ビバ!アイドルモード 恋愛

出版社で働いている鼠谷は、地下アイドル「チョコ☆アラモード」の大ファン。メンバーの中でも、特にチョコを応援している。今をときめく人気ライトノベル作家、猫田も「チョコ☆アラモード」のファンと分かり、ファン仲間になる。しかし、猫田とチョコが急接近したことを知り、鼠谷は動揺する。 第38回S1グランプリ 二次通過作品 1時間物のテレビドラマ用脚本です 十二支の物語を元にしたストーリー
桐乃さち 377 0 0 11/07
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第一稿

登場人物

鼠谷勇気(25) 出版社勤務
猫田(鈴木キャット)(26) ライトノベル作家
牛尾(32)チョコ・アラモードのファン
チーズ 鼠谷のVRの世界での姿
ミルク ...続きを読む
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登場人物

鼠谷勇気(25) 出版社勤務
猫田(鈴木キャット)(26) ライトノベル作家
牛尾(32)チョコ・アラモードのファン
チーズ 鼠谷のVRの世界での姿
ミルク VRの世界での鼠谷の女友達

桐谷部長(53) 鼠谷の上司
チョコ(佐藤心愛)(18) チョコ・アラモードのメンバー
チェリー(19) チョコ・アラモードのメンバー
クリーム(16) チョコ・アラモードのメンバー
島田香(38) チョコ・アラモードのマネージャー
ライブ会場の係員
ファン1~3

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〇鼠谷の自宅 洗面所(朝)

   鼠谷勇気(25)が、満身の力を込めて歯をみがいている。
   勢い余って口の奥に歯ブラシが当たってしまい、「おぇぇっ」とえづく。
   泡をたっぷりつけてほっぺたをゴシゴシと洗う。
   泡が勢いよく飛んで鏡に飛ぶ。トレーナーの袖口で泡を拭く。

   これまでの乱暴な仕草とは打って変わって慎重な手つきで丁寧にひげを剃る。
   キレイになった顔を満足そうになでる。

〇同 居間(朝)

   散らかった6畳間で正座になりアイロン台でTシャツにアイロンをかけている。
   真剣な目つき。隅々まで折り目正しく伸ばしていく。

   手首にコロンをつけ、心配そうに嗅いでから、力強く頷く。
   最後に、自信満々にTシャツに袖を通す。
   「チョコ☆アラモード」のロゴが光る。

〇地下の劇場

   人でごった返す会場。
   鼠谷は手にサイリウムを何本も持ち、全力でオタ芸を舞っている。
   汗がキラキラと飛ぶ。

   ステージでは、アイドルグループ「チョコ☆アラモード」のメンバー3人、
   チョコ(18)、チェリー(19)、クリーム(16)がそれぞれのパートを歌う。
   チェリーが歌う。

鼠谷「最&高 チェリー!」

   クリームが歌う。

鼠谷「我らのアイドル、クリーム!」

   最後に、センターのチョコが一歩前に出て激しいダンスを踊りながら歌う。
   鼠谷、ここぞとばかりに声を張り上げる。

鼠谷「いけいけ!チョコ!全力…」

   突如、横から大声でコールする牛尾(32)。

牛尾「全力投球、あーよっしゃいくぞー!」

   牛尾の肩が当たり、鼠谷は少し体勢を崩す。
   鼠谷、悔しそうに牛尾を睨みつける。牛尾、構わずコールをしてオタ芸を披露する。

〇会場 前(昼)
 
   チェキの撮影や握手会が行われており、ファンが並んでいる。
   牛尾の後ろに、鼠谷が並んでいる。

鼠谷「ずるいですよ、牛尾さん。あそこのコールは今日から新しいフレーズに変えようって
 言ったじゃないですか。全力投球じゃなくて、全力アタックですよ」

牛尾「そうだっけ?だってアタックより全力投球の方がみんなもなじんでていいじゃん。
 言いやすいし。あっ、次俺の番だ」
 
   牛尾、首を伸ばしてチョコの方を見る。

鼠谷「大体、なんであんたがチョコの列に並んでるんですか?
 牛尾さんはクリーム推しじゃなかったでしたっけ」

牛尾「今日はチョコとしゃべった後でクリームのとこ行くんだよ。
 クリームとは最後に話したいからな!」

係員「次の人」

   係員に促され、牛尾がチョコの元へ行き握手をし、デレデレとしゃべっている。
   なかなか手を離そうとしない牛尾を、鼠谷はイライラと睨みつける。

鼠谷「ったく…。誰でもいいのかよ」

係員「次の人、どうぞ」

   係員に言われ、慌ててリュックからウェットティッシュを出して右頬をゴシゴシと拭く。
   チョコ、笑顔で両手を振る。

チョコ「鼠谷さ~ん」

鼠谷「チョコ、元気か?」

チョコ「うん、チョコは元気だよ!ありがと。鼠谷さん、今日はチェキ撮影で大丈夫?」

鼠谷「う、うん。出来ればほっぺたくっつけて手でハート作りたいんだけど…」

チョコ「オッケー」

   チョコ、満面の笑顔で手で丸を作る。

係員「ポーズ指定はプラス500円ですけど」

チョコ「そんなこと言わなくても、この人はちゃんと分かってるって」

   チョコ、強い口調で係員をたしなめる。

チョコ「鼠谷さんはデビューの時からチョコ推しだもんね!」

   鼠谷、溶けそうな笑顔で頷く。阿吽の呼吸でチョコの左頬と鼠谷の右頬がくっつく。
   二人で手でハートを作る。

係員「はーい、撮ります」

   カシャッという音が響く。

〇鼠谷の自宅 居間(夜)

   鼠谷、撮った写真をクリアフォルダに大切に仕舞っている。
   いろんなポーズで撮っている写真がずらっと並んでいる。

鼠谷(心の声)「チョコ・アラモードは、チョコ、チェリー、クリームの3人で構成された
 地下アイドルだ」

〇(回想)劇場 前の道(夜)

   タイトル「1年前」
   クタクタに疲れた様子でスーツを着て歩いている鼠谷。
   大きなため息をつく。

チョコの声「あのー」

   鼠谷、びくっと振り返る。チラシを持ったチョコが立っている。

チョコ「あの、これからお時間ありますか?」

鼠谷「何?勧誘なら結構です」

   鼠谷、俯いて通り過ぎようとする。

チョコ「あのっ、違います。これ…」
   
   チョコ、恐る恐るチケットを差し出す。

鼠谷「チョコ・アラモード?何?これ」

チョコ「私、地下アイドルやってるんです」

鼠谷「地下、アイドル…?」

チョコ「今日のライブ全然お客さん入ってなくて…、マネージャーに怒られちゃって。
 歌とか好きですか?チケット、1000円なんですけど、あ、でも今日はお金いりません。
 来てくれるだけでいいんで…」

