ジョブ・アクチュアリー オムニバス

充実した大学生活を送っていた和久雄平。しかし就職活動の失敗を期に彼の人生は転落していく。落ちるところまで落ちたところで、ひょんなことから「地球防衛軍」に入ることになる和久。果たして彼は、自分の“仕事”に意義を見いだせるのか。ありそうでなさそうな日本の働く現場をコメディタッチで描くオムニバス作品。
服部みきこ 31 1 0 12/29
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第一稿

ジョブ・アクチュアリー

登場人物
和久雄平(21)・・・・大学生
    (28)・・・・システムエンジニア
    (34)・・・・地球防衛軍
山下正樹(21)・・ ...続きを読む
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ジョブ・アクチュアリー

登場人物
和久雄平(21)・・・・大学生
    (28)・・・・システムエンジニア
    (34)・・・・地球防衛軍
山下正樹(21)・・・・大学生
    (34)・・・・地球防衛軍
来須叶夢(24)・・・・新米寿司職人
    (30)・・・・地球防衛軍
茂木大助(38)・・・・ゆるキャラの“中の人”
    (44)・・・・地球防衛軍
向井明(21)・・・・・コンビニ店員
神崎修(32)・・・・・会社員/地球防衛軍
面接官(40)・・・・・会社員
寿司屋の大将(63)・・ベテラン寿司職人
女子大生1(19)
女子大生2(19)
宇宙怪物・ワールイ
職安相談員(58)

『栄光と挫折』
◯ 村上商事・来客室(昼)
  部屋の前に『株式会社村上商事 一次採用面接 控室』と書かれた立て看板が立っている。
  中では、就職活動中の大学生・和久雄平(21)が、緊張した面持ちで座って待機している。
  そこにもう1人の大学生・山下正樹(21)が緊張した様子で入ってくる。
山下「……あれ? もしかして和久じゃね?」
和久「え、山下!? なんでここにいんの!?」
山下「なんでって面接受けに来たに決まってんだろ。てかお前ももしかして1:45からの面接?」
和久「え、そうだけど、もしかしてお前も?」
山下「……ああ」
和久「マジか~! 俺とお前の2人で面接ってことか。ウケるな」
山下「あ~、和久と一緒とか、超不運だわ、俺」
和久「なんでだよ! 俺はちょっと気が落ち着いたわ。グループ面接って初めてで超緊張してたけど」
山下「そりゃ、お前はいいよ。体育会野球部の主将とか、就活じゃ無敵だもんな。そんな怪物と比較されるって、俺完全に死亡フラグじゃん」
和久「そんなん、たいしたことじゃねーよ」
山下「よく言うよ。弱小野球部立て直して全日本で準優勝とかするヤツ、リアルでお目にかかるとは思わんかったわ」
和久「まぁでも、社会はそんなに甘くねーよ。あ、てかさ、面接中、俺らが友達だってバラしたほうがいいのかな?」
山下「いや~どうだろうな~。なんかそれ言っちゃうと、面倒くさい質問とか増えそう」
和久「たしかにな。余計な要素は増やさない方が得策だな。ひとまず隠すか」
  部屋の外から声がする。
声「控室のお二人、面接室にお入り下さい」
  和久と山下、席を立って控室を出る。
  山下の後ろから、山下の背中を見つめる和久。
和久・M「ココは第一志望なんだ。悪いが遠慮しないぜ」

