おとなりさん ドラマ

 コレは「お隣さん」という新しい形の家族の、ほんの始まりの物語。  真下英雄(33)は、ひょんな事からアパートの隣に住む向井家(シングルマザーと小中学生の娘二人)と交流が始まり、合鍵を交換する間柄となる。
マヤマ 山本 12 1 0 11/30
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第一稿

<登場人物表>
真下 英雄(33)ITエンジニア
向井 音(15)真下の隣人、中学生
向井 奏(9)同、音の妹、小学生
向井 小百合(40)同、音と奏の母

大家 建( ...続きを読む
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<登場人物表>
真下 英雄(33)ITエンジニア
向井 音(15)真下の隣人、中学生
向井 奏(9)同、音の妹、小学生
向井 小百合(40)同、音と奏の母

大家 建(33)真下の会社の社長
角野 拓哉(15)音の彼氏
市丸 豪(37)探偵
市丸 奈々(13)市丸の娘

チケット係



<本編>
○葬儀場・外観

○同・中
   棺に眠る父の遺体を見下ろす真下英雄 (33)。遺体を殴る。英雄の姉、二人の妹ら親族やスタッフが慌てて真下を止めに入る。
真下M「この日、俺から家族はいなくなった」

○アパート・外観
   二階建てのアパート。
真下M「そして……」

○同・二階通路
   「202」「真下」の表札がある部屋の前に、コンビニ袋を持ってやってくる真下。隣の部屋(=向井家)のドアの前にランドセルを背負って座る向井奏(9)に気付く。奏も真下に気付き、ドアの鍵を開ける真下を凝視する。
真下「(視線に耐えられず)こんにちは」
奏「こんにちはなのです」
真下「お隣のお子さん?」
奏「はい。名前は向井奏なのです」
真下「真下です。……どうしたの?」
奏「鍵を忘れてしまったのです」
真下「あぁ、そういう事か」
奏「寒いのです」
真下「うん、寒いよね」
奏「とても寒いのです」
真下「……」
奏「お腹も空いたのです」
   真下を凝視する奏。
真下「(ため息まじりに)勘弁しろし……」
    ×     ×     ×
   「201」「向井」の表札の下に「おとなりさんの家にいます かな」と書かれたメモ。

○メインタイトル『おとなりさん』

○アパート・真下の部屋・居間
   座卓やテレビがある部屋。奥にはもう一部屋の扉もある。
   座卓を囲み、肉まんを食べる真下と奏。
奏「おいしいのです」
真下「あ、そ」
奏「これで甘い物もあったら最高なのです」
真下「……」
   席を立ち、ボトルチョコ(ボトルガムのチョコ版)を手に戻ってくる真下。
真下「チョコいる?」
奏「欲しいのです」
真下「ねぇ、今更だけど、友達の家とかに行った方が良かったんじゃない?」
奏「今どき、約束もなしに友達の家に行くなんて、非常識なのです」
真下「(小声で)どっちが。(元の声量で)で、お母さんはいつ頃帰ってくんの?」
奏「『今日は遅くなる』と言っていたのです」
真下「勘弁しろし……。お父さんは?」
奏「パパは、居ないのです」
真下「あ……そうなんだ。ごめん」
奏「別にいいのです。ただ、お姉ちゃんがそろそろ帰ってくると思うのです」
真下「お姉ちゃんは、何年生?」
奏「中学三年生なのです」
真下「中三か。確かに、部活引退してれば、そろそろ……」
   インターホンの音。

○同・二階通路
   ドアを開ける真下。そこに立つ向井音(15)。中学校の制服姿。
音「あの、隣の向井です」
真下「真下です。(室内に向け)ほら、お姉ちゃん迎えに来たよ」
音「何か、申し訳です。ウチの妹がご迷惑を」
真下「まぁ、困った時はお互い様だよ」
音「?」
   そこにやってくる奏。
奏「お姉ちゃん、お帰りなさいなのです」
音「奏、何やってんの。男の家に一人で行くなんて、危ないじゃん」
真下「そうそう。俺もあらぬ疑いをかけられるのはごめんだしね」
音「あ……申し訳。とにかく奏、早くしてよ。ウチ、鍵忘れちゃったから、入れなくて」
真下&奏「え?」
音「……え?」
    ×     ×     ×
   「向井」の表札の下のメモ。「かな」の下に「音」と追記されている。

○同・真下の部屋・居間
   座卓を囲む真下、音、奏。音は肉まんを食べている。
音「何か、申し訳」
真下「お母さん、何時ごろになりそう?」
音「(スマホを見ながら)『早ければ九時、遅ければ十時』だって」
真下「勘弁しろし……。もういいや」
   立ち上がる真下。
真下「俺、奥で仕事してるから。適当にくつろいでて。ただし、静かにね」
奏「わかったのです」
音「申し訳」
   奥の部屋(=仕事部屋)に入る真下。

○同・同・仕事部屋(夜)
   多数のパソコン関連の機器や寝具があり、扉には鍵も付いている。
   パソコンに向かう真下。時折ボトルチョコを口に運ぶ。居間から騒がしい声。
奏の声「スマホ貸してほしいのです」
音の声「だから嫌だって言ってんじゃん」
   ため息をつき、席を立つ真下。

