怠け者外来 1 コメディ

自分が怠け者であることに悩んでいた佐々木亮二は、『怠け者外来』を訪れ、そこで優秀な医師・高森藤夫と出会う。果たして亮二は怠け者から脱却できるのか。
服部みきこ 10 0 0 12/30
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第一稿

怠け者外来 1

登場人物
  佐々木亮二(25) 無職の青年
  高森藤生 (33) 医師 
  野々村菜摘 (23)
  カメラマン
  ディレクター
  電 ...続きを読む
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怠け者外来 1

登場人物
  佐々木亮二(25) 無職の青年
  高森藤生 (33) 医師 
  野々村菜摘 (23)
  カメラマン
  ディレクター
  電話の女(片桐)
  電話の男(後藤)

◯ 医院・外観(昼)
  都内の個人開業の医院の外観。
  こじんまりとしているが新しい。

  (次のシーンの亮二の声、先行)
亮二「何もやる気がしないんです・・」


◯ 医院・診察室(昼)
  シワくちゃの服を着た佐々木亮二(25)が診察用の丸いすに座り、
  医師の高森藤生(33)と向かって症状を説明している。

亮二「やらなきゃダメだって思うほど、やりたくないっていうか・・ダメ人間なんです、僕・・」
高森「なるほど。体調の方はいかがですか? 頭痛や吐き気がするとか、食欲がないとか、眠れないとか、何か気になる症状は?」
亮二「いえ。体調は、全然問題ないです。元気、です・・」
高森「では急に気分が落ち込んだり、わけもなく涙が出てきたり、そういったことは?」
亮二「・・それも、ないです。ただやる気が出ないだけで、感情が極端に上下したりするようなことは別に。普通に好きなことやってれば楽しいし・・ちょっと罪悪感はあるけど・・」
高森「好きなことはできるんですね?」
亮二「あ、好きなことって言っても、ベッドでゴロゴロしたり、テレビ見たり、漫画読んだり、とかですけど・・」
高森「そうですか。症状的にはうつ病等とは少し違いそうですね」
亮二「あ、はい。心療内科にも一応行ってみたんですけど、そういうんではないって・・」
高森「では、具体的にはどんな時にやる気がなくなりますか? 法則性がありそうですか?」
亮二「えっと・・そう言われてみると・・進捗・・」
高森「進捗?」
亮二「はい・・その・・『進捗は?』って聞かれると、途端にやりたくなくなるんです」
高森「ほう」
亮二「職場で上司にそう聞かれる度に、応えるのが億劫で、やる気がなくなっていって・・仕事が合ってないのかなと思ってとりあえず辞めてみたんですけど・・転職活動始めたら今度は転職エージェントが定期的にメールしてくるんです。『進捗はどうか』って・・そしたらもう、全然やる気しなくなっちゃって・・」
高森「そういった症状が出始めたのは最近ですか?」
亮二「就職してから気づいたけど・・元々こういう性分だったのかもしれないです・・去年、結婚もダメになって」
高森「結婚も?」
亮二「結婚式の準備始まったら、彼女が工程表作って、『進捗がー』って口癖みたいに言うから・・僕、やる気なくなっちゃって、そしたら彼女怒っちゃって・・」
高森「それはとても残念でしたね」
亮二「もしかしたら自分は世界の誰よりも怠け者なんじゃないかって思ったら、自己嫌悪で・・」
高森「お気持ちお察しします。でもきっと考え過ぎですよ」
亮二「・・すみません・・こんなの自分でどうにかしろって感じですよね・・ただの怠け・・ですもんね」
高森「いえ、そんなことありませんよ。ここはそういう方のための『怠け者外来』ですから」


