ニキビとエイリアン 恋愛

 あさ子(14)が気になる男の子は、エイリアンだった。地球に現れた宇宙難民と人類が微妙な軋轢の中で共存する近未来。あさ子は同級生のエイリアン、凜くん(フルネームはとても長い)と同じ班になる。彼はなぜか少女マンガに出てくるイケメンキャラの真似をして友達になろうとしてくる。その不器用さに笑いながらも幸せな時間を過ごしていたあさ子だが、父親がエイリアン排外主義者である事が凜くんにバレてしまう……。
美野哲郎 14 0 0 06/26
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第一稿

〇鮫島家・洗面所(朝)
   洗顔中の鮫島あさ子(14)、鏡に映る右頬にニキビ。
あさ子(ショック)「うわあーん、お姉ちゃーん」
   足音。廊下から姉・ゆき子(17)と父・ ...続きを読む
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〇鮫島家・洗面所(朝)
   洗顔中の鮫島あさ子(14)、鏡に映る右頬にニキビ。
あさ子(ショック)「うわあーん、お姉ちゃーん」
   足音。廊下から姉・ゆき子(17)と父・武雄(49)が顔を出す。
武雄「どうした、あさ子?」
ゆき子「アンタまだ着替えてないの? 凛くんとやらお迎え来るんでしょ?」
   あさ子、振り返って自分の頬を指さす。
ゆき子(ピンとこず)「何よ?」
あさ子「ニキビ出来ちゃった」
武雄「くだらん」
   武雄、ため息ついて引き返す。
あさ子「くだらなくなんか、黙れクソジジイっ。
 (甘えた声音で)お姉ちゃんどうしよう、凛くん来ちゃうよ」
ゆき子「どうしようって、アンタいつまで甘ったれてる気?」
   あさ子、泣きそうに懇願。
ゆき子(溜め息)「おいで」

〇同・台所
   テーブルにつこうとした武雄、ふと思い当たり、
武雄「うん?」
   振り返り、ゆき子と共に階段を上がるあさ子に声をかける。
武雄「あさ子、凛くんって誰だ?」
   あさ子、無視して階段を上がる。  

○同・表の道
   閑静な住宅街の外れ。高台の坂に面した一軒家。
   急勾配の坂を歩いてくる、制服姿の栗原凛(14)。
   緊張の面持ちで鮫島家のインターホンに指をかける。
   と、その表情、急にイケメンアイドル風サービススマイルに。

〇同・ゆき子の部屋
   制服に着替えたあさ子、姿見の前に座る。
   ゆき子、ニキビ薬を指先であさ子の頬に塗る。
   コンシーラーで跡を隠していく。
ゆき子「アンタずっとお肌つやつやだったもんねー。
 いい? 絶対掻いたり、こう、圧をかけちゃ駄目だかんね?」
あさ子「うん」
   ゆき子、スポンジでパウダーファンデーションをかけようとして、手を止める。
ゆき子「隠さなくても平気なんだけどなー、アンタそこそこ可愛いし。気にしないよ」
あさ子「私が気にするの。そこそこじゃヤ」
   ゆき子、軽くスポンジをかけていく。
   あさ子、されるがまま。
あさ子「お姉ちゃん」
ゆき子「ん?」
あさ子「私のこと、『そこそこ可愛い』と思ってたの?」
ゆき子「そうよ。ひいき目ぬきに可愛いんじゃないかしら」
あさ子「『すっごく可愛い』の間違いじゃなくて?」
ゆき子「……あさ子に関して確かなのは、『めちゃくちゃ図太い』ってことよ。さ、こんなもんにしとこ」
   ゆき子、手を止め、あさ子の顔を鏡に向かせる。
   あさ子、ニキビが隠れているの確認。
あさ子「んー……」
   インターホンが鳴る。
あさ子(緊張)「……来た」
   ゆき子、あさ子の肩に手を置き、
ゆき子「あさ子はすっごく可愛いよ」
   あさ子、鏡に映る自分の頬を見つめる。

〇メインタイトル

〇同・表の道
   制服姿のあさ子、少し照れて玄関を出る。
   凜、心臓を抑え、大げさに立ちくらみ。
凛「ああ、朝からこんな可愛い女の子をエスコート出来るなんて」
あさ子「20点。まーた変な少女マンガの真似して」
   あさ子、凜の前で得意げに笑みを浮かべる。
あさ子「おはよ、凜くん」
凜「おはよう、鮫島さん」
   凜、家を見あげ、
凛「素敵なお家だね。お姫様に相応しい」
あさ子「うーん。20点。そんな少女マンガある?」
   凜、急にイケメンモードが消えて戸惑い、
凜「え。え。なにか、ダメ?」
あさ子「急に家褒められてもなー」
   凜、気を取り直して高台から町並みを見晴らし、
凛「最高の見晴らしだ。世界が輝いてるね」
あさ子「それって、雲の上より?」
   凜、空を見あげたまま、しばし黙っている。
凛「どっこいどっこい、かな」
あさ子「なにそれ。0点」
   玄関から楽しげにゆき子が顔を覗かせている。
   凛、慌ててお辞儀。
凛「あ、初めまして。栗原凜と申します」
ゆき子「初めましてー、姉です。っていうか今のなに? 面白い子ね」
あさ子「でしょ? 凜くんすぐに少女マンガのパチモンみたいなことするの」
凜「パ、パチモンじゃないよ」
   凜、家の塀であさ子を壁ドン。
凛「君がとっても魅力的だから、自然とこう振る舞ってしまうんだ」
あさ子(まんざらでもなく)「60点。古典的。私たちの親世代のじゃない? それ」
凜(素になって)「これは、古いのか……?」
   ゆき子、爆笑。
あさ子「いいから。行こ、凜くん」
   あさ子の先導で坂を下りだす二人。
ゆき子「行ってらっしゃーい」
   あさ子、凜の横顔を盗み見。
   凜、あさ子の視線に気づくとイケメンスマイル。
   凜の向こうに広がる、高台から見晴らす景色。
   遠く都市の上空、白い雲に混ざり、数十の飛行物体が成層圏に浮かんでいる。
   宇宙船団。幾つかは軌道エレベーターで地上と繋がり、
   船団の上には地球の都市に似たデザインで建物が林立している。
   T『西暦2039年』
あさ子M「突如、日本上空に現れたリボンピ・パピシリオル星船団を筆頭に、複数宙域の宇宙難民が地球に飛来。人類が心の準備も無いままに未知との遭遇、未知との会食、未知とのご近所付き合いを始めてより、早や十数年の月日が流れました」

〇リボンピ団地
   古い団地を使い回した建物群。
   『リボンピ星系移民公営住宅』と示された団地の前に、
   プラカードを掲げたエイリアン排斥デモ隊が座り込みを行っている。
   『ポンピーは地球から出てけ』
   『子供たちの安全を守って』
   『害虫の繁殖を許すな』
   『汚れた血は皆殺しにしろ』
   などの文字が踊る。
   「ポンピー」はリボンピ星人の蔑称。
あさ子M「溢れる難民の居住区が欲しい宇宙人類と、未知のエネルギー技術が欲しい地球人類の思惑が合致したのが幸か不幸か」
   団地から出てくる、見た目は人類と変わらない老人。
   デモ隊の視線に晒されながら、ゴミ捨て場の前へ向かう。
あさ子M「両者は恐る恐る歩み寄りながら、未だ致命的な衝突には至っていません。……か、どうかは識者の間でも意見が分かれる所です」
   老人がゴミ捨て場でゴミを分別して捨てていると、
   デモ隊の若者がペットボトルを老人の頭に投げつける。
   過激派の山本(26)と佐藤(32)。
山本「ポンピー野郎っ」
佐藤「汚れた血よ、神聖なる大地から出てけーっ」
   老人、ペットボトルを拾うと、キャップと本体とを分別して捨てる。
あさ子M「これ、もう至ってない?」

