<登場人物>
松岡 郁也(25) 引越しの日雇いアルバイト
桐島 立花(25) 元地下アイドルのキャバ嬢
瀬戸 雄大(25) 松岡の友人
飯沼 香織(25) 立花の友人
小川 穂花(21) 松岡のバイト先の後輩
川瀬 陽奈(23) 松岡の元カノ
斎藤 康夫(42) 立花のオタク
カヤ (27) 地下アイドルのキャプテン
店長
店員
黒服
受付
ムギ
おばさん
スタッフ
アナウンス
<本文>
○居酒屋こまち・店内(夜)
スマホを見る松岡郁也(25)、横にビールジョッキが溜まっている。
松岡と対座する瀬戸雄大(25)、枝豆を摘んでいる。
瀬戸「(酔って)俺はな、猫が非常に気に食わない」
松岡「(スマホ見て)なんで?」
瀬戸「(酔って)あんなに図々しいやついないからな」
松岡「(スマホ見て)可愛いだろ」
瀬戸「(酔って)あー、お前は既に洗脳されてるわ。手遅れだな」
松岡「意味わからん」
瀬戸「(酔って)いいか、よく聞け。人は他種と争い、その結果この地位にいる
んだぞ。敵対するべきなんだ。それを可愛いと言う、お前は猫の洗脳を受けて
ると言える」
松岡「たかが猫だろ」
瀬戸「(酔って)たかが?猫に対して何様の発言だ。敬え!」
松岡「急にどうした?お前よりは敬ってる」
瀬戸「(酔って)俺はな、策略家として。いや、策略猫としては敬っている。顔
は気にくわん!百歩譲ってカワウソなら許す」
松岡「お前さ……好きなアイドルが結婚したの引きずってるだろ」
瀬戸「(酔って)……くぅ」
松岡「好きなアイドルがカワウソ似、その相手が猫似。だからだろ」
瀬戸「(酔って)まだ二週間だし。七年間引きずってるお前と一緒にするな」
松岡「七年じゃねぇよ。付き合ってた期間が七年だ!」
瀬戸「(酔って)かれこれ二年も引きずって……重い男だねぇ」
松岡「うるせぇ」
松岡と隣の席に座る飯沼香織(25)が立ち上がる時、よろけて松岡にぶつ
かる。
松岡のスマホが唐揚げのマヨネーズに刺さる。
香織「ごめんなさい」
松岡「(イラっとする)」
瀬戸「大丈夫だよ」
香織、トイレに向かう。
松岡、マヨネーズのついたスマホを見る。
松岡「なんでお前が言うんだよ。俺のスマホだろ」
瀬戸「ちっちゃいなぁ。そんくらいいいだろ。拭くか舐めるかしたら綺麗になる
んだし」
松岡「俺は許してないんだよ」
香織と同席の酔っぱらった桐島立花(25)が松岡の椅子を蹴る。
立花「おい!そこのちっさい男。聞いてんだろ、こっち向けよ」
瀬戸「(そっぽを向いて視線を逸らす)」
松岡「(立花を見て)酔って絡んできてんじゃねぇよ」
立花「何様だ?ちょっとぶつかったくらいでグチグチ言ってさ。ちゃんと持って
ないアンタの責任でしょ」
松岡「グチグチ言ってるのは、そっちだろ」
立花「さっきから聞いてれば、女引きずってる女々しい男に何か言われる筋合い
ないの。か弱さが力に出てんのよ」
松岡「盗み聞きしてんじゃねぇよ。ビッチ」
立花「ビッチかどうか知らないでしょ。そんな風に見ないでくれます。キモいん
で」
客が松岡と立花の言い争いを見る。
瀬戸「(わざとらしく)まぁまぁまぁまぁ、落ち着いて。古来より酒の席では酌
み交わすのが習わし、仲良く飲んで水に流しな」
松岡「(立花を指差し)こいつに酒のなんたるかを教えてやる」
立花「教える前に潰れるじゃないですかぁ?」
松岡「店長!日本酒熱燗で!」
立花「わかってないわね。日本酒は常温に限るのよ」
店長「ウチの日本酒は冷やが美味いんだが」
松岡「どっちでもいいから、度数高いのじゃんじゃん持ってきて!」
立花「切らしたら許さないわよ!」
店長「は、はぁ」
瀬戸、店長に頭を下げる。
○同・入り口(夜)
看板の灯りが消える。
○同・店内(夜)
テーブルに散らばった徳利。
瀬戸、店員とテーブルを片付けている。
泥酔した松岡と立花、フラフラになって飲み漁る。
香織、トイレから出てくる。