○同・同・居間(夜)
   ドアを開ける真下。揉めている音と奏。
奏「奏、YouTubeが観たいのです」
音「それが嫌なんじゃん。ウチ今使ってるし、そもそも奏のせいで先月速度制限が……」
   無言でテレビをつけ、リモコンを操作する真下。YouTubeを観るためのアプリを起動する。
奏「(目を輝かせ)テレビでYouTubeが観られるのですか!?」
真下「お願いだから、静かにしててね」
音「申し訳」
   仕事部屋に戻る真下。

○同・同・仕事部屋(夜)
   パソコンに向かう真下。頻繁にボトルチョコを口に運ぶ。
   ドアをノックする音がする。
奏の声「お腹が空いたのです」
   ため息をつき、立ち上がる真下。

○同・同・居間(夜)
   音と奏の待つ座卓に焼きそばを置く真下。いかにも男が作ったような出来。
真下「どうぞ」
奏「いただきますなのです」
音「(スマホで写真を撮り)全然映えね~」
真下「悪かったね」
音「申し訳」
   ため息をつき、奥の部屋に戻る真下。

○同・同・仕事部屋(夜)
   パソコンに向かう真下。ひたすらボトルチョコを口に運ぶ。
   建物の外から物音。
真下「もう、今度は何!?」
   立ち上がる真下。物音の出所に気づく。

○同・外観(夜)
   暴風雨。

○同・真下の部屋・居間(夜)
   座卓を囲みテレビで暴風雨を伝えるニュースを観る真下、音、奏。音のスマホから通知音。
音「お母さん、傘持ってないって」
奏「どうするのですか?」
   音と奏の視線が真下に集まる。
真下「勘弁しろし……」

○駅・前(夜)
   雨宿りする向井小百合(40)。そこにやってくる一台の車。後部座席の窓から顔を出す音と奏。
奏「居たのです」
音「お母さ~ん」
小百合「え、音? 奏?」
   誰もいない助手席の窓が開き、運転席から顔をのぞかせる真下。
真下「あ、お隣の真下です」
   会釈する小百合。
真下の声「……っていう事があった訳だ」

○アパート・真下の部屋・仕事部屋
   パソコンに向かう真下。画面にはリモート会議相手の大家健(33)の姿。
大家「そうか。英雄もついに恋をしたか」
真下「は?」
大家「まさか英雄から恋愛相談をされる日が来るとはな。感慨深いぜ」
真下「話聞いてた? ただの進捗報告。作業遅れてます、っていうバッドニュース」
大家「案ずるな。英雄の恋路のためだ。多少納期が遅れたとして、先方には俺がいくらでも土下座してやるから」
真下「(諦めて)……」
   インターホンの音。
真下「ん?」
小百合の声「先日は娘達がご迷惑をおかけしまして……」

○同・同・居間
   座卓を囲む真下と小百合。真下に手土産を渡す小百合。
小百合「申し訳ありませんでした」
真下「いえ、お気になさらず」
小百合「ほんの気持ちなので」
真下「まぁ、じゃあ(と言って受け取る)。今日はお休みですか?」
小百合「はい。真下さんは家でお仕事を?」
真下「最近はリモートワークが主流になってくれて、助かってます」
小百合「大変な時代になりましたよね」
真下「それを言ったら、娘さん達の方が大変ですよ。特に音ちゃんは受験生でしょう?」
小百合「あ……実はその音の事で、ご相談があるのですが……」
真下「ご相談?」

○同・外観(夜)

○同・真下の部屋・仕事部屋(夜)
   パソコンに向かう真下。ボトルからチョコを取ろうとして、空と気づく。

○同・同・居間(夜)
   仕事部屋から出てくる真下。座卓で勉強している音。
真下「どう、捗ってる?」
音「おかげさまで。家だと奏がうるさくて」
真下「まぁ、受験生には厳しい環境だよね」
   棚から未開封のボトルチョコを取りだす真下。
真下「チョコいる?」
音「いる」
   真下が開けたボトルからチョコを一粒口に運ぶ音。
音「ねぇ。数学得意? この問題が何でこの答えになるかわかんないんだけど」
真下「ん? (問題集を見て)コレは(ノートに公式を書きながら)この公式をココに代入して、こうなってんだな」
音「お~。じゃあ、コッチは?」
真下「(ノートを見て)ん~。あ、ココ、二乗してないから答えが変なんだな」
音「なるほど。……真下さん、頭いいんだ」
真下「何、俺の事バカだと思ってた?」
音「申し訳」
真下「いや、思ってたんかい……」
   隣の家のドアを叩く音。
角野の声「おい、音。居るんだろ!」
真下「?」

○同・二階通路(夜)
   ドアを開ける真下。向井家のドアを叩く角野拓哉(15)。
角野「出て来いよ! なぁ、音!」
   真下を押しのけ、出てくる音。
音「何してんの、拓哉。近所迷惑じゃん」
角野「え、音? 何でソッチから……(真下に気付き)お前か。よりによって、こんなオッサンと二股かけられてたとはな」
音「は?」
真下「二股?」
角野「人の女に手ぇ出しやがって。このロリコン野郎!」
   真下に殴りかかる角野。
真下「勘弁しろし……」

