神さま、このロリコンたちを殺してください‼ ドラマ

担任教師の健次郎(27)に恋をしている和沙(17)。だが健次郎は小児性愛者(ペドファイル)で和沙の妹、凛(9)に恋してしまう……歪な恋愛三角関係の物語── 城戸賞最終選考作品
土谷洋平 228 2 0 06/29
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第一稿

 タイトル   
 『神さま、
    このロリコンたちを殺してください!!』
                        土谷洋平

あらすじ     
 担任教 ...続きを読む
「神さま、このロリコンたちを殺してください‼」(PDFファイル:901.94 KB)
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 タイトル   
 『神さま、
    このロリコンたちを殺してください!!』
                        土谷洋平

あらすじ     
 担任教師の時任健次郎(27)を好きな松陰和沙(17)は、学校で何度健次郎に告白をしているが断られ続けている。
 和沙の妹、松陰凛(9)を天才子役として活躍しているが最近ストーカーの影に怯えていた。
 世の中では幼女連続誘拐事件が相次ぎペドファイル(小児性愛者)の犯行への関与をフリージャーナリストの新川弥生(39)は声高に主張していた。
 ある日、凛はストーカーに追いかけられ逃げている時に健次郎に出逢い助けられる。凛と出逢ってから様子がおかしい健次郎。和沙は、健次郎が凛を好きになってしまったと気付く。健次郎はペドファイルだった。
 和沙は健次郎のペドを治す為と半ば強制的に健次郎とデートするが、健次郎は店で近くに座った幼女に動揺してしまう。そわそわして自分の話しを聴かない健次郎に「死ね! このロリコンが!!」と激怒する和沙。
 健次郎はペドは治るものではないと言う。普段は幼女に近づかないようにしていて、ペドである事を他人には言えず友人もいない孤独な生活をしている健次郎に和沙は友だちをつくらせようとする。
 ネットで出逢ったペドである元町淳(20)と湯浜輝政(40)と最近起きている幼女連続誘拐事件をペドである経験を活かし解決しようとする三人、だがなかなか上手くいかない。
 そんな中、健次郎の母、恵利(51)が事故で亡くなる。亡くなる間際、ペドである健次郎に「そんな風に産んで……ゴメンね」と謝られた事にショックを受ける健次郎。
 世間ではペドへの嫌悪感が高まりバッシングや襲撃事件が相次ぐ中、凛が誘拐されてしまう。
 健次郎達は、湯浜が犯人だった弥生に殺害されるが、遂に誘拐されていた凛達を救い出す事に成功する。
 事件は解決するが世の中のペドへの偏見を変わらない。
 淳は姪への劣情を抑えて生活していたが発作的に自分がペドである事に絶望し自殺しようとする。健次郎と和沙は淳を救おうと抱きかかえて病院へ走る。希望があるかは解らないが走るのだった。                                

 【登場人物】
松陰和沙(7)(17)……高校生。
時任健次郎(17)(27)……和沙の担任教師。ペドファイル。
松陰凛(9)……和沙の妹。天才子役。
元町淳(20)……イケメン大学生。ペドファイル。
湯浜輝政(40)……弁護士。ペドファイル。
新川弥生・亀田絵美(9)(39)……フリージャーナリスト。
時任恵利(51)(61)……健次郎と健太郎の母親。
時任健太郎(23)(33)……健次郎の兄。
松陰雅子(44)……和沙と凛の母親。
住吉紗登子(25)……凛のマネージャー。
湯浜薫(30)……輝政の妻。レズビアン。
亀田俊一(66)……弥生の父。
結衣(5)……淳の姪。
沙織(29)……淳の姉。
健太郎の妻(32)
健太郎の娘(6)


女生徒A・B、カメラマン、ディレクター。スタッフA・B、男性(35)、幼女(6)、カウンセラー、店員。中年男性(44)、女子児童A・B、撮影者(25)、榎本(47)、女性(55)、リポーター、幼女A・B、男性刑事(47)、中年の男(50)、キャンプ主催者

○レストラン・内(休日)
  とあるレストランで向い合って座る松陰
  和沙(17)と時任健次郎(27)。
和沙「センセイが生徒と二人きりでデートっ
 て……禁断の恋って感じしますよね?!」
健次郎「……俺は恋してませんけどね」
和沙「もう、つれないなぁ!」
  健次郎の冷めた対応に相反して、楽し気
  な和沙。
T 『時任健次郎 教師 二十七歳』
T 『松陰和沙 教え子 十七歳』
和沙「あ、これ美味しいですね!」
健次郎「そうだね……」
  健次郎と和沙の隣席に、幼女(6)を連
  れた家族連れがやって来る。
店員「こちらの席になります」
父親「ありがとう」
幼女「ありがとございます!」
T 『幼女 六歳』
健次郎「──」
  ちらりと幼女を一瞥する健次郎。
和沙「センセイ?」
健次郎「いや……大丈夫だ」
和沙「そっか……こっちも美味しいですよ! 
 あーん、してあげましょうか!?」
  と、フォークに刺した肉を健次郎に差し
  出す。
健次郎「いや……いらないって」
和沙「ほら、あーん」
  隣席を横目で見遣る健次郎。
幼女「これ食べたい!」
母親「はいはい」
健次郎「──」
和沙「センセイ……センセイ?」
健次郎「────」
  幼女の笑顔。
  それを見つめる健次郎の視線。
和沙「センセイ!!」
健次郎「!! な、何?」
和沙「ホントにもう……幼女を気にし過ぎな
 んだよ! このロリコン!!」
健次郎「いや、違う。俺はペドファイル──」
和沙「あああ!! もう、知らないし! 死
 ね! このロリコンが!!」

○メインタイトル
  『神さま、このロリコンたちを殺してく
  ださい!!』

○高校・全景
  東京近郊のある女子高。
T 『一週間前』

○同・教室内
  生徒達が真面目に授業を受けている。
  健次郎、日本史の授業を行ている。
健次郎「──以前は足利尊氏の肖像画と言わ
 れていた物だが、現在は高師直が描かれて
 いるのではと言われている──」
  板書をノートに書き写す生徒達の中、一
  人だけニコニコと笑顔で健次郎を見つめ
  る和沙。
      ×   ×   ×
  授業終了後。
  昼休み、教室を出て行こうとする健次郎
  を、呼び止める和沙。
和沙「センセイ! 待って!!」
健次郎「……何だ?」
和沙「あのね、勇気を出して言うね……私、
 センセイが好きです! 大好きです!! 
 センセイの彼女にしてください!!」
  渋面のまま健次郎、
健次郎「もっと、色々とさ……ひねらないと
 さ、ダメだよ」
和沙「ストレートじゃ、ダメかな?」
健次郎「ストレートも良いんだよ、でも、雰
 囲気とかあるじゃん、授業終わりに急に言
 われてもさ」
和沙「なるほど、なるほど……」
  と、メモを取る。
T 『フラレて、メモを取る女』
女生徒A「和沙。また、告ってたの?」
健次郎「そう、通算四十三回め?」
和沙「四十二回目です! 死に番です!」
健次郎「縁起悪いね」
女生徒B「センセイ、和沙可愛いのにダメな
 の? やっぱり、教師と生徒って禁断の恋
 なんですかー?」
和沙「可愛いって……そんな本当の事言わな
 いでも……」
  照れたように頭を掻く和沙に、アイアン
  クローを掛ける健次郎。
健次郎「まぁ、そうね……後、単純に好みじ
 ゃないかな?」
和沙「痛い、痛い! 体罰反対!!」
T 『アイアンクローが極っています』

○同・廊下(同日)
  廊下を歩く健次郎を追う和沙。
和沙「一緒にお昼食べましょうよ!」
健次郎「お断りします」
和沙「あ、私の事も……食べちゃってもいい
 ですよ!」
  と、ウィンク。
健次郎「(侮蔑的な眼で)…………」
和沙「蔑むような眼も……素敵ですね!」
T 『睨まれても怯まない』

○同・屋上(同)
  屋上でお弁当を食べる和沙と健次郎。
和沙「弁当は自分で作ってるんですか?」
健次郎「いや、母親が作ってくれる」
和沙「へー……一緒に住んでるんですね」
健次郎「今は二人暮らしだよ」
和沙「お父さんは」
健次郎「小学生の頃に亡くなった」
和沙「そうなんですか……」
健次郎「別に大丈夫だよ」
和沙「ゴメンなさい……お詫びに、はい!」
  と、健次郎に卵焼きをあげる。
健次郎「……ありがとう」
  少し微笑む健次郎に和沙も笑顔になる。
和沙「高校教師って……皆、女子高生とヤリ
 たいって思って教師になるんですよね?」
健次郎「……はい?」
和沙「だから、センセイは私達、女子高生と
 ヤリたくて仕方ないんですよね? みんな
 ロリコンでしょ?」
T 『※和沙の偏見に基づく発言です。現実
 の教師とは一切関係ありません』
健次郎「どういう偏見だよ……」
和沙「よくニュースで、ワイセツ教師捕まっ
 てるじゃないですか」
健次郎「そうだけどさ」
和沙「私としたいのに、理性で我慢してるん
 ですね……解ります」
健次郎「解ってない」
  と、和沙にデコピンする。
和沙「アウッツ! もう、照れ隠ししなくて
 も、いいのに!」
健次郎「照れてない、照れてない」
  弁当を食べ終わり立ち上がる健次郎。
健次郎「何で俺なんだよ?」
和沙「へ? うーん……」
健次郎「女子高だからか? 他校の男子探せ」
和沙「ちょっと待って!! センセイを好き
 な理由は、一言で語れないんですって!」
健次郎「はいはい」
  と、立ち去ろうとする健次郎。
和沙「ちょっと待った!」
  健次郎の手をガシッと掴む和沙。
健次郎「なんだよ?」
和沙「いいから……はい、ポーズ」
  スマホで二人の写真を撮る和沙。
和沙「二人きりで撮った写真、無いじゃない
 ですか!」
健次郎「無くて良いんだよ……」

○とある撮影スタジオ(同日)
  お菓子の宣伝写真のモデルとして笑顔を
  振りまく子役、松陰凛(9)。
カメラマン「はい、そのまま……そう! 良
 いよ、次、視線をこっちに……凛ちゃん、
 もっと笑って!」
凛 「はい!」
  カメラマンの指示に従い品行方正な凛。
  その様子を見つめるマネージャーの住吉
  紗登子(25)。

○同・控え室(同)
  渋面で椅子座る凛。
凛 「マネージャー! 靴!」
紗登子「はい!」
  紗登子に靴を脱がせマッサージさせる凛。
凛 「あのカメラマン、ちゃん付けで呼ぶな
 よ……凛さんだろ! な!?」
紗登子「そうですよね……アハハ」
  凛の裏の顔に笑顔が引きつる紗登子。
T 『人気子役の素顔』
  扉をノックする音。
凛 「!? は、はーい!!」
  慌てて靴を履き、背筋を伸ばして立ち上
  がる鈴。
ディレクター「お疲れさま、今日はスゴく良
 かったよ! クライアントさんも、大満足
 してくれてたよ!」
凛 「えーホントですか!? 凛、上手くで
 きてたか不安で不安で……」
ディレクター「そんな事ないよ! 間違い無
 く天才子役だね! ねぇ住吉さん?」
紗登子「はい! 本当に演技が上手くて……
 裏表の使い分けも天才的で──」
凛 「……マネジャーさん?」
  眼が笑っていない笑顔で紗登子を睨む凛。
紗登子「ひ……そ、そう言ってもらえると、
 ありがたいです! また、お仕事お願い致 
 します!!」
  ディレクターに笑顔を振りまく凛──

○テレビ局・スタジオ(同日)
  とある夕方のニュース番組で、コメンテ
  ーターの新川弥生(39)が男性キャス
  ターの質問に答えている。
キャスター「──それでは、新川さんは今回
 の児童失踪が事故ではなく、事件であると
 思われていると言う事ですか?」
弥生「はい、住宅周辺では以前から怪しい男
 性の目撃情報が複数報告されていました。
 また、ネットへ事件を予告するような書き
 込みがされていた事実も分かっています」
キャスター「それでは、どういった犯人像が
 浮かんできますか?」
弥生「少女への執着をもった小児性愛者……
 ペドファイルの可能性が高いと思われます
 ……昨年も大阪で少女が──」

