サクラ ドラマ

最愛のわが子には霊感があった――。 霊感ゼロの親の元に生まれた強霊感の娘・サクラの物語。 戸惑いながらも個を認め、親子一緒に成長していく。 ※1年ほど前に人生で初めて書いたシナリオです。 ※テレビ朝日シナリオ大賞一次選考通過作品。 ※ホラーじゃないです。
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第一稿

【登場人物表】
牧野家
牧野 サクラ(4~7)…主人公。牧野家の長女。
牧野 ユリ(27~34)…サクラの母。主婦。
牧野 マサキ(30~37)…サクラの父。サラリーマン。 ...続きを読む
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【登場人物表】
牧野家
牧野 サクラ(4~7)…主人公。牧野家の長女。
牧野 ユリ(27~34)…サクラの母。主婦。
牧野 マサキ(30~37)…サクラの父。サラリーマン。
ユリの母(56)

サクラのクラスメイト
ミサキ(6~7)…サクラの親友。
女の子1(6)
女の子2(6)
男の子1(6)
男の子2(6)

サクラの担任の男性教師(25)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〇民家①・玄関先(朝)
   インターホンを鳴らす左手。
   インターホンが鳴り、ドアが開く。
牧野マサキ(30)「お隣に引っ越してきた牧野です。よろしくお願いします」
牧野ユリ(27)「お願いします!これ、よかったらどうぞ」
   ユリ、紙袋を差し出す。

〇民家②・玄関先(朝)
   インターホンが鳴り、ドアが開く。
マサキ「お隣に引っ越してきた牧野です。よろしくお願いします」
ユリ「お願いします!これ、よかったらどうぞ」
   ユリ、紙袋を差し出す。

〇民家③・玄関先(朝)
   インターホンが鳴り、ドアが開く。
マサキ「向いに引っ越してきた牧野です。よろしくお願いします」
ユリ「お願いします!これ、よかったらどうぞ」
   ユリ、紙袋を差し出す。
   ドアを閉め、向いの自宅に向かって歩く二人。立ち止まり自宅を見上げる。

〇タイトルバック・「サクラ」 

〇牧野家・リビング(夕)
   ユリ、ソファにダイブする。
ユリ「はあー!やーっとひと段落だね」
   マサキ、部屋に入り、カーテンを閉める。
マサキ「お疲れ様。ご近所さんもみんな良い人そうで良かったね」
ユリ「本当だね」
   マサキ、ソファに座る。
マサキ「しかしまあ、リフォームは大変だったけど、どこからどう見ても良い家になったよ」
ユリ「そうだね」
マサキ「古さと新しさが混ざってる感じ。こんな良い家にユリと住めて幸せだよ」
ユリ「私も」
マサキ「これからが楽しみだな。子どもが生まれたら、そこに座って3人でごはん食べるんだなあ。毎日仕事から帰ってきてこのドアを開けたらユリと子どもが俺を見上げておかえりって言うんだよなあ」
ユリ「うん、そうだね」
正樹「はあ、幸せ。あ、そうだ。家具は少し
ずつ集めてこうね。(窓際の角を指さしな
がら)そこに観葉植物置こうか」
ユリ「うーん。……そこはやめとこう。なんかセンスないよ」
マサキ「そう?いいと思うんだけどなあ」

(5年後)
〇牧野家・リビング(朝)
   ユリ(32)、カーテンを開け、窓際の角に目をやる。
   ダイニングテーブルでコーヒーを飲むマサキ(35)。

〇同・廊下(朝)
  ユリ、階段を見上げ叫ぶ。
ユリ「サクラ~起きて~!」

〇同・寝室(朝)
   ユリ、寝室に入り、ベッドから娘のサクラ(4)を抱き上げる。
サクラ「いやだああああああ」
ユリ「ほら!起きるよ!朝だよ!楽しい楽し
い朝ですよ!」
サクラ「眠いいいいい!いやだあああ!」

〇同・リビング(朝)
   ユリ、寝ぐせ頭のサクラを抱きかかえたままリビングに入り、ダイニングテーブルの椅子にサクㇻを座らせる。
ユリ「はい着地!サクラ、パパにおはよう」
サクラ「パパおはよう」
マサキ「サクラおはよう。ママにもおはよう
 できたかな?」
サクラ「ママおはよう」
   ユリ、朝食のパンをダイニングテーブルに運ぶ。
ユリ「おはよう。よくできました!」
マサキ「こんなに上手なおはようができるなんてすごいな!サクラはプリンセスになれるね」
   サクラ、マサキに愛想笑い。 
   ユリ、椅子に座る。
ユリ「よし、食べよっか!いただきます」
マサキ・サクラ「いただきます!」
マサキ「うわあ、サクラはいただきますも上手だなあ。さすがだなあ。明日の朝にはプリンセスになってるんじゃないかなあ」
   サクラ、マサキを無視して朝食を食べ始める。

〇同・玄関(朝)
   靴を履くマサキ。
ユリ「サクラ、めんどうくさそうにしてるよ」
マサキ「4歳児の愛想笑いな」
ユリ「気づいてるんだ」
マサキ「あの顔かわいいよな~~~」
   ユリ、真顔のまま
ユリ「わかるけど」
   マサキ、靴を履き終えユリの方向を向
   く。
マサキ「実は昨日さ、部長から話あって」
ユリ「ん?」
マサキ「来月から」
ユリ「お?」
マサキ「昇進決まりました!課長になります!」
ユリ「うそ?おめでとう!すごい!」
マサキ「ユリのおかげだよ」
ユリ「そうだね」
マサキ「そうなの?」
ユリ「そうでしょ?(マサキへ鞄を手渡す)今日もがんばってね」
マサキ「うん。じゃ、いってきます」
   ユリ、マサキの頬にキスをする。
ユリ「いってらっしゃい」
   ドアが閉まるとガッツポーズのユリ。

〇同・リビング(朝)
ユリ「サクラ~。あ……」
   窓際の角におもちゃを集めているサク
   ラ。サクラに近づくユリ。
ユリ「サクラ、どうしていっつもここにプリンセスたち置いて行っちゃうの?」
サクラ「サクラが保育園に行ってる間にキララちゃんが遊べるようにだよ」
ユリ「キララちゃん?」
サクラ「うん」
ユリ「……。あー、サクラは優しいね!じゃ、保育園の準備しよっか。かばん取ってきて!」
サクラ「はーい!」
   サクラ、走ってリビングを出ていく。
   ユリ、おもちゃの集まった窓際を見つめる。

