『姦しい(6人の)男たち』  第5話「6人の結婚」 恋愛

いつも新宿2丁目で遊んでる、年齢も性格もバラバラな、仲良しゲイ6人組の、恋とか友情とか仕事とかのお話です。第5話はゲイの結婚式に参列した6人の様子。
西巣鴨りょう 31 0 0 12/27
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第一稿

登場人物

トオル(32)主人公。至って一般的なアラサーゲイ。書店員。
カオル(23)年少者で綺麗め担当。実は凶暴。美容部員。
スガヤ(42)年長者で保護者担当。バツイチ。 ...続きを読む
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登場人物

トオル(32)主人公。至って一般的なアラサーゲイ。書店員。
カオル(23)年少者で綺麗め担当。実は凶暴。美容部員。
スガヤ(42)年長者で保護者担当。バツイチ。不動産会社社員。
マサキ(35)霊感の強いスピ系。何かと謎が多い。画家。
ケント(27)自称異性愛者の体育会系。でも多分ゲイ。整体師。
ショウ(28)陽気なパーティ好き。不祥事で干された元・売れっ子モデル。

ミヨシ(40)トオルの彼氏。イタリアンレストランのスーシェフ。
マスダ(35)カオルといい感じの男。教習所の教官。
アキラ(22)スガヤが結婚式の2次会で引っ掛けた男。美容師。

ナオミ(??)ゲイバー『太陽と雄鶏』のママ。男。

マスダの姉
マスダの父
マスダの母
マスダの甥
マスダの祖父
ミッチー(猫)

○結婚式場・屋外(昼)

中央に白いタキシード姿の2人の男。
その周囲には正装した男達が大勢いる。
タキシードの2人がケーキに入刀する。
歓声と拍手が起きる。
シャンパン片手に丸テーブルに座っている6人。
適当な様子で拍手をしているトオル、スガヤ、マサキ。
はしゃいだ様子のショウとケント。
カオルは見向きもせず酒を飲んでいる。

カオル「ガーデンウェディングに、ブライドメイトまでつけて。やりすぎだっちゅうの。ま、ゲイだけあって、酒の趣味はいいけど。ノンケの結婚式って、酒も料理もなんであんなにひどいの?」
トオル「ゲイとノンケじゃ舌の構造から違うってことじゃない?生物学的に。音楽の選曲とかもひどいよね」
スガヤ「そんな態度だから2人ともブライドメイトに選んでもらえなかったんじゃないかな?」
ショウ「ヒューヒューおめでとー!」
ケント「おめでとー!」
スガヤ「お前らは何そんなにはしゃいでんだ?」
ショウ「なんで?だってめでたいじゃん!」
マサキ「ショウは1人でもうシャンパンを2本空けてるから、酔ってハイになってるだけ」
ショウ「だってタダ酒飲み放題なんでしょ?」
トオル「タダじゃない。ご祝儀、入り口で払ったでしょ。…払ったよな?」
ショウ「ああ、あれね。払ったけど、俺今無職で金ないから、余ってたスパラクーアの無料入館券、2枚入れて渡しておいた。あそこいいよね。アウフグースもやってるし」
トオル「働けっての」
マサキ「ケントはなんでそんなにテンション上がってんの」
ケント「だって俺男同士の結婚式なんて初めて来たもん!」
カオル「最近増えたよねえ、こういうの」
マサキ「この国ではまだ同性婚は認められてないわけだがその辺の問題についてはどう考えてるんだろうな、彼らは」
トオル「今は幸せいっぱいなんだから、何も考えてないの」
カオル「別にいいんじゃない?結婚式場は金さえ払えば猿とアルマジロの結婚式だってやるよ」
ショウ「ヒュー!よ、ご両人!キスしてー!」
カオル「大体なんでなんで僕達まで呼ばれるわけ?誰かあの2人と仲良かったけ?」
スガヤ「どうだったかな」
トオル「あんた、あっちの片割れ、花嫁の方?と昔ヤッてたでしょうが」
スガヤ「そうだった?」
カオル「こんな男でも、僕たちの中で唯一の結婚経験者とはね」
マサキ「唯一の離婚経験者でもあるけどね」
ケント「スガヤの結婚式ってどんな感じだったの?やっぱりこんな風にチャペルで派手にやったの?」
スガヤ「いや、うちは和式でやったから。三三九度でさ。デキ婚だったから身内だけで小さく」
カオル「スガヤが袴?なんかそれ、アウトレイジって感じ」
スガヤ「へえ、そうかな。お前の新しいヤンキーの彼氏よりはマシだと思うけど?」
ショウ「あ、そうだ!その話聞かせてよ!マスダとどうなったの!?」
カオル「ちょっとなんで知ってんの!?…トオルくん?」

シャンパンを飲みながら目をそらすトオル。

カオル「ゲイってやつはどうしてどいつもこいつも口が軽いんだ」
マサキ「で?」
カオル「で?じゃないよ。そもそも彼氏じゃない。付き合ってないもん」
ケント「でも告白されたんでしょ?」
カオル「(トオルに)ほんとに口が軽い!」
トオル「ごめん〜。だって他に話題がなかったんだもん。最近ミヨシさんとは穏やかな関係で事件起きそうもないし、他のみんなは男切らしてるし」
スガヤ「悪かったな」
ショウ「さりげなくマウント取られた!」
ケント「俺はノンケだ!」
マサキ「それ久しぶりに聞いた」
トオル「それよりカオルくんの話聞こうよ〜」
カオル「話なんてない。ただたまに会って、あいつの車でドライブしてるだけ」
ショウ「あの車を運転したの!?」
カオル「そうだけど?」
ショウ「それってすごいことだよ。マスダは絶対他人にあの車を触らせないもん」
スガヤ「さすが埼玉のヤンキー」
ケント「まさか、次の結婚式は…」
カオル「黙ってろ」
トオル「そうだ、黙ってろ。次結婚するとしたら俺とミヨシさんだ」
カオル「そうやって馬鹿みたいに付き合いたての熱に浮かされてると、また手痛い目に会うんだからね。過去の失敗から何も学んでないのかな?」
トオル「式場は軽井沢の山奥にある、木造の小さな教会…」
スガヤ「だめだこりゃ」
カオル「ブライドメイトだけはやらないからな、絶対に」

会場が突然静かになる。

ショウ「なんだ?」
マサキ「両親への手紙の朗読だってさ」
カオル「げえ、もうそんな時間?」
トオル「俺もこれ苦手…なんでみんなやるわけ?『産んでくれてありがとう』とか『僕にも家族ができました』とか」
カオル「反抗期の頃のエピソードとかな」
ケント「え〜いいじゃん、俺好きだよ。感動するじゃん」
マサキ「ゲイの場合はそれにプラス『同性愛者の苦悩』というエピソードが追加される。長くなるぞ」
カオル「きっつ」
ショウ「ヒュー!いいぞー早く読めー!」
トオル「おい、もうこいつに飲ませるな」

○マスダの車(夕)

