メロン コメディ

家に帰ると死体が消えていた――。 殺人を犯した男とその殺人を利用して一億円を得ようとする二人の男。 この二つの視点から描かれるイカれた男たちの会話劇。
石﨑遼太 87 1 0 02/15
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第一稿

人物表
 鮫島凪人(32) 探偵
 竹中良太(32) 無職、鮫島の幼馴染

 奥寺 佑(29) 鮫島の助手
 野崎 彩(38) 鮫島の依頼人

 竹中杏子(35) 良 ...続きを読む
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人物表
 鮫島凪人(32) 探偵
 竹中良太(32) 無職、鮫島の幼馴染

 奥寺 佑(29) 鮫島の助手
 野崎 彩(38) 鮫島の依頼人

 竹中杏子(35) 良太の妻、雅人の愛人
 野崎雅人(41) 彩の旦那

 志保(60代) 

 警察官
 女性 
 子どもたち

 良太S 夢に出てくる良太と同一人物

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〇マンション・階段(夕)
   不自然なほどゆっくりと階段を上っているスーツ姿の竹中良太(32)。
   階が上がるたびに立ち止まって時計を見る。

〇同・廊下~竹中家・前(夕)
   歩いている良太。
   ある部屋の前で立ち止まる。
   『竹中』の表札。
   良太、時計を見ている。
良太「……も、いっか」

〇同・竹中家・玄関(夕)
   玄関扉の鍵が開き、入ってくる良太。
良太「ただいまー」
   電気が点いていなくて薄暗い。
良太「あれ、いないの?」
   良太、部屋に上がる。
   その際、何かを感じ、足下を見る。
   一枚の紙を踏んでいる。
   良太、その紙を手に取り電気を点ける。
   紙には『トイレ』と書いてある。

〇同・トイレ・中~外(夕)
   入ってきた良太、壁や天井を見た後、便ふたを開ける。
   便ふたの裏には紙が貼ってあり、『洗面所』と書かれている。
   出てきた良太。
良太「何これ……」

〇同・洗面所(夕)
   浴室の扉に貼られた紙を見ている良太。紙には『服を脱いで浴室に入れ』と書かれてい
   る。
   ×     ×     ×
   服を脱いだ良太、浴室に入る。

〇同・浴室(夕)
   入ってきた良太、浴槽の蓋に置かれた紙を見つける。
   紙には『ご飯にする? お風呂にする? それとも私?』という文字。
良太「いや、風呂入れってことじゃん」
女性の声「おかえり。早かったね今日」
   声のする方を見る良太。
   扉越しに人がいるのが見える。
女性の声「先にお風呂?」

〇同・洗面所(夕)
   良太、扉を開けて、顔を出し。
良太「何この誘導。先に入れって言ってるようなもんじゃん」
   浴室の扉の前に立っている竹中杏子(35)。
杏子「じゃあ、私にする?」
良太「もちろん」
   ×     ×     ×
   洗濯カゴには杏子の服も見られる。
   浴室からは二人の声が聞こえている。

〇同・廊下(夕)
   靴を持った男(雅人)、忍び足で歩いている。顔は見えない。

〇同・洗面所(夕)
   浴室の扉越しに良太と杏子が求め合っているのが分かる。

〇同・玄関(夕)
   男(雅人)、部屋を出て行き、玄関扉がゆっくりと閉まる。
   タイトル「メロン」

〇同・外観(翌朝)
   何かを焼いている音が聞こえている。

〇同・竹中家・リビング(朝)
   キッチンで料理をしている杏子。
   弁当箱に卵焼きが詰められる。

〇同・良太の部屋(朝)
   良太、鏡を見ながらネクタイを整えているが、心ここにあらずといった様子。
   杏子の声がだんだん聞こえてくる。
杏子の声「……ねえ……ねえって」
   良太、肩を触られて我に返る。
杏子「(心配した様子で)ごはんできたよ」
良太「……ああ……」
杏子「……どうしたの? 大丈夫?」
良太「……うん……(鏡を見つめる)」

〇同・玄関(朝)
   靴を履いている良太。
   その後ろに立っている杏子。
杏子「今日帰りは?」
良太「うーん、ちょっと遅くなるかも」
杏子「分かった」
   立ち上がる良太。
杏子「いってらっしゃい」
良太「いってきます(と、玄関扉を開ける)」
   見送っている杏子、扉が閉まると、鼻歌を口ずさみながら廊下を歩いていく。

〇公園・道(朝)
   ランニングをしている人がいる。

〇同・ベンチ(朝)
   歩いてきた良太、腰を掛ける。
志保「おはようございます」
   犬の散歩をしている志保(60代)。
良太「おはようございます」
   志保、歩いていく。
良太「(時計を見て)……九時間……いや、九時間半……」
   良太、大きなため息を吐く。

〇同
   風にそよぐ木。
   貧乏ゆすりをしている足。
   腕を組んでいる良太のである。
   時計を見る。そして、息を吐く。
   ×     ×     ×
   スマホで転職サイトを見ている良太。
   不意に顔を上げる。
   鳥が飛んでいる。
   その鳥をしばらく目で追う。
   お腹が鳴る音が聞こえる。
良太「(お腹に手を当てて)……」
   ×     ×     ×
   弁当箱を開く良太。
良太「(手を合わせて)いただきます」
   良太、卵焼きを食べる。
   ×     ×     ×
   最後の卵焼きを食べ、空になった弁当箱。
良太「(手を合わせて)ごちそうさま」
   ×     ×     ×
   水筒の飲み物を飲み、息を吐く。
良太「……(ボーっとしている)」
   ×     ×     ×
   良太、いつの間にか目を閉じていた。

〇同(夕)
   良太が座っているベンチの前を子どもたちがはしゃぎながら通り過ぎる。
   良太のスマホ画面。充電がほとんどないのが分かる。
   良太、志保が犬の散歩をしているのに気付く。
   笑顔で会釈をする志保。
   良太も会釈をするが上手く笑えない。
良太「……帰るか」
   良太、腰を上げ、ゆっくりと歩きだす。

〇コンビニ・前(夕)
   歩いてきた良太、コンビニの前を通り過ぎていく。

〇マンション・前の通り(夕)
   駐まっている(事務所の)車の横を歩いていく良太。
   その車の運転席にはスマホを触っている男(奥寺)がいる。顔は見えない。

〇同・階段(夕)
   前日と同様にゆっくりと階段を上っている良太。

〇同・廊下~竹中家・前(夕)
   歩いている良太。
   部屋の前で立ち止まり、時計を見て。
良太「ちょっと早いか……ま、いっか」
   良太、鍵を開け、中へ入る。
良太の声「ただいまー」
   玄関扉が閉まる。
   しばらくして、男女の悲鳴や争う声が聞こえてくる。

〇同・寝室(夕)
   息が上がっている良太。
   薄暗いがバットを持っていることと服に血が付いていることは分かる。
   はっきりとは見えないが床に下着姿の男女が倒れているようである。
良太「……」