○同・真下の部屋・居間(夜)
   座卓を囲む真下と音。真下の頬には殴られた跡。
音「何か、申し訳」
真下「本当だよ」
音「まさかあんな嫉妬深かったとは……」
真下「でも何でまた、二股なんて誤解を?」
音「あ~……『二股』自体は、ただの事実」
真下「はい?」
音「お母さんと奏には内緒だからね」
真下「え、二股かけてんの? 何で?」
音「『何で?』って……拓哉とは一年の時から付き合ってて。で、『俺と一緒の高校行こうよ』って言われて」
真下「うん」
音「でも、拓哉バカでさ。ウチもそこまでレベル下げたくないし、『拓哉が私に合わせてよ』って言っても聞く耳持たなくて」
真下「……何でだろう、目に浮かぶ」
音「で、ちょっと冷めた所に、たまたま志望校が同じな別の男子が居て。意気投合」
真下「で、二股?」
音「引くよね?」
真下「別に」
音「え?」
真下「まぁ、その拓哉君っていう彼からしたら、たまったもんじゃないだろうけど、俺が直接被害に遭っている訳でもないしさ」
音「今、ぶっ飛ばされたじゃん」
真下「そこは大いに反省してもらうとして」
音「申し訳」
真下「単純に、凄いなとは思う」
音「……ディスってる?」
真下「そんなつもりはないけど」
音「じゃあ、何が凄いの?」
真下「だってさ、その、拓哉君だっけ? その状況でまだ別れてないって事は、まだ好きなんでしょ?」
音「好きっていうか、まぁ……」
真下「で、もう一人の彼の事も?」
音「うん……まぁ」
真下「誰かを好きになるって、その人のいい所を見つけられる、って事でしょ? 一人ですら難しいのに、二人同時って、凄いよ」
音「そう……かな?」
真下「俺は悪い所ばっか見つけちゃうからさ、正直うらやましいくらいだね」
   音の頭をなでる真下。
真下「だから、胸張りな。人を好きになれるっていうのは、立派な才能なんだ、って」
音「……どうだか」
真下「(立ち上がり)それじゃ、ほどほどにね」
音「何を?」
真下「さぁね」
   仕事部屋に戻る真下。
   真下になでられた箇所を触れる音。

○同・外観(夜)

○同・真下の部屋・仕事部屋(夜)
   パソコンに向かう真下。スマホで通話中(尚、相手は大家)。
真下「このコード組んだ奴、誰だよ? バグだらけだったぞ? で、用件って何? ……システムエラー? え、俺が行くの? (時計を見て)そりゃ、電車動いてないし、俺は車持ってるけど……勘弁しろし」

○同・同・居間(夜)
   仕事部屋から出てくる真下。
真下「ごめん、音ちゃん。急に出る事に……」
   真下の視線の先、床で寝ている音。
真下「勘弁しろし……」

○同・外観(朝)

○同・真下の部屋・居間(朝)
   床で寝ている音。布団が掛けられている。目を覚ます。
音「ヤバっ、寝てた……(布団に気付く)」
   起き上がる音。座卓の上に置かれた「急な出張が入ったので、戸締りよろしく 真下」と書かれたメモと合鍵。
音「(合鍵を手に)ふ~ん……」

○同・外観

○同・真下の部屋・居間
   座卓を囲む真下、奏、小百合。座卓の上に置かれた向井家の合鍵。
真下「(鍵を見て)コレは?」
奏「奏達の家の合鍵なのです」
真下「はぁ。……えっと、何で?」
小百合「真下さんの家の合鍵を戴いたので」
真下「いや、そもそもあげた訳じゃ……」
小百合「でもほら、一人暮らしだと不便な事あると思うので」
真下「それは、まぁ……」
小百合「私達も、何かあった時に頼れる男の方が隣に居ると安心だったりするので」
真下「……」
奏「ダメなのですか?」
真下「……わかりましたよ」
小百合「良かった~。じゃあ、私は仕事があるので。奏、行ってくるね」
奏「行ってらっしゃいなのです」
   出ていく小百合。
真下「奏ちゃんも、学校遅刻するよ?」
奏「今日は開校記念日なのです」
真下「あ、そうなんだ」
奏「そうなのです」
   しばしの沈黙。
真下「……え、ウチに居る気?」
奏「そんな事はないのです」
真下「だよね」
奏「奏、遊園地に行きたいのです」
真下「……はい?」

○遊園地・外観

○同・チケット売り場
   窓口に立つ真下と奏。
真下「勘弁しろし……」
チケット係「(チケットを渡して)では大人一枚、子供一枚です」
奏「ありがとうなのです」
チケット係「お父さんと二人で来たの?」
真下「え、あ、いや……」
奏「そうなのです」
   奏を見やる真下。

○同・中
   並んで歩く真下と奏。
奏「『親子じゃない』なんて言ったら、今のご時世、色々とややこしいのです」
真下「大人だねぇ」
奏「でも奏達、親子に見えるのですか? 奏が生まれた時、パパは三三歳だったと聞いているのです」
真下「今の俺の歳か。まぁ、全然見えるんじゃない? 音ちゃんでもギリあり得るし」
奏「なら今日一日、真下さんの事を『パパ』と呼びたいのです」
真下「え? あぁ、まぁ、別にいいけど……」
奏「あ、真下さん。アレに乗りたいのです」
   駆け出す奏。
真下「いや、呼ばないんかい」