○同・廊下(同)
  スタッフの挨拶に笑顔で返す凛。
スタッフA「おはよう凛ちゃん」
凛 「おはようございます!」
スタッフB「お! 来たな天才子役!」
凛 「もう、シゲさんやめてくださいよ〜」
  笑顔の凛の横で微妙な表情の紗登子。
紗登子「(小声)流石……完璧ですね」
凛 「(小声)……当たり前でしょ」
  収録の終わったスタジオから弥生が出て
  来ると凛に出逢う。
弥生「……あ、時任凛さん?」
凛 「はい……えーと」
弥生「はじめまして。私フリージャーナリス
 トをしてる新川弥生です」
凛 「ふりーじゃーなりすと??」
  ワザと子どもぽく振舞う凛。
弥生「知らないよね。一人でニュースになる
 ような事を取材するお仕事の事だよ」
凛 「すごーい!!」
弥生「そんな事ないよ……凛ちゃんこそ、今
 売れっ子で大変でしょう?」
凛 「えー、そんな事ないですよ! ね?」
紗登子「は、はい! そうです、全然です!」
弥生「そう? 忙しいと思うけど、身体には
 気を付けてね……あと、この業界の大人に
 も気を付けないとね、色々と居るでしょ?」
  笑顔に影が差す弥生。
凛 「みんなやさしくて、いい人ばかりなん
 で、大丈夫です!!」
弥生「屈託がなくて良い子ですね」
紗登子「ですかね……」
  苦笑する紗登子。
  弥生、凛の耳元に顔を近づけ。
弥生「辛い時は逃げても良いからね?」
凛 「……はい」
  思わず真顔に戻る凛。
弥生「それじゃあね」
  笑顔で立ち去る弥生──

○路上・車内(深夜)
  紗登子に帰りを送ってもらった凛。
紗登子「凛さん、着きました」
凛 「……ん。うん」
  軽い居眠りから目覚める凛。
紗登子「明日は十時に迎えに来ますんで!」
凛 「解った……それじゃあね」
  と、車を降りる。
紗登子「寝坊しないでくださいね!」
凛 「アンタ……誰に言ってるの?」
紗登子「ご、ゴメンなさい!!!」
  慌てて車を発進させる紗登子。
凛 「ッたく……」
  自宅の前、扉を開けようとするが、
凛 「……?」
  人の気配を感じ立ち止まる凛。
  確かに後方の路上に誰かが立っている。
  凍り付き振り返れない凛──
凛 「──た、ただいま!!」
  ワザと大きな声を出し扉を開ける凛、振
  り返らずに中に飛び込む。

○松陰家・内(同)
凛 「はぁ、はぁ、はぁ……」
  肩で息をする凛、鍵の事を思い出し慌て
  て錠を閉める。
凛 「…………」
和沙「(オフ)どうしたの?」
凛 「!!」
  凛、振り向くと部屋着姿の和沙。
和沙「おかえり。そんなにはぁはぁして……
 走って帰って来たの?」
凛 「そんなわけないじゃん……」
和沙「そう? 学校行けてないから、体育の
 代わりに走ってるのかと思ったよ」
  三和土から家に上がる凛。
凛 「違うし」
和沙「ねぇねぇ、見て見て、この写真! 私
 とセンセイのツーショット!!」
凛 「別に見たく無い」
和沙「えーカッコいいでしょ? でしょ?!」
凛 「はいはい」
  写真を見ずに相槌を打つ凛。
和沙「だよね!! 私達、なかなかお似合い
 だよねー」
凛 「お姉ちゃん……笑顔がキモイよ」
T 『小学生にキモイと言われる姉』
和沙「え!? ヨダレ出てた!?」
  涎を袖で拭う和沙。
凛 「……お姉ちゃんは幸せだね」
和沙「え、凛は違うの?」
凛 「──」
  そこへ母親の松陰雅子(44)がやって
  来る。
雅子「お帰りなさい。晩ご飯は?」
凛 「……お弁当食べたから大丈夫……もう
 、眠たい……」
  自室に入る凛。

○同・凛の自室(同)
  ベッドに突っ伏す凛。
凛 「…………」

○同・表(同)
  凛の部屋を見上げる人影──

○高校・校庭(翌日)
  直角に頭を下げ、手を差し出した和沙。
和沙「第一印象から決めていました! 宜し
 くお願いします!!」
健次郎「はい、ごめんなさい」

○同・廊下(同日)
  健次郎の背中に叫ぶ和沙。
和沙「私は死にめしぇええん! あなたが好
 きだから!!」
健次郎「ウルサいから……声は小さくな」
和沙「あ、はい」

○同・教室(同)
  授業終わりの健次郎に和沙、
和沙「センセイ! 私達、付き合っちゃおう
 か!?」
健次郎「はい、ダメー」
  教室を出て行く健次郎。
和沙「……何で!!」
女生徒A「そりゃ教師だからね……」
和沙「年齢差なんて何なの!? そもそも、
 十六歳で結婚できるのに何で付き合っちゃ
 ダメなの?!」
女生徒B「女子高生と付き合ったら……ロリ
 コンになるから?」
和沙「十七歳十一ヶ月と十八歳の差って何!?
 何も変わらないじゃん!!」
女生徒A「そうだけどさ……」
  机に仰向けになる和沙。
和沙「センセイの理性を壊したい!」
女生徒B「危ない事言うねぇ」
和沙「理性を失って私を襲わせるの!」
女生徒A「ヤバい妄想トランスに入ってる」
女生徒B「これは放っといた方が良いわ」
和沙「げへへ……」
  ヤバい顔をして笑う和沙。
T 『好きな人には見せてはいけない笑顔』

○公園(同日・夕)
  公園で行われていたロケが終わり、撤収
  作業をするスタッフ達。
  ロケバスから出て来る凛、私服に着替え
  ている。
凛 「皆さん、お疲れ様です!!」
スタッフ一同「お疲れ様です!!」
  営業スマイルを見せる凛。
紗登子「お疲れ様です! 車、直ぐに回すん
 で待っててください!」
凛 「歩いて帰る。ここから家、近いから」
紗登子「あ、そういえばそうですね……でも、
 大丈夫ですか?」
凛 「大丈夫だよ、昼だし……怖くなんてな
 いから……」
紗登子「へ?」
凛 「何でもない! それじゃあね!」
  帽子を目深に冠り、走り去る凛。

○住宅街・路上(同)
  まだ、日が残る住宅街を一人歩く凛。
凛 「…………」
  誰もいないと思っていたのに、いつの間
  にか後ろに人が尾けてくる事に気づく凛。
凛 「!」
  汗が滲む凛、歩くスピードを上げる。
人影「…………」
  徐々に歩調が速くなり、歩きから走りに
  なる凛。
凛 「はぁ、はぁ!」
人影「……」
  人影も歩調が早くなる。
  徐々に人影と距離が近づく凛、曲がり角
  を曲がると突然。
凛 「!!?」
  別の人影にぶつかる凛。
健次郎「……大丈夫?」
  地面に尻餅をつく凛。
凛 「はぁはぁ……た、助けてください!」
健次郎「え?」
  凛の後方、男性(35)が立っている。
男性「……誰?」
健次郎「いや……通りすがりの者ですけど」
男性「僕は凛ちゃんを見守ってるの」
健次郎「え? はい?」
凛 「勝手に後を尾けてきてるだけだろ!」
  健次郎の影に身を隠すようにして叫ぶ凛。
男性「違うよ? いつも応援してるんだから
 ……僕が凛ちゃんを守るから……」
凛 「(首を横に振り)いや……助けて……」
健次郎「嫌がってるみたいですよ」
男性「違う! そんなはず無い!」
健次郎「警察、呼びますよ」
男性「なんで警察なんだよ!」
凛 「!!」
  男性に襟首を掴まれる健次郎。
健次郎「!?」
  揉み合いになるが健次郎、男性を地面に
  組み伏せる。
男性「り、凛ちゃん! 助けて!!」
凛 「……」
  怯えて後ずさる凛。
健次郎「怖がってるでしょ!?」
男性「違う……! うわああああ!!!」
凛 「────」

○松陰家・表(同日・夜)
  紗登子の説明を受ける雅子。
紗登子「警察にも被害届も出しましたし、本
 人とも弁護士を通して、二度と近づかない
 ように念書を書かせました」
雅子「ありがとうございます……」
紗登子「いえ……あの今日は本当にありがと
 うございました」
  と、健次郎に頭を下げる。
健次郎「いえ……」
凛 「…………」
和沙の声「りーん!!」
  バタバタと足音を立てながら、和沙がや
  って来る。
和沙「大丈夫!!? 怪我してない!!?」
凛 「大げさ……大丈夫だよ」
和沙「そっか、よかったよ……ホントに!」
  凛を抱き締める和沙。
健次郎「松陰の妹……?」
和沙「へ? あ! センセイ!?」
凛 「知り合い?」
和沙「写真見せたじゃん! 私の大好きなセ
 ンセイだよ!」
T 『注 見てませんでした』
雅子「先生……?」
健次郎「はい……地歴公民を担当している時
 任です」
凛 「そうだったんだ……」
紗登子「凛さん」
  真面目な表情の紗登子。
紗登子「今後、仕事終わりは必ず私が家まで
 送りますから……いいですね?」
凛 「……はい」
  しおらしい態度の凛。
和沙「ウチの妹、天才子役なんですよ! ス
 ゴいでしょ!!」
健次郎「そっか……知らなかった」
和沙「サイン貰います? サイン」
凛 「お姉ちゃん……ウルサい!!」
和沙「なに、怒ってるの!? もう……そう
 だ! センセイにお礼は言ったの?」
凛 「え? あ……うん、まだ。あの、今日
 は、ありがとうございました」
健次郎「いや、俺は何も……」
凛 「ううん、助けてくれてスゴく嬉しかっ
 たから……!」
健次郎「そう……」
凛 「お姉ちゃんに振り回されてると思いま
 すけど……頑張ってくださいね!」
  やっと満面の笑みを浮かべる凛。
健次郎「……うん、頑張るよ」
和沙「え、そんなに私と居るの大変!?」
凛 「アハハ!」
健次郎「…………」
  凛の笑顔を見つめる健次郎──

○高校・屋上(翌日)
  屋上、健次郎と和沙の二人きり。
和沙「センセイ! 好きだぁああ!!」
  空に向かい叫ぶ和沙。
健次郎「…………」
  ボンヤリと宙を眺める健次郎。
和沙「そんなにボンヤリしてどうしたんです
 か? あ……私に見とれてましたか?」
健次郎「……え?」
和沙「聴いてないし! どうしたんですか?」
健次郎「いや、別に……」
和沙「もしかして……恋の病!? やっと私
 の事好きになったとか?」 
健次郎「違う」
和沙「否定するの早ッ! え、でも、誰かを
 好きになったのは本当とか?」
健次郎「──」
T 『図星』
和沙「え……いや……ウソ! ウソ! 私以
 外に女の影何か無かったじゃないですか!? だ、誰なんですか!?」
健次郎「いや……違うって、そういうのじゃ
 無いって……」
和沙「センセイの事は何でも解るんです! 
 好きな人できたんだって……解ります!!」
健次郎「……」
和沙「誰なんですか!? いつの間にそんな
 出逢いがあったんですか!?」
健次郎「…………」
和沙「出逢い……出逢い? ……昨日、凛と
 逢ったの初めてですよね?」
健次郎「……ああ」
和沙「凛は九歳なんですけど……可愛いです
 よね? CMとかドラマに引っ張りだこに
 なるだけあるなぁと、お姉ちゃんとしても
 思いますけど……」
健次郎「まぁ、可愛いね……」
和沙「ですよね……でも、その……もしかし
 て、好きになったの凛じゃないですよね?」
健次郎「……まさか、そんな事──」
  作り笑いで誤摩化そうとする健次郎。
和沙「センセイ……ウソ言っても私には判る
 よ?」
  じっと健次郎を見つめる和沙。
健次郎「────」
和沙「……マジか」
健次郎「いや、あのな──」
和沙「重度のロリコンじゃないですか!?」
健次郎「俺の場合、ロリコンとは呼ばなくて
 正しくは──」
和沙「ああ!!! 聴きたく無い、聴きたく
 無い!! あああ!!!」
  耳を塞ぐ和沙。
和沙「え? じゃあ、私がダメなのは女子高
 生だと歳上過ぎるから? 凛みたいな年齢
 が良いってことですか?」
健次郎「……」
和沙「妹にセンセイを盗られるとは……セン
 セイ、治しましょう! 私が女子高生の良
 さを教えますから!」
健次郎「いや、治るとかじゃないから……」
和沙「治します! だから、今度の休み……
 デートをしましょう!」
健次郎「……はい?」