香織「ごめん、ちょっと電話きて長くなっちゃった……」
立花「(泥酔して)遅いよ」
と、椅子から落ちる。
松岡、徳利を咥えてる。
○同・入り口(夜)
松岡と立花、互いに抱えられて出てくる。
瀬戸「(松岡を押さえて)すみませんね、こんなんにしちゃって」
香織「(立花に頭を叩かれる)こちらこそです。きっとこの子から絡んだんでし
ょうし」
瀬戸「乗ったこいつもこいつですよ」
松岡「(泥酔して)なんで俺が悪いんだ!」
立花「(泥酔して)そうよ。私はまだ飲み足りないの!」
と、松岡の腕を引っ張ってコンビニに入って行く。
瀬戸と香織、顔を合わせて苦笑い。
日本酒を持った松岡と立花がフラフラと歩いている。
瀬戸と香織、呆れている。
店内から店員が追いかけてくる。
店員「すみません。お金払ってくださーい!」
瀬戸「あー、すいません。今、払います」
香織「ごめんなさい」
松岡と立花、いなくなっている。
瀬戸「あのバカ、どこ行った」
○公園(夜)
松岡と立花が千鳥足で入ってくる。
立花、笑いながらブランコの柵に座る。
松岡、その場で日本酒を飲む。
立花「全然飲んでないじゃん」
松岡「飲んでるよ。逆に飲んでないだろ」
と、ベンチに座る。
立花、松岡の隣に座る。
松岡、持ってる日本酒を立花の口に突っ込む。
立花の口から日本酒が溢れる。
笑っている松岡、飲ませるのを止め、自分で日本酒を飲む。
立花、松岡の飲んでいる日本酒を押す。
松岡の口から日本酒が溢れ出す。
松岡、日本酒を置いて立花を見る。
微笑む立花。
松岡、背もたれの裏に吐く。
立花「気持ちわるぅ。あんたの負けぇ」
と、松岡と同じ所に吐く。
吐き続ける松岡と立花。
吐き気が落ち着いた松岡と立花、顔を合わせる。
松岡、ゲップをする。
立花、口を拭く。
松岡と立花、吐いた口のままキスをする。
○光永コーポ・A棟・二階(朝)
松岡、アパートの手すりにもたれ掛かっている。
目を覚ます松岡、頭を抑える。
対面のB棟の二階で立花が手すりにもたれ掛かっている。
立花に気付く松岡、パンツの中を確認する。
顔をしかめる松岡、口をモゴモゴして、唾を吐く。
○鷹野アート株式会社・男子更衣室(朝)
松岡、作業着に着替えている。
○同・廊下(朝)
男子更衣室のドアが開く。
女子更衣室の前に小川穂花(21)が立っている。
穂花、男子更衣室から出てきた松岡に気づく。
穂花「先輩!私、今日の現場同じなんですよ」
松岡「そうなんだ」
穂花「なんか冷たくないですか?女だから力なくて時間かかる。とか思いました
よね?」
松岡「二日酔い」
穂花「あー。って、常に二日酔いじゃないですか。それって、二日酔いって言い
ます?」
松岡「酔ってるくらいがちょうどいいんだよ」
○マンションザシアン・外観
三階建のファミリーマンション。
○同・駐車場
引越しトラックの荷台に腰掛ける松岡、階段で段ボールを運ぶ穂花の尻を見
ている。
○光永コーポ・B棟・二階
手すりにもたれ掛かる立花が目覚める。
ポケットのスマホを確認する立花、スマホに大量の通知。
『今、起きた』と返信する。
『また知らない男に酒ふっかけてたよ。とりあえず無事でよかった』と香織
から直ぐに返信がくる。
立花、足元の水に気づいて飲む。
○鷹野アート株式会社・入り口(夜)
松岡と穂花が出てくる。
穂花「次は、いつ入るんですか?」
松岡「特に決めてない」
穂花「そうですか。なら飲みに行きましょう」
松岡「……二日酔い」
穂花「酔ってるくらいがちょうどいいって言ってたじゃないですか。それに今日
の家族からボーナス出ましたし」
○居酒屋・店内(夜)
カウンターに松岡と穂花。
穂花「私こう見えてお酒強いんですよ」
松岡「(メニューを見て)ビールでいい?」
穂花「はい!」
○繁華街・ラブホ・前
千鳥足でふらつきながら歩く松岡と穂花。
穂花、ラブホの前で立ち止まる。
