僕は真面目な三村君 コメディ

三村フーズの婿養子として20年間真面目に働いてきた三村。家族から無視された腹いせに、キャバクラ嬢と初めての不徳を試みるが…。 10分間の短編です。シナリオ・センターの課題『旅』で書いたものを、短編にアレンジしました。
桐乃さち 19 1 0 12/01
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第一稿

登場人物

三村賢二(45) ㈱三村フーズ 副社長
ミサ(23) キャバ嬢

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「僕は真面目な三村君」(PDFファイル:181.38 KB)
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登場人物

三村賢二(45) ㈱三村フーズ 副社長
ミサ(23) キャバ嬢

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〇三村家 外観(朝)
   庭付きの立派な一戸建て。「三村」と書かれた表札。

〇同 玄関 中(朝)
   三村賢二(45) 、靴を履いている。
三村「行ってきます」
   家の中からは賑やかな声が聞こえる。三村、ため息をついて外に出る。

〇新宿駅 ホーム(朝)

   三村、旅行バッグを持ち、帽子を目深に被って立っている。
   ミサ(23)、はしゃいだ様子でやって来る。ミサ、三村の腕を取る。
ミサ「三村さん!おはようございます」
   三村、飛びのいてミサから離れる。
三村「は、離れて、離れて!こういう所って、監視カメラあるんじゃないの!?」
ミサ「はぁ!?」
   三村、さっさと歩き始める。ミサ、後ろから小走りでついて行く。

〇ロマンスカー 車内(朝)
   三村とミサ、3列離れて座っている。三村、周りを見回し、帽子を被り直す。
   ミサ、不満そうに弁当を食べている。

〇箱根駅 前
   三村とミサ、駅から出て来る。ミサ、気持ちよさそうに背伸びをする。
   ミサ、ガイドブックを取り出す。
ミサ「どうします?ミサ、強羅の黒たまごってやつ、食べてみたーい」
   三村、通りに出てタクシーを二台停めている。三村、振り返って手を振る。
三村「ミサちゃん、早く!念の為、ばらばらで行こう」
  三村、さっさとタクシーに乗り込む。ミサ、呆れ顔。

〇温泉旅館 外観
   和風の、大きな温泉旅館。

〇同 室内
   広い和室。三村とミサ、向かい合って座っている。三村、お茶を一気に飲み干す。
三村「はぁ、やっと着いた」
   ミサ、不機嫌な顔でお茶を飲んでいる。
ミサ「黒たまご、食べたかったぁ」
   三村、バッグから封筒を取り出して、テーブルの上に置く。
三村「どうぞ、お納めください」
   ミサ、封筒の中のお札を数える。
ミサ「そんなに奥さんが怖いならキャバ嬢と旅行なんか来なければいいのに」
   三村、もそもそとお菓子を食べる。
三村「隣にもう一部屋とってあるから、寝る時はそっちに行ってね」
   ミサ、頬杖をついてため息をつく。
ミサ「意味分かんなーい!」
   ミサ、立ち上がってカーテンを開ける。
   檜造りの露天風呂がある。
ミサ「あ!ここ、露天風呂ついてるんだ!」
   三村、お茶を飲みながら答える。
三村「大浴場は人目があるからね」
ミサ「一緒に入ろうよ!」
   三村、お茶を吹き出す。
ミサ「お風呂ぐらい、いいじゃん」
三村「き、今日は浮気したい訳じゃないから」
   ミサ、腕組みをして三村を睨みつける。電話が鳴る。三村、驚いて飛び上がる。
   ミサ、歩いて電話に近寄る。三村、慌ててミサの足に飛びつく。
三村「で、出ちゃだめ!」
   ミサ、受話器を取って耳に当てる。
ミサ「はい。はい。分かりました」
   ミサ、受話器を置く。三村、震えながらミサを見ている。
三村「誰!?ま、まさか」
ミサ「旅館の人。夜ご飯、7時でいいかって」
   三村、汗を拭いて大きくため息をつく。

