パウンド・フォー・パウンド ドラマ

生意気だがボクシングが好きでたまらない主人公が好きな子との約束を守るため試合に臨む。
しらいしりょーや 9 0 0 10/30
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第一稿

登場人物

楠  士郎 (18)  新人のプロボクサー
天野 歌子(18) 格闘技嫌いの士郎の同級生
立花 薫(22)   ジムの先輩。日本チャンピオン
川上 修平(20 ...続きを読む
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登場人物

楠  士郎 (18)  新人のプロボクサー
天野 歌子(18) 格闘技嫌いの士郎の同級生
立花 薫(22)   ジムの先輩。日本チャンピオン
川上 修平(20)  アマ出身のプロボクサー
柿崎 勝平(32)  ジムの会長
野呂 楓花(18)  歌子の同級生
カネキン
ナリキン
記者
男性A
男性B
サラリーマン
巨漢男


〇足立ジム・外観
  立派な戸建ての玄関に『足立ジム』と看板が掲げられている。
記者の声「じゃあ、最後に川上君にとってボクシングって何かな?」

〇 同・中
  テーブルを挟み対座している記者と川上修平(20)。その隣で不機嫌そうに
  角砂糖を積み上げる楠士郎(18)がいる。
川上「(笑顔で)難しい質問だなぁ。まあでも強いて言うなら『挑戦』ですか 
 ね」
記者「というと?」
川上「(拳を突き出し)この行為が僕からすると殴るっていうより、夢や勝利 
 を掴み取るっていうのが近くて……」
士郎「ぷっ!」
  士郎が吹き出し、積み上げていた角砂糖が崩れる。
  川上と記者が士郎を見る。
記者「えっと、どうしたのかな楠君?」
川上「(苦笑いで)そんなに変なこと言ったかな?」
士郎「うん。俺なら口が裂けても言えないね」
川上「(笑顔が消える)……」
士郎「掴み取るって、なら拳開きなよ。グーじゃ当たるだけでしょ?」
  川上と対照的に小ばかにするような笑みを浮かべる士郎。
  記者、傍にいたカメラマンに指示を出す。
  カメラを構えシャッターを切るカメラマン。

タイトル『パウンドフォーパウンド』

〇 士郎の寮・外観(早朝)
  目覚ましの音が響いている。

〇 同・中
  人のいないベッドの上で目覚ましが鳴っている。
  男性が入って来て目覚ましを止める。
男性Aの声「たくっ、うるせえな」
  止めて、のろのろと出て行く男性。

〇 新聞屋・中(早朝)
  新聞を結んでいる士郎の姿。
  ぞろぞろと人が入って来る。
士郎「あっおはようございまーす!」
男性A「楠てめえ、先に出て行くなら目覚まし止めてけ!」
士郎「そんなに怒らないでよぉ。代わりにコレまとめておきましたから」
  と、笑顔で新聞の束を渡す士郎。
男性A「え、ああ、ありがとう」
士郎「どういたしましてぇ!」
  笑って出て行く士郎。
男性B「(呆れて)またですよ。ほんと元気だねえ」
男性A「ふん、今だけだよ」

〇 道・(早朝)
  新聞を入れた鞄をたすき掛けでかけて走っている士郎の姿。
男性Aの声「しかし、苦学生と言っても自転車も買えないくらい貧乏なのかね?」
男性Bの声「ケチなだけですよきっと。それかバカ。それとありえないけど」
男性Aの声「なによ?」
男性Bの声「なんかやってるとかですかね? 格闘技とか?」
  士郎、立ち止まりシャドーボクシングを始める。
おばあちゃん「……」
士郎「あ」
  おばあちゃんと目が合い恥ずかしくなりやめる。
士郎「おはようございまぁす!」
  頭を下げる士郎。
男性Aの声「無いよ。ないない」
  鞄から新聞が一つ落ちる。
  地面に落ちる前に拾い上げ、走り始める士郎。
おばあちゃん「(拍手し)猿がおるわ」
士郎「(笑って)うきーっ」

〇 大学・前(朝)
  天野歌子(18)が歩いている。

〇 同・教室
  入ってくる歌子。
  前の席で寝ている士郎の姿。
歌子「(ため息)……」
  士郎の隣に座る歌子。
歌子「おはよう、授業始まるよ?」
  と、ゆするが起きない士郎。
歌子「……」
  鞄からイヤホンを取り出し士郎につけ音量を上げる歌子。
士郎「(飛び起きる)!」
歌子「おはよう」
  歌子を見て笑う士郎。
士郎「おはようあっちゃん!!」
  周りの目が歌子に集まる。
歌子「声でかいよ!」