〇同(朝)
   ソファの上で向かい合って正座するユリとサクラ。
ユリ「忘れ物チェック!」
サクラ「(拍手)イエーイ!」
ユリ「ハンカチ」
サクラ「ハンカチ!」
ユリ「ティッシュ」
サクラ「ティッシュ!」
ユリ「連絡帳」
サクラ「れんらくちょう!」
ユリ「はい、オッケー」
サクラ「オッケーでーす!」
ユリ「朝、一人で起きてくれるともっとオッケーなんだけどなあ」
   聞こえないふりでカバンにものを詰め込むサクラ。
   保育園バスが牧野家前に止まる。
ユリ、窓の外をのぞき込む。
ユリ「よし!バス来たね!行こうか」
サクラ「よーし!行ってきまーす!」
   ユリ・サクラ、リビングのドアに向かって歩き出す。
   ユリ、ドアを開けようとする手を止め後ろを歩くサクラへ顔を向ける。
ユリ「……。キララちゃんに、いってきますは言わなくて良い……?」
   サクラ、帽子の紐を気にしながらおもちゃが並ぶ窓際に顔だけ向ける
サクラ「(小さく手を振りながら)行ってきます」

〇同・玄関前(朝)
   元気に手をふりバスに乗り込むサクラ。
   先生に向かって軽く会釈をし、にこやかに手を振り返すユリ。 

〇同・リビング(朝)
   ユリ、見送りから戻り、家事を黙々とこなす。
窓際に集合したおもちゃを持ち上げて床に掃除機をかけ、また元通りにおもちゃを戻す。
コーヒーを淹れ、小分けのクッキーを2枚戸棚から取りソファに座る。テレビをつけ一息つく。
ユリ「キララちゃん…」

〇同(深夜)
   ソファに寝ころびスマホゲームをするマサキ。
   ユリ、黙ってマサキの隣に座る。
マサキ「(スマホゲームを続けながら)サクラ寝た?」
ユリ「見えてるわ」
   正樹、スマホから目を離しユリを見る。
マサキ「何?何の話?」
ユリ「サクラの話」
マサキ「え?だから何の話?」
   マサキ、起き上がりスマホをテーブルに置く。
ユリ「(窓際を指さしながら)そこに毎日おもちゃ置いていくでしょ?」
マサキ「うん。出かける前にプリンセス集合させるやつ?」
ユリ「そう。サクラ、お片付け上手なのに、あそこだけ片付けないのってなんか違和感あったの」
マサキ「うん。確かに。……それが?」
ユリ「それで何でか聞いてみたら、キララちゃんなんだって。」
マサキ「…え?ん?」
ユリ「サクラが保育園に行ってる間にキララちゃんが遊べるようにあそこに置いて行ってるんだって」
マサキ「……、は?キララちゃん……?」
ユリ「キララちゃんはきっとその霊的なもの?」
マサキ「え?え?キララちゃん、そこにいるの?」
ユリ「多分ね」
マサキ「遊んでるの?」
ユリ「実際に遊んでるかどうかはわからないけど、でもキララちゃんのためのものなの」
正樹「え!何それ!怖いよ」
ユリ「いや、そうだけど。でも一回冷静になって。話終わってないから!」
正樹「何でこんなに現代的な名前なんだよ!幸子とかじゃん普通!」
ユリ「キララちゃんなのよ。」
正樹「キララちゃんなのお?」
ユリ「そう」
マサキ「えー……」
ユリ「落ち着いて。今回私がサクラの口から聞いたから確定だったんだけど……今までもそうなのかなってことあったと思うの。……マサキも心当たりない……?」
マサキ「……え?……、そういえば……。この前公園に行ったとき」

〇(回想)公園(朝)
   滑り台から滑り降りてくるサクラ。
   正樹、隣から見守る。
マサキ「サクラは滑り台上手だなあ。滑り台のオリンピック出れるんじゃないかなあ」
サクラ「サクラ、滑り台大好き!」
   登っては滑るを繰り返し、はしゃぐサクラ。にこやかに見守るマサキ。
   サクラの動きを目で追いながら腕時計を気にするマサキ。
マサキ「滑り台好きだもんなあ。回を重ねるごとに上手になってる気がするなあ。30分も同じことの繰り返しだもんなあ。頭おかしくならなくてすごいぞサクラ。何回でも新鮮に楽しめるんだもん。でももうそろそろ飽きないかなあ?パパはもう限界だよ」
   階段を勢いよく登るが、中腹で立ち止まり引き返すサクラ。
マサキ「おお!今飽きたか!そうかそうか!そうだなあ!次行こうかサクラ!」
サクラ「うん。行こうかあ。あの子も滑り台好きなんだね」
   滑り台の頂上を見つめるサクラ。
   サクラが見つめる方向を見る正樹。
マサキ「?」
サクラ「パパ!次はお砂で遊ぼう!」
   砂場の方へ走り出すサクラ。
マサキ「よし!プリンセス城作ろうな!」
(回想おわり)

マサキ「あんまり気にしなかったんだけどそういうこと…だよな。」
ユリ「それは……気にならなかったの?まあ、そういうことだよね。」
マサキ「そういうことか……」
ユリ「私も……。この前保育園の連絡帳に……」

〇(回想)同・寝室(夜)
   ユリ、寝ているサクラの隣で保育園バ
ッグから連絡帳を取り出して読む。
ユリ「6月13日、雨…」

〇(連絡帖内容)保育園・教室(朝)
   教室内で自由に遊ぶ園児たち。
   雨が降る庭をひとり見つめるサクラ。
先生「サクラちゃん、お外で遊べなくて残念だねえ」
サクラ「ううん。ちがう。」
先生「どうしたの?」
サクラ「あの子、濡れちゃうね。大丈夫かなあ」
   園庭の花壇の方向を指さすサクラ。
先生「あ、お花さんかな?雨が好きなんじゃないかなあ」
サクラ「そっかあ!」
   窓から離れ他の園児の輪に入り遊ぶサ
クラ。
(連絡帖内容おわり)

ユリ「雨に濡れる花壇のお花を気にしていました。とっても優しいですね」
   ユリ、寝ているサクラを見て首をかしげる。
(回想おわり)