○レストラン・内(休日)
  物語、冒頭のレストラン内。
T 『冒頭に戻る』
和沙「ホントにもう……幼女を気にし過ぎな
 んだよ! このロリコン!!」
健次郎「いや、違う。俺はペドファイル──」
和沙「あああ!! もう、知らないし! 死
 ね! このロリコンが!!」
  席を立ち上がる和沙。
和沙「……あ」
  周囲の視線が集まる──

○公園(同日)
  肩を落としてベンチに座る和沙。
和沙「スミマセンでした……」
健次郎「いや、俺もソワソワして落ち着いて
 なかったから……」
和沙「……」
健次郎「……」
  気まずい無言の間。
健次郎「……俺はロリコンとは言わないんだ。
 小児性愛者──ペドファイルだ」
和沙「小児……性愛……ペド……ファイル?」
健次郎「対象年齢は大体小学校低学年ぐらい」
和沙「そのペド……なちゃらだと、私はオバ
 さんみたいなものですか?」
健次郎「おばさんじゃないさ、若いと思うよ。
 でも……無理なんだ」
和沙「無理なんて言わないでください! 治
 しましょうよ!? 私ならギリギリ大丈夫
 なロリコンですよ! それに次の誕生日で
 十八歳だし!!」
健次郎「治るとかではないんだよ……」
和沙「じゃあ、私はどうすれば良いんです
 か!? 本当にセンセイが好きなのに……」
健次郎「────」
  肩を震わせる涙を我慢する和沙に、掛け
  る言葉が無い健次郎。

○高校・教室(別日・放課後)
  ぼんやりと一人で教室に残る和沙、下校
  して行く生徒達を見つめている。
和沙「……私は、もう子供じゃない……のか」
  机に突っ伏し呟く凛、ふと校庭に視線を
  移すと健次郎が帰宅するところ。
和沙「…………」

○路上(同日)
  一人、帰路に着く健次郎。

○時任家・表(同)
  自宅に帰って来る健次郎、家に入る。
健次郎「ただいま」
和沙「……」
T 『尾行中』
  そんな健次郎の姿を、隠れて見つめてい
  る和沙──

○同・居間(夜)
  夕食時間、健次郎と母親の時任恵利(6
  1)が二人きりで食事をしている。
恵利「……最近、学校はどう?」
健次郎「まぁまぁだね」
恵利「そっか……後さ、休みの日は遊びに行
 ってもいいんだよ?」
健次郎「別に遊びに行く相手いないから」
恵利「友だちは?」
健次郎「あんまり忙しくて……会ってないね」
恵利「そう……」

○同・健次郎の自室(深夜)
  部屋の照明を消す健次郎。
  カーテンを開け、夜空を眺める。
健次郎「…………」

○心療内科・カウンセリングルーム(休日)
  カウンセラーを前に語る健次郎。
健次郎「──僕は、その時の彼女の表情を見
 て惹かれてしまいました……普段はできる
 だけ、同じ年頃の少女と接触無いように生
 活しているのに……」
カウンセラー「……それで、どう感じました
 か? その少女を好きになってしまって」
健次郎「最初に昂揚感を感じました……でも、
 直ぐに絶望的な気分になりました」
カウンセラー「それは何故?」
健次郎「叶わないし……叶えてはいけない願
 望だからです──」

○同・表(同日)
  表に出て来る健次郎。
健次郎「……」

○図書館・内(同)
  図書館で借りる本を持ち歩く健次郎。
健次郎「……」
  児童書のコーナーから、幼女たちが出て
  来るに気付き進行方向を変えて、視線も
  逸らす健次郎。

○公園(同)
  公園前に差し掛かる健次郎。
健次郎「……」
  健次郎、子ども達が歓声を上げ遊んでい
  るのを見つめるが、直ぐに眼を逸らし前
  に歩き始める。
和沙「……」
  その後ろ姿を見つめる和沙──

○高校・屋上(別日・放課後)
  健次郎と和沙、二人きり。
和沙「センセイ、寂しく無いの!? いつも、
 学校からに家に直ぐ帰って、休みの日も地
 味な過ごし方だし!」
健次郎「お前……監視してたのか?」
和沙「ええ、ずっとしてましたとも!」
健次郎「開き直るな……ストーカー」
和沙「ロリコンに言われたく無い!」
健次郎「だから違うって……ペドファイル」
和沙「ペドでもヘドでも、どうでもいいの! 
 センセイ、子供が近づいて来ると避けてる
 でしょ!?」
健次郎「それは……そうしないと自分が怖い
 から……何かしてしまいそうで……」
和沙「何かした事……あるの?」
健次郎「無いよ……」
和沙「そっか……良かったぁ」
  心底安心した声を出す和沙。
健次郎「……信じるのか?」
和沙「うん!」
健次郎「どうして、俺が信じられるんだ?」
和沙「だって……センセイを好きだから」
健次郎「ホントに……何で、俺なんだよ?」
和沙「それは……──」

○高校・教室(回想・前年)
  高校一年生の和沙。
  生徒達が自己紹介を順番にしている。
健次郎「──ありがとう……えーと、それじ
 ゃあ……次、松陰さん」
和沙「はい! 松陰和沙です! 戸倉中から
 来ました! 中学から来てる友人が居ない
 んで今、ボッチです! 将来の夢は宇宙費
 飛行士! 星が好きで天体観測します! 
 星が好きな人語りましょう!」
  疎らな拍手。空回ってる和沙、自分でも
  気づいていて乾いた笑みを浮かべる。
T 「自己紹介でスベルの図』
和沙「……」
健次郎「星、好きなんだ」
和沙「え……はい」
健次郎「そっか……奇麗だよね」
和沙「はい」
健次郎「皆は最近、夜空を見上げましたか?」
  少しざわつく生徒一同。
健次郎「──街中じゃ明るくて見えないけど、
 夜空には数えきれない星が光っています。
 たまには、立ち止まって夜空を見上げてみ
 るのも良いかもしれない……と、先生は思
 ったりもします」
和沙「──」
健次郎「じゃあ、次は──」
和沙「……」
  健次郎を見つめる和沙。

○丘の上(回想・別日・夜)
  天体望遠鏡を持って丘の上に登って来る
  和沙、息が乱れる。
和沙「はぁはぁはぁ……ん?」
  芝生の上に座る人影。
健次郎「……」
  夜空を見上げる健次郎。
和沙「……先生?」
健次郎「……え?」
    ×   ×   ×
  健次郎の横に座る和沙。
健次郎「ここからじゃ、明るくて星も見えな
 いだろ?」
和沙「結構見えますよ」
  と、天体望遠鏡を覗きながら答える。
健次郎「懐かしいな」
和沙「懐かしい?」
健次郎「昔は、よく星空を観に田舎まで行っ
 てたんだ……」
  天体望遠鏡を覗かせてもらう健次郎。
和沙「そうなんですね……あの、先生ありが
 とうございます」
健次郎「何が?」
和沙「私、友だちできなそうだったのフォロ
 ーしてくれてるじゃないですか……やっと
 クラスに慣れてきました」
健次郎「ああ……自己紹介でスベってたから」
和沙「それは言わないでください!」
健次郎「友だちもできた?」
和沙「はい!!」
健次郎「そりゃ良かった……色んな星がある
 よね。一等星みたいな目立つ星から、肉眼
 じゃほとんで見えないような星までさ……
 教師がするのは、色んな生徒が居る事を認
 めてあげる事。居場所をつくってあげる事
 なんだと思うんだ」
和沙「私の居場所……つくってくれて、あり
 がとうございます」
健次郎「仕事だから……感謝なんかしなくて、
 いいよ」
和沙「…………」
  天体望遠鏡を覗き込む健次郎の横顔を、
  見つめる和沙。
和沙の声「──あの時、センセイしかいない
 って思ったんだ」

○高校・屋上(現在)
  健次郎の前に仁王立ちの和沙。
和沙「あの時から、ずっと好き! だから…
 …だからセンセイの事、もっと知りたい…
 …もっとロリコンについて教えてよ!!」
健次郎「────」

○教室(イメージ)
  一昔前の教育テレビ番組風のセット。
  派手な衣装を着た健次郎と和沙。
和沙「せーの! 教えてロリコン先生! さ
 あ、始まりましたね!」
T 『教えてロリコン先生!』
健次郎「はい、始まりましたが……早速訂正
 があります!!」
  満面の笑みの健次郎と和沙。
和沙「えー、なんですか?」
健次郎「ロリコンイコール、子供好きな人っ
 てイメージですよね?」
和沙「え、違うんですか??」
健次郎「ロリコン、ロリータコンプレックと
 いう言葉は俗語で定義も曖昧ですが、子供
 好きな人を指す言葉として使われてますが
 ……先生はペドファイルなんです」
T 『教えてペドファイル先生!』
和沙「ぺどふぁいる? それは何ですか?」
健次郎「先生が好きなのは、十歳以下の幼児
 なんだ! そういう性向を持つ人をペドフ 
 ァイルって言うんだよ!」
和沙「へぇーそうなんだ!! じゃあ、その
 ……ペド? は、十歳以上の人は愛せない
 の?」
健次郎「その通り!」
和沙「でも、そんな小さい子を好きになって
 も付き合えませんよ! 犯罪です!」
健次郎「その通り! ペドファイルがその願
 望を発露し、叶えてしまうと多くの国で犯
 罪となってしまう……でも、ペドファイル
 全員がチャイルドマレスターと言う訳でも
 無いんだ!」
  難しい用語が出る度にパネルを捲る健次
  郎、パネルには『チャイルドマレスター』
和沙「ちゃいるど……まれすたー??」
健次郎「子供に性的な行為をする人の事だよ」
和沙「ペドの人はチャイルドマレスターじゃ
 ないんですか??」
健次郎「ペドファイルの人が皆、チャイルド
 マレスターじゃないよ……大人の人が好き
 な男女は居るでしょ? 同性愛の人も。で
 も、皆が皆、好きだからって無理矢理レイ
 プするわけではないでしょ?」
和沙「そっか、ペドでも子供に何もしない人
 も居るんだね! じゃあ、子供に……その
 いかがわしい事? を、する人って皆、ペ
 ドなんだね?」
健次郎「和沙くん、残念。それも違います!」
和沙「えええ! 子供が好きな人はペドじゃ
 ないんですか!?」
健次郎「子供への性的虐待の多くは近親者か
 ら行われているんだ。父親母親、兄弟、親
 戚……それら近親者が皆ペドファイルかと
 言えば違って、閉鎖的な空間で手近に対象
 がいたからという人も多いんだ! 実際、
 幼女連続誘拐殺人した犯人にも、大人の女
 性は反撃される可能性があるから、代用的
 に幼女を誘拐して犯行に及んだと言う人物
 もいるんだよ」
和沙「うーん混乱してきました! 先生!」
健次郎「とにかくペドファイル=チャイルド
 マレスターじゃないってことを憶えておい
 てくれ! 好きだからこそ傷付けたく無い
 ……そんな心理で自制しているペドファイ
 ルが大勢居るんだ!」
和沙「居るんだぞ!」
健次郎「僕らは犯罪者じゃない!」
和沙「じゃないぞ! でも、本当は?」
健次郎「好きな子と一緒に色々したい……っ
 て、願望を我慢してるんだよ!! ちくし
 ょー!!」
和沙「はい! それじゃあ、おしえてロリコ
 ン先生! 改め、教えてペド先生! また、
 次回も見てくださいね!!」
  いかにも演技臭い笑顔で手を振る和沙。

○高校・屋上(放課後)
  健次郎を前に堂々と言い放つ和沙。
和沙「友だちをつくりましょう!!」
健次郎「……友だち?」
和沙「はい!!」
健次郎「誰が?」
和沙「センセイの! センセイいつも一人で
 寂しいでしょ!? だから、私が友だち候
 補探しておいたんですから!」
健次郎「友だち候補って……どうやって?」
和沙「ネットです! ロリコンの人でセンセ
 イと同じく我慢してる人探しました!」
健次郎「だからペドファイルだって……」
和沙「でも、直接会おうって言うと渋るんで
 すよねぇ」
健次郎「そりゃそうだよ……相手が誰か解ら
 ないのに。それじゃなくても最近、幼女誘
 拐事件でバッシングされているのに……直
 接会おう何て、危なくてしたくないだろ」
和沙「さすが! お互いの心理が手に取るよ
 うに解ってますね!!」
健次郎「友だち……」
和沙「欲しくないですか?」
健次郎「……貸して」
和沙「あ、はい」
  と、スマホを健次郎に手渡す。
健次郎「これ?」
和沙「はい、このチャットルームの二人が、
 ペドの人達です」
健次郎「俺のフリして、会話してたんだね」
和沙「すみません……」
健次郎「────」
  思案家な表情から、一転しメッセージを
  打ち込む健次郎。
メッセージ(健次郎の声)「──直接お会い
 したいと突然お誘いしてしまい、驚かせて
 しまった事、誠に申し訳ありませんでした。
 ただ、私は今、孤独です。自分の事を正直
 話す友人も居らず、職場でも自分を偽って
 います。そして、何よりも自分が愛した人
 と愛し合う事が不可能という事です……」