◯ 医院・外観(昼)
  タイトル『怠け者外来』


◯ 医院・診察室(昼)
  デスクの引き出しから書類を取り出す高森。

高森「一度、こちらに出てみるのはいかがですか?」

  高森、亮二に対して『怠け者選手権世界大会』と書かれたチラシを渡す。

亮二「え、なにこれ・・怠け者選手権・・?」
高森「あ、ご存知ありませんでしたか? ネットでかなり話題になってたはずなんだけど」
亮二「すみません・・」
高森「いえいえ。4年に1度の世界大会、ちょうど今年の夏なのでよかったら。エントリーもまだ間に合います」
亮二「は、はあ・・でもこれってどういう・・?」
高森「1ヶ月共同生活しながら、期限付きの課題をこなすだけです。皆さん自分が世界一の怠け者ではないと証明したくて参加するようですから、必死ですよ」
亮二「だれも優勝したがらない大会ってことですか・・」
高森「とはいえみんな怠け者です。他の出場者を見たら、少し自信がもてるかもしれませんよ」
亮二「自信か・・」
高森「推薦者として私の名前を記載しますから、出場資格に問題はありません。あ、それと、治療の一環ですから、出場料は医療費として保険適用になります。よろしければこちらのエントリー書類に個人情報の記入とサインをお願いできますか? 英語になりますが」

  高森の事務的な話を話半分に聞きながら、チラシをまじまじと眺める亮二。


◯ 合宿所・外観(日替わり・昼)
  郊外にある平屋の合宿所。
  入り口に『怠け者選手権 世界大会 日本会場』と書かれた看板が立てかけてある。
  シワくちゃの服を着て、大きめの荷物と共に疲れた様子で入口前に佇む亮二。

亮二「やっとついた・・」


◯ 医院・診察室(日替わり・昼)
  医師の高森が、患者と話している。

高森「なに言ってるんですか! すごいじゃないですか!!」
  
  向かいの患者席には、亮二ががっくりと肩を落として座っている。

亮二「最悪ですよ・・こんな結果・・世界一の怠け者だなんて・・」

  亮二の手元には怠け者選手権の金メダルが握られている。

高森「世界一なんてすごいことです。自信を持ってください」
亮二「あの時先生が言ってた自信って、こういうことじゃないですよね? 世界には僕より怠け者がいるから安心しろってことでしたよね!?」
高森「まあそんなのどっちでもいいじゃないですか。佐々木さんが偉業を成し遂げたことには違いないんです。だって世界で一番ですよ!」
亮二「はい。世界で一番、価値のない人間です・・」
高森「そんなことありません。佐々木さんは誤解しています」
亮二「・・どういうことですか?」
高森「佐々木さんのようなですね、気持ちではちゃんと怠けまいとしていて、身体は健康そのもの、にも関わらず怠けてしまう『真の怠け者』はですね」
亮二「先生・・慰めてるんですよね・・?」
高森「あ、失礼。これは専門用語なんですけどね。とにかく、佐々木さんのようなタイプは非常に貴重なんですよ」
亮二「え? 専門用語? ・・どういうことですか・・?」
高森「いいですか。日本の労働の効率の悪さは今や由々しき問題です。同じ企業に、働きすぎで過労死するような人間と、定時までソリティアで時間を潰しているような人間がいるなんておかしいでしょう? 生産性向上のためにも、国としてこの問題の解決は急務なんです」
亮二「え、あの、それと『真の怠け者』とどういう関係が・・?」
高森「怠けのメカニズムの解明は、その一端を担う重要な使命のひとつです。怠けを抑制できたら、全体の生産効率が上がりますから。しかしね、そのための研究に使う怠けサンプル・・あ、つまり怠け者の被験者はですね、偽陽性の割合が高すぎるんですよ」
亮二「え? ぎようせい・・?」
高森「ああ、つまり、自分は怠け者だって言ってやってきた人でも、本当は怠け者ではなかったってパターンが多すぎるんです。例えばひきこもってゲームばっかりやってるタイプとかね。彼らは常々ゲームに懸命に取り組んで、向上心を持って努力している状態ですから、全く怠けてないんです」
亮二「・・なるほど」
高森「でも佐々木さんはちがう」
亮二「・・僕もゲームはときどきしますけど・・たしかにそんなにのめり込むことはないかな・・ランキングとか出されて競争を仕向けられるとだるくなっちゃって・・」
高森「あなたは完璧です。完璧な怠け者です。喉から手が出る怠けサンプルです」
亮二「いやなんかもう妖怪みたいになってるし・・・・えっとつまり・・僕は国の研究で重宝される?」
高森「そうです。なんせ世界一ですから。もう怠け者一本で食っていけます」
亮二「怠け者一本って・・」
高森「被験者には当然謝礼もでます。それも引く手あまたです。当面は生きていけますよ。もうあなたは怠けてればいいんです。ごちゃごちゃ悩む必要もないんですよ」
亮二「・・そう言われるとちょっと夢みたいかも・・」
高森「どうか存分に、怠けライフを楽しんでください」


