくわかってない)」
平野「いいか秀。恋愛感情ってのは持っててもメシも食えねえし金にもなんねえごみだけど、
 うまく使えば麻薬にもなるんだよ」
秀「ほう……」
平野「そこで俺らは夢を売る。その結果、
 好きだなんだ言って勘違いした奴が勝手に金を差し出してくる」
秀「あーなるほど。それっぽく騙せばいいんすね」
平野「違う違う。お前はなんもわかってねえな。あっちが勝手にやった事、
 それだけ。わかる? 俺らは関係ねーの。
 だから喜ぼうが悲しもうがどうぞご勝手になんだよ」
長谷川「因果応報、身から出た錆」
平野「そうそれ、その錆を俺らがきれいな金に換えて経済回してるってワケ」
秀「あの」
平野「なんだよ」
秀「耳から出たわさび? ってなんすか」
  平野、笑う。
平野「おま、ちが(苦しい)錆だよ、錆。身から出た錆」
長谷川「(笑いをこらえながら)自分でやったことで自分が苦しむって意味のことわざ」
秀「へーアザッス!」

〇同(昼)
  袋を下げた秀、事務所に入る。
  秀、長谷川に弁当を渡す。
秀「お待たせしました」
長谷川「ありがと」
  秀、平野にカップ焼きそばを渡す。
平野「お湯沸いてる?」
秀「(見る)あーはい」
  秀、席に座ってパンを出す。
  平野、カップ焼きそばにお湯を入れてテレビをつける。
  平野、秀のパソコンを覗く。
平野「どうよ」
秀「んー……女心って難しいっすね」
平野「いや、出来てんじゃん」
秀「え? これでいいんすか?」
平野「才能あるぞお前」
  平野、秀を撫で繰り回して席に戻る。
  秀、ふとテレビを見る。
  ゼクシィのCMが流れている。
  秀、目が離せない。

〇スーパー・店内(夕)
  買い物かごを下げて歩くちな、ジャガイモをかごに入れる。

〇アパート・秀の部屋(夕)
  ちな、台所の戸棚を開ける。
  カップ麺のみで調理道具がない。
  ちなの足元に食材が入った買い物袋。
  × × ×
  電子レンジを開けるちな、パックのご飯を出す。
  紙皿にご飯を盛ってレトルトカレーをかける。
  玄関を開ける秀、本屋の袋を持っている。
  気づくちな、駆け寄る。
ちな「おかえり」
秀「ただいま」
  秀、ちなを抱きしめる。
ちな「秀くん本屋行ったの?」
秀「(隠す)なんでもないよ。気にしないで」
ちな「えー? なにそれ」
秀「(彼方を指さして)あっ」
  見るちな、なにもない。
  秀、袋を隠す。
ちな「(気づいて)秀くん!」
秀「騙される方が悪いんだって」
  むくれるちな。
  × × ×
  ちな、カレーをテーブルに置く。
  食べる二人、テレビを見て笑う。

〇マンション・小金井家・リビング(夜)
  食卓の上にキノコ炒めとご飯。
  道雄、清子をちらっと見る。
  清子、いつもと変わらない。
  ちなの席には食器すら用意されていない。
  道雄、苦い顔でキノコ炒めを飲み込む。

〇アパート・風呂場(夜)
  ちな、シャボン玉を飛ばす。
  秀、指先でシャボン玉を消す。
  ちな、秀に向かってシャボン玉を吹く。
  秀、水鉄砲でちなに水を飛ばす。
  ちな、手で反撃。

