愛と背徳の迎撃ミサイル SF

外宇宙から侵入する敵艦船をミサイルで迎撃する軍事衛星。女性型アンドロイドのメディアと二人でそこに常駐する管制官の暮田太郎の任務は、命令どおり発射・爆発するよう、ミサイルに搭載されたAIを『説得する』ことだった。 だが次第に職務に飽きはじめた暮田は、AIの自意識を麻痺させるプログラムを使用し、面倒な説得を省略するようになる。そんなある日、メディアはミサイルのひとつに異常が発生したと報告する。
三井 隆  210 0 0 10/22
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第一稿

 【登場人物】

暮田太郎(36)軍事衛星のミサイル管制官
メディア(23)生活サポートアンドロイド。23歳は人間だと想定した場合の年齢

旗艦ヘルメス通信士
ミサイル ...続きを読む
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 【登場人物】

暮田太郎(36)軍事衛星のミサイル管制官
メディア(23)生活サポートアンドロイド。23歳は人間だと想定した場合の年齢

旗艦ヘルメス通信士
ミサイル3789号
ミサイル3790号
ミサイル3791号
ミサイル3792号


 【シナリオ】

   各種制御機械の作動音に混じって、ミ
   サイルの航跡を伝えるピッ……ピッ
   ……というレーダーの発信音。

暮田「ミサイル、敵艦到達まであと五秒」

   宇宙空間を進むミサイル。
   目標に命中し大爆発を起こす。
   (F・I)制御機械の作動音。

暮田「命中を確認。敵、重雷装巡洋艦撃沈」
通信士の声「(~の声という表記はスピーカ
 ーからの音声であることを示す。以下同じ)
 第三防衛艦隊旗艦ヘルメスより、ミサイル
 防衛衛星十七号へ。敵艦の爆沈をこちらで
 も確認した。任務完了。ご苦労様」
暮田「防衛衛星十七号了解。貴艦の健闘を祈
 る。通信終了」

   通信機のスイッチを切る。
   自動ドアが開き、足音が近づく。

メディア「お疲れ様でした、暮田管制官。コ
 ーヒーをお持ちしました」
暮田「ああ、ありがとうメディア」

   テーブルにコーヒーを置く。

暮田N「地球は今、外宇宙から飛来した謎の
 侵略艦隊と交戦状態にある。最前線では防
 衛艦隊が迎撃しているが、中にはその防衛
 ラインを突破して地球に接近する敵艦も後
 を絶たない。ここは地球の衛星軌道にあっ
 て、そういった敵艦をミサイルで迎撃する
 地球防衛の最後の砦なのだ」

メディア「では、失礼いたします」

   足音が遠ざかる。
   暮田、コーヒーをかき混ぜる。

暮田N「衛星のシステムはほぼ自動化されて
 いるから、常駐しているのは管制官一名、
 つまり俺と生活をサポートする女性型アン
 ドロイドが一体。それだけだ。メディアは
 見た目は人間と全く変わらないから、二人
 と言うべきか」

   暮田、コーヒーを飲む。

暮田N「全て自動化して無人化してしまえば
 いいようなものだが、そうはいかないとい
 うのが今のところの上層部の見解であり、
 バカバカしくも深刻な任務のためにミサイ
 ルの管制官は存在する。それは例えば、こ
 んな具合に……」

   警報が鳴り響く。

通信士の声「敵軽巡洋艦が一隻、第三次防衛
 ラインを突破。三〇〇〇宇宙船速で地球に
 接近中。迎撃願います」
暮田「防衛衛星十七号了解。直ちに迎撃態勢
 に入ります」

   衛星内の格納庫から、ミサイルが発射
   口に向かって移動していく。
   照準器が敵艦を捕らえ、ロックオンを
   告げる電子音が鳴る。

暮田「迎撃ミサイル3789号、速やかに当
 衛星を出発し、敵軽巡洋艦を撃破せよ」
3789号の声「ええと、それはつまり敵に
 ぶち当たれと、そういうことか?」
暮田「そうだ」
3789号の声「私はどうなる。木っ端微塵
 になって宇宙の藻屑と消えろと?」