◯ 亮二のアパート(日替わり・昼)
  古めのワンルーム。
  部屋の中は散らかっている。
  玄関にはいっぱいになったゴミ袋が置いてある。
  時計は13時を指している。
  亮二はパジャマ姿でベッドに横になって、スマホを流し見しながらグダグダしている。
  そのスマホに、登録されていない番号から電話がかかってくる。
  驚き、一度はスマホを落としつつも電話に出る亮二。

亮二「・・もしもし?」
電話の女「あの、佐々木亮二さんのお電話で間違いないでしょうか?」
亮二「はい・・そうですけど・・」
電話の女「あぁ、よかった。突然すみません。あの私、帝進大学・生命科学研究科の片桐と言います。怠け者世界王者の佐々木さんに、ぜひ研究に協力いただきたいと思って、お電話しました」
亮二「あ、はい・・」
電話の女「もちろん相応の謝礼は支払います。検討いただけますか?」
亮二「あの、いったいどういう・・?」  
電話の女「あ、面倒なことは一切お願いしませんよ。だって怠けてるデータを取りたいので。フフフ」
亮二「は、はあ・・」
電話の女「まずはとりあえず佐々木さんの日々のバイタルデータと、代謝物質のサンプルを取らせていただきたいんです。ちょっとした機器をつけていつも通り生活していただきながら・・」
亮二「(電話に相槌を打つ)はい・・、はあ・・、なるほど・・」


◯ 亮二のアパート(日替わり・昼)
  パジャマ姿でカップ麺を食べている亮二。
  腕にはバイタルデータを摂るためのリングがつけられている。
  傍らに置いてあったスマホに電話がかかってくる。
  恐る恐る電話に出る亮二。

亮二「もしもし?」
電話の男「突然失礼致します。私、国立労働力研究センター・脳科学研究部の後藤と申します。佐々木亮二様でいらっしゃいますでしょうか?」
亮二「はい、そうですけど」
電話の男「この度、私どもの研究にぜひご協力いただきたく、ご連絡差し上げました。内容について、今、少しご説明させていただいてよろしいでしょうか?」
亮二「はあ・・」


◯ 亮二のアパート(日替わり・昼)
  時計は11時を指している。
  ベッドで目を覚ます亮二。腕にはバイタルデータ取得用のリング。
  眠そうに起き上がり、ベッドサイドにおいてあるヘッドギアを装着する。
  ヘッドギアにはwifiのマーク。
  すると、枕元で充電中だったスマホに電話がかかってくる。
  躊躇なく電話に出る亮二。
   
亮二「はい、佐々木亮二ですが」
菜摘「あ、佐々木さん! あの私、野々村です。あの・・怠け者選手権で一緒だった野々村菜摘です」

  驚いて姿勢を正す亮二。

亮二「え、あ、の、のののの野々村さん・・?」
菜摘「はい。突然ごめんなさい。ご無沙汰してます。あの、もしよろしかったら少し会ってお話ししたいことがあるんですけど」
亮二「(緊張した様子で)え、あ、はい!」
菜摘「あの、近々お時間取っていただくことって可能ですか? お近くまで参りますので」