〇同・秀の部屋(夜)
  布団に寝ている二人。
  秀、ちなにキス。
  照れるちな、嬉しそうに笑う。
秀「ちなぁ」
ちな「ん?」
秀「結婚しようか」
ちな「……。……えっ?」
  秀、布団から出て本屋の袋の中からゼクシィを出す。
  ちな、びっくりしている。
秀「ちなが高校卒業したらでいいからさ」
ちな「……なん? え? どうして?」
秀「ちなとずっと一緒に居たいから」
ちな「……」
秀「いやね、俺の家にちなが居るのってすげぇいいなあって思って。
 朝も夜もちなが居て一緒にメシ食って風呂入って、
 こうやって並んで寝るってめちゃくちゃ幸せでさ」
ちな「うん……」
秀「ちなは? 楽しくない?」
ちな「楽しいよ?」
秀「じゃあ、これがずっと続けばいいなって思わない?」
ちな「(考える)思う」
  秀、微笑む。
秀「俺はね、ちなが安心して帰れる家を作りたいんだよね。
 ここは狭いからもうちょっと広い部屋に引っ越して、
 ちなが落ち着いたら子供でも作って毎日楽しく過ごそうよ。
 歳取ってもこうやってずっと仲良くして、
 しわしわのじーちゃんばーちゃんになっても手繋いで寝んの」
  秀、ちなと手を繋ぐ。
秀「俺とここから家族作ってこうよ」
  頷くちな、秀に抱き着く。
  秀、抱きしめる。
ちな「(笑う)だからってこんな分厚いの買ってこなくても」
  秀、ゼクシィ首都圏版を見る。
秀「値段一緒だからこっちの方が得かなって思ったんだよ。
 それにほら、(出す)鍋敷きついてるし」
ちな「お鍋ないのに?」
秀「わかったよ、明日買いに行こうよ」

〇アパート・秀の部屋(朝)
  玄関で靴を履くちな。
ちな「忘れ物ない?」
  秀、ポケットに手を入れる。
秀「ないない~財布と携帯だけで……あれ? (気づく)あ……!」

〇雑居ビル・事務所前(朝)
秀「マジごめん」
ちな「昨日どうやって本買ったの」
秀「携帯で」
  秀、事務所の戸を引くが鍵がかかっている。
秀「そりゃそうか」
  秀、鍵を探す。
  戸が開いて杉本が顔を覗かせる。
杉本「なにしてんの」
秀「(驚く)スギさんこそ」
  スウェット姿で髪がぼさぼさの杉本。
杉本「あっ秀お前、財布とここの鍵置いて行ったろ」
秀「えっ鍵もっすか? すいません」
杉本「財布はいいけど、鍵置いてくのはやめろよ」
秀「いや、どっちもやばいっすよ」
  秀、事務所の中へ。
  杉本、ちなを見る。
杉本「かわいいね、何歳?」
ちな「え、えっと」
  杉本、ちなに微笑む。
  秀、戻ってくる。
秀「やめてくださいよー。俺らこれからデートなんで邪魔しないでください」
杉本「なんも邪魔してねーだろ(小突く)」
秀「すんませーん」
杉本「まあいいや。もう来んなよ」
秀「あざーっす」
  杉本、戸を閉める。
秀「お待たせ」

〇同・外観(朝)
  ビルから出てくる二人。
秀「どこ行こうか。まずメシ食おうか」
  秀、振り返る。
秀「ちな?」
ちな「さっきの人……」
秀「ああ、前に言ったスギさん。今日はあれだったけどスーツ着るとかっこいいんだよ。
 仕事もすっげぇ出来るし」
  ちな、考え込む。
秀「……俺よりスギさんのこと気になってんの?」
ちな「あ、違う違う。なんかどこかで見たような気がしただけ」
秀「まさかぁ。あの格好むしろレアだよ」
ちな「まあいいか。ごめんね、行こ」
  二人、歩き出す。