〇 同・食堂
  食事をしている2人。
歌子「いいの? おごってもらっちゃって」
士郎「いつも起こしてくれるお礼ですから!」
歌子「新聞奨学生だっけ? 大変だよね。疲れてない?」
士郎「いやいや、俺結構タフだからさ。さっきのだって寝貯めだよ。自分じゃ起きれないけど」
歌子「あんまり無理しちゃだめだよ?」
士郎「気をつけまぁす! あ、あのさ、もし良かったらなんだけど……」
プロレス同好会の声「いただきます!!」
  驚いて声の方を見る二人。
  屈強な男たちが合掌し食事を取っている。
歌子「(あからさまに嫌な顔)……」
士郎「どうかした?」
歌子「あ、ごめん」
  と、表情を直す歌子。
歌子「私、格闘技とか好きじゃなくてさ」
士郎「え?」
歌子「なんか野蛮だよね。殴り合うなんて蛮族かって感じ」
士郎「……」
歌子「あ、さっきなんか話してたよね?」
士郎「いやぁ、何でもない! ってか俺も! 殴り合い大っ嫌い!」
  と笑う士郎。

〇 道
  士郎がとぼとぼ歩いている。
士郎「蛮族かぁ」
  ポケットから試合のチケットを取り出しため息を吐く。
  目の前に雑居ビルがある。
士郎「んー、いったん考えるのやめ!」
  と、雑居ビルに入っていく。
  ビルの窓には『柿崎ジム』の文字。

〇 柿崎ジム・中
  練習設備が充実している内装。
  リングの上で立花薫(25)が柿崎勝平(36)とミット打ちをしている。
柿崎「ラスト!」
  立花、全力でミットを殴りつけ、柿崎のミットがはじかれる。
柿崎「(手のしびれを見て)さすがチャンピオン」
立花「(リングを降りて)まあね」
柿崎「しかし珍しいじゃねえの。お前が練習時間ずらしたいなんて」
立花「こいつですよこいつ」
  と、ボクシング雑誌のページを開いて見せる立花。
  紙面には『川上選手、プロ初仕事は後輩指導!?』の見出しに川上と士郎が座っている写真  
  が載っている。
立花「迷惑猿がキーキーうるさいからさ。静かなうちにみっちりやりたいわけ」
  と、士郎が入って来る。
士郎「よろしくお願いしまぁす」
立花「うわ」
士郎「ゲッ」
柿崎「お、楠。今日は早いな」
士郎「柿崎さん、なんで薫がいるの?」
立花「さんをつけろ山猿。お前こそ学校じゃねえの?」
士郎「なんか無性に恋しいときあるでしょ? 恋人的な?」
立花「頭沸いてんのか?」
士郎「はあ? てめぇ薫リング上がれ!」
立花「おお、泣かしてやるよ」
柿崎「お前ら仲良くしろ!」 
 二人の間に入って制す柿崎。
柿崎「で、楠よぉ。お前チケットは売れてんのか?」
士郎「あーそれは……まあいいじゃん!」
  と、笑って誤魔化す士郎。
柿崎「試合まであと五日だぞ? 何度も言うがチケット売るのも新人の仕事だ。コレで食ってく 
 気があるなら……」
士郎「売れなくてもさ、俺出来るだけで楽しいから」
立花「……俺は完売したけどね」
士郎「はあ?」
  士郎、立花を睨む。
立花「俺デビュー当時から強かったし」
士郎「リング上がれこらぁ!」
柿崎「やめろばか! あんなんでもお前の先輩で日本チャンピオンだぞ。少しは敬え! 薫も!   
 後輩煽ってどうすんだよ」
士郎「こんなやつ知らねえ!」
立花「ん? 君誰だい? ボクササイズはここではやってないよ?」
士郎「もういい!」
柿崎「どこ行くんだ?」
士郎「ロード!」
  と、出て行く士郎。
立花「そのまま山に帰れ」
柿崎「薫!」

〇 公園・前
  ぶつぶつ言いながら走っている士郎。
士郎「(シャドーをし)マジでムカつく!」
男性「お、やる気だねえ」
士郎「えー?」
男性「君あれ出るんじゃないの?」
  と、指をさされた方に人ごみが出来ているのに気づく。

〇 公園
  『殴られ屋』と書いた質素な看板。
  二人組のユーチューバーがいる。
ナリキン「どうもナリキンです! えー本日の企画は殴られ屋で一日いくら稼げるのか!?」
カネキン「イエーイ!」
  それを見ている士郎と男性。
士郎「(指さして)コレだ!」

〇 新宿・広場
  人だかりが出来て盛り上がっている場所がある。
  そこから士郎の笑い声が響く。

〇 同・人ごみ内
  グローブをつけたサラリーマンが殴りかかる。
  士郎、それを踊るように躱す。
士郎「お兄さん! あと十五秒!」
サラリーマン「(息を切らし)なんで当たらねえんだ?」
士郎「(笑って)俺がすごいから!」
ナリキン「あと十秒! お兄さんガンバ!」
  サラリーマン、ぶんぶんと拳を振るう。士郎、全て避けきり後ろに回り込みお尻で小突く。
野次馬「すっげえ」
  携帯を向けられる士郎。
士郎「五日後に試合しまーす! チケットはお早めに!」
  チケット販売をしているカネキン。
  チケットはどんどん売れていく。
           ×    ×     ×
  コーヒーを飲んでいる三人。
ナリキン「ありがとう! 絶対バズるよコレ!」
士郎「いいですよ! なんだっけ? winwinってやつ!」
カネキン「編集にもう少し画が欲しいからさ。明日も頼める?」
士郎「全然OK!」
  笑う三人。