  慌てて立ち上がる亮二。

亮二「あ、は、はい! 今日でもいつでも、大丈夫です!」


◯ カフェ(夕方)
  カフェの席で、向かい合って話す亮二と清楚な身だしなみの野々村菜摘(23)。
  亮二は帽子を被ってヘッドギアを隠している。

亮二「あ、あの・・少し雰囲気変わりました?」
菜摘「あ、ちゃんとお化粧するようになったからかも・・おかしいですか?」
亮二「いえ・・(小さな声で)おキレイ・・です」
菜摘「(恥じらった様子で)あの私、今日はお礼が言いたくて」
亮二「お礼?」
菜摘「私、佐々木さんにすごく感謝してるんです。佐々木さんのおかげで生まれ変われたので」
亮二「え? 僕は別に何も・・」
菜摘「いえ、私、大会で佐々木さんに出会って、すごく勇気をもらったんです。・・それまでは自分はどうしようもない怠け者だって思ってたし、ずっと後ろ向きな気持ちで、何もできなかったんですけど・・私よりもずっと怠けてる人がいるんだってわかって、なんだか安心したっていうか、前向きになれたんです」
亮二「え・・」
菜摘「そしたら急に、自信っていうのかな? そういのが湧いてきて、なんかちょっとだけ、ちゃんとできるようになりました」
亮二「それ、僕が欲しかったやつ・・」
菜摘「佐々木さんの怠けは本当にすごいです。人に元気と勇気を与える怠けです」
亮二「ハハハ、そうかな・・褒められてる気がしないな・・」
菜摘「あの、それで・・もしよかったらなんですけど」
亮二「?」
菜摘「お礼と言うのもおこがましいんですけど、私に・・その・・佐々木さんの身の回りのお世話を・・させていただけないでしょうか」
亮二「・・・・はい?」
菜摘「佐々木さんには、これからも安心して怠け続けていただきたいので。私に出来るのは家事のお手伝いくらいなんですけど・・」
亮二「・・え?・・・・え??」
菜摘「(照れを隠すように勢い良く)やっぱり、ご迷惑ですよね! 私なんて!」
亮二「(勢いにつられて)いいえ!」

  菜摘、ぱあっと花開くように笑顔になる。

亮二「(ぼそっと)うそだろ・・」


◯ 医院・診察室(昼)
  シワのない服を着て、シャンとした姿勢で診察用の丸いすに座る亮二。
  ヘッドギアの上に帽子をかぶり、腕や指には多数の様々な測定機器が装着されている。
  向いには医師の高森が座っている。

高森「どうですか、生活の方は」
亮二「あの、順調です。順調すぎて・・ホントにいいのかな、っていう感じです・・」
高森「いいんですよ。佐々木さん自身の力で勝ち取ったんじゃないですか」
亮二「勝ち取ったっていうか・・僕は何もしなかっただけですけど・・」
高森「心なしか、身だしなみが以前よりキチッとしたような?」
亮二「あの実は・・彼女ができまして・・」
高森「なんと! そうでしたか」
亮二「なんでもやってくれるんです。その、僕の身の回りのこと」
高森「素晴らしいじゃないですか。では佐々木さんは、以前にもまして何もしなくてよくなったんですね」
亮二「まあ、そう・・ですね・・」
高森「よかったですね」
亮二「・・はい」
高森「順調そうで安心しました。では次は2週間後にまた来てくださいね」


◯ 亮二のアパート(夜)
  部屋がきれいに片付いている。
  キッチンで菜摘が食器を洗っている。
  亮二はそわそわした様子でベッドに座っている。
  やがて亮二は立ち上がり、菜摘に近づく。

亮二「あのさ、僕が洗うよ」
菜摘「やだ、なにその冗談」
亮二「いや、冗談じゃなくてさ」
菜摘「亮二さんは怠けてて」
亮二「でもいつもやってもらってばっかりじゃ・・」
菜摘「そんなの気にしなくていいの。私は、怠けてる亮二さんが好きなんだから」
亮二「・・そうかもしれないけど・・」
菜摘「それに亮二さんが怠けないと、研究機関の人も困っちゃうよ」
亮二「・・」
菜摘「さあさあ、こんなところにいないで、今日も世界一怠けててください♪」

  亮二はすごすごとベッドに戻り、少し落ち込んだ表情でストンと座る。


◯ 亮二のアパート(昼)
  部屋が以前のように汚くなっている。
  時計は13:10頃を指している。
  亮二がベッドでダラダラしている様子を、『熱中大陸』という番組ロゴの入ったジャンパーを着たテレビカメラマンが撮影しており、その脇ではディレクターが見守っている。
  玄関には、同じジャンパーを着たスタッフが数名待機している。
  ふいにベッドから立ち上がり、キッチンに向かう亮二。
  それを追いかけるカメラマンとディレクター。
  キッチンに立つ亮二に向かって、ディレクターがインタビューをする。

ディレクター「ご飯作るんですか?」
亮二「はい。お腹すいたので」
ディレクター「何を作るんですか?」
亮二「彼女がよく作ってくれる納豆パスタを。いつも作るとこ見てたし、僕にもできるかなと思って」
ディレクター「彼女がいるんですね」
亮二「はい。撮影用に部屋汚くするから、ここ数週間来てないんですけど。久しぶりに彼女の味が食べたくなっちゃって」
ディレクター「ちょっとカメラ止めて」
  