〇ショッピングモール・雑貨屋(昼)
  鍋や皿を見る二人、吟味してかごに入れていく。
  かごの中におそろいのマグカップやお箸などが増えていく。

〇同・家具店(昼)
  ちな、クマの抱き枕を抱いている。
  秀、ネコの抱き枕を小脇に抱えている。
  じゃんけんする二人、ちなの勝ち。

〇同・回転寿司(昼)
  込み合う店内。
  ちな、流れる寿司を見ている。
  アトラクションを見ているようなちなを笑う秀。

〇アパート・秀の部屋(夜)
  ちな、抱き枕を抱いて寝ている。
  秀、ちなを抱いて寝ている。
  枕が二つに増えてその横に小さなネコのぬいぐるみ。

〇雑居ビル・事務所(朝)
秀「(扉を開ける)おはようございまーす」
  テレビを見ていた杉本、顔を上げる。
杉本「秀(手招き)」
秀「あ、はい」
  秀、ソファーへ。
秀「なんでしょう」
杉本「お前さあ、広島行く気ある?」
秀「え? な、なんでですか?」
杉本「俺の友達が広島に居て、釣りが上手いやつ探してんだわ。どう、興味ある?」
秀「(悩む)興味は、あります……、けど」
杉本「彼女?」
秀「……です」
杉本「まあ、急ぎじゃねーから。無理だったら俺も居ないって言うし。
 お前がどうしたいかだけ考えといて」
秀「はい、ありがとうございます」
  秀、席に座って考える。

〇ジュエリーショップ・外(昼)
  コンビニの袋を持った秀、ショーウィンドウに飾られている指輪を見ている。
  秀、値段を見て顔をしかめる。

〇アパート・秀の部屋(夕)
  ちな、炒飯を机に置く。
秀「俺が広島に行くかもって言ったらどうする?」
ちな「えっ?」
秀「絶対じゃないんだけど、そっちで人が欲しいみたいで。
 俺にどうだって今日、聞かれて、でもちなが─」
ちな「秀くんさえよければ一緒に行くよ?」
秀「えっ、いいの? 大学とか色々考えてたっしょ?」
ちな「もう行けないもん。それよりあたしは秀くんといたい」
秀「ちなぁ好き今すぐ結婚しよ」
ちな「今からご飯! 食べるの!」
秀「へーい、いただきます」
  食べる秀、美味しくない。
秀「ちなぁこれ、塩と砂糖……」
ちな「えっあ、嘘!? ごめん!」
  慌てるちな、ティッシュを秀に渡す。
  秀、根性で食べようとする。

〇高校・廊下(朝)
  掲示板に中間テストの点数と順位が張り出され、その前に集まっている生徒たち。
  ちな、掲示板を横目で見る。
  三位に小金井ちなの名前。
  表情が変わらないちな、過ぎ去る。

〇同・教室(朝)
  ちな、席に鞄を置く。
  廊下を駆けてくる村井、ちなを見つける。
村井「小金井さん、ちょっと(手招き)」
  ちな、村井のところへ。
村井「お父さんが倒れたって、今連絡があって」

〇病院・廊下(昼)
  速足で歩くちな、小金井道雄のプレートを見つけて立ち止まる。

〇同・病室(昼)
  ちな、戸を開ける。
  明るい大部屋の病室。
  ベッドに居る道雄、ちなに気づく。
道雄「ちな」
  ちな、ベッドのそばへ。
道雄「そんな顔するな、怪我なんかしてないから。
 過労気味で今日一日検査入院するだけでなんともない」
ちな「過労気味って、なんで?」
道雄「……ちょっと、な。(明るく)父さん騙されちゃったんだよ。
 うちに来てる杉本さんって居るだろ? その人に投資の話を持ち掛けられて、つい……。
 それがこけたから巻き返そうと、仕事を増やして……」
ちな「なにそれ、あんな宗教勧めてくるんだから全部怪しいに決まってるじゃん。
 どうしてそんなのに頼ったの? あたしが居ない分生活費浮くでしょ?」
道雄「ちな、大学行きたいだろ?」
ちな「……!」
道雄「せめてちなだけでもまともな人生を送って欲しいんだ。
 今度は誰にもバレないように資金作るから」
ちな「無理だよ。もう、遅いよ……」
道雄「そんなことない」
ちな「願書の締め切り過ぎてる」
道雄「……。そうか、ごめんな。父さんが騙されてなければ……」
  ちな、秀の「騙される方が悪い」という言葉を思い出す。
ちな「……お父さんは悪くない。絶対、悪くない」

〇マンション・小金井家・玄関(夕)
  ちな、なにも言わず家に上がる。

〇同・夫婦寝室(夕)
  部屋に入るちな、クローゼットを開けてボストンバッグを出し、道雄の服を詰める。
  バッグを閉めるちな、寝室から出ようとすると廊下から話し声。
  ちな、覗く。