○丘の上(夜)
  星空を独り見上げる健次郎。
メッセージ(健次郎の声)「──自分の気持
 ちが間違っているんだと思います……でも
 消す事はできません。相手を傷付けない為
 にも何もしません。自分の気持ちを伝える
 事さえもできません……そんな時、僕は、
 こんな存在は世界中で独りぼっちなんだと
 思ってしまいます……きっと、お二人も孤
 独なんだと思います。もし、お会いできた
 ら……この孤独感が、少しでも和らぐので
 はと思うのです──」

○居酒屋・個室(別日・夜)
  落ち着き無く時計を確認する健次郎。
健次郎「……」
T 『そわそわしてます』
  そこへ店員がやって来る。
店員「そろそろ、お時間ですが……」
健次郎「まだ……連れを待ちます」
店員「かしこまりました」
  店員が出て行くと、スマホを確認する健
  次郎。
健次郎「……やっぱ、無理なのかな」
  思わず呟いてしまう健次郎。
  少し、扉が開き中を覗く人影。
男 「あ、あの……」
健次郎「は、はい!」
  恐る恐る、若くイケメンな元町淳(20)
  が入って来る。
淳 「あの……時任さんですか?」
健次郎「あ、はい!!」
淳 「よかった……ジュンです!」
健次郎「来てくれて嬉しいです」
  安心して笑顔になる二人。
淳 「本当に居て驚きました……」
健次郎「僕は来てくれて驚きました」
淳 「そうですよね……あとはテルさんは?」
健次郎「まだですね──」
  すると、そこへ、
男 「遅れて申し訳ない! 道に迷ってしま
 って!!」
  息せき切って湯浜輝政(40)がやって
  来る。
輝政「えーと……君が時任さん?」
健次郎「はい、時任健次郎です」
輝政「本名……名乗って良かったの?」
健次郎「はい、皆さんに信用してもらいたか
 ったので……」
輝政「でも、偽名の可能性もある」
健次郎「……」
輝政「僕は湯浜輝政だ。偽名かどうか信用す
 るかは君たち次第だけどね」
健次郎「僕は……信用しますよ」
輝政「そっか……ありがとう」
  微笑む輝政。
淳 「ぼ、僕は元町淳です!!」
輝政「君は……噓吐けなそうだね」
輝政「アハハ。見た目的にね」
淳 「え、そうですかぁ?」
健次郎「ここ、完全個室なんで。店員さんが
 来る時に気を付ければ、後は何を話しても
 大丈夫です……何でも話しましょう」
淳 「何でも……」
輝政「そうそう、話せるものかな?」
健次郎「──」
      ×   ×   ×
  テーブルには酒と肴。
T 『宴もたけなわ』
淳 「──いつも、ウチの両親に姪っ子を預
 けるんですよ! 休みの日ぐらいデートし
 たいとか抜かして……あのバカ姉!! 俺
 が、それでどれだけ迷惑してるか……」
輝政「それは、生殺しだね……姪御さんは幾
 つになるんだい?」
淳 「五歳です! もう、可愛くて……あっ
 ちも『ジュンくん、だいすき!』って、言
 って飛びついて来て……もう、俺は──」
健次郎「ほらほら、飲んで」
  と、ビールを淳に注ぐ。
淳 「こっちも大好きだっての! でも、で
 もですねぇ……できないでしょう? しち
 ゃダメでしょう? そんな事……なのに、
 二人きりとかにさせられて……拷問ですよ」
輝政「……家族には知られてないんですね」
淳 「もちろん隠してます! 母さんに知ら
 れたら、死んじゃうかもしれませんよ……
 いや、割とマジで」
健次郎「…………」
輝政「僕は男の子が好きなんだ」
淳 「あ……男の子好きって人も多いって聞
 いた事ありますね」
輝政「実は……僕は、結婚してるんだ」
淳 「え!?」
健次郎「えーと……男性? 女性?」
輝政「法律上効力がある結婚だよ……つまり
 女性とだ」
健次郎「それは……全て秘密にして?」
輝政「いや、彼女は僕がゲイだと思っている。
 ただ、対象が少年だとは思っていない」
淳 「全部を言ってるわけじゃないんですね
 ……でも、ゲイだと判ってる相手と結婚す
 るなんて……何でですか?」
輝政「彼女も同性愛者なんだ。友情婚さ……
 お互い世間体もあってね」
健次郎「仲は良いんですか?」
  日本酒を飲む健次郎、輝政にも注ぐ。
輝政「ありがとう……うん、知り合ってから
 友人として信頼関係を深めてからの結婚だ
 ったからね……あっちには他の恋人がいる
 けどね」
淳 「女性の?」
輝政「そう、そこお互い認めているから」
健次郎「でも、ペドファイルである事は──」
輝政「言えてない……そこだけが僕の負い目
 なんだよ……二人で生活していると弧度感
 なんか感じない事が多いんだ。でも、ふと
 彼女にも本当の事を言えていない事を思い
 出して……ああ、自分は何て矮小で、惨め
 なんだろうと思ってしまうんだ……」
健次郎「……」
輝政「──君のくれたメッセージに共感した
 ……僕らは、この世界に独りぼっちに思え
 てしまう。でも、そのままじゃダメなんだ
 ……自分を自分で追い込むだけなのだから」
一同「────」
  場が鎮まる。
  しんみりとした雰囲気。
  次の瞬間──
和沙「それなら、ペドである事生かして何か
 すれば良いんですよ!!」
T 『突然現れる女子高生!』
淳・輝政「!!?」
健次郎「!? 何で、ここに!!」
和沙「センセイの事は、いつも見ている和沙
 ちゃんですよ!!」
輝政「これは、どう言う事なんですか!?」
健次郎「────」
      ×   ×   ×
  居酒屋の個室内。私服姿の和沙。
T 『反省する女子高生の図』
健次郎「──本当に申し訳ありませんでした」
輝政「彼女が私達の事を言いふらさないって
 保障は無いんですよ?」
健次郎「コイツは馬鹿ですけど……そういう
 事はしないと信じています」
輝政「あなたは人を信用し過ぎですよ……」
健次郎「すみません……」
和沙「あの……」
健次郎「……なんだ」
和沙「最近、女の子が誘拐される事件とか結
 構起きてるじゃないですか? ああいう事
 件とか本物のペドなら解るんですか? 事
 件を起こしている人達の気持ちとか?」
健次郎「もし、解ったら……どうだって言う
 んだよ?」
和沙「子供が好きだけど遠ざけて孤独だって
 言ってるより、そういう事件を解決して、
 子供を救いたいって……思いません?」
一同「────」

○時任家・玄関(休日)
  玄関の扉を開く健次郎、外には淳と輝政。
健次郎「いらっしゃい」
淳 「お邪魔しますー」
輝政「失礼します」
  居間の隣りを通り自室に二人を連れて行
  く健次郎。
恵利「お客様?」
健次郎「うん……友だちだよ」
恵利「……そう」
  少し嬉しそうな健次郎に微笑む恵利。
和沙「お邪魔しまーす」
  と、遅れて登場し健次郎の自室に向かう。
恵利「……女の子も?」
健次郎「おい」
和沙「はい?」
健次郎「なんで、ここに居る?」
和沙「センセイとずっと一緒に居た──」
  コブラツイストを喰らう和沙。
T 『コブラツイストを喰らう女子高生の図』

○同・健次郎の自室(同日)
  肩が痛くて気にする和沙。
和沙「いたた……」
淳 「──それで、チャットしながら仲良く
 なったんですけど……この人が娘の写真と
 交換するなら、直接会っても良いって言っ
 てきました」
健次郎「こっちも何か用意しろって?」
淳 「はい、何か売りになる物が無いと交換
 できませんから……」
輝政「会った時に渡す、と言うだけじゃ信用
 してくれないか?」
淳 「はい、ですね……」
和沙「売りになる写真……あ!」
T 『何か思いついた』
健次郎「?」

○とある喫茶店・内(別日)
  USBメモリが刺さったPCで画像を確
  認する中年男性(44)。
中年男性「……本当に子役の凛ちゃんだね」
健次郎「それは普段の、家で撮った写真だけ
 ど……信用してくれましたか?」
  PC画面には、自宅で寛ぐ凛の写真が表
  示されている。
T 『※和沙が撮った写真です』
中年男性「本当に親戚なんだ……」
健次郎「はい……だから、その、たまに会っ
 た時に……色々と……撮りました」
  別のUSB翳す健次郎。
中年男性「それなら、俺の持ってるデータと
 交換で、全然大丈夫……! 良いのか、こ
 んな価値のある画像を? 俺に?」
健次郎「は、はい……でも、あなたも本物の
 データ入っているんですよね……?」
中年男性「もちろんだ」
  USBメモリを交換する二人。
  遠巻きに健次郎達を監視している和沙、
  淳、輝政。
和沙「渡したよ!」
淳 「店を出ます! 僕が尾行しますね」
輝政「お願い……時任さん」
  中年男性を見送り、別れた健次郎、輝政
  と合流する。
健次郎「……はぁ、はぁ」
和沙「大丈夫!?」
健次郎「空のUSBメモリ渡すだけなのに…
 …緊張した」
  輝政、中年男性から受け取ったUSBメ
  モリをPCに刺し、画像を確認する。
輝政「……黒だね」
  渋面を浮かべ呟く。
和沙「どうするの?」
輝政「警察に証拠を持って通報するよ……後
 は僕に任せて」
和沙「何か慣れてますね?」
輝政「まぁ……弁護士ですから」
和沙「え!? そうだったんですか!? ス
 ゴいじゃないですか! ペドのくせに!!」
輝政「ペド関係無いから……時任くん?」
  座席に座り放心状態の健次郎。
健次郎「え? ああ、ゴメンなさい……疲れ
 ちゃって……」
和沙「センセイ……辛そうだよ?」
健次郎「あの人見てると……自分を見てる気
 がして……俺は自分の願望を叶えてないだ
 けで、同じ事を望んでいて……同じじゃな
 いかと思って……」
和沙「────」

○時任家・居間(同日・夜)
  居間でテレビを見ている恵利、そこへ健
  次郎が帰って来る。
恵利「おかえりなさい、今日も友だちと一緒
 だったの?」
健次郎「うん……そうだよ」
恵利「楽しそうだね」
健次郎「そうだね……まぁ楽しいよ」
恵利「そっか……良かった」
健次郎「……うん」
  テレビ番組でニュース番組が流れている。
キャスター「──今回、インターネット上に
 公開された映像は、犯人自身が誘拐した少
 女を撮影したものと思われます……」
  ネット上にアップされた動画が流されて
  いる、暗い表情の幼女。
健次郎「────」

○輝政のマンション(別日)
  チャイムが鳴り、玄関を開く輝政。
輝政「いらっしゃい」
健次郎「失礼します」
淳 「立派なお部屋ですね!」
輝政「いやいや……こちら、妻の薫です」
  と、湯浜薫(30)を紹介する。
薫 「輝政君の妻の薫です。よろしくお願い
 します」
健次郎「こちらこそです……薫さんは、これ
 から出掛けられるんですよね?」
薫 「ええ、ゆっくりしていってくださいね」
  微笑む薫、そのまま出掛けてしまう。
淳 「……デートですか」
輝政「そうだね」
健次郎「友情婚って、こんな感じなんですね」
輝政「楽しいものだよ、共同生活も」
淳 「僕らって友人て思われてるんですかね
 ……それとも──」
輝政「恋人と思われてるかもね」
淳 「二人とも!?」
輝政「まぁ、そういうところは、お互いに干
 渉しないから」
健次郎「慣れてますね」
淳 「……まぁ、勘違いされても……仕方な
 いか……」
      ×   ×   ×
  幼女誘拐犯が公開した動画を再生して見
  入る健次郎達。
輝政「どう、思う?」
健次郎「もし同じペドファイルでも、僕らと
 は違う考え方だと思います……誘拐して、
 動画を公開するなんて、挑発的な事したが
 りますかね? そもそもの考え方が違う気
 がします……」
淳 「僕もそうです、敢えて捕まりそうな危
 険な事しますか?」
輝政「ペドファイルじゃないって可能性は?」
健次郎「可能性は高いと思います……誘拐し
 た目的って……何なんですかね?」
淳 「目的って……誘拐して監禁して、目的
 何か一つだけじゃ……」
  動画の中、幼女は無表情でカメラを見つ
  めているだけ。
健次郎「何かが違う気がするんだ……」