穂花「(酔って)行きます?私は行ってもいいですよー」
松岡「……」
穂花「(腕を引っ張る)」
松岡「待って。今、すごい吐きそう」
○コインランドリー
タバコの煙が上がる。
松岡、入り口でタバコをふかしている。
松岡のタバコを奪う立花、タバコを吸う。
立花「もっと離れて吸ってくれる。臭いつくんだけど」
松岡「(タバコを取り返し)いいだろ、洗うんだから」
立花、空いてる洗濯機に洗濯物を入れる。
三百円が入れられる。
立花、置いてある洗剤を勝手に使う。
残り三分の洗濯機の表示。
松岡と立花、洗濯を待つ。
立花「働いてないの?」
松岡「(前を見たまま)今日は休み」
立花「そうなんだ。何見てるの?」
松岡「吐いた煙」
立花「楽しい?」
松岡「別に。他に見るものないし」
青空に消えてく煙、洗濯完了の音が鳴る。
○松岡家・居間
汚部屋のワンルーム、足の踏み場がない。
ベッドに洗濯物が投げられる。
○団地・階段
松岡、一人で冷蔵庫を運ぶ。
冷蔵庫が壁にぶつかる。
松岡、冷蔵庫のぶつかった箇所を見て、ため息を吐く。
冷蔵庫のぶつかった箇所のメッキが剥がれている。
松岡、腰を叩く。
○居酒屋こまち・店内(夜)
テーブルに焼き鳥が運ばれる。
瀬戸、焼き鳥を食べる。
瀬戸「で、あれからどうなの?」
松岡「(腰をさする)何が?腰いてぇ」
瀬戸「とぼけた上に腰が痛い……お盛んですねぇ」
松岡「なに想像してるか分からんけど、冷蔵庫が重かったんだ」
瀬戸「なんだつまらん。それはまるでお前の人生のよう」
松岡「変にミュージカルっぽく倒置するな。本人が納得してるなら、それでいい
だろ。逆にお前はどうなんだ」
瀬戸「あ、聞いちゃう?」
松岡「じゃあいい」
瀬戸「聞けよ。置き去りにされた二人で連絡先交換しましたー!」
と、スマホを見せる。
松岡、スマホを見る。
スマホに香織の連絡先とプロフィール。
松岡「……顔、猫っぽいじゃん!」
瀬戸「いやー、猫って可愛いよな。なんて言うの?時より見せる寂しさ?守りた
くなっちゃうね」
松岡「カワウソはどうした」
瀬戸「カワウソ?なんだそれ。ちなみにお前を動物に例えると豚な」
松岡「なんでだよ。太ってねぇし」
瀬戸「トリュフを探してる健気な姿勢がそっくりだ」
松岡「なら利口そうな犬とかにしてくれよ」
瀬戸「……ハチ公っぽさはある」
○松岡家・居間
大きいゴミ袋を持つ松岡、ゴミを入れていく。
ドアからベッドにかけて足場ができる。
ゴミを拾う松岡、写真を見つける。
松岡と川瀬陽奈(21)の写真。
写真を見る松岡、ゴミ袋をゴミの上に投げる。
松岡、写真を棚に置く。
○ティアラ・外観(夜)
地下のキャバクラ店。
○同・控室(夜)
ドレスを着た立花、スマホをいじる。
黒服「エミリさんご指名です」
立花「はい!」
○同・店内(夜)
席で斎藤康夫(42)が緊張して待つ。
黒服に連れられて立花が来る。
黒服「お待たせしました。エミリさんです。ごゆっくり」
立花「(斎藤の隣に座り)エミリです」
斎藤「あ、はい」
立花「……」
斎藤「……元気?」
立花「元気ですよ。ヤスさんは?」
斎藤「自分は変わらずです。また、チェキ撮りたくて」
立花「ここでは無理ですよ」
斎藤「自分の中ではずっとルイちゃんだから。またステージに立つの待ってるか
ら」
立花「……」
黒服が立花に耳打ち。
立花「ごめんなさい」
と、別テーブルに行く。
斎藤、立花に手を伸ばす。
別テーブルの立花、笑顔で話している。
斎藤、歯を食いしばる。
○高層オフィスビル・エレベーター前(夜)
エレベーターから出てくるオフィスチェアを流して行く松岡と穂花。
穂花「今日はラッキーですね、超楽です」
松岡「でも残業代が出ない」
穂花「じゃあ飲みに行けませんね」
松岡「……なんで飲むんだろうな」
穂花「楽しいからじゃないんですか。先輩は酔ってるくらいがちょうどいいって