◯ 村上商事・面接会場
  和久・山下の二人が並んで座り、正面に面接官(40)が一人が座っている。
面接官「それでは、大学生活で成し遂げたことやそこから学んだことを一人ずつお話ください」
山下「(緊張した様子で慌てて)はい! 私は……」
面接官「(笑いながら)まだどっちからか指名してなかったんだけど、では山下さんからお願いしようかな」
山下「あ、大変失礼しました! えっと、私はテニス部に所属しており、現在は主将を務めています。自分が入部したころは大変な弱小チームでしたが、自分が主将になって少しずつ改革を進めた結果、地区大会で優勝を果たせるまでになり、入部希望者も前年の倍になりました。この経験から私は、メンバーの心を動かすことが組織を強化するために最も重要であることを学び、またそのスキルの研鑽を積むことができました」
和久・M「おい……こいつ何言ってんだよ……それは俺の……」
面接官「ほう。それは素晴らしい経験ですね。しかし山下さんはそのことをエントリーシートのアピールポイントには記載していませんね」
山下「あ、はい、これは過去の経験に他なりませんので。エントリーシートでは、過去のことよりも、御社にて実現したい未来についてお伝えしたい熱い想いがありましたので、そちらを優先して記載しました」
面接官「なるほど、過去より未来ね。普通は自分の素晴らしい実績を書きたくなるものなのに、なかなか珍しいですね」
  悔しそうに唇を噛む和久。
和久・M「いや、ちょっと待て……弱小すぎて存在を忘れてたけど、確かにこいつテニス部だったな。3年1人しかいねーって言ってたから主将なのか。地区大会優勝って、まさか同じ区の2大学での交流試合のことか? 新入部員は2人って言ってた気がするけど……去年1人なら2倍……クソッ、全部嘘じゃねぇ……!」
面接官「では、和久さんはいかがですか?」
和久「あ、は、はい、え、えーと、私は、体育会の野球部に所属しており、主将を務めております。私が主将になる前は、交流試合で1勝することも苦労するほどの弱いチームでしたが、綿密な分析と戦略のもと改革を進めて、6月には全日本の大会で準優勝することができまして……」
面接官「偶然でしょうか。山下さんのお話ととても似ていますね」
和久「そうですね……奇跡のような被り具合に、私も驚いています……ただ……ただ……(悩んだ挙句)山下の話とはレベルが違うんです! 私は“本当に”チームが強くなるよう導いて……」
面接官「ん? 和久さんは、山下さんと知り合いなのですか?」
和久「……はい、実は友人です」
面接官「そうだったんですね。和久さんの口ぶりですと、山下さんが嘘をついたかのように聞こえますが?」
和久「あ、え、い、いや、嘘は言っていないと思いますが、ただ、その……彼が言った地区大会優勝というのは、2大学だけしか参加しない大会ですし、入部希望者2倍というのも1人が2人に増えたという話でして、私が成し遂げたこととはレベルが違うかと……」
面接官「なるほど。山下さん、本当ですか?」
山下「(下を向いて観念した様子で)はい……すべて和久の言うとおりです。申し訳ございませんでした!」
面接官「山下さんはなぜ、話を盛ってまで、その話をしようと思ったのですか?」
山下「正直に申し上げますと、控室で和久に会って、2人で面接とわかって絶望しました。こいつの実績はすごいですから。それでも、少しでも希望を繋げる方法がないかと考えたんです」
面接官「それであんなことを?」
山下「はい。それで思いついたのが、和久の神がかったエピソードのインパクトを削る、という作戦でした。どんなにすごいことも、同じような話を聞いたあとでは驚きは弱まるはずだし、グループ面接ならそれが可能だと思いました。和久と俺が友達だってことは言わない約束をしてたし」
面接官「なるほど、で、嘘のないように似たようなエピソードを構成して、先に話をしたということですね」
山下「申し訳ございません」
面接官「そんな戦略を、待ち時間のたった5分程度で……」
和久「!?」
面接官「それに比べて和久さんは、約束を破って友達であることを明かしてしまったうえ、直接山下さんを貶める発言をしてしまいましたね。戦略としては浅はかだった感が否めません」
和久「え、ちょっ、それは違うと思うのですが!」
面接官「(遮って)山下さんにひとつ質問です。回答の順番が、和久さんの方が先だったらどうするつもりでしたか?」
山下「そうならないように、順番を指定される前に慌てて答えてしまったふりをしたんです」
面接官「(ニヤリと笑って)商社の仕事では、競合を蹴落とす戦略性がモノを言うシーンが多々あります。……面接はこれで終わります。では、(山下の方にチラリと視線を移して)後日」
  和久と山下が立ち上がり、一礼して退室する。
  
◯ 都心の繁華街(昼)
  2人で無言で歩く面接帰りの山下と和久。
  とある寿司屋の前あたりに差し掛かったとき、山下が声をかける。
山下「じゃ、俺、こっちだから」
和久「おう」
  落ち込んだ様子の和久。
  山下が和久を励ますように肩をポンッと叩く。
山下「お前の言うとおり、社会はそんなに甘くないのかもしれないな」
  山下、ニヤリと笑い、和久とは別の方向に立ち去る。
  和久が一人取り残される。
和久「……」
  あっけにとられて立ち尽くす和久。


『日本の心』
◯ 寿司屋(昼)
  和久が立ち尽くしている場所の前にある寿司屋の中。 
  カウンターで新人寿司職人の来須叶夢(24)とベテラン寿司職人の大将(63)が寿司を握っている。
大将「おい若造、あんまり気負うんじゃねぇぞ」
叶夢「大将、私、感動してます。本当にここに立てる日が来るなんて……1年前、思い切って会社やめた甲斐がありました!」
大将「何言ってやがんでぃ。感動なんてのはなぁ、客をうならせる寿司出せるようになって初めてするもんよ。若造には100年早ぇわ」
  店に客が入ってくる。
叶夢「らっしゃい!」
大将「バッキャロー! おめぇ、今なんつった!」
叶夢「え? お客さんが来たんで、“らっしゃい”って……大将もいつもそう言ってますよね?」
大将「あほんだら! 何聞いてやがったんだ! おらぁ“へいらっしゃい”って言ってんだろいつも!」
叶夢「あ、確かに……。でもなにがそんなに違うんでしょう?」
大将「おめぇ、サラリーマン出身のくせにそんな社会の常識もしらねぇってのか! あきれたもんだな! 営業先で自分の会社のことなんつってたんだ?」
叶夢「え? えーっと、弊社ですかね?」
大将「そうだろうよ! 寿司屋だってそれと同じでぃ! お客さんに対して、自分の“らっしゃい”はへりくだって当然なんだよ! それが日本の心ってもんだろうが。“弊”を省略するなんておめぇみてぇな若造にゃ100万年早いわ!」
叶夢「え? へいって……えーーーっ!?」