運転するマスダと助手席にいるカオル。
膝の上に置いたウェディングケーキをフォークで突いている。

マスダ「2次会、行かなくてよかったんすか?」
カオル「挙式と披露宴で合計8回も2人のキスシーン見せられて、これ以上まだ付き合えっての?」
マスダ「他のみんなは行ったんっすか?」
カオル「顔出すみたいよ。物好きなこった。まあ大方目当ては男漁りだろうけど」
マスダ「カオルさんは結婚願望とかないんすか?家族とか」
カオル「あるわけねえだろう。あ、ウエディングケーキ、食べる?」
マスダ「食べるっす」

フォークでケーキをマスダの口に運ぶカオル。
それを頬張るマスダ。

カオル「来てもらって悪かったな。酔い潰れたショウを運ぶのが大変で」
マスダ「全然いいっすよ。カオルさんのスーツ姿も見られたし。とっても可愛いっす」
カオル「何言ってんだアホ」
マスダ「潰れた友達を家まで送ってあげて欲しいなんて、カオルさんまじで友達思いっすね。喧嘩も強いし、車の運転もうまいし、いいヤンキーになる素質あるっす」
カオル「殺すぞ」
マスダ「夕飯はどうします?山田うどん行きます?」
カオル「披露宴でたらふくハイカロリーなもん食ったからなあ。それより早くスーツ脱いで風呂に入りたい。そして飲み直したい」

足元のカバンからシャンパンのボトルを取り出すカオル。

カオル「ジャーン。1本くすねてきちった」
マスダ「じゃあ、そうします?」
カオル「は?」
マスダ「カオルさん、明日仕事休みって言ってましたよね」
カオル「言ったけど?」
マスダ「今夜、うち泊まって行きます?自分も明日休みなんで」
カオル「え?」
マスダ「そうだ!それがいいっす!」
カオル「ちょっと…何を勝手に!」
マスダ「うち、風呂広いっす!酒もたくさんあるっす!カオルさんの好きな『プラダを着た悪魔』のDVDもあるっす!」
カオル「あの映画は観ると購買意欲がおかしなことになるから今は禁じてるんだ!」

ハンドルを切り始めるマスダ。

カオル「おい、こらちょっと待て」
マスダ「約束するっす。絶対変なことはしないっす。自分床で寝るんで、ベッド使ってください」
カオル「いやそういう話じゃないんだが!?」

○2次会会場・中央(夕)

立食パーティの会場で酒を飲んでいるトオル、マサキ、ケント。
ケントひとりだけ皿に料理を大盛り取ってきている。

マサキ「ケント、まだ食べるの?」
ケント「だって2次会の会費も払ってるのに、食べなきゃもったいないじゃんか」
トオル「そのカナッペ、1個ちょうだい。カオルくんたち、もう家についた頃かな」
ケント「あのマスダって人、見た目は怖いけどいい人そうだったね」
マサキ「それにカオルにベタ惚れだ、あの目は。ケント、そのスモークサーモンちょうだい」
ケント「2人とも食べるなら自分でとってきなさいよ」
トオル「カオルくんとのオーラの相性はどうだったの?」
マサキ「カオルとオーラの相性がいいやつなんて、この世に存在しない」
トオル「そりゃそうだ」
ケント「ショウは大丈夫かな」
トオル「あいつはいつものことだ。新郎のタキシードにゲロかけたのはちょっと笑えたけど」
マサキ「貸し衣装のレンタル保険入ってるだろ。大丈夫だよ」
ケント「今そんな保険があるの?」
トオル「俺テンション上がり過ぎて、披露宴会場のプールに飛び込んだ花嫁見たことあるよ。ウェディングドレスが水吸って大変なことになってた。招待客の中に海上自衛隊の隊員がいなかったらあれは間違いなく死んでたね。ところでスガヤはどこいった?」
マサキ「さっきバーカウンターで男の子ナンパしてたけど」
トオル「相変わらずお盛んですこと」
ケント「ついこの間、若い男の子に殺されかけたから、しばらく男は断つって言ってなかった?息子ひと筋にするって」
トオル「スガヤのしばらくって言葉の意味はせいぜい1週間ってところだよ」
ケント「スガヤってなんであんなにモテるの?」
トオル「おい、俺はモテないって言いてえのか?」
マサキ「やっぱりあの母性じゃないかな」
ケント「母性?」
マサキ「子育てした人間特有の、あの包容力っていうかさ。それが年上好きの若い男を惹きつけてるんだ」
トオル「俺も犬でも飼おうかな。そしたら母性が身について、年下からモテるかも」
ケント「ま、実際金も持ってるし、なんていうか、大人の余裕?みたいなのは確かにあるよなあ。それに若いよね。42には見えないよ」
トオル「そりゃあ…」
マサキ「金かかってるから」
ケント「え、そうなの!?顔いじってんの!?」
トオル「顔だけならいいけど」

トオルとマサキ、笑う。

○同・バーカウンター

カウンターでウイスキーを飲みながら若い男・アキラ(22)と談笑しているスガヤ。
アキラはピンク色の甘そうなカクテルを飲んでいる。

スガヤ「へえ、アキラくんは美容師なのか」
アキラ「うん。今日の2人のヘアセットも僕がやったんだよ」
スガヤ「すごいじゃん。今度俺もやってもらおうかなあ。新郎新婦の髪のセットって、いくらぐらいでやるもんなの?」
アキラ「お金なんか取ってないよ。おめでたい席だもん。僕からのお祝いってことで」
スガヤ「え〜、友達思いなんだね、君って。友達を大切にできる人って好きだな。なにしろ俺もそうなんだ。友達思いなの」
アキラ「お友達って、さっき新郎のタキシードにゲロ吐いてた背の高い人?」
スガヤ「あー…あれもまあ、一応友達、だったかな?いや、違うかも」

笑う2人。

アキラ「それともさっきから、僕たちのことオペラグラスで遠くから観察してるあの賑やかな3人組かな?」
スガヤ「え?(遠くを睨んで)あ、あいつら…」
アキラ「どれが彼氏さんなの?」
スガヤ「彼氏?そんなもんいないよ!それにあいつらは全員ただの友達」
アキラ「じゃあ僕は今あの人たちに値踏みされてる?」
スガヤ「そんな。まさかそんなこと…ちょっとはあるかもしれない」
アキラ「僕、なんて言われてるかな?」
スガヤ「この会場で1番かわいい男の子だって言ってるんじゃないかな?」
アキラ「一応結婚式の2次会だよ?1番かわいいのは新婦さんってことにしておかなきゃ」
スガヤ「うーん、でもあれは、ほら売約済みだから。それに、俺の目には君が1番可愛いよ」
アキラ「本当?」
スガヤ「俺は嘘つかないんだ」

カウンターの上でアキラの指に自分の手を重ねるスガヤ。
指を握り返すアキラ。

アキラ「いいの?あの3人、まだ見てるっぽいけど」
スガヤ「ほっとけ。なあ、このあと暇なら、2人でどっか行かない?」
アキラ「友達は置いてっちゃうの?友達思いなんでしょ?」
スガヤ「友達だから、ほっといて平気なの」