〇空(夜) 
   満月が明るく輝いている。

〇温泉旅館 ベランダ 露天風呂(夜)
   ミサがのんびり風呂に入っている。
ミサ「三村さーん。一緒に入りましょうよ~」

〇同 室内(夜)
   三村、窓の近くに正座している。
三村「しーっ!外に聞こえたらどうするの」
ミサの声「だって、せっかく旅行に来たのにつまんないですよ。お酒も飲まないし」
三村「急に家から電話が来たら困るし!」
ミサの声「ねぇ、こっち来てくださいよ。10万ももらったのに何もしないの悪いし」
三村「何もしなくていいよ」
ミサの声「じゃあ、どうして来たのか教えて下さいよ」
   三村、体育座りをしている。
ミサの声「ミサ、お客さんに温泉誘われるなんて初めてだし。
 このままじゃ殺されちゃうのかなって怖いし」
三村「な…、そんなことしないよ!」
ミサの声「信じられなーい」
   三村、咳払いをする。
三村「ちょっとした復讐、かな」
ミサの声「復讐?」
三村「あのさ、三村フーズって知ってる?」
ミサの声「三村フーズ?」
三村「ランチサンドの」
ミサの声「えー! ミサ、いつも夜食に食べてる!」
三村「僕、その会社の副社長なの」
ミサの声「えぇー!?」
三村「って言っても、婿養子のコネ入社。ただのお飾りだけどね。
 せめて会社には迷惑かけないようにって、20年間真面目に働いてきたんだけどさ。
 気が付いたら家族の誰も僕のことなんか見てないんだよね」
   三村、皮肉そうに笑う。
三村「会社のことはお義父さんが全部やってるし、俺の存在って何なのかなぁって」
   三村、窓の外の様子を伺う。
三村「ミサちゃん?」
   突然、激しい水音がする。
ミサの声「きゃあ!助けて!溺れちゃう!」
   三村、慌てて立ち上がる。

〇同 ベランダ 露天風呂(夜)
   ガラス戸を開けて三村が出て来る。ミサ、風呂に沈んでいる。
   三村、湯の中に手を入れてミサを抱き起す。
三村「ミサちゃん!ミサちゃん!」
   ミサ、目をつぶってぐったりしている。三村、ミサの頬を叩く。
   ミサ、目を開けて笑顔になる。
ミサ「死んじゃう。キスして」
   三村、脱力して床に座り込む。
ミサ「ごめんなさい。びっくりした?」
三村「俺は何も見てない、何もしてないぞ!」
   ミサ、三村の腕を掴む。
ミサ「ねぇ、待って!」
三村「いや、困るって!」
ミサ「私、三村さんの気持ち、分かるから!」
   三村、目を見開いて振り返る。
ミサ「私も、お店で居場所無いもん。23なんてキャバではもうババア扱いだよ」
   ミサ、帯をほどきながら三村を見る。
ミサ「ねぇ三村さん、お風呂入ろう。命の洗濯ってやつ」
三村「命の洗濯?」
ミサ「ちょっとだけ抜け出すの」
   三村、ミサの手を掴んで帯から離す。三村、部屋の中に戻ろうとする。
ミサ「三村さん!ここには誰も来ないよ」
   三村、立ち止まる。三村、こぶしを握って振り返る。
   三村、戻って来る。三村、浴槽に手をかけて前のめりになる。
三村「ミサちゃん、スーパーのパンツってどう思う?」
ミサ「え?」
三村「僕はスーパーのパンツが一番好きなんだけど女房は百貨店のパンツしか
 履かせてくれないんだ!ミサちゃん、どう思う!?」
   ミサ、ニヤッと笑う。
ミサ「パンツはパンツでしょ」
   三村の目に涙が浮かぶ。三村、浴衣を脱ぎ捨てて、勢いよくお風呂に飛び込む。
   ミサ、目を見開く。三村、頭まで湯に浸かる。お湯が溢れる。三村、顔を上げる。
三村「ぶはぁー!気持ちいいーーーー!」
   ミサ、三村を見て笑う。三村も笑顔。

〇新宿駅 前
   旅行バッグを持った三村とミサ。
三村「じゃあ、ありがとう」
ミサ「うん。またお店に来てね」
三村「それじゃ」
ミサ「うん」   
   ミサ、手を振って歩き出す。三村も歩き出す。三村、俯いて、ため息をつく。
   三村、拳を握り締めて勢いよく振り返る。
三村「あのさ!ミサちゃん、また……」
   ミサ、スマホを耳に当てて楽しそうにしゃべっている。
   三村、肩を落としてミサの様子を見つめる。三村、寂しそうに笑う。
三村「さてと、真面目な三村君に戻りますか」
   三村、歩き出す。後ろから足音がして、ミサが三村の肩に飛びついてくる。
   ミサ、三村の頬っぺたにキスする。三村、目を見開く。
ミサ「また行こうね、温泉!」
   ミサ、走り去って行く。三村、頬っぺたを押さえて、笑顔になる。
   三村、足取り軽く、歩き始める。
                                了

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