〇 大学・食堂
  ご機嫌な士郎。
  歌子がお盆を持ってきて座る。
歌子「機嫌良いじゃん」
士郎「んー? そう?」
歌子「そうだよ。朝も寝てなかったし」
士郎「あーたしかになんでだろう?」
歌子「ね、士郎君は新歓いくの?」
士郎「ええ? 何それ」
歌子「新人歓迎会。今日先輩に誘われて友達と行くことになったんだけど、男の子がいたほうが 
 心強いっていうかさ」
士郎「え? もしかして俺頼られてる? なら行こうか……あ」
歌子「え?」
士郎「……ごめん。今日予定あるから」
歌子「そっか、なら仕方ないね」
士郎「次あったら誘ってよ! 絶対ね!」

〇 柿崎ジム(夜)
  柿崎に残りのチケットを見せる士郎。
  少し離れたところでサンドバックに打ち込んでいる立花。
士郎「どう? すごい? しかも値下げ交渉なしだからね」
柿崎「ああ大したもんだ。しかしどうやって売ったんだ?」
士郎「企業秘密です。どこかの誰かさんみたいにアマ出身とか? 知名度なくてもこんな簡単に 
 売れちゃうだもんなぁ。自分の才能が末恐ろしいね」
  と、横目で立花を見る士郎。
立花「……俺、ほとんど女子だったけどね。しかも若い子」
士郎「! 俺だってルックス高めのお姉さんたちだよ」
立花「ほぼ処女の生娘!」
士郎「でも全員ブース!」
柿崎「(ため息)仲良くしろよマジで」
士郎「あ、会長! 俺少しばかり用事あるからもう上がるね!」
柿崎「体調だけは気をつけろよ。一応お前プロなんだから」
士郎「(笑って)わかってますよ! 杞憂杞憂!」
  と、飛び出していく士郎。

〇 新宿・広場(夜)
  ナリキンとカネキンがいる。
  士郎が合流する。
ナリキン「おっ五分前行動!」
士郎「(笑って)プロですからぁ!」
カネキン「じゃ、早速やっちゃう?」
士郎「待ってました!」

〇 同・居酒屋・前(夜)
  大学生たちがたむろしている。
大学生A「二次会行く人こっちね」
大学生B「歌子ちゃんどうする?」
歌子「私は帰ります。明日早いので。ありがとうございました」
  ×    ×   ×
  野呂楓花(18)と歩いている歌子。
楓花「歌子ぉ、絶対あの人あんたのこと好きだよ」
歌子「いやいや、それはない」
楓花「えーそうかなぁ。ま、あんたはあのへらへら坊主がいいんだもんねー」
歌子「楠君はそういうんじゃないよ」
楓花「ほんとかなぁ? ねえ、あれなにかな?」
  見ると人だかりが出来ていて盛り上がっている。
  その中から、笑い声が聞こえる。
歌子「なんか聞いたことあるような……」
楓花「行ってみようよ! 面白そうじゃん」
歌子「え? マジ?」
  と、手を引かれて集団に近づく歌子。

〇 同・広場
  集団の中で恰幅のいい男が拳を振り下ろす。それを軽快にかわす士郎。
士郎「いいねお兄さん! もし当てたら1万円あげちゃう!」
男「あ? バカにしやがってぁ!」
  と、大ぶりで拳を振るうが、キレイにかわす士郎。
士郎「(笑って)大まじめでーす!」
  歌子と女友達が前から顔を出す。
歌子「え? 楠君?」
士郎「あ?」
  目が合う二人。
  士郎の動きが止まり、男のパンチが頬に当たる。
男「やった! 一万円!」
  男のガッツポーズに歓声が上がる。
ヒロキン「(すかさず)お姉さんたちどう? 彼の試合のチケット!」
歌子「……」
  踵を返し離れていく歌子。
士郎「あっちょっと!」
  ×    ×    ×
  速足で歩いていく歌子。
  追いかけてくる士郎。
士郎「あっちゃん! ちょっと待ってよ」
歌子「(振り返らず)ついてこないで!」
士郎「ごめん、謝るから……」
歌子「(立ち止まり) なんで嘘ついたの?」
士郎「それは……」
歌子「答えられないんだ?」
士郎「……」
歌子「さようなら」
  歩いていく歌子。
士郎「あ……」
  士郎、呆然と見送る。

〇 同・広場
  座っている士郎。
  なんと声をかけていいか分からないカネキン、ナリキン。
ナリキン「あ、俺チケット買うよ!」
カネキン「馬鹿! そうじゃねえだろ」
ナリキン「いや、でも……」
  立ち上がる士郎。
士郎「今日はもう帰る」
カネキン「あ、ああ。気をつけて」
ナリキン「し、試合絶対見に行くからさ!」
士郎「ん」
  士郎を見送る二人。