ユリ「うちでベランダの花が雨に濡れてるの見てもそんなふうに言ったことないし」
マサキ「うーん」
ユリ「お花じゃなくて誰かいたんじゃないかなあ」
ユリ「てことだよね」
マサキ「ていうかさ、ユリって霊感ある?」
ユリ「ない」
マサキ「俺も。こういうのってちょっとくらい遺伝的なものかと思ってたんだけど」
ユリ「私もそれ思った。でもいろいろ調べてみたらね、そうとも限らないって。あと、こどものうちって見える子も多いんだって」
マサキ「そうなの?それなら……、気にすることないのかなあ。でもさ、サクラが見える見えないは別にしても、うちに霊がいるのは問題だと思わない?」
ユリ「……キララちゃん?」
マサキ「ここ、がんばって買ったわけじゃん。ローンも残ってるし」
ユリ「うん」
マサキ「お祓いとか調べた?」
ユリ「え?お祓い?調べてないけど」
マサキ「え?逆に何を調べてたんだよ」
   ユリ、スマホの検索履歴をマサキに見せる。
   マサキ、ユリのスマホを受け取り、検索履歴を読む。
マサキ「えー。霊感とは……。霊感 子ども 遺伝……。幼少期 霊感……。子ども 寝起き……。子ども 靴選び……。」
   マサキ、ユリのスマホをテーブルに置く。
マサキ「うん。途中から飽きてるね。ありがとう、ありがとう。やっといたほうがいいんじゃないかなあ。お祓い。」
ユリ「そうかな」
マサキ「え?」
ユリ「サクラ、いきなりキララちゃんいなくなったらさみしがるんじゃない?」
マサキ「え?」
ユリ「だってもしだよ。お祓いのおじいちゃんがいきなり来て、なんかシャラシャラやって、いきなりパパが消えたりしたら、びっくりするでしょ?私もさみしいよ」
マサキ「え?俺?話違うことになってない?」
ユリ「一緒のことでしょう」
マサキ「何でだよ。違うよ全然」
ユリ「ちょっと、もう少しちゃんと考えようよ。ね?」
マサキ「え?こっちのセリフなんだけど」
ユリ「とにかく。サクラにとってキララちゃんがどんな存在のなのか知っておく必要があると思うの。」
マサキ「いやいやいや…あのさあ」
   マサキ、ユリの話を遮る
マサキ「んー……ごめんごめん、最後まで聞くね。続けて」
ユリ「ありがとう。キララちゃんがどういう
類の霊なのか、サクラがキララちゃんの存在をどう認識しているのかを、ちゃんと理解してあげてから、その後考えたほうがいいと思うの」
マサキ「プロファイリングして対応を決めるってこと?」
ユリ「そう」
マサキ「もしキララちゃんが悪い霊だったら、そんなことしてる間に何かあったら……。どうするの?」
ユリ「それはないと思う」
マサキ「(苦笑しながら)何でわかるの?」
ユリ「何となく」
   正樹、茫然とユリを見つめる
マサキ「…。わかった」

〇同・リビング(朝)
   ダイニングテーブルでお菓子を食べるサクラ。キッチンから出てサクラの向いに座るユリ。
ユリ「ねえ、サクラ」
   顔を上げるサクラ。
ユリ「サクラはママのこと好き?」
サクラ「大好きだよ!」
ユリ「ありがとう。私もサクラが大好きだよ」
サクラ「うれしい!ありがとう」
ユリ「……じゃあキララちゃんのことは好
き?」
サクラ「うん。好きだよ。何もしゃべってく
れないしすぐにどっか行っちゃうから一緒には遊べないけど、サクラがプリンセス
を貸してあげるとうれしそうなんだよ」
ユリ「…そう。キララちゃんって、何でキララちゃんって言うんだっけ」
サクラ「サクラがつけてあげたの。サクラがキラキラ星歌うと、キララちゃん笑うでしょ?」
ユリ「…そっか。かわいい名前だよね」
サクラ「うん!サクラって名前はママがつけたの?」
ユリ「えっ?……えっと、ママとパパがつけたんだよ。サクラが生まれるときに桜がたくさん咲いててとってもきれいで、まわりにいる人たちがみんな笑顔で。サクラも桜みたいに明るく優しくなってほしいと思って」
サクラ「へえー、そうなんだ!サクラ、桜のお花が一番好き!」
   ユリ、笑顔でサクラの頭をなでる。
サクラ「どうしてキララちゃんのお名前はママたちがつけてあげなかったの?」
   ユリ、サクラの頭に手を置いたまま笑顔が固まる。
ユリ「…。どうしてだろうね。わからない」
サクラ「そっかあ」
   ユリ、お茶を飲む。
   お菓子を食べ終わり、まっすぐとユリ
を見つめるサクラ。
サクラ「ママはキララちゃんのこと好き?」
ユリ「……」

〇カフェ・中
   窓際のテーブルに一人で座っているユリ。思いつめた顔で外を見つめる。
   窓の外からユリを見つけ、笑顔で手を振るユリの母(56)

〇同
   向かいあって座るユリと母。店員がパスタをテーブルに置き去っていく。
ユリ「わー、おいしそう。いただきます!」
母「そうね、いただきます」
   パスタを食べ始める二人。
母「あ!そうだ。これ松茸。お父さんから。
みんなで食べてね。あとね、来月お父さん
と二人でハワイ旅行行ってくるから。お土
産買ってくるわね」
   母、ユリへ紙袋を手渡す。
ユリ「え、え!?ありがとう…。いきなり何、
どうしたの?」
母「お父さんが珍しく競馬に勝ってね。10
00円が48万よ!びっくりでしょ?」
ユリ「うそ!?」
母「そうなの!それで、予想したのがユリの
家だったらから、それのおかげだって言っ
てね。なんだか、今回は自信満々だったの
よ。当たる気がするって」
ユリ「そっか。私たちは何にもしてないけどね。松茸嬉しい。ありがとう」
母「ユリの家行ったら運気上がるのかしらね!マサキさんも昇進してうまくやってるんでしょ?家が呼び寄せる運ってあるのよ。」
ユリ「あー……。なるほど…。そうかな?そうかも!」
母「デザートも頼む?今日はおごってあげる」
ユリ「いいの?やったー。サクラにもテイクアウトしていい?」
母「図々しいわね」
   笑いあうユリ・母。
   残りのパスタを食べ進める。

〇カフェの外
母「じゃあ、またね」
ユリ「お母さん、ありがとうね!お父さんにもよろしく。お父さんもお母さんも私たちもずっと幸せでいられるはずだよ!ハワイ、楽しんできてね!」
   勢いよく振り返り歩き出すユリ。
   後ろ姿を見つめ、安心した表情の母。

〇牧野家・リビング(朝)
   ダイニングテーブルに座るユリ・マサキ・サクラ。スケッチブックと色鉛筆をサクラに渡すマサキ。
マサキ「(棒読み)サクラ!今日はお絵描きしよう!」
ユリ「家族の絵をかいて!」
サクラ「パパ、変なしゃべり方だね」
   顔を見合わせるマサキとユリ。
ユリ「ほら!描いてみて!」
マサキ「(棒読み)サクラの絵が楽しみだなー」
   マサキを小突くユリ。
サクラ「いいよ」
   サクラ、絵をかき始める。
   集中して絵を描くサクラを瞬きもせず前のめりで凝視するマサキとユリ。