〇鮫島探偵事務所・外観(同日)
   二階の窓ガラスに『鮫島探偵事務所』の文字。
彩の声「殺しはやってないですよね?」

〇同・中
鮫島「はい?」
彩「いえ、何でもないです」
   テーブルを挟んで向かい合って座っている鮫島凪人(32)とラグジュアリーな装いの野
   崎彩(38)。
   二人の抜けにパソコンを触っている奥寺佑(29)が見える。
   彩、テーブルの上にあるお茶を飲む。
鮫島「……殺しって言いました?」
彩「はい?」
鮫島「いえ、何でもないです」
彩「……やってるんですか?」
鮫島「やってないですよ。探偵ですから」
彩「ですよね……」
   さっきから鮫島と彩のやり取りが気になっている様子の奥寺。
彩「……でも、もし……もしもの話ですよ。もし、引き受けるとしたら、いくらだったら引き受
 けますか?」
鮫島「いや、いくらでも引き受けませんよ」
彩「いや、もしもの話ですよ。もし引き受けるとしたら」
鮫島「(冗談っぽく)まぁ百億出してくれれば考えますかね」
彩「百億ですか……」
奥寺「僕だったら十億で引き受けますよ」
鮫島「(え? と)」
彩「それでも十億ですか……」
鮫島「あ、いやいやいや。引き受けませんよ。(奥寺に)お前、何言ってんだよ」
彩「(奥寺に)一億で何とかならないですか?」
鮫島「だから、引き受けないですから」
奥寺「一億じゃちょっと……」
鮫島「当たり前だよ。(彩に)あの、いくらでも引き受けませんから。(奥寺に)お前、黙って
 ろ」
奥寺「(すいません、と)」
鮫島「……(奥寺に)でも、もし引き受けるなら事務所通せよ」
奥寺「どっちなんですか」
鮫島「冗談だよ(彩の方を見る)」
彩「……」
   鮫島、改めて。
鮫島「そんな、殺したいほどですか?」
彩「はい。だって、私がいるのに女つくってるんですよ。許せませんよ……」
鮫島「でもまだ、不倫していると決まったわけじゃないじゃないですか」
彩「いや、絶対してますよ」
鮫島「それを調査いたしますんで、殺すとかやめてくださいよ」
彩「はい……(奥寺に)やっぱり一億じゃ無理ですよね?」
鮫島「だから、ダメって言ってるじゃないですか」
奥寺「一億ですか……」
鮫島「いや、何、お前も考えてんだよ。いいですか? 殺しなんてやりませんし、やらせません
 から。こんなんだったら調査引き受けませんよ」
彩「……すみません……」
   ×     ×     ×
   空になっている湯呑。
彩「分かりました」
鮫島「それで……」
彩「あのー」
鮫島「……(はい?)」
彩「あの、調査なんですけど、今日からっていうのは難しいですか?」
鮫島「今日からですか?」
彩「はい。女の勘っていうんでしょうか。なんかそんな気がして……」
鮫島「でも、今日午後から――」
彩「(遮って)お金なら……」
鮫島「……」
彩「(頷いて)……はい……」

〇停まっている事務所の車・内(夕)
   運転席に座っている鮫島、近くのケーキ屋を見ている。
   店内には男性客が二人いる様子。
   店から出てきたケーキ箱を持った客の一人(奥寺)、車の方へ歩いてくる。
   後部座席に乗り込んできた奥寺。
奥寺「チーズケーキとモンブラン買ってきました」
鮫島「そんなことどうだっていいよ」
奥寺「もうすぐ出てくると思いますよ。それにしても久しぶりですね。こんな探偵っぽいことす
 るの」
鮫島「確かに。いつぶりだろ? でも、一年は経ってないよな?」
奥寺「いや、経ってますよ」
鮫島「いや、経ってないだろ」
奥寺「いや、経ってますって」
鮫島「あ、出てきた」
   店から出てきたケーキ箱を持った野崎雅人(41)。  
   近くに停まってあったタクシーに乗り込む。
   シートベルトを締める鮫島。
鮫島「そんな、一年も前だったっけ?」
奥寺「そうですよ……」

〇ケーキ屋・前の通り(夕)
奥寺の声「……多分」
鮫島の声「いや、曖昧じゃねーか」
   事務所の車、発進する。

〇駐まっている事務所の車・内(夕)
   カメラのファインダーから覗いた画。
   ある部屋の前に立っている雅人。
   中から玄関扉が開けられる。誰が開けたのかは見えない。
   雅人、ケーキ箱を掲げ、軽く言葉を交わし、中へ入っていく。
   この間、何度もシャッターが切られる。
   後部座席にいる鮫島、ファインダーから目を離し、撮った写真を見る。
   運転席に乗り込んできた奥寺。
奥寺「どうですか?」
鮫島「うん……そっちは?」   
奥寺「(撮った写真を見ながら)入ってくところは」
   奥寺、鮫島にカメラを渡す。
   受け取った鮫島、写真を見ながら。
鮫島「まあまあだな」
奥寺「とか言いつつも?」
   鮫島、奥寺にカメラを返し。
鮫島「モンブランとチーズケーキだっけ? (と、ケーキ箱を手に取る)」
   奥寺、カメラを受け取って。
奥寺「(ぶっきらぼうに)そうですよ」
鮫島「お前、ベイクドチーズケーキじゃん」
   箱の中を見ている鮫島。
奥寺「はい。ベイクド嫌いですか?」
鮫島「レアだろ、普通」
奥寺「鮫島さんの好み知らないですよ」
   ×     ×     ×
   鮫島、モンブランがのった紙皿を奥寺に渡す。
奥寺「(受け取り)結局そっち食べるんですね」
鮫島「俺、栗ダメだから(食べ始める)」
奥寺「あ、そうなんですか。でも、モンブランってあんまり『栗』って感じしなくないですか? 
 (食べ始める)」
鮫島「するよ。だからモンブランなんじゃん」
奥寺「いやなんか、モンブランの栗って『栗』っていうよりかは『マロン』って感じじゃないで 
 すか」
鮫島「何それ、英語にしただけじゃねーか」
奥寺「いやその、スイーツのかぼちゃって『かぼちゃ』っていうよりかは『パンプキン』って感
 じじゃないですか。なんかそんな感じで、栗も」
鮫島「いや分かんないよ。栗嫌いからしたらどれも一緒だよ」
奥寺「そうですか? (腑に落ちていない様子)」
   鮫島、食べ終わる。
鮫島「何か飲み物買ってきてよ」
奥寺「僕まだ食べてます」
鮫島「食べ終わってからでいいからさ」
奥寺「嫌って言ったらどうします?」
鮫島「情に訴えかける」
奥寺「嫌です」
鮫島「(気だるそうに)んーじゃあ俺が行くよ」
奥寺「情に訴えかけないんですか?」
鮫島「うん、いいよ。俺が行くから。何がいい?」
奥寺「じゃあコーヒーでお願いします」
鮫島「ブラックでいい?」
奥寺「はい」
   鮫島、ドアに手をかけて。
鮫島「ほんとに俺に行かせていいんだな?」
奥寺「行ってくれるんですよね?」
鮫島「……うん……」
奥寺「(純粋な感じで)お願いします」
鮫島「……」
奥寺「あと、何か塩気のあるお菓子でもあれば」
鮫島「……」
奥寺「(思い出したように)あ、お願いします」
鮫島「……いや、行かねーよ(と、ドアから手を離す)」
奥寺「あ、行かないんですか?」
鮫島「情に訴えかけてんだからもっと心動けよ、お前」
奥寺「すいません。あ、もう食べ終わるんでじゃんけんしましょうよ」
鮫島「いや、行かねーのかよ」

〇コンビニ・前(夕)
   歩いている鮫島、コンビニへ入っていく。
   数秒後。
   反対方向からやってきた良太、鮫島が来た方向へ歩いていく。

〇駐まっている事務所の車・内(夕)
   運転席でスマホを触っている奥寺。
   車の横を良太が歩いていく。

〇コンビニ・前(夕)
   飲み物やお菓子を抱えた鮫島、出てくる。
   そして、来た方向へ歩いていく。

〇駐まっている事務所の車・内(夕)
   運転席でスマホを触っている奥寺。

〇マンション・廊下(夕)
   ゆっくり歩いている良太。

〇駐まっている事務所の車・内(夕)
   奥寺、スマホを置く。
   そして、徐にカメラを手に取り、雅人が入っていった部屋付近を覗く。
   カメラのファインダーから覗いた画。
   誰もいない。
   窓をノックする音が聞こえる。
   奥寺、カメラを下ろし助手席の方を見る。
   買った商品を抱えた鮫島が立っている。
   奥寺、助手席のドアを開ける。
   鮫島、なだれ込むように座席に商品を置く。

