恋のビッグバン SF

天才女子高生のミヤモトは、野球留学にアメリカに行くタケウチを科学の力で造り出すことに成功する。しかし、倫理の教師フクムラがやって来て・・・。 科学とは何か?倫理とは何か?人間とは何か? そして生命とは? いま白熱した議論が幕を上げる!!
松上全也 10 0 0 02/04
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第一稿

【人物一覧表】
ミヤモト(17)女子高校生
フクムラ(24)高校教師
タケウチ(17)男子高校生、野球部員
マツモト(16)女子高校生、ミヤモトの助手
人造タケウチ
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【人物一覧表】
ミヤモト(17)女子高校生
フクムラ(24)高校教師
タケウチ(17)男子高校生、野球部員
マツモト(16)女子高校生、ミヤモトの助手
人造タケウチ
女子1~3
男子生徒

○高校・校庭・(昼)
   野球部のユニフォームを着たタケウチ(17)が女子生徒たちに囲まれている。
女子生徒1「タケウチ先輩、本当にアメリカに行っちゃうんですか?」
タケウチ「うん、悩んだけどやっぱり本場で野球をしたいんだ」
女子生徒2「でも英語大丈夫なんですか?」
タケウチ「ボディーランゲージだよ。ハートでぶつかれば何とかなるって、アメリカってそういう国だからさ」
女子生徒3「寂しいです」
タケウチ「そんな風に言ってくれてうれしいよ」

○同・科学室
   薄暗い教室。
   校庭の一団を見ている白衣を着たミヤモト(17)。
   マツモト(16)がモニターから顔を上げ
マツモト「ミヤモトさん、各種生体反応オールグリーン」
   ミヤモト、振り返ると、制服を着たタケウチが横たわっている。
   タケウチにはケーブルが繋がっている。
   ミヤモト、笑みを浮かべてサングラスをかけ
ミヤモト「OK、マツモトさんもサングラスかけて」
   マツモト、サングラスを掛け、レバーを手にかける。
ミヤモト「それじゃあ、徐々に電圧を上げていくよ。まずは500から」
マツモト「はい、500……1000……1500……3000」
   ケーブルが青白く光り始め、タケウチの体が痙攣していく。
   ミヤモトのサングラスに光が反射する。
マツモト「9000……10000」
   タケウチの目が開き、上半身が起き上がる。
ミヤモト「終了。電源OFF」
   サングラスを外し、肉眼で確認するミヤモト。
ミヤモト「タケウチくん」
   タケウチ、首をゆっくりとミヤモトの方に回す。
ミヤモト「やった! 成功だ!」
マツモト「やりましたね」
ミヤモト「あとは感情プログラムを電気信号化して流し込めば」
   ドアが開く。
   ミヤモト達が振り向くと、教師のフクムラ(24)が立っている。
フクムラ「とんでもないことをしたわね」
ミヤモト「誰?」
マツモト「倫理のフクムラ先生ですよ」
フクムラ「あなたは私の授業に出たことないものね」
ミヤモト「人類の進歩にケチをつける教科ですよね」
フクムラ「随分な言い草ね」
ミヤモト「科学の発展に『神様だ』とか『人道上の責任は』なんて蓋をするんですよね」
フクムラ「クローン人間なんて作ってしまうような人にこそ受けて欲しい教科なんだけどね」
ミヤモト「クローンなんて遺伝子を中途半端にコピーする技術と一緒にしないで下さい。これは完全な」
フクムラ「何故タケウチくんなの?」
ミヤモト「彼はサンプルにピッタリなんです。肉体的にも体力的にも優れているし、それに人格的にも面白い統計が出ている」
人造タケウチ「オモシロイ」
フクムラ「こんな回りくどいことをしないでも、告白すればいいのに」
ミヤモト「はぁ?」
フクムラ「タケウチくんのこと好きなんでしょ」
人造タケウチ「タケウチ……好き」
   ミヤモトとマツモトが目を合わせて笑う。
ミヤモト「俗っぽいことをおっしゃるんですね。それとも倫理ってそういう教科だったかな。残念ですけど、私はそんな感情に惑わされないんですよ」
フクムラ「じゃあ、聞くけどこのあとはどうするの? 手を繋いで歩きたいんじゃないの? 遊園地とかでデートしたいんじゃないの? 本物のタケウチくんとしたかったことをするんじゃないの」
人造タケウチ「……ホンモノ」
マツモト、タケウチの耳にヘッドホンをかける。
ミヤモト「今までの技術とは全く違うアプローチで作ったこの成果を発表するんです。これからはこの技術が世界のスタンダードになるでしょうね」
フクムラ「その後は?」
ミヤモト「私が色々なことを教えて一人の人間として真に完成させます。下らないことに左右されない欠点のない人間にするんです」
フクムラ「……」
ミヤモト「言っておきますが、先生のおっしゃることなんて全て想定の範囲内なんです」
   マツモト、頷く。
フクムラ「それがタケウチくんと言えるのかしら?」
ミヤモト「言ったでしょ。私は完璧な人間を造るんだって。この子はタケウチくんを超えた存在になるんです」
   タケウチ、ポカンと二人のやり取りを見ている。
ミヤモト「次の質問は何ですか? 生命の尊さについてですか?」
フクムラ「それじゃあ聞くけど、あなたは何故、以前の研究を辞めてしまったの? 人工ビッグバンだったかしら」
ミヤモト「それは」
   フクムラ「想定外のことが起きたんじゃないの?」