〇同・廊下から玄関(夕)
清子「今日は来ていただいて本当にありがとうございました」
杉本「道雄さんが入院と聞いて、居ても立っても居られませんでしたから」
清子「教団の一員とも言えないあの人のために……すみません」
杉本「いえいえ(微笑む)」
  × × ×
  フラッシュバック。
  事務所の戸を開けるぼさぼさの杉本。
  杉本、ちなに微笑む。
  × × ×

〇同・夫婦寝室(夕)
  はっと気づくちな、扉を閉める。

〇同・玄関(夕)
  清子、頭を下げている。
  玄関が閉まる。
  清子、頭を上げてリビングへ。

〇同・リビング(夕)
  清子、祭壇の前に正座する。
  ちな、怒りに任せてリビングの扉を開ける。
  清子、驚く。
清子「ちな!?」
  ちな、祭壇を床に叩き落とす。
清子「ちょっと! なにしてんの!」
  清子、止めようとする。
  ちな、清子を突き飛ばす。
ちな「いい加減にしてよ! なんで病院に行かないの!? 
 こんなのに縋ったってなんにもなんないよ!」
清子「教祖様になんてこと言うの!」
ちな「教祖? 頭錆びついてんじゃないの?これのどこが教祖なの!(壊す)
 意味わかんないインチキ詐欺集団のくせに!」
  清子、ちなをビンタ。
  ちな、ビンタし返す。
ちな「いつになったら気づくの! 騙されてんだよ! 誰がどう見たってごみじゃん!」
  ちな、清子が集めた教団グッズを片っ端から床に落として壊す。
ちな「これもこれもごみ! ごみごみごみ! 全部ごみ!」
  ボロボロになった教団グッズ。
  清子、必死にかき集める。
ちな「ごみに囲まれて幸せならアンタ一人でごみ捨て場に住めば!?」
  ちな、リビングを出て行く。
  一人残される清子。

〇アパート・外観(夜)
  上機嫌の秀、階段を上がる。

〇同・秀の部屋(夜)
秀「(玄関を開ける)ただいまー」
  暗い部屋。
秀「ちなー?」
  秀、部屋に上がって電気を点ける。
  部屋のどこにもちなが居ない。
  買った抱き枕やぬいぐるみはそのままになっている。

〇雑居ビル・事務所(朝)
  落ち込んでいる秀、パソコンで作業している。
  秀、パソコンの画面を見ながら。
秀「平野さん、新しく釣れた二人回します」
平野「おー」
  秀、画面の横から顔を覗かせる。
秀「長谷川さん、そろそろ新しい写真欲しいです。
 このアイコンじゃ釣れなくなってきちゃって」
長谷川「ああ、じゃあ新しいの送るわ」
秀「あざっす」
  秀、顔をひっこめる。
  平野、椅子に乗ったまま長谷川の元へ。
平野「(小声)どうした?」
長谷川「彼女が居なくなったんだって」
平野「あー……」
  戸が勢いよく開いてスーツ姿の杉本が大物俳優のように事務所に入ってくる。
杉本「はいちゅうもーく」
  三人、杉本を見る。
杉本「えー。今日はなんの日かな平野くん」
平野「えっなにキモ」
長谷川「おい(肘で小突く)」
杉本「では長谷川くん」
長谷川「え? あー……給料日?」
杉本「正解! ここ最近、俺以外渋い日が続きましたが、
 ついになんと今日、合計三百入りました!」
平野「えー!? 万? 万!? すげえ!」
  はしゃぐ平野。
杉本「それもすべてこつこつカモちゃんたちを集めてくれた金槻秀くんのおかげです。
 ハイ拍手」
秀「えっ」
  平野と杉本、拍手。
  長谷川、合わせて拍手。
  杉本、秀の肩に手を置いて封筒を差し出す。
杉本「ボーナス、追加しといたから」
秀「あ、ありがとうございます!」
杉本「この調子で頑張れよ~」
秀「はい! めちゃくちゃ頑張ります!」
杉本「よーし、なに食いたい? なんでも好きなもん食わせてやる」
秀「まじっすか! えっとじゃあ……ラーメンと餃子がいいです!」
杉本「安いな~良い良い、出前でも取れ!」
  杉本、秀に三万渡してテレビの前のソファーへ。
  長谷川、杉本を追う。
  杉本、ソファーに座る。
長谷川「ちょっとやりすぎだろ」
杉本「なんだよ。心配すんなって、お前にもボーナスあっから」
長谷川「そうじゃなくって、額がでかすぎるだろ。足がつくぞ」
杉本「それくらい対策してるって」
長谷川「いやだから─」
杉本「長谷川」
  杉本、長谷川を睨むように見る。
杉本「お前俺を甘く見過ぎ」
  杉本、テレビをつける。
  長谷川、溜息を吐いて席に戻る。
秀「スギさん! 平野さんがフカヒレ食べたいそうです!」
杉本「しかたねぇなー、今日だけだぞー」
平野「ヒャッホウ!」
秀「フカヒレってなんすか?」
平野「サメのここだよ(手を動かす)」
秀「へー! サメって食えるんすね! 人間の反逆じゃないっすか!」
平野「(笑う)お前ばかだな~」
  はしゃいでる平野と秀。
  長谷川、席に座って静かに考え込んでいる。