〇マンション・竹中家・前(夕)
   玄関扉が閉まる。

〇駐まっている事務所の車・内(夕)
   商品をグローブボックスの上に置いて助手席に座る鮫島。
奥寺「行ってから思ったんですけどご飯とかの方が良かったですね。もう日が暮れ始めてます
 し」
   ×     ×     ×
   インサート。夕暮れ、通りに駐まった事務所の車。
   ×     ×     ×
鮫島「文句か、それは」
奥寺「いや、文句じゃないです。いただきます(と、コーヒーを手に取る)」
   飲み物を飲む鮫島。
   奥寺、お菓子を選ぼうとするも全てさきイカやカルパスなどのおつまみである。
奥寺「何でおつまみばっかなんですか?」
鮫島「それは文句か?」
奥寺「うーん、まぁそうですね」
鮫島「じゃあ、食べるな」
奥寺「冗談ですよ」
   スマホのバイブが鳴る。
   鮫島、スマホを取り出し、耳に当てる。
鮫島「もしもし……は?」
   声に反応して鮫島を見る奥寺。
鮫島「今すぐは無理だよ……何、急ぎのやつって」
   奥寺、さきイカを開けている。
鮫島「だから無理だよ今すぐは。そもそも、お前ん家知らねーし(チラッと奥寺を見る)」
   奥寺、鮫島に、いります? とさきイカを差し出す。
   鮫島、首を横に振る。
鮫島「んーじゃあ近かったら行ってやるよ。それも依頼ってことだったら(チラッと奥寺を見
 る)」
   奥寺、鮫島を見る。
鮫島「(奥寺を見ながら)依頼でいいの?」
   奥寺、また鮫島に、いります? とさきイカを差し出す。
   鮫島、首を横に振る。
鮫島「(奥寺を見ながら)うん……うん……分かった。じゃあ……」
   鮫島、電話を切る。
奥寺「どうしたんですか?」
鮫島「(スマホ触りながら)もしかしたら別件に今から行かないといけないかも」
奥寺「依頼ですか?」
鮫島「うん。友達が依頼でいいから来てくれって。まぁまだ分かんないけど。連絡来て――あ、
 来た……うん?」
   奥寺、さきイカを食べている。
鮫島「(スマホを見ながら)なあ」
奥寺「はい」
   鮫島、スマホを奥寺に見せ。
鮫島「ここ(スマホ画面)ってここ(マンション)だよな?」
奥寺「……ここ(スマホ画面)ってここ(マンション)ですね」
鮫島「ちょっと行ってくる」
奥寺「分かりました」
   車を降りた鮫島。
鮫島「何かあったら連絡して」
奥寺「はい。行ってらっしゃい……ませ。ませ?」

〇マンション・エントランス(夕)
   スマホを見ながら入ってきた鮫島、立ち止まって。
鮫島「うん?」

〇同・竹中家・リビング(夕)
   ゴミ箱に詰め替え用の塩が入っていた袋が捨てられる。

〇同・寝室(夕)
   電気が点いていなくて薄暗い。
   玄関扉の開く音が聞こえてくる。
   返り血が付いた良太、塩がいっぱいに盛られたお茶碗を死体のそばに置く。
   死体は顔にはバスタオル、首から下には布団が掛けられている。
   近くには血の付いたバットもある。
   恐る恐る寝室を覗く鮫島、驚いて。
鮫島「えっ? 何、お前、えっ?」
   鮫島の視線の先には良太が立っている。
   そばには死体とお茶碗いっぱいの塩。
鮫島「……お前……」
良太「……」
   鮫島、電気を点ける。
鮫島「……お前がやったの?」
良太「……うん……」
鮫島「……警察は?」
良太「……呼んでない。てか、呼んでないからお前を呼んだんだよ」
鮫島「呼ばないと」
良太「いや、冷静に考えてみろよ。呼んだら捕まるじゃん」
鮫島「いや普通、冷静になると警察呼ぶだろ」
良太「普通ってなんだよ」
鮫島「んーまぁ、確かにこの場合の普通が何なのかは分かんないけど。でも、警察を呼んだ方が
 いいのは確かだろ」
良太「……いや、捕まりたくないんだよ」
鮫島「捕まりたくないって……大体何があったの?」
良太「簡単に言うと、不倫現場に遭遇して……(バットで殴る仕草をする)」
   タオルをめくる鮫島。
   杏子と雅人の顔が露になる。杏子の顔はキレイだが雅人の顔には複数回殴られた跡があ
   る。
鮫島「……」
良太「お前よく見るな」
   鮫島、タオルを戻す。
鮫島「で、どうすんだよお前、警察呼ばないなら。山にでも埋めんのか?」
良太「……(手を合わせて)頼む」
鮫島「頼むって何を?」
良太「山に埋めるの手伝ってくんない?」
鮫島「お前本気で言ってんのか?」
良太「金は払うから」
鮫島「払うたってお前そんな金持ってねーだろ」
良太「出世払い」
鮫島「無職の人殺しは出世しねーよ」
良太「じゃあどうしたらいいんだよ」
鮫島「自首しろよ。それ以外何があんだよ」
良太「……」
鮫島「お前のため思って言ってんだぞ」
良太「……分かったよ……自首するよ」

〇同・リビング(夕)
   スマホ片手に入ってくる良太。
   ワンタップで警察に電話をかけられる状態。
良太「(独り言で)押すだけだよ。押したらいいんだよ」
   良太、息を止めて震える指を通話ボタンに近づける。
良太「……あ、無理だっ」
鮫島の声「何してんの?」
良太「えっ? (と、振り返る)」
   その際に通話ボタンを押してしまう。
良太「あっ(と、慌てて取り消す)」
鮫島「何してんの?」
良太「電話」
鮫島「してないじゃん」
良太「いや、そうだけど……」
鮫島「交番まで送っていこうか?」
良太「えっ?」

〇駐まっている事務所の車・内(夜)
   運転席にいる奥寺、こちらに向かって歩いてきている良太に気付く。
   良太、車の後方で電話をしている鮫島に指示を仰ぐ。そして、後部座席へ乗り込み、運転
   席の後ろの位置に座る。
良太「近くの交番までお願いします」
奥寺「……はい……」
良太「最近のタクシーは自動で開かないんですね」
奥寺「……いや、タクシーじゃないですよ」
良太「(冗談っぽく)あ、そっか」
奥寺「……え、タクシーでした?」
良太「……いや、タクシーじゃなかったです」
奥寺「ですよね?」
良太「……はい……」
奥寺「勝手に車が変わることなんてないですもんね」
良太「(苦笑いで)……そうですね……」
   鮫島、補助席の窓から中を覘き込む。
鮫島「もう仲良くなったの?」
奥寺「この車、タクシーじゃないですよね?」
鮫島「はっ?」
良太「いや、何でもない何でもない」
鮫島「……(?)」
良太「乗らないの?」
鮫島「あ、そうなんだよ。ちょっと仕事があってさ、この後まだ」
奥寺「……」
鮫島「だから悪いけど……」
良太「そっか。あ、だから近くにいたの?」
鮫島「……あ、そうそう」
良太「せっかく人が捕まるのに」
鮫島「せっかくってなんだよ」
良太「まぁ務めて参ります」
鮫島「うん、元気で」
奥寺「なんか、軽いですね」
   微笑う鮫島と良太。
   鮫島、奥寺と目が合い。
鮫島「……じゃあまた、連絡する」
奥寺「分かりました」