〇 新聞屋(早朝)
  士郎が自転車で出発する。
  困惑する配達員たち。
男性A「え? あいつ自転車……」
男性B「あったんですねぇ」

〇 大学・前(朝)
  士郎が壁に体を預けて立っている。
  歌子が歩いてくる。
士郎「あ、あのさ」
歌子「言い訳なら聞きたくないよ?」
士郎「言い訳なんてしないよ」
歌子「じゃあなに?」
士郎「いや、それはちょっと……」
歌子「そ、じゃあ急いでるんで」
  歌子、そっぽを向き通り過ぎる。
士郎「(空を見上げ)やめちゃおっかなぁ」

〇 柿崎ジム
  時間を見ている柿崎。
  その近くに練習相手と相手コーチの姿。
柿崎「もうすぐ来ると思うんですけど……」
相手コーチ「まあ、楠君はプロと言っても学生ですから多少ルーズでもね、仕方ないんじゃない 
 ですか」
柿崎「(頭を下げ)いえ、本当にすみません」
  その姿を見て舌打ちをする立花。
  と、士郎がやって来る。
士郎「失礼しまーす」
柿崎「おい、楠! てめえ何時だと思ってんだ!」
士郎「え? なにが?」
柿崎「何がじゃねえ! 先方との予定伝えてただろ! 試合前にたるんでんじゃねえ」
立花「まさか今更ビビってんのか? エテ公がいっちょ前に人間様の真似なんてしてんじゃねえ 
 よ」
  士郎、練習相手達の顔を見る。
士郎「あーそっか忘れてた」
柿崎「……忘れてって」
  先方に頭を下げ、士郎に近づく柿崎。
柿崎「(小声で)おい、頼むぞ。今日はわざわざ他のジムから来てもらってるんだから」
士郎「あのさぁ、俺も大事な話があるんだけど……」
柿崎「試合よりも大事なことってなんだよ?」
士郎「……まあ、いいや。あとで話すね」
  と、準備をする士郎。
柿崎「あ、おい。まだ話は……」
士郎「ベストは尽くすよ」
柿崎「……」
          ×      ×     ×
  リングの上で練習相手と対面する士郎。
  立花がリングでそれを見ている。
士郎「なんでスパーリングにレフェリーがいるわけ?」
立花「お互いのアドバイスするためだよ」
士郎「(小声で)……もう必要ねえっての」
練習相手「(士郎を見て)あのさ、もしかして昨日新宿にいた?」
士郎「へ?」
練習相手「やっぱり君そうだよね!」
立花「何の話?」
練習相手「いや、昨日この子新宿で……」
士郎「余計なこと言わなくて……!」
  立花、士郎の口を塞ぐ。
立花「続けて、チャンピオン命令」
  士郎、暴れるがしっかりホールドされて抜け出せない。
練習相手「この子、女の子に振られてました」
立花「嘘!」
士郎「!」
  ゆるんだ隙に、練習相手を殴る士郎。
  倒れ、鼻を押さえる練習相手。
士郎「まだフラれてねえ!」
柿崎「何してんだ!」
相手コーチ「どういう事ですか柿崎さん!」
柿崎「申し訳ありません! (士郎に)何したか分かってんのか?」
士郎「(練習相手を指さし)こいつが悪い! 俺は知らん!」
立花「フラれて心ここにあらずって……ダセえ! お前ダサすぎ!」
士郎「!」
  士郎、拳を振るが躱しながらリングの外に出て行く立花。
士郎「てめえ薫! 上がってこい! じゃないとこっちから……」
立花「並みだね」
士郎「は?」
立花「だから並だって言ってんだよ。失恋一つで目先の事すらままならねえ」
士郎「仕方ねえだろ……」

〇 大学・校庭(回想)
  ベンチで鼻歌を歌う士郎。
歌子の声「それ、吉田拓郎の『純』でしょ?」
  声の方を見ると歌子が立っている。
士郎「えっと……誰?」
歌子「あっごめん。その歌家の車でよくかかってたから懐かしくて……私、天野歌子」
士郎「(照れ隠しで笑い)俺、士郎!」
  と、手を出す士郎。
士郎の声「……初恋なんだから」