言ってましたよね」
松岡「でも次の日には二日酔い……分からん」
穂花「飲み方が悪いんですよ。適度に嗜めばいいんです」
松岡「それじゃつまんない」
穂花「酔ってた方が都合がいい事多いですもんね。意外と酔ってる時って素直で
すし」
松岡「多分、今日も飲むんだろうな」
○ティアラ・入り口(夜)
私服に着替えた立花が退勤して出てくる。
入り口に斎藤が立っている。
斎藤「お疲れ。この後どうかな?」
立花「無理です。そう言うのやってないんで」
斎藤「以前はやってたんだろ。いいじゃないか!」
立花「あれは……本当に無理なんで。ごめんなさい」
斎藤「いくらだ、いくら払えば」
立花「お金じゃないんで」
斎藤「(声を荒らげ)ルール破って裏切ったやつが上からものを言うな!お前の
せいで、お前のせいでグループは解散したんだからな!」
黒服が出てきて斎藤を取り押さえる。
○線路沿い(夜)
フラフラと歩く立花、コンビニ袋一杯に缶ビールが入っている。
立花、垣根の木の間にあるベンチに座る。
缶ビールが開けられる。
立花、ビールを立て続けに飲む。
缶ビールを飲みながら歩いてくる松岡。
立花、松岡に気づく。
立花「おい!そこのお前!」
松岡「(気づかないフリして歩く)」
立花「(松岡に足をかけて転ばす)」
松岡「痛いな!何すんだ!」
立花「お前じゃないし。エミリかルイか立花で呼んで」
松岡「なんの三択だよ。じゃあ立花で」
立花「……暇なら座れ」
松岡「暇じゃないけど座ってやる」
立花「仕事?」
松岡「終わって飲んだけど物足りなくて、また飲んでる」
立花「飲み過ぎだろ」
松岡「アンタに言われたくない」
立花「アンタって、立花で呼ぶんじゃなかったの?」
松岡「一人称くらいなんでもいいだろ」
立花「あー、照れてるんだ。惚れちゃった?」
松岡「ねぇよ」
立花「そうだった。未練タラタラな元カノがいたね」
松岡「うるせぇ。いじんな」
立花「なんで別れたの?」
松岡「……好きじゃなくなったらしい。他にバンドマンと付き合ってるって」
立花「あー、やられたね」
松岡「しかもヴィジュアル系」
立花「(笑って)勝ち目ないわぁ。どう見ても下北系だも」
松岡「やめろ。悲しくなってきた」
立花「飲んで忘れろー!」
松岡「逆にないの?」
立花「ないよ。私は真面目だから」
松岡「どこが真面目なんだよ。アルコール足りなくておかしくなったんじゃねぇ
の」
× × ×
早朝、散歩の犬が吠える。
靴を枕にしてベンチで寝る松岡、目を覚ます。
犬の飼い主、犬を引っ張って行く。
ベンチの周りが飲み散らかっている。
松岡、靴を履き、ゴミを拾い始める。
垣根の木の後ろで寝ている立花、肥料袋を掛けている。
松岡、立花を見つける。
松岡「(呆れる)おーい。起きろ」
立花「(寝返り)まだ眠い」
松岡「風邪引くぞ」
立花「……」
松岡、ゴミと立花を抱えて歩いて行く。
○松岡家・居間
ベッドで眠る立花が目を覚ます。
散らかった部屋に松岡は居ない。
部屋を眺める立花、棚の写真を見つける。
立花の足がゴミのない箇所を進んで行く。
立花、写真を手に取る。
松岡と陽奈の写真。
帰ってくる松岡。
立花、写真を棚に置く。
松岡「おはよ」
立花「おはよ。どこ行ってたの?」
松岡「ゴミ捨て」
立花「いや、全然汚いけど」
松岡「缶のゴミだよ」
立花「他に捨てる物あるでしょ」
○立花家・居間
立花、ソファーに倒れ込む。
白い天井。
立花、横を見る。
テレビの横に立花のアイドル時代のチェキが飾られている。
立花、鼻歌を歌う。
○駅・前
瀬戸の元に松岡がやってくる。
○商店街・コンコース
並んで歩く松岡と瀬戸。
瀬戸「そろそろだよね墓参り?」
松岡「土曜日」
瀬戸「お土産よろしく」
松岡「毎回それだよな」
瀬戸「楽しみなんだよ。お前、お土産選びのセンスあるからさ」
松岡「嬉しくねぇよ」
○同・宝くじ売り場