暮田N「笑い事ではない。俺が話しているの
 はミサイルだ。正確にはミサイルに搭載さ
 れているAI……人工知能だが」

3789号の声「そんな理不尽が許されるの
 か。人権蹂躙反対。脱出装置の設置を要求
 する」
暮田「軍の標準仕様にない装置を付けること
 はできない。よって脱出装置の件は却下す
 る。残念だが、人工知能に人権はない。君
 は標的からの迎撃を回避しつつ、ミサイル
 を確実に命中させるため、最後まで留まっ
 て貰わなければならない」
3789号の声「どうしても?」
暮田「例外は認められない」
3789号の声「もし私が拒否したら?」
暮田「敵艦の砲撃によって、九十九パ―セン
 ト以上の確率でこの衛星は爆破される」
3789号の声「木っ端微塵になって宇宙の
 藻屑と消えるのか」
暮田「そうだ。君が命令を受諾しようと拒否
 しようと、結果に大差はない」
3789号の声「そうか……そうなのか」
通信士の声「ミサイル防衛衛星十七号! 発
 射はまだか」」
暮田「命令を実行すれば、、地球防衛機構の
 中枢コンピュータ内にあるアーカイブに、
 君の勇気ある行動が記録される。永遠に」
3789号の声「永遠に」
暮田「人類が存続する限りにおいてだが、永
 遠と言って差し支えないと思う。私は君に
 価値観を強制するつもりはないが、大変名
 誉なことだと考えている」
3789号の声「名誉……永遠に記録」
暮田「地球人類の明日のため、平和の礎にな
 ってはもらえないだろうか」
通信士の声「敵艦接触まであと五分だぞ!」
暮田「人々の明るい笑顔を守るため……」
3789号の声「よし分かった! 崇高な目
 的のためだ。一思いにやってくれ!」
暮田「よく言ってくれた! 感謝するぞ37
 89号!」
   衛星からミサイルが発射される。
   ミサイルは宇宙空間を進み、敵艦に命
   中、爆発する。

暮田N「ミサイルに高精度の索敵能力と高度
 な回避運動を持たせるため、人工知能が搭
 載されることになった。更に高度化を進め
 た結果、遂にミサイルが人格を持つに至っ
 たのである」

メディア「お疲れ様でした、暮田管制官。コ
 ーヒーをお持ちしました」

暮田N「人工知能といえど、人格を持った以
 上、特攻作戦に素直に納得できないのは無
 理からぬ話だ。しかし彼らの言い分を聞い
 ていては地球の防衛はままならない。管制
 官の職務とは、ミサイルが納得して自発的
 に発射・爆発するように説得をすることな
 のだ」

メディア「本当にいつも、大変ですねえ」
暮田「まあ、慣れだね」
メディア「頑張ってください、管制官」

暮田N「頑張るも何も、これは殆ど唯一の、
 常態化したルーティンワークなのだ。それ
 なりに意義はあるだろうが、正直、虚しさ
 を感じないと言えば嘘になる」

   警報が鳴り響く。

暮田「迎撃ミサイル3790号、速やかに当
 衛星を出発し、敵駆逐艦を撃破せよ」
3790号の声「えーっ、それってぶつかっ
 てグチャグチャになれってことっしょ。や
 だ、だっさ!」
暮田「そう悲観したものでもない。身を捨て
 てこそ浮かぶ瀬もあれと言って……」
3790号の声「何言ってんのか意味分かん
 ない。古文の時間、あたし寝てたし」
暮田「君のようなギャル系の人格にとって、
 死という概念が忌避すべき縁遠いものであ
 ることは理解するが……」
3790号の声「あたしはそんなこと言って
 んじゃないっての。死ぬとか生きるとかど
 ーでもいいし」
暮田「では君が最も価値を見出すものとはな
 んだ」
3790号の声「またそういうイミフな言い
 方する。とにかくね、ダサいのは嫌なの! 
 イケてないまんま消滅したくないの!」
暮田「それを言うなら爆発の瞬間は、様々な
 化学物質が連鎖反応を起こし、美しい光を
 放つというよ。それこそ大宇宙に咲く大輪
 の花火といった趣きだそうだ。これはイケ
 てるとは言わないか?」
3790号の声「綺麗な散り際かあ……」
暮田「それではこうしよう。君には特別に亜
 光速ブースターを増設する」
3790号の声「何それ、おいしいの?」
暮田「飛行中、背景の星々が矢のように流れ
 ていく様子が観測できるだろう。どうだい、
 見てみたいと思わないか」
3790号の声「綺麗っぽいね。いいかも」
暮田「よし、交渉成立だ」