○同・中央

オペラグラスでスガヤたちを観察しているマサキ。
トオルは酒を飲んでいる。
ケントはまだ何か食べている。

マサキ「あ、お持ち帰り成功。どっかに消えて行くぞ」
トオル「(オペラグラスを奪い取って)え、うそ!?」
ケント「マサキ、いつもそんなもん持ち歩いてるの?」
トオル「相変わらずの早業だねえ。惚れ惚れするよ、あの見事な一本釣り」
マサキ「なあ、俺たちはどうする?まだいる?」
ケント「え、だってもうすぐビンゴあるってよ?」
トオル「どういうわけか結婚式の2次会のビンゴはろくなもんが当たらないようになってるんだ」
マサキ「万一当たったとしても、みんなの前でスピーチしなきゃいけない。冗談じゃない、なんで温泉卵メーカーが当たったくらいで大勢の前で喋らなきゃいけないんだ」
トオル「あれ使ってんの?」
マサキ「まさか。メルカリで売ったよ」
トオル「スガヤも消えたし、カオルくんとショウもいないし、俺たちもそろそろ帰ろうか。もちろん、2人がまだここで男漁りしたいなら俺1人で帰るけど」
ケント「だから、俺はゲイじゃないってば」
マサキ「他人の結婚式の2次会でくっついたカップルはゲイ、ノンケ関わらず、必ずうまく行かない」
トオル「今うちらの親友の1人がまさに、その2次会で引っ掛けた男と消えたばっかりだけど?」
マサキ「そこまで面倒みる義理はない」
トオル「ま、それもそうか。…おいケント、帰る前にあそこのシャンパン1本、くすねてこうぜ」
ケント「よしきた」

小走りに去って行くトオルとそれを追いかけるケント。

○マスダの家・玄関(夕)

放心した様子で一軒家を眺めているカオル。
そこに車を駐車したマスダがやってくる。

カオル「ちょっと、何これすっごい豪邸なんですけど?」
マスダ「そうでもないっす。ほらここ埼玉だし。物価が安いっす」
カオル「それにしたって、教習所の教官がまさかそんなに稼いでるとは思えないんだけど…お前やっぱりなんか悪いことしてるだろ!?振り込め詐欺?ヤクの密売?さては僕の臓器をバラして東南アジアのどっかの国に売る気だな!?」
マスダ「いやいや、誤解っす!」

そこにマスダの姉が現れる。

マスダの姉「ちょっとあんた、玄関先でなに騒いでんの!ご近所迷惑でしょうが!」
マスダ「ひ!姉ちゃん!」
カオル「姉ちゃん?」
マスダの姉「あら、お友達?」
マスダ「あ、これうちの姉ちゃんっす。姉ちゃん、こちら、なんていうかちょっと特別な関係の人、カオルさん」
カオル「おいこら」
マスダの姉「あらやだ美少年。あんたこんな綺麗な友達いるならもっと早く連れてきなさいよ。いつもの柄悪くて頭の悪そうな連中ばっかりじゃなくて」
マスダ「姉ちゃん、可愛い顔してるけど、カオルさんは俺がこれまで連れてきたどの友達よりも柄悪いぞ」
マスダの姉「ごめんなさいね、この馬鹿がいつも迷惑かけてるんじゃない?」
マスダ「姉ちゃん!」
カオル「いや、別にそんなことは…」
マスダの姉「まあとにかく中入ってよ。今夕飯作ってるからさ、一緒に食べて行ってよ」
カオル「いや、あの、僕は…」
マスダの姉「(マスダに)ちょっとあんた、この子はお酒飲むの?」
マスダ「めっちゃ飲む!」
マスダの姉「じゃあカクヤスに電話して、なんか適当に注文しておいて。うち今ビールしかないのよ。あと母ちゃんが作ったまっずいドクダミ酒」
マスダ「うげえ、あれまだ残ってるの?あれはカオルさんには飲ませられないなあ」
カオル「母ちゃん!?」
マスダの姉「あ、早く夕飯の支度しないと、父ちゃんも帰って来ちゃう。あんたちょっと手伝って」
マスダ「えー、俺今からカオルさんと風呂入りたいんだけど」
カオル「風呂!?父ちゃん!?」
マスダの姉「ゆっくりしていってね。泊まって行ってもいいから。明日はちゃんとこの馬鹿に送らせるし。…母ちゃん大変!馬鹿弟が彼氏連れてきた!」

家の中へ走り去って行くマスダの姉。
呆然としているカオル。

マスダ「まだ彼氏じゃないってのに…。あれ、どうしたっすか?」
カオル「実家暮らしだったってこと?」
マスダ「言ってなかったすか?」
カオル「聞いてないね」
マスダ「実家暮らしなのは、まあほら、ヤンキーっすから」
カオル「お姉さんと、お母さんと、お父さんと、4人暮らしってことかな?」
マスダ「あと姉ちゃんの息子と、半分寝たきりでボケてるじいちゃんがいるっす」
カオル「6人?」
マスダ「猫のミッチーもいるっす」
カオル「…ミッチー?」
マスダ「姉ちゃんが及川光博のファンなんす」
カオル「ヤンキーの女性って吉川晃司とかが好きなんじゃないの?」
マスダ「さ、上がってください。全然遠慮いらないっすよ!自分、家族みんなにカミングアウト済みなんで!」
カオル「はあ、進んでるご家庭なんですね」

マスダに押されるように家の中に入っていくカオル。

○ホテルの一室(夕)

瀟洒なホテルの一室。
ミニバーの酒を物色しているスガヤ。
ベッドの上ではしゃいだ様子のアキラ。

スガヤ「なんか飲む?」
アキラ「ミニバーのお酒なんて、高くて飲んだことないよ」
スガヤ「好きなもん飲んでいいよ。あ、柿ピー食べる?」
アキラ「この部屋も高そうだし。スガヤさんって、ひょっとしてお金持ちなの?」
スガヤ「ちょっとだけね。2次会の会場の上の部屋、空いてて良かった」
アキラ「今頃みんな僕たち探してたりして」
スガヤ「気がつきゃしないよ。だってあそこには酔っ払ったゲイの男が100人はいるんだからさ。あ、会場からシャンパンのボトル1本くすねてきたけど、飲む?」

カバンからシャンパンを出して栓を抜くスガヤ。
グラスに注いでアキラに渡す。

アキラ「結婚式抜け出してホテルにしけ込んで、シャンパン飲んでるなんて、なんだか海外ドラマみたいだ」
スガヤ「それってラブコメっぽくてチープってこと?」
アキラ「違うよ。まるでゴシップガールみたいでクールってこと」
スガヤ「ああ、ゲイが大好きなドラマだね。俺はチャックが好き」