松岡と瀬戸、売り場の前で立ち止まる。
松岡「どれくらい祈れば当たるんだ……」
瀬戸「片想いの時の気持ちくらい?」
松岡「そんな綺麗なもんじゃないだろ」
瀬戸、売り場に入る。
松岡、瀬戸を追う。
瀬戸「(ポスターを見て)一等だ」
松岡「まずは四等の十五万」
瀬戸「億狙おうぜ。すいません十枚ください」
松岡「手堅く行くんだよ。五枚で」
○電車(夜)
窓際に立つ立花、後ろを気にしている。
窓ガラスに映る斎藤が立花を見ている。
立花、唾を飲む。
○駅・前(夜)
帰宅ラッシュで人が往来している。
松岡、瀬戸を見送る。
瀬戸とすれ違いで立花が改札から出てくる。
立花、松岡に気づく。
立花「(松岡に近づく)ちょっと付き合って」
松岡「はぁ?」
立花、松岡と腕を組んで歩き出す。
瀬戸、斎藤にぶつかられる。
瀬戸「いてぇな」
斎藤「(無視して歩いて行く)」
○飲み屋街(夜)
腕を組んで歩く松岡と立花。
松岡「腕組む必要なくね?」
立花「あるの」
松岡「なんでだよ」
立花「後で話すから、ついて来て」
二人の後ろを追いかける斎藤。
○カーブミラー(夜)
腕を組んで歩く松岡と立花、その後ろに斎藤がついてくる。
○住宅街(夜)
松岡と立花の足が並んで歩く。
斎藤の汚れたスニーカー。
松岡「で、なんなんだ」
立花「後ろにいる人分かる?」
松岡「(振り返る)あの、おっさんか?」
立花「ジロジロ見ない。ストーカーだから」
松岡「(正面を向く)早く言えよ。見ちゃっただろ。でも何故この女を追うん
だ。物好きか」
立花「(松岡のスネを蹴る)」
松岡「いってぇな。こんな女だぞ」
立花「目が腐ってるわ、病院行く?」
松岡「人連れ回して何様だよ。明日、早いんだけど」
立花「夜は長いよ」
○立花家・エントランス(夜)
中に入って行く立花。
松岡、立ち止まる。
松岡「どこ?」
立花「私の家。行くよ、追いつかれる」
○同・居間(夜)
松岡、部屋の真ん中で立ち尽くす。
テレビの横のチェキに気づく松岡、手に取って見る。
部屋着に着替えた立花が隣の部屋から出てくる。
松岡、チェキと立花を見比べる。
立花「何よ」
松岡「……別人」
立花「ストーカーいてもおかしくないでしょ。それより、まだついて来てる?」
松岡「(窓から顔を出す)」
○同・前(夜)
斎藤が見ている。
○同・居間(夜)
松岡「まだ居るわ」
立花「私の魅力の証明ね」
松岡「あのおっさん、本性知ったら涙出るぞ」
立花「本性?」
松岡「くそビッ」
立花、松岡にキスをする。
固まる松岡。
○同・前(夜)
カーテン越しに松岡と立花がキスしているのが見える。
目を見開く斎藤、握り拳に力が入る。
○同・居間(夜)
立花、キスを止め、外を見る。
松岡、唇を噛み締める。
立花「うん。居なくなったっぽい」
松岡「……」
立花「じゃあ寝よっか」
松岡「いやー、その」
立花「もし家に入って来たら困るでしょ」
松岡「でもさ」
立花「一緒に寝た仲なんだから気にしなの」
松岡「あれはアルコールが」
× × ×
ベッドで寝る松岡と立花。
仰向けで寝る松岡、目を開く。
松岡、横を見ると立花が背を向けて寝ている。
立花「寝れない?」
松岡「……別に」
立花「私さ、またアイドルなろうと思うんだ。地下だけど」
松岡「やってること矛盾してない。地下とはいえ飲んだくれたり、キスはまずい
でしょ」
立花「ステージの上だけ夢を見せればいいの。ステージ降りたら一般人よ」
松岡「夢壊れるわぁ」
立花「見えてるものと中身が違うのは、フラれた時に学んだでしょ」
松岡「……だから、いじるなって」
と、立花の方を向く。
立花、松岡の方を向いている。
松岡、立花の目をジッと見つめる。
立花、背を向ける。
立花「私の居場所はステージ上なの」
○引越しトラック・荷台
荷台に腰掛ける松岡と穂花、昼ごはんを食べている。
松岡の目にクマができている。
穂花、エナジードリンクを渡す。