○高校・屋上(別日)
  青空を見上げ仰向けになる健次郎に和沙、
和沙「──で、犯人は誰なんですか?」
健次郎「……解らない」
和沙「ペドが三人集まったのに?!」
健次郎「三人集まっても、百人集まっても解
 らん物は解らんよ」
和沙「がっかりペドだよ全く……」
T 『がっかりペドというパワーワード』
健次郎「そう言えばさ……凛ちゃんは、元気
 か?」
和沙「……なに? 好きな子が気になるの?」
健次郎「いや……最近ドラマとかよく出てる
 から疲れてるかなとか……」
和沙「心配ってこと? それが好きって事じ
 ゃん……」
  嘆息する和沙。
健次郎「そうなのかな……」
和沙「まぁ、妹はプロフェッショナルですか
 ら。仕事は問題無いでしょ! でも、プラ
 イベートはなぁ……」
健次郎「何かあるのか?」
和沙「何かが……ないから。可哀想なんだ」
健次郎「ない? ……ん?」
  健次郎のスマホが鳴る。
健次郎「(電話に出て)はい、時任ですが…
 …はい、そうです母ですが……え?」
和沙「……?」

○病院・病室(同日・夕)
  個室に入院している恵利、頭に包帯を巻
  かれている。
健次郎「──痛む?」
恵利「ううん……もう、大丈夫だよ」
  時任健太郎(33)がやって来る。
健太郎「母さん!?」
恵利「驚かせゴメンね……ちょっと転けただ
 けだから……」
健太郎「でも、相手はバイクだろ!? 頭も
 打ってるんだから……」
恵利「お医者さんは、暫く安静にして様子を
 見ましょうって」
健太郎「そっか……」
  と、健次郎に視線を移す。
健次郎「……」

○同・廊下(同日)
  健次郎と健太郎が病室を出て来る。
健太郎「──元気だったか?」
健次郎「まぁ……それなりに」
健太郎「仕事はきちんとしてるのか?」
健次郎「兄さんが心配してるような事は無い
 よ……女子高生に僕が関心持つ事無いって
 ……知ってるでしょ?」
健太郎「おかしな事だけはするなよ」
健次郎「……解ってるよ。兄さんの迷惑には
 ならないよ」
  その場を立ち去る健次郎──

○小学校・表(翌日)
  紗登子が運転する車から飛び出す凛。
紗登子「それじゃ、お疲れ様です!」
凛 「ああ、うん! ご苦労さん!!」
  と、笑顔で駆け出す。
紗登子「こういう所は、子供らしいんだけど
 なぁ……」

○同・教室内(休み時間・同日)
  嬉しそうな笑顔で駆けて来た凛、教室に
  飛び込む。
凛 「はぁはぁ……おはよう!」
  一瞬呆気にとられるクラスの生徒達。
女子児童A「……凛ちゃん!? 今日は学校
 来れたんだね!!」
凛 「うん! 撮影が早く終わったんだ!」
女子児童B「凛ちゃんが出てるドラマ! マ
 マと一緒に見てるよ!!」
凛 「ありがとう!!」
  クラスの中心になる凛。

○テレビ局・スタジオ(同日)
  弥生が出演しているワイドショー番組が
  撮影されている。
MC「──こういう幼児を狙った犯罪てのは、
 結局、異常者……って、言っちゃ悪いけど
 ロリコンのヘンタイがやってるんでしょ?」
  あくの強い番組MCの男性(52)
弥生「ロリコンというのは、あくまで俗語で
 す。ペドファイルと言われる小児性愛者た
 ちの犯行だと考えられますね」
MC「専門用語はどうでもよくて、そういう
 子供好きなヘンタイをどうにかできないん
 ですか?」
弥生「アメリカには、メーガン法と呼ばれる
 性犯罪者の情報を一般公開する法律があり
 ますが、日本にはありません……こんな状
 況で、子どもを守りたいという人々の中に、
 新しい動きが出てきています」
MC「新しい動き?」
弥生「ネット上に、ペドファイルの人々の情
 報を公開するユーザーが出てきているんで
 す。私の元にも、ペドファイルに関して情
 報提供が大量に届いている状況です」
MC「自警団的な動きがあるって事ですね!
 いや、仕方ないよ! 警察が不甲斐ないん
 ですから!」
弥生「ええ、世間の動きは過剰に見えるかも
 しれませんが、自然な事だと思います──」

○小学校・教室内(同・放課後)
  授業が終わり、帰り支度を始める生徒達。
凛 「あ、あの、今日一緒に──」
女子児童A「今日も、これから撮影でしょ? 
 頑張ってきてね!!」
凛 「え、いや……今日は大丈夫で……」
女子児童B「無理しなくて良いよ! 普段忙
 しいんでしょ!?」
凛 「────」
  悪気無く、凛を一人にして帰って行く女
  生徒達。

○高校・校庭(同日)
  生徒達が集まっているの気が付く健次郎。
健次郎「?」
  健次郎、近寄ってみる。
  「かわいい!」
  「本物だ!」
  等、言われ生徒達に囲まれた凛。
T 『天才子役に群がる女子高生の図』
健次郎「……凛ちゃん?」
凛 「あ」
      ×   ×   ×
  生徒達が立ち去り、二人きりになり歩く。
健次郎「お姉ちゃん探しに来たのか……まだ、
 校内に居ると思うけど……」
凛 「ねぇ」
  と、校庭の隅に落ちていたサッカーボー
  ルを健次郎に蹴る。
健次郎「ん?」
  ボールを蹴り返す健次郎。
凛 「お姉ちゃんはセンセイの事好きって、
 言うけどさ……大人と子どもなのに……お
 かしいよね?」
健次郎「そうだな……」
凛 「でも……好きになっちゃったら仕方な
 いよね」
健次郎「お姉ちゃんが言ってたの?」
凛 「(頷き)うん……センセイはお姉ちゃ
 んの事、好き?」
健次郎「嫌いじゃない……」
凛 「そっか……可哀想なお姉ちゃん」
健次郎「そうかな?」
  サッカーボールで遊ぶ二人。
  健次郎、わざと高めにボールを蹴る。
凛 「きゃ! ちょっと、もう!!」
  口を尖らせながらも笑顔の凛。
  楽しそうに遊ぶ二人。
凛 「あのね……この間、センセイに助けて
 もらったけど、一人で家に帰るの怖いんだ
 ……だから、良かったら一緒に帰ってくれ
 ない?」
健次郎「友だちは?」
凛 「……天才子役の松陰凛だよ! 普通の
 小学生とは友だちにならないの!」
健次郎「そっか……でもな──」
  逡巡する健次郎。
凛 「それに信用できる人と一緒に居たいん
 だ……だから、一緒に帰ろ?」
健次郎「!!」
  上目遣いで泣き出しそうに、弱々しく見
  える凛に、思わずグッと来る健次郎だが、
健次郎「信用してくれて、ありがとう……で
 も、僕は一緒には帰れない」
凛 「私と一緒はイヤ?」
  俯く凛。
健次郎「違うよ……まだ、仕事があるんだ」
凛 「…………」
  ジッと本当かどうか、見極めるように健
  次郎を見つめる凛。
健次郎「──だから、お姉ちゃんと一緒に帰
 りなさい、呼んであげるから」
凛 「……うん、解った」
健次郎「よし」
  と、携帯電話を取り出す。
凛 「センセイは、私の事、好き?」
健次郎「────」
  思わず息を飲む健次郎。
凛 「それとも……嫌い?」
健次郎「……嫌いじゃないよ」
凛 「フフ……お姉ちゃんと一緒だ……じゃ
 あ、友だちになってくれる?」
健次郎「友だちか……もちろん」
凛 「ありがとう……センセイ!!」
  反則的に可愛い笑顔で微笑む凛。
健次郎「────」

○動画サイト上・とあるアパート・表
  スマホで撮影された映像。
  アパートに帰宅した男性、榎本(47)
  に声を掛ける撮影者の男性(25)。
撮影者の声「どうも、榎本さん?」
榎本「……なんですか?」
撮影者の声「十年前、務めてた小学校で子ど
 もに悪戯した榎本さんですよね?」
榎本「!! ち、違います!!」
  部屋に入ろうとするが、撮影者に阻まれ
  てしまう榎本。
撮影者の声「近所の皆さん、ここにロリコン
 犯罪者がいますよ!! 危ない人ですよ!」
榎本「や、止めろ!!」
  撮影者と揉み合いになる榎本、転倒する。
  カメラは床に転げ落ちながらも、撮影を
  続けている。
撮影者の声「お前らロリコンに生きてる価値
 なんか無いんだよ!!」
  と、倒れた榎本を蹴る。
  動画は、ここで終わっている。

○時任家・居間(夜)
  スマホで動画を見ていた健次郎。
  動画のタイトルは「ロリコン天誅した結
果www」
健次郎「…………ん?」
  スマホが鳴る。
健次郎「(電話に出て)はい……え?」

○病院・病室(同)
恵利の病室に駆けつける健次郎。
健次郎「はぁはぁ……母さん!?」
  健太郎が妻(32)と娘(6)と先に到
  着していた。
健太郎「母さん……健次郎が来たよ」
恵利「──けん……じろう……」
  意識が混濁している恵利に、必死に叫ぶ
  健次郎。
健次郎「母さん! 僕はここに居るよ!」
  恵利の手を握り、涙を堪える健次郎。
恵利「……ゴメンね」
健次郎「大丈夫だから……大丈夫だよ」
恵利「あなたを……そんな風に……産んで…
 …ゴメンね……」
健次郎「え……?」
恵利「辛かったでしょ……ゴメンねぇ……ち
 ゃんと産んであげられなくて……ゴメンな
 さい……」
健次郎「────」
  涙を流しながら謝る恵利に、絶句する健
  次郎。
恵利「ゴメン……ゴメン……」
  医師と看護士が集まり騒然とする病室内。
健次郎「違う……謝らないでいいんだ……母
 さん……お母さん……!!」
  健次郎の叫び──

○時任家・居間(数日後)
  居間に祭壇が作られ、恵利の遺影と骨箱
  が安置されている。
健太郎「……それじゃあ、帰るから」
健次郎「ああ……うん」
  惚けた表情で遺影を見つめる健次郎。
健太郎「元気、出せよ」
健次郎「……たまには家族で遊ぶに来てよ」
健太郎「……」
健次郎「僕に娘を会わせたくない?」
健太郎「お前の事を信用してないわけじゃな
 いんだ──」
健次郎「じゃあ、今まで何で会いに来なかっ
 たんだよ? 僕の事を警戒してるからだ
 ろ?!」
健太郎「……そうだよ。お前は子どもしか愛
 せないんだろ!?」
健次郎「だからってお兄ちゃんの子どもに何
 かすると思ってるの!? ねぇ!!! …
 …あのさ、僕らは、もう、兄弟じゃなくな
 っても良いよ……でもさ、俺もお母さんの
 子どもだったんだ……お兄ちゃんと一緒だ
 ……なのに、何で僕だけ違うんだよ……何
 で僕だけが……僕が母さんをずっと、悩ま
 せていたんだ……死ぬ時まで心配して……」
健太郎「────」

○輝政のマンション・輝政の自室(同日)
  どこかの部屋の中、監禁されている幼女
  の動画を見つめる輝政。
輝政「…………」
  窓の外、給水塔、枯れた木立、蔦の絡ま
  るフェンスが見える──
T 『何かに気付いた?』

○丘の上(同・深夜)
  夜空を見上げる健次郎。
健次郎「…………」
和沙の声「やっぱり居た」
  和沙がやって来て、健次郎の隣りに座る。
健次郎「何で……来たんだ?」
和沙「星を見たかったし……センセイに会い
 たかったから」
健次郎「そっか……」
和沙「寂しい……よね」
健次郎「俺は家族に……ペドファイルだと伝
 えていたんだ」
和沙「……そうなんだ」
健次郎「初めは同情してくれたり、治療でき
 るって前向きだった母さんと兄も、治るも
 のじゃないって理解してくれた……でも、
 それは僕の事を諦めたって事だった」
和沙「……」
健次郎「……僕がこんななのは、母さんのせ
 いじゃないのに……死ぬ時まで、僕の心配
 して……謝ってた……解るか? 母親に死
 ぬ間際に『そんな風に産んでゴメン』って
 言われる気持ち?」
和沙「──」
健次郎「消えたいよ……初めから自分なんて、
 この世に居なかった事にしたい……」
  涙ぐむ健次郎を抱き締める和沙。
和沙「ロリコンで……マザコンとか、ホント
 センセイって最悪だね」
健次郎「マザコンで……ペドファイルだ」
和沙「どっちでも良いし……」
健次郎「……お母さん」
  和沙の胸で涙を流す健次郎──

