朗読台本『10の扉』 ファンタジー

男Aと女Aが、真っ暗な部屋に閉じこめられた。 二人とも記憶を失っていて、自分が誰かも、ここがどこかも分からない。 壁に刻まれた【10の扉が開くまでは、決して泣いてはいけない】の文字。 男Aと女Aは命がけで、10の扉を開いていく…。
唐下 浩 52 1 0 07/13
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第一稿

朗読台本『10の扉』    作:唐下 浩

男Aと女Aが、月あかりひとつない真っ暗な部屋に閉じこめられた。
二人とも記憶を失っていて、自分が誰かも、ここがどこかも分からなかっ ...続きを読む
「朗読台本『10の扉』」(PDFファイル:165.87 KB)
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朗読台本『10の扉』    作:唐下 浩

男Aと女Aが、月あかりひとつない真っ暗な部屋に閉じこめられた。
二人とも記憶を失っていて、自分が誰かも、ここがどこかも分からなかった。
「誰か…誰かいませんか!?」
男Aが壁をたたいて叫んでも、返事はない。
暗闇のなか立ちつくす男Aの顔が、みるみる青ざめていく。
すると、すぐそばにいるのであろう女Aの呼吸が、かすかに聞こえてきた。
女Aはうずくまったまま、恐怖で肩をふるわせている。
「何だよ、この気味の悪い部屋は。それに、目の前にいる女は何者だ。
俺の知り合いなのか…。くそっ、何も思いだせない。俺は一体…誰なんだ?」
いらだちを隠せない男Aは、女Aにつめよった。
「お前もここから、脱出する方法を考えろよ!」
顔をあげる女Aの目に、うっすらと涙がうかぼうとした、その時!
ひとつの光と、光がてらした先の壁に、
【10の扉が開くまでは、決して泣いてはいけない】
という文字がうかびあがった。
「『10の扉が開くまでは、決して泣いてはいけない』…何のことだ?」
「あれ…」
女Aが男Aの後ろを指さした。
そこには数字の『1』と刻まれた扉があった。
男Aは不安にかられ、ごくりと生唾を飲みこんだ。
これは何かの罠かもしれないし、
とんでもない陰謀に巻きこまれたのかもしれない。
それでも、こんな所で、知らない奴と二人で、野たれ死になんてごめんだ!
「(深呼吸)行くぞ…」
「うん…」
男Aと女Aは意を決して『1』の扉を開き、足を踏みいれた。
だが二人は、まだ知らなかった。
この扉の先々に待ちかまえている、試練の数々を…。

扉の先も、暗闇だった。
不安と緊張で落ちつかない男Aは、後ろを歩く女Aに何度も声をかけてみるが、
女Aは男A以上に恐怖心をいだき、声もでない様子だ。
「可愛げのない女だけど、男の俺がコイツを守らないとな」
男Aは使命感にかられ背筋をのばした。
その時、後ろを歩く女Aの悲鳴が響きわたった。
女Aの足元に、ブラックホールのような大きな穴が開いたのだ。
とっさに床にしがみついた女Aだが、下半身は穴の中だ。
「なんだよ、この部屋は!?」
男Aは両膝を床につけ、女Aに手をのばした。
「つかまれ!!」
男Aが女Aの体を床に引きあげ、事なきを得たが、男Aは動揺をかくせない。
これは素人参加型のドッキリ番組か。
アミューズメントパークの脱出ゲームか。
いや、それにしては手がこみすぎている。しかも命がけだ。
まさか悪趣味な金もちが集まって、俺たちの生死を賭けたギャンブルをしてるとか? 
だとしたら…。
男Aは暗闇に隠されたカメラを探した。
「おい、どこかで見てるんだろう!? こんなことして、タダで済むとは思うなよ!
お前ら全員警察につきだしてやるからな!」
男Aが力のかぎりわめいても、部屋の中は静まりかえっていた。男Aは拳を握りしめる。
これがゲームっていうなら、必ず生きてここから出てやるからな。
決意を固めた男Aの服のそでを、女Aがひっぱり、
それから見えない天井を指さした。
「ゴゴゴゴゴゴゴ…」という轟音が上から聞こえ、ドスンッ!と、
自分の背丈よりも大きくて丸い岩が落ちてきた。男Aと女Aは、間一髪でそれをよけるが、
なんと岩は、二人を目がけて転がってきたのだ。
「走れ!」
男Aと女Aは、走った!
「出口はどこだ!?」
女Aが前方を指さした。
数字の『2』と刻まれた扉を見つけたのだ。
男Aが『2』の扉を開き、二人は次なる部屋に逃げ込み、バタンッ!と、
扉を閉めた。

「ふぅ…これでひと安心だ」
男Aが安堵の顔を見せたのもつかの間、岩は扉をぶち破り、
男Aと女Aを目がけて転がってきたのだ
「こんなのルール違反じゃないのかよ!?」
男Aと女Aは、無我夢中で走った!
だが二人に、さらなる試練が襲いかかる。
岩だけでなく、壁から弓矢が飛んできたり、床下から針が突きだしたり。
男Aは目を白黒させて叫んだ。
「不思議なダンジョンかよ、ここは!?」
男Aと女Aは様々なトラップを回避しつつ、先へ進んだ。
ようやく静かな所にたどり着き、『3』の扉を見つけたところで、
女Aが重たい口を開いた。
「私たち、生きてここから出られますよね…?」
全身汗だくの男Aは、不安を隠して気丈にふるまうしかなかった。
「当たり前だ! 必ず、必ず生きて帰るぞ」
男Aと女Aは、『3』の扉を開いた。
その後も次々と扉を開いていった。だが…。