『誰かの仕事』
◯ システム開発会社・執務室(夜)
  寿司屋が入っているビルの上の階のオフィス。
  疲れた様子でパソコンに向かい、淡々とスケジュール管理資料をつくる和久雄平(28)。
和久・M「例の面接での一件で、俺はすっかり就職活動のやる気を失った。周囲から遅れること半年、なんとか滑り込んだ就職先がこの小さなシステム制作会社だった」
  デスクに電話がかかってきて、それに出る和久。
  平身低頭な態度で応じている。
和久・M「うちみたいな会社じゃ、入社6年目ともなると立派な中間管理職だ。来るのは、クライアントの名前さえわからないような下請けの下請けの仕事。上司に後輩、そして発注元企業との間に挟まれて、ただひたすらに目の前の業務をこなす日々だ」

◯ 和久のアパート(昼)
  薄暗い部屋の中。
  和久がひとり、ノートパソコンでインターネットを見ている。
  その様子は一見、会社での姿とほとんど変わらない。
  傍らではBGMのようにテレビがついている。
和久・M「ストレスだらけの毎日。楽しみといえば、休日にこうしてぼんやりネットサーフィンすることくらいだ」
  和久、マウスを何度かクリックする。
和久「あれ」
  パソコンの画面は、ネットショップ。
  マンガを買おうとしている和久。
  カートに入れた本のうちの一冊をキャンセルしようとキャンセルボタンを何度も押すが、何も反応しない。
和久「ちっ」
  和久、携帯電話を取り出し、PCを見ながら番号を打って、電話をし始める。
和久「あ、もしもし? アニマニアさん? 今、お宅のサイトで買い物しようと思ったんですけどね、一度買い物カゴに入れた商品がキャンセルできないみたいなんですけど、これひどくない? え? キャンセルボタンはあるんだけど、押しても機能しないんですよ。商品が買い物カゴから消えないの。すぐ直してくださいよ。これじゃ買い物する気なくしますよ、正直。はい、どうにかしてくださいね。じゃ」
  和久、電話を切って機嫌悪そうにしている。

◯ 株式会社アニマニア・会議室(昼)
  新しくオシャレなオフィス。
  スーツを来たアニマニアのECサイト担当者と元請けシステム開発会社の担当者が話をしている。
アニマニア「お客さんからのクレームが入ったんですけどね、お宅につくってもらったECサイトのこのキャンセルボタン、機能してないみたいなんだけど、これどういうこと?」
制作会社「あれ、本当ですね……おかしいな、納品時のテストでは確かに……」
アニマニア「とにかくすぐ直してくれる? も~、本当に困っちゃうなぁ……」
制作会社「は、はい、すぐに着手します!」
アニマニア「頼むよ、至急だよ!」
制作会社「はい!」
  アニマニアの男が会議室から出ていく。
  制作会社の男性はすぐに携帯電話を取り出し、電話をかける。
制作会社「もしもし? 君らに頼んだシステムのね、そう、例のEC、カートのキャンセルボタンにバグがあるみたいなんだけど。提出してきたテストリストではOKになってなのに、どういうこと? 至急調査して直して。あ、原因もきちんと報告してね」


◯ 下請けシステム開発会社・執務室(昼)
  ラフな格好の下請け会社の男と、和久が話をしている。
下請会社「データベースからレコード削除するこのモジュール、君たちに依頼したとこだよね? なんか一定の条件下で上手く動かないって客から苦情きてんだよ。至急調査して直して! あ、もちろん調査結果もきちんと報告してね!」
和久・M「また苦情か。こんなんばっか」
和久「あの一定の条件下というのは、具体的にはどういう……?」
下請会社「そんなの知らないよ! こっちも元請けから電話で雑に指示されただけなんだから!」
和久「……わかりました。至急取り掛かります」

◯ 和久のアパート(夜)
  和久が帰宅してくる。
  テレビをつけて、パソコンに向かう。
和久「はぁ(ため息)」
  ネットでアニマニアのサイトを開く和久。カートに入ったままの漫画を再度キャンセルしようとする。
和久「アレ? まだ直ってねーでやんの。このシステム作ってんのどこだよ。マジでクソだな!」
  和久、ツイッターの画面を開き『アニマニアのサイトがマジでクソなんだが』と書き込んで投稿する。