〇天野中学校・外観

〇同・女子トイレ
   鏡の前で前髪を弄るあさ子。ニキビ跡はなんとか隠れている。
   個室のドアが開いて、澤木茉穂(まほ)(14)が出てくる。
茉穂「あ。おはよー、あさ子ちゃんだ」
あさ子「茉穂ちゃんだ。おはよー」
   茉穂、ハンカチを口にくわえて手を洗う。スラッと伸びた背筋。美しい黒髪ロング。
   あさ子、茉穂をじろじろと見て、
あさ子「どう見ても……」
茉穂「うん?」
あさ子「茉穂ちゃんのが大和撫子って感じ」
茉穂「ウソ、ウソ」
あさ子「本当だよウソついてどうすんの。ねえ、茉穂ちゃんて……出来た事ある?」
茉穂「うん? 何が」
あさ子「だから……(口ごもって)ニキビ」
茉穂「ああ。私、アレルギー多いし、すぐ腫れ物出るよ。まだ身体が宇宙仕様なのかも知れないね」
あさ子「ウソだあ、見たことないもん。茉穂ちゃんのお肌いっつも綺麗」
茉穂「気づかないだけだって。気づかれないようにしてるしね、ドキドキしながら」
あさ子「そうなんだ、茉穂ちゃんでも」
   茉穂、少し拗ねた素振りで、
茉穂「やめてよ、その言い方。私だって何も特別じゃないんだから。あさ子ちゃんと変わらないよ」
あさ子「ごめん」
茉穂「で、どうだった?」
あさ子「え?」
茉穂「彼の、朝のお迎え」
   あさ子、ニヤける。が、すぐに落ち着いた表情に戻る。
あさ子「正直わかんない。凛くん、いつもの調子だし。いつもの調子で変だし。茉穂ちゃん強引だよ。同じ班になったくらいで、エスコートしてあげたら? なんて」
   茉穂、ハンカチで手を拭く。
茉穂「でも律儀に来たでしょ、彼。なんとか地球人と接点ほしがってたから」
あさ子「あの変なイケメンごっこは誰知識なの? 
 悪い気はしないけど、距離感じるんだよね」
茉穂「ごめんね、私たちエイリアンも地球言語の学習方法がバラバラなのよ。きっと彼は、どこかで間違ったインプットしちゃったのね。ていうか、私がハマってた中古の少女マンガ全部貸しちゃった時か……」
あさ子「イントネーションは完璧だから、海外の人だって思うのも難しいしな」
茉穂「海外。面白い言葉だね。じゃ、私たちは海の外というより……」
あさ子「空の彼方から来た人たち」
茉穂「……楽しみだね、修学旅行」
   茉穂、あさ子の手を取る。
茉穂「私たちは、仲良しでいよう?」
   あさ子、うなずく。
あさ子M「澤木茉穂ちゃんの本名は、ギュリフォニッチェルンデル澤木茉穂PD―S204スコアグレッフォイサラッペッペッペッ、という」
   チャイムが鳴り、慌てて出る二人。

〇同・教室2年A組
   テスト中。
   あさ子、手が止まり、頬杖をついて溜め息。
   隣りの席の凛を見る。
   凛、窓際の席で空を見上げている
あさ子M「そして栗原凛くんの本名は、インテミアランデルベル栗原凛OP2000シュピーゲルディーダ―ポーンポンポーン。冗談じゃないよ? 本当に。二人共、数年前に遠い星からこの国にやって来ました」
   あさ子と凛の席は最後列。二人の前の席は茉穂とメガネの衛藤彰(14)。
   彰、チラと茉穂の横顔を覗く。
      ×   ×   ×
   テスト終了。後ろから前へと答案用紙が回収されていく。
   あさ子、ぐでっと机にもたれ右頬を隠し、凛を向く。
あさ子「あー、頭使った。痛いよー凛くん」
凛「よく頑張ったね、鮫島さん」
   凜、あさ子の頭を撫でる。
凜「いい子、いい子」
あさ子(まんざらでもなく)「……50点」
凜「え、点数もうわかったの?」
あさ子「今の『いい子いい子』が。勉強は全然ダメ。あーあ、私はきっと、いつまでたっても賢くなれないんだ。頭がどうかしちゃってるんだよ」
凛「僕は、わからない問いには何がわからなかったのかの説明を記してみたよ。今後の指導方針に役立つかも知れない」
あさ子「なーんだ、凛くん隣りでスラスラ書いてるから焦っちゃった」
   凛、ニキビ側を隠したあさ子の不自然な体勢に気付き、
凛「首、どうかした?」
あさ子「ううん、平気だよ。なんで?」
   姿勢を変えないあさ子、必然そのまま凛を見つめ続ける形に。
凜「そんな綺麗な瞳で見つめられると、照れちゃうな」
あさ子「60点。じゃ、照れてみてよ」
   あさ子、そのまま凜をジッと見つめる。
   凛、照れて首をかく。
凛「あ。トイレ、行ってこようかな」
   凛、廊下へ出て行く。
あさ子「本当に照れた?」
   あさ子、その姿を目で追う。
   茉穂がドア横で友人とお喋り中。廊下へ出る凛とすれ違い様、軽くアイコンタクト。
   あさ子、不満げに頬を膨らませる。
あさ子M「彼らのイイ加減な名前は、彼方のコミュニケーション信号とお役所的ななんやかやとを織り交ぜて日本人の発音に合わせた表記で、いずれ簡略化されていくのでしょう」
   鈴木リポナ(14)、あさ子が手で庇う右頬を見て近づいてくる。
リポナ「どうしたん? 今日めっちゃほっぺた隠すじゃん」
あさ子「リポナ、見てー」
   あさ子、リポナに右頬を見せる。ニキビ跡は隠れたまま。
リポナ「?……何よ」
あさ子「わかんない?」
リポナ「うん?」
あさ子M「この友人、鈴木リポナはリポナが本名だけど、生粋の日本人。空も地上も変な名前の人間だらけ。いつかは自然と解け合っていく……のでしょうか。だったらいいな」
   リポナ、首を横に振る。
リポナ「わかんなーい」
あさ子「あっそう。じゃあ、いい」
リポナ「ねえ、あさ子ってさ。凜くんのこと好きなの?」
あさ子「はあっ?」
   あさ子、思わず大きな声を上げ、周囲の視線を集める。
あさ子(小声)「どーしていきなり」
リポナ「そういう空気だったじゃん」
あさ子「塾も班も一緒になっちゃったから、仲良くしましょうってだけ」
リポナ「いいけどさ、あんまポンピーと付き合わないほうがいいよ、色々と」
あさ子「色々って何よ」
リポナ「色々はホラ。色々じゃん?」
   あさ子、返事はせず引き出し整理を始める。
   リポナ、つと振り向くと、茉穂がこちらを見ている。
リポナ「(焦って)あ、茉穂ちゃんは別ね。好きよ。いいエイリアンもいるもんね?」
   リポナ、作り笑顔を繕って、後ずさり場を離れる。
   あさ子、茉穂を見る。茉穂、苦笑をあさ子に返す。