鼠谷「…」

   チョコの必死な瞳を見つめる。

〇同 ライブ会場(夜)

   客のまばらな会場だが、チョコ・アラモードの3人は全力で歌い踊っている。

チョコ「あー、今日はお客さん少なめだけど、どんどん熱くなってこー!」

   チョコ、客を煽るがいまいち盛り上がらない。鼠谷、チョコを見つめ続ける。
   だんだんと曲に合わせて足がリズムに乗って動き始める。
   チョコの額から流れる汗がキラキラと光って見える。鼠谷、笑顔になっていく。

チョコ「盛り上がってきたー!」

鼠谷「おー!(大声)」

   チョコ、その声に驚きながらもうれしそう。

鼠谷(心の声)「毎日、家と職場の往復で冷め切っていた俺の心にチョコの歌声が染み渡った」

   笑顔でこぶしを突き上げる鼠谷。
  (回想終了)

〇鼠谷の自宅 居間(夜)

   鼠谷、VRの器具をつける。部屋を暗くしてスイッチを入れる。
   ログインし、女性キャラを選択する。「チーズ」と言う名前のキャラになり、
   VRの世界で素敵なログハウスに入る。
   チーズはチョコにそっくりの容貌。

鼠谷(心の声)「最近は、バーチャルの世界でチョコにそっくりのキャラクターに
 なりきって生活することにはまっている。こうしていると、決して交わることがない
 チョコと俺が、同じ世界に暮らしているような錯覚に陥るから不思議だ」
 
   ログハウス内には何人か美少女キャラがいて思い思いのことをしている。

鼠谷(心の声)「こうして、チョコになりきって生活していると、6畳一間の汚い部屋で
 寝ている現実の俺を忘れられる。こんな素敵な部屋でチョコと二人きりで過ごせたら…
 いや、いかんいかん。こんな穢れた妄想でチョコを汚したくない」

   鼠谷、顔を振る。突然話しかけられる。

ミルク「チーズさん、来てたんだ」

チーズ「うん。今日はここで寝ようと思って」

ミルク「今日、何してたの?」

チーズ「好きな子に会ってきたよ」

ミルク「その子って、チーズさんの彼女なんだっけ?」

鼠谷(心の声)「ミルクちゃんは、俺が現実では男だということを知っても話しかけてくれる、
 VRの世界の友達だ」

チーズ「…彼女ではない。けど、すごく大切な存在だしいつか彼女になってくれたら、
 ってどうしても考えちゃう」

ミルク「それって、悪いことじゃないと思うよ。
 好きな子は独占したいって思うのは当たり前だよ」
 
   ミルク、首をかしげている。

チーズ「ありがとう。もう寝よっか」

ミルク「うん、おやすみ」

   チーズとミルク、隣同士のベッドで寝転んで眠る。

鼠谷(心の声)「チョコのライブとVRの世界、俺にとっての幸せはこの二つだ」

〇みのり出版 外観

   オフィスビル。「みのり出版」と書かれた看板。

〇同 オフィス

   鼠谷、必死でパソコンのキーボードをたたいている。
   桐谷部長(53)が鼠谷に声をかける。

桐谷「鼠谷。例の先生のとこ行ってくれたか?」

鼠谷「なんで営業の俺が原稿取りに行かないといけないんですか」

桐谷「しょうがないだろ、編集のやつらでは落とせないって言うんだから」

   鼠谷、ぶぜんとした表情で桐谷の方を見る。
   ため息をついて机の恥に置かれたライトノベル「イロコイ、成仏させます!」を
   手に取る。作者の名前は「鈴木キャット」。

桐谷「面白かったか?それ」

鼠谷「はい、って部長読んでないんですか?」

桐谷「今、一番売れてる新進気鋭のライトノベル作家だ。今年中にうちから書き下ろし
 新刊!頼んだぞ」
 
   背中をぽんと叩く。鼠谷、ため息をつく。

鼠谷「けど、鈴木先生って編集の連中がどれだけ連絡してもアポどころか電話にも
 出ないんでしょ?望み薄じゃないですか?」

桐谷「そこを、何とかするのがお前だろ~!頼むぞ」

   桐谷、デスクへ戻って行く。
   鼠谷と目が合う度に「がんばれ!」「期待してるぞ!」と言って来る。
   スマホが鳴る。牛尾から連絡「今日ももちろん、行くだろ?」と言うメッセージ。
   鼠谷、素早く「もちろん」というスタンプを送る。

〇鈴木キャットのアパート 前

   鼠谷、ぼろいアパートを見上げる。

鼠谷「ここが今乗りに乗ってる鈴木先生のアパートかぁ。意外だな…」

〇鈴木の部屋の前

 「猫田」と書かれた表札。

鼠谷「あぁ~、それでキャットか」

   鼠谷、そっとドアに耳をつける。

鼠谷「アポなしで来たのまずかったかなぁ」

   中から音楽が聞こえる。

鼠谷「ん?中にいるみたいだ。何聞いてるんだろう」

   鼠谷、ドアに耳をぴったりつけ目を閉じる。周囲の音が消えていく。
   かすかに聞こえていた音楽が大きくなっていく。
   鼠谷、徐々に足がリズムに乗っていく。繰り返されるフレーズ。
   鼠谷、思わず歌を口ずさむ。

チョコの歌声「どうしてうまくいかないの。それは、それは神が勝ってる、神が勝ってるから」

   鼠谷、はっと目を開ける。

鼠谷「これは…!チョコ・アラモードの新曲「神☆が勝ってる?」じゃないか!?」

   鼠谷、サビの部分で思わずオタ芸が出てしまう。バッグを置いて本格的に踊る。

鼠谷「よっしゃ、いくぜー!チョコ!チェリー!クリーム!チョコ・アラモード!」

   バンっとドアが開く。猫田(26)が顔を出す。
   前髪が長くボロボロのTシャツにサンダルというむさくるしい姿。

猫田「誰…ですか?」

   鼠谷、はっと我に返り慌てて名刺を差出す。

鼠谷「失礼しました。わたくし、みのり出版の鼠谷と申します」

猫田「えっ、出版社の人ですか…?」

   猫田、すーっとドアを閉めそうになる。鼠谷、慌ててドアを押さえる。

鼠谷「先生!今かけていらっしゃったCD、もしかしてチョコ・アラモードの
 曲じゃありませんか!?」

猫田「知ってるの?」

鼠谷「(大声で)もちろんです!あ、失礼しました。
 僕、チョコ・アラモードがデビューした当時から大ファンで!」

   猫田、かすかに震えている。

鼠谷「あの、先生もお好きなんですか…?」

   猫田、ドアを開ける。

〇猫田の部屋 居間

   壁にチョコ・アラモードの大きなポスターが貼ってある。
   猫田、震える手で「神☆が勝ってる?」のCDを持っている。

猫田「これ、これすごくいい曲ですよね。ぼぼぼ、僕、アイドルとか全然知らなかったんだけ 
 ど、好きなゲームの動画を観てたらBGMでかかってて、それから大好きになって!」