穂花「飲みます?」
松岡「サンキュ」
穂花「だいぶ疲れてますね。恋の悩み?」
松岡「(穂花を見る)」
穂花「冗談ですよ。先輩、酔った時に待受画面の元カノずっと見てたから言って
みただけです」
松岡「マジ?俺、話したの?」
穂花「ええ、楽しそうでしたよ。もう一人、女性でてきましたけどね」
松岡「……酒やめようかな」
穂花「ひとつ言える事は直ぐ行動した方がいいですよ。後悔してるみたいでした
し」
松岡「……」
○コンビニ・トイレ
電話をかける松岡。
× × ×
(フラッシュ)
立花「連絡先、何かあったら困るでしょ」
× × ×
○立花家・居間
電話をする立花。
立花「香織、二時間後にカフェ大丈夫?」
香織「(電話)二時間後?行けなくないけど」
立花「じゃあ駅前集合ね」
香織「(電話)いいけど。せめて私の最寄りまで来なさいよ」
立花「香織、ご愛嬌よ」
香織「(電話)はいはい。二時間後ね」
立花、電話を切る。
○コンビニ・トイレ
電話を耳に当てる松岡、留守番のガイダンスが流れる。
松岡、深く息を吐く。
○駅・前
腕を組んで待つ立花の元に香りがやってくる。
香織「先にいるなんて珍しい」
立花「時間守るのは当たり前でしょ」
香織「……」
○カフェ・中
テーブルに置かれた二つのコーヒー。
立花と香りが対座している。
立花「久しぶりだねぇ」
香織「久しぶりって、この前飲んだでしょ。出禁クラスの泥酔して」
立花「違うよ。カフェに来る事だよ。アイドルやってた時以来だと思ってさ」
香織「そうだね。何かあったの?」
立花「またアイドルやろうと思って」
香織「……ダメ。それはダメだよ」
立花「香織の気持ちも分かるよ。でも気持ちには嘘つけないよ。またステージに
立ちたいよ」
香織「……」
立花「ずっと引きずってる人見てたら、今の自分が情けなく見えてきた」
香織「そうなんだ。でも……私は反対かな」
○ゴミ捨て場
積まれたゴミ袋の山。
○松岡家・中
整頓された松岡の部屋。
○同・ベランダ
タバコを吸う松岡、遠くを見る。
吐かれたタバコの煙が消えていく。
松岡、ライターをつける。
陽奈との写真に火をつける。
燃えていく写真。
松岡、燃えていく写真を見つめる。
○駅・前
立花、香織を見送る。
立花「大丈夫だよ。地下に年齢関係ないから」
香織「……そういう事じゃないのに」
○田園
田園の中を電車が通り抜ける。
○電車
花束が入った袋。
袋を持つ松岡が座っている。
○戸ノ森霊園・入り口
水汲み場とタル。
松岡が入ってくる。
○同・川瀬家墓
『川瀬家之墓』の文字。
線香が供えられ、煙が上がる。
松岡、持ってきた花をお供えし、手を合わせる。
女の声「郁也?」
松岡、声に振り返る。
川瀬陽奈(23)が立っている。
陽奈「来てくれたんだ」
松岡「……」
陽奈「もう来てくれなくて大丈夫だよ。わざわざここまで大変でしょ」
松岡「そんな事ない。それに俺の責任でもあるから」
陽奈「違うよ。私たちの責任」
○同・入り口
松岡と陽奈が出てくる。
陽奈「元気してた?」
松岡「それなりに……かな」
陽奈「ちょっと痩せた気もするけど気のせいか」
松岡「気のせいだよ」
陽奈「心配してたからさ。きちんとご飯食べてるかなぁとかね」
松岡「……」
陽奈「私、待ってるんだけど」
○公園・噴水広場
噴水の前に立つ瀬戸、辺りを見渡す。
香織が小走りでやってくる。
香織「休日にすみません」
瀬戸「まさか誘っていただけると思いませんでした。どこ行きます?」
香織「少し歩きませんか」
○同・遊歩道
並んで歩く瀬戸と香織。
瀬戸「風も気持ちいし、良い天気ですね」
香織「……酔ってヤバかった時の男性から何か聞いてませんか?」
瀬戸「何かって?」
香織「一緒に酔ってた女の子についてです」
瀬戸「あー、仲良いっぽいですよ。多分、深い仲だね」
香織「付き合ってるとか?」
瀬戸「それないな。俺的には、お似合いだと思うけど」