〇同(朝)
   マサキ・ユリ、出来上がった絵を二人で見たあとに二人で目を見合わす。
   マサキ、決心したように絵の左端を指さし口を開く。
マサキ「…。これはパパ?」
サクラ「うん!」
マサキ「かっこよく描いてくれてありがとう」
   マサキ、絵の中央左寄りを指さす。
マサキ「じゃあパパの隣はママだね」
サクラ「うん!ちょっとお口が大きくなっち
ゃった」
マサキ「ははは、上手だよ」
マサキ、絵の中央右寄りを指さす。
マサキ「これは……?プリンセスだね」
サクラ「うん!このプリンセスのサクラだよ」
マサキ「そうかそうか。自分だけすごくかわいく描いてるね。うんうん。……、そしたらプリンセスサクラのお隣は誰かな?」
   絵の右端を指さすマサキ。
サクラ「キララちゃんだよ」
   サクラ、満面の笑み。

〇同・リビング(夜)
   思いつめた表情でソファに座りテーブルの上の絵を見つめるマサキ。
   隣に座るユリ。
マサキ「こんなベタなもんかね」
   絵の右側には紺色の着物を着たおかっぱの女の子の絵が描かれている。
マサキ「どうする?」
ユリ「キララちゃん、良い笑顔だね」
マサキ「…いい子そうだね」
ユリ「除霊…、する?」
マサキ「…。このままにしようか。きっとユリの言う通りなんだよ」
   ユリ、ぱっと明るい顔になる。
ユリ「本当に?」
マサキ「だって、こんなふうにサクラには映ってるんだろ。消したくないよ」
ユリ「そうだね!そうだよね!」
   マサキに抱きつくユリ。
ユリ「キララちゃんはね。座敷童なんじゃないかって思うの」
マサキ「え?」
ユリ「だってここに引っ越してから良いことしかないから」
正樹「あー。言われてみたらそうかも」
ユリ「でしょ!」
正樹「きっとそうだね」
   窓際の角には落書き帖とクレヨンが置いてある。
   
(1年半後)
〇同・廊下(朝)
  階段を見上げ叫ぶユリ(33)。
ユリ「サクラ!入学式だよ!起きて!」
サクラ(6)の声「もう起きてるー!」
ユリ「え!?嘘でしょ!」

〇リビング
照れながら制服姿でリビングに入ってくるサクラ。
サクラ「パパ、おはよう」
ダイニングテーブルでコーヒーを飲んでいたマサキ(36)が振り返る。
マサキ「サクラ、おはよう……」
   ダイニングテーブルに向き直り号泣するマサキ。
   ダイニングテーブルにつくサクラ。
サクラ「ママもおはよう」
   キッチンから出てきて朝食を運ぶユリ。笑顔でサクラを見る。
ユリ「サクラ、おはよう。制服似合ってるね」

〇牧野家・玄関前(朝)
   ランドセルを背負ったサクラとユリが玄関前に並ぶ。
   三脚にセットされたカメラのシャッタータイマー設定をするマサキ。
マサキ「はい、いくよ!」
   マサキ、2人の元へ駆け寄る
ユリ「はい、笑って笑って!」
   シャッター音がなり、笑顔の3人が写真に納まる。
   青空に満開の桜が映える。

〇同・リビング(朝)
   日の光が差すカラフルなヘアピンとシュシュが置いてある窓際の角。
   付近に掃除機をかけるユリ。ヘアピンを数本吸い込んでしまう。
ユリ「あら、やっちゃった。ごめんキララちゃん」

〇同・リビング(夕)
   ダイニングテーブルでお菓子を食べるサクラとお茶を飲むユリ。
ユリ「どうかした?元気ないね、サクラ」
サクラ「ねえママ、今日ね、ミサキちゃん怒らせちゃったみたい」
ユリ「いつも一緒に帰ってるミサキちゃん?けんかしちゃったの?詳しく聞いてもいいかな?」
サクラ「今日ミサキちゃんと帰ってるときにね…」

〇(回想)通学路(夕)
   ふたりで歩くサクラとミサキ(6)。
ミサキ「今日の給食おいしかったね」
サクラ「おいしかったね」
ミサキ「給食の野菜っておうちで食べるよりおいいしいよね」
サクラ「そうかな」
ミサキ「おうちではシャキシャキしてておいしくないけど、給食のヘナヘナした野菜は好きなの」
サクラ「へえー」
ミサキ「それでね、ヘナヘナの野菜を口の中で牛乳と混ぜるとおいしいの」
サクラ「うぇぇぇ……」
歩き続けるサクラとミサキ。
公園の前でサクラが立ち止まり、滑り台を指さす。
サクラ「ねえ、ミサキちゃん。あの子とお話したことある?」
ミサキ「え?あの子って?」
サクラ「あの子ね、ずっと滑り台のところにいてね。なんか、変なの」
ミサキ「何言ってるの?誰もいないよ」
サクラ「…?男の子立ってるでしょ。滑り台の上に」
ミサキ「…」
サクラ「あ、こっち見てる」
   風が吹き公園の木が揺れる。
ミサキ「サクラちゃん怖い。もう行こうよ!」
サクラ「怖くないよ?あの子もサクラたちと一緒に遊びたくてこっち見てるのかも!行こう!」
   サクラ、ミサキの手を引っ張り公園に入ろうとする。
   ミサキ、サクラの手を振り払う。
ミサキ「いやっ!」
   ミサキ、走り去る。
   茫然とミサキの後ろ姿を見つめるサクラ。
(回想終わり)

   俯きながらお菓子を食べるサクラ。
サクラ「ミサキちゃん、知らない子と遊ぶのがいやだったかもしれないのにサクラが連れて行こうとしたからかな。引っ張るのちょっと強かったからかな。怒っちゃった」
ユリ「…。」
サクラ「ミサキちゃんに明日謝るね。許してくれるかな」
ユリ「…そっか。でも仲直りしたいんだね。サクラえらいよ。ミサキちゃんにちゃんとお話ししてみよう。わかってくれるといいね」
サクラ「…うん」