〇進学塾・表(夕)
   塾を出るあさ子、自転車に乗って漕ぎ出す。
   前方を歩く凛の背中に気づき、すぐ引き返す。
   自転車を元あった場所に停めて鍵を掛けると、凛の後を追って走り出す。
   凛、空を見上げて歩いている。
   あさ子、凛のすぐ背中で軽く息を整え、その肩を叩く。
あさ子「や」
凛「やあ。あれ鮫島さん、自転車は?」
あさ子「自転車? 私、徒歩ですけど?」
凛「そうだっけ……いや?」
   凜、イケメンスマイル。
凜「僕の記憶の中だと、いつも颯爽と自転車漕いでるきみがいるよ……ちょっと違う?」
あさ子「違うね。3点。それだと凛くんが私のこと意識し過ぎてることになるよ。あれ? もしかして本当に……?」
   あさ子、凛の脇腹を小突く。
あさ子「うりうりー」
   凛、体をひねって逃れ、
凛「なんだなんだ? どうしたらいいのかわからない」
あさ子「私もわかんなーい」
   凜、しばし思案して言葉を探し、思いつく。
凜「あ」
あさ子「うん?」
   凜、イケメンスマイル。
凜「『おもしれー女』」
あさ子「うるせえ。40点。てか鮫島さんて呼ぶのやめない? 私、苗字嫌いなんだよね」
凛「えー?」
あさ子「だって可愛くないじゃない? だからほら……下の名前で呼んでみて」
   あさ子、照れ隠しにくれくれのポーズ。
   凛、イケメンスマイルをキープしたまま。
あさ子「どうしたの。下の名前覚えてないとか言わないでよ?」
凛「あ……あさ子」
   あさ子、嬉しさでパッと笑顔。照れて鞄で凛の背中を叩きまくる。
凛「痛たっ、言われた通りにしたのに。わからないわからない」

〇リボンピ団地
   あさ子と凛、団地の近くに差し掛かる。
   エイリアン排斥デモ隊が座り込み中。
凛(ボソッと)「懲りないなぁ」
   あさ子、聞こえるが黙っている。
   デモ隊の中に、プラカードを抱えた武雄の姿。
あさ子「!」
   あさ子、気づいて一歩後ずさる。
   武雄、仲間とくつろいでいて、あさ子に気づいて手を振る。
凛「汚ないオッサン」
武雄「あさ子―っ」
   あさ子、思わず目をつむる。凛、驚いてあさ子を見る。
   あさ子、目を開くと凛と目が合い、辛うじて首を横に振る。
   武雄、立ち上がってプラカード片手に近づいてくる。
   少し照れ臭そうに笑って、
武雄「なんだお前、やっと来たか」
   武雄、嬉しそうに凛の顔を覗き込む。
武雄「ははあ、君が凛くん、かな? おい、あさ子、そうだろ」
   武雄の手にしたプラカードに踊る文字『ポンピーは地球から出てけ』が
   凛の顔の目の前に来る。
武雄「どうだ、君も参加するかい? 君は地球人だろ? え?」
   凛、あさ子を見る。イケメンスマイルが消え、冷たい表情。
凛「……そういうこと」
あさ子「(とぼけて)へ? 何が?」
   凛、あさ子を置いて一人で団地へ向かい、デモ隊の間を縫っていく。
あさ子「あ。待って、違う。凛くんっ」
   あさ子、声をかけるが後を追えない。
武雄「あさ子。どういう事だ?」
あさ子「お父さんのバカっ」
   あさ子、武雄に背を向け引き返す。
武雄「話は帰って聞くからなっ?」
   武雄の声は無視して、唇をかむ。

〇鮫島家・外観(夜)

〇同・あさ子の部屋(夜)
   消灯後。ベッドに横たわるあさ子。廊下からドアをノックする音。
武雄の声「あさ子、話があるだろ」
あさ子「ないっ」
武雄の声「お父さんにはあるんだ。ちょっと下りてきなさい」
   カーテン越しに、不思議な色の明りが部屋を過ぎ去る。
   あさ子、カーテンをめくり外を見る。
   夜空を飛ぶ小型の円盤が、遠く都市の上空に浮かぶ宇宙船団に帰還していく。

〇同・リビングキッチン(夜)
   母・つみき(45)がソファで修学旅行のしおりを読んでいる。
   『リボンピ星船団見学ツアー』が趣旨となる旅程を記した、手づくり感溢れる印刷物。
   武雄は食卓で腕組み。
つみき「手づくりのしおりですってー、ローテク。折角の修学旅行、どこぞのレイシスト様が妨害しなけりゃいいけど」
武雄「どうかな、愛国的な若者は血気盛んだからな」
つみき「他人事みたいに言って」
武雄「お前こそ、どっちつかずじゃないか。政治的な態度を明確にしていく事で、絶えず自己批判も含めた思想の鍛錬をだな」
つみき(遮って)「面倒ですもの」
   あさ子、とぼとぼと階段を降り、食卓に座る。
   席に置かれた報告書の束。
あさ子「何これ」
武雄「お姉ちゃんは色々言うが、あさ子にはお父さん達の活動の根拠を理解して欲しいんだ」
   武雄、報告書を叩く。
武雄「彼らがこの星に来て起こした問題、そしてこれから起こりうる問題のレポートだ。自分の目で見て判断して欲しい」
あさ子「他に、言うことないの?」
武雄「お父さん達は、お前達と日本の、そして地球の為に戦っている。それだけだ」
あさ子「それだけじゃないでしょ。今日、凛くんを傷つけたでしょ」
   武雄、目を瞑り、だんまり。
あさ子「凛くんに嫌われちゃったじゃん。その責任どう取るんだよ」
   あさ子、報告書を武雄に投げつける。
つみき「あさ子」
武雄「目を通しておきなさい」
   武雄、席を外し、廊下へ出る。
あさ子「……」
   あさ子、報告書を拾い上げる。おもむろに開いて、目を通す。

〇天野中学校・教室(朝)
   凛、自分の席で茉穂とお喋り。
   あさ子は距離を開け、リポナ達と立ち話。今日はニキビを隠せていない。
   あさ子、ちらと凛を見る。茉穂が席を離れる。
   あさ子、そのタイミングを見計らって、着席。
あさ子「(何気ない風を装い)おはよう」
   凛、黙々と教科書を整理している。
あさ子「昨日、感じ悪かったよ? 君」
   凛、呆れ顔であさ子を見る。
あさ子「あ、ほら、お父さんはお父さんだし、別に気にしないで。私達は仲良しでいようよ」
凜「……」
あさ子「……仲良く、してよ」
   凜、ジッとあさ子の顔を見つめる。
あさ子(緊張)「あ、深い意味とかは無いよ?」
   あさ子、思わず右頬のニキビ跡を隠す。
   凛、あさ子の左頬を指さす。
凛「出来物、出来てますよ」
あさ子「嘘っ、こっちも?」
   あさ子、驚いて左頬も覆う。
   離れて見ていたリポナ、ことさら大きく声を上げる。
リポナ「うわ、それは無いわ栗原くん。最低。女の子のニキビとか嬉しそうに指摘してどうすんの?」
   どこからか誰かが呟く。
男子Aの声「さすがポンピー」
   ざわめきのように笑い声が広がる。
   あさ子、戸惑ってクラスを見回す。焦って凛に視線を戻す。
   凛、窓の外の空に目を向ける。
   彰が教室に入ってくる。
   ドア前で俯く茉穂の肩に手を置き、ドスの効いた声でクラス全体に、
彰「おい、変な空気すんなよ」
   リポナ、ニヤけた笑みを止めてそっぽを向く。
   茉穂、意外そうに彰を見る。
   あさ子、手で両頬を覆っている。

〇鮫島家・洗面所(夜)
   洗顔後のあさ子、泣き腫らした赤い目で鏡を見る。両頬に一点ずつのニキビ。
   涙と共にタオルで顔を拭く。
   廊下を通りしな、ゆき子が声をかける。
ゆき子「ニキビ、ゴシゴシしない」
あさ子「お姉ちゃーん」
   あさ子、甘えた声でゆき子の後を追う。