〇マンション・前の通り(夜)
   事務所の車、発進する。
   鮫島、それを見送ると、マンションのの方へ歩きだす。

〇道路 (夜)
   停まっている事務所の車、発進する。
   それにより、良太の姿が露になる。
   車道を挟んだ向かいに交番がある。
   良太、歩きだす。
   ×     ×     ×
   歩いている良太、交番の前まで来るも通り過ぎる。
   ×     ×     ×
   街灯。
   その下で一人で喋っている良太。
良太「私は人殺しです。妻を殺してしまいました」
   近くに先ほどの交番が見える。
良太「妻とその不倫相手を殺してしまいました。でも、殺す気はなかったんです。気付いたら、
 血の付いたバットを持っていて。それで……」
男の声「あの、すみません」
   良太、振り返る。
   そこには警察官が立っている。
警察官「何されてるんですか?」
良太「いや、あのー……」
警察官「……」
良太「……特に」
警察官「特に?」
良太「……はい」
警察官「お住まいは? この近く?」
良太「はい」
警察官「お仕事は?」
良太「……えっと……」
警察官「ここじゃあれなんで、交番行きましょうか」
良太「分かりました。言います。でも、ここだけの話にしてくださいね。実は私、役者をやって
 まして。まだ売れてないんですけど。それで――」
警察官「(遮って)あの、交番でお話聞きますんで。行きましょう」
良太「(迫真の演技で)妻とその不倫相手を殺してしまいました。でも、殺す気はなかったんで
 す。気付いたら、血の付いたバットを持っていて。それで……」
警察官「行きましょう」
良太「……はい……」
   交番へ歩いていく良太と警察官。

〇雲がかかった月(夜)

〇交番・外観(夜)
警察官の声「ご協力ありがとうございました」
   交番から出てくる良太。
良太の声「♪言えないよ~」

〇通り(夜)
良太「♪殺し~た~な~んて~」
   歩いている良太。

〇公園・道・ベンチ(夜)
   歩いてきた良太、腰を掛ける。
   そしてため息を吐き、空を眺める。
   ×     ×     ×
インサート。少し曇った夜空。
   ×     ×     ×
   空を眺めている良太、目を閉じる。

〇良太の夢・青空

〇同・公園・道・ベンチ
   目を開けた良太、徐に横を見る。
   そこにはスーツ姿の良太と同一人物の男(以降、良太S)が座っている。
   腕を組んで貧乏ゆすりをしている良太S、時計を見てため息を吐く。
良太「(前を向いて)……」
   良太、もう一度横を見る。
   良太S、また時計を見ている。
良太「……あのー」
良太S「……(良太を見る)」
良太「……いずれバレますよ」
良太S「……はい?」
良太「結婚してるんですよね?」
   良太S、左薬指の指輪を見て。
良太S「ええ」
良太「お子さんは?」
良太S「いないですけど……あの、どこかでお会いしました?」
良太「いえ、初対面です」
良太S「ですよね?」
良太「はい」
良太S「……あの、いずれバレるってどういうことですか?」
良太「違いました? すみません。なんか、そんな雰囲気というか……見た感じ……」
良太S「……まぁ間違ってはないですけど……分かります?」
良太「そうですね。スーツ着て昼間から公園にいて、それにすごい時計見てましたし」
良太S「そうですか……やっぱり早めに言った方がいいですよね、こういうことは」
良太「奥さんによるんじゃないですか? 奥さん温厚な方なんですか?」
良太S「はい。あんまり怒らない人で」
良太「今でも好きなんですか?」
良太S「はい。もちろんですよ」
良太「じゃあ、どうしてそんなことしたんですか?」
良太S「好きだからこそですよ」
良太「うーん……ちょっと僕には分かんないです」
良太S「そうですか」
良太「温厚な方なら言って謝るのがいいんじゃないですか? 隠し通せるなら黙ってていいかも
 しれないですけど、ばれたとき怖いですよ」
良太S「そうですよね。え、もしかして経験あるんですか?」
良太「まぁ、逆の立場でですけど」
良太S「逆の立場?」
良太「はい。妻が不倫してたんですよ」
良太S「……えっ? すみません。なんか、話が全然見えてこないんですけど」
良太「え、不倫してるんですよね?」
良太S「いえ」
良太「えっ? でも、昼間からスーツ着て公園で待ち合わせしてるってことは……」
良太S「待ち合わせ?」
良太「あ、違うんですか?」
良太S「はい」
良太「あっ、僕てっきり、奥さんに仕事と嘘をついて不倫相手と会うのかと思ってました」
良太S「不倫相手なんていないですよ、失礼な」
良太「すいません。僕、妻が不倫してて、それで殺してしまったんですよ。なんでつい結び付け
 てしまって、不倫と」
   良太S、冗談と思って。
良太S「じゃあ今逃亡中とかですか?」
良太「まぁそうなりますね。自首しようと思ってるんですけどなかなか行けなくて。やっぱり早
 めに行った方がいいですよね、こういうことは」
良太S「奥さんによるんじゃないですか? 奥さん温厚な方なんですか?」
良太「はい。あんまり怒らない人で」
良太S「今でも好きなんですか?」
良太「はい。もちろんですよ」
良太S「じゃあ、どうしてそんなことしたんですか?」
良太「好きだからこそですよ」
良太S「うーん……ちょっと僕には分かんないです」
良太「そうですか」
良太S「温厚な方なら行って謝るのがいいんじゃないですか? 隠し通せるなら黙ってていいか
 もしれないですけど、ばれたとき怖いですよ」
良太「そうですよね。え、もしかして経験あるんですか?」
良太S「はい。昔、車で猫轢いちゃって憑りつかれたことあるんですよ」
良太「あ、そうなんですか」
良太S「今では飼いならしてるんですけど(と、猫が膝の上にいるかのように撫でる)」
良太「死体参りに行ってから自首することにします」
良太S「そうしてください」
良太「あの、話戻りますけど不倫じゃないなら今何を……」
   言いにくそうな良太S。
良太「あ、すいません。初対面なのに込み入ったこと聞いてしまって」
良太S「いえいえ、全然いいですよ。逆に知ってる人への方がしにくいですから、こういう話
 は……」
良太「……」
良太S「……」
良太「……言いにくいですよね」
良太S「すいません」
良太「知ってる人にしにくいからといって知らない人にしやすいってわけではないですもんね」
良太S「(すいません)」
良太「じゃあ、僕の事件の話聞きますか?」
良太S「事件?」
良太「はい。さっき言った妻を殺してしまった話です。まぁ不倫相手もですけど……」
良太S「……え、ほんとに殺したんですか?」
良太「恥ずかしながら……(バットで殴る仕草をする)」
良太S「……またまた……」
   真面目な様子の良太。
   良太S、笑顔がゆっくりと引いていく。
良太S「……本当なんですか?」
良太「はい」
   良太S、後ずさりし始める。
良太「いや、そんな恐れおののかなくても大丈夫ですよ」
良太S「……」
良太「自首するつもりなんでわざわざ刑を重くするようなことはしないですから」
良太S「……そうですか……」
   二人の距離が先ほどより少し離れている。
   良太S、改まって。
良太S「……あの、実は会社クビになってしまったんですよ。それを奥さんに……」
   良太S、良太の姿が消えていることに気付いて、……。
   膝の上に目を移すと犬がいる。
   犬、良太Sの顔を舐回す。
   嫌がる良太S。
   志保の声が聞こえてくる。

〇公園・道・ベンチ(目覚めて翌朝)
   犬に舐められ嫌がっている良太。
志保の声「……マサルやめなさい。マサル」
   やっと犬が良太から離れる。
   良太、眩しそうに目を開ける。
   朝になっていて、目の前には志保と犬がいる。
志保「(犬に)勝手に上がっちゃダメでしょ」
良太「……夢か」
志保「すみません」
   寝惚け眼で軽く会釈をする良太。
志保「マサル行くよ(良太に笑顔で会釈して去っていく)」
良太「(軽く会釈して)……いや、家じゃねーよ、ここ」
   良太、スマホを取り出すも、充電切れで開かない。
良太「……帰るか……」
   腰を上げた良太、歩きだす。