〇同・リビング(深夜)
   ソファに座るユリとマサキ。
ユリ「どうしようか。サクラは自分で解決しようと一生懸命なんだけど…」
マサキ「うちの娘、良い子すぎないか…」
ユリ「でも、すごく傷ついてるよ。サクラは自分が見えてるものは他の人も同じように見えてるとしか思ってないから」
マサキ「そうだな」
ユリ「私たちが教えてあげなかったから、こんなことになっちゃったのかな…」
マサキ「うん…。でも、あの時のサクラにはきっと受け入れられなかったと思うよ?4歳だったんだから。自分たちを責めるのはやめよう」
ユリ「気づかないままだったらもっと傷つくのかな…」
マサキ「…。」
ユリ「…。」
マサキ「もう少し見守ってみるか」
ユリ「うん…。自分で謝りたいって言ってるし…。そうだね」
窓際の角にはひらがなドリルと筆記用具が置いてある。

〇学校・教室(朝)
   サクラ、教室のドアを開け、ミサキが女の子グループとしゃべっているのを見つけ近寄る。
サクラ「…。みんな、おはよう!」
   グループ全員、サクラと距離を取る。
   引いた顔でサクラを見る。
女の子1「あ…サクラちゃん…。おはよう…」
   ミサキ、サクラの目は見ずに話しだす。
ミサキ「サクラちゃんとは…、もう、一緒に
遊ばない!ミサキたちにもう話しかてけてこないで!」
サクラ「…え?あ、ミサキちゃん、ごめんね。昨日のこと怒ってるんだよね。あの子と遊ぶのいやだったんだよね。サクラが強く引っ張ったの、痛かったんだよね。でもあの子ずっとひとりでさみしそうにこっち見てて……きっと悪い子じゃないよ」
   ミサキ、遮るように叫び出す。
ミサキ「いやあああ!うるさい!やめて!サクラちゃん怖い!いやなの!」
サクラ「怖い?」
ミサキ「どうしてわからないの!?気持ち悪いの!変なの!遊びたくない!」
   静まり返る教室。
   サクラ、絞り出すようにしゃべりだす
サクラ「……ミサキちゃんだって変だよ。給食のお野菜、お口の中で牛乳と混ぜてるんでしょ…。そっちの方がずっと気持ち悪いよ!」
女の子2「うええええ。ミサキちゃん汚い……」
ミサキ「え?……えっ?」
   ミサキ、引いている周囲を見渡し、泣きだす。
ミサキ「ミサキ、変じゃないもん!サクラち
ゃんひどい!わあああああん」
  静まる教室にミサキの泣き声だけが響く。チャイムが鳴る。
  ミサキ、サクラ以外の生徒が各自の席に戻る。
   サクラ、後ずさり、そのまま走って教室を飛び出す。

〇牧野家・寝室(夜)
   ユリ、ベッドの淵に座り、寝ているサクラの頭をなで部屋を出ていく。

〇同・リビング(深夜)
   ソファに座っている正樹。
   ユリ、マサキの隣に座り、顔をのぞき込む。
ユリ「うわ。泣いてるし……」
マサキ「サクラ、サクラああああ!」
ユリ「うん。わかるよ。でも泣いてる場合じ
ゃない」
マサキ「……そうだな。そうだよな。ごめん」
   マサキ、ティッシュを大量にとり鼻をかむ。
マサキ「言うしかないか……」
ユリ「そうだね……。明日、伝えるね。どこからどう話せばいいんだろう」
マサキ「キララちゃんのこと、僕たちには見えてないって知ったらどう思うんだろうな」
ユリ「サクラにとってはキララちゃんも家族なんだよね」
マサキ「そうだな……」
   ユリ、足し算ドリルと筆記用具が置かれた窓際の角に目をやる。
   
〇同・玄関(朝)
   マサキ、靴を履き立ち上がる。
マサキ「サクラ、起きてこなかったな。任せちゃってごめんな」
   マサキ、階段の方へ目をやる。
ユリ「ううん、仕方ないよ。仕事だもん。集中できないかもしれないけど……」
マサキ「本当だよ。もう気になっちゃって」
ユリ「もうしっかりしてよ、課長。……きっと大丈夫」
マサキ「うん。じゃあ……、よろしくな」
ユリ「いってらっしゃい」
   ユリ、マサキの頬にキスをする。
   マサキ、ドアを開け出ていく。
   ユリ、ドアが閉まるとすぐに振り返り階段の方へ歩き出す。

〇同・寝室(朝)
   サクラ、頭まで布団をかぶっている。
   ユリ、ベッドの淵に腰掛け話しかける。
ユリ「久しぶりじゃない?一人で起きれなか
ったの。そろそろ起きる?」
   サクラ、布団をかぶったまま返答する。
サクラ「……起きたくない」
ユリ「そっか……」
サクラ「……お腹痛いの」
ユリ「そう。学校お休みする?」
   サクラ、布団から顔を出す。
サクラ「……いいの?」
ユリ「いいよ。」
   ユリ、立ち上がり、寝室のドアを開け   
   る。
ユリ「ママとお話したくなったら降りておいで」
   サクラ、上体を起こしユリの後ろ姿を見送る。

〇同・リビング(朝)
   サクラ、パジャマのままリビングに入り、ダイニングテーブルを見る。アイスクリームとチョコソースがトッピングされたホットケーキが用意されている。
ユリ「あ、起きれたね。サクラおはよう」
サクラ「ママ……、おはよう」
ユリ「食べようか。座って!」
サクラ「……うん」
   サクラ、テーブルにつき俯く。
   ユリ、サクラの向いに座る。
ユリ「いただきます」
サクラ「……いただきます」
ユリ「食べられるの?」
サクラ「……うん」
ユリ「ん?」
サクラ「……ごめんなさい。お腹痛いって嘘なの」
ユリ「ふふふ、わかってるよ」
サクラ「ごめんなさい」
ユリ「うん。嘘はよくないね。でも……。学校行きたくなくない時は行きたくないって言ったらいいよ」
サクラ「え?」
ユリ「一日たっぷり休んで次の日からまたがんばれるならね。ママもお料理とかお掃除、たまにお休みしてるんだよ」
サクラ「へえ、知らなかった……」
ユリ「サクラ、コロッケ好きでしょ?いつも食べてるコロッケは、ママじゃなくてスーパーのおばちゃんたちが作ってるの。実は、コロッケの日はママのお料理お休みの日なんだよ」
サクラ「えー、そうだったんだ」
ユリ「うん。パパには内緒だよ。……じゃ、食べよっか」
   ホットケーキを食べ始めるユリとサクラ。
ユリ「ママもね、サクラに謝らないといけな
いことがあるの」
   サクラ、顔を上げる。
ユリ「あのね、本当はね、キララちゃんはいないの」
サクラ「キララちゃん?いるよ。そこに。こっち見てるでしょ。今も。」
ユリ「いるけどいないの。サクラにしか見えてないの」
サクラ「……え?」
ユリ「ママとパパ、ずっとサクラに嘘ついてた。ごめんね。本当にごめん。」
サクラ「……」
ユリ「むずかしいよね。」
サクラ「キララちゃん家族じゃないの?どうして?どうしてママとパパには見えないの?どうして……教えてくれなかったの?」
ユリ「……サクラ、ごめん。本当にごめんね。サクラが家族だと思ってるなら、キララちゃんもちゃんと家族だよ。ただ、サクラにしか見えてないの」
サクラ「どういうこと?わからない。」
ユリ「霊感っていうの。今は難しいと思うけど、きっと何のことかすぐにわかるようになるよ。でも、サクラにはみんなが見えないものが見えるってことなの。それがキララちゃんなの」
サクラ「……」
泣きそうな顔でユリを見るサクラ。
ユリ「あの公園の男の子もキララちゃんと一緒なの。だからミサキちゃんにはサクラが見えているものが見えなくて、わからなくて、あんなふうにしちゃったんだよ。ミサキちゃんにも悪気はないと思う。ただ……、わからなかっただけなんだよ。サクラが見えることもサクラ以外が見えないこともどっちかが悪いってことじゃなくて……」
サクラ「嘘はだめって今言ったのに。パパもママも嘘つきだったの?」
ユリ「……ごめん」
サクラ「……やっぱり、お腹痛い。ごちそうさま」
   サクラ、リビングを出て寝室に向かう。
   サクラの後ろ姿をみつめるユリ。
   窓際の角にはプリンセスの英語教材が置いてある。