自分のグラスにシャンパンを注いでアキラと乾杯するスガヤ。

スガヤ「ま、もうすぐ息子が大学に入るから、こんな風に散財して遊んでていいのかなって感じはするけど」
アキラ「え、子持ち?しかもそんなに大きい子がいるの?スガヤさん、ほんとはいくつ?」
スガヤ「あー…言ってなかった?あ、言っておくけど、年齢は詐称してないぞ!まあ多少、外科的アンチエイジング処置はしてるけど…でもこれからはみんなする時代だ!なんたって令和だもの!」
アキラ「そこまでは聞いてないけど…。へえ、そうなんだ。じゃあもしかして、既婚者?『男相手は浮気にカウントしない』とか、ゲスっぽいこと言うタイプだったりする?既婚ゲイに多いよね」
スガヤ「ずーっと昔に離婚しましたよ。息子は元妻のところ。それに俺はそんなゲスいことは言わない」
アキラ「ふーんそうなんだ。結婚式はあげたの?」
スガヤ「やったよ。デキ婚だったし、若くて金もなかったから、小さくだけどね」
アキラ「スガヤさんタキシード似合いそうだな、背が高いから。あのゲロ吐いてたお友達も大かったけど、スガヤさんの方がガタイがいいね」
スガヤ「俺は和式でやったんだ。だから袴。それからあいつは酒だけで生きてるからひょろひょろなんだ。アルコールは筋肉の生成を阻害するってジムのインストラクターが言ってた。若いうちからお酒には気をつけてね」
アキラ「でもあの人どっかで見たことあるような気がするんだよなあ…」
スガヤ「気のせいだろ」
アキラ「はあ、それにしてもいいお式だったな〜。僕もいつかあんな式、あげたいなあ」

一瞬何かを考える様子のスガヤ。

スガヤ「…そうか。うん、いいね」
アキラ「僕が結婚式挙げるときもブライドメイトとかつけたいなあ。で、最初は友達の子供に花びら撒きながら入場してもらったりさ」
スガヤ「それはちょっとセックスアンドザシティの観すぎじゃない?頭にでかい鳥の飾り付けて、ヴィヴィアンウェストウッドのド派手なドレスとか着るわけ?」
アキラ「もう。いいの、ゲイの必修科目でしょ、あのドラマは」
スガヤ「まあ、そうかもね」
アキラ「ねえ、スガヤさんは次結婚式挙げるってなったらどんな式にしたい?」
スガヤ「え、俺?」
アキラ「やっぱり1回目は和式だったなら、次はチャペルでやりたい?付き添い人はやっぱりさっきの人たち?ウェディングケーキはどこに注文する?何段?季節はいつが良いかな?」
スガヤ「いや、あの、ちょっと…」
アキラ「え、何?」

アキラにキスをして黙らせるスガヤ。

スガヤ「いやー、なんていうか…。とりあえず、でかいベッドもあることだし、エッチしない?」


○マスダの家・リビング

マスダの父、母、甥、姉、マスダ、カオルが夕飯を載せたテーブルを囲んでいる。
テーブルの下では猫のミッチーが餌を食べている。

カオル「(独り言)一体、なぜこんなことに…」
マスダ「それじゃあ、皆さん。いただきます!」
マスダ一家「いただきまーす」
カオル「い、いただきます…」

料理に手をつけ始める一同。

マスダの姉「カオルくんだっけ?遠慮なく食べてね。いっぱい作ったから」
カオル「はあ…」
マスダ「カオルさん、とりあえずビールでいいっすか?ワインとか、ウイスキーもあるっすけど」
カオル「じゃあ、ビールで」

カオルのグラスにビールを注ぐマスダ。

マスダの父「カオルくんは東京のデパートで美容部員をやってるんだって?」
カオル「あ、はい」
マスダの母「いいわねえ。おしゃれな仕事ねえ。男の人も最近はお化粧するものねえ」
カオル「まあ、そうですね。韓国アイドルの影響で、最近はだいぶ増えましたね、メンズメイク」
マスダの母「(マスダの父に)あなたもしてもらいなさいよ」
マスダの父「俺はこのままで男前だから良いんだ」
マスダの姉「あんた、逃しちゃダメよ。この子と付き合ってれば私の化粧品タダでもらえるかも」
マスダ「ちょっと姉ちゃん!」
カオル「付き合ってないです」
マスダの姉「え、そうなの?この子がゲイのお友達連れてきたの初めてだから、てっきり付き合ってるのかと」
カオル「初めて?そうなの?」
マスダ「恥ずかしながら…」
マスダの父「なんだそうなのか。息子の彼氏を初めて見られたと思ったんだけど」
マスダの母「あなたやめなさいよ。そうやって冷やかすから、連れて来てくれないんでしょ」
マスダの姉「まあこの馬鹿の彼氏にしちゃ綺麗すぎるとは思ったのよねえ。だってどう見てもあんたには高嶺の花だわ」
マスダ「言ってろよ。もうすぐ落とせるんだからな」
カオル「それはないかなあ」
マスダの甥「この人叔父さんの彼氏なの?」

ビールを吹き出すカオル。

マスダの姉「違うの。叔父さんが片想いしてるだけなんだってさ〜」
マスダの甥「なんだやっぱりそうか。おじさんの彼氏にしては綺麗すぎると思った」
マスダ「生意気言ってないで飯食えチビ。でっかくなれねえぞ。大丈夫っすか?カオルさん」
カオル「なんていうか、随分とオープンで、おおらかなご家族だね」
マスダの父「そう?カオルくんとこのご家族は違うのかい?」
カオル「…うちの両親は、同性愛者の息子を嫌っているので。チャラチャラした女性用の化粧品を売ったりしているのも気に入らないみたいです。もう何年も会ってません」
マスダ「親父…!」
マスダの父「ああすまんすまん。立ち入ったことを」
カオル「いえ、別に気にしてませんから」
マスダの姉「あ、カオルくんこれ、食べてね」
マスダ「姉ちゃんの料理は最高っす。ちょっと薄味だけど」
マスダの姉「しょうがないでしょ、父ちゃんが高血圧だから、薄味のもん食わせろって医者がうるさいのよ」
マスダの父「あそこの先生、自分は大食いの巨漢のくせになあ。この間そこのマックでビッグマックにかぶりついてるの見たぞ」
マスダの母「あんたまた隠れてこっそりマクドナルドに行ったの!?」
マスダの父「あ、それは…ちょっとコーヒー飲んだだけだよ」

マスダ一家のやりとりを眺めているカオル。

マスダ「カオルさん、はい、あーん」

食事をカオルの口の前に運ぶマスダ。

カオル「え?」
マスダ「だってさっき車ん中でカオルさんもしてくれたじゃないっすか、ケーキ。だからお返しっす。はい、あーん」

その様子を興味津々で眺めているマスダ一家。
しかたなくマスダのフォークから食事を頬張るカオル。

マスダの姉「ほんと、綺麗な顔だわ…」
マスダの甥「叔父さんにはもったいない」
マスダの父「それに礼儀正しい。君、親と仲が悪いなら、息子と結婚してうちの子にならないかい?」
マスダの母「あなたってば!カオルくん、今夜は泊まって行くでしょ?泊まっていってね。あ、お風呂沸かさなきゃ。パジャマはこの子のでいいわね。ちょっと大きいかもしれないけど」