〇コンビニ・前(朝)
   店内から出てきた良太、線香やカップ麺を持っている。
   マンションの方へ歩いていく。

〇マンション・廊下~竹中家・前(朝)
   歩いている良太。
   部屋の前まで来て、鍵を開けて中へ入る。

〇同・竹中家・リビング(朝)
   入ってきた良太。
   箱から線香を全て取り出し、箱をゴミ箱に捨てる。
   コンロで線香に火をつける。

〇同・寝室(朝)
   線香片手に入ってきた良太。
   死体があるはずの方を見て固まる。
良太「……」
   あったはずの死体が無くなっている。
良太「……イッツァリアルマジック」

〇同・洗面所(昨夜)
   浴室の扉越しに男(良太)がシャワーを浴びているのが分かる。

〇同・リビング(夜)
   女性用のバッグを漁っている鮫島、中から鍵を取り出す。

〇同・洗面所(夜)
   シャワーの音が聞こえている。
   入ってきた鮫島、浴室の扉をノックする。
   反応がないのでもう一度ノックして。
鮫島「良太ー」
   シャワーの音が止まり。
良太の声「うん? 何?」
鮫島「先に下りてるから。下に車、駐まってるからそこに来て」
良太の声「分かった」
   洗面所を出る鮫島。
   シャワーの音がまたし始める。

〇同・前の通り(夜)
   駐まっている事務所の車。

〇駐まっている事務所の車・内(夜)
   運転席の奥寺と助手席の鮫島。
奥寺「ほんとですか?」
鮫島「うん。で、今から交番に送ってほしくてさ。もう少ししたら来ると思うから」
奥寺「……分かりました……えっ、鮫島さんも来ますよね?」
鮫島「いや、それなんだけど、依頼人が言ってたこと覚えてるよな? 一億円の」
奥寺「はい……えっ?」
鮫島「このことを上手く使おうと思ってさ」
奥寺「上手く使うって……」
   鮫島、スマホを見て。
鮫島「噂をすれば」
奥寺「……」
鮫島「とにかく、俺行けないから頼んだ」
奥寺「はい……」
鮫島「詳しくはまた後で言うから。あと、このことは喋んないでね。言ってないから」
   鮫島、電話に出ながら車を降りる。
奥寺「……」

〇マンション・前の通り(夜)
   駐まっている事務所の車の後方でスマホを耳に当てている鮫島。
鮫島「えー単刀直入に申し上げますと、黒でした……はい、そうです……」
   鮫島のもとへやってきた良太。
鮫島「(良太に)中入ってて。(電話の相手に)いや、それはちょっと……」
   良太、後部座席に乗り込む。
鮫島「……分かりました。じゃあ、事務所にお連れしますんで、そこでお話しするというのでど
 うですか?」
   奥寺と話している様子の良太。
鮫島「……はい、そうです……そうですね……二時間後でどうですか?」
   車内にいる良太を見る鮫島。
鮫島「……分かりました。では、一時間後に……はい……はい……はい、失礼します……はい、
 失礼します……」
   鮫島、スマホを耳から離す。
   スマホをポケットにしまい、助手席まで歩く。そして、窓から中を覘き込んで。
鮫島「もう仲良くなったの?」
   聞こえないが会話を交わしている様子の鮫島。

〇駐まっている事務所の車・内(夜)
鮫島「(奥寺に)じゃあまた、連絡する」
奥寺「分かりました」

〇マンション・前の通り(夜)
   事務所の車、発進する。
   鮫島、それを見送ると、マンションの方へ歩きだす。

〇同・廊下~竹中家・前(夜)
   歩いている鮫島、部屋の前で立ち止まる。
   ポケットからさっきの鍵を取り出し、その鍵を使って中へ入る。

〇同・寝室(夜)
   電気を点けた鮫島。
   視線の先には顔にはバスタオル、首から下には布団が掛けられた死体。

〇同・洗面所(夜)
   鮫島、棚からタオルを取り、水で濡らす。

〇同・寝室(夜)
鮫島「んーよいしょ」
   と、雅人をベッドの上にのせる。ベッドの上にはすでに杏子の死体がある。
   二人に付着していた血は拭き取られていて、近くには血の付いた先ほどのタオルがある。
   雅人を杏子に覆い被さる状態になるよう動かし、ふぅ、と息を吐く鮫島。
   ×     ×     ×
   鮫島、部屋の明かりを少し暗くする。
   そして、スマホで二人の写真を撮る。
   死体の位置やカメラのアングルを変えたりして何枚も撮る。
   ×     ×     ×
   杏子の目を閉じる。
   雅人の顔を杏子の首筋に動かす。
   そして、写真を撮る。
   ×     ×     ×
   雅人と杏子の足を絡ませる。
   そして、その写真を撮る。
   同様にして、恋人繋ぎをさせた手の写真も撮る。
   ×     ×     ×
   撮った写真を見ていると奥寺から『マンションの前に着きました』という通知がくる。
   鮫島、スマホをポケットにしまい、死体を元に戻し始める。
   ×     ×     ×
   死体の位置など元通りになっているように見える部屋。
   電気が消える。

〇同・玄関(夜)
   出ていった鮫島。
   玄関扉が閉まり、鍵がかかる音がする。

〇走っている事務所の車・内(夜)
奥寺「うまくいきますかね?」
   運転している奥寺と助手席の鮫島。
鮫島「大丈夫大丈夫」
奥寺「ほんとですか?」
鮫島「任せとけって」
奥寺「……そうですか……(不安そう)」
鮫島「何が心配なんだよ」
奥寺「全てですよ」
鮫島「大丈夫だって。気にすんな。俺が全部やるから」
奥寺「……はい……」
鮫島「あ、そうだ。あいつに言ってないよな? このこと」
奥寺「はい。言ってないですけど……」
鮫島「けど、何だよ?」
奥寺「いや、友達なんですよね?」
鮫島「そうだけど」
奥寺「あまりいいように思わないんじゃないですか?」
鮫島「……だって言ったらあいつ自首しないもん」
奥寺「どういうことですか?」
鮫島「あいつ、金で死体を山に埋めるの俺に手伝うように言ってきたんだよ」
奥寺「そうだったんですか」
鮫島「でも、あいつ今金なくてさ。会社クビになって無職だったし」
奥寺「……それが自首しないことと、どう関係あるんですか?」
鮫島「いやだって、言ったら金払わないといけないわけじゃん。あいつが殺したんだし。単純計
 算でも一億の三分の一。じゃあ引き受けるでしょ。俺だったら」
奥寺「んーと……つまり、どういうことですか?」
鮫島「だから、俺の性格を考慮した結果、あいつが自首するためには致し方なかったったってこ
 と」
奥寺「要するに、お金のためではなくて、あくまでも竹中さんを思っての……」
鮫島「そうそう。そういうこと。それがたまたまウィンウィンだったってだけで」
奥寺「ウィンウィンですか?」
鮫島「だって、俺は金を手に入れられて、あいつは自首できたんだよ。ウィンウィンじゃん」
奥寺「(首を傾げて)そうですか? でもなんか、ここ(胸を示して)がキューっってならない
 ですか?」
鮫島「俺、その機能ついてないんだよ」
奥寺「……」