〇同・玄関(夜)
   マサキ、帰宅し鞄をユリに預ける。無言でユリを見つめる。
   ユリ、首を横に振る。
ユリ「部屋に閉じこもってるところ」
マサキ「そっか。でも絶対に大丈夫。きっと理解できるよ。サクラだもん。僕も一緒に話す。行こうか」
ユリ「うん。ありがとう」

〇同・寝室(夜)
   ユリ・マサキ、寝室の前で目を合わせる。マサキ、寝室のドアをノックしようと手を上げると、同時にドアが開く。
マサキ「え?」
   サクラ、驚いた顔でドアの前に立つふたりを見る。
サクラ「あ、パパ。おかえり。どうしたの?」
マサキ「……え、あ、だ、大丈夫かなあと思って」
サクラ「うん大丈夫だよ!お腹すいた」
ユリ・マサキ「……」
   ユリ、無言でサクラに歩み寄り抱きしめる。

〇同・リビング(夜)
   ユリ・マサキ・サクラ、ダイニングテーブルに座る。食卓にはコロッケが並ぶ。
サクラ「いただきます!」
ユリ・マサキ「……いただきます……」
   もりもりとコロッケを食べるサクラを見て、茫然とするユリとマサキ。
サクラ「ママ、さっきはごめんなさい」
ユリ「え?え!?」
サクラ「ママが言うことが全然わからなくて
 びっくりしちゃって、お腹痛いってまた嘘
ついちゃったの」
ユリ「サクラ……」
サクラ「パパもママも嘘つきだけど、でも、パパもママの嘘は、サクラのためについてくれた嘘なんじゃないかって」
ユリ・マサキ「……」
ユリ「キララちゃんが教えてくれたの」
   窓際とサクラを交互に見るマサキ。
マサキ「え?え?」
サクラ「パパもママも優しい人だって、キララちゃん言ってたよ」
マサキ「……そっか。」
サクラ「それでね、サクラが見えてるのとみんなが見えてるものがちょっと違うってことも何となくわかったよ」
ユリ「サクラ……、ママのほうこそ本当にごめんね」
マサキ「ごめんな。ずっと本当のこと言えなくて。……傷つけちゃったな」
ユリ「でも乗り越えられるね。サクラ、えらいよ」
サクラ「ううん。パパもママもいつもありがとう。大好きだよ」
マサキ「(号泣しながら)サクラ~!」
   サクラの頭をわしゃわしゃとなでるマサキ。
サクラ「ふふふ……。あのね、ミサキちゃんと仲直りしたいから一緒に作戦考えてくれる?」

〇同・リビング(深夜)
   ソファに座るユリ・マサキ。
ユリ「追いつけてない。わが子の成長速度に
……」
マサキ「ユリと話した後にサクラなりにたくさん考えたんだろうな。すごいよわが子。」
ユリ「キララちゃんも助けてくれたんだね」
マサキ「うん。……なんか……コミュニケーション取れるようになってたな」
ユリ「びっくりしたよね。前はお話できないって言ってたのに。でもキララちゃん、グッジョブ。ありがとう」
   プリンセスの英語教材が置かれた窓際の角に向かって親指を立てるユリ。

〇同・玄関(朝)
   玄関に座り靴を履くサクラ。
ユリ「サクラ……大丈夫?」
サクラ「……緊張するなあ」
ユリ「作戦通りにね」
サクラ「できるかなあ」
ユリ「サクラなら大丈夫だよ」
サクラ「がんばるね」
ユリ「おいで!」
   サクラ、ユリに抱きつく。
   ユリ、サクラを抱きしめ頭をなでる。
ユリ「よし!じゃ、いってらっしゃい」
   ユリ、サクラの背中を押す。
サクラ「いってきます」
   元気よく玄関を出ていくサクラ。

〇通学路(朝)
   横断歩道に一人立つミサキをみつけ走
り出すサクラ。ミサキの後ろ姿に向かって叫ぶ。
サクラ「ミサキちゃーん!おはよう!」
   ミサキ、サクラに気づき振り返る。
   サクラが追い付く前に信号が青に変わ
り、走って逃げるミサキ。
   サクラ、一瞬立ち止まり泣きそうにな
るがすぐにまた走り出す。
サクラ「ミサキちゃーん!待ってよー!」

〇牧野家・玄関(夕)
   勢いよくドアを開けるサクラ。
サクラ「ママー!ただいまー!ダメだったあ」
   リビングから出てくるユリ。
ユリ「サクラおかえり。そっか、残念。追い
かけ作戦失敗か……。じゃ、次の作戦考えようか」
サクラ「はああ、やっぱり悲しいなあ」
ユリ「そうだよね。大丈夫?」
サクラ「うん。また明日がんばるね」
ユリ「……サクラ、強いね」
サクラ「作戦考える前にお菓子食べる」
   サクラ、ランドセルをユリに任せリビングへ向かう。
   サクラの後ろ姿を見送るユリ。