〇同・ゆき子の部屋(夜)
   ベッドに座ったあさ子。枕を抱いて、今愚痴を吐き終ったところ。
   ゆき子は机に向かって勉強中。
ゆき子「アンタが悪い。都合のイイ私だけ見てって、そんなの通用しない」
あさ子「だって、差別主義者なのはお父さんで、私じゃないじゃん」
ゆき子「相手の立場に立ってどう思うか考えなっつってんの。凛くんに謝ってきな。それからもう、お父さんの言うこと聞くのやめな」
あさ子「……だって」
ゆき子「だって何? アンタあのデモに賛同するつもり? じゃあ私の敵よ」
あさ子「ええ? 敵? 敵やだ」
ゆき子「よく知りもせず相手を怖がって、自分のちんけなプライドを屁理屈で塗り固めて」
   ゆき子、あさ子を一瞥し、
ゆき子「バカを洗脳して味方にして」
あさ子「バカ?」
ゆき子「一体、何度繰り返すのかしら、この国は本当の意味で歴史を学ぶことを知らないのよ。うんざりする」
   あさ子、口をとがらせる。
ゆき子「何よ。言いたい事があるなら言いなさい」
あさ子「どうせお姉ちゃんだって付け焼刃のくせに、知ったかぶらないで」
ゆき子「あ? アンタに歴史学の何が」
あさ子「だって、お父さんの調べてることもホントかも知れないじゃん。おかしいよ、エイリアンが隣りに住んでるなんてさ」
   ゆき子、即反論しようと口を開くが、息を吐いて自分を落ち着かせる。
ゆき子「その理屈でいったら、エイリアンに恋したあさ子もおかしいわね?」
あさ子「……うん。おかしい」
   あさ子、涙ぐむ。
あさ子「私、おかしい。初めて恋したのに、相手がエイリアンとか意味わかんない」
   ゆき子、あさ子の頭を撫でる。
ゆき子「怖いね。でも、それが恋なの」
あさ子「……お姉ちゃん、恋してる?」
ゆき子「恋人がいるわ」
あさ子「ウソ」
ゆき子「ホント。今エジンバラに留学してる。帰ったら紹介するね」
あさ子「(涙を拭いて)写真見たい」
   ゆき子、鞄からロケットを取り出し、中の写真をあさ子に見せる。
   ゆき子が、恋人(女性)とぴったり寄り添う姿。
   あさ子、その写真を見つめる。
あさ子M「まだ塾に通うことに慣れていなくて、少し緊張してた去年の春」

〇回想・天野中学校・一年A組
   自己紹介タイム。
   凛、黒板の前で挨拶している。背後に板書された、長いフルネーム。
   クスクスと笑う生徒達。
   あさ子は笑わず、凛に視線を奪われている。

〇回想・繁華街(夕)
   よく晴れた空。雨上がりの濡れた舗道。
   塾帰りのあさ子、傘を手に歩く。
あさ子M「私は、雨上がりの街の匂いが好きで」
   あさ子、鼻でクンクンと匂いを嗅いで、顔を上げて目を細める。
   街の向こうに、虹のアーチ。
   虹を視線で追っていくと、ビルの非常階段に立つ凛の後ろ姿が見える。
   凛が虹に向かって両手を伸ばしている。虹の向こうに、高層ビルと宇宙船団。
   あさ子、目を細めて凛を見上げている。
あさ子M「その『好き』が、凛くんへの『好き』に変わったのだろうか。なんて」
   虹と凛とビルと宇宙船団と、それら全てが一体化した光景が、
   淡い夕日に滲んでシルエットとなる。
あさ子M「空に焦がれる、彼方の子」

〇回想・天野中学校・二年A組
   あさ子の隣りに、凛が座る。
凛「よろしくお願いします」
あさ子「あ、あの、よろしく……」
   あさ子、深呼吸。意を決し口を開く。
あさ子「インテミアリア……アラ……あれ?」
   凛のフルネームを口にしようとして、開口一番嚙む。
   凛、イケメンスマイルを作り、
凛「無理しないで。凛でいいよ」
あさ子「待って。もう一回」
   あさ子、再度深呼吸。
あさ子「インテミアランデルベル栗原凛OP2000シュピーゲルディーダ―ポーンポンポーン……くん。合ってる?」
   凛、素で驚いた顔。
あさ子「え。間違ってた?」
   凛、首を横に振る。あさ子、笑顔になる。

〇現在・天野中学校・外観

〇同・二年A組
   始業前。口元をマスクで覆ったあさ子、登校して、席に着く。
あさ子「おはよう」
   既に着席している凛、頬杖ついて窓の外を眺めている。
   あさ子、違和感に気付き凛の机を見る。
   凛の肘に隠れて、『汚れた血』『人喰いエイリアン』などと落書き。
   あさ子、ハッとしてクラスを見回す。
   リポナら女子数名、ニヤニヤ笑って凛を見ている。
   廊下からバケツを手に茉穂が入って来る。
   茉穂、無言で凛を立たせ、雑巾で凛の机の拭き掃除を始める。
あさ子「……」
凛「もう、いいよ」
   凛、茉穂の手を止めようとするが、
茉穂「凛の為じゃないから」
   茉穂に振りほどかれる。あさ子、二人を凝視。
   遅れて彰も入室し、手にした濡れ布巾で茉穂を手伝う。
   彰、凛に向けて茉穂の口真似。
彰「凛の為じゃないから」
   茉穂、彰の足を蹴る。
   あさ子、三人から目を逸らし、腕枕に顔を埋める。

〇帰り道・街路
   あさ子、曲がり角から顔を出す。
   前方、一人歩く凛の後ろ姿。
   あさ子、慎重に尾行を続ける。
   凛、トンネルの中に入る。
   あさ子、間を開けて、トンネルに入る。

〇トンネル
   あさ子、凛の後ろを歩いていて気付く。
   凛が過ぎ去ったトンネルの壁に、スプレーで落書き。
   宇宙人へのヘイトワードが、模様のように横長に延々と連なっている。
   『エイリアン死ね』の文字の前で、不意に立ち止まる凛。大声で叫ぶ。
凛「うわああああっ」
   声、大きくトンネル内に反響する。
   あさ子、耳をふさぎ、驚いてしゃがみ込む。
   凛、激昂して喚き散らす。
凛「なんなんだよっ、なんだっ、俺が何をしたっ」
   凛、叫びながらあさ子に振り返る。
凛「お前はなんでつけてくるっ、みんなして陰で悪口言うならなんで最初は笑顔で話しかけてきたりしたっ」
   凛、振り返り、あさ子に近づいてくる。
   あさ子、ビクッと怯える。それを見た凛、地団駄を踏む。
凛「あのクソ親父に言われて何か調べてんのっ? ここから出てけって? 今さらここから出て行く、そんな金や力……」
   凛、地面を指さす。
凛「こっちにもっ」
   凛、天を指さす。
凛「あっちにもっ、どっちにもねえんだよ、うちにはっ、俺どうしたらいいんだよっ」
あさ子「……待って。違うって」
凛「うるさい何も違くないっ、黙れ地球人、帰れっ」
   凛、言い捨てて、また前へ歩き出す。あさ子、その背中を見送っている。
   凛がトンネルを出かかったその時、
あさ子「聞けよポンピーっ」
   あさ子の大声が反響する。
   凛、振り返る。
   あさ子、マスクを口元から外し、路傍へ投げ捨てる。
あさ子「好きですっ」
凛「……」
あさ子「私、凜くんが好きです、好きなのっ」
   あさ子、叫び声をトンネルに反響させながら、凛のもとへ近づく。
あさ子「好き、好き、好き」
   あさ子、凛の前で立ち止まる。
あさ子「見てっ」
   そして自分の両頬のニキビを指さす。
   凛、あさ子の両頬を見る。
あさ子「見たっ?」
   凛、気圧され、うなずく。
   あさ子、不意を突いて凛に抱きつく。
あさ子「凛くんが好き。大好き。私バカだから、何て言っていいかわからなかったの。他の事はわかんない。でもそばにいたい」
   凛、動揺。
あさ子「凛くん。私、今こんな顔してるけど……私に好きって言われて、少しでも嬉しい?」
凛「……ニキビくらい」
あさ子「じゃあ、抱きしめて」
凜「え?」
   凜、緊張して手が宙に浮く。
   そこへ車が通りがかり、あさ子を抱きしめて道端に身を寄せる。
   そのままにしている二人。
あさ子「……ねえ」
凛「うん?」
あさ子「さっきの凛くんが、本当?」
凛「……うん。ワガママで、ヒステリーで、嫌な奴だよ、本当の俺は」
あさ子「でも、すっごく本当の言葉だった。いつもの凜くんより、ずっと好き」
   あさ子、体を離す。
あさ子「もう、パチモン少女マンガもイケメンスマイルも禁止ね? 作ったりしなくていいの。凜くんは、凜くんのままでいて」
凛「……鮫島さん」
あさ子「あと苗字で呼ばないで」
凜「……あさ子」
   あさ子、うなずく。