〇道路(夜)
   事務所の車、走り去る。

〇鮫島探偵事務所・外観(夜)
   電気が点く。

〇同・中(夜)
   入ってきた鮫島、彩、奥寺。
彩「何でいないんですか?」
鮫島「まあまあ、説明しますから。どうぞ(と、椅子を示す)」
   納得いっていない様子の彩、座る。
   タブレット端末を持った鮫島、彩の向かいに座る。
彩「納得いく説明をお願いします」
   タブレットを触っている鮫島。
鮫島「はい。まずこちらをご覧ください(と、タブレットをテーブルの上に置く)」
   そして、スワイプして、順に写真を表示させていく。
   タブレット画面。恋人繋ぎをしている手。
鮫島「旦那さんと不倫相手の手です」
   タブレット画面。男女の絡み合った足。
鮫島「これは、旦那さんと不倫相手の足です」
彩「ちょっと待ってください」
   止まらず。
   タブレット画面。目を閉じている杏子と杏子の首筋に顔をやっている雅人。
彩「……」
鮫島「……不倫相手です」
彩「……これ、旦那ですか?」
鮫島「はい」
彩「どうやって撮ったんですか? 最初の二枚も」
鮫島「……えっ……」
彩「同じ部屋にいますよね? 二人と」
鮫島「……いや……」
   奥寺、お茶を持ってきて、どうぞ、と。
彩「じゃあどうやって撮ったんですか?」
鮫島「……それは、企業秘密です」
彩「合法ではないですよね?」
鮫島「それも企業秘密です」
彩「てことは違法ってことですよね?」
鮫島「企業秘密です」
彩「……(首を傾げる)」
   二人の抜けにあるデスクの椅子に座る奥寺。
彩「じゃあ、質問を変えます。そもそもこんなんで証拠になるんですか? こんなアップな写真
 で」
鮫島「こういうのもあります」
   と、画面をスワイプして、杏子に覆い被さる雅人の全身の写真を出す。
彩「……どうやって撮ったんですか? これ」
鮫島「企業秘密です」
   呆れた様子の彩。
彩「全身写ってますけど顔は写ってないじゃないですか。これで証拠になるんですか?」
鮫島「……」
彩「そもそもこんな法に触れるようなやり方で撮った写真、認められないでしょ」
鮫島「……」
彩「何で黙ってるんですか?」
鮫島「……」
   奥寺、パソコンを開いてはいるが鮫島と彩の話が気になって仕方がない。
鮫島「……あの、今朝の、一億円の話は覚えていますよね?」
彩「はっ?」
鮫島「覚えてますよね?」
彩「……それがどうし……(ピンときて)え、殺したの?」
鮫島「いえいえ。まだです」
彩「まだ?」
   彩、タブレットに視線をやる。
   鮫島、それに気付きタブレットを手に取る。
彩「……(鮫島を見る)」
   鮫島、スリープモードになったタブレットをテーブルの上に置く。
彩「……」
   鮫島、……。
彩「まだってどういうことですか?」
鮫島「あの、依頼を引き受けようかと思いまして」
彩「依頼?」
鮫島「はい。殺しの依頼を。一億円でお引き受けいたします」
彩「いや、しないですよ、依頼なんか」
鮫島「いやいや。言ったじゃないですか」
彩「まぁ確かに言いましたけど、その時の熱量といいますか、それで言っただけで。別に本気で
 言ったわけじゃないですから」
鮫島「それは困りますよ」
彩「困りますって言われても。大体何なんですか? 旦那と女は来ないですしまともな仕事はし
 ないですし」
   タブレットを手に取った鮫島。
彩「……聞いてます?」
   奥寺、彩の「キャー」という悲鳴でビクッとなり、……。
   彩、鮫島から顔を背けている。
   鮫島の持つタブレットの画面。血だらけの雅人の全身の写真。
鮫島「もう殺してしまったんですよ。だから一億円払ってもらわないと……」
奥寺「……」
   彩、スマホを取り出す。
鮫島「いやいやいや、ちょっと待ってください(と、テーブル越しに彩の手首を掴み)警察には
 もう連絡いってますから」
   彩、掴まれていない方にスマホを持ち替える。
鮫島「殺した人も自首してますし」
   彩、えっ? と鮫島を見て。
彩「じゃあ、あなた達は? あなた達は捕まらないんですか?」
鮫島「……」
奥寺「……(立ち上がっている)」
   彩、緊急で電話をかけようとする。
   鮫島、それを阻止しようとテーブル越しに体を伸ばすも、彩、鮫島からスマホを遠ざけ
   る。
鮫島「……奥寺(と、助けを求める)」
   彩、緊急で電話をかける。
奥寺「あ、はいっ(と、彩に近付き、頭と顎を持ち、グキっと首を捻る)」
鮫島「(目を大きく見開く)」
   倒れる彩。
奥寺「……あ、間違えました」
   依然、目を大きく見開いている鮫島。
   彩のスマホから薄っすらと声が聞こえている。
   鮫島、スマホを拾い、耳に当てて。
鮫島「……すみません。友人が酔っぱらってかけてしまって……」
   奥寺、彩の脈を測っている。
鮫島「……はい、すみません。はい……失礼します……」
   スマホを耳から離し奥寺を見る鮫島。
   彩の胸に耳を当てている奥寺、鮫島を見て首を横に振る。
鮫島「……」

〇同・駐車場(夜)
   トランクを覘いている鮫島。
   視線の先には詰め込まれた彩の姿。
   鮫島、トランクを閉める。

〇駐まっている事務所の車・内(夜)
   ボーっと助手席に座っている奥寺。
   運転席に乗り込んでくる鮫島。
鮫島「(奥寺を見る)」
奥寺「……」
鮫島「……(微笑って)間違えたって――」
奥寺「(遮って)あるだろ(切れ気味)」
鮫島「(えっ?)」
奥寺「(同じ調子で)間違えることくらいあるだろ、誰だって」
鮫島「いや、でも――」
奥寺「(遮って)あるだろって」
鮫島「……うん……」

〇鮫島探偵事務所・駐車場(夜)
   事務所の車、発進する。

〇走っている事務所の車・内(夜)
鮫島「……(運転している)」
奥寺「……(チラッと鮫島を見る)」
鮫島「……(チラッと奥寺を見る)」
   奥寺、目を逸らす。
鮫島「……お腹空かない?」
奥寺「(食い気味で)空きました」
鮫島「……じゃあ、これ終わったら食べ行くか」
奥寺「はい」
鮫島「……」
奥寺「……あのー」
鮫島「何?」
奥寺「……さっきはすいませんでした」
鮫島「……ああ……」
奥寺「ちょっと、動揺してしまって……」
鮫島「まぁ誰にでもあるよ、そういうことくらい」
奥寺「(すいません、と肩をすぼめている)」
鮫島「……いや、ねーよ。間違えて人殺……」
   奥寺、目で威嚇している。
鮫島「……まぁあるか。そういうことも……」
奥寺「(すいません、と肩をすぼめる)」
   首を傾げる鮫島。
   少し沈黙があって。
奥寺「あのー」
   鮫島、うん? と。
奥寺「竹中さんの家ってもう警察来てますよね?」
鮫島「どうしたの急に」
奥寺「いや、ふと思っただけですけど……」
鮫島「……まぁ自首してたら来てるだろうな」
奥寺「そうですよね……」
鮫島「でも、会社クビになったことを奥さんに言えなかったようなやつだから。もしかしたら自
 首してないかもしれないけど」
奥寺「あ、そうなんですか……見に行きませんか?」
鮫島「……今向かってる」
奥寺「えっ?」

〇道路(夜)
   事務所の車、左折する。

〇走っている事務所の車・内(夜)
   運転している鮫島と助手席の奥寺。
鮫島「実は俺もついてんだよ。ここ(胸を示して)がキューってなる機能」
奥寺「謝りに行くってことですか?」
鮫島「自首してなかったらな。早いに越したことはないだろ」
奥寺「……はい。鮫島さんあるんですか?」
鮫島「はっ?」
奥寺「僕、旅行でも行ったことないです。てか、海外にすら行ったことないです」
鮫島「……何の話してんの?」
奥寺「ハワイに越したことないって……」
鮫島「いや、早いに越したことだよ。何で俺、急にハワイの話するんだよ」
奥寺「僕もなんか変だなとは思ったんですけど」
鮫島「ねーよ、ハワイに越したことなんか」