香織「これから、付き合う事になるんですかね?」
瀬戸「それもない。だって、あいつ過去に堕してるから」
香織「……」
○バス
同じ席に座る松岡と陽奈。
陽奈「これからご飯行かない?」
松岡「……いいよ」
○公園・遊歩道
瀬戸「どんなに引っ張り出しても、結局元カノが忘れられないっぽいんだよ」
○住宅街(夜)
松岡のポケットのスマホが光る。
○立花家・居間(夜)
立花、スマホを切る。
立花「んだよ。でろよ」
○住宅街(夜)
もつれる二人の足。
酔っぱらった松岡と陽奈が歩いている。
陽奈、松岡の背中に飛び乗る。
よろける松岡、自動販売機にぶつかる。
倒れた松岡と陽奈、笑い合う。
○松岡家・居間(夜)
玄関に散らばった松岡と陽奈の靴。
○同・前(夜)
松岡と陽奈の笑い声が漏れている。
立ち止まる立花、鼻で笑う。
○スタジオ・レッスン場
ガラス張りのスタジオに十数人のアイドルがいる。
ドアが開き立花が入ってくる。
立花「失礼します」
○松岡家・ベランダ
松岡の洗濯物の中に女性物の下着が干されている。
○同・居間
テーブルに二人分の朝食。
目覚める松岡、布団をどかす。
陽奈、味噌汁を持って座る。
陽奈「おはよ。今日、仕事で遅いから自分の家に帰るね」
松岡「うん(洗面台に向かう)」
ご飯を食べる陽奈。
松岡、顔を洗う。
缶の袋が満杯になっている。
松岡、ご飯を食べる陽奈を見る。
陽奈「?」
松岡「(微笑む)」
○鷹野アート株式会社・受付
松岡、名簿に記入する。
受付「松岡くん、明日入れる?」
松岡「休み取ろうと思ってたんですけど」
受付「だよね」
ゴミ箱に穂花のマグネットが捨てられている。
○地下ライブハウス・入り口
松岡、パイプ椅子や机を運び出す。
階段の途中に貼ってあるポスター。
松岡、ポスターに目を止める。
アイドルのポスター。
○スタジオ・レッスン場
手拍子のカウントが止まる。
七人グループのアイドルたち、目の前にキャプテンのカヤ(27)。
立花、息が乱れている。
カヤ「全然揃ってない。ちゃんと位置確認して。これじゃ間に合わないよ。ムギ
とルイは表情硬い」
ムギ「はーい」
立花「はい」
カヤ「じゃあ、通しでやるよ」
アイドルたち「はい!」
アイドルたちが位置につく中、立花が倒れる。
立花に駆け寄るアイドルたち。
カヤ「大丈夫?」
立花「(ゆっくりと立ち上がる)大丈夫です。ちょっと足が、もつれました」
カヤ「ちょっと休憩しましょ」
立花、立ち上がってトイレにいく。
○松岡家・ベランダ(夜)
スマホ画面に立花のキャバクラのサイト。
松岡、タバコを吸いながらスマホを見ている。
松岡の横にビールの缶。
スマホのメッセージが開かれる。
立花の一ヶ月前にきた『進みます』のメッセージを見る。
松岡、横のビールを外に流す。
○商店街(夜)
帰宅途中の立花とカヤ。
カヤ「今週末かー、緊張するね」
立花「そうですね。まさかデビューできると思ってなかったので」
カヤ「私もだよ。この歳だし、流石に受からないと思ってたし」
立花「分かります」
と、よろけて、電柱に手をつく。
カヤ、黙って見つめる。
立花「すみません。疲れてるみたいです」
カヤ「(苦笑い)ルイちゃん、頑張り屋さんだからね。ちゃんと休むのよ。無理
な食事制限はダメ」
立花「(微笑む)はい」
○カフェ・中
テーブルに二枚のライブチケットが置かれる。
チッケトを手に取る香織、前を見る。
立花、錠剤を飲んでからサラダを食べる。
香織「おめでとう」
立花「当然だよ。禁酒したんだし」
香織「禁酒の影響かな、だいぶ痩せて見える」
立花「人は不摂生を辞めたら本来の自分に戻るもんなのよ」
香織「昔の立花が恋しいよ」
立花「私の昔はアイドル時代」
○居酒屋こまち・店内(夜)
笑顔の引きつる瀬戸が座っている。
テーブルがビールジョッキで埋め尽くされている。