バタバタと去っていくマスダの母。

マスダの姉「良いわよね。それに2人とも、どうせ今夜は服なんか着ないんでしょう?うふふ」
カオル「はい!?」
マスダ「ちょっと姉ちゃんやめて!」

両手で甥の耳を塞ぐマスダ。

マスダの姉「何よ、もしかしてあんた達まだしてないの?」
マスダ「姉ちゃん、子供の前なんだけど?」
カオル「そういう問題か?」
マスダの父「全く下品な娘だ。そんなんだから旦那を会社の経理課の地味な女なんかに寝取られるんだ」
マスダの姉「うるさいわよ。2人から慰謝料がっぽりもらってやったんだから」
マスダの父「せっかくあんなに豪勢な式まであげたのになあ。こんなことならあの時使った式の積み立て金は、息子のために残しておけばよかった」
マスダ「え、俺の分、まだ残ってるよな!?」
マスダの姉「あんた、早くしないと私の2回目の式で全部使っちゃうわよん」
マスダの父「それよりも先に俺のゴルフセットに化けるかもしれんな」
マスダの甥「おじいちゃん、ゴルフなんか年に1回しかしないのに、なんでゴルフセットばっかり買いたがるの」
マスダの父「それが男ってもんだ」

いつまでも騒がしく喋っているマスダ一家。
呆然と眺めるカオル。

○同・風呂場

脱衣所で服を脱いでいるカオル。
大きなため息をつく。

カオル「はあ、なんていうか、どっと疲れた…」

浴室のドアを開けて中に入るカオル。

カオル「おお、まじで広い風呂だな。しかし一体なんの仕事してるんだ、あの一家…。映画の『マーダーライショー』みたいな、殺人鬼一家とかだったらどうしよう…。ん、なんだこれ」

バスタブについたスイッチを見つけて押してみるカオル。
ジャグジーのスイッチが入る。

カオル「おお…」

感動した様子で他のボタンを押す。
照明が消えて、浴室内がライトアップされる。

カオル「おおおお〜」

テンションが上がるカオル。
すると突然ドアが開いて裸のマスダが入ってくる。

マスダ「あ、気に入ったすか?」
カオル「(体を隠して)ぎゃあ!」
マスダ「親父と俺で改造したっす。DIYってやつっすかね、これも」
カオル「お前、何入ってきてんだよ!」
マスダ「え?」
カオル「え?じゃねえよ!」
マスダ「お背中流そうかと思って。何そんな騒いでるっすか。男同士なんだから」
カオル「こういう時だけノンケみたいなこというんじゃねえよ、殺すぞ!」
マスダ「ああ、カオルさんはやっぱりその喋り方の方がしっくりくるっす。うちの家族の前で、だいぶよそ行きの顔してましたもんね。さすが接客業」
カオル「てめえだって接客業だろうが」
マスダ「自分これでも結構厳しい教官なんすよ?車の運転は人の命がかかってるので…」
カオル「そういう話をしてるんじゃねえよ!」
マスダ「カオルさん細いっすねえ。ちゃんと食べてるっすか?ショウもだけど、カオルさんの友達もみんな細い人ばっかりっす。あ、あの『俺はノンケだ』って騒いでた人だけはガタイ良かったけど。みんなでお酒ばっかり飲んでちゃダメっすよ」
カオル「話題を変えるな!」

マスダの甥が裸で入ってくる。

マスダの甥「叔父さんたち、何騒いでるの」
カオル「ヒッ!」
マスダ「おーきたかきたか。じゃあみんなで背中流しっこしような」
カオル「もう勘弁してくれ…」

○同(少しあと)

浴槽に浸かっている3人。
マスダ、カオル、甥の順に同じ方向を向いて、それぞれの足の間に挟まるように、縦一列になっている。
おもちゃで遊んでいる甥。不本意そうな顔のカオル。楽しそうに鼻歌を歌っているマスダ。

カオル「その調子はずれな歌をやめろ」
マスダ「楽しいっすねえ、みんなでお風呂。広いから3人でも余裕っす。金かけて良かったっす」
カオル「1人で入れたらもっと優雅だったんだがな」
マスダ「大は小を兼ねるっす。これなら家族が何人増えても余裕っす」
カオル「もう十分いるだろ家族なら」
マスダ「たくさんいた方が楽しいじゃないっすか」
カオル「そういうもんじゃねえだろうが」
マスダ「カオルさんだって、5人も親友がいるじゃないっすか。いつも賑やかな人たちといると、寂しくないでしょ」
カオル「あいつらはちょっとうるさすぎる」
マスダ「なー、お前も学校で友達たくさん作れよーカオルさんみたいに」

甥の頭をガシガシと撫でるマスダ。
その手を鬱陶しそうに払い除ける甥。

マスダの甥「大丈夫、叔父さんと違ってヤンキーじゃないから僕。人間関係は円滑」
マスダ「円滑〜?お前どこでそんな言葉覚えてくるんだ〜?」
カオル「この子、お前より僕の血縁者に思えてくるな」
マスダ「いや、まじでカオルさん。友達もいいけど、家族も同じくらい良いもんっすよ」
カオル「僕は…いや、なんでもない」
マスダ「なんすか〜?」
カオル「そういうもんは僕には必要ない。ゲイがノンケの真似して、家族や結婚なんて欲しがってどうする。それってちょっと惨めじゃないか?」
マスダ「でもあの5人は?」
カオル「あいつらは友達だって」
マスダ「いやあ、家族っすよ」
カオル「はあ?」
マスダ「自分からはそう見えるっす。きっと他の人たちからもそう見えてるっすよ」
カオル「なんだそれ」
マスダ「血が繋がってなくても、結婚してなくても、一緒に暮らしてなくても、良いんじゃないっすかねえ。自分と同じだけ大事に思い合える人がいれば、その人はみんな家族っす」
カオル「いかにもヤンキーらしいおめでたい思考回路だな。なんていうかお前って死ぬほど…」
マスダの甥「楽天的」
カオル「そう。…君、やっぱり僕の甥っ子じゃない?」
マスダ「カオルさんにも俺の家族になって欲しいっす!」

背後からカオルを抱きしめるマスダ。

カオル「やめろっちゅうの!」
マスダ「でもそのためには、俺もあの5人と同じくらい、カオルさんにとっての大事な人にならないといけないっす」
カオル「お前よくそういう恥ずかしいことでかい声で言えるな」
マスダの甥「ヤンキーだからね」
カオル「そういう君は少し冷めすぎじゃないかい?あとそれから…」

甥の耳を塞ぐカオル。

カオル「(小声で)さっきから、背中に当たってるんだけど!?」
マスダ「え?」
カオル「(小声で)膨張した、お前の、あれが、背中に、当たってるっつうの!」
マスダ「あ〜あははは、生理現象っす。仕方ないっす」
マスダの甥「ねえカオルくん」
カオル「え?なに?」
マスダの甥「ひとつ聞きたいんだけどさ。なんでカオルくん、叔父さんとかおじいちゃんみたいに、あそこの毛生えてないの?」

吹き出すマスダ。

カオル「(耳から手を離して)…あのねえ、最近はこういうのがトレンドなの。10年後君も生えそろったら、良い脱毛サロン連れてってあげる。痛くなくて、学割が効くところ」