○同・各地
   様々な乗り物に乗る真下と奏。
奏の声「奏のパパは、奏が生まれてすぐに死んでしまったのです。なので、パパの事は全然覚えていないのです。よく『寂しい?』と聞かれるのですけど、『パパが居る』という状態を経験したことがないので、何とも言えないのです」

○同・観覧車・外観
奏の声「でも、もしパパが居たら、きっとこんな感じなのですね」

○同・同・中
   向かい合って座る真下と奏。
奏「奏、やっぱりパパが欲しいのです」
真下「そっか」
奏「だから今、パパ活中なのです」
真下「いや、それは大分意味が違うね」
奏「真下さんのパパはどんな人なのですか?」
真下「俺の? ……俺みたいな人、かな」
奏「今はどこに住んでいるのですか?」
真下「(あっさりと)もう死んだ」
奏「寂しくないのですか?」
真下「別に」
奏「そうなのですか」
真下「……そんなにパパが欲しい?」
奏「はい。パパも欲しいですし、何より妹が欲しいのです」
真下「妹? 何で?」
奏「お姉ちゃんだけ妹がいて、ずるいのです」
真下「そういうもんか……」
奏「真下さんに兄弟はいるのですか?」
真下「ん? ……いないよ」
奏「そうなのですね。意外なのです」
真下「意外?」
奏「なんとなく、真下さんはお姉さんや妹さんがいそうなイメージだったのです」
真下「……そっか」
奏「で、どうなのですか? 真下さんは、奏のパパになってくれるのですか?」
真下「あ、え、そういう話だったの?」
奏「ママと結婚するの、嫌なのですか?」
真下「何とも答えづらい質問を……」
奏「もしかして奏のパパより、奏の旦那さんになりたいのですか? (頬を赤らめ)奏、困ってしまうのです」
真下「俺、何も言ってないよ?」
奏「では、どう思っているのですか?」
真下「俺は、奏ちゃんのパパにも、旦那さんにも、なるつもりはありません」
奏「何故なのですか? もしかして、奏達の事嫌いなのですか?」
真下「そんな事ないよ」
奏「じゃあ、何故なのですか?」
真下「『何故』って言われてもな……」
奏「やっぱり、奏達の事嫌いなのですね。もういいのです……」
   すねたように外に目をやる奏。ため息をつき、奏の隣の席に移動する真下。
真下「……嫌いだったら、一緒に遊園地なんて来ないでしょ」
奏「……」
真下「奏ちゃん達は悪くない。悪いのは、俺」
奏「(真下の方に向き直り)え?」
真下「俺、向いてないんだよ。家族ってのが」
奏「家族に向き不向きがあるのですか?」
真下「あるよ。俺は父親役も向いてない。息子役も向いてない。兄貴役も弟役も夫役も、何一つ向いてないよ」
奏「やってみなければわからないのです」
真下「かもしれないけど……そうやって、無責任に父親役をやり始めるようなヤツが、子供殴ったりするんだよ。きっと」
奏「大丈夫なのです」
真下「え?」
奏「真下さんは、そんな人じゃないのです」
真下「……何でそう思うの?」
奏「なんとなく、そう思うのです」
真下「そっか。……ありがとね」
奏「何で真下さんがお礼を言うのですか?」
真下「奏ちゃんにそう言ってもらえたら、『そうなのかな』って思えたからさ」
奏「お礼を言うのは、奏の方なのです」

○同・外観(夕)
奏の声「奏の夢、叶えてもらえたのです」

○同・中(夕)
   眠る奏をおんぶする真下。
奏の声「初デートの相手は……」
奏「(寝言で)パパ……」
   寝言に気付き、一瞬奏を見やる真下。

○アパート・外観

○同・真下の部屋・仕事部屋
   書類を手にパソコンに向かう真下。画面にはリモート会議相手の大家の姿。
大家「どうだ?」
真下「ふ~ん。今回のプロジェクトは随分余裕あるな。何、働き方改革でも始めた?」
大家「仕事の話じゃねぇよ。(小指を立てて)コッチだよ、コッチ」
真下「(小指を立て)コッチ?」
大家「ほら、この前言ってた、九歳の娘がいる中学生の未亡人って人」
真下「いや、混ざってる混ざってる」
大家「頼むぜ? お前の婚活のために色々調整してやって、コレなんだから」
真下「だから、別に俺は婚活なんて……」
大家「案ずるな。英雄が思っている以上に、英雄は好かれてるよ。多分な」
真下「……どうだか」
   ドアをノックする音。
真下「(時計を見て)ん? 今日は早いな」

○同・同・居間
   仕事部屋の扉を開ける真下。そこに立つ音。傍らには大きな荷物。
真下「音ちゃん、いらっしゃ……(荷物に気付き)ん? 何科目勉強するつもり?」
音「(改まって)しばらく、お世話になります」
真下「……はい?」
音「家出してきた」
真下「家出? (向井家側の壁を指し)この距離で?」
音「距離は関係ないじゃん」
真下「それはそうだけど……勘弁しろし」
音「『ダメ』とは言わないんだ?」
真下「今追い出して、どっか訳わからん所行かれるよりは、よっぽどマシでしょ?」
音「さすがじゃん」
真下「で、何があったの?」
音「え? 別にいいじゃん。理由いる?」
真下「絶対必要でしょ」
音「まぁ、お母さんと揉めただけ。思春期あるある。以上」
真下「揉めたって、何でまた?」
音「だから、それは……」