〇警察署・事情聴取室(夕)
  机といすが置かれた明るい部屋。
  椅子に座っているちな、目が赤い。
  女性警察官(30代)、メモを止めてペンを置く。
女性警察官「事務所の場所はまたあとで地図持ってくるね。それで人数はわかる?
 リーダーの名前とか」
ちな「……人数は正確かどうか……」
女性警察官「わかる範囲でいいよ」
ちな「杉本って人がリーダーです。名前はわかりません。
 30代ぐらいの背の高い男の人です。あと……」
  × × ×
  フラッシュバック。
  秀との思い出。
  公園で手を差し出す秀。
  ネコの抱き枕を小脇に抱えている秀。
  ゼクシィ首都圏版を持っている秀。
  × × ×
  涙がこぼれるちな。
  女性警察官、ティッシュを差し出す。
  ちな、ティッシュで涙を拭く。
女性警察官「無理しなくていいからね」
  頷くちな、涙が止まらない。

〇居酒屋・個室(夜)
  秀、机に突っ伏している。
  平野と杉本、床で寝ている。
  呆れた顔の長谷川、ビールが入ったジョッキを下ろす。
長谷川「俺一人で三人介護は無理だぞー」
  秀、顔を起こす。
秀「俺ぇなんかしたんすかねー」
長谷川「なんだよ急に、びっくりすんな」
秀「まだ連絡来ないんすよぉ」
長谷川「知らねーよ。なんかあったんじゃねーの?」
秀「なぁんもないっすよ。……変わった事と言えばこの前スギさんに会ったくらいですけど、
 別に問題ないし。心変わりとかないと思うし」
長谷川「なんで杉本に?」
秀「俺が財布を事務所に忘れちゃって。ついでに鍵も置いてってたみたいなんすけど、
 スギさんが事務所で寝てて」
長谷川「へー、ツイてたな」
秀「マジラッキー大当たりです」
  秀の携帯にちなから着信。
  秀、画面を見て飛び起きる。
秀「(出る)もしもし!」
  長谷川、よかったなという顔でビールを飲む。
秀「大丈夫大丈夫。うん、明日? 空いてる全然いける。え? 駅? なんで?
 まあいいけど、迎え……うん、わかった。じゃあ明日、楽しみにしてる」
  電話を切る秀、嬉しそうな顔。
長谷川「よかったな」
秀「はぁ~ホントよかったっす。俺もう、ちなが居ないと生きてけないんで」
長谷川「……ちな?」
秀「はい、かわいい名前っすよね。顔もかわいいんすよー」
長谷川「苗字は?」
秀「え? なんだっけなあ。俺と同じ金がついて、小さい井戸? あれ?
 小さい金の井戸?」
長谷川「明日、なんて?」
秀「デートの約束しました。珍しく待ち合わせがしたいとかかわいいですよね」
  気づく長谷川、帰り支度をする。
秀「どうしたんすか?」
長谷川「悪いな、下りるわ」
秀「えっどういうことっすか」
  長谷川、財布から一万円を出して机の上に置く。
長谷川「抜けるってことだよ」
  長谷川、個室から出る。
秀「えーっこの二人置いていかないでくださいよー!」
  秀、潰れた二人を見て溜息を吐く。