〇学校・教室(朝)
   サクラの机の周りに集まる女の子1・女の子2。笑い声が響く。
   女の子1、教室に入ってきたミサキに気づき声をかける。
女の子1「ミサキちゃん!サクラちゃんが考えたひらがなつなげゲームたのしいよ!」
女の子2「ミサキちゃんも一緒にやろうよ1!」
ミサキ「ひらがなつなげ……?なにそれ」
   輪の中心にいるサクラと目が合い、咄嗟に目を逸らすミサキ。 
ミサキ「……ミサキはいいや」
サクラ「……」

〇牧野家・玄関(夕)
   とぼとぼ歩き、ドアをゆっくりと開けるサクラ。
サクラ「……ただいま……」
   悔しい顔で出迎えるユリ。

〇学校・教室(朝)
   意を決してミサキの席に近づくサクラ。
サクラ「ミサキちゃん、見て!」
   全力で変顔をするサクラ。
ミサキ「……あ、次の授業の準備しないと」
   サクラの前から立ち去るミサキ。
サクラ「……」

〇牧野家・玄関(夕)
   とぼとぼと歩き、ドアをゆっくり開けるサクラ。
サクラ「……ただいま……」
   ため息をつき出迎えるユリ。

〇学校・教室(朝)
   誰もいない教室。
   ミサキの席に近づくサクラ。
   ランドセルから「ミサキちゃんへ。サクラより」と書かれた封筒を取り出す。

〇(回想)牧野家・リビング(夜)
   ダイニングテーブルで向かい合って座るユリとサクラ。
   サクラ、プリンセスの絵が入った便せんを前に腕を組む。
サクラ「うーん……。ミサキちゃんにお手紙かくのはじめてなの。なんて書いたらいいかな」
ユリ「思ってることをそのまま書いたらいいよ」
サクラ「よし……」
   鉛筆を走らせるサクラ。
   お茶を飲みながら見守るユリ。
サクラ「できた」
ユリ「よし!お疲れ様。見せて見せて」
手紙内容(ミサキちゃんへ
 この前はびっくりさせちゃってごめんね。
 変って言ってごめんね。
仲直りしたいです。
また一緒に帰ろうね。
サクラより)
ユリ「……うん、うん。」
   サクラを抱きしめるユリ。
(回想終わり)

   手紙をミサキの机の真ん中に置くサクラ。
サクラ「よし……」
   サクラ、自分の席に座りそわそわしながらミサキの登校を待つ。
   他の生徒が登校しだし、ミサキも女の子と一緒に談笑しながら教室に入ってくる。
ミサキ「ん?」
   ミサキ、机の上の手紙を手に取る。
   サクラの方を見る。
   一瞬サクラと目が合うが、同時に女の子1から話しかけられる。 
女の子1「ミサキちゃーん、宿題やった?」
   驚いて振り返るミサキ。
ミサキ「え!?あ、宿題?……やったよ!」
   サクラからの手紙をランドセルの中にしまうミサキ。
サクラ「……」
   机に突っ伏せるサクラ。

〇牧野家・リビング(夕)
   サクラ、ダイニングテーブルでお菓子を食べながらキッチンにいるユリに怒った調子で話す。 
サクラ「ミサキちゃん、サクラからのお手紙開きもせずにしまっちゃったんだよ!」
ユリ「そっか」
サクラ「もー!うまくかないよ!」
ユリ「おうちで読んでくれてるかもしれないよ」
サクラ「そうだけどさ~」
ユリ「もう仲直り諦める?」
サクラ「……ううん。諦めないよ」
ユリ「よし。ママはいくらでも協力するからね」
サクラ「……ありがとう。次……、どうすればいいかなあ」

〇同・リビング(深夜)
   ソファに座るユリとマサキ。
正樹「そっか。うまくいかないか。子ども社会も大変だな」
ユリ「うん。追いかけ作戦も、友達囲い込み作戦も、おちゃらけ作戦も、お手紙作戦も失敗。さすがにメンタルが心配だよ」
正樹「そうだなあ」
ユリ「サクラは強い子だけど、毎回ちゃんと傷ついてる」
正樹「つらいだろうなあ」
ユリ「見てるのもつらいよ」
正樹「うん……。ちなみに次の作戦は?」
ユリ「プリンセスを餌にミサキ釣り作戦」
正樹「……ふざけてない?」
ユリ「そんなわけないじゃん。真面目に聞いて。信じられない」
正樹「えー……」
   窓際の角にはひらがなつなげゲームの紙と鉛筆が置いてある。

〇同・玄関(朝)
   プリンセスのキーホルダーをサクラのランドセルにつけるユリ。
ユリ「この限定プリンセスを持ってたら女の子みんな集まってくるみたいだから。ミサキちゃんも例外じゃないはず」
サクラ「わあ!かわいい!ありがとうママ。今日もがんばるね」
ユリ「いってらっしゃい!」
サクラ「いってきます!」
   元気よく玄関を飛び出すサクラ。

〇学校・教室(朝)
   教室のドアを開けるサクラ。
サクラ「みんなおはよう」
女の子1「サクラちゃん!大変。ミサキちゃんが…」
   男の子と言い合いをしているミサキ。
女の子1「男子が暴れてミサキちゃんにぶつかっちゃって……ミサキちゃんのキーホルダーがこわれちゃったの」
   ミサキ、首部分の生地が破れたプリンセスキーホルダーを握りしめ大きな声で男の子を責め立てる。
ミサキ「これ、限定なんだよ!おばあちゃん
が並んで買ってくれたのに!」
男の子1「お、お前がボーっとしてるのが悪 
 いんだよ!」
ミサキ「教室で暴れてるのが悪いんでしょ!謝ってよ!」
男の子2「いやだね!」
ミサキ「男子って最低!」
   泣き出すミサキ。
男の子1「女ってすぐ泣くよな!はいはい、
 ごめんごめん!」
男の子2「これでいいだろ!」
ミサキ「何その謝り方!許さない!」
男の子1「なんだよ!謝っただろ!」
ミサキ「ちゃんと謝って!」
男の子2「なんだよ!野菜と牛乳混ぜて飲むくせに!」
男の子1「そうだそうだ!気持ちわりい!」
男の子2「きたねえぞ」
男の子1「お前が野菜に謝れよ~」
ミサキ「な、何でそんなこと言うの!?もう本当に嫌い!大嫌い!」
   遠くから様子を伺う女生徒たち。
   サクラ、自分のランドセルについている限定プリンセスキーホルダーを握りしめる。
女の子2「……私、先生呼んでくる」
   教室を出ようと走り出す女の子2。
   サクラ、ミサキのそばに歩み寄る。
   サクラの行動に視線が集中する。
男の子1「なんだよ!」
サクラ「ミサキちゃんに謝ってよ!ちゃんと謝って!」
   サクラを茫然と見上げるミサキ。
   涙が止まる。
男の子2「変なやつは入ってくるなよ!」
サクラ「変なやつの何が悪いの!?みんな変なんだよ!変じゃない人なんていないんだから!」
男の子1「……意味わかんねえ!」
サクラ「もう!わからなくてもいいの!」
男の子2「なんなんだよ」
サクラ「いいから謝って!ミサキちゃん泣かせるの絶対許さないから!」
男の子1「お前らだって喧嘩してたじゃん!」
男の子2「そうだそうだ!」
   女の子2に連れられた担任の男性教師(25)が駆けつける。
先生「おーい、どうしたどうした?」
男の子1・2「やっべ」