○(回想)同・外観
小百合の声「え? 志望校変えたい?」

○(回想)同・向井家・居間
   真下の部屋と間取りは一緒。
   座卓を囲む音と小百合。座卓の上には模試の結果。
小百合「そんな、一回模試の結果が悪かったくらいで、そんな事言わないの」
音「そんな事言ったって、本番がこの出来だったら落ちちゃうじゃん」
小百合「でもさ、音はこの高校に行きたいんでしょ? セーラー服着たいんでしょ?」
音「それはそうだけど……」
小百合「お母さんはこんな事で音に妥協してほしくないの。だから頑張って……」
音「『頑張って』って、頑張ってんじゃん。それとも何、ウチが頑張ってないって言いたいの? 頑張ったら全員合格出来んの?」
小百合「音……」
音「落ちたらウチ、中学浪人なんだよ? お母さんじゃなくて、ウチが。それとも、私立の滑り止め受けさせてくれるの!?」
小百合「申し訳ないけど、それは……」
音「塾も行けない、滑り止めも無理。でもレベルは下げるな? 何それ。お金出さないくせに、口ばっか出さないでよ!」
   涙を流す小百合。
音「え?」
小百合「……だよね。頑張んなきゃいけないのは、お母さんなんだよね。申し訳ない」
音「(いたたまれず)もういい!」
   立ち上がり、奥の部屋の扉を開ける音。立ち聞きしていた奏が身を隠す。

○同・真下の部屋・居間(夜)
   座卓を囲む真下、音、奏。
奏「……という事があったのです」
真下「なるほど。ごめんね、奏ちゃん。話しづらい事を」
奏「いいのです。こういう事は、第三者による客観的な視点が不可欠なのです」
真下「大人だねぇ」
音「どうせウチは子供みたいですよ」
真下「そんな事一言も言ってないでしょ」
音「じゃあ、どう思ってんの?」
真下「別に。年相応だよ。音ちゃんの言った通り。思春期あるある」
音「……ならいいけど」
奏「ママの事、まだ怒っているのですか?」
音「別に、もう怒ってないけど」
奏「じゃあ、帰るのです」
音「嫌だ」
奏「何故なのですか?」
音「……」
真下「……(刑事が容疑者にカツ丼を差し出すような感じでボトルチョコを差し出し)チョコいる?」
   ボトルからチョコを一粒口に運ぶ音。
音「……泣かせちゃった」
真下「え?」
音「まさか、お母さんが泣くと思わないじゃん? だから、何かもう、申し訳すぎて、家に居らんないっていうか……」
   目に涙を浮かべる音。
奏「お姉ちゃん……」
真下「(立ち上がり)奏ちゃん。悪いけど、もう少しココに居てくれる?」
奏「奏はいいのですけど、どこかへお出かけされるのですか?」
真下「お出かけって程の距離じゃないけどね」
   向井家側の壁を見つめる真下。
小百合の声「いつもいつも、申し訳ないです」

○同・向井家・居間(夜)
   座卓を囲む真下と小百合。
小百合「女手一つで育ててると、お金の面やらで子供たちに負担をかけがちで……。特に音は上の子なので、今まで我慢してた事が爆発しちゃったんですかね……」
真下「爆発なんて、大げさに考えすぎですよ」
小百合「でも……」
真下「ただのガス抜き。ちょっとしたメンテナンス。そんなもんじゃないですか?」
小百合「……そんなもんですかね?」
真下「まぁ、ガスの抜き方自体はあんまり上手くないのかな」
小百合「申し訳ないです」
真下「……なんて、俺が偉そうに言える立場じゃないですけどね」
小百合「え?」
真下「俺の方が、よっぽど下手くそですから」
小百合「ガス抜きが、ですか?」
真下「正直、羨ましいですよ。親子喧嘩というか。俺の家でそんな事やったら、ぶっ飛ばされて終わってましたよ」
   と言って笑う真下。
真下「だから我慢して、ため込んで、ガスも抜けなくて、メンテナンスも出来なくて。その先にあるのが、爆発」
小百合「真下さん……?」
真下「爆発しちゃうと、もう手遅れですからね。何もかも、跡形もなく消し飛んで、二度と元には戻らない」
小百合「(リアクションに困り)えっと……」
真下「その点、家出なんてかわいいもんじゃないですか。音ちゃんは大丈夫。だから、許してあげてください」
小百合「私は別に、音の事を許してない訳じゃ……」
真下「音ちゃんをじゃなくて、ご自分を」
小百合「え?」
真下「そんなに自分の事、責めない方がいいですよ? 音ちゃんも、きっとわかってくれてますから」
小百合「そうでしょうか……?」
真下「向井さんが思っている以上に、向井さんは好かれてますよ。もっと自信持って」
小百合「(頬を赤らめ)ありがとうございます」
真下「(真下の部屋側の壁へ)音ちゃんもね」
小百合「?」
真下「音ちゃんが思ってる以上に、音ちゃんも好かれてるから」