『中の人』
◯ カフェ(夕方)
  ツイッター画面のアップ。
  引くと、女子大生がスマホでツイッターを見ている。
  スマホを見ながら友達としゃべる女子大生。
女1「ねえねえ、このキャラ知ってる? 『まいるどにゃんき~』っていうやつ」
女2「知ってるよ! 超流行ってんじゃん! めちゃくちゃかわいいよね~!」
女1「ね~! ツイッターのつぶやきがめっちゃかわいくて、最近ハマりまくってんだけど」
女2「私もフォローしてる! 癒されるよね~」
  彼女たちの背後の席で、ノートパソコンをいじりながらほくそ笑む太身のおっさん、茂木大助(38)。
  大助のパソコン画面にはツイッターが開かれており、アイコンは猫をモチーフにしたゆるキャラである。
  大助がツイッターに画像と文字を入力する。
  『壁にゃん』という文字とともに、まいるどにゃんき~が鰹節に壁ドンする絵がツイートされる。
女1「あ、ちょうどなんか呟いてる」
女2「壁にゃんだって! ウケる~。超かわいい~」
  得意げな笑みを浮かべる大助。
  再びパソコンのキーボードを操作する。
  女子大生のスマートフォンに、まいるどにゃんき~の新しいつぶやきが表示される。
  『カリカリ3粒くれたらおみゃーにも壁にゃんしてやる』
女1「ヤバい!」
女2「壁にゃんされたい!」
女1「ねぇ、まいにゃんグッズめっちゃ欲しくない? 囲まれたい!」
女2「私ぬいぐるみ欲しい! ずっと抱きしめてたい~」
女1「もういっそのことさ、これつぶやいてる人、家に置いときたいわ~」
女2「それ頭いい!」
  その会話を聞いてビクッとする大助。急にそわそわした様子で目が泳ぐ。
  落ち着かず、立ち上がってトイレに行こうとする大助。
女1「そろそろ行こっか」
  すると女子大生たちも席を立ち、大助の方に向かってくる。
  ドキドキする大助。
  しかしすれ違う瞬間、女子大生たちが、少しでも触れないようにと、大助を全身で避ける。
  シュンとする大助。
大助・M「モテてぇ~!」


『強盗』
◯ コンビニエンスストア(夜)
  大助が『男の香水』と書いてある商品を手にとってレジに向かう。
  レジには店員・向井明(21)。
  大助が会計をしている間、後ろには帽子を深くかぶり、マスクをした別の男性客(強盗)がレジ待ちをしている。
  会計が終わり、大助は店から出て行く。
  強盗がレジに行き、持っていたおにぎりを店員に渡した直後、ナイフを振りかざして叫ぶ。
強盗「(店員にナイフを突きつけ、カバンをレジに置いて)おい、金を出せ!」
  店員の向井、おどろきのあまり震えて手に持っていたおにぎりを落としてしまう。
強盗「おい! 早くしろ!」
向井「(震えながら)す……す……」
強盗「あ!? なんだよ? 逆らう気か?」
向井「すみません! おにぎり、落としちゃったので新しいの持ってきます!」
強盗「あ!? おにぎりなんてどーでもいーんだよ!」
  向井、強盗が怒鳴っている間におにぎりの棚に走って行ってしまう。
強盗「あ、おい! 逃げようとしたらただじゃおかねーからな! 変な気起こすんじゃねーぞ! ぶっ殺すぞ!」
  強盗、コンビニの入り口に立ちはだかるが、向井は律儀におにぎりを持ってレジに帰ってくる。
向井「こ、こここちらの“ごまたらこマヨネーズ”でよろしかったでしょうか!」
  強盗、一瞬キョトンとするが、気を取り直したように叫び出す。
強盗「ふざけてんのか! 早く金出しやがれっ!」
向井「ひぃっ! は、はい! かしこまりました! ば、ば、バーコード読んでレジを開けますので!!」
  向井、おにぎりにバーコードリーダーを当てて、レジを開こうとして少し考えて
向井「あ、あの……ますか……?」
強盗「あ? 聞こえねーよ!」
向井「あの! おにぎり、温めますか!!」
強盗「温めねーよ! 早くレジあけろ!」
向井「あ、あの……それと……あの……」
強盗「今度はなんなんだよ!?」
向井「あの、Tポイントカードはお持ちでしょうか!!」
強盗「てめぇ、いい加減にしろよ。漫才しに来たんじゃねぇんだよ。おれは強盗だぞ!」
向井「あ、そっか、そのケースまだ教わってなかった……」
強盗「ちっ。マニュアル対応もここまで来ると病気だな。早くしないとマジでぶっ殺すぞ!」
向井「ひぃぃ! あ、あの! 違います! おにぎり温めますかのくだりはマニュアルじゃなくて! 東北の方でやってると聞いたんで、東京でもと思って、自分なりに付加価値をつけました!」
強盗「何が付加価値だよっ! 俺をからかってんのか? お前、マジで死にたいの?」
向井「いえ!! めっそうもない! ぼ、ぼくは、あなたと同じことをしているだけです!」
強盗「はぁ? 俺と同じだと? どういうことだよ!」
向井「(レジを開けてお金を強盗のバッグに詰め込みながら)あ、あなたは、お金を手に入れるために強盗してますよね……。僕も、お金が必要だから……お金もらうために自分の仕事をしてるだけです! こうやって接客するのが僕の仕事なんで!」
強盗「強盗に接客もくそもねぇだろ」
向井「そうですね……僕は強盗に正しく対応できなかった……自分の経験不足です……次はきっと……」
強盗「(鼻で笑って)おまえ、頭おかしいんじゃねえの? “次はきっと”って、こんな目にあってまだコンビニ店員続けるつもりなんだ」
向井「もちろん! これだけが、唯一僕にできる仕事ですから!」
強盗「唯一って……一生アルバイトで終わるつもり? ……夢とかねーのかよ」
向井「夢はありますよ。おにぎり温めるサービス、日本全国のコンビニに普及させるっていう夢!」
強盗「フッなんだよそれ……くだらねぇ」
向井「おかしいですかね? 別に笑われてもいいんです。僕は僕なんで。……あの、お金、詰め終わりました。これが全てです」
  カバンに手を伸ばす強盗。
  しかし手に取ったカバンをすぐに向井に押し付ける。
強盗「……やめた」
向井「?」
  強盗、帽子とマスクをとる。
  中身は和久である。
和久「はぁ、ばかばかしい。こんなことして金手に入れてなんになるってんだ……」
向井「……」
和久「通報しろよ。警察に」
向井「でも、あなたはまだ何も盗ってないし」
和久「(驚きの表情)……。クラリスかお前は」
向井「え? 僕の心は、奪われてませんよ」
和久「ハハハ……お前見てたら、なんか腐ってんのが馬鹿らしくなってきた」
向井「どうして、強盗なんて……?」
和久「毎日毎日やってもやっても苦情とか怒号ばっかの仕事、心底嫌になって辞めて、そんで自暴自棄んなって、気づいたらこのザマ」
向井「……」
和久「それに引き換えお前ときたら、命が危険だってときに“おにぎり温めますか?”だって(吹き出す)」
向井「すみません」
和久「いや……こっちこそ、仕事の邪魔して悪かった。ありがとな」
  和久、外に出ようとする。
向井「あ、強盗さん! このゴマたらこマヨネーズは……?」
和久「……次来たとき、ちゃんと買うから。そんときにあっためてくれよ」
  和久、出て行く。
向井「はい!」