   興奮した様子の猫田。

鼠谷「分かります!神曲ですよね」

猫田「僕、ほんとに感動して。特にこの子」

   猫田、チョコを指差す。

猫田「チョコっていう子が本当に一生懸命で、僕応援したくて…!」

   鼠谷、猫田の手を取る。

鼠谷「チョコ…!そうなんです、チョコは結成当初から本当にチョコ・アラモードを愛してて、
 ファンに対しても熱い子なんです!ライブの時なんてそりゃあ、最高で…」

猫田「ライブ?」

鼠谷「僭越ながら、先生はライブには行かれたことは?」

猫田「ないです。僕、友達もいないし人見知りなんで、人が多い所はちょっと…。
 鼠谷さんはよく行かれるんですか?」

鼠谷「もっちろんです!CDや動画で観るのもいいですが、アイドルは何といっても生です!
 ライブが最高です!特にチョコ・アラモードは本気ライブが売りなんで絶対に
 ライブに行かれた方がいいですよ」

猫田「行きたいなぁ」

鼠谷「行きませんか!?今夜、ライブありますよ」

   猫田、おずおずと。

猫田「一緒に連れて行っていただけますか?」

鼠谷「もちろんです!私にお任せください!そうと決まれば…(部屋の中を見回す)
 先生、グッズは何かお持ちですか?」

猫田「いや、全然」

鼠谷「分かりました!あ、服も着替えないと。サイリウムも足りないな。あ、大丈夫です。
 今日の所は私の予備のグッズをお貸ししますから。
 それに、主要な曲だけはオタ芸とコールを覚えておいた方がいいな…。
 先生、一度家に帰って道具を持って来てもよろしいですか?」

猫田「分かりました、あ、だけど」

鼠谷「はい?」

猫田「先生はやめてください。だって、今は鼠谷さんが僕の先生じゃないですか」

 鼠谷、猫田、お互い照れたように笑う。

〇ライブ会場(夜)

   鼠谷、猫田がお揃いのTシャツを着てサイリウムを持っている。牛尾がやって来る。

牛尾「お、なんだ?お連れさんかい?」

猫田「どうも、こんにちは」

鼠谷「俺の仕事関係の人。今日が初ライブなんだ」

牛尾「そっか、よろしく。クリームは俺のだから」

猫田「あ、僕はチョコちゃん推しです」

牛尾「なんだ、おたくとかぶってんじゃん」

猫田「あ、ごめんなさい」

鼠谷「いやいやいや、一人でもたくさんの人に応援していただきたいですから!」

牛尾「鼠谷は、トップオタだからな」

鼠谷「えっ」

猫田「トップオタって何ですか?」

牛尾「ファンが認めるオタ中のオタってことさ」

鼠谷「いいのか?俺がトップオタで」

牛尾「と言っても、チョコちゃん専門のトップオタな」

   鼠谷、口をとがらせる。会場暗くなる。
   オープニングの曲が流れ、ファンたちがコールをし始める。

ファン達「チョコ!チェリー!クリーム!我らがチョコ・アラモード!」

猫田「ワクワクしてきました!」

   チョコ・アラモードのメンバーが出てくる。
   しかし、チョコ、チェリーの二人だけ。

牛尾「あれ?クリームがいないぞ」

   鼠谷、心配そうにチョコを見つめる。

チョコ「皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます」

   暗いメロディが流れる。ファン、ざわつく。

チョコ「実は、私達チョコ・アラモードのメンバーの一人、クリームから
 脱退の申し出がありました」

ファン「えー!?」
  
   チョコ、目に涙を溜めている。

鼠谷「チョコ…」

チョコ「突然の発表で申し訳ございません」

チェリー「私達も、クリームからの突然の申し出に戸惑っているところです」

チョコ「最後にファンの皆さんとお別れをしてほしかったのですが、クリームの意志は固く、
 今日は二人だけのパフォーマンスになります」

牛尾「おいおい、ほんとかよー」

   ざわつくファン。クリームの写真がプリントされたTシャツを着たファンが一人、
   二人と外へ出て行く。

チョコ「クリームファンの皆さん、がっかりさせて本当にごめんなさい!」

   泣いているチョコを見て鼠谷が声を上げる。

鼠谷「チョコ!がんばれ!お、俺がついてるぞ!」

   それを見た周りのファンも声を上げる。

ファン1「そ、そうだ」

ファン2「俺達はいつまでも応援するぞ!」

鼠谷「おー!」

   拍手が巻き起こる。猫田、それを見て感動したように瞬きをする。

牛尾「そうだ!俺はクリームファンだったけど、今からチェリーファンになるぞ!」

   笑いが起きる。
チェリー「ありがとう!」

   チョコ、鼠谷の方をチラッと見る。鼠谷、大きく頷く、それを見たチョコが笑顔になる。

チョコ「それじゃあ、今夜も全力でパフォーマンスします!聞いてください。
 新曲の『神☆が勝ってる?』です」

   チョコ、チェリーが曲に合わせて踊り、歌い始める。
   鼠谷、周りのファンも全力で踊り始める。

〇ライブ会場 外(夜)

   鼠谷、牛尾、猫田が会場外の階段に並んで座っている。

鼠谷「猫田さん、初ライブはどうでした?」

猫田「なんだか…、もう感動の嵐です」

牛尾「それにしてもクリーム…、いっつも元気だったのにどうしたんだろうな」

鼠谷「地下アイドルは、地上のアイドルと違ってプライベートが守られていない。
 危ない目にあったりすることもあるし、時には嫌な仕事だってあるさ」

猫田「そうなんですね…」

牛尾「だよな、俺もこれからはチェリー推しとして引き続きチョコ・アラモードを応援するぜ」

鼠谷「正直、意外でした。牛尾さんはクリームの次はチョコ推しだと思ってたんで」

牛尾「チョコもいいけどな…、じゃあ、俺明日も早いからもう行くな」

 牛尾、二人に手を振って去って行く。

猫田「やっぱりライブの方がいいですね。なんか僕、彼女達のパフォーマンスを見ていたら
 創作意欲が泉のように湧いてきました」

   猫田、すくっと立ち上がる。

猫田「僕、帰ってすぐ書きます!新作の長編書き下ろし」

鼠谷「え!」

猫田「鼠谷さん、その為に来たんじゃなかったんですか?」

   猫田、にこっと笑う。鼠谷、ガッツポーズをする。

〇バーチャルの世界(夜)