ため息をつくカオル。
笑い続けるマスダ。

カオル「おい、お前も笑い事じゃねえぞ。僕と付き合いたかったら、その不衛生にもじゃもじゃしてる毛、しっかり処理しろよ。1本残らずだ。僕は男のムダ毛を決して許さない」
マスダ「…マジっすか?」
カオル「マジです」
マスダの甥「最近は痛くないらしいよ」


○ホテルの一室(夜)

裸でベッドに横たわるスガヤとアキラ。
アキラにキスをするスガヤ。

スガヤ「大丈夫?痛くなかった?」
アキラ「うん、大丈夫。とっても気持ちよかった」
スガヤ「そう、良かった。何か飲む?」
アキラ「ううん。それより持ってきたウェディングケーキ、一緒に食べない?」
スガヤ「運動後の糖分補給ってか?いいね」

ベッドの上にケーキを持ってくるアキラ。
フォークを2本持ってくるスガヤ。

アキラ「はあ〜みてよ。ケーキまで可愛い。薔薇の花びらなんか散らしちゃって」
スガヤ「確かに、豪勢だよなあ。この花、食べられるのかな…」
アキラ「僕も結婚式する時はここのケーキにしたいな〜。どこのお店に注文したか、2人に聞いておかなきゃ」
スガヤ「…結婚式ね。なるほどね」
アキラ「あ、そうだ引き出物のカタログギフト、今一緒に選ばない?あれって先延ばしにしてるとつい忘れちゃうんだよね〜。ねえ、何にする?僕がお肉で、スガヤさんがお酒、みたいに頼めば、一緒に焼肉パーティが開けるよ!」
スガヤ「あ、あのさ、ちょっと待って」
アキラ「え?」
スガヤ「あのさ、初対面で、1回寝ただけの男がこんなこというのもアレなんだけどさ」
アキラ「なあに?お肉よりカニがいい?」
スガヤ「俺、結婚はできないよ?」
アキラ「どういう意味?」
スガヤ「だからさ、俺たち、今夜すっごくいい感じだし、君は可愛くてものすごーく俺のタイプだし、君が演技の達人とかでないのであればセックスの相性もとても良くって、俺としてはこれからも何度かデートして、セックスして、ゆくゆくは彼氏になれたらいいなあ、なんて思わなくもないんだけど…」
アキラ「そうだね。僕も大体そんな感じの温度感だよ」
スガヤ「でも君は、結婚式とか、家庭とかに憧れてるんだよね?」
アキラ「…まあ、少しは、そうかもね?」
スガヤ「俺は一度結婚して、式もあげて、子供も作った。確かに離婚はしたけど、俺にとってのお嫁さんは生涯別れた妻だけだし、子供も彼女との間に作った息子1人だ。もう一緒には暮らしてないし、書類の上では他人だけど、それでも…あの2人は今でも俺の家族だ。君と付き合ったりセックスを楽しんだりはできるけど、それ以上は…」
アキラ「…そうかあ、なるほどね」
スガヤ「ごめん。でも未来ある若者の夢を壊せないっていうか…」
アキラ「いや、いいよ。でもまさか1回エッチしただけの、付き合ってもいない人に結婚できないってフラれるとは思わなかったけど」
スガヤ「いやはや、面目ない」
アキラ「謝らないで。リッチなホテルで海外ドラマみたいな一夜も過ごせたし。…一応聞くけど、ここの部屋代とミニバーの料金、割り勘とか言い出さないよね?」
スガヤ「いやいや、それは当然俺が払うよ」
アキラ「良かった。…じゃあさ」
スガヤ「ん?」
アキラ「せめて朝まで。チェックアウトの時間までは、ドラマの登場人物気分でいてもいいかな?」
スガヤ「それは…朝までセックスしまくろうって意味かな?」
アキラ「そうだなあ…本当は一緒に泡風呂入ってシャンパン飲んでカタログギフト選んでって言おうと思ったけど…でも、そっちの方が楽しそうかも」

笑いながらキスをする2人。

アキラ「こんな正直で誠実な人と結婚してた奥さんは、幸せ者だ」
スガヤ「そうだなあ。ま、俺が痔で入院してた病院の看護師さんと、ゲイの道に走ったせいで別れちゃったけどね」

○ミヨシの家(夜)

リビングのテーブルに座っているトオル。
そこにミヨシがビールを2本持ってやってくる。
乾杯してそれを飲む2人。
トオルの向かいの席に座るミヨシ。

ミヨシ「どうだった、結婚式」
トオル「どうもこうも。えらい疲れたよ。長ったらしい挨拶とか、しょーもない出し物とか。最後には2人でピアノの連弾まで始めちゃって。ま、食事とお酒はまあまあだったかな。さすがゲイの結婚式。でもショウは相変わらず飲みすぎるし、スガヤは男とどっか消えちゃうし、カオルくんは文句ばっかだし、マサキは耳元で『あの2人はオーラが澱んでる』とか言ってくるし、それにケントはずっと食ってるし。あ、シャンパン1本くすねてきたよ。あとで飲も〜」
ミヨシ「賑やかでいいお式だったんだ」
トオル「まあ、賑やかっちゃあ賑やかだったわな。あんだけゲイがいればそりゃね。あんなにゲイが一堂に集まったのなんて、2丁目にあった老舗のゲイバーのママが死んだお葬式以来。どいつもこいつもうるさくて、一体誰が主役だかわかんなかったよ。ゲイと女装の百鬼夜行を、隣の式場のノンケの客が見物に来てた」
ミヨシ「ああ。あのお葬式、俺も出たな。まるでハロウィンパーティだった」
トオル「あん時もスガヤは男お持ち帰りしてたな。あ、ウェディングケーキ、もらってきたよ。一緒に食べる?」
ミヨシ「うん」

ウェディングケーキを紙袋から出してテーブルに置くトオル。

トオル「ああ、なんて可愛いケーキでしょ」
ミヨシ「そうだね」
トオル「でも俺はもしやるならもうちょっと小規模に、シンプルに、趣味よくやりたいね。参列者も僕の方はあの5人だけでいいや。でも海外ドラマとかだと友人とそのお連れ様とか言って、恋人連れてくる文化とかあるよね。となると、カオルくんあのヤンキー連れてくるのか…」

黙っているミヨシ。

トオル「…どうしたの?」
ミヨシ「トオル、俺たちの関係がこれ以上進む前に、言わなきゃいけないことがるんだけど」
トオル「え、なに?実は性病持ちですとか?」
ミヨシ「いや、そこはクリーンだよ。健康そのもの」
トオル「良かった。じゃあ何?」
ミヨシ「俺、結婚してる」

間。

トオル「は!?」

○マスダの家・マスダの自室(夜)