〇鮫島家・洗面所(朝)
   洗顔中のあさ子、鏡につやつやの綺麗な頬をさらす。ニキビが消えている。
   後ろから覗くゆき子、あさ子の髪をくしゃくしゃっとする。

〇遊園地・ジェットコースター
   デート中のあさ子と凛、ジェットコースターに並んで座り、頂上まで運ばれていく。
   あさ子、自分の頬を指さす。
あさ子「皮膚科行ったら、一発だった」
凛(聞き取れず)「ええっ?」
あさ子「皮膚科一発っ」
   二人、顔を見合わせて、笑う。
   コースター、一気に降下。
   二人、地上と空の中間で、重力に振り回される。

〇映画館・劇場内
   あさ子と凛、並んで映画を見ている。
   古いSF映画。チープな宇宙人が人間を襲っている。
   凛、爆笑。あさ子、そんな凛を見て嬉しそう。

〇高層ビル・外観
   オフィスとモールが一体化したビル。

〇同・ファッションモール
   洋服を品定めするあさ子。凛に次々と気になる服を見せる。
   凛、ひたすら反応に困っている。

〇同・エレベーター
   あさ子と凛、買い物袋を手に乗り込む。
   高層階から下降を始めるエレベーター。
   ガラス窓越しに、都市上空の宇宙船団が見える。
   凛、しばしそれを眺め、あさ子を見る。
凛「あさ子。今、学校の話してもいいかな」
あさ子「いいよー」
凛「二人のこと、みんなに言う?」
あさ子「言う言う。言おうよ」
凛「いや。それなんだけど、まだよそう」
あさ子「え、なんで?」
凛「もっと、ゆっくりっていうか」
あさ子「……言ってやりたいな、みんなに」
凛「うん。わかるけど」
あさ子「卒業する前には言ってもいい? ううん、違う。凛が言ってくれる?」
凛(うなずく)「わかった」
あさ子「じゃあ、いいよ」
凛「ありがと」
あさ子「いえいえ。彼女ですから」
   あさ子、嬉しそうに袋を揺さぶる。

〇天野中学校・二年A組
   テスト中。教師は仰け反って居眠り。
   生徒たちがテストに集中して視線を落とす中、
   最後列のあさ子と凛はお互いを見つめている。
   あさ子、つと前を向く。
   茉穂と彰が振り返り、二人を見ている。
   彰はニヤけて、茉穂は驚いた顔。

〇同・廊下
   あさ子、凛、茉穂、彰が並んで歩く。
   彰、手を叩いて笑う。
凛「(小声で)付き合うことになりました」
あさ子「もう少女マンガ禁止なんだよ」
彰「あのトンチキ外人ぷり、ウケたんだけどな」
凜「そんなこと思ってたの」
あさ子「と、言うことになったんだけど……」
   あさ子、恐る恐る茉穂の顔を覗く。
あさ子「いい、よね?」
茉穂(笑って)「決まってるじゃん。私がたきつけたんだもん。逆にさ、あさ子ちゃんこそ本当にいいの? きっと面倒くさいよ、私達と付き合うのって」
あさ子「えー? 別に、茉穂ちゃんと付き合う訳じゃないし」
茉穂「そんなひどい。私、都合の良い女だったのねっ」
あさ子「そんなことない、愛してるよ茉穂。お前だけだっ」
   二人、ふざけてひしと抱き合う。
   他の生徒たち、華やかな四人の話す姿を遠巻きに見ている。
   リポナ、ふてくされて眺めている。

〇トンネル
   つなぎを着たあさ子、凛、茉穂、彰。
   ペンキでヘイトワードの落書きを塗りつぶしていく。
    ×   ×   ×
   日を跨いで作業する四人。落書きはどんどん消えていく。

〇リボンピ団地
   凛、角を曲がり団地前に出てくる。
   デモ隊の不在を確認し、手招き。
   呼ばれてあさ子が出てくる。

〇団地・階段
   凛とあさ子、階段を上がり栗原家の前へ。ドア前に積まれた生協の箱。
あさ子「エイリアンも生協なんだね。ねえ、行こうと思えばすぐに宇宙船行ける?」
凛「急だな」
あさ子「行けるの?」
凛「今は難しい。うちは母船に何も貢献してないから。結局こうした団地に来たのはさ、棄民された集団の中の、更なる棄民で」
あさ子「ふーん。修学旅行でなら行けるのに」
凛「あんなの、どうせ綺麗な外っ面だけ地球人に見せて誤魔化して終わりだよ、宇宙船の中は醜いものをいっぱい隠してる」
あさ子「何それワクワクする。でも楽しみだな、凛の母船」
凛「大して愛着ないよ」
あさ子「けど、いっつも空見てるじゃん? 凜」
凛「……え。俺が? 空を?」
あさ子「え。自覚なかった?」
   凛、チャイムを鳴らす。
マチの声「はーいー?」
凛「ただいま。友達と上がるよ」
マチの声「はいよ」
   あさ子、緊張。

〇栗原家・玄関
   ドアを開ける凛。
   凛の母・マチ(46)、廊下を通りしな、こちらを見ずに声だけかける。
マチ「凛、生協入れておいて」
   凛、生協の箱を二つ抱える。
凛「もう一個乗っけて」
   あさ子、その上にもう一箱乗せる。
マチの声「茉穂ちゃんー?」
凛「違う」
   残る一つの箱をあさ子が抱えて、二人して台所に上がる。

〇同・台所
   マチ、クッキーを焼いてるオーブンを気にしながら、振り向く。
マチ「じゃ誰よ、お友達とか言っちゃって。(あさ子に気づき)あら?」
   あさ子、緊張して会釈。
   トイレの流れる音。
マチ「あらあらあら?」
   手洗い場から凛の父・隆平(50)が出てくる。
   あさ子、凛の両親に挟まれる形に。
隆平「おや? おやおやおや」
マチ「あらあらあら」
   慌てるあさ子、交互にお辞儀。
あさ子「鮫島あさ子です、初めまして」
凛「友達」
   あさ子、凛の脇腹を突つく。
凛「何?」
   あさ子、目で抗議。
隆平「友達?」
凛「うん、友達」
あさ子「(遮って)凛くんの彼女です」
   マチ、思わず拍手。
隆平「やった、凛が彼女GETだ」
凛「お父さん、手洗った?」
隆平「(はしゃいで)おっとっと。えらいことだ、えらいことだ」
   隆平、洗面所に引き返す。
マチ「ちょうどいいわ、今クッキー焼いてるの。それであさ子さんは、どちらの銀河から?」
あさ子「え……この星ですけど」
マチ「まあ素敵。私、この星に降りて良かったわ。食材が豊富ですもの」
あさ子「あ、ありがとうございます」
凛「行こう」
   あさ子、凛に手を引かれ凛の部屋へ。マチ、嬉しそうに見送る。