   鼠谷、寝転がってバーチャルの世界に入っている。
   チーズとミルクが海辺で月を見上げている。

チーズ「今日、好きな子が泣いてたんだ」

ミルク「どうして?」

チーズ「大好きな友達と別れないといけなくなったみたい」

ミルク「引っ越しとか?」

鼠谷(心の声)「さすが、リアルな女子は言うことがメルヘンだなぁ」

チーズ「まぁ、そんなようなもん」

ミルク「チーズさんはどうしたの?」

チーズ「俺なりのやり方でなぐさめたつもり」

ミルク「笑ってくれた?」

チーズ「うん、最後は元気になったから安心した」

ミルク「チーズさんほんと優しいね。チーズさんみたいな人が彼氏だったらなぁ」

鼠谷「えっ!」

   鼠谷、思わず上体を起こす。

ミルク「なんちゃって。そろそろ寝る?」

チーズ「うん、おやすみ」

   ミルク、浜辺に寝ころぶ。
   鼠谷、部屋の電気を消して横になる。

〇みどり出版 オフィス 会議室

   鼠谷、桐谷が並んで座り、向かいに猫田が座っている。
   鼠谷、原稿をぱらぱらとめくっている。横から桐谷が覗き込んでいる。
   タイトル「アイドル・モード」となっている。桐谷、顔を上げる。

桐谷「ジーニアス!天才です、先生!たった一週間でこれを?」

猫田「(照れて)はい」

鼠谷「面白いです。けど、チョコが大好きで世界中の珍しいチョコを集める為に
 アイドルとなって働くって言うこのストーリーは…」

猫田「この間一緒に行ったライブからヒントをもらいました」

桐谷「おい、先生とプライベートでもお会いしてるのか?やるなぁ、鼠谷。
 先生、早速、編集部とも相談して単行本発売に向けて動きたいのですが」

猫田「あの、この作品を出版するにあたって一つ条件があります」

桐谷「なんでしょう」

   猫田、チョコ・アラモードのCDを取り出す。

鼠谷「先生!?」

猫田「この作品のモデルになった地下アイドルの「チョコ・アラモード」です」

   桐谷、CDを受け取り「ほぅ」と眺める。

猫田「このチョコ・アラモードに声優をお願いして、アニメ化を前提に単行本化して
 欲しいんです」

鼠谷「アニメ化ですか!?」

桐谷「先生の本は一度もアニメ化はされてませんよね?
 おい、鼠谷これは画期的なご提案だぞ!」

猫田「鼠谷さん、新参者の僕がこんなことを申し上げるのは出過ぎた真似かもしれませんが…、
 彼女達をもっと有名にしたいと思ったんです。僕なりに、彼女達を応援したいんです」