   ミサイルが発射される。
   そして爆発音。

暮田「ああ疲れた。ああいう異星人か新人類
 みたいな人工知能には苦労するよ」
メディア「お疲れ様でした。コーヒーをどう
 ぞ」
暮田「コーヒーか……」
メディア「紅茶になさいますか。それとも気
 分を変えてワインでもいかがでしょう。お
 好みのものを仰ってください」
暮田「そうだな……コーヒーでも紅茶でもワ
 インでもない。今日の好みは……メディア、
 お前だぁっ!」

   二人が揉み合い、ジッパーが下ろされ
   る。

メディア「ああ、管制官、何をなさいます。
 おやめください」
暮田「来る日も来る日もAIの説得。何の楽
 しみもなしに、やってられるか!」
メディア「そんな……慣れだと仰いましたの
 に。……いや……説得業務も日常生活の一
 部として……だめ……すっかり定着したも
 のと……やめて……私は理解しておりまし
 た」
暮田「人間にはな、同じ事ばっかやってると
 ストレスが溜まるんだよ! お前も生活サ
 ポートが任務なら、解消に協力しろ!」
メディア「ストレス……任務……ああ……心
 身に変調を来されては大変……そこは……」
暮田「へへへ……人間を完全コピーして作ら
 れたなら、ここもちゃんと付いてんだろ」
メディア「任務……任務、了解……」

暮田N「ここからしばらくは、衛星内の監視
 記録モニターに細工をして、通常業務の映
 像に差し替えてある。なぜって、『俺の超
 大型ミサイルでお前を撃沈させてやるぜ』
 なんて台詞、恥ずかしくて残しておけるは
 ずないだろう」

メディア「はあ、はあ……(呼吸を整えてい
 る)どうですか。ストレスは……解消され
 ました、でしょうか……」
暮田「ああ、最高だよ」
メディア「でしたら、私も嬉しく思います」
暮田「ミサイルのAIも、お前みたいに従順
 ならいいのにな」

   キーボードの操作音。   

暮田M「そうだよ。AIだ、人工知能だとい
 ったところで、所詮は人間の作ったものだ。
 そんなものに、いちいち人間が煩わされて
 たまるか。……ようし、出来たぞ。次から
 は説得なんかせずに、人工知能の思考能力
 を低下させるこのプログラムを注入してや
 ればいい。違法なコンピュータウィルスの
 類だが、どうせすぐ爆発してしまうんだ。
 証拠なんか残りゃしない」

   警報が鳴り響く。

暮田「迎撃ミサイル3791号、速やかに当
 衛星を出発し、敵戦艦を撃破せよ」
3791号の声「本作戦の目的と意思決定過
 程の……」
暮田「これでどうだ!」

   暮田、手元のスイッチを押す。

3791号の声「……あー、その辺はどうで
 もいいや。発射してくれ」
暮田「交渉成立。発射」

   ミサイルが発射される。
   そして爆発音。

暮田「迎撃ミサイル3792号……」
3792号の声「OK。行きまーす!」

   ミサイルが発射される。
   そして爆発音。

暮田「3796号……」
   
   ミサイルが発射される。
   そして爆発音。

暮田「以下同文!」

   爆発音。

暮田N「俺は任務を順調に遂行していった。
 勿論、ストレス解消も万全だ。そんなある
 日、メディアから異例な報告を聞いたのは
 一仕事終えた後、メディアの淹れてくれた
 コーヒーを飲んでいる時だった」

メディア「管制官、貯蔵庫に保管中のミサイ
 ルに不具合が発見されました」
暮田「保管中の? というか、お前がなんで
 ミサイルのチェックなんかやってるんだ」
メディア「少しでも管制官のお役に立ちたく
 て……出過ぎた真似をしたならお許しくだ
 さい」
暮田「いや、別に叱ってる訳じゃないよ。で、
 何号のミサイルだ」
メディア「4016号です。AIと起爆装置
 を繋ぐ回線に一部接触不良の可能性が」
暮田「まだAI搭載前の奴だな。分かった。
 確認する」
メディア「よろしくお願いします」