〇 柿崎ジム(回想終わり)
  静まり帰る室内。
士郎「ああ、もう! コレだよ。だから知られたくなかったんだ。みんな腫物に触るみたいに繊 
 細になりやがって……バカにされたほうがまだマシだ」
  と、グローブを脱ぎ捨てリングを降りる士郎。
柿崎「おい、どこ行く?」
士郎「やめる! 楽しくねえ」
柿崎「やめるって……試合はどうすんだよ!?」
士郎「棄権とか言ってうまくやってよ」
柿崎「そんな馬鹿な真似できるかよ」
立花「おい、エテ公」
士郎「(振り向かずに)今までの失言罵詈雑言申し訳なかったね薫ちゃ……」
  首根っこを掴まれ放り投げられる士郎。
士郎「痛いな! 何すんだよ?」
立花「てめえ、親殺したのか?」
士郎「は?」
立花「その女の親殺したのかって聞いてんだよ」
士郎「そんなわけねえだろ」
立花「だったら諦めんじゃねえ」
士郎「……」
立花「いいか? 強ければ何でも手に入る。それがボクシングだ。てめえが自称でも俺と同じ天 
 才だって言うなら女も試合も投げんな」
士郎「じゃあどうすればいいんだよ!」
  瞬間、グローブが飛んできて受け取る士郎。
立花「そこまで面倒見れねえよ。ま、お前は俺と違ってバカだから? 真っすぐぶつかればいい 
 んじゃねえの?」
  と、ヘッドギアとグローブをつける立花。
柿崎「薫、お前……」
立花「あの子もうだめでしょ? 川上のトレースなら俺もできますよ。天才なんで」
士郎「薫!」
  士郎を見る立花と柿崎。
士郎「俺の方が天才だ」
立花「(笑って)……証明してみろよ」
  リングに上がる二人。
柿崎「(笑って)素直じゃねえな」
相手コーチ「あの、柿崎さん」
柿崎「あ、申し訳ありません! 謝礼は必ず……」
相手コーチ「いや、それはいいんですけど……このスパー見ていってもいいですか?」
柿崎「へ?」
相手コーチ「よく考えたら、こいつ構えてたのにあんなモロにいくって……」
練習相手「何者なんですか? あいつ」
柿崎「あー、言いたくないですけどあいつは……」
  柿崎、リングを見る。
  士郎と橘が拳を合わせスパーリングが始まる。
柿崎「天才です」

〇 歌子の最寄り駅・駅前(夜)
  顔が少し腫れている士郎がベンチで座っている。
  歌子が駅から出て来る。
士郎「(うれしそうに)あ、あっちゃん!」
歌子「(びっくりして)なんでいるの?」
士郎「いや、最寄り駅ココだって言ってたからさ」
歌子「あ、そっか。まだ仲良かった時に話したっけ」
士郎「えー? 何その毒がある言い方」
歌子「そう? だって本当じゃん。過去形だよ」
士郎「そんでもって現在進行形?」
歌子「大正解! さようなら!」
  歌子、ずかずか歩いていく。
士郎「(ついていき)いや、でもさでもさ、俺それ嫌だなって思う訳。あっちゃんはそこんとこど
 う思ってるのかなーって」
歌子「私は……」
士郎「ん?」
  歌子、振り返る。
歌子「なんで本当のこと言ってくれないの?ってすごく傷ついた」
士郎「……それは本当にごめん。だからさ、俺本当の事言おうと思って来ちゃった」
  笑う士郎。
歌子「なんで今笑うのさ?」
士郎「俺、ごまかす時笑っちゃうの。ちょっと待ってて」
  しゃがみ込んで深呼吸をする士郎。
士郎「好き!!」
歌子「っ!」
  周りの目が二人に集まる。
士郎「(気づかずに)俺、あっちゃんもボクシングも大好きだから! ボクシングやってるって知 
 られたら嫌われちゃうと思って言えなかったの! 嘘ついてごめんなさい!」
  周りから拍手やエールが送られてくる。
歌子「なんで今言うの!? バッカじゃない!」
  歌子、走っていく。
士郎「え? え? なんで怒ってるの?」
  歌子に追いつく士郎。
歌子「分からないの? TPOだよ」
士郎「(困惑し)俺だって必至だよ! そこまで考えられない」
  歌子、士郎の顔を見て笑ってしまう。
歌子「あほくさ」
  士郎もつられて笑う。
歌子「もう怒ってるのも馬鹿らしくなっちゃった」
士郎「えー?」
歌子「許すよもう! そんな顔されたら私が悪者みたいじゃない」
士郎「(笑顔で)俺、今最高にうれしい!」
  と、落ち着きなく動き回る士郎。
歌子「ねえ、もし私が駅に来なかったらどうしてたの?」
士郎「終電まで来なかったら一回帰って新聞配ってからここに来てたよ」
歌子「必死じゃん」
士郎「それが苦じゃない俺ってすごい!」
歌子「自分で言っちゃうのかっこ悪い」

