教典 ドラマ

暗い話
きし 8 0 0 11/09
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第一稿

人 物
 佐田真理子(26~24) 家庭教師
 中川礼奈(18)    女子高校生
 サトル(20)     クラブの客
 佐田恭司(28)    真理子の夫 故人

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人 物
 佐田真理子(26~24) 家庭教師
 中川礼奈(18)    女子高校生
 サトル(20)     クラブの客
 佐田恭司(28)    真理子の夫 故人


〇真理子の家・中(夜)
   ライトスタンドの明かりのみの寝室。
   ダブルベッドに並んでベビーベッドが
   置いてある。ベビーベッドの中には誰
   もいない。
   ダブルベッド脇のサイドテーブル上に
   は妊婦である佐田真理子(24)と十字架
   のペンダントを付けた佐田恭司(28)が
   微笑んで寄り添い合う写真。   
   佐田真理子(26)が聖書を手に、付箋を
   つけたページを読んでいる。
真理子の声「愛する人たち。自分で復讐して
 はいけません。もしあなたの敵が飢えたな
 ら、彼に食べさせなさい。渇いたなら、飲
 ませなさい。そうすることによって、あな
 たは彼の頭に燃える炭火を積むことになる
 のです」
   真理子、ページの反対側と写真に目を
   やった後、聖書を閉じ、ハンドバッグ
   に仕舞う。
   ライトスタンドのスイッチを切る。
   真っ暗になる室内。      

〇スマートフォン画面
   チャットアプリが起動されている。
   Rのユーザー名でメッセージの投稿。
   Rのメッセージ。【月、環状線外、大阪
   0754、6号、右扉奥、京橋前。以上、
   参加する人は?】
   すぐに別ユーザー4人から承諾の旨の
   返信がある。
   Rのメッセージ。【ターゲット。】
   隠し撮りの男の画像が投稿される。

〇中川の家・中(夜)
   西洋風の豪勢なリビング。
   ソファーに仰向けになり、スマートフ
   ォン画面を見ている中川礼奈(18)。お
   腹の上にはポケット六法。
   手持ちのスマートフォンにはユーザー
   Rのチャット画面が表示されている。
   男の画像投稿の後、再び、ユーザー4
   人から承諾の旨の返信。
   礼奈、アプリを終了し、削除する。
   礼奈の携帯にラインメッセージが入る。
   パーティーの様子を背景に派手なメイ
   クと服装で着飾った女性がシャンパン
   グラスに口づけている写真。
   【ママは遅くなりまーす♡】とメッセ
   ージがある。
礼奈「くそババアが」
   礼奈、携帯を投げるように置いた後、
   ポケット六法を手に取り、読み始める。
   真理子が携帯電話を片手に入ってくる。
真理子「ごめんね、礼奈ちゃん」
   礼奈、携帯を操作して歩美の写真を真
   理子に見せ
礼奈「ねえ、合格祝い、今日したい。すぐに」
真理子「え? 今日ってまた急な。歩美さん
 には言わないと……」
礼奈「やだ、言わないで。自分のことは棚に
 上げてうっさいんだから。今日だって、ど
 うせ帰ってこないし」
   礼奈、真理子を上目遣いで見て
礼奈「ね? お願い、真理子先生。クラブ連
 れてって?」
   見つめ合う礼奈と真理子。
真理子「もう、礼奈ちゃんには敵わないな。
 結局言うこと聞いちゃう」
   礼奈、いたずらに笑って
礼奈「だから真理子先生だーいすき! 優し
 い!」
   真理子に抱き着く礼奈。