〇警察署・事情聴取室(夜)
  ちな、携帯を机に置く。
女性警察官「どう?」
ちな「(頷く)明日駅に来ます」
女性警察官「ありがとう。嫌な事させてごめんね。でも、あなたのおかげでやっと逮捕できる。
 それと、明日は遠くから見る形で会わないようにもできるけど、どうする?」
  ちな、悩む。
  × × ×
  フラッシュバック。
  病室にいる入院着の道雄。
  × × ×
  首を振るちな、顔を上げる。
ちな「最後までちゃんとやらせてください」

〇駅・銅像前(朝)
  気合が入った服装の秀、そわそわしている。
  周りにスーツを着た人が多い。
  秀、歩いて来るちなを見つける。
秀「ちな!」
  秀、手を振る。
  ちな、振り返さない。
秀「ちな……?」
  秀の前に立つちな、目を合わせない。
  秀、ちなの手を握る。
秀「どこ行く? 俺、色々調べて来たよ。美味しい団子屋とか」
  ちな、秀の手を離す。
秀「ちな?」
ちな「あたし、秀くんと家族になれない」
秀「ん? どういうこと?」
  スーツ姿の刑事に囲まれる秀とちな。
  一人の刑事が秀に近づく。
秀「え、なに?」
  刑事、逮捕状を取り出す。
刑事「金槻秀、詐欺容疑で逮捕する」
秀「は? 意味わかんねぇんだけど」
  刑事、秀を取り押さえる。
  秀、抵抗する。
秀「ちなこれどういうことだよ」
  秀、ちなを見る。
  ちな、静かに秀を見ている。
  秀、気づく。
秀「知ってたな……? 待ち合わせしたいって言ったのはこのためか?
 なあ……ちなぁ! 俺を騙したのか!?」
ちな「騙される方が悪いんでしょ」
  秀、驚いてなにも言えない。
  秀の手首に手錠がかかる。
  呆然とちなを見ている秀、パトカーに乗せられる。
  刑事が乗り込み、パトカーが発進する。
  糸が切れたように脱力するちな。
  野次馬をかき分けてくる道雄、ちなを見つける。
道雄「ちな……。ちな!」
  ちな、振り返る。
ちな「お父さん……?」
  道雄、ちなのそばに駆け寄る。
道雄「大丈夫か、ちな」
ちな「なんでこんなところにいるの? 病院は?」
道雄「退院した。騒いでるしちなの名前が聞こえたから……。なにがあった?」
  ちな、遠い目。
ちな「あの人の神様を殺しただけだよ」
  じわじわ涙があふれてくるちな。
ちな「あたしの大事な人もいなくなっちゃった……」
  道雄、ちなを抱きしめる。

〇雑居ビル・事務所(朝)
  段ボールを抱えた刑事が乗り込む。
  スウェット姿の杉本と平野、抵抗するが刑事に押さえられる。

〇駅・構内・待合室(朝)
サングラスをした長谷川、ベンチに座っている。
長谷川、席を立つと二人組の刑事に肩を叩かれる。

〇パトカー・車内(朝)
  赤信号で止まる。
  秀、ぼんやり外を眺めている。
  横断歩道を渡るカップル。
  フロントガラスに楽しそうに手を繋いで歩く秀とちなの面影が映る。
秀「マジで好きだったのになんで……」
刑事「(ぼそっと)因果応報」
秀「……身から出た錆ってか」
  秀、むなしく笑う。

終わり

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。