◯ 都心の繁華街(夜)
  強盗に失敗し、トボトボと歩く和久。
  途中の電気店のテレビの前に人だかりができている。
テレビ「非常事態です! ニューヨークが壊滅状態です! 謎の生命体の目撃情報もあり、詳しい情報が入り次第続報を・・」
和久「フッ。俺の強盗未遂なんて、世界にとっちゃ、ちっちゃなこったな」


『日本侵略』
◯ 都心の繁華街(朝)
  昨晩人だかりができていた電気店の前。
  夜が明けて朝になる。
  人はほとんど歩いていない。
  区の防災放送が入る。
区の放送「こちらは、豊島区防災センターです。昨晩ニューヨークを襲ったと思われる何らかの危険生命体が、都内に上陸したとの情報が入りました。住民の皆さんは、不要不急な外出は避け、ただちに命を守る行動を取って下さい。繰り返します・・」
  道を歩いていた男性が、その放送に聞き入る。
男性「お? もう嗅ぎつけられたか」
  男性は姿を変え、身長3メートルほどの宇宙怪物ワールイになる。
ワールイ「まあいい。この島国は、半日あればいけそうだな」
  ガランとした街中を我が物顔で闊歩するワールイ。
  獲物を物色している。
  そこへ、スーツを着てカバンを持ったサラリーマン・神崎修(32)が歩いてくる。
ワールイ「いた」
  神崎、ワールイを見て、一瞬怯むが手に持っていた傘をさし、傘に身を隠すようにしてワールイの横を通りすぎようとする。
  それをワールイが引き止める。
ワールイ「人間、なにやってる?」
神崎「え、あ、いや、あの~、出社をしようと……」
ワールイ「シュッシャ……」
  ワールイの視界には機械的な表示が出ている。
  その視界内で『シュッシャ』という言葉でワード検索がなされ、『出社』の意味が表示される。
  その時、オフィスビルの回転扉がワールイの目に入る。
  とっさに脳内のデータベース検索が始まり、スーパーマンの情報が視界に表示される。
ワールイ「なるほど、そういうことか」
神崎「あの、僕、駅に向かいたいんで、ちょっとココ、通してもらってもいいですか?」
ワールイ「私を倒すのは簡単ではないぞ」
神崎「いや、倒すだなんて、僕はただ駅に……」
ワールイ「そんな取り繕いは意味がない(回転扉を指差して)さぁ、変身するがいい」
神崎「変身? いや、自分はそういうのは……。あの~あなたやっぱり、例の怪物ですよね? ニューヨーク破壊したっていう……」
ワールイ「そうだ」
神崎「参ったな、まさか本当に鉢合わせしちゃうなんて思わなかったから……僕、ただ出社したいだけなんです。だからもしよかったら、見逃してそこ通してもらえませんかね……?」
ワールイ「なぜそこまで嘘をつく」
神崎「いや、嘘じゃなくて。はあ、参ったなぁ。部長がもう出社してるらしいんですよ。それなのに部下の僕が避難のため休みます、ってわけにもいかなくて」
ワールイ「お前、本当に会社に行こうとしているのか」
神崎「だからさっきっからそう言ってるじゃないですかー」
ワールイ「私が国を滅ぼそうとしているのだぞ」
神崎「はぁ。でも何時に滅ぼされるかわからないし。実際の被害がないうちから会社休みますってわけにはやっぱいかないでしょ。あ、でもこうして鉢合わせしたってことは、十分休む口実になるのかな?」
ワールイ「会社にたどり着くことはない。お前はこれから私の栄養源になる」
神崎「そっか、そうですよね。それじゃ出社できなくて仕方ないか。あ、会社に一報だけでも入れさせてもらえませんか!」
  ワールイ、神崎を無視し、手を突き出してなにか呪文を唱えるような仕草を見せる。