鼠谷「猫田さん…、そんなにまで彼女達のことを。ありがとうございます!」

桐谷「鼠谷、これは売れるぞぉ!」

猫田「ぜひ、お願いします」

鼠谷「任せてください!」

〇アイドル事務所 前

   鼠谷、高級チョコの袋を持っている。
   何度も時計を見たり周りをきょろきょろしたりしている。
   猫田がやって来る。

猫田「鼠谷さん、お待たせしました!」

   猫田、パリッとしたスーツに身を包んで、髪も切って整えられている。
   これまで、前髪で隠れていたがイケメン。鼠谷、目を見開く。

鼠谷「キャット先生!随分変わりましたねぇ」

猫田「変ですか?」

鼠谷「いえいえ、見違えちゃいましたよ」

猫田「ついにチョコちゃんに会えると思ったら…勇気出して美容室行っちゃいました」

鼠谷「ですよね。あぁもう俺!緊張しちゃって…ライブではしょっちゅう会ってるけど
 こんな風に外で会うのは初めてだから」
 
  猫田、腕時計を見る。

猫田「時間だ、行きましょうか」

   鼠谷、頷いて率先して歩く。

〇アイドル事務所 中

   チョコ、チェリーが座っている。 
   鼠谷、猫田も座る。チョコ、手で口を覆い驚愕の表情。

チョコ「えー!えー!鼠谷さんって、出版社の人だったんですかぁ!?」

鼠谷「はは、なんか改めてこうして会うと恥ずかしいよね」

   鼠谷、頭をかく。猫田、ハンカチで汗を拭いている。
   マネージャーの島田香(38)がお茶を出してくれる。

香「チョコがいつもお世話になってます」

   鼠谷、背筋を伸ばして。

鼠谷「こちらこそ。今日はお時間をいただきありがとうございます」

香「いつもライブにも来てくださって。チョコも鼠谷さんのことは信頼してるんです。
 心強い親衛隊だねっていつも話してるんですよ」

チョコ「うんっ、だって私が駆け出しの頃からずっと応援してくれてるもん」

鼠谷「いや、こちらこそいつもチョコちゃんからは元気もらってます」

   チェリー顔色が悪い。口に手を当てている。

香「チェリー大丈夫?ごめんなさい、この子ちょっと風邪気味で…」

鼠谷「えっ、チェリー大丈夫?」

チェリー「すみません、今日は帰ってもいいですか?」

鼠谷「もちろん」

香「ちょっと、失礼します」

   香、チェリーを連れて外へ出る。

チョコ「クリームがやめてから、チェリー元気ないんだ…」

鼠谷「そうなの?心配だね」

チョコ「うん。早く新メンバー入って欲しいな」

鼠谷「新メンバーが入る予定があるの!?」

チョコ「うん!でも、まだ内緒だよ」

   チョコ、人差し指を立てる。

鼠谷「そりゃあ、楽しみですね」

   鼠谷、猫田を肘でつつく。

猫田「う、うん。はい」

チョコ「こちらは?」

鼠谷「あ、今人気のライトノベル作家の鈴木キャット先生です」

猫田「よ、よろしく」

チョコ「えー!この人が鈴木キャットさんなの!?
 『イロコイ、成仏させます!』読んでるよ!?」

   チョコ、興奮してバッグから単行本を取り出す。猫田、手で顔を覆い隠す。

鼠谷「ごめん、キャット先生はすっごい恥ずかしがり屋なんだ。
 それに、チョコの大ファンなんだよ」

   猫田、顔を覆い隠しながら頷く。

チョコ「そぉなんですか!?うれしい!」

猫田「こ、この間ライブ観ました。か、感動しました。お、俺すっごく」

   香が戻ってくる。

香「すみません、チェリーは帰らせました。それで、今日はアニメのお話でしたっけ」

チョコ「アニメ!?」

鼠谷「そうなんです、この、鈴木キャット先生が書かれた新作長編のアニメ化に伴って、
 チョコ・アラモードに声優をお願いできないかなって」

チョコ「何それ、すごーい!」

猫田「あの、僕がチョコ・アラモードのライブに感動して書いた作品なんです。
 ぜひ、お願いします」

チョコ「はいはーい!チョコ、やります」

猫田「ほんと!ありがとう」

 チョコと猫田、しばし見つめ合う。鼠谷、その様子を見て慌てて割って入る。

鼠谷「僕も、この役にはチョコの声がぴったりだと思ってたんだ」

チョコ「ありがとうございます。チョコ、がんばっちゃう!
 あ、キャット先生、単行本にサインお願いします」
 
   チョコから本を手に取る時、チョコと猫田の指が触れ合う。
   猫田、思わず手を引っ込める。猫田、赤くなっている。
   チョコ、にこにこして猫田を見つめている。
   鼠谷、チョコ、猫田の顔を交互に見る。

〇バーチャルの世界(夜)

   ハワイのようなリゾート地。
   鼠谷、VRの機械をつけて座椅子に座ってぼんやりしている。
   チーズとミルクが揃って水着姿、サングラスで寝そべっている。
   傍らにはトロピカルジュースやフルーツ盛り。

チーズ「俺って心が狭いのかな」

ミルク「どうしたの?」

チーズ「俺の好きな子が、他の男としゃべってると心がもやもやするんだ」

   鼠谷、頭をかきむしる。

チーズ「っていうか、すっごいイライラしてるかも。俺の方が先に好きだったのに」

ミルク「…」

チーズ「って、俺だけの彼女じゃないもんな。こんな風に思ったら彼女に迷惑だよね。
 大体、俺なんかのこと元々眼中にないんだし」

ミルク「意気地なし」

鼠谷「えっ」

   鼠谷、チーズの目を通してミルクを見る。

ミルク「そんな風に遠慮ばっかして…」

   ミルク、サングラスを取ってチーズを見つめる。

ミルク「自分に自信がないのを彼女のせいにしてるだけじゃん。恋は早い者勝ちなんだよ。
 彼女をとられてから後悔したって遅いんだぞ!」
 
   ミルク、ふいっと立って行ってしまう。ミルクのステータスが「不在」になる。
   鼠谷、唖然とする。

   ミルクの書き込んだ文面を見つめる。
   「恋は早い者勝ち」という所が目に飛び込んでくる。

〇ライブ会場(夜)

   鼠谷、いつものようにオタ芸を踊りながらコールを叫ぶ。
   隣には猫田が楽しそうにステージを見つめている。

ミルクの声「自分に自信がないのを彼女のせいにしてるだけじゃん」

   ステージ上のチョコが、鼠谷の方に向かって笑顔で指を差す。
   鼠谷、サイリウムを振って応える。
   次の瞬間、チョコが猫田に向かってウィンクをする。

   鼠谷、驚いて猫田の方を見る。猫田、遠慮がちにウィンクを返している。

ミルクの声で「彼女をとられて後悔したって遅いんだぞ!」

   鼠谷、もう一度猫田の方を見る。猫田、覚えたてのコールをしている。
   隣にいた牛尾が、肘で鼠谷をつつく。

牛尾「おい、なんかチェリーの様子おかしくないか?」

鼠谷「え?」

   鼠谷、チェリーの方を見る。チェリー、動きが鈍い。ダンスに切れがない。

鼠谷「本当だ、どうしたんだ?」

   ついにチェリー口を押えて退場してしまう。

牛尾「チェリー!?」
  
   チョコ、チェリーの方を気にする

チョコ「チェリー!?あー、なんかチェリー具合悪くなっちゃったのかも!
 ちょっとの間私一人で我慢してね!」
 
   鼠谷、心配しつつもチョコに声援を送る。

鼠谷「チョコ!がんばれー」

〇ライブ会場 外(夜)

 鼠谷、スマホを覗き込んでいる。猫田と牛尾、階段に座っている。

猫田「なんか情報出てますか?」

鼠谷「いや、まだ。あ!チェリーのブログが更新された。ファンサイトもだ」

牛尾「なんだって?」

鼠谷「急なご報告ですが、私チェリーはチョコ・アラモードの一員として活動してきましたが、
 体調不良が続いた為、卒業させていただきます。だって!」

牛尾「嘘だろ!?」

鼠谷「おいおい…、チョコ・アラモードはどうなるんだよ?
 チェリーが抜けたらチョコ一人になっちゃうじゃないか」

牛尾「あー、せっかくチェリーのこと好きになりかけてたのに…。俺、どうしよ」

猫田「やっぱり本当だったんだ」

鼠谷「え?本当って何が?」

猫田「あ、いや。ちょっとある筋から聞いたんですけど、チェリーは妊娠してるらしいです」

鼠谷「え!」
牛尾「え!」

鼠谷「それ、本当ですか?何の情報?」

牛尾「アイドルが妊娠ってありかよ!?一体誰の子だよ!?」

猫田「あ、いや。ちょっと噂って言うか…」

   猫田がさっと隠したスマホの画面に、メッセージアプリがちらっと見える。

鼠谷(心の声)「まさか…、チョコとメッセージのやり取りをしてるのか!?」

   猫田、二人から隠すようにスマホで何か打っている。鼠谷、その指元を凝視する。

鼠谷(心の声)「あの時、打ち合わせ後にチョコと連絡先を交換してたのか!?」

〇(鼠谷の妄想)アイドル事務所 廊下

   チョコと猫田がいちゃいちゃとスマホを突き合わせて連絡先の交換をしている。
  (妄想終了)

〇ライブ会場 外(夜)
 鼠谷、俯いてこぶしを震わせる。

鼠谷(心の声)「俺だって、チョコのプライベートの連絡先なんて聞けてないのに…」
 
   鼠谷が猫田を睨みつけている様子を、牛尾が見つめている。

牛尾「あぁー、それじゃあ俺帰るよ。なんかやる気なくなっちゃった」

鼠谷「えっ、牛尾さん」

牛尾「チョコ・アラモードの応援は続けるから、ご心配なく」

   牛尾、元気なく手を振って去る。

猫田「じゃ、僕も帰りますね」

   猫田も歩き始める。
   鼠谷、少し考えてから猫田を尾行する。

〇住宅街(夜)