〇同・凛の部屋
   凜はベッドに腰かけ、あさ子は室内を物色中。
あさ子「宇宙人のエロいやつないかな」
凜「なにを探してるんだ」
   本棚に並ぶ書籍が目に留まる。
凜「少女マンガは捨てたから」
あさ子「紙の本ばっかり。アナログ―。うちもだけど」
凛「電子情報はちょっと抵抗あってね。こないだメモリーが一斉に盗まれる事件あったじゃん? アレ、エイリアンの仕業だから」
あさ子「ウソ、やっぱり」
凛「やっぱりって……俺んとことは星系も母船も違うから。それに、手で本めくった感触があるほうが読んだ内容覚えやすい」
あさ子「ああ、うちの父も同じこと言ってるよ」
凛「ふーん、そうなんだ。あのお父さん」
あさ子「うん……なんかね。嫌な事、言っていい?」
凛「どうぞ」
あさ子「うちの父が言うには、私にニキビが出来たの、リボンピ・パピリシオル星人の近くにいるから……だって」
凛「それで、納得いった?」
   あさ子、首を横に振る。
あさ子「全然。ちゃんと調べたら、父の話はこじつけばっかりだった」
   あさ子、ベッドの上、凛の隣りに腰をかける。
あさ子「ねえ、少女マンガに戻らなくてもいいけどさ、いつかのアレ、またやってよ」
凜「アレって?」
   あさ子、頭を差し出す。
   凜、笑って、その頭を撫でる。
凜「いい子、いい子」
あさ子「100点。もっと呼びやすいネーミングの宇宙人だったら、もうちょっとみんな親しみ感じられたのかもね」
凛「日本語の発音が単純過ぎるんだよ。宇宙はもっと複雑な音で溢れてるのに、ひらがなで表現できる音が少な過ぎなの」
あさ子「うわ、面倒臭い話始まりそう。やっぱりお父さんが言いそうな話なんだよなー」
凛「えー」
   あさ子、棚にホログラムで浮かぶフォトフレームの写真に目を移す。
   どこかの草原で、凛と茉穂が笑って映っている写真。
   背景には不思議な色の空と銀河。明らかに地球ではない。
あさ子「凛。あの写真伏せていい?」
凛「どれ? (気づいて)あれ? 厳密には写真じゃないんだけど。どうして?」
あさ子「どうしても」
凛「いや、特に意味ないよ。あの星もう滅びちゃっててさ、貴重な想い出なんだよ」
あさ子「でも伏せて。私がいる時は」
   あさ子、少しキツい目で凛を見る。
   凛、渋々写真を伏せる。

〇同・居間
   あさ子、栗原家とティータイム中。クッキーを食べる。
あさ子「おいしい」
マチ「やったー。あさ子ちゃんに褒めて貰っちゃった」
   あさ子、棚の上の写真立てが目に入る。
   栗原家と茉穂ら澤木家が宇宙船上で、地表をバックに撮影した記念写真。
あさ子「本当に茉穂ちゃん仲良しだよね」
凛「まあ幼なじみだからな」
隆平「気になるか、あさ子ちゃん」
マチ「なんでもないわよねえ? 昔から面倒みてもらって、この子のお姉ちゃんみたいなものよ、茉穂ちゃんは」
凛「親がフォローすんなよ、気持ち悪い」
マチ「あさ子ちゃん、茉穂ちゃんとは?」
あさ子「あ、仲良しです。大丈夫です」
マチ「そう。大丈夫なら良かった」
   あさ子、クッキーを頬張る。
あさ子「あー、美味しい。うちのお母さん甘いの避けるんですよねー、太りやすい体質とかなんとか。知らねえよっていう」
   あさ子、下品な言葉使いを言い直し、
あさ子「あ。知らないよ、っていう……」
マチ「今度一緒に作りましょうね」
あさ子「はいっ」
   あさ子、舞い上がって紅茶を啜る。

〇リボンピ団地(夕)
   階段下まで、あさ子を見送る栗原家。
あさ子「今日は本当、楽しかったです。ありがとうございました」
マチ「大したお構いできませんで。気を付けてねー」
   一同が振り向くと、団地の表で再び排斥デモの座り込み。
隆平「変なのも沸いてるからな」
   デモ隊の中に、憮然と腕組みしてこちらを見ている武雄の姿。
あさ子「……」
隆平「裏から出るか?」
あさ子「いえ、こっちから」
   あさ子、デモ隊を指さす。
あさ子「こっちから出ます」
   マチ、凛の尻をはたく。「送っていけ」の合図。
   凛、あさ子の肩を抱いて、庇うように歩き出す。
   二人、デモ隊の中を通り抜けていく。
山本「汚れた血がっ」
   佐藤、あさ子の顔を覗き込む。
佐藤「テメエの血は何色だ? あ?」
   あさ子、目を逸らす。
   やがて、武雄の隣りを通過する。一瞬、武雄を見るが、また前を向く。
   あさ子、凛の手が離れたことに気づいて、振り返る。
   武雄が、凛を掴んで引き留めている。
武雄「娘か、仕事か。どちらか返してくれないか」
   あさ子、思わず大声で怒鳴る。
あさ子「お父さんっ」
   あさ子、ハッと気づいて振り返る。
   隆平とマチが、驚いて見ている。
   あさ子、走って逃げだす。
   凛、武雄の手を振りほどいて後を追う。

〇鮫島家・表の坂道
   家まであと少し。駆けて来るあさ子、立ち止まって息切れ。
   追ってくる凛、立ち止まる。
   あさ子、凛に背を向けて、うつむく。
凛「おじさん、まだ続けてたんだ」
あさ子「ごめん」
凛「あさ子が謝ることじゃないじゃん」
あさ子「……お父さんね、駅前のビルあるでしょ? 工事中の。あれに関わる仕事してたの」
凛「へえ。うちのお父さんたち、今あそこで働いてるよ?」
あさ子「うん。だからなの」
凛「……(察し)ああ」
あさ子「技術的に、あなた達に優れた面があるのは事実じゃん」
   あさ子、凛を見る、
あさ子「難しい事はよくわからない。ただお父さんの仕事が、エイリアンに取られちゃった事だけは、本当だから」
凛「それで、あんな事をしていいって理由には」
あさ子「ならない。わかってる。私だってわかってるよ、そんくらい」
   あさ子、少し声を荒げる。
あさ子「ごめん。上がる? 家。どうせ今ならお父さんいないし。この家、いつまで住めるかわからないし」
凛「……いや、帰るよ」
あさ子「改めてお姉ちゃんにも会って欲しいし」
凛「会ったって、しょうがないじゃん」
あさ子「え? 何それ」
凛「いやホラ、家族とあさ子は別だよ」
あさ子「自分の家族の前じゃいいとこ見せて、うちの家族の理解は諦めるの?」
凛「違うよ。今じゃないってこと」
あさ子「じゃあいつなら会ってくれるの? ねえ今日会ってよ。たぶんお母さんもいるよ?」
   あさ子、凛の手をつかむ。
   凛、そっとその手を離す。
凛「……じゃあ」
   凛、立ち去る。
   あさ子、不満げに見送る。

〇トンネル
   壁にヘイトスピーチの落書き。
   あさ子が一人でペンキを塗っていると、隣りに彰が合流し作業手伝う。
彰「うっす」
あさ子「うっす」
彰「今日、彼氏と一緒じゃねえの?」
あさ子「アイツ、もしかしてヤな奴かも。私より、可哀相な自分のことが大事みたい」
彰「やっと気づいたか。下手に出てるようで人のこと小馬鹿にしてるよな」
あさ子「全然そんなことないんですけど。衛藤に凛の何がわかるの、調子乗るなメガネ」
彰「この野郎」
あさ子「ただちょっと、地球人との距離の取り方がわかんないだけ。向こうからしたら、こっちがエイリアンなんだから……そっちこそ、茉穂ちゃんと一緒じゃないんだ?」
彰(淡々と)「コクってフラれた。好きな人がいるってさ」
   あさ子、ショック。彰を見る。
彰「……相手の名前は聞いてないからな?」
あさ子「……そう」
   二人、また黙々と落書きを消す。
   通り過ぎる学生の集団から、「ご苦労さーん」「がんばれよー」などと声をかけられる。
彰「マジ俺らがエイリアンみてえ。な?」
   あさ子、聞いてない。