〇道路(夜)
   事務所の車、走り去る。
奥寺の声「まぁ誰にでもありますよ。言い間違えることくらい」
鮫島の声「……いや、聞き間違えたんだよ、お前が」

〇マンション・前の通り(夜)
   事務所の車、停まる。

〇停まった事務所の車・内(夜)
奥寺「(マンションの入口の方を見ながら)警察来てませんね」
鮫島「……行こう」

〇マンション・前の通り(夜)
   車から降りた鮫島と奥寺、マンションへ向かう。

〇同・竹中家・前~同・寝室(夜)
   インターホンを押す奥寺。
   『竹中』の表札。
   しばらくしても返事がない。
   奥寺、もう一度インターホンを押す。
奥寺「帰ってないんですかね? それか自首し……」
   奥寺、鮫島が鍵を開けようとしているのに気付く。
鮫島「知ってるか? 相手に許しを請うときの二つの方法(と、中へ入っていく)」
   奥寺も鮫島に次いで中へ入る。
奥寺「知らないです。何ですか?」
   寝室へ向かって歩く二人。
鮫島「一つはメロンを手土産に持っていくこと。もう一つは……」
   寝室の電気を点けた鮫島。
鮫島「相手の願いを聞き入れること」
   鮫島と奥寺の視線の先に、顔にはバスタオル、首から下には布団が掛けられた二人の死
   体。
奥寺「なんか普通ですね」
鮫島「……」

〇同・階段(夜)
   鮫島、奥寺、布団に包んだもの(雅人)を二人で持って、下りてくる。   

〇同・前の通り(夜)
   事務所の車の後部座席に運んできたもの(雅人)を入れる鮫島と奥寺。

〇同・階段(夜)
   階段を上っていく鮫島と奥寺。
   ×     ×     ×
   恐る恐る階段を下りてくる鮫島。
   その少し後を杏子(適当な服を着させた)をおんぶした奥寺が下りてくる。
   ×     ×     ×
   階段を下りてくる奥寺。
   下からは女性が上がってきている。
   奥寺、折り返した際にその女性と目が合う。
   杏子をおんぶした鮫島、奥寺に次いで下りてきている。
   ×     ×     ×
   さっきの女性をおんぶした奥寺、下りてくる。
   次いで、杏子をおんぶした鮫島、下りてくる。
鮫島「お前、事務所通さずに殺しやってるだろ」
奥寺「通したらいいんですか?」

〇同・前の通り(夜)
   車のトランクを覘いている鮫島と奥寺。
   視線の先には詰め込まれた彩とさっきの女性の姿。
   後部座席には布団を被せられた雅人と杏子の死体がある。
   トランクを閉めた鮫島と奥寺、車に乗り込む。
   事務所の車、発進する。

〇山中(夜)
   穴を覘いている鮫島と奥寺。
   三十センチほど掘られた穴に根っこや岩が見られる。
   汗をかいた鮫島、奥寺、……。
   周りにもいくつか穴がある。
   鮫島、奥寺、穴を見ながら。
鮫島「……無理だな……」
奥寺「……無理ですね……」
鮫島「……どうする?」
奥寺「……どうします?」
鮫島「……自首するか?」
奥寺「……そうですね」
   ×     ×     ×
   穴に土を戻している鮫島と奥寺。
   ×     ×     ×
   全ての穴に土が戻された様子。

〇走っている事務所の車・内(深夜)
   助手席でスマホを耳に当てている鮫島。
   運転している奥寺。
鮫島「(スマホを耳から離して)出ない」
奥寺「どうします? 警察行きます?」
鮫島「それはマズいだろ。あいつに言わないと」
奥寺「じゃあ、家行きます?」
鮫島「そうだな。とりあえず」

〇山中(深夜)
   山を下っている事務所の車。

〇マンション・前の通り(翌朝)
   事務所の車、駐まっている。

〇同・廊下~竹中家・前(朝)
   歩いている鮫島と奥寺。
   鮫島は両脇に、奥寺は片脇にメロンを抱えている。
   『竹中』の表札。
   奥寺、インターホンを押す。
良太の声「はい」
鮫島「鮫島です」
良太の声「ちょっと待ってて」

〇同・リビング(朝)
   話しながら入ってくる鮫島、良太、奥寺。
良太「どういうこと? 説明して」
   線香と塩がゴミ箱に捨てられている。
鮫島「まず、お詫びのしるしに。ごめん」
奥寺「すいませんでした」
   鮫島、奥寺、メロンを良太に渡す。
   良太、戸惑いながらメロン三つを受け取り。
良太「何のお詫び?」
鮫島「うん……まあ、立ち話もなんだし座って話そ(と、椅子を示す)」
良太「いや、俺ん家」