〇 後楽園・中(日替わり)
  マスコミや記者の前で計量機に乗っている士郎。
  少し緊張している様子。
   ×     ×   ×
  士郎、肩を撫でおろす。
柿崎「口数が少ないと思ったらそういう事か」
士郎「そりゃあ緊張するでしょ。これで落ちたらシャレにならないんだから」
柿崎「俺はまだ一抹の不安を抱えてるよ」
士郎「それ本人に言う?」
柿崎「釘を刺したんだよ」
  近くで取材を受けている川上。
士郎「(横目で見て)ふーん」
柿崎「やめろよ」
士郎「リップサービスも大事じゃない? プロとして」
柿崎「……お前の今日の目標言ってみろ」
士郎「(ため息)『暴言ダメ。ぜったい』」
柿崎「わかってるなら大人しく……」
マスコミの声「では、川上くんは仲間の為に勝利を掴みたいと……」
川上の声「ええ、アマ時代。辞めて行った仲間たちから襷を渡されてますから……」
士郎「訂正。『ある。たまに』」
柿崎「よせ!」
士郎「(川上に)口を開けば夢、仲間! さてはてめえマルチだな!」
  川上やマスコミが士郎を見る。
士郎「(川上に近づき)個人競技で仲間の襷ってなんだ? 負けた時は襷が重くて思うように動 
 けなかったってか?」
川上「……」
士郎「ウチにもいるよ。アマ出身のいけ好かねえ奴。でもさすがにそんなダセえ事は言わない 
 ね。言われたら威厳無くなるし」
マスコミ「それは、立花選手の事かな?」
士郎「そうそう、薫ちゃん! あれ? そういえば川上さんの目標だっけ? 駄目だねぇ薫ちゃ 
 んも」
マスコミ「どういう事ですか?」
士郎「才能ない奴その気にさせちゃったって事でしょ? 本物に抱く感情って『もしかしたら』
 じゃなく『敵わねえ』だと思うんだけど違う?」
川上「……楠君。僕を何と言おうがかまわないけど、あの人への侮辱は訂正してもらえない 
 かな?」
士郎「俺に勝てたらね」
  と、舌を出し挑発する士郎。
  フラッシュが対峙する二人を包む。
柿崎の声「本当にお前ってやつは!」

〇 柿崎ジム(夜)
  憤慨する柿崎。
  ソファで座って川上のアマ時代の試合映像を見ている士郎。
士郎「仕方ないじゃん、あいつネジ外れてるもん」
柿崎「それはお前だ!」
立花「まあ、いいじゃないですか。負けて大恥かくのはこいつなんだし」
士郎「負けないけどね」
立花「どうだか」
士郎「負けられない理由ってのがさ、出来ちゃったからね」
  と、思い出し笑いをする士郎。
柿崎「あ?」
士郎「なんでもない! そうだ薫ちゃん! 試合前に憧れの先輩としてエールの一つでもかけて
 やれば?」
柿崎「行けるわけないだろ、薫にはお前のサポーターやってもらうんだから」
立花「え、俺しませんよ?」
柿崎「は?」
立花「だってこいつ嫌いだし」
柿崎「またそんなこと言って……」
立花「C級ボクサーの試合なんてチンピラの喧嘩と一緒でつまんないでしょ? 目の前で見るな
 んてとてもとても」
  と、手でバツを作る立花。
士郎「(笑って)俺も! 後々なんも知らないやつらに『あの試合は立花選手の適切な~』とか言
 われたくないしね」
立花「じゃ、そういう事なんで」
  と、荷物をまとめて帰ろうとする立花。
士郎「あっ薫ちゃん」
立花「なんだよ?」
士郎「一応さ……ありがとね」
立花「負けちまえバーカ」
  と、ドアを閉める立花。
士郎「なんですぐ噛みつくんだ! 狂犬か!」
柿崎「楠よぉ、もう少し先輩を尊敬しろよ」
士郎「嫌だよ。そんなことしたらあいつ俺の前からいなくなるでしょ?」
柿崎「?」
士郎「尊敬、憧れって外野から見てる奴が抱く感情だと思う訳。でもって俺ボクサーだからさ。
 追い抜くために前にいてくれなきゃ困るの」
柿崎「(感激して)お前……」
士郎「あいつに言わないでね」
柿崎「分かってるよ」
  柿崎、窓から外を歩いている立花を見て笑う。
柿崎「(小声で)似たもの同士なのかもな」

〇 後楽園・選手控室前の廊下(日替わり)
  選手控室と書かれ士郎の名前もある。
  ミットの音が響いている。

〇 同・中
  鼻歌交じりでミット打ちをしている士郎。
  周りの選手は動きを止めて士郎に見入っている。
選手「(見入って)すっげえ」
サポーター「ばかっ柿崎ジムだぞ!」
選手「でも、あれ……」
  背中を叩かれる選手。
サポーター「だからやめろって!」
  それを横目で見ている士郎。
柿崎「よそ見すんな」
  と、きわどい角度で出された手をひょいっとよける士郎。
士郎「ウチ完全に悪者だね」
柿崎「お前だけだよ」
士郎「ふーん」
  士郎、にやつく。
柿崎「……余裕そうだな」
士郎「そう見える?」
係員「(入って来て)楠選手、準備お願いします」
士郎「あ、はーい!」

〇 同・前(夜)
楓花「歌子ぉ! 早く」
楓花に急かされながら走って来る歌子。
歌子「(息を切らせて)分かってるよ……」
楓花「楠君の試合始まっちゃうよ?」
歌子「……」
  チケットを取り出す歌子。
士郎の声「お願い! 試合見に来てよ」