○心療内科・内(別日)
  PCを操作する女性(55)。
女性「…………」
  カルテのデータをUSBメモリにコピー
  していく。
T 『健次郎の通う心療内科──』
  そこには『時任健次郎』の名前も──

○高校・教室内(朝)
  ざわつく教室に和沙が飛び込んで来る。
和沙「おはよう! ギリギリセーフ!!」
生徒一同「……」
  和沙の登場に一瞬静まり返る教室。
和沙「ん、何?」
女生徒A「時任先生の噂……聞いてない?」
和沙「え……噂って?」
女生徒A「…………」
  チャイムが鳴り、健次郎が教室にやって
  来る。
健次郎「おはよう」
生徒一同「………………」
  普段と雰囲気が違う生徒達。
健次郎「……どうかしたか?」
女生徒C「先生……ネットで流れてる情報で
 知ったんですけど……先生が病院に行って
 るって本当何ですか?」
健次郎「……何の事だ?」
女生徒D「……先生が、その……」
女生徒C「──子どもが好きなんですか?」
健次郎「それは……──」
和沙「……」
  言葉に詰まり出てこなくなる健次郎に、 
  教室の生徒達がさざめき立つ。
  「え、本当って事ですか?」
  「ウソ、じゃあ私達の事も、そんな眼で
  見てたの?」
  「いや、小学生が好きらしいよ!」
  「マジで?! うわぁ……本当にヤバい
  やつじゃん……!」
  生徒達の言葉に反論できない健次郎。
  すると突然、
  ダンッ!!
  と、和沙が立ち上がると一気に鎮まる教
  室の喧噪。
生徒一同「…………」
和沙「あのね、センセイは……私と付き合っ
 てるの!!」
健次郎「…………え?」
和沙「色々誤解してるみたいだけど! 私と
 付き合ってるから、そんな重たいロリコン
 とかペドファイルとかじゃないんだよ! 
 だから、そんなヘンタイってわけじゃない
 の! おかしくないの!!」
健次郎「もう、いい……話してる事が支離滅
 裂だ……」
  和沙の肩に手を触れ、座らせようとする
  健次郎、だが和沙は座らない。
和沙「センセイ、ダメだよ……皆、センセイ
 の事、知らないくせに何で、気持ち悪いと
 か怖いとか言えるの!? 好きになっちゃ
 いけない人を好きなるって、どんな気持ち
 か考えた事ある!?」
  泣きながら言葉を振り絞る和沙。
健次郎「……」
和沙「センセイは子供になにもしていないの
 に……それなのに、それだけで今までのセ
 ンセイのしてくれた事、全部、全部! ダ
 メだってなるの!? ねぇ!!?」
  静まりかえる教室内。
  泣く和沙の肩を抱く健次郎──

○時任家・居間(数日後)
  恵利の遺影を前に、のんびりとお菓子を
  食べる健次郎と和沙。
和沙「流石、湯浜さん。弁護士ってスゴいね
 ……謹慎処分だけに済ましてくれてさ」
健次郎「また、学校に行くの憂鬱だけどね」
和沙「でも、謹慎処分って、どう言う意味が
 あるんだろうね? ペドが治るわけでも無
 いのに」
健次郎「まぁ、ゆっくり休んでから仕事復帰
 できると考えれば……良いんじゃないかな」
和沙「あ、見て見て!」
  テレビのCMに凛が出ている。
健次郎「あのさ、何で普通にウチに居るの?」
和沙「センセイ居ないのに学校行ってもしょ
 うがいないでしょ?」
健次郎「さいですか……」
和沙「怒らないんだ」
健次郎「もう、諦めたよ」
T 『まったりした時間』
  テレビに出ている凛を見つめる二人。

○テレビ局・楽屋(同日)
  機嫌良さそうに、鼻歌を歌いながら準備
  をうする凛。
紗登子「何か良い事ありました?」
凛 「ん……友だちできた」
紗登子「え! 友だち!? 凛さんに!?」
凛 「住吉……どういう意味?」
  張り付いた笑顔で紗登子を睨む凛。
紗登子「ひいいい!! い、いえ……その、
 どんな人何ですか?」
凛 「優しい人……お姉ちゃんが片想いして
 る人だよ」
紗登子「何か、複雑そうですね……」
スタッフ「住吉さん、すみません!」
  スタッフに呼び出される紗登子。
紗登子「あ、はい! 今行きます! ちょっ
 と行ってきますね!」
凛 「ん……行ってらっしゃい」
  紗登子が去り、一人きりの楽屋に誰かが
  やって来る。
凛 「? はーい」
  扉を開けると、誰かの人影──

○松陰家・表(同日・夜)
  自宅に慌てて帰って来る和沙。
和沙「お母さん!」
雅子「和沙!! あなたに連絡来てない?!」
和沙「来てないよ!」
紗登子「私が付いていたのに申し訳ありませ
 ん……もう、警察には通報して捜索を開始
 してもらっています」
  神妙な面持ちの紗登子。
  そこへ報道陣がやって来る。
リポーター「すみません! 松陰凛ちゃんが
 失踪したという事で、ご家族の皆様にコメ
 ントを頂けませんでしょうか?」
雅子「!!?」
リポーター「辛いとは思いますが……お母様
 何か一言頂けませんか!?」
紗登子「取材はご遠慮ください!!」
リポーター「今回の失踪が最近連続している、
 誘拐事件と関係していると思いますか?!」
  逃げるように自宅に駆け込む和沙達。
雅子「……何で凛が……凛……」
和沙「────」

○輝政のマンション・輝政の自室(別日)
  どこかの部屋の中、監禁されている幼女
  の動画に映った外の景色を見つめる輝政。
輝政「ここは……?」
  と、手元の書類や地図と見比べる。

○時任家・居間(別日・深夜)
  テレビで凛の失踪を、誘拐の疑いが濃厚
  と報じるニュース番組を見つめる健次郎。
健次郎「…………?」
  チャイムが鳴る。

○同・玄関(同・同)
  健次郎、扉を開けると和沙が立っている。
健次郎「……」
和沙「センセイ……」

○同・居間(同・同)
  項垂れ、暗い表情の和沙に暖かい飲み物
  を出す健次郎。
健次郎「……凛ちゃん、見つかるよ」
和沙「慰め……ありがとうございます」
健次郎「早く見つかると良いな」
和沙「センセイって……恋人居た事無いんで
 すよね? 子供しか好きになれないし……」
健次郎「何……急にどうした?」
和沙「世間話です……良く我慢できますね」
健次郎「……恋人なら、居た事あるよ」
和沙「え……?」
  顔を上げる和沙。
健次郎「大学生の時……付き合ってた女性が
 居たよ」
和沙「それは……大人の女性?」
健次郎「同い年だったよ……ちゃんと大人と
 付き合えば、自分も普通になれるんじゃな
 いかって思った……けど、ダメだった」
和沙「じゃあ……その……した事ある?」
健次郎「……したよ」
和沙「…………」
健次郎「でもな。彼女が本当に好きな女の子
 の代わりにしてるだけで……恋人を愛した
 り、性的に昂奮したりできないのに無理し
 てセックスして……虚しかったよ……だか
 ら直ぐに別れた」
和沙「なんだ……できるんだ」
  ふらりと立ち上がる和沙。
健次郎「?? どうした?」
和沙「大人とも……私ともセックスできるの
 に、ずっと隠してたとか……フフ……セン
 セイもズルイですね」
健次郎「お、おい」
  座る健次郎の上になり、無理矢理キスを
  する和沙。
健次郎「止めろって」
和沙「私の……ファーストキスです」
健次郎「もっと、ロマンチックな場面でしろ
 よ……」
和沙「そうしたかったですけど……もう、い
 いんです。センセイが私の物になるなら」
  服を脱ぎ始める和沙、なし崩し的にセッ
  クスをしようとする。
和沙「センセイ……私としよう?」
健次郎「──」
  健次郎を強く抱き締める和沙。
  しかし、無反応で虚空を見つめるだけの
  健次郎。
和沙「センセイ……?」
健次郎「ダメだ……」
和沙「何でダメなの? 凛の代わりでも私は
 良いんだよ……!」
  健次郎に貪り付くようにキスをする和沙。
  愛も昂奮も快感も無い健次郎。
健次郎「──」
和沙「……ダメなの? 私じゃ代わりにもな
 れないの?」
健次郎「……ゴメン」
和沙「私はセンセイの恋人にも……セックス
 するだけの関係にもなれない……好きな人
 がペドって……私どうすればいいの?」
健次郎「────」
  項垂れる和沙、嗚咽を堪える──

○輝政のマンション・リビング内(別日)
  健次郎と淳が輝政のマンションに集まっ
  ている。
淳 「──本当に見覚えあるんですか?」
輝政「ああ、昔の依頼人の家で見た風景とそ
 っくりなんだ」
  誘拐犯が公開した動画、写り込んだ窓の
  外の画像をアップにしたPC画面。
健次郎「でも、本当に動画の場所と一緒なん
 ですか? 似た風景って事も……?」
輝政「だから確認したいんだ、今あそこは依
 頼人も手放していて無人のはずだ……誰か
 が、あそこを使っているとしたら──」
淳 「誘拐犯って事ですか……」
健次郎「……」

○別荘地(別日)
  人気の無い別荘地を通り抜ける車。
  車内には健次郎達が乗っている。

○同・廃墟・表(同)
  一見、廃墟にしか見えない建物。
健次郎「……」
  健次郎達、廃墟を見上げる。

○同・同・内(同)
  廃墟内を侵入する健次郎達。
輝政「手分けして探してみよう」
健次郎「はい」
  それぞれ、別れて探索を始める。
      ×   ×   ×
  健次郎、シーツが掛かられた何かを発見
  し近づく。
健次郎「…………」
  慎重に近づき、シーツを捲る!
  だが、そこにはガラクタがあるだけ。
健次郎「──ふぅ……」
      ×   ×   ×
  輝政、動画内の窓の外の風景をプリント
  アウトした写真を見ながら、二階を探索
  する。
輝政「……ここか?」
  微妙に角度が違う良く似た風景の窓を見
  つけるが、周囲には特に何もない。
輝政「…………?」
  足元の絨毯に違和感を感じる輝政、絨毯
  を引き剥がすと階下に通じる隠し扉を見
  つける。

○同・隠しスペース
  丁度、階下の隠しスペースにも窓があり、
  そこからの風景が動画の風景と一致する。
輝政「ここか……」
  他の部屋と違い、綺麗に手入れされてい
  る隠しスペースを進む輝政。
  人の気配。
輝政「……誰か居るのか!?」
  静寂。
輝政「……」
  前に進む輝政、視界の隅に小さな人影に、
  ハッと横を向く。
輝政「!!」
  そこには幼女達が三人、身を隠すように
  踞っている。
幼女達「…………」
輝政「……君達、誘拐された子達だね? も
 う、大丈夫。助けに来た」
幼女A「……おじさんも……バケモノなの?」
輝政「え……?」
幼女B「男の人は……私達を襲う」
輝政「いや……そんな事は──」
凛の声「ウソ吐き」
  言い淀んでいると、凛が現れる。
輝政「!? 凛ちゃん??」
凛 「大人は私達に乱暴するんでしょ?」
輝政「誘拐犯に酷い事されたのか? ……そ
 んな人ばかりじゃないんだ!」
凛 「ホントに? 子供になにもしないの?」
  刺すような視線で輝政を睨む凛。
輝政「それは──」
  次の瞬間──
  ガンッ!!
輝政「!!?」
  頭部への強い打撃で倒れる輝政、床に崩
  れ落ちる。
女性の声「──皆、大丈夫?」
凛 「はい、大丈夫です……」
  輝政の視界。
  捕らえきれない誘拐犯の姿、声は女性。
女性の声「この人達はバケモノなの……だか
 ら私と居るのが安全なの……外はバケモノ
 ばかりなんだから──」
輝政「誰……だ……?」
  徐々に薄れいく輝政の意識──
      ×   ×   ×
健次郎「湯浜さん!? どこですか!!」
  階下に繋がる隠し扉が開いている事に気
  づく淳。
淳 「時任さん!! これ!!」
健次郎「……ん?」
  廃墟の外、車が走り去る音を聞く健次郎。
淳 「今のって……?」
健次郎「──湯浜さん!!」
      ×   ×   ×
  隠しスペースに潜入した健次郎と淳。
  ゆっくりと前に進む。
淳 「ここって……」
健次郎「シッ!」
  何か物音がする。
  扉の向う床を何かが蠢く音──
健次郎「──ッ!!」
  思い切って扉を開くとそこには、輝政が
  頭から血を流し倒れている。
淳 「湯浜さん!?」
  慌てて抱き起こす健次郎。
健次郎「聞こえますか!?」
輝政「──……生きていた」
健次郎「え!?」
輝政「みんな……生きてる」
健次郎「……」
  ほっとする健次郎、だが、
輝政「はぁ……はぁ……」
  呼吸が乱れる輝政。
健次郎「大丈夫ですか!?」
輝政「すまない──」
  急に意識を失い、呼吸を止める輝政。
淳 「湯浜さん……? 湯浜さん!!」
健次郎「ちょっと……え? 湯浜さん!?」
輝政「────」
  二人の絶叫にも返事が無い輝政──