神崎「まぁ、もういっか……」
  神崎、観念してひざまづく。
  すると、殺気立った男女の会社員の集団が押し寄せてきて、ワールイを押しのける。
集団の男1「(携帯メールを見ながらブツブツと)各自の判断に任せるって、こう言われたら行かないわけにいかないんだよ」
ワールイ「(驚く)」
集団の女1「あ、あんた、例の怪物? 山手線はまだ生きてるよね?」
集団の男2「朝の通勤時間帯だけは避けてほしかったな~」
集団の女2「(電話しながら)もしもし、あ、今怪物と鉢合わせちゃって……はい、もしかしたら少し遅れるか、お休みすることになるかもしれません……」
集団の男3「西武池袋線にだけは手を出さないでくださいよ! いつも以上のラッシュなんて俺、絶対嫌だよ」
ワールイ「これは、一体……」
  ワールイが集団の勢いに戸惑っているうちに、会社員集団全員が通り越して去っていく。
ワールイ「どういうことだ。私以外のものに追われているのか……?」
  ワールイの視界内でデータベースの検索が始まるが、何もヒットしない。
  殺されかけていた神崎も、この隙に立ち上がって走り去ろうとする。
  去り際、ちょっとだけ立ち止まってワールイに話かける神崎。
神崎「日本人はね、世界を救うことはできないかもしれないけど、出社には、命をかけてるんですよ。じゃっ!」
  走り去る神崎。
  ワールイが一人だけ取り残される。
ワールイ「地球に関する我々の調査は足りてなかったようだ」


『ヒーロー』
◯ 職業安定所(昼)
  職業相談コーナーで、相談員(58)と話す和久雄平(34)。
相談員「こちらの募集はどうです? 今、和久さんくらいの年代の人員を緊急募集しててね」
  相談員が求人票を差し出す。
  求人票には『地球防衛軍』の文字。
和久「地球防衛軍? アニメ制作会社かなんかですか?」
相談員「いえいえ、その名の通り地球を防衛する組織ですよ」
和久「ちょっと何言ってるのか……」
相談員「今年のはじめに、ニューヨークが何者かに壊滅させられたことはご存知でしょ」
和久「そりゃ知らないやつはいないでしょうね」
相談員「一説によると、どうやら宇宙人の侵略だったとか」
和久「はあ」
相談員「で、実はその宇宙人が我々地球人に置き手紙をしていってたんだそうで」
和久「置き手紙?」
相談員「あ、実際は手紙なんかじゃなくて、もっとハイテクなヤツなんでしょうけどね。そこは言葉のアヤ、ってやつで。ヒヒヒ」
和久「……」
相談員「でね、そこに、5年後にまた来る、と書かれていたそうなんですよ。5年後こそ地球を乗っ取るぞ、と」
和久「なんすかそれ。どうしてわざわざ一旦帰って出直す必要があるんですか」
相談員「それは私に聞かれてもわかりません。私はね、こう見えても、地球人なんですよ! ヒヒヒヒヒ」
和久「……。で、その5年後の侵略に備えた地球防衛軍?」
相談員「その通り!」
和久「そんなん職安で募集するんだ」
相談員「特命なんで、コンピューターでの求人検索には出てきませんがね。私ら相談員が条件に合いそうな人に声かけてるってわけですよ。あ、なんで、さっき話したことはオフレコですよ! フヒヒ」
和久「しゃべってよかったのかよ……」
相談員「どうです? 待遇もいいし、やりがいもあるでしょうねぇ」
和久「いいですよ、やります」
相談員「え? ホントにいいの?」
和久「いや、あんたが勧めたんだろ」
相談員「いやぁ、あまりにもあっさり決めるから」
和久「別に、他にやりたいこともないですから」
相談員「かっこいいなぁ。よっ、ヒーロー! ヒヒヒヒヒ」

