人 物
雪丸カンナ(18) 高校生
雪丸辰巳(38) カンナの父
八王子寅子(18) カンナの友人
藤井高宮(17) 寅子の恋人
警官
キャスター
コメンテーター
校長
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〇ビジネス街(夜)
人気のないビジネス街。
警官が自転車に乗ってゆっくり走っていると、自転車のライトに走って逃げる人影が照ら
し出される。
警官「あ、ちょっと!」
と速度を上げて去っていく。
ビルの壁にはられたステンシルシートが剥がれ、「1217」とタギングされたグラフィティ
が顕わになる。
〇同・路地裏(夜)
雪丸辰巳(38)が暗がりでうずくまっている。
自転車が通りすぎていく音。
音が聞こえなくなってから辰巳が立ち上がろうとするが、膝が震えてまたすぐにうずくま
る。
辰巳「なさけねえ」
〇マンション・雪丸家・リビング(朝)
テレビでニュース番組が流れている。
キャスター「今回発見されたグラフィティには1217、199番目の素数が描かれていました。次で
200作目ということになりますね」
コメンテーター「いえ、実は欠番があるんですよ。4番目の素数、7が描かれた作品ってのがな
いんですよ」
辰巳が朝食を摂っている。その傍では、
制服姿の雪丸カンナ(18)がテレビを見ながら立っている。
カンナ「この犯罪者まだ捕まってないの」
辰巳「グラフィティは単なる犯罪なのか」
カンナ「犯罪は犯罪でしょ」
辰巳「単なる犯罪なら、バンクシーがウン十億円で落札されるってこたないだろ。単なるアート
でもなく、単なる犯罪でもない。辺縁にあってうまく割り切れないものっていうかさ……」
カンナがリビングから出ていく。
無精ひげをなでている辰巳。
〇高校・正門・前(朝)
遠くから運動部員らの声が聞こえる。
〇同・校舎・2階の渡り廊下(朝)
手すりから身を乗り出してスマホを構えているカンナ。
〇同・グラウンド(朝)
サッカー部が練習している。
そのなかに藤井高宮(17)の姿。
〇同・校舎・2階の渡り廊下(朝)
スマホを見つめているカンナ。
寅子の声「雪ちゃん!」
八王子寅子(18)がカンナに走り寄ってきている。
寅子「飲む?」
と飲みかけのコーンポタージュの缶を差し出す。
小さく首を横に振るカンナ。
寅子「あーあ。治んなかったね、潔癖症」
カンナ「まだ一日ある」
寅子「もういいや。次の目標は大学生の間に治す!あ、高宮ー!」
と手を大きく振る。
グラウンドの藤井が手を振り返す。
カンナ「またより戻したの」
寅子「危機を乗り越えて愛は育ってゆくんだよねえ……で?」
カンナが寅子にスマホを渡す。
スマホに表示されている校内の写真。
寅子が画面をスクロールすると校内の写真が次々に表示される。
寅子「おセンチ」
寅子がにやにやと笑いながら、スマホでカンナの頬をつつく。
カンナがスマホを取り返す。
カンナ「もう卒業なんて。中学生のままみたいな気がするのに」
サッカー部員の声に耳を傾ける二人。
寅子「一昨年の雪ちゃん生誕旅行はシ―ワールド、去年鎌倉。今年は4月7日が金曜だから二泊
三日でパーッと沖縄じゃん」
カンナ「……うん。うん?」
寅子「それから、来年もその先もどっか行こうよ。それでいいじゃん」
カンナ「うーん?」
グラウンドではサッカー部が練習を終えた様子。
寅子「良くないんなら踏み出さないとね」
カンナにコーンポタージュの缶を押し付けて走り出す寅子。
カンナはしばらく寅子を見つめてから、缶を口に近づけようとする。
〇マンション・雪丸家・辰巳の部屋・内
辰巳がステンシルシート、スプレー缶、養生テープ等を段ボールに詰め終える。
段ボールに向かって手を合わせる辰巳。
スマホに着信。
〇同・リビング
流しに置きっぱなしの食器。
辰巳の声「今日は休みですよ!」
ソファに投げ出された男物のパジャマ。
辰巳の声「ええ……わかりましたよ……」
机に置きっぱなしのお菓子の空袋。
机に置かれた開きっぱなしのスケッチブック。グラフィティのラフがいくつも描かれてい
る。
遠ざかる足音。
〇高校・正門・前
下校している生徒ら。
〇同・空き教室・内
顔を赤くしている藤井。
しきりに髪を弄っているカンナ。
カンナ「あの、明日卒業だし、その、言ってみただけで、トラは大事な友達だから、あたしから
説明しとくし、だから藤井君は別に何もしなくていいっていうか……」
藤井「おれも!おれもずっと、雪丸先輩のこと……好きでした!」
髪を弄る手をとめるカンナ。長い沈黙。
藤井「その……付き合ってくれますよね」
カンナ「何言ってんの?トラは」
藤井「別れます」
カンナ「なんでそうなるわけ!あたしは……ただ気持ちを伝えたくて……」
藤井「勝手すぎますよ!そんなの!」
勢いよく扉が開き、寅子が入って来る。
寅子「高宮――」
とカンナを見て固まる。
〇電車・内(夕)
カンナが座ってカバンを膝に抱え、スマホを見つめている。
スマホに表示されたカレンダー。四月七日からの旅行の予定が消される。
カバンに顔を埋めるカンナ。
〇マンション・雪丸家・リビング(夜)
明かりが点くとカンナが立っている。
ふらふらとテーブルに近づき、力なく椅子に座り込む。
ふと、テーブルの上のスケッチブックに気付きパラパラとめくると、グラフィティのラフ
がいくつも描かれている。「7」が傍に描かれたラフが多数。
カンナ「2,3,5……7」
カンナが素早く立ち上がる。
〇同・辰巳の部屋・内(夜)
グラフィティ用の道具が散乱している。
蓋の開いた段ボールをのぞき込んでいるカンナ。
カンナ「クソオヤジ……」
〇高校・正門・前(朝)
卒業式と書かれた看板。
〇マンション・雪丸家・前(朝)
よれよれのスーツを着た辰巳が慌てて部屋に入っていく。
すぐに正装の辰巳が出てくる。
〇高校・体育館・内(朝)
辰巳が静かに入って来て、ドアの脇に立つ。
壇上に校長が立っている。
校長「山崎真理」
女生徒が応え、檀上に上がって卒業証書を受け取り、降りていく。
校長「雪丸カンナ」
ドアの脇でじっと壇上を見つめる辰巳。
校長「雪丸カンナ!」
辺りを見回す寅子。
教師が一人、卒業生の座る一角に走っていく。
ざわつく体育館。
開け放たれた出入口のドア。
〇同・正門・内(朝)
正門に向かって辰巳が走っている。
辰巳が正門を出て左右を見渡すと、正門の脇に屈みこんでスプレー缶を壁に吹きつけてい
るカンナと眼があう。
カンナが作業を再開する。
カンナ「捨てるんでしょ。ならもらってく」
辰巳「そのつもりだったけど」
と屈みこむ。
カンナが作業を終えて、壁に貼り付けたステンシルシートをはがす。
壁には「7」とタギングされたグラフィティが描かれている。
辰巳「ヘタクソだしな」
辰巳がにやりと笑う。
カンナも笑い返す。
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