○同・表(同日・夜)
  警察車両が集まっている。
  男性刑事(47)に詰問される健次郎。
刑事「──で、亡くなったというわけか……
 最近は子供に悪戯した人間へのリンチみた
 いな自警団連中いるけど……おたくらも似
 た様なもんか?」
健次郎「……」
淳 「……」
刑事「結局、おたくらはどんな仲だったの? 
 死んだ湯浜さんとは」
淳 「僕らの関係は──」
  思わず言葉に詰まる淳。
刑事「お互いに、繋がり無さそうだけど?」
健次郎「僕たちは……友だちでした」
刑事「友だち」
健次郎「はい……友だちだったんです……本
 当の……本当の友だちでした……」
  涙を流す健次郎──

○時任家・表(別日)
  和沙、チャイムを押すか逡巡している。
和沙「……どうしようかな」
  すると、扉が中から開かれる。
健次郎「……あ」
和沙「あ……こんにちは」
健次郎・和沙「────」
  気まずい二人。
和沙「……本当に亡くなったんですか? 湯
 浜さん……?」
健次郎「(頷く)……ああ」
和沙「そんな──」
  絶句する和沙、そこへ弥生が現れる。
弥生「失礼します。私フリージャーナリスト
 の新川と申します」
  と、名刺を健次郎に手渡す。
健次郎「何ですか……?」
弥生「ご友人の湯浜さんが亡くなった件に関
 して、お話聴かせて下さいませんか?」
健次郎「……何も話す事ありません」
弥生「失礼ですが……時任さん、あなた……
 ペドファイルなんですよね?」
和沙「!?」
弥生「ネットに流出している心療内科のカル
 テにあなたの個人情報が出てますよね……
 ペドファイルとして『治療』しているんで
 すよね?」
健次郎「……『治療』じゃありません。カウ
 ンセリングと薬で……欲望を抑えているだ
 けです」    
弥生「そうですか……湯浜さんもペドファイ
 ルだったでは無いですか?」
健次郎「…………」
弥生「あなた達は誘拐犯の隠れ家を見つけた
 と言ってますが、誘拐犯と何か関係がある
 んではないですか?」
健次郎「……不愉快です」
  と、扉を閉めようとする。
弥生「世間はペドファイルは犯罪予備軍だと
 思っています、今回の事件もペドファイル
 の犯行だと思われています……あなたは本
 当に無関係なんですか?!」
  自宅内に逃げ込む健次郎と和沙。
健次郎「はぁはぁ……」
和沙「……」
弥生の声「あなた達は……今は何もしていな
 くても、その願が叶う時は罪を犯す時なん
 ですよ?」
健次郎「知ってる……!」
  扉を殴りつける健次郎。
弥生の声「私は……子ども達の味方です」
  立ち去る弥生。
健次郎「────」

○輝政のマンション・リビング(別日)
  薫と話す健次郎と淳、そして和沙。
薫 「──本当に彼はペドファイルだったん
 ですね」
健次郎「はい……でも、誘拐には関わってい
 ません」
薫 「そう言い切れるんですか? 私には、
 もう彼を信じられなくなりました……」
和沙「だって、湯浜さんは可愛い男の子が好
 きだったんです! 女の子誘拐するはずな
 いじゃないですか!」
健次郎「彼が男の子を好きだったのは事実で
 す……でも、子供を傷付けるような付き合
 いをできずに、僕らは悩み苦しんでいまし
 た……」
薫 「……彼がただのゲイなんじゃなくてペ  
 ドファイルだった事に気づけなかった事が
 ショックです……私は……子どもを好きな
 のは無しかなって、理性とは別に感情的に
 思っちゃうんです……ごめんなさい……」
健次郎「────」

○図書館(別日)
  犯罪に関しての書籍、過去の新聞記事等
  を漁る健次郎と淳、そして和沙。
健次郎の声「誘拐された子の共通点は?」
淳の声「同じくらいの年齢の女の子……」
和沙の声「背丈とか、顔とか、髪型とか……
 何か全体的に似てるよね? 好みなのかな
 …?」
健次郎の声「それ以外の理由があるとしたら?
 似た少女を誘拐する理由が……」
  三十年前の週刊誌を読む健次郎、そこに
  幼児誘拐事件の記事を見つける。
健次郎「……凛ちゃん?」
和沙「え? 似てるね……」
  そこには凛に良く似た少女、亀田絵美
 (9)の写真が掲載されている。
  記事では三年監禁され救出されたとある。
健次郎「これって……もしかして──」
和沙「何か解ったの?」

○亀田家・表(別日)
  庭の手入れをする亀田俊一(66)
健次郎「亀田さんですか?」
俊一「……どなたですか?」
健次郎「娘さんの事でお話したいんですが」
俊一「……娘は、ここにはいません」
健次郎「今はどこに?」
俊一「知りません……離婚した妻に連れて行
 かれたので」
健次郎「奥様の旧姓は何と言うんですか?」
俊一「何故、そこまで言わないといけないん
 ですか……それじゃなくても、あの事件が
 あって何度も何度もマスコミに根掘り葉掘
 り訊かれたってのに……」
  健次郎から視線を逸らし、庭をいじる俊
  一、渋面をつくる。
俊一「あの子なりに、あの事件を乗り越えよ
 うとしているんだよ……!」
健次郎「……復讐しようとしているんじゃな
 いですか?」
俊一「犯人は……もう死んでる」
健次郎「違いますペドファイル──その犯人
 と同じ様な事をするかもしれない人々に、
 復讐しようとしているんじゃないですか?」
俊一「……」
健次郎「新川弥生……娘さんの今の名前じゃ
 ないですか?」
俊一「────」

○テレビ画面内・スタジオ(同日)
  カメラに向かい呼び掛ける弥生。
弥生「日本では子どもへの性犯罪者への対応
 があまりにも甘過ぎます。私は厳罰化と出
 所後の情報公開が最低でも必要だと考えま
 す。ペドファイルの人権は制限されて──」

○弥生の自宅・全景(別日)
  郊外の一軒家。
  周り近所には隣接した家は無い。

○同・内(同日)
  テレビに映る弥生の姿を見つめる幼女達、
  その中には凛も居る。
凛 「……」
  チャイムが鳴る。
  警戒する凛達、玄関の扉を開けようとし
  ない。
  暫く玄関に人の気配があるが、消える。 
  次の瞬間ガシャン
  と、リビングの窓が破られる。
凛 「!!? 早く逃げて!!」
  二階に逃げる凛達。
健次郎「不法侵入」
和沙「妹の為なら前科者にもなる覚悟ですよ」
淳 「誰かいた気配ですね……」
  点けっぱなしのテレビ。
健次郎「今回は別れずに一緒に探しましょう」
和沙「うん」
淳 「……はい」
  室内の探索を始める健次郎達。

○同・二階(同時刻)
  健次郎たちの声が聞こえる凛、電話を掛
  けている。
凛 「弥生さん……人が来てます……私のお
 姉ちゃんも居ます……」

○同・階段(同)
  階段を登る健次郎達、二階のある部屋の
  扉を開けると四つの布団が並んでいる。
和沙「ここで生活してた……」
淳 「でも、鍵も中から掛かっていたけど…
 …何で逃げられなかったんですかね?」
健次郎「……?」
  押し入れから何かの気配を感じる健次郎。
  思い切って押し入れを開ける!
健次郎「!!」
  そこには凛達が怯え、健次郎を睨むよう
  な視線向けて身を寄せあっている。
和沙「凛!? 大丈夫!!」
  駆け寄ろうとする和沙に、
凛 「来ないで!!」
和沙「!? どうしたの??」
凛 「大人は……みんな悪い人だ」
和沙「いや、そんな事無いよ! そりゃ、こ
 んな誘拐する悪い人も居るけど……お姉ち
 ゃん達は助けに来たんだよ!?」
凛 「(首を横に振り)……ウソ」
和沙「ウソじゃない!!」
健次郎「犯人に何か言われたの?」
凛 「……大人は私達に乱暴する……バケモ
 ノだって。あの人は私達を助けてくれた」
淳 「洗脳されてる……?」
弥生「(オフ)──洗脳なんかしてませんよ、
 本当の事を教えただけです」
健次郎達「!!」
  振り返るとナイフを手にした弥生が立っ
  ている。
弥生「また会いましたね」
健次郎「自分が誘拐されて……同じ思いをこ
 の子たちにさせてたのか?」
弥生「違いますよ、この世界から救ってるん
 です。凛ちゃんも、他の子もペドファイル
 の被害に遭ったり、遭いそうになった子達
 なんですよ」
健次郎「……」
弥生「もしかして、あなたが好きだったのは
 ……凛ちゃんだったんですか?」
健次郎「──」
凛 「センセイも……やっぱり悪い人だった
 の?」
和沙「違う! センセイは凛を助けてくれた
 でしょ!?」
凛 「でも、子どもを好きな大人は皆、ヘン
 タイでバケモノでしょ?」
和沙「だから違うの! 眼を醒まして!!」
弥生「フフ……嫌われちゃいましたね?」
健次郎「お前を誘拐した犯人……自殺したん
 だってな」
弥生「……それがどうしたんですか?」
健次郎「三年間も監禁されて、最期は警察に
 捕まる前に自殺した……お前の目の前で」
弥生「……」
────────────────────
  フラッシュバック。
  中年の男(50)、幼い弥生に顔を近づ
  け笑う。怯える弥生──
────────────────────
健次郎「三年も監禁されていると身長も伸び
 て、段々大人ぽくなったんだろうな」
弥生「ウルサい……」
健次郎「大人ぽくなった、お前をソイツは飽
 き始めてたんじゃないか? 愛情を失い、
 お前は用無しになるところだったんじゃな
 いか?」
弥生「ウルサい!!!」
  叫ぶ弥生に動揺する凛達。
凛 「!!」
弥生「私は、アイツなんて忘れた……忘れて
 る……乗り越えたんだ……もう、何も──」
健次郎「あんたは、変わってない……あの頃
 の少女だった自分と何も変わってない」
弥生「ッ!!」
  急に凛を掴み起たせると、喉元にナイフ
  を突きつける弥生。
凛 「!!? え!?」
和沙「止めて!!」
淳 「ウソだろ……!!」
弥生「お前の気持ちを、この子に伝えてみろ 
 よ!! できるのか!?」
健次郎「……」
弥生「自分が、あのバケモノと違うって証明
 できる!? お前達ペドファイルは同じ…
 …同じバケモノだ……!」
  狂気じみた笑みを浮かべる弥生。
  健次郎、逡巡するが意を決する。
健次郎「──凛ちゃん、僕は……君が好きだ」
凛 「……」
健次郎「僕の好きは、普通の大人が子どもに
 感じる好きとは違って……大人同士の好き
 と同じなんだ……気持ち悪いよね? 解る
 よ……でも、止められないんだ……」
和沙「…………」
弥生「大きくなったら愛せなくなるクセに、
 なに言ってるんだよ!!」
健次郎「そうだよ……僕はバケモノなのかも
 しれない。次に生まれ変わるなら普通に産
 まれてきたい……こんなに孤独で、罪の意
 識でいっぱいな人生なんて、もう味わいた
 ないよ! でも……でも、好きになった感
 情だけは噓じゃない! 本当の気持ちだ!」
和沙「センセイ……」
健次郎「誰かを好きになった瞬間だけは後悔
 してない……!」
  脅していたはずが、堂々した健次郎に当
  惑する弥生。
弥生「……お前らは、ただのバケモノだ……
 私の事を好きなようにして、傷付けて……
 棄てた……!」
────────────────────
  フラッシュバック。
  とある一軒家。警官が突入して来る。
  幼い弥生に包丁を突きつけ警官を脅す男。
  怯えた表情の弥生──
────────────────────  
  現在。凛にナイフを突きつける弥生、過
  去のフラッシュバックした映像と、重な
  ってしまう。
弥生「──私は、アイツとは違う……」
  ゆっくりと弥生に近づく健次郎。
健次郎「あんたの眼の前で、アイツは死んだ」
────────────────────
  フラッシュバック。
  弥生に包丁を突きつける男、だが、警官
  がジリジリと近づくと、突然諦めたよう
  に手を緩める。
  逃げ出す弥生を抱きかかえる警官。
  次の瞬間。
  男、自分の喉を包丁で掻っ切る。
  鮮血に染まる男を、慄然として見つめる
  幼い弥生──
────────────────────
  フラッシュバックに囚われ、現実との境
  目を失う弥生。
弥生「私は悪く無いの……悪く無い!」
  凛を捕まえていた手を緩める弥生、逃げ
  出す凛を抱き締める和沙。
  自分の喉元にナイフを当てる弥生。
和沙・淳「!!!」
健次郎「──そうだ……君は何も悪くない」
  と、弥生に手を延ばす健次郎。
弥生「ダメ……私は、同じ……だから……終
 わらせなきゃ……!」
健次郎「子どもを守りたかっただけなんだろ?
 死ぬ必要は無い……!」
  徐々に近づく健次郎に首を横に振る弥生。
弥生「……こうするしかないの!!」
  と、包丁で喉を掻っ切ろうとする!
和沙・淳「ッ!!!」
凛 「止めて!!!」
  健次郎、寸でで弥生の手を掴む。
弥生「離して!!」
健次郎「この子達に、お前と同じ思いさせる
 のか?!」
  弥生、凛達を見遣ると、幼い頃の自分に
  凛の面差しが重なる。
弥生「う……ううううわあああぁあん!」
健次郎「…………」
  踞り、子どものように哭く弥生──