パジャマ姿でベッドの上でお茶を飲んでいるカオルとマスダ。

カオル「おい、お前は床で寝るんじゃなかったのか」
マスダ「寝るときは降りるっすよ」
カオル「まったく…」
マスダ「なんか映画でも観るっすか?」
カオル「いや…なんだか今日はハードな1日だったから、すぐ寝落ちそう」
マスダ「結婚式か。楽しいっすよね」
カオル「はっ。どこが。(スマホを見て)誰からも連絡がない。こりゃみんな2次会で男でも捕まえてどっかにしけ込んでやがるな」
マスダ「カオルさんも男としけ込んでるって言えるんじゃないっすか、この状況」
カオル「男と、その愉快なファミリーとしけ込んでるわな。おまけに猫まで」
マスダ「家族に会わせたりして、もしかして迷惑だったすか?自分ヤンキーなんで、人との距離感バグってて…」
カオル「…別に。みんないい人たちだったし。ただ、こういうの、慣れてないんだ。家族団欒、みたいな。だって僕浮いてない?」
マスダ「すぐに慣れるっす。うちの家族全員距離感バグってるんで」
カオル「ちょっと。慣れるほど僕をここに連れ込む気?」
マスダ「だって、うちなら風呂も広いし、タダで飯も出てくるし、服も洗濯してもらえるっすよ」
カオル「確かにリッチで明るいファミリーなのは認めるけど、お前の家族、まじで何してる人たちなの?」
マスダ「殺し屋」
カオル「やっぱり!」
マスダ「冗談っすよ…。普通の家族っす。ここは代々の土地ってだけで」
カオル「地主か」
マスダ「資産運用がどうのとか。自分には難しい話はわかんないっす。ヤンキーなんで」
カオル「お前最近それ言ってればいいと思ってるだろ。言っとくけど、スベってるからな?」

パジャマ姿のマスダの甥が入ってくる。

マスダ「お〜どうした」
マスダの甥「カオルくんと一緒に寝る」
カオル「はい?」
マスダ「そうかそうか、そうしてもらえ。ほらこっち来いよ」
カオル「おい」

2人の間に横たわる甥。

マスダ「ベッドも大きくしておいて良かったっす。この大きさならバリバリ子作りにも励めるっす」
マスダの甥「カオルくん、なんか話して」
カオル「え。そうだな…むかしむかしあるところに、おじいさんと…」
マスダの甥「そういう子供騙しなやつじゃなくて」
カオル「このガキ…」
マスダ「おさえてカオルさん!」
カオル「じゃあ…そうだなあ」
マスダ「お友達の話すればいいっす」
カオル「あいつらの話?」
マスダの甥「そっちの方がいい」
カオル「聞いても面白くないぞ?それに下品だ」
マスダ「そこはこう、うまく子供向けに、オブラートに包んでもらって…」
カオル「…そうだな。僕の友達は5人。1人はスガヤって言って、僕たちの中では少し年上で、僕とは親子ほど年が離れているおっさんだ。子供が1人いて、料理がうまい。君のお母さんと同じで、離婚してる。マサキは変わり者。幽霊とかオーラが見えるらしい。僕は信じてないけど。会うと面白いかもね。なぜか子供には好かれるから。ケントはいつも飯食ってるだけの男で、自分はゲイじゃないって信じてる。でもあの厚い胸板はちょっとエロい。ショウは…ありゃただの背の高い間抜けだ。それから最後はトオルくん。本が好きで、いつもなんだか難しそうな本を読んでる。そのくせ馬鹿だから男を見る目がない。読書って、意味あんのかな。今はミヨシっていう料理人と付き合ってるけど、僕はどうもあの男、胡散臭くていまいち好きになれない。で、この5人が…僕も入れて6人だけど…この6人でいつも…あれ、いつも何してるっけ?酒飲んだり、コーヒー飲んだり、男の話したり、それからまた酒飲んだり…ああ、今日は結婚式にみんなで出たんだ。そしたらショウの馬鹿が飲みすぎて…」

いつの間にか眠っているマスダの甥。

カオル「…おい、このガキはともかくお前は床で…」

マスダもいつの間にか眠っている。
しばらく何かを思案するカオル。

カオル「まったく…」

掛け布団をマスダと甥にかけてやるカオル。
2人の寝顔を見つめている。一瞬だけ微笑む。
部屋の入り口から猫の鳴き声がする。
いつの間にかそこには猫のミッチーがいて、カオルをじっと見つめている。
睨み返すカオル。

カオル「おい、何見てんだよ」

○新宿2丁目・ゲイバー『太陽と雄鳥』(夜)

カウンター席にいつもの6人。カウンターの中にはナオミ。
突っ伏しているトオル。
トオルの頭を撫でているスガヤ。

スガヤ「かわいそうに…よしよし」
ケント「結婚してたってどういうこと!?バイだったってこと!?」
カオル「マサキ、2人のオーラの相性はバッチリじゃなかった?」
マサキ「それはそうだけど、こんな事態は俺にも予測できない」
スガヤ「大丈夫か?」
トオル「だいじょばない」
ナオミ「でもその奥さんとは2年も別居してるんでしょ?」
トオル「離婚調停中なんだってさ。でも奥さんの方が別れないってごねてるらしい」
ショウ「じゃあほとんど離婚してるみたいなもんじゃん。あんまり気にしなくていいんじゃないの〜?」
ナオミ「でも既婚者と不倫すると、愛人の方にもとんでもない慰謝料が請求されるっていうし…」
トオル「愛人って言わないでよ〜生々しいよ〜」
カオル「そもそもなんで奥さんは別れてくれないわけ?自分から出ていったんでしょ。ミヨシが女より男の方が好きだって告白したから。慰謝料釣り上げてるとか?」
トオル「そういうんじゃないみたいなんだけど…。ミヨシさんとはもう一緒に暮らしたくないし顔も見たくないけど、彼の妻の座は手放したくないみたい」
ショウ「それって要するに正式に離婚が成立して、自分を捨てた男がゲイの世界で伸び伸び楽しく、自分の恋愛を謳歌するのが許せないってことじゃない?」
カオル「まったく、女ってやつは」
ケント「スガヤが離婚したときはどうだったの?同じような理由だったんでしょ?」
スガヤ「うちは円満だったもん。あっけないくらいだったな。俺が男が好きだって言ったら『あらそう、じゃあ離婚しましょうか。お幸せにね』少しはごねろってんだよな」
マサキ「(トオルに)で、結局どうなったの」
トオル「どうもこうも。頭パニックになっちゃって、勢いに任せて罵詈雑言を彼に…」
スガヤ「トオルの罵詈雑言は怖いよな。無駄に語彙力が高いから」
トオル「で、『別れる』って言っちゃった」
ショウ「あーあ」
ケント「それでいいの?」
トオル「わかんない…」
マサキ「あいつから連絡は?」
トオル「ない」
ショウ「最低〜やめなよそんな男もう」
スガヤ「でもさ、ミヨシは正直に自分から話したんだろ?トオルとの関係が深くなってきたからって。別に何かきっかけがあってトオルが知っちゃったとかじゃなくて、自分から話してくれたわけじゃん。それは誠実さとも言えるよな。そういえば俺もこの前結婚式の夜…」
マサキ「結婚願望の強い男と寝た後、自分はもう結婚はできないから付き合えないって言ったら『誠実』って言われたんでしょ。その話何回する気?」
スガヤ「オーラ相性診断が外れたからって、八つ当たりしないでよね…」
ケント「俺ミヨシさんって好きだったけどなあ」
トオル「じゃあケントが付き合えば?セックスも上手だよ。あ、違う、付き合うとは言わない。不倫だ。不倫してたんだ俺ずっと。どうしよう、もうお嫁に行けない。だって愛人は結婚できない!」
マサキ「落ち着いて」
トオル「あ〜もういい!もうこの話はしたくない!また恋愛の失敗談がひとつ増えました!はい終わり!話題変えて」
ショウ「え〜じゃあ、カオルの話聞きたい。マスダとどうなってるの〜?」
カオル「話したくない」
トオル「お願いだから話して。ビール1本奢るから、タイムリーでキャッチーでポップな話題に、今すぐ変えて」
カオル「…別にどうってことは」
ショウ「嘘だ。マスダの家に泊まって、家族と会ったんでしょ」
カオル「なんでお前知ってんだよ!」
ショウ「忘れた?マスダは元々俺の友達だよ?」
トオル「あいつ実家暮らしだったの?」
ケント「家族に会うってそれまさか…次の式はカオル…?」
カオル「馬鹿。んなわけないだろ。ちょっとご飯食べて、酒飲んだだけだよ。甥っ子とは一緒に風呂入ったけど…」
スガヤ「一緒に風呂だあ?」
カオル「色々あるんだよ事情が!それに僕とマスダはまだ…」