〇 ○○駅(回想)
  士郎と歌子がいる。
歌子「嫌だよ。血とか出るんでしょ?」
士郎「出さないし出させない!」
歌子「でも、うるさそうだし」
士郎「終わったらすぐ帰っていいから」
歌子「でも……」
士郎「1ラウンド2発! これで駄目なら…」
歌子「あー! わかったから! 行くから!」
士郎「(パッと明るくなり)本当!? じゃあ指切りして!」
  と、小指を差し出す。
歌子「え? 嫌だ」
士郎「え、来てくれないの?」
  悲しい顔をする士郎に耐えかねて小指を出す歌子。
士郎「(指切りをして)指切りげんまん嘘ついたら市中引き回しの上、餓鬼道へ落として48の肉 
 片に切り分けて鬼どもにくーわすっ! 指切った!」
歌子「何それ気持ち悪い!」
  士郎、ゲラゲラ笑う。

〇 同・会場内(回想終わり)
  入って来る歌子と楓花の姿。
  すでにリングに上がっている士郎と川上。
歌子「もう始まってる!?」
楓花「席は?」
歌子「(チケットを確認し)あそこ!」
  歌子と女友達が席につく。
  後ろに酔っ払い二人が座っている。
客A「あの川上の相手がその……」
客B「そう! 態度だけは世界チャンピオン。ボクシング舐め腐ってる身の程知らず!」
歌子「っ!」
客A「俺詳しくねえけどやばいんだ?」
客B「そう! だからコテンパンにやられてスカっとしたいんだよ」
  と、笑っている二人。
歌子「(二人に聞こえる声で)だったら自分でやってみろって話だよね~」
楓花「歌子!」
  と、歌子の口を塞ぐ女友達。
楓花「(小声で)気持ちはわかるけどさ、落ち着いて、ね?」
歌子「……ごめん」
楓花「でも、会場がこんな感じだと楠君からチケット買った人たち不憫だね……」
歌子「……」
客A「おっセコンドに怒られてるぞ」
客B「あれじゃ赤コーナーじゃなくバカコーナーだな」
  と笑い合う二人。
  不快な表情で二人を見る歌子。
客A「なあ、さっきから何なの? 俺たち文句言われる筋合いねえんだけど」
客B「そう! だって本当の事だもん」
  ゴングが鳴る。
  歌子、我慢出来ず立ち上がり二人を睨む。
歌子「頑張ってる人を馬鹿にするな!」
  と、同時に歓声が沸き上がる。
歌子「(振り返り)え?」
女友達「あんた、何で立ってんの!?」
歌子「え、あ、何があったの?」

〇 同・リング上(少し前)
  向き合っている士郎と川上。
  士郎、べえと舌を出す。
柿崎「おい!」
川上「……」
相手コーチ「相手にするな」
レフェリー「……両選手、コーナーへ」
  離れていく両選手。
柿崎「まったく、お前は……」
士郎「ねえ、質問いい?」
柿崎「あ?」
士郎「前に薫ちゃんの言ってたアレ、会長も同じ考え?」
柿崎「『勝てばなんでも手に入る』か?」
士郎「うん」
柿崎「……否定することの許されない正論だと思うよ」
士郎「そう」
柿崎「勘違いすんなよ! 今のお前は只のビックマウスだからな」
士郎「じゃあ最後。俺が1ラウンドであいつ倒したらそれ証明できるよね?」
柿崎「それが出来ればな」
士郎「(笑って)じゃ、行ってくるね」
  ゴングが鳴る。
レフェリー「ボックス!」
  向かい合う二人。じりじり距離を詰める川上。
士郎「(嫌な顔をし)もっとパーッとくればいいじゃん。そこからじゃ当たんないでしょ?」
川上「……」
士郎「警戒するのは勝手だけどさ。そこ、俺の射程圏内だからね?」
  士郎、目つきが変わる。
川上「!?」
  瞬間、士郎のストレートが顔面にヒットし尻もちを搗く川上。
川上「?!」
  歓声が上がる会場。
実況「オープニングヒットは楠選手! 見えましたでしょうか!? 川上選手何をされたか分か 
 らないと言った顔です!」
  唖然としている川上。
  カウントが始まり、我に返り立ち上がる。
レフェリー「行けますか?」
川上「……!」
  ファイティングポーズを取り、頷く川上。
味方サポーター「惜しい! 当たり所がデコじゃなきゃ終わってましたよ」
柿崎「……わざとだよ」
味方サポーター「え?」
柿崎「あいつめ……わざと外しやがった」
  士郎、ニヤついている。
士郎「言ったでしょ? だからさ、さっさと来てよ先輩」
  と、グローブで挑発する士郎。
川上の声「ふざけやがって!」
レフェリー「ボックス!」
  再び試合が始まり、先ほどとは反対に攻めまくる川上。
士郎、川上の猛攻をすいすい躱すがコーナーに追い詰められる。
士郎「!」
柿崎「馬鹿!」
  川上の強烈なストレートが飛んでくるが、瞬時にかわす士郎。コーナーポストに川上の拳が
  つき刺さる。
士郎「こわっ! 当たらなきゃ意味ないけど」
川上「……!」
士郎「掴み取ってみろよ。ほらほら」
  グローブで挑発する士郎。
川上「……あああ!」
相手コーチ「馬鹿! 挑発に乗るな!」
  川上、渾身の左ストレートを繰り出す。が、それに合わせて川上の顎にカウンターを入れる 
  士郎。
川上「……ーーー」
  糸が切れたように崩れ落ちる川上。
士郎「……」
  士郎、倒れる川上をよけ、目を閉じる。
  会場が静寂に包まれる。
柿崎「レフェリー! カウント!」
レフェリー「(我に返り)はっワン!」
士郎「いらないでしょ?」
レフェリー「……(川上を見てTKOのサインをする)」
  歓声が上がる場内。
実況「1ラウンドTKOです! 楠選手華々しいデビュー戦を飾りました!」