   猫田、歩いている。鼠谷、こっそり後をつける。
   猫田、アパートに入る。鼠谷、アパートを見つめる。

鼠谷「俺…、何やってんだろ」

   ピコンとスマホが鳴る。「ブログが更新されました」というメッセージが出る。
   鼠谷、慌ててチョコのブログを確認する。

   チョコのブログ「みんな、今日はライブに来てくれてありがとう。
   チェリーの件、びっくりさせてほんとにごめんね。次のライブでちゃんとお話しします。 
   とりあえず今夜は、おやすみなさい」 涙マークの絵文字。

   鼠谷、それを見つめて慌ててコメントを書く。
   「チョコ、元気出せ。俺がついてる…」と言うところまで打ち込んで、
   ため息をついて夜空を見つめる。

鼠谷「チョコ、こんな時に側にいてやれなくて…。ふがいない俺で、ごめん!」

   鼠谷の目から涙が一筋流れる。

〇みどり出版 オフィス

   鼠谷、イヤホンでチョコ・アラモードの曲を聞いている。
   真剣なまなざし。桐谷が近づいてくる。

桐谷「おいっ、チョコ・アラモードから声優の件キャンセルが入りそうって本当か?」

鼠谷「あ、はい…。実はグループ自体が解散の危機なんですよ」

桐谷「おいおい、どうするんだぁ?アニメ化前提じゃないと、先生の本発売できないんだぞ」

鼠谷「はい…」

桐谷「ぶっちゃけ、他のアイドルじゃダメなのか。別に誰だっていいだろ、
 アイドルなんてたくさんいるんだから」
 
   鼠谷、イヤホンを取り勢いよく立ち上がる。

鼠谷「それはダメです!キャット先生にとっては、いや、俺達にとって、
 他のアイドルじゃダメなんです!」

桐谷「な、なんだよ」

鼠谷「そうか、そうだよ。チョコ・アラモードは解散させちゃダメなんだ…」

   鼠谷、こぶしを握る。

鼠谷「部長!俺チョコ・アラモードに引き続き仕事してもらえるようがんばります!」

桐谷「うん、頼んだぞ」

   鼠谷、バッグを持ってオフィスを飛び出す。

〇アイドル事務所

   鼠谷、チョコ・アラモードの事務所のドアを叩く。
   ドアは閉まっていて誰も応答しない。

鼠谷「くそ!」

   鼠谷、走り出す。

〇ライブ会場
   ライブ会場も閉まっている。鼠谷、中の音を確かめるが、物音がしない。
   鼠谷、俯いて少し考えてから、走り出す。

〇猫田のアパート 前

   鼠谷、アパートのチャイムを押す。ドアが開く。
   チェーンがかかっている。ドアの隙間から猫田が覗いている。

猫田「鼠谷さん!?」

   鼠谷、頭を下げる。
   猫田、チェーンを外す。

鼠谷「お願いします!チョコに連絡が取りたいんです」

猫田「え!?」

鼠谷「キャット先生は、チョコと連絡が取れるんじゃないんですか?」

猫田「ちょっとちょっと」

   猫田、鼠谷を押し返す。玄関に女性の靴がある。
   鼠谷の視線に気づいた猫田、慌てて鼠谷を外に出そうとする。

鼠谷「まさか…、中にチョコがいるんですか?チョコ!チョコ、俺だ、鼠谷だ!」

猫田「やめてください!」

   猫田、鼠谷を外に出してドアを閉める。鍵も閉められる。
   鼠谷、ドアを叩く。

鼠谷「キャット先生!お願いします!」

   鼠谷、力なくその場にうずくまる。

鼠谷「チョコ・アラモードは俺の生きがいなんだ…」

〇バーチャルの世界(夜)

   鼠谷、VRの機器をつけてミルクを探し回る。
   街、海、ログハウスのどこにもいない。
   鼠谷、力なく機器を取り外そうとする。
   すると、ミルクのステータスが「在席」になる。

鼠谷「ミルクちゃん!?今までどこに行ってたの?」

   チーズの前にミルクが現れる。

ミルク「チーズさん急に消えてごめんね」

チーズ「ううん。ミルクさんの言う通りだったよ」

ミルク「え?」

チーズ「俺がもたもたしてたから、彼女にもう会えなくなっちゃうかもしれないんだ」

ミルク「どうしたの?」

チーズ「彼女が、今とっても傷ついてるかもしれないのに俺何にもしてやれないんだ」

ミルク「チーズさん、これから会えない?リアルで」

チーズ「えっ?だって俺、男だよ?」

ミルク「どうしても、会って話したいことがあるの」
 
〇公園(夜)

   鼠谷、ブランコに座っている。俯いて時計を見ていると、
   隣のブランコに誰かが座ってくる。鼠谷、ぎゅっと鎖を握り締めてから顔を上げる。
   そこに、牛尾が座っている。

鼠谷「え…、牛尾さん?どうしてここに?」

牛尾「…」

鼠谷「も、もしかして」

牛尾「ミルクは、俺だ」

   鼠谷、思わず立ち上がる。

牛尾「騙すような真似をしてすまない。俺、チーズさんが鼠谷だって知ってた」

鼠谷「え…、どうして?」

牛尾「いつだったか、バーチャルの世界のキャラのスクショを撮ったのを見てるのを、
 こっそり見ちまったんだ」

〇(回想)ライブ会場

   鼠谷と牛尾が行列に並んでいる。
   鼠谷のスマホ画面を、後ろから牛尾が覗き込んでいる
   (回想終了)

〇公園(夜)