○同・真下の部屋・居間(夜)
   向井家側の壁に耳を当てる音と奏。
真下の声「だから自分の事、許してあげな」
   言葉にならずただ頷く音。
奏「奏は? 奏はどうなのですか?」

○同・向井家・居間(夜)
   座卓を囲む真下と小百合。
小百合「素敵なお言葉ですね」
真下「いや……ただの受け売りですよ。(小声で)一番パクりたくなかったヤツの」
小百合「?」

○オフィスビル・外観(夜)
   くしゃみの音。

○同・会社(夜)
   パソコンに向かう大家。スマホからくしゃみの音のアラーム音が鳴っている。音を止め、時刻を確認する大家。
大家「もうこんな時間か。(帰り支度をしながら)働き方改革、っと」

○アパート・外観

○通学路
   コンビニの袋を手に歩く真下。
   後ろから走ってきて、真下と腕を組む音。音は中学の制服姿で、靴下はくるぶし程の丈。
音「わっ」
真下「うおっ。何だ、音ちゃんか。今帰り?」
音「まぁね。それより、何買ったの?」
真下「晩飯とお茶と……(袋からボトルのチョコを取り出し)チョコ。いる?」
音「いる」
   真下と腕を組んだまま歩く音。
真下「ねぇ、もうちょっと離れてくんない?」
音「申し訳だけど、しばらくこのままで。理由は後程」
真下「?」

○アパート・外観
真下の声「ストーカー!?」

○同・真下の部屋・居間
   座卓を囲む真下と音。
音「って言うと大げさなんだけど、何か付けられているような気がするというか……」
真下「それをストーカーって呼ぶんでしょ」
音「だよね」
真下「何か心当たりは? 例えば(小声で)二股相手のどっちか、とか?」
音「無いんじゃん?」
真下「まさかと思うけど、三股目とか……?」
音「ディスってる?」
真下「才能あるね、って話じゃん」
音「一回チラッと見えた感じだと、真下さん世代くらいのオッサンに見えたけど」
真下「オッサン、ですか……(ショック)」
音「やっぱり、真下さんくらいの歳でも、制服姿のJC、JKはそそられるもん?」
真下「ん? ん~……(音の制服姿をまじまじと見て)」
音「え、今そそられてる?」
真下「いや、違くて。……怒らない?」
音「何が?」
真下「その、スカートの丈が長くて、靴下がくるぶしで、みたいな制服の着こなしが、俺ら世代からすると、変っていうか……」
音「は? コレが流行ってんじゃん。わかってないな~。勘弁しろし」
真下「はいはい、申し訳申し訳」
   そこにやってくる奏。
奏「真下さん。あ、お姉ちゃんもいたのですね。聞いてほしい話があるのです」
真下「お、奏ちゃん。いらっしゃい」
音「聞いてほしい話?」
奏「奏、最近誰かにストーカーされているみたいなのです」
真下&音「え?」
   顔を見合わせる真下と音。

○同・外観(夜)

○同・真下の部屋・居間(夜)
   座卓を囲む真下と小百合。
小百合「そうですか……」
真下「物騒ですし、一応、警察に相談とかしておいた方が……」
小百合「それは、大丈夫だと思います」
真下「え? でも何かあってからじゃ……」
小百合「……実は先日、私の職場にも来たようなので」
真下「え、ストーカーがですか?」
小百合「いや、探偵らしいです。聞き込みされた同僚がこっそり教えてくれたので」
真下「じゃあ、音ちゃんや奏ちゃんは尾行されてた? でも、何で探偵なんて……」
小百合「……多分、前の夫が出所して、私達の事を探しているのかな、と」
真下「……ん? ちょっと待っ、え、出所? 旦那さん、亡くなったんじゃ……?」
小百合「娘たちには、本当の事は伝えていないので。まぁ、音は何となくわかってると思いますけど」
真下「なるほど……それが原因で離婚を?」
小百合「いや、タイミングはソコなんですけど、原因は別で……」
真下「別?」
小百合「……音に、手を上げたんです」
真下「!?」
小百合「確かに、何回か同じことを注意されていて、また同じことをやって、音にも悪い所はあったんですけど」

○(フラッシュ)真下の生家
   父に殴られる幼い頃の真下。
小百合の声「でも、だとして大の大人が、幼い娘に手を上げるなんて……」

○アパート・真下の部屋・居間(夜)
   座卓を囲む真下と小百合。
小百合「とてもじゃないけど、そんな人を受け入れられなくて」
   拳を握り締める真下。
小百合「それで、娘たちを守るためにも夫とは距離を……」
真下「それでいいと思います」
小百合「え?」
真下「あ、いえ……。俺に協力できる事があったら、何でも言ってくださいね」
小百合「いつも申し訳ないです。でも、今の段階では何も……」
真下「そうですね……」

○同・外観
   インターホンの音。

○同・二階通路
   向井家の前に立つ真下。出てくる小百合。ともによそ行きの服装。
小百合「おはようございます」
真下「おはようございます……」
小百合「(服を指し)変、ですかね?」
真下「いや、良いと思います。じゃあ……」
小百合「行きましょうか」