『3』の扉を開くと、暴風雨が男Aと女Aを襲った。
2人は何度も飛ばされそうになった。

『4』の扉を開くと、部屋の中にプールがあった。
水中にもぐって次の扉を目指した。

『5』の扉を開くと、耳障りな機械音が響いていた。
男Aと女Aは、たまらず耳を両手でおさえた。
「何だよ、このわずらわしい騒音は!?」
男Aの目から焦点が消え、無意味な呟きをくりかえす...。
なんだよ、なんだよここ、、、おれは、誰なんだよ、、、
男Aの精神は崩壊寸前だ。そんな男Aの肩に、心配した女Aが優しく手をのばすと、
ハッと、男Aは何かに気づいた。
「レン…」
「レン...?」
女Aが不思議そうに首をかしげた。
「思い出したんだよ。俺の名前は、レンだ!」
「私の名前は…ヒマリ…」
男Aと女Aの目に、希望の光がともった。
どこからともなく、軽快なクラシックが聞こえてきた。
男Aと女Aはピアノのメロディに合わせてステップを踏んだ。
暗闇に閉じこめられてからの初めての、高揚感だった。
男Aは(レン)と名のり、女Aは(ヒマリ)と名のった。
だけど、それ以外のことは、どうしても思い出せなかった。
チクタクチクタクと、どこからか時計の針が刻む音が聞こえ、
それから、見知らぬ男女の話し声が聞こえてきた。
「誰かいるのか…?」
レンとヒマリは、声がする方へと進んだ…。

『6』の扉を開くと、まばゆい光がレンとヒマリを襲った。

『7』の扉を開くと、テーブルの上に山積みのリンゴがあった。
レンとヒマリのお腹が鳴り、口からヨダレがたれた。2人は我慢できずにリンゴにかじりつく。
何個もリンゴを食べたとき、突然、ヒマリが顔を真っ青にして倒れた。
リンゴの中に、毒リンゴがまじっていたのだ。
レンはヒマリの口に、手をつっこんだ。
「死ぬな! 生きてここから出るんだろう!?」
レンはヒマリを助けるために必死だ。
いつの間にか、レンはヒマリのことを好きになっていたのだ。
けれどそれは恋愛感情ではない。ましてや、男女の友情というわけでもなく。
もっと違う、何か特別な思いだ。
ヒマリは息をふきかえし、その場で嘔吐した。
「大丈夫か?」
「ありがとう…」
ヒマリは弱々しい笑みをうかべた。ヒマリが助かったことが、
レンは泣きたくなるぐらい嬉しかった。しかし泣くわけにはいかない。
なぜなら【10の扉を開くまでは、決して泣いてはいけない】という文字が、
レンの脳裏をよぎったからだ。レンには予感があった。
泣いてしまうと、一生この暗闇に閉じこめられてしまうと...。
レンは残りのリンゴをすべて蹴とばして、壁にぶつけた。 

『8』の扉を開くと、なにもない殺風景な部屋だが、
レンとヒマリをめがけて四方八方から壁がせまってきた。

『9』の扉を開くと、真っ暗なトンネルがどこまでも続いていた。
がしかし、どれだけ歩いても、歩いても、『10』の扉にたどり着かない...。
ヒマリの足がもつれ、転んでしまう。
「おい、大丈夫か?」
「もう私…歩けません…」
「次が最後の扉だ。もう少しがんばろう」
「本当に…最後だと思いますか?」
「それは…」
「どうして私たちが、こんな目にあわなきゃいけないの」
「生きるために決まってんだろう」
「意味が分かんないよ。そもそも私たちは、今、生きてるの?」
「どう見ても生きているだろう! 俺も、ヒマリも」
ヒマリは首を大きくふり、目に大粒の涙をうかべた。
「泣くな! 『10』の扉を開けるまでは、ぜったいに泣くな!」
ビクッと、ヒマリは肩をふるわせた。
それから歯を食いしばって、なんとか涙をこらえた。
レンはヒマリの手を、やさしく握りしめる。
「一緒に生きよう」
レンが満面の笑みをうかべ、ヒマリが力強くうなずいた、その時。
二人の目の前に、『10』と刻まれた扉が現れた。

そして二人は手をつないだまま、『10』の扉を開いた…。
赤ちゃんの産声が、廊下に響きわたった。

目を輝かせた一人の中年男が、二重につけたマスクを口から外して、
椅子から立ちあがった。

二人の赤ん坊を抱えた看護師が「元気な双子です」と、一人の女に声をかけた。
双子の赤ん坊は、なかよく手をつないでいた。

女は幸せそうな笑みをうかべ、「レン…ヒマリ…」と、声をかけた。

男A(蓮)と女A(陽葵)は、一人の男(父)と一人の女(母)によって
胎内にさずかった命だった。

妊娠して子供が生まれるまで『10月10日』。

扉に書かれた数字は『妊娠○ヶ月』かを、示していたのだ。

生きたい、生まれたいと思った二つの命が、
懸命に『10の扉』を開いたのだった。

〈了〉

「朗読台本『10の扉』」(PDFファイル:165.87 KB)
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