   ブランコに、鼠谷と牛尾が座っている。 

牛尾「チーズさんに出会いたくて、俺もバーチャルの世界に足を踏み込んだ」

鼠谷「ど、どうして…」

牛尾「俺は…、ゲイだ」

   鼠谷、目を見開く。

牛尾「チョコ・アラモードのライブで鼠谷と知り合ってから、
 お前に会いたくてライブにも通いまくった。
 ずっと俺の頭の中はお前のことでいっぱいだったんだ」
 
   鼠谷、何も言えなくて黙り込む。

牛尾「俺、鼠谷のことが好きだ」

鼠谷「こんな俺のこと、どうして…」

牛尾「そうやって自信なさそうにしてるけど、俺はお前のいい所いっぱい知ってるぜ。
 チョコにまっすぐで一途で…、矛盾してるけどそういう姿を好きになったんだ」

鼠谷「ごめん、俺…」

牛尾「分かってるって!鼠谷はノンケだから何にも期待してない。
 ただ、俺の想いを伝えたかっただけなんだ」
 
   牛尾の目に涙が光っている。牛尾、笑う。

牛尾「けど、VRの中で鼠谷と話したり、一緒に寝たり。まるで女友達同士みたいで
 俺はほんと楽しかったんだぜ」

鼠谷「牛尾…気持ちに応えられなくてごめん。牛尾が言う通り俺はチョコが好きだ。
 チョコ・アラモードも解散させたくない」

牛尾「鼠谷は、本当にそれでいいのか?」

鼠谷「え?」

牛尾「アイドルのチョコを好きなだけでいいのか?お前の想いってアイドルに対しての
 気持ちだけじゃあ、もう抑え切れないんじゃないのか?」
 
   鼠谷、困って手で顔を触る。

牛尾「アイドルじゃなくたってさ…、チョコ・アラモードが解散したって、
 いつでも会える立場になりゃあいいじゃないか。これ、知ってるか?」

   牛尾、スマホを見せる。チョコ・アラモードのHPに
   「チョコ・アラモード緊急ライブ決定!」と書かれている。

鼠谷「これ、いつだ!?」

牛尾「明日だ」

鼠谷「チョコ・アラモードは解散しないのかな」

牛尾「分からん。それからこれ、見てみろ」

   スマホの画面に「プレゼント企画」と書かれている。

鼠谷「チョコの写真集、限定10冊!?これ、いつだ!?」

牛尾「明日の16時からだ。写真集は先着10名まで。発売時間前に並ぶのは禁止だそうだ。
 どうする?」

鼠谷「絶対欲しい!」

牛尾「だよな。お前の為に、俺協力するよ」

鼠谷「牛尾はいいのか?」

牛尾「お前と同じアイドルを追っかけるなんて考えただけでホラーだぜ」

鼠谷「あ!それでクリームの次はチェリー推しなのか」

牛尾「その代わり、ちゃんと想い伝えて来いよ」

   鼠谷と牛尾、握手して笑い合う。

〇鼠谷の自宅 居間(夜)

   電気が消えている。鼠谷、電話をかける。

猫田の声「はい、猫田です」

鼠谷「(バーチャルの機器で女性の声に変えている)キャット先生ですか?
 明日、チョコ・アラモードの限定写真集が発売されるの、知ってますか?」

猫田「知ってますけど…どちら様ですか」

鼠谷「極秘情報ですけど、サイトでは16時から発売になってますけど、
 15時からに変更になります。明日の発売ぎりぎりに発表になります」

猫田「えっ、それ本当ですか?もしもし、もしもーし!」

   鼠谷、ガチャっと電話を切る。

      ×   ×   ×

   窓から朝日が差し込んでいる。

  鼠谷、冒頭で行っていた歯磨き、髭剃り、Tシャツのアイロンがけをする。
  最後に「チョコ命!」と書かれた赤い鉢巻きを力強くしめる。

〇ライブ会場 前

   まだ開いていない会場前。猫田が到着する。
   猫田、腕時計を見る。15時ちょうど。そこに、スタッフが集まって来る。

スタッフ「もしかして、チョコ・アラモードの限定写真集に並んでますか?」

猫田「あ、はい」

スタッフ「事前に並ぶのは禁止されてます」

猫田「えっだって時間が変更になったんじゃ」

スタッフ「こちらで、お話聞かせてください」

   猫田、スタッフに連れていかれる。

〇同 向かいの道

   牛尾の運転する車が止まっている。
   助手席に鼠谷が座っている。

   窓を開けて、鼠谷、牛尾が猫田が連行される様子を見ている。

牛尾「これで邪魔者が一人減ったな。俺達みんなのアイドルに、
 陰でこそこそ手を出してたんだ。これぐらいしたって当然さ」

鼠谷「うん」

牛尾「時間になったら、俺が車でそこの交差点をUターンして会場前につける。
 そしたらお前は走って会場へ行け!」

鼠谷「牛尾、ありがとう」

牛尾「礼を言うのはまだ早いぜ。ほら見ろ、会場前でうろうろしてるやつらは
 どんどん捕まっていく。俺達も用心しようぜ」
 
   鼠谷、牛尾、サングラス、マスクをする。

        ×   ×   × 

  日が暮れかかっている。時計の針が進み、あと1分で16時になる。

牛尾「よし、GOだ!」

   牛尾、華麗なハンドルさばきで車をUターンさせ、会場前に止める。

鼠谷「牛尾、サンキュー!」

   鼠谷、ドアを開けて外に飛び出そうとする。

牛尾「ちょっと待て!」

 牛尾、鼠谷の肩に手をかけて止める。

鼠谷「どうした!?」

牛尾「最後に…一回だけぎゅってさせてくれ」

   鼠谷、黙って牛尾に身を任せる。牛尾、優しく鼠谷を抱きしめる。

牛尾「……行け」

鼠谷「うん」

   鼠谷、走って車から離れる。時計はぴったり16時を指している。
   牛尾、鼠谷の後姿を見て、親指を立てる。

牛尾「がんばれよ」

〇会場前(夕)

   四方八方からファンが走って押し寄せてくる。
   しかし、一番始めに会場に着きそうなのは鼠谷。
   
鼠谷(心の声)「やった!俺が一番だ!」

   突然、鼠谷の体が動かなくなる。猫田が鼠谷の腰にタックルしている。

猫田「ひどいですよー!鼠谷さん!」

   猫田、泣き声を出す。鼠谷の頭から、鉢巻がぱらっと落ちる。

鼠谷「おい!やめろ!離せ!」

   あっという間に会場前に列ができる。

鼠谷「あぁ~!」

   鼠谷、膝から崩れ落ちる。

猫田「僕に嘘の情報流したの鼠谷さんですよね…?」

鼠谷「お前がチョコとこそこそメッセージのやり取りなんかしてるからだろ!
 俺だって個人的な連絡先なんか知らないのに…」

猫田「誤解です!」

鼠谷「誤解!?だったら、チェリーの妊娠情報はどこから聞いたんだ!
 この間も部屋にチョコがいたんじゃないのか!?」

猫田「僕は…、確かにアイドルが好きですけど、リアルに好きなのは年上の女性なんです!
 あの時僕の部屋にいたのは、マネージャーの島田さんです!」

鼠谷「えっ?」

〇(猫田の回想)猫田の自宅 居間

   猫田の部屋の外で鼠谷と猫田が言い合いをしている。
   部屋の中で香が身を潜めている。
(回想終了)

〇会場前(夕)

   鼠谷と猫田がもみ合っている。

猫田「鼠谷さんのことは本当の先生だと思ってたのに…。がっかりです。
 僕は僕で、島田さんと愛を育んでいきますから…。さようなら」
 
   猫田、その場から立ち去る。その時スタッフから声がかかる。

スタッフ「チョコの限定写真集、売り切れました!」

   鼠谷、地面に手をついてうなだれる。

〇ライブ会場(夜)