〇同・浴室(朝)
   浴槽に張った水で冷やされている三つのメロン。

〇同・リビング(朝)
   椅子に座っている鮫島、良太。
   奥寺、コーヒーをテーブルまで運ぶ。
良太「なるほど……てか、お前(奥寺)やばい奴だったんだな」
奥寺「竹中さんに言われたくないですよ」
   奥寺、椅子に座る。
   テーブルを囲むように三人が座っている。
奥寺「殺した人数、一緒なんですから。二人、二人で。平均したら一・三人で」
鮫島「何で平均すんだよ。俺も殺したみてーじゃん」
良太「まあまあいいじゃん。誰も殺してないんだから」
奥寺「そうですよ。自信持ってください。鮫島さんは誰も殺してないんですから」
鮫島「何で、俺諭されてんの?」
良太「話変えよう」
   納得いっていない様子の鮫島。
奥寺「あ、そういえば、自首しなかったんですね」
良太「いや、違うんだよ、聞いてくれよ」
奥寺「何ですか?」
良太「行ったらさ、すごい並んでたんだよ」
奥寺「どこがですか?」
良太「交番」
奥寺「(えっ?)」
良太「それでさ、ちょうど自分の前のお客さん。お客さんって言わないか。犯罪者」
   スマホを見ている奥寺。
良太「自分の前の犯罪者までですって言われて。ここはラーメン屋かよって思わずツッコんじゃ
 ってさ……」
   鮫島、奥寺、……。
鮫島「……(奥寺に)何か言ってあげて」
奥寺「(スマホ見ながら)そんな情報全然ないですよ」
良太「……」
奥寺「あ、もしかして隠れ家的なところ行ったんですか?」
良太「いや、ラーメン屋かよ」
奥寺「(純粋な感じで)……違います」
良太「……」
鮫島「(奥寺に)まぁこれくらいにしてあげて」
奥寺「(?)」
良太「(開き直って)びびったんだよ」
   鮫島、奥寺、え? と。
良太「捕まるのびびって、自首できなかったんだよ」
   鮫島、奥寺、……。
良太「職質されて、交番入ったのに、嘘ついて自首せずに出てきたよ」
鮫島「まあまあ、落ち着けよ。今度は俺たちも一緒に行くから」
良太「……えっ?」
鮫島「あ、そうそう。俺ら自首しようと思ってさ」
良太「ほんとに?」
鮫島「うん……」
良太「お前、バカじゃん。死体埋めようとまでして、結局自首するって」
鮫島「いや、お前そんな穴掘ったことねーだろ?」
良太「(当たり前だろと)ねーよ」
鮫島「だから言えるんだよ。(奥寺に)なあ?」
奥寺「はい」
鮫島「言ってあげて」
奥寺「……あ、僕ですか?」
鮫島「お前以外誰がいんだよ」
奥寺「ああ。あの、ずっと穴掘ってると、アナホリーズハイって言うんですか? 分かんないで
 すけど、なんか、そんな感じで、自分何してるんだろう? って、なってくるんですよ。それ 
 で、罪意識というか。そんなのが出てきて……」
鮫島「そうそう。俺だってアナホリーズハイになる前は自首しようとなんて思ってなかったも
 ん。でも、アナホリーズハイになったら――」
良太「(遮って)アナホリーズハイって何だよ」
鮫島「いや、だから……穴掘ってたら……(奥寺に)なあ?」
奥寺「はい。穴掘ってたら……なるやつです」
良太「あんの? そういうのが。ランナーズハイ的なのが」
奥寺「いや、ランナーズハイとは全然違いますよ」
良太「じゃあ、何でランナーズハイありきの名前なんだよ」
鮫島「まぁとにかく俺たち自首することにしたから」
良太「お前は何の罪になんの?」
鮫島「俺? んーまぁ、何かの罪にはなってるだろ」
良太「曖昧だな。で、ほんとに自首するの?」
鮫島「もちろん」
奥寺「僕らが自首するってことは、竹中さんナーズハイさんも自首するってことですからね」
良太「分かってるよ……てか、竹中ーズハイな」
奥寺「竹中ーズハイさん」
良太「何?」
奥寺「♪自首するなら今しかねぇ~」
良太「……」
鮫島・奥寺「♪自首するなら今しかねぇ~」
良太「……」
鮫島「腹くくれよ」
良太「……おん……(乗り気ではない様子)」
奥寺「あの、自首するときの服装ってどうすればいいんですかね?」
鮫島「そりゃスーツだろ」
奥寺「あ、やっぱりそうですか。謝罪会見のとき、みんなスーツ着てますもんね」
良太「……」
鮫島「(スマホを見ながら)なんか謝罪のときはグレーのスーツで紺色のネクタイがいいみた
 い」
良太「……」
奥寺「僕、黒しか持ってないです」
鮫島「良太は?」
良太「……うん?」
鮫島「スーツ。グレーのスーツ持ってる?」
良太「いや……黒しかないと思う」
鮫島「じゃあ黒でいっか。俺も黒しかないし」
良太「あのさ……」
   鮫島、奥寺、うん? と。
良太「あのー刑務所入ってからのことなんだけど……」
   鮫島、奥寺、……。
良太「……いじめられたりってしないかな?」
   鮫島、奥寺、えっ? と。
良太「いや、怖いじゃんそういうの」
奥寺「(からかうように)びびってますねー」
良太「うるせぇ」
鮫島「媚び売ればいいんじゃない?」
良太「どうやって?」
鮫島「刑務官だーれだ(と、エアで何かを引く動作をする)」
良太「……(?)」
鮫島「あ、俺だ。じゃあ……囚人番号○番が囚人番号△番の刑期の半分を貰う。○番は……あ、俺
 だ」
良太「……(??)」
奥寺「俺、△番」
鮫島「ほんとですか? 勘弁してくださいよ。百五十年ですか?」
良太「俺、アメリカの刑務所入んの?」
奥寺「お前っていいやつだな……」
鮫島「(良太に)これでいけるだろ?」
良太「無理だよ。どうやって刑期あげんだよ」
鮫島「あ、そっか」
良太「あ、そっかじゃねーよ」
奥寺「あ、じゃあ、醤油あげるのはどうですか?」
良太「……どういうこと?」
鮫島「いいかも。刑務所のごはん、味薄そうだもんな」
良太「いや、通じたの?」
   奥寺、エアで醤油をかける動作をする。
   鮫島、エアで何か食べようとするも、奥寺に気付き。
鮫島「何それ?」
奥寺「醤油です。いります?」
鮫島「うん」
   奥寺、エアで醤油を鮫島に渡す。
   鮫島、エアで醤油をかけて、一口食べる動作をする。
鮫島「おお、いい味になった。お前っていいやつだな」
奥寺「(少し照れて)そうですか?」
良太「……」
鮫島「ほんとだ。醤油があればいいんだ」
奥寺「そうなんですよ」
良太「どうやって醤油持ち込むんだよ」
奥寺「いや、それは……看守にもらえばいいんですよ」
良太「くれないだろ」
   鮫島、奥寺、立ち上がり、少し離れた位置に立つ。
良太「……(?)」
   エアで何か作業をしている奥寺、手を挙げる。
   鮫島、それに気付いて、近づく。
鮫島「どうした?」
奥寺「(小声で)あの、醤油持ってませんか?」
鮫島「はっ?」
奥寺「(小声で)醤油です。持ってませんか?」
鮫島「何言ってんだお前。黙ってやれ」
良太「そりゃそうなるよ」
   鮫島、奥寺、椅子に戻る。
奥寺「ダメでした」
良太「ダメでしたじゃねーよ。そりゃそうだろ」
奥寺「あ、刺身とかについている魚の醤油さし――」
良太「醤油、もういいよ」
奥寺「(そうですか? と)」
鮫島「あの一つ提案があるんだけど……」
良太「醤油以外も、もういいよ」
鮫島「いや、そうじゃなくて」
良太「……何?」
鮫島「今から自首するわけじゃん」
良太「ずっとその話をしてるよ」
鮫島「で、罪人なわけじゃん。俺ら」
良太「うん」
奥寺「(うん)」
鮫島「でも、ちょっとはかっこつけたいじゃん」
良太「うん?」
奥寺「はい」
良太「え?」
鮫島「いや、ちょっとだけだよ」
良太「どういうこと?」
奥寺「自首する際にってことですよね? 警察署に行くときに」
鮫島「そうそう」
良太「例えば?」
鮫島「かっこいいもの……」
奥寺「レザボア・ドッグスのオープニングクレジット」
鮫島「あぁ確かに。黒のスーツだし」
良太「あの感じで行くってこと?」
奥寺「今のこの感じもなんかオープニングのシーンに似てません?」
良太「どこがだよ。どっちかといえば日曜の朝にやってる番組だろ」
奥寺「あ、ほんとだ」
   鮫島、『ハロー・グッドバイ』を歌い始める。
奥寺「(胸の前辺りを示し)ここにテロップ出てますね。全員名前の上に人殺しって書いてあっ
 て……」
   発言通りのテロップが出る。
良太「どんなキャスティングだよ」
   鮫島、歌うの止める。
奥寺「でも、英語の歌はかっこいいですよね? 歌えたら」
鮫島「じゃあ黒のスーツ着て、サングラスかけて……」
良太「いや、サングラは良くないだろ」
奥寺「じゃあ、眼鏡にします?」
鮫島「うん。そうしよう」
良太「やっぱよくよく考えると黒のスーツも威圧的で良くないんじゃない?」
鮫島「うん……じゃあグレーのスーツと紺色のネクタイ用意するか?」
奥寺「そうですね」
鮫島「じゃあ行こう」
   『リトル・グリーン・バッグ』のイントロを口ずさみながら立ち上がる鮫島と奥寺。
良太「ちょっと待って」
   鮫島、奥寺、歌うのをやめて、うん? と。
良太「その歌だとこれから強盗に行くと間違われるんじゃない?」
鮫島「そうか? んーじゃあ……」

〇警察署・前の通り~入口
   鮫島の歌う『ハロー・グッドバイ』が聞こえてくる。
   歩いている鮫島、良太、奥寺。
   お揃いのグレーのスーツに紺色のネクタイ。脇にはメロンを抱えている。そして、伊達メ 
   ガネをしている鮫島と良太。
   歩きながら口ずさんでいる鮫島。
   エアで煙草を銜えるふりをする良太。
   伊達メガネをかける奥寺。
   警察署へ向かって歩いていく三人の後ろ姿。
                                   (終)

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