〇クラブ・中(夜)
   薄暗い店内と派手な照明。
   大音量の音楽に合わせて踊る若者たち。
   礼奈も混ざって、周りに合わせて楽し
   そうに踊っている。
   途中で壁際に寄り、休憩する礼奈。
   離れたバースペースに目を向ける。
   カウンターに立つ真理子と目が合い、
   小さく手を振る礼奈。
   真理子も微笑んで振り返す。   
   サトル(20)が持っていたカクテルを礼
   奈に渡す。
サトル「はい。水分補給」
礼奈「ありがとう」
   礼奈、受け取って、一気に飲み干す。
サトル「おっ、いいね。ねえ、ここ、初めて?」
礼奈「そうだけど……。何で?」
サトル「俺、しょっちゅう来てるけど、お姉
 さん初めて見るから」
礼奈「こんなに人いて、わかる訳ないじゃん」
サトル「わかるよ。かわいい子と美人はしっ
 かり焼き付けてるから」
   サトル、片目前に指で丸を作り、カメ
   ラのレンズのように前後に動かす。
   礼奈、サトルの仕草に少し笑う。
サトル「俺、サトル。呼び捨てにしてね。そ
 の方が、何かグッとくる」
礼奈「何それ。バカじゃないの?」
サトル「その強い感じ、いいね。わかってる」
   笑い合う礼奈とサトル。
   サトル、会場入り口に目をやって
サトル「あっ」
   サトル、礼奈の耳に顔を寄せて小声で
サトル「お姉さんさ、実は未成年でしょ」
   礼奈、驚いてサトルを見る。
サトル「違う違う。脅すとかじゃなくて。何
 なら俺も未成年」
   礼奈、少し安堵するが怪訝な顔。
サトル「いや、入り口のとこさ」
   礼奈、入り口に目をやるが、サトルが
   隠して
サトル「あんま見ちゃダメ。……あれ、私服
 警官」
   礼奈、緊張に体が強張る。
   サトル、礼奈の手を取って、歩き出す。
サトル「最近、見回ってんだよね。まあでも、
 顔とか友達が教えてくれるからさ」
   サトル、スタッフ用の扉を開けて入る。
   礼奈、不安げに
礼奈「どこ行くの?」
サトル「避難部屋。友達がスタッフって最強
 で、こういうとき、裏の部屋貸してくれん
 の。……ズブズブの関係ってやつ?」
   お茶目に笑うサトル。
   礼奈、少し安心して、体の緊張を解く。
   サトル、扉の前で立ち止まって
サトル「ここ」
   扉を開けるサトル。
   部屋の中には4人の男が待機している。
   驚いて、怖気づく礼奈をサトルが間髪
   入れずに部屋に引っ張り込む。
   閉まる扉とカギをかける音が響く。

〇公園(朝)
   人がいない早朝の公園。
   礼奈が携帯を握りしめ、憔悴した顔で
   ベンチに座っている。
   真理子が礼奈を見つけて走ってくる。
真理子「礼奈ちゃん!」
   真理子に目をやる礼奈。
真理子「心配したのよ。いつの間にか居なく
 なって、携帯も通じないし……」
   礼奈、真理子を見つめているが徐々に
   涙がたまり、はちきれた様に泣き出す。
礼奈「こわ、怖くて、私……。先生、私、男
 の人にずっと……」
   真理子、礼奈の前に立って、黙って聞
   いている。
礼奈「こんな、私、あいつら絶対許さない」
真理子「礼奈ちゃん……」
   真理子、しゃがみこんで礼奈を見つめ
真理子「本当に?」
   礼奈、戸惑った様に真理子を見る。
真理子「本当に乱暴された?」
   礼奈、すっかり涙は止まって
礼奈「先生?」
真理子「本当だとして、監視カメラはあった?
 連れて行かれるのを見た人は? ……礼奈
 ちゃんは賢いから知ってると思うけど、レ
 イプって立件がすごく難しいの」
   礼奈、真理子に対して声が出ない。
真理子「警察に言ったら、その時の状況を繰
 り返し説明することになるけど……」
   真理子、ハンドバッグから大きめの封
   筒を取り出し、礼奈に渡す。
   礼奈、震える手で封筒を開け、中身を
   取り出す。
   中身はユーザー名R表記のチャット画
   面の画像、ターゲットとして隠し撮り
   されている男数人ととその男に纏わる
   新聞記事や示談内容などの報告書。
   内容は全て痴漢に関することである。
   礼奈、茫然として固まっている。
   真理子、礼奈に優しい口調で淡々と
真理子「あなたの言葉を、信じてくれる人が
 いたらいいわね」
   真理子、腰を下ろし、礼奈の耳元で
真理子「ユーザーRさん」
   礼奈、無言の後、力なく笑いだして
礼奈「あれ? 私、私、先生になんかした?」
   礼奈、真理子に笑いながら捲し立てて
礼奈「そりゃさ、おじさんたち相手にストレ
 ス発散してたよ。でも、それって、女の先
 生に関係なくない? ……あっ更生ってこ
 と? 悪いことしちゃいけませんって。先
 生だから。……ふざけんな」
   見つめ合う礼奈と真理子。
   真理子、おもむろにハンドバックから
   聖書を取り出し、付箋のページを開く。
   新聞記事が挟んであり、礼奈の膝上に
   置く。礼奈、新聞記事に目をやる。
   高校教師、痴漢容疑をかけられ自殺の
   見出し。記事内容に佐田恭司の名前を
   見つける。
   真理子、礼奈の耳に携帯電話を当てる。
   恭司の留守電が再生される。
恭司の声「真理子、ごめん。ごめんよ。……
 君は、生まれてくる子供と幸せになってほ
 しい」
   礼奈、変わらず呆然としている。
   無表情で礼奈を見る真理子。

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