○繁華街
   腕を組んで歩く真下と小百合。その後ろ、尾行する市丸豪(37)の姿。
    ×     ×     ×
   腕を組んで歩く真下と小百合。突如真下が立ち止まり、スマホで通話(するふりを)し始める。小百合を待たせ、その場を離れる真下。その様子を物陰から見ている市丸。やがて、市丸の背後に姿を見せる真下、市丸の肩を叩く。
市丸「(驚き)」
真下「お兄さん。ちょ~っとお茶しません?」

○喫茶店・外観

○同・中
   向かい合って座る真下、小百合と市丸。テーブルの上には「新居探偵事務所 市丸 豪」と書かれた名刺。
市丸「(頭を下げ)すみませんでした」
小百合「やっぱり、探偵さんだったんですね」
真下「で、誰に頼まれたの?」
市丸「それは言えないです。守秘義務です」
真下「ふ~ん。じゃあさ、依頼人さんには、『居場所は見つけられなかった』って報告しておいてくれない?」
市丸「そういう訳には……この件も失敗したなんて知られたら僕、クビです」
真下「この件『も』か……。じゃあ、辞めちゃえば? 子供に尾行気付かれるくらいだし。多分、向いてないよ」
市丸「それは百も承知です。でも、今無職になったら父一人娘一人、どうすれば……」
小百合「大変なんですね」
市丸「むしろ気づかれずに私の背後に回った真下さんは凄いです。師匠とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
真下「勘弁しろし。でもさ、探偵さん。それ以前に、依頼人の事もちゃんと調べてくれないと困るよ?」
市丸「調べましたよ。義務です」
真下「DV夫に、元妻の居場所教えるのは、ルール違反なんじゃないの?」
市丸「DV?」
小百合「まぁ、そう言うと大げさですけど、娘に手を上げたのは事実なので」
市丸「娘?」
真下「今更とぼけないでよ」
市丸「え、(真下を指し)独身ですよね?」
真下「俺? 俺はそうだけど……え?」
市丸「え?」
小百合「え?」
   しばしの沈黙。
真下「探偵さんが調べてたのって……俺?」
市丸「……守秘義務です」
   顔を見合わせる真下と小百合。
真下「勘弁しろし……」

○アパート・外観(夜)

○同・向井家・居間(夜)
   座卓を囲む真下、音、奏、小百合。頭を下げる真下。
真下「ご迷惑をおかけしました」
奏「頭を上げて欲しいのです」
音「でも、探偵雇ってまで真下さんの居場所調べようなんて、一体誰が?」
小百合「心当たりはあるんだって」
音「へぇ。誰?」
真下「……言わなきゃダメ?」
音「ここまで来たら、ウチらにも聞く権利あるじゃん?」
奏「奏も聞きたいのです」
真下「……母親か、姉か、上の妹か、下の妹」
音「兄弟多っ」
奏「あれ? でも真下さん、この前『兄弟はいない』って言っていたのです」
真下「あぁ……言ったね……」
奏「奏に嘘ついたのですか?」
小百合「コラ、奏」
真下「いいんです。事実ですから」
音「……おかしい」
小百合「(たしなめるように)音」
音「だって、家族の居場所を突き止める為に探偵雇うなんて、絶対普通じゃないじゃん」
小百合「それは……まぁ……」
   音、奏、小百合の視線が真下に集まる。
真下「……別に、そんなに難しい話じゃなくてね。家族と縁を切ってるだけ」
音「え!?」
小百合「それは、その……何で?」
真下「どうも俺は、人を嫌いになる才能があるらしくてですね」
音「嫌いになる、才能……」
真下「一緒に生活してると、どんどんその相手が嫌いになっていくんですよ。家族と家族でいる事に、向いてなかったんです」
奏「家族に、向いてない……」
真下「特に、息子役は向いてなかったですね」
小百合「という事は、お父さんかお母さん?」
真下「親父にはガキの頃、何発殴られた事か」
奏「虐待を受けていたのですか?」
真下「どうだろ? 今の時代ならともかく、俺が子供の頃は『親が子供を叩く』なんて、当たり前だったんじゃないかな?」

○(フラッシュ)真下の生家
   父に殴られる幼い頃の真下。
真下の声「もちろん、それは『しつけ』の一環だと思うし、言葉だけじゃ伝わらない事もあったんだと思う」

○アパート・向井家・居間(夜)
   座卓を囲む真下、音、奏、小百合。
真下「だから、俺も殴られた時は『自分が悪い事をしたんだ』って思ってた。一〇回殴られても、二〇回殴られても、そう思ってた。でも、大人になってわかった」
音「何がわかったの?」
真下「想像してみなよ。俺が今、音ちゃんや奏ちゃんを殴ったとしたら、どう?」
奏「痛そうなのです」
真下「痛いなんてもんじゃない。下手すりゃ、殺しちゃうよ。それでも親父は俺を殴った」
   自分の掌を自分で殴る真下。
真下「きっとあの人も、父親役には向いてなかったんだろうな。俺みたいに」
奏「真下さんみたいに……」
真下「あの時の俺は、腹を立たせたから殴られた。イラっとさせたから殴られた。それだけ。愛情なんて、一ミクロも無かったよ」
音&奏&小百合「……」
真下「……たった一回」
小百合「え?」
真下「そんだけ殴られて、いつか、同じ数だけ殴り返してやろうと思って、でも結局殴り返したのはたった一回だけ」