〇天野中学校・二年A組
   凛、帰り支度を終え、席を立つ。
あさ子「あ、待って凜。一緒に帰ろう」
   凛、慌てて支度するあさ子をよそに頭をポリポリ掻く。
凛「ごめん。今日は一人で帰るよ。て言うかちょっと距離置こう」
あさ子「は?」
   凛、教室を出ていく。あさ子、茫然。
   リポナ、嬉しそうに近づいてくる。
リポナ「ほら言った通り。上手くいかないって」
   あさ子、気が抜けて座り込む。
リポナ「ねえ、今日合コンやるんだけど、あさ子も来る? 来なよー」
   突然、リポナの頬が挟まれる。
   茉穂が片手でリポナの頬を挟んで力を入れ、無理やりアヒル顔にしてやる。
リポナ「ひはい(痛い)ひはいひはい」
茉穂「恐ろしいとっておきの宇宙の力、使ってあげようか?」
リポナ「ごめんって」
   茉穂、手を離す。
リポナ「からかってただけじゃん。もう、ポンピーってすぐムキになるよね」
茉穂「地球人ってバカだよね」
   リポナ、ムッとして引き返す。
茉穂「あさ子ちゃんは可愛いバカだけどね」
   茉穂、あさ子の隣りにしゃがむ。
茉穂「今日、凛がおかしいのは理由があるの。あさ子ちゃんが落ち込む事じゃないから……ここじゃ、ちょっと」
あさ子「?」
   茉穂、あさ子に手まねき。

〇回想・リボンピ団地(昨夜)
   ドラム缶で焚火をしているデモ隊。
茉穂の声「昨日の夜ね」
   隆平が近づいて来て、声をかける。
隆平「あのー、すいませんけど、子供らが怖がりますんでね、そろそろこういう活動は控えてくれませんかね」
   眠りかけていた武雄、ハッと目を覚まして、隆平の前に立ちはだかる。
武雄「私たち日本人には言論の自由がある。あなた達と違って、権力に庇ってはもらえませんが」
   隆平、呆れて溜め息を吐く。
佐藤「おい、溜め息吐いてんじゃねーよジジイっ」
山本「日本語を口にするなっ」
   隆平、苦笑して武雄を見る。
隆平「我々がいつ誰に庇って貰えてると? アンタ、この状況見てよくそれ言えるな」
武雄「自分たちに都合の良い真実ばかり切り取って、被害者ヅラしてはいけません。もう少し世の中を公平に見ませんと」
隆平(呆れて)「あ……アンタらがなあ」
デモ隊A「うわっ、エイリアン怒ったっ」
デモ隊B「暴力っ、暴力だっ」
   佐藤、ビール瓶を投げ飛ばす。
   隆平の顔に直撃し、額から血が噴き出す。青い血。
   デモ隊から悲鳴と笑い声が上がる。
   山本と佐藤は、青い血を見て興奮したような笑みを浮かべる。
   武雄、動揺して思わず手を貸し、よろめく隆平を抱き止める。
武雄「大丈夫。ゆっくり、ゆっくり腰落として、仰向けになりましょう。誰か」
デモ隊A「逃げろっ」
   デモ隊、二人を置いて四散する。
武雄「おい、誰かっ」
   階段から凛が飛び出して、走りくる。
凛「お父さんっ」
武雄「凛くんっ、手を貸しなさいっ」
   凛、駆け寄るなり武雄を突き飛ばす。
   そのまま隆平を支えて、引き返す。
   隆平、凛に支えられ、振り返る。
   武雄が立ちあがって、頭を下げる。

〇天野中学校・屋上(現在)
   あさ子と茉穂、手すりにもたれ、風に吹かれている。
あさ子「何それ、聞いてない。おじさんは大丈夫だったの?」
茉穂「あさ子ちゃんのお父さんがすぐ救急車呼んでくれて、結局大した怪我じゃなかったって」
あさ子「ああ、良かった……いや良くない」
茉穂「あさ子ちゃんのお父さんとは話が出来そうだって、おじさん笑ってたよ」
あさ子「……どうして」
茉穂「うん?」
あさ子「どうして茉穂ちゃんばっかりそういう話知ってて……私は知らないの? 凜も、ジジイも、教えてくれない。恋人は私なのに」
茉穂「それはだって、付き合いが古いってだけでさ」
   遠くの空に宇宙船団。
あさ子「……どうして2人はエイリアンなの? どうして宇宙から来たりしたの?」
   茉穂、風になびく髪を手で抑え、あさ子を見る。
茉穂「あさ子ちゃんは、どうして地球に生まれたの? 説明できる?」
   あさ子、茉穂を見返す。
あさ子「……茉穂ちゃん。凛のこと、好き?」
茉穂「……」
   茉穂、困った笑みを浮かべる。

〇鮫島家・あさ子の部屋(朝)
   あさ子、ベッドの上で足を抱える。ドアをノックする音。
ゆき子の声「あさ子? 修学旅行だよ。ちょっとこれ鍵開けてよ。どうしたの? 楽しみにしてたじゃないの」
   あさ子の腕、口元から離れる。大きなニキビ。
ゆき子の声「私、もう学校行っちゃうからねっ? ……勝手にしな」
   足音が遠ざかっていく。
あさ子「お姉ちゃん」
   あさ子、甘えたくて立ち上がるが、踏み込めず、その場で地団駄を踏む。
あさ子「やだ……もう、全部やだっ」

〇回想・天野中学校・屋上
   茉穂、あさ子に背を向ける。
あさ子「どうして凛に気が無いフリしてたの。私に気を使って? アレルギーとかもウソでしょ、お肌めっちゃ綺麗だもん。ねえ」
茉穂「いいじゃない」
   茉穂、背を向けたまま。
茉穂「地球人と宇宙人の恋。そっちの方がよっぽど素敵で、意義深いわ。地球人はロミオとジュリエットが大好きでしょ。ジュリエットとパリスの恋なんて誰も見たくない。私達がこの星に馴染む為には、ドラマが必要なの。みんな大好き、障害の大きな社会派ドラマがね」
   茉穂、笑顔で振り返る。
茉穂「私は、あさ子ちゃんと凛が仲良くしてくれたら、それが一番嬉しい。本当だよ」
あさ子「……それって」
茉穂「なに?」
あさ子「それって、もしかして凜も同じこと思ってたの? 私が、地球人だから……だから茉穂ちゃんより私と付き合った方がいいって」
茉穂「……それは」
あさ子「いい。聞きたくない」

〇現在・鮫島家・あさ子の部屋
   ふて寝しているあさ子。泣き腫らしてむくんだ顔。
   ドアを激しくノックする音。
武雄の声「あさ子っ、起きろっ」
   目を覚まして、身体を起こす。
   置き時計に目を向けると、正午。
あさ子「もう、修学旅行は間に合わないよ」
武雄の声「いいから早く、ニュースだニュースっ」
   あさ子、タブレットにタッチして壁に映像を投影させる。
   トップニュースを指先でピックアップすると、事件現場の中継映像。

〇動画・中継映像
   軌道エレベーター近くの道路で、バスジャック事件。
   T『排外主義者が修学旅行バスを占拠』
   続いて『暴行を受けたAさん』として、
   顔にあざを作ったリポナが泣きならインタビューに答えている。
リポナ「私らが軌道エレベーターに向かおうとしたら、急に二人組が飛び込んで来て。はい、まだクラスの子がバスに残ってます。酷いんです。宇宙人は出てけって、私たちの大切な友達なのに」
   犯人A、バスの中で生徒の一人を立たせる。茉穂だ。
   犯人A、茉穂の頭に銃口を突きつける。