〇 同・会場内
  試合を見ている歌子。
歌子の声「ねえ、どうしてそんなに頼むの?」

〇 〇〇駅(回想)
  士郎と歌子がいる。
士郎「俺の好きなモノ好きになるまではいかなくてもさ、嫌いでいてほしくないから。それ 
 と……」
歌子「それと?」
  士郎、もじもじしながら下を見て。
士郎「もう、あっちゃんに嘘つきたくないから」

〇 同・会場内(回想終わり)
  リングから手を振っている士郎を見て涙を流す歌子。
楓花「手、振り返してあげなよ」
歌子「……うん」
  と、手を振り返す歌子。
  リングの上の士郎も大きく手を振る。

〇 同・控室
  帰る支度をしている士郎。
柿崎「外にマスコミ来てるから、絶対噛みつくなよ」
士郎「(笑って)出た! マスコミの必殺! 手のひら返し」
  と、手のひらをくるっと反すジェスチャーをする士郎。
柿崎「そういうのだよ! まあ、なんにしろ今回でお前の実力が世に出たわけだが……」
  と、士郎の携帯に通知が届く。
  自分の世界に入って話している柿崎をよそに携帯を手に取る士郎。
士郎「(確認し)えー? やだぁー!」
  と、笑いだす士郎。
柿崎「話聞いてんのか!?」
士郎「(笑って)聞いてる聞いてる! ボクシング最高!」
柿崎やサポーターが顔を見合わせる。

〇 同・入口付近(夜)
  帰路につく人々を見送るように歌子と楓花が立っている。
恰幅のいい男「(後輩に)ここだけの話、俺アイツに一発当てたんだぜ!」
  と、興奮気味で語っている。
楓花「(それを見て)通夜ムードが嘘みたいね、歌子」
歌子「え、うん」
  落ち着かない様子の歌子。
楓花「(からかうように)そんなんでちゃんと言えるの?」
歌子「言える! 多分……きっと! いや、もしかしたら!」
楓花「どんどん消極的になってるんですけど」
  入口から士郎や柿崎が出て来る。
士郎「(歌子を見つけて)あっちゃん!」
歌子「!」
楓花「じゃ、ガンバ」
  駆け寄って来る士郎を見て離れる楓花。
士郎「話って何?」
歌子「どうしても、自分の口から言いたくて……」
士郎「うん」
歌子「あのさ、約束守ってくれてありがとう」
士郎「(笑って)全然! こちらこそ来てくれてありがとう」
歌子「でもやっぱりボクシングは大嫌い。野蛮だし、危ないし……」
  士郎から笑顔が消える。
士郎「……」
歌子「でもね、士郎君の事は……好き、かも?」
  と、士郎から目をそらす歌子。
  顔を真っ赤にして照れ笑いをする士郎。

〇 新聞屋(早朝)(日替わり)
  いつも通り走って出て行く士郎の姿。
男性A「(見送って)たくっ、朝から萎えるよな」
  男性B、新聞を読んでいる。
男性A「何読んでんだよ?」
男性B「先輩、これ見ました」
男性B、Aに新聞を渡す。
男性A「なんじゃこりゃ!?」

〇 ナリキンの家
  パソコンに向き合っていたナリキンが伸びをする。
カネキン「(やってきて)編集終わった?」
ナリキン「うん、間違いなくバズるよ」
  と、タイトルが『プロボクサーの友達の試合を見に行ってみた』という動画の再生ボタンを
  押す。

〇 街・(早朝)
  走っている士郎。
  おばあちゃん、道で立っている。
士郎「おばあちゃんおはよう!」
おばあちゃん「(バナナを投げる)猿、朝飯」
  士郎、バナナをキャッチする。
士郎「(笑って)ウッキー!」
おばあちゃん「楽しそうだね。なんかあったかい?」
士郎「えー? 内緒!」
  と、思い出し笑いをする士郎。
おばあちゃん「?」
  士郎の鞄から新聞が地面に落ちる。
  新聞の紙面には『ボクシング界に新星現る!』の見出しに士郎の写真。
  士郎の笑い声が響いている。

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