○(フラッシュ)葬儀場・中
   父の遺体を殴る真下。
真下の声「たった一発だけだったよ」
    ×     ×     ×
   親族や姉、妹達と激しい口論をする真下。その傍らで母親が泣いている。
真下の声「ただその一発が引き金になって」

○アパート・向井家・居間(夜)
   座卓を囲む真下、音、奏、小百合。
真下「一言で言えば、爆発して」
小百合「それで縁を切った……?」
真下「まぁ、切られたって言い方もできますけどね。だから、奏ちゃんに言った『兄弟いない』も嘘じゃない。あの日からもう、俺は兄弟でも、家族でもなくなったからね」
奏「それで寂しくないのですか?」
真下「それが寂しくないんだよね。家族って、血が繋がってるとか、戸籍に入ってるとか、一緒に住んでるとか、そういうのはあんまり大事じゃないみたい」
音「じゃあ、何が大事なの?」
真下「『家族だ』と思えるかどうか、かな? そう思えさえすれば、離れて暮らしてるペットの犬だって家族だし、思えなければ同居している親だって家族じゃない」
小百合「思えるかどうか……」
真下「俺は親も兄弟も全員嫌いで、全員を家族だと思ってないから、だから俺に家族はいないし、今更、居場所探られても……」
   しばしの沈黙。
奏「ちなみになのですが、奏達の事は『家族だ』と思えるのですか?」
真下「え?」
音「確かに。血は繋がってないし、一緒に住んでもないけど、それは真下さん的に関係ない訳じゃん?」
小百合「コラ。変な事言わないの」
音「いいじゃん。一緒に住んでるのと変わらないくらいの距離で暮らしてるし。家族と変わんないじゃん?」
奏「少なくとも奏は、真下さんを家族だと思っているのです。ママは違うのですか?」
小百合「それは……ママも思ってるけど」
真下「いや、でも、だからってみんなの事を家族と思うなんて、そんな……」
奏「でも、親子でも兄弟でも夫婦でもないのですから……」

○(フラッシュ)遊園地・観覧車・中
   奏の隣に座る真下。
奏の声「真下さんにも向いているかもしれないのです」

○アパート・向井家・居間(夜)
   座卓を囲む真下、音、奏、小百合。
真下「そんなに距離が近くなったら、きっとみんなの事も嫌いになって……」
音「その時はただのお隣さんに戻ればいいし」

○(フラッシュ)同・真下の部屋・居間(夜)
   音の頭をなでる真下。
音の声「ウチには人を好きになる才能があるんだから、その心配も無いんじゃん?」

○同・向井家・居間(夜)
   座卓を囲む真下、音、奏、小百合。
真下「そんな、無茶苦茶な……」
小百合「もう、許してあげてもいいんじゃないですか?」

○(フラッシュ)同・同・同(夜)
   真下の言葉に頬を赤らめる小百合。
小百合の声「家族を嫌いになってしまった、ご自分の事」

○アパート・向井家・居間(夜)
   真下を見つめる音、奏、小百合。
真下「まぁ……考えてみます」
奏「良かったのです」
音「イェイ」
   ハイタッチする音と奏。棚からボトルチョコを取りだす小百合。
小百合「お近づきの印に、チョコいります?」
真下「(ふっと笑い)いただきます」
   笑う一同。

○同・外観

○同・前
   スーツケースを手に歩く真下。そこにやってくる登校姿の奏。
奏「あ、真下さん。お帰りなさいなのです」
真下「お、奏ちゃん。ただいま」
奏「昨日、荷物が届いていたので、受け取っておいたのです」
真下「ありがとう。……何の荷物だろ?」
奏「では、行ってくるのです」
真下「行ってらっしゃい」
   奏が走り去るのと入れ違いにやってくる音。セーラー服姿。
音「お、お帰り。そういえば昨日荷物……」
真下「あぁ、今聞いた」
音「ごちそうさま。行ってきます」
真下「いや、食べたんかい……」

○同・二階通路
   やってくる真下。203号室の前に置かれた段ボールの山に気付く。
真下「ん?」
   向井家から出てくる小百合。
小百合「あ、真下さん。出張お疲れ様です」
真下「ただいま帰りました。203、誰か越してきたんですか?」
小百合「はい、昨日。で、挨拶の品を持ってこられて、冷蔵庫に入れておきました。物が物だったので」
真下「なるほど、段々謎が解けてきた」
小百合「ただ、その……」
   203号室から出てくる市丸と市丸奈々(13)。
市丸「あ、師匠。ご無沙汰です」
真下「……え、あの時の探偵さん!?」
市丸「はい。師匠に色々とご指導いただくべく、昨日コチラに引っ越してきました。で、コレが娘です」
奈々「市丸奈々です」
真下「あ、真下です。……って、え?」
市丸「家族ともども、よろしくです、師匠」
真下「いや、は?」
奈々「よろしくお願いします、お隣さん」
   助けを求めるように小百合を見やる真下。苦笑いを浮かべる小百合。
真下「勘弁しろし……」
                   (完)

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