〇鮫島家・あさ子の部屋
   あさ子、立ち上がり、ドアを開ける。
あさ子「お父さんっ」
   廊下に立っていた武雄、驚く。
あさ子「今、無茶して失うものある?」
武雄「……あさ子の信頼以外でか?」
   あさ子、まっすぐ武雄を見据える。
武雄「何も無いな」
あさ子「行こう」

〇走行中の車・車内
   武雄が運転し、後部座席であさ子が報道をチェックしている。
武雄「後で、謝らなきゃいけないことがある」
あさ子「ねえ、お父さん。私がエイリアンだったら、私にも出てけっていう?」
武雄「その場合、お父さんもエイリアンってことにならないか? ……いや。そうだな。あさ子がエイリアンだったら、お父さんもエイリアンだ」
   あさ子、武雄を見る。

〇道路
   警察が道路とギャラリーを封鎖し、機動隊がバスを取り囲んでいる。
   そこへ一台の車が止まらず突っ込んでくる。
   通行止めの柵を突き破り、ガードレールに衝突。
   警官隊が取り囲む車の中で、運転していた武雄が額から血を流している。
   武雄、その血に指先で触れ、付着した赤い血を見つめる。
武雄(苦笑)「別に、美しかないか」
   警官隊・ギャラリーの興味が事故車に集中した隙に、
   人ごみをかきわけて歩道から飛び出すあさ子。
   また別のインタビューを受けているリポナ、気づいて驚く。
リポナ「あさ子っ?」
   あさ子、カメラ前に飛び出し、リポナの首筋にナイフを突きつける。
リポナ「ぎゃあっ」
あさ子「どけっ」
   あさ子、リポナを人質にして機動隊の包囲を抜け、バスの傍へ近寄る。
   リポナ、パニックで泣き叫ぶ。
リポナ「あさ子が狂ったー」
   あさ子、リポナを突き飛ばすと、バスの乗降口に向かって走り出す。
   あさ子、乗降口のドアにとび蹴り。
   ドア、勢いよく開く。
   あさ子、ひっくり返るが、すぐにまた立ち上がり、バスに飛び込む。

〇バス・車内
   運転席前に、銃を持った犯人B。
   あさ子、無我夢中で飛び込む。
あさ子「うわあああっ」
   犯人B、あさ子に銃口を向ける。
犯人B「汚れた血がっ」
   その隙に立ちあがった彰がタックル。犯人B、天井に発砲。
   そのまま彰と運転手に抑え込まれる。
   彰、犯人Bの覆面を剥ぐ。その正体、団地前にいたデモ隊の山本。
   あさ子、その顔をチラと視認。数名の男子も駆け寄って山本を抑え付ける。
   その流れと逆行して、あさ子が通路に立つ。
   反対側に、茉穂に銃口を突きつけた犯人Aの姿。
   対峙する、あさ子と犯人A。
茉穂(首を横に振る)「逃げて」
犯人A「来るな」
   あさ子、鼻息荒く、犯人Aに近づいていく。
犯人A「こいつ(茉穂)殺すぞ。テメエもエイリアンか」
あさ子「私は……いやでも地球人だよ」
犯人A「テメエの血は何色だっつってんだっ」
   あさ子、その声を聴いてハッとする。
      ×   ×   ×
   フラッシュバック。
   団地前であさ子にガンをくれる佐藤。
佐藤「テメエの血は何色だ? あ?」
   その背後のプラカードに踊る文字。
   『汚れた血は抹殺しろ』
      ×   ×   ×
   あさ子、犯人Aこと佐藤の前で立ち止まる。
   茉穂、恐怖と心配で泣きそうな顔。
茉穂「あさ子ちゃん」
   あさ子、車内を見まわす。
   佐藤の横の席にいる凛と目が合う。
   その手に水筒を構えているのに気づく。
   窓の外に目をやると、建物の非常階段から機動隊員が銃口を光らせている。
佐藤「おい、どこ見てる?」
   佐藤、機動隊員に振り向きかける。
   あさ子、その前に指先を向ける。
佐藤(あさ子を見)「あ?」
あさ子「あの団地の前にいたから、わかるでしょ」
佐藤「……あのガキか」
あさ子「私。エイリアンとセックスしたの」
佐藤「……は?」
あさ子「それで出来たのが、このニキビ」
   あさ子、指を頬にあて、ニキビを指さすと、爪先でそのニキビを潰す。
   茉穂、呆気に取られて見ている。
   あさ子、その体液で汚れた指先で、佐藤の銃口を塞ぐ。
あさ子「撃てば? 私の血で、あなたも汚してあげる」
   佐藤、思わず銃であさ子の手を払いのける。
   凛が立ち上がり、水筒で佐藤の頭を横殴りにする。
あさ子「伏せてっ」
   あさ子、茉穂を抱えてその場に倒れる。
   佐藤が体勢を立て直すと、凛も伏せる。
   銃声。窓ガラスの割れる音。
   佐藤、外から麻酔銃を浴びて倒れる。
   騒然となる車内。
   茉穂、あさ子に抱きつく。
茉穂「あさ子ちゃ……」
   あさ子、茉穂を抱えたまま、目の前に伏せた凛に叫ぶ。
あさ子「インテミアランデルベル栗原凛OP2000シュピーゲルディーダ―ポーンポンポーンっ」
   凛、驚いてあさ子を見る。
凛「……はい」
あさ子「私、鮫島あさ子は、君のことが好きです。けど……」
凛「?」
   あさ子、涙ぐむ。
あさ子「けど、ギュリフォニッチェルンデル澤木茉穂PD-S204スコアグレッフォイサラッペッペッペッも、君のことが好き。(茉穂に)でしょ?」
   凛、驚いて茉穂を見る。
   茉穂、驚いてあさ子を見、次いで凛を見やると、コクリとうなずく。
凜「……」
   生徒たち、運転手、取り押さえられた山本も思わず、様子を見守っている。
あさ子「……返事は無いの? 今なら、私、許すから」
   バス車内の視線が、凛に集中する。凛、戸惑いあさ子を見る。
あさ子「教えて。凛は、私と茉穂ちゃん。どっちが……」
   凛、あさ子と茉穂を交互に見る。
あさ子「ハッキリしろよ、エイリアン」
   凛、口を開く。
凛「俺は」
   機動隊が乗り込んでくる音で、凛の声の続きがかき消える。

〇宇宙船団・都市部
   T『一ヶ月後』
   遥か地上を見下ろす、船団の都市部。
   宇宙の下、雲の上にある街角。
   眼下は晴天の真昼なのに、船団の上は煌めく星空。
   小さなニキビのあるあさ子、凛と手をつないで歩く。
   彰やリポナら同級生たちは屋外ダンスフロアで踊っている。  
   あさ子と凜、並んで空を見上げる。見渡す限りの星々。
あさ子「……凜たちの見ている世界も綺麗だね。すっごく」
   星空を背にした凜、イケメンスマイル浮かべ、あさ子を見つめる。
凜「この宇宙の、どんな星空よりも、きみのほうが綺麗だよ。あさ子」
   あさ子、ニヤニヤして受け止める。
あさ子「百億兆満点」
凛「……こんな事で良かったの?」
あさ子「うん……最後にね。ホラ、行ってあげて」
   あさ子、凜の手を離し、小さく手を振る。
   凜の向こう、茉穂が離れてこちらの様子を窺っている。
   あさ子、凜に背を向け、ひとり都市の端の方へと歩き出す。
凜「あさ子」
   あさ子、一瞬期待して、振り返る。
凜「最初に、フルネームを覚えてくれていた時、とっても嬉しかった。初めて、この星に受け入れられた気がしたんだ。ありがとう」
   凜、お辞儀をすると、茉穂の元へ去って行く。
あさ子「……」
   踊るクラスメイトの中に戻る凜と茉穂。
   一同に背を向けて、ひとり歩いて行くあさ子。
あさ子「さよなら」
   涙が頬を伝い、口元のニキビに触れる。
あさ子「私のエイリアン」

                                  終わり

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