  カメラマンがカメラを下ろす。

ディレクター「あの、佐々木さん、ちょっと今の言い方はヤラセと勘違いされちゃいそうなんで、やり直してもらっていいですかね」
亮二「あ、すみません」
ディレクター「あと、テレビだからって特別なことしなくていいですから」
亮二「はい?」
ディレクター「ご飯とかいつも作ってないですよね? カップ麺とかですよね、きっと。いつも通りでお願いします」
亮二「え、『ありのままで』って言われたから好きなようにやってたんですけど・・」
ディレクター「すみませんが、自炊ってちょっとイメージと合わないんでそういうのはNGで」
亮二「はあ」
ディレクター「あと彼女がいるっつーのもちょっと違う感じすんな・・どう思う?」
カメラマン「そうっすね。なんかちょっと逆にガッカリするかも」
ディレクター「だよな。佐々木さん、彼女の話もやめましょうか」
亮二「・・はい・・」
ディレクター「あくまで世界一の怠け者としての佐々木さんでお願いします」

  苦笑いで応える亮二。


◯ 医院・診察室(昼)
  医師の高森が、患者と話している。

高森「見ましたよー。熱中大陸! すっかりスターですね」

  向かいの患者席には、身だしなみの整った亮二が座っている。
  心なしか元気がなさそう。

亮二「・・恥ずかしながら」
高森「順調そうで何よりです。特に変わったことはないですかね」
亮二「・・はい」
高森「そうですか。心配事がなければ今回も早めに終わりに・・」
亮二「(遮って)あの! ・・あの、やっぱり、少し話したいことがあります」
高森「どうしました? なんでも遠慮なくおっしゃってください」
亮二「あの・・つらいんです・・」
高森「というと?」
亮二「・・怠けるのが・・つらいんです・・」
高森「なるほど」
亮二「怠けなきゃいけないっていうのはわかってるんです。僕にはそれしか価値がありませんから・・でも周りから『怠け』を求められるほど、プレッシャーで・・」
高森「そうですか」
亮二「すみません・・こんなの身勝手ですよね・・怠けて生きていけるなんてすごい贅沢なのに・・」
  
  少し考える仕草をして間をあける高森。
    
高森「それで、佐々木さんはこれからどうしたいですか?」
  
  うつむき考え込む亮二。
  やがて苦悩の表情で口を開く。

亮二「もう、怠けたくないんです・・」

  しばらく高森は何も答えない。
  間に耐えられずに亮二が恐る恐る顔を上げると、高森がにっこり笑っている。

高森「おめでとうございます。完治ですね」
亮二「え? 完治・・」
高森「治したかったんでしょ、怠けを」
亮二「え・・そっか・・そっか、治ったのか・・!」
高森「思った通りでした!」
亮二「?」
高森「佐々木さん、おっしゃってましたよね。『進捗は』と聞かれると、やる気がなくなるって。それはおそらく、他者に管理されていることをやろうとするとやる気がなくなる、ということじゃないかと思いました。つまり、社会や他人に決められた『やるべきこと』はやりたくない」
亮二「やるべきことはやりたくない・・」
高森「それなら、怠けることが他者から求められる『やるべきこと』になれば、怠けたくなくなるのではないか、と仮説を立てたわけですが、まさかここまで厳密にそのルールが働くなんて!」
亮二「え?」
高森「実に面白い実験データが取れました。この法則を逆手にとれば色々応用できそうです」
亮二「え、ちょっと待って下さい・・じゃあ今までのこと、全部先生が?」
高森「実験へのご協力ありがとうございました。この一ヶ月あなたを養うだけの予算をかけた甲斐がありました」
亮二「そんな・・」
高森「佐々木さんにとっても悪い話ではなかったはずですよ。お金をもらって、怠けも治療できたわけですし」
亮二「・・そうだけど・・でもなんか・・」
高森「あ、もう通院しなくて大丈夫ですよ。また怠けたくなったら来てくださいね」
亮二「・・(複雑な感情)」
高森「ここは、怠け者外来ですから」
              (完)

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