○同・表(数時間後)
  警察車両に乗せられた健次郎と和沙と淳、
  そして凛。
健次郎「さっきは……ゴメンね」
和沙「……誰に言ってるんですか?」
健次郎「妹さんだよ」
凛 「…………」
和沙「さっきの事ですか……私の前で妹に告
 らないでくださいよ」
健次郎「僕がおかしいのは本当だ……嫌われ
 ても仕方ない存在なんだ」
凛 「嫌いじゃない……よ」
健次郎「え?」
凛 「だって、友だちでしょ?」
健次郎「ああ……」
和沙「正気に戻ったの?」
凛 「私達、ずっと男の人はバケモノだって
 言われてた……でも、センセイの告白聴い 
 らさ……同じ人間なんだって。人を好きに
 なるのは、仕方ないって思った」
健次郎「そっか……」
凛 「でも、センセイの事は……友だちとし
 てしか思えないけど」
和沙「あ、失恋しましたね!」
健次郎「……うるさい」
T 『健次郎、恋破れる』
凛 「変わらないね……(微笑む)」
  笑顔が戻る凛に、健次郎達も微笑む。
淳 「──これで、ペドファイルへの風当た
 りも変わりますかね?」
健次郎「一度芽生えた恐怖感とか嫌悪感は、
 そう簡単に消えないよ……」
淳 「そうですよね……」
  連行されて行く弥生を、窓越しに見つめ
  る健次郎達。
弥生「…………」
健次郎達「────」

○時任家・恵利の自室(別日)
  恵利の遺品を整理する健次郎、古いアル
  バムを見つける。
健次郎「……」
  小学生時代から高校生にかけて、成長し
  ていく健次郎と健太郎の姿が写った写真。
健次郎「…………」
  高校生の健次郎(17)子ども達と一緒
  に写った集合写真を見つめる。

○キャンプ場(回想・十年前)
  健次郎(17)が大人や高校生達にまじ
  り、小学生の子ども達と対面している。
主催者「──では、今回の天体観測キャンプ
 に協力してくれる、ボランティアのお兄さ
 ん、お姉さん達から皆に自己紹介してもら
 いましょうね!」
  自己紹介していく高校生達、健次郎の番。
健次郎「……時任健次郎です。よろしくお願
 いします」
  小学生達、拍手をする。
      ×   ×   ×
  夕食の準備をする一同。
  そんな中、独りで不貞腐れる幼女(7)。
健次郎「……どうしたの?」
幼女「ともだちと来るつもりだったのに……
 来れなくなったの……だから一人なんだ」
健次郎「そっか……それは寂しいね……カレ
 ー作るの手伝ってくれないかな? みんな
 と仲良くなったら、きっと寂しく無くなる
 よ?」
幼女「うん……」
  炊事場に向かう幼女を見つめる健次郎。
健次郎「……」
     ×   ×   ×
  カレーを食べる一同。
  子供達の中、笑顔になっている幼女を見
  て、思わず微笑む健次郎。
健次郎「……」
      ×   ×   ×
  夜になったキャンプ場。
  子供達に高校生達が付いて、天体望遠鏡
  の使い方を教えている。
幼女「ねぇ……あの星は?」
健次郎「あれはデネブ……他にベガとアルタ
 イルを結んで、夏の大三角形って呼ばれて
 いるんだ」
幼女「夏の大三角形……本当だ三角形だね!」
  天体望遠鏡を覗きはしゃぐ幼女の横顔に
  見入る健次郎、思わず手が伸びる──
健次郎「────」
幼女「……あ! 見た!?」
健次郎「(我に返り)……え? 何?」
幼女「流れ星だよ! 消えちゃったけど」
健次郎「そっか……残念だね」
  天体望遠鏡から視線を外し、健次郎に、  
幼女「流れ星にね、早く大人になって宇宙飛
 行士になりたいってお願いしたよ! お兄
 ちゃんは流れ星に何をお願いしたい?」
健次郎「僕は……何だろう──」
幼女「なに、なに?」
  純粋な幼女の視線に当惑する健次郎。
健次郎「──僕は普通になりたい」
幼女「ふつう?」
健次郎「普通に大人になって、仕事して……
 普通に結婚したい……普通で良いんだ」
幼女「ふーん……何だかふつうっていうのも
 大変そうだね……」
健次郎「ああ……」
  思わず涙ぐむ健次郎。
幼女「……お兄ちゃん名前なんだっけ?」
健次郎「時任健次郎……」
幼女「けんじろうお兄ちゃんなら、きっと夢
 叶うよ! だから大丈夫!!」
健次郎「……ありがとう」
幼女「がんばろうね! 和沙も頑張るから!」
健次郎「なぎさちゃんも……夢を叶えるのに
 頑張ろうね──」
T 『健次郎と和沙の出逢い──』
  幼女だった和沙と健次郎は出逢っていた。

○時任家・居間(別日・回想)
  呆然と涙ぐむ恵利(51)と戸惑う健太
  郎(23)と向い合う健次郎。
健次郎「──ゴメン……こんな自分でゴメン
 なさい」
恵利「……辛かったでしょ? 気づけなくて、
 母さんが悪かったよ……」
健次郎「お母さんは何も悪く無いよ……」
健太郎「健次郎……お前も悪く無い。きっと
 治せるから、頑張ってみよう……な?」
健次郎「ありがとう……」
健太郎「お前がどんな人を好きでも、お前は
 俺の弟で、家族だから……泣くな」
  健次郎を抱き締める健太郎──

○健太郎のマンション(現在・休日)
  現在。
  健太郎、妻に話し掛けられる。
妻 「──ねぇ、保育園さ、今月から男の保
 育士さん入って来たんだよ」
健太郎「へぇ」
妻 「イヤだよね」
健太郎「何でだよ?」
妻 「だってウチ、女の子だし着替えとかも
 させるでしょ? 男の人に見られたくない
 でしょ? ロリコンだったらどうするの?
 気持ち悪い」
健太郎「…………」
  
○時任家・居間(同日)
  健次郎と和沙がお菓子を食べながら、凛
  が出演するテレビ番組を見ている。
健次郎「完全復活だね」
和沙「プロですから!」
健次郎「若いのに偉いねぇ……あのさ、昔の
 事って憶えてる? 凛ちゃんぐらいの頃」
和沙「え? うーん……微妙?」
健次郎「……だよな」
和沙「え、何?」
健次郎「別に」
和沙「怪しいなぁ……」
健次郎「お前に言われたく無い」
和沙「あのさ、今日は淳くんのウチに遊びに
 行くんでしょ? 一緒に行っていい?」
健次郎「別に、どうぞ」
  のんびりとした雰囲気の二人。
  テレビ画面には凛が映っている。
和沙「ペドって変われないんだよね」
健次郎「……そうだな」
和沙「じゃあ、変わるのは周りだったら、ど
 うなんだろう?」
健次郎「え?」
和沙「周りの人が友だちになってくれたり、
 理解してくれる人が少しでも居たら……世
 の中、変わるのかな?」
健次郎「それは理想論にすぎないよ……でも
 ──僕は、友だちができて良かったよ」
和沙「……だよね」
  微笑み、お菓子を食べる和沙。

○元町家・リビング(同)
  寝ぼけ眼でリビングにやって来る淳、そ
  こに姪の結衣(5)と淳の姉である沙織
  (29)が居る。
沙織「あ、やっと起きて来た」
結衣「おはよう!」
淳 「おはよう……母さん達は?」
沙織「もう、出掛けたよ。それでさ、お願い
 なんだけどさ──」
淳 「また!?」
沙織「お願い!!」
淳 「いや……無理だって、マジで──」
  困る淳に抱きつく結衣。
結衣「ユイと遊んでよ!!」
沙織「そうだ! 遊んでよ叔父さん!」
淳 「……はぁ」

○和菓子屋(同)
  和菓子の詰め合わせを買う健次郎。
健次郎「三人でお茶でもしながら食べよう」
和沙「和菓子もいいですよね〜日本の心って
 感じで」

○元町家・庭〜玄関〜台所(同)
  庭で淳と結衣が二人きりで遊ぶ。
淳 「はい」
  ボールを放る淳。
結衣「高いよ!」
淳 「ゴメン、ゴメン……それ!」
結衣「まただよ!」
  ボールが遠くに行ってしまい、取りに走
  る結衣。
  汗に滲む結衣の首筋に、視線が釘付けに
  なる淳──
結衣「手が届かないよ……」
淳 「────」
  ゆっくりと結衣の後ろに近づく淳、結衣
  を抱き締めようとした瞬間。
結衣「(振り返り)淳くん! 取って!」
淳 「え……ああ、うん」
  我に返る淳、ボールを取って結衣に渡す。
淳 「……ちょっと、一人で遊んでてくれな
 いかな?」
結衣「わかった。すぐに帰ってきてね!」
淳 「うん……」
  自宅に入る淳、玄関に踞る。
淳 「はぁはぁはぁ……何をしようとしたん
 だよ……ダメだろ……僕は……ダメだ」
  そのまま、足早に台所に入ると乱暴に包
  丁を手に取る淳。
淳 「はぁはぁはぁはぁ……!」

○同・表(同)
  チャイムを鳴らすが反応が無い元町家。
和沙「留守かな?」
健次郎「おかしいな……」
  すると庭から結衣が出て来る。
結衣「だれですか?」
健次郎「元町淳君は居ますか?」
結衣「はい、えっと家の中にいると思います。
 ホントはすぐに出てくるはずだったのに…
 …ずっと出てこないけど……」
健次郎「────」

○同・台所(同)
  台所に飛び込む健次郎達の目の前、手首
  から血を流し倒れる淳の姿。
結衣「……淳くん?」
健次郎「淳君!?」
和沙「ダメ!」
  と、結衣を抱き締める和沙。
健次郎「どうして、こんな……!」
  淳の傷口を止血しようとする健次郎。
淳 「僕は……ダメなんです……このままじ
 ゃ、結衣の事を傷付け……ちゃいます……」
健次郎「解った……解ったから黙ってろ!」

○路地(同)
  人気の無い路地を瀕死の淳を抱きかかえ
  走る健次郎、そして和沙。
淳 「僕たちは……幸せになれません……な
 っちゃいけません……なのに……生きてい
 かなきゃならないんですか……? 耐えら
 れるんですか……?」
健次郎「わからない……でも……でも、生き
 るんだよ……生きてくれ!!」
淳 「生きるのって……しんどいですね……」
和沙「死なないで……頑張って!!」
  必死に走る健次郎と和沙。
健次郎「──はぁはぁ……死ぬな!!」
淳 「僕は……生きたいのかな……」
  路上に落ちる淳の血。
  青空の下を走る。
  生き延びた先に希望はあるか解らない。
  それでも、ただ走る健次郎と和沙。
                  (終)

「神さま、このロリコンたちを殺してください‼」(PDFファイル:901.94 KB)
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