そこまで言って、ハッとした様子で口をつぐむカオル。

ケント「まだ…?何」
マサキ「ヤッてない?」
カオル「というか…その…」
スガヤ「何もじもじしてんだよ。カオルらしくない」
カオル「うるせえよ!」
ショウ「キスもしてないんだって、まだ」
カオル「おいお前!」
ショウ「マスダから聞いた」
カオル「あいつ、必ず、殺してやる」
トオル「やだ可愛い〜。君、本当にカオルくん?偽物じゃない!?」
カオル「おいこら。失恋したてだと思って、少し優しくしてやればつけ上がりやがって」
トオル「あ、こりゃ本物だ」
スガヤ「どんな男ともすぐにヤっちゃう百戦錬磨のカオルが、まだキスもしてない?」
マサキ「これは大ごとだ。オーラの相性みようか」
カオル「結構です。外したばっかりでしょ」
マサキ「失敬だな。誤差の範囲内だ」
トオル「でもそれってまさか、本気ってこと?あのヤンキーに?ああいう男嫌いじゃなかった?」
カオル「そうだけど…なんていうか、あいつといると…その…ペースが乱されるんだよ。振り回されるっていうか、強引っていうか。僕がすごんでも全然効かないし」
ケント「恋だ!」
カオル「お前は童貞のくせに恋を語るんじゃねえ!」
スガヤ「カオルがついに本気の恋を…お母さん感激」
カオル「黙れ!これ以上は何も話さないぞ!」
トオル「いいですねえ。僕の分も健全で誠実な恋をしてくださいよ」
ショウ「もう、拗ねないの。みんなで友達集めて、合コン、セッティングするからさ。一緒に男探しに行こうよ」
トオル「お前と並ぶと短足に見えるからやだ!」
マサキ「大体俺たち、他に友達らしい友達いるか?」

全員沈黙する。

カオル「じゃあマスダの友達でも紹介させようか?まああいつの友達なんて馬鹿とヤンキーばっかりだろうけど。でも運転はみんな上手いんじゃない?トオルくんの苦手分野だし」

ニヤニヤした顔でカオルをみる一同。

カオル「な、なんだよ…みんなして気味の悪いうすら笑いなんか浮かべやがって…」
トオル「何も話さないなんて言っちゃって」
マサキ「結局その男の話になってる」
スガヤ「本当はもっと話したいんだろ〜マスダのこと」
ショウ「今1番いい時だもんね〜」
ケント「恋だ〜カオルが恋に落ちてる〜」
カオル「お前ら…!」
ナオミ「お祝いにボトル1本、サービスするわ」
カオル「ナオミちゃんまで!」

一同におちょくられて照れた様子のカオル。

○マスダの家・マスダの自室(夜)

パジャマ姿でベッドに横になって向かい合っている2人。

マスダ「また泊まりに来てくれたっすね」
カオル「お前が無理やり連れてきたんだろうが」
マスダ「今日は甥っ子もいないし、ベッドに2人っきりっすね」
カオル「てめえは床で寝ろ」
マスダ「こんなに相手に焦らされたのは初めてっす」
カオル「そうかよ」
マスダ「でもカオルさんが自分を特別な存在だと思ってくれるまで待つっす」
カオル「相変わらず恥ずかしいやつだな」
マスダ「恋に落ちてる時はみんな恥ずかしいもんっす」
カオル「…そうかもな」
マスダ「え?」

マスダにキスをするカオル。

マスダ「…マジっすか」
カオル「次からは、お前からすること。いいな」
マスダ「はいっす!」
カオル「それから、僕たちのことを逐一ショウに報告するのはやめろ」
マスダ「あ、さーせん…つい浮かれてて…」
カオル「あともうひとつ!キスマークはつけるな。…まあ、少なくとも見えるところには」
マスダ「キスマーク?」
カオル「ヤンキーはすぐそういうの付けたがるだろ!接客業だから困るんだよ!」
マスダ「それは偏見っすよ…ん?キスマークってことは…していいってことっすか?その…」
カオル「だから!金輪際そういうことを僕に言わせるな!全て察しろ!」
マスダ「了解っす!」

カオルに覆い被さるマスダ。
キスをする2人。マスダの背中に腕を回すカオル。

○同(朝)

裸で眠っているカオルとマスダ。
鳥の鳴き声と朝日でカオルが目覚める。
上半身を起こすカオル。自分の体をぼんやりと眺める。

カオル「やっぱり付けてんじゃねえかよ。くそヤンキーめ」

隣で気持ちよさそうに眠ってるマスダの寝顔を見つめるカオル。
突然部屋のドアが開いてマスダの祖父が入ってくる。

カオル「ぎゃっ!」

布団で体を隠すカオル。
マスダが起き出してくる。

マスダ「ん〜どうしたっすか?」
カオル「あれ!あれ誰!?」
マスダ「ああ、じいちゃんっす。ボケちゃってるんでなんもわかんないっすよ。じいちゃん、ここはトイレじゃないぞ!トイレは隣!」
マスダの祖父「おや、見慣れない子じゃのう。あんたどこから来なすった。そいつの彼氏か?」
マスダ「そうだよじいちゃん〜」

マスダの甥がそこにやってくる。

マスダの甥「おじいちゃん、ここはトイレじゃないよ。一緒に行こう。叔父さんたちは今、愛の儀式の最中なんだ」
カオル「君はどこでそんな言葉覚えてくるんだ!」

マスダの甥に手を引かれてマスダの祖父が去っていく。
呆然としているカオル。
そこに猫のミッチーが通りかかる。カオルの顔を眺める。

カオル「だからお前、何見てんだよ」

マスダに腕を引かれてベッドに押し倒されるカオル。


〈第5話了〉

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