◯ 地球防衛軍日本支部・渉外課オフィス
  コンクリート打ちっぱなしの古いビル。
  狭い部屋に無理やり4台のデスクが置かれ、部屋の古臭さに見合わない最新のコンピュータが並んでいる。
  アニメで見るような、いかにも地球防衛軍というコスチュームに身を包んだ4人の男性が並んで立っている。
  和久雄平、来須叶夢(30)、茂木大助(44)、神崎修(32)の4人だ。
  4人の前に立つ年配の上司。
上司「ここにいる4名に、本日より地球防衛軍への参画を命ずる。君たちには主に、外部との折衝、つまり渉外を担当してもらう。政府を始めとする国内組織はもちろん、諸外国の首脳、日本国民全般への広報まで、君たちの交渉範囲は多岐にわたる。これは地球、ひいては人類の未来を左右する重要なミッションだ。心して任務にあたってほしい」
  4人それぞれ、緊張で引き締まった表情。
  ☓  ☓  ☓
  上司が去った後の室内。
  緊張が和らいだ4人が座ったりうろうろ室内を見て回ったりして自由にしている。
叶夢「ねえみなさん、なんで地球防衛軍に入ったんです?」
茂木「モテたいから」
叶夢「即答ですね……」
神崎「僕は、会社に言われたから、かな。僕、例の宇宙の怪物に会っちゃったんですよ。今年のはじめにその怪物が日本に来た時に。それを言ったら、なんか役に立てるはずだ、って上司が」
茂木「ちっ。社畜かよ」
叶夢「怪物に会った!? それはすごい! 色々教えてもらわないと」
神崎「来須さんは? 防衛軍に入った理由って?」
叶夢「私ですか? 私は、美しい日本の心を守りたいから、ですかね。脱サラして寿司職人の世界に飛び込んで、自分も知らなかった美しい日本の心っていうのがたくさんあることを知って、ただそれを失いたくないって思ったんです」
神崎「へー。なんだか崇高だなぁ」
茂木「ちっ。意識高い系かよ」
叶夢「和久さんは?」
和久「え?」
叶夢「聞いてたくせに。理由ですよ、防衛軍に入った理由」
和久「俺は……特に、ない」
叶夢「え? わけもなくこんな責任重大な任務に?」
神崎「えー、それはそれで、逆にカッコイイなぁ」
茂木「ちっ。なんか悔しい」
  ☓  ☓  ☓
  時が経ち、同じ部屋の中で忙しそうに業務にあたる4人。
  PCにかぶりついて難しい顔をしている来須。
  何かぐちゃぐちゃとした図を紙に書きながら頭を抱えている神崎。
  不機嫌そうに電話対応をする茂木。
  いつもと変わらぬ様子でPCに向かう和久。
来須「まずい、国民からの問い合わせが殺到してる。あぁ。汚い言葉だらけだ……本来の日本人はこんなんじゃないはずなのに」
神崎「ミサイル配備のストラテジーなんて僕に聞かれても……えっと、こーしてあーすればこうなって……」
茂木「30000行のエクセルデータの整理だとぉ? マジかよ……」
来須「なんか、サラリーマン時代を思い出すな」
神崎「意外に地味ですよね。思ってたのと違うっていうか。なんか地球救うって聞くと、ロボット乗ったり、宇宙船乗ったり、そういうの想像しちゃってたけど」
茂木「もっと目立たねぇとモテねぇ」
和久「……来須さん」
来須「はい?」
和久「その国民からの問い合わせっていうの、どんな内容が多いかまとめてもらえますか。まずはそれを見て、みんなで対応策を検討した方がいいかと」
来須「あ、はい……」
和久「あと神崎くん、ミサイル配備の話はここで判断できることじゃないから、俺が上司に持っていくよ」
神崎「あ、はい!」
和久「あとみなさん、今後は役割分担を明確にしませんか。まず、根性系の仕事は神崎くんに」
神崎「あ、僕、そういうの得意ですよ。社畜ですから」
茂木「自分で言うのかよ」
和久「茂木さん、そのエクセルの作業も神崎くんに投げてください」
茂木「……しょうがねぇな」
和久「それからネットを通した国民への広報は茂木さんに。茂木さんは国民の心を掴む術を心得てるはずですから」
来須「なるほど。カリスマゆるキャラの経験が活きるわけですね」
和久「それから来須さんは主に海外との交渉ごとを担当してください。日本の美しい心とやらを存分に発揮して」
来須「なるほど。適材適所、だ」
神崎「すごい和久さん! じゃあ和久さんは僕らのリーダーですね」
和久「……」
茂木「ちっ。なんか悔しい」
  ☓  ☓  ☓
  2年の時が経ち、メンバーのコスチュームにも年季が入ってきている。
  各自テキパキと仕事をこなしている。
  来須が立ち上がる。
来須「みんな、ちょっといいかな」
茂木「ちっ。年下のくせになんでちょっと上からなんだよ」
神崎「どうしました?」
来須「海外との折衝だけど、今の条項だと、日本は貧乏くじだ」
和久「どういうことですか?」
来須「3年後、たとえ宇宙人の撃退に成功したとしても、その後割を食うのは日本です」
神崎「じゃあ有利になるように交渉しないと」
来須「各国交渉の手練が集まってますからね。これは正攻法で行ってもだめだ。戦略的に、狡猾に勝ちにいかないと」
茂木「来須の仕事だろ」
来須「しかし日本人は元来狡猾さには長けていない」
茂木「んだよそれ。勝手に言ってるだけじゃねぇか」
和久「戦略的に、か……。私に、そういうことが得意な人間に心当たりがあります。協力を求められないか、動いてみます」
神崎「さっすがリーダー」
茂木「ちっ」
  ☓  ☓  ☓
  オフィスの扉をノックする音がする。
和久「どうぞ」
  扉が開き、地球防衛軍のコスチュームに身を包んだ山下正樹(34)が入ってくる。
  立ち上がり迎える和久。
和久「よう」
山下「……よう、和久。久しぶり」
  ぎこちなく挨拶する山下。
  和久がスッと握手を求めるように手をだす。
和久「来てくれて助かるよ。お前の力を借りたいことがあってさ」
山下「……ああ」
  和久の目を見て、握手に応じる山下。