○(回想)同・廊下
   実験道具や資料を抱えたミヤモトがブツブツと独り言を言いながら歩いている。
ミヤモト「これさえあればこの学校を中心として人工的にビッグバンを引き起こせる。そうしたら新しい宇宙が出来る」
ミヤモト、男子生徒とぶつかり尻もちをつく。
   廊下に道具が散らばる。
男子生徒「イッてぇな、気をつけろよ」
   男子生徒、行ってしまう。
   ミヤモト、拾い始めると、タケウチが駆けつけてくる。
タケウチ「大丈夫? 怪我してない?」
ミヤモト「えっ、えっ、大丈夫」
   タケウチ、資料を拾い始める。
ミヤモト「いいから、拾わなくていい、私がやるから」
タケウチ、ミヤモトの手首を掴み
ミヤモト「えっ、えっ、何?」
タケウチ「ミヤモトさん」
ミヤモト「えっ、名前」
タケウチ「ちゃんと食べてる? 随分細いけど」
ミヤモト「ひ、必要な栄養ならちゃんとサプリメントで」
タケウチ「それじゃダメだよ」
   タケウチ、鞄から焼きそばパンを出して
タケウチ「これ」
ミヤモト「あ……ありがとう」
タケウチ「じゃあね」
   タケウチ去っていく。
   ミヤモト、焼きそばパンを抱きしめる。

○(戻って)同・科学室
   ミヤモト、頭を抱え
ミヤモト「違う。そんなんじゃない」
フクムラ「あなたの作ったタケウチくんはあなたに想定外のことをしてくれる?」
   ミヤモト、蹲る。
   フクムラ、人造タケウチを見て
フクムラ「この子は私が引き取るわ」
マツモト「えっ、ちょっと、ミヤモトさん、いいんですか?」
ミヤモト「一人で生きられそうって、それって、ねぇ、ほめているの?」

○空き教室
   フクムラ、人造タケウチの手を引いて入って来る。
   ヘッドホンを外し
フクムラ「やっと二人きりになれたね、タケウチくん」
人造タケウチ「フタリキリ」
   フクムラ、人造タケウチの手を取り、恋人つなぎにする。
声「バッカじゃないの」
フクムラ、ドアを見るとマツモトが顔を出して覗いている。
フクムラ「えっ、あの、これは」
   慌てるフクムラを蔑んだ目で見るマツモト。
   マツモト、ドアを閉めるとドアにタイトル。

○「恋のビッグバン」
                   (完)

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