〇同・職員室(朝)
   先生の前で頭を下げる男の子1・2。
男の子1・2「ごめんなさい。もう教室で暴れません」
ミサキ「……」
先生「許してやれるか?」
ミサキ「……はい」
   ミサキの手には壊れたプリンセスキーホルダーが握られている。
   後ろからミサキを見つめるサクラ。
サクラ「……」

〇同・職員室の外(朝)
男の子1・2・ミサキ・サクラ「失礼します」
   退出と同時に、目を合わせ走り出す男の子1・2.
サクラ「ちょ、ちょっと!」
ミサキ「……サクラちゃん」
サクラ「え!?」
   勢いよく振り返るサクラ。
ミサキ「サクラちゃん、ありがとう」
サクラ「……え、いや、あの……」
ミサキ「ミサキ、ずっとサクラちゃんにひどいことしてたのに……。ごめんね」
サクラ「……」
ミサキ「サクラちゃんのこと大好きなんだけど、ちょっと怖くてどうしていいかわからなかったの。」
サクラ「ミサキちゃん……」
ミサキ「お手紙もね、おうちでちゃんと読んだよ。ミサキも仲直りしたいと思ったんだけどね。……何でできなかったんだろう。ごめんね」
サクラ「ううん!またミサキちゃんとお話できてうれしい!サクラもミサキちゃんが大好きだから絶対に仲直りしたかったんだ」
ミサキ「サクラちゃん……」
サクラ「サクラも……。給食のお野菜のことバカにしてごめんね。……サクラは、やらないけどね」
   満面の笑みでミサキを見るサクラ。
   照れながらサクラを見るミサキ。

〇牧野家・玄関(夕)
   走って帰宅し、勢いよくドアを開けるサクラ。息を切らしながら叫ぶ。
サクラ「ママ―!ママ―!ただいま!」
   勢いよくリビングから出てくるユリ。
   ユリ、サクラの笑顔を見て全てを察しサクラを抱きしめる。

〇同・リビング(夕)
   ダイニングテーブルにはアイスとチョコソースがトッピングされたホットケーキが並ぶ。
サクラ「それでね、ミサキちゃんのプリンセス壊れちゃったからね、サクラのをあげるって言ったんだけどね。おばあちゃんに直してもらうから、お揃いでつけようって」
ユリ「作戦成功してる……?奇跡……?」
サクラ「サクラ本当にうれしい!今日も一緒に帰ってきたんだよ」
ユリ「そっか。よかったね」
サクラ「それでね、公園の前通った時にあの男の子がまたいたんだ」
ユリ「うん……」

〇(回想)通学路・公園前(夕)
   手をつないで歩くサクラとミサキ。
   公園前で滑り台を見つめるサクラ。
ミサキ「……今日もいるの?」
サクラ「……うん」
ミサキ「そっか」
サクラ「あ、手振ってる」
ミサキ「……やっぱりこわいや」
サクラ「そっか」
   手をつないでそのまま歩き続ける二人。
(回想おわり)

サクラ「大丈夫だった」
ユリ「そっか」
   笑顔でホットケーキを食べるサクラ。
   安心した表情でお茶を飲むユリ。
サクラ「ママ、仲直りの手伝いしてくれてありがとう」
ユリ「サクラ……ありがとう」

〇同・リビング(深夜)
   ソファに座り、グラスに入ったビールで乾杯するユリとマサキ。
ユリ・マサキ「かんぱーい」
マサキ「いやあ、よかった」
ユリ「本当に」
マサキ「まさか、プリンセスを餌にミサキ釣り作戦が成功するなんてな」
ユリ「作戦通りではないんだけどね。結果的にね」
マサキ「子どもの成長には驚かされるな」
ユリ「うん。すごいスピードで成長しちゃうから、一瞬一瞬を絶対に見逃したくないと思うの」
マサキ「そうだな」
ユリ「幸せだね」
   窓際の角には「キララちゃんへ」と書かれた封筒が置いてある。
   
〇同・寝室(深夜)
   ぐっすりと眠るサクラ。
   ドアを少し開け笑顔で見守るユリ・マサキ。

(翌春)
〇同・リビング(朝)
   ダイニングに座りコーヒーを飲むマサキ。
   キッチンで朝食を用意するユリ。
   制服姿でリビングに入ってくるサクラ。
サクラ「パパ、ママ、おはよう」
マサキ「サクラ、おはよう!今日は三つ編み上手にできたね」
ユリ「おはよう!サクラ!本当だね、上手。ほら、朝ごはん早く食べちゃって!」
   サクラに座るように促すユリ。
ユリ・マサキ・サクラ「いただきます」

〇同・玄関(朝)
   サクラ、急いで靴を履く。
   ランドセルにはプリンセスキーホルダーがついている。
ユリ「サクラー、忘れ物ない?」
サクラ「ない!」
ユリ「よし!さすが二年生!気をつけてね」
サクラ「いってきます」
   ユリに抱きつくサクラ。
ユリ「いってらっしゃい!」
   玄関から飛び出すサクラ。
   笑顔で見送るユリ。

〇通学路・信号前(朝)
   通学路を歩くサクラ。
   赤信号で立ち止まるミサキを見つけ後ろから駆け寄るサクラ。
サクラ「ミサキちゃーん!おはよー!」
   ミサキ、後ろを振り返る。
   ミサキのランドセルには裾を縫い合わされたプリンセスキーホルダーが揺れている。
ミサキ「サクラちゃん!おはよう!」
   信号が青になり、一緒に歩き出すユリとサクラ。
   桜満開の通学路を談笑しながら歩く二人。

〇牧野家・リビング(朝)
   黙々と家事をこなすユリ。
   日の光が差す窓際の角には掛け算の問題用紙と筆記用具が置かれている。

(了)

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