◯ 地球防衛軍日本支部・屋上
  夏。空には入道雲。
  渉外課の5人が並び、空をみあげている。
  それぞれの地球防衛軍のコスチュームは色あせて、ところどころほつれている。
来須「いよいよですね。宇宙人、ホントに来るんですかね」
神崎「アイツは絶対来ますよ。……勘ですけど」
茂木「勘でよく絶対とか言えるな」
神崎「(少し涙ぐんで)僕、地球防衛軍の一員になって本当によかったです。今日何があっても悔いはないです」
茂木「なんだよそれ、縁起悪ぃな」
神崎「和久さん、本当にありがとうございました。僕らの仕事がうまく進んだのは、全部和久さんのおかげです」
和久「俺はただ、中間管理職の仕事をしただけです。その経験があったから」
神崎「ただの中間管理職なんかじゃないですよ! 中間管理の天才だ!」
和久「ハハハ。なんだそれ、かっこ悪い」
来須「かっこ悪くなんかないですよ。むしろ、中間管理こそ、真のヒーローに必要な力だったと言っても過言ではない」
和久「大げさですね」
  山下が和久の背中をポンッと叩く。
山下「おまえはヒーローだよ」
和久「……。まだ、救えるかどうかわかんないけどな」
茂木「大丈夫に決まってんだろうがよ!」
神崎「茂木さん……?」
茂木「俺らがあんだけやったんだ」
来須「珍しく前向きですね」
茂木「ちっ。世界が残らないとモテねぇじゃねぇか」
来須・神崎「ハハハ」
来須「(和久に向かって)ねぇ、もういいでしょ、教えて下さいよ」
和久「?」
来須「和久さんが、地球防衛軍に入った理由。本当はあるんでしょ」
和久「え、いや」
  山下を見て、他のメンバーを見て、少し考える和久。
和久「本当に、思いつかないんですよ」
  日を浴びるように天を仰ぎ、目をとじる和久。

◯ コンビニエンスストア(夜)
  季節は巡って冬になっている。
  おにぎり「ごまたらこマヨネーズ」をひとつ手に取り、レジに向かう和久。
  レジには見知らぬ店員。
  おにぎりをレジに置く和久。
店員「今年ももう終わりですね」
和久「え? ああ、そうですね」
店員「ほんと良かった。こうして普通に年末を迎えられて」
  話しながらおにぎりを手に取る店員。
和久「……」
店員「あの宇宙人騒ぎで、このなんでもない日常も当たり前じゃないんだなって実感したっていうか……」
和久「(遮って、店員が持っているおにぎりを指さして)あの」
店員「あ、失礼しました! つい……」
  店員が慌てておにぎりにバーコードリーダーを当てる。
店員「189円です」
  財布から小銭を出そうとする和久。
店員「おにぎり、温めますか?」
和久「え……?」
店員「おにぎり温めますか?」
和久「あ、あぁ、今まで聞かれたことなかったから」
店員「本部の指導で、今月から聞くようになったんです。東北とか寒い地域では普通らしくて」
和久「へー。……よかった」
  思わず笑みがこぼれ、下をむく和久。
店員「え?」
和久「おねがいします」
店員「?」
和久「おにぎり、温めてください」
店員「あ、はい!」
  レンジにおにぎりを入れるため、後ろを向く店員。
  うつむきながらレジに代金を置く和久。
  目元は髪に隠れて見えない。
  口元は笑顔。
  頬にはキラリと光るものがある。

               ― 完 ―

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