   満員の会場。
   横断幕「チョコ・アラモード解散ライブ」
   鼠谷、ぼんやりと立っている。

鼠谷「やっぱり、チョコ・アラモードは解散しちゃうんだな…」

   ステージでチョコが一人歌い踊っている。

チョコ「みんなー!チョコもすっごく寂しいけど、最後まで盛り上がってこー!」

   鼠谷、渾身の力を込めてオタ芸を披露する。
   鼠谷が扇動し、ファン全員で力の限り叫ぶ。

鼠谷「せーの!チョコ!チョコ・アラモード、これまでありがとう!
 よっしゃー、いくぜー!」
 
   チョコ、その声を受けて、涙をにじませながらさらに踊る。

   鼠谷の脳裏に、牛尾の声が蘇る。

牛尾の声「アイドルのチョコを好きなだけでいいのか?」

〇会場 外(夜)

   最後の握手会、鼠谷が並んでいると他のファン達から声がかかる。

ファン1「鼠谷さん、最後尾お願いします」
ファン2「そうだ、鼠谷さんが最後がふさわしい」
ファン3「鍵閉めは鼠谷さんだ」

鼠谷「俺が…?最後で、いいんですか」

   ファン達が笑顔で道を開ける。鼠谷、信じられない表情で最後尾に並ぶ。
   鼠谷の目に涙がにじむ。

鼠谷「ありがとう!」

   最後に、鼠谷の番になる。

チョコ「鼠谷さん、最後まで応援してくれてありがとう」

鼠谷「チョコ、解散は残念だけどこれからもがんばって」

   鼠谷、チョコ、握手をする。

チョコ「こんな風になっちゃって、ごめんなさい。
 せっかくいただいたお仕事も出来なくなっちゃって…」

鼠谷「チョコ、そのことは気にしないで、チョコ・アラモードがいてくれたおかげで
 俺も元気になったんだ。ずっと、いっぱい元気もらってたから」

   チョコ、涙ぐむ。そして、こっそりと写真集を取り出す。

チョコ「鼠谷さん、これ、鼠谷さんの為に取っておいたの。もらってください」

鼠谷「いいのか!?俺の為に…ありがとう」

   鼠谷、チョコから写真集を受け取る。その写真集をぎゅっとにぎりしめて目を閉じる。
   鼠谷、目を開ける。

鼠谷「俺、チョコのことが好きだ」

   チョコ、はっとして顔を上げる。

鼠谷「チョコが一生懸命にやってる姿が好きだ。
 それは、アイドルじゃなくなっても変わらない!
 これからは、一人の女性としてチョコと向き合いたい」
 
  鼠谷、自分の連絡先を書いた紙をチョコに渡す。

鼠谷「良かったら、連絡してほしい」
 
   スタッフが「あ、そういうのは」と止めに入るがチョコが手で制止する。
   チョコ、紙を受け取る。

チョコ「私…(俯く)」

鼠谷「困らせてゴメン。だけど、チョコが傷ついた時、困った時、
 俺が支えになりたいって思ったんだ。
 ルール違反かもしれないけどそれが俺の本当の気持ちだから」
 
   チョコ、頷く。鼠谷、一礼してその場を去る。

〇同 外(夜)
 
   鼠谷、会場の外に出て空を見上げる。

鼠谷「終わった…」

〇みどり出版 オフィス

   鼠谷、桐谷のデスクの前に立って、説教をされている。

桐谷「ったく、キャット先生の新作が白紙になったってどういうことだよ。
 お前、キャット先生に何かしたのか?」

鼠谷「すみません」

桐谷「アニメ化が出来なくても、本だけ書いてもらうとかなんとか、やりようがあっただろ。
 大体お前は…。あれ!?キャット先生!?」

   桐谷がすっとんきょうな声を上げる。
   猫田、恥ずかしそうに立っている。

鼠谷「キャット先生、どうされたんですか!?」

   猫田、原稿を差し出す。

猫田「例のアイドルの企画、書き直してみたんです」

鼠谷「え!?」

   鼠谷、桐谷、原稿を覗き込む。

タイトルは「ビバ!アイドル・モード」

猫田「僕たちが応援してたチョコ・アラモードのマネージャーをやっていた方が、
 新しいアイドルグループを立ち上げたんです」

鼠谷「えぇ!」

猫田「今はその子達に夢中で…。僕、やっぱりアイドルが好きみたいです。
 その子達に声優をやってもらって、アニメ化を前提に…」

桐谷「すぐ!打ち合わせに入りましょう!」


   桐谷、猫田の肩を抱いて会議室へと連れて行く。
   猫田、鼠谷に向かってウィンクをする。
   鼠谷、笑う。

桐谷「鼠谷!お前もすぐ来いよ」

鼠谷「はい!」

   鼠谷、デスクの引き出し筆記用具などを取り出す。
   鼠谷、スマホを見てため息をつく。

   その時、スマホが鳴る。
   鼠谷、驚いてスマホを確認する。

   チョコからメッセージが届いている。
   鼠谷、目を見開いてスマホを見つめる。

   チョコが、大自然の中、農作業をしている写真が添付されている。

チョコの声「鼠谷さん、お久しぶりです。私は実家の北海道に帰って来ています。
 自然に囲まれて生活していると、地下アイドルとして活動していたことが
 夢みたいに思う時があります。
 
〇北海道 畑の中
 
   土にまみれて働くチョコ。


チョコの声「こっちの方が向いてるのかな。自分でもまだ分かりません。
 もしまたアイドルとして戻りたくなったら…その時はあの劇場に帰りたいなって思ってます」


   チョコ、汗を拭いて空を見上げる。


チョコの声「鼠谷さんもその時は応援してくださいね」

〇みどり出版 オフィス


   鼠谷、微笑んでスマホを仕舞おうとする。
   そこに、再びチョコからメッセージが届く。

メッセージ「まずはお友達からお願いします。私の名前は佐藤心愛(ここあ)です。
 甘そうな名前でしょ(笑)これからも、よろしくお願いします」

   鼠谷、目を丸くしてメッセージを何度も読む。
   「これからも、よろしくお願いします」というフレーズが目に飛び込んできて、
   笑顔になる。

鼠谷「よっしゃあー!」

   鼠谷、飛び上がってジャンプする。

桐谷「おーい、鼠谷。キャット先生が待ってるぞ」

鼠谷「はい!」

   鼠谷、大きな声で返事をする。笑顔でスマホを引き出しに仕舞う。
   引き出しの奥に、チョコ・アラモードの赤い鉢巻が大切にたたんで仕舞われている。

                                 了

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