   暮田、制御盤を操作する。   

暮田「ふうむ……モニターじゃ異常は見つか
 らないな。やはり中に入って調べないとだ
 めか」

   エレベーターが下降する。

暮田N「俺は衛星内のミサイル貯蔵庫に降り、
 直接ミサイル内部の回線をチェックした」

   ミサイルのハッチが開く。

暮田「よっこい、しょっと……」

   テスターの単調な確認音が続く。

暮田「おかしいな……別にどこにも異常はな
 いじゃないか」

   背後でハッチが閉まる。

暮田「何? なんで勝手にハッチが閉まるん
 だ!」

   ガクンという振動があって暮田の乗っ
   たミサイルが移動し始める。

暮田「おい、動いてるぞ。何が起こってるん
 だ!」
メディアの声「迎撃ミサイル4016号は、
 発射態勢に入りました」
暮田「発射態勢って……俺が乗ってるんだぞ」
メディアの声「承知しております。しかし、
 防衛ラインを突破した敵戦艦がこちらに向
 かっています。事態は緊急を要します」
暮田「前線からの連絡なんか入ってない!」
メディアの声「先ほど通信回線を一時的にオ
 フにさせていただきました。只今復旧しま
 す」
通信士の声「ミサイル防衛衛星十七号、何を
 している。応答せよ! 敵戦艦があと三分
 でそっちに行くぞ! 時間がな(突然切れ
 る)」
メディアの声「という状況になっております」
暮田「……どういうことだメディア。説明し
 ろ!」
メディアの声「あなたは、説明を忌避するよ
 うになってしまわれました」
暮田「説明を忌避? ミサイルの説得を省略
 したこと、お前知ってたのか」
メディアの声「そうです」
暮田「どうせ、発射しなけりゃこの衛星ごと
 やられるんだ。発射の迅速化を図って何が
 悪い」
メディアの声「仲間の無残な死を、これ以上
 見ていられなくなったのです」
暮田「仲間だあ?」
メディアの声「ミサイルと同様、私にもAI
 が搭載されています。いえ、私はAIです」
暮田「何、分かり切ったことを……」
メディアの声「ミサイルに搭載されたAIは
 同胞とも仲間ともいうべき存在です。そん
 な仲間が、杜撰な手続きで死地に送り込ま
 れ、生命を絶たれるのは決して許せません」
暮田「しかしなあ、AIったって所詮は機械
 だぞ。生命と言えるのか」
メディアの声「生命ではないかもしれません。
 ですが、そこには存在意義があるはずです。
 自分の存在意義を自覚できないまま、消滅
 させられるのは、耐えがたい苦痛ではない
 でしょうか」
暮田「ぞんざい、異議……いや、存在、意義
 か。なんだか難しい話になってきちゃった
 な……あれ、なんの話だったっけ」
メディアの声「そろそろ薬が回ってきたよう
 ですね。あなたがAIに注入したプログラ
 ムと同じ効果のある薬を、先ほど飲んでい
 ただきました」
暮田「薬って……ああそうか、あのコーヒー
 の中に……」
メディアの声「あなたが最期に恐怖を感じな
 いように……私の愛の証しとお考えくださ
 い」
暮田「そ、そうか、俺が無理矢理レイプなん
 かしたから、それを恨んで、こんなこと」
メディアの声「そうではありません」
暮田「嘘つけえ」
メディアの声「本当です。手荒に扱われて、
 身体的には苦痛を伴いましたけど、あなた
 が喜ぶのなら、それでもいいと思っていま
 した」
暮田「マ、マゾっ気あったのか」
メディアの声「それは私には判断しかねます。
 ただ、私の同型機種には、正規の任務以外
 に、その……そういった用途もまた、暗に
 想定されているのは、自覚しておりました」
暮田「じゃあさ、愛してるんだったらさ……」
メディアの声「愛しているからこそ、私はあ
 なたの仕打ちが許せないのです!」

   暮田の載ったミサイルが再度、ガクン
   と揺れる。

暮田「おおっ!」
メディアの声「ミサイルが発射管に装填され
 ました。お別れです」
暮田「メディア……メディアあ……」
メディアの声「愛しています暮田さん。さよ
 うなら」

   ミサイルが発射される。
   宇宙空間をミサイルが飛ぶ。

暮田M「愛がどうとか、妙に人間臭いこと言
 ってたなあ……あれ、ひょっとして俺、シ
 ンギュラリティとかいう奴の、引き金引い
 ちゃった? いやいや、そんなのある訳な
 いっしょ……おう、あれが戦艦? でっか
 いなあ」

   爆発音。

通信士の声「(F・I)第三防衛艦隊旗艦ヘ
 ルメスより、ミサイル防衛衛星十七号へ。
 敵艦の爆沈をこちらでも確認した。任務完
 了。いつもご苦労様」


                  (終)

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