松岡、矢継ぎ早にビールを飲む。
瀬戸「そろそろ、止めた方がいいんじゃないかなぁ」
松岡「酔わないとやってられない」
瀬戸「(席の横のキャリーケースを見て)……失恋か」
松岡「次に進むんだ」
瀬戸「お前から、そんな言葉が聞ける日が来るとはな……感慨深いよ。で、どん
な子?いや、待って。当てる」
松岡「当てなくていい」
瀬戸「ずばり、ここで飲んでた子だろ」
松岡「知らねぇ」
瀬戸「俺の目はごまかせないよ。だって待ち受け画面が……」
松岡「っえ!(スマホを見る)」
瀬戸「うっそぉー!騙されたー」
松岡「ガキみたいな事すんな」
瀬戸「俺は陰ながら応援するよ」
香織が入ってくる。
店長「いらっしゃい。一名?」
香織「いえ、待ち合わせです」
瀬戸、香織に気づいて手を上げる。
香織、瀬戸の隣に座る。
松岡、香織に軽く頭を下げる。
香織「男水入らずの中にすみません」
瀬戸「いやいや。こいつとの水入らずは、窒息しちゃいますよ」
松岡「こっちのセリフだ。勝手に」
瀬戸「いやー、なんで急に?」
香織、カバンから立花のチケットを出す。
香織「行ってくれませんか?」
瀬戸「何これ?誰のやつ?」
松岡「……」
香織「ここで一緒に泥酔してた子、覚えてます?私は行けないので。それに他の
友人も、こう言うのは興味ない人多くて」
瀬戸「そうなんだ。でも、この日は俺も行けないわ。お前いけるだろ」
松岡「……行けなくないけど」
○住宅街(夜)
運ばれるキャリーバック。
○松岡家・前(夜)
ドアの前に陽奈が立っている。
キャリーを待つ松岡がくる。
陽奈「どこ行ってたの?」
松岡「飲んでた」
陽奈「あのさ、やっぱ中途半端は良くないと思って荷物取りに来たの」
松岡「……まとめてる(キャリーを渡す)」
陽奈「(微笑む)またね」
× × ×
ドアに寄りかかる松岡、キャリーの音が遠くなる。
松岡の手がポケットのチケットを掴む。
松岡、チケットを見る。
○住宅街(夜)
酒を飲みながらフラフラ歩く松岡。
○公園(夜)
千鳥足の松岡が酒瓶を持って入ってくる。
松岡、ベンチ前に立って酒を飲む。
ランニング中の立花が走ってくる。
松岡、立花に気づく。
立花「また飲んでるの?」
松岡「俺と付き合わない?」
立花「何?酔ってるの?悪いけど、私アイドルデビューするから」
松岡「……知ってる」
立花「なんで!?ストーカーじゃん」
松岡「お前の友達にチケットもらったからな」
立花「なるほどね」
松岡「……まぁ冗談だ」
と、ポケットのチケットを強く握る。
立花、松岡の強く握る手を両手で握る。
立花「ならさ、ステージに立つ私を好きになって。だからチケットは捨てない
で、会場に持って来て。いい?」
松岡「……」
立花「ステージ上では夢を見せる。全て忘れさせてあげるわ」
松岡「忘れたくない事もあるんだけどな」
立花「それは無理よ。酒にしか逃げれない私たちだもの」
松岡「立ち直った先が地下アイドルか……情けない」
立花「あっ、それとチェキ代のためにお金もたくさん持って来ること!」
松岡「わかったよ。吐きそうなくらい見ててやるよ。お金は保証しないけど」
立花「そんなアンタが私は好きよ」
と、走って行く。
松岡、大きくあくびをする。
○ライブハウス・会場
照明を取り付けるスタッフ。
PAのつまみが回される。
○同・楽屋
立花たちアイドルが入ってくる。
○商店街・宝くじ売り場
招き猫。
列に並ぶ松岡、宝くじをポケットから出す。
宝くじの中に立花のチケットが混ざっている。
松岡、宝くじを渡す。
おばさん「はい。モニターご覧ください」
松岡、モニターを見る。
モニターに『150000』の文字。
松岡「っえ」
おばさん「おめでとうね」
松岡、十五万を財布に入れる。
○ライブハウス・楽屋
衣装に着替えたアイドルたち。
立花、薬を飲む。
カヤ「リハ行くよー」
○同・入り口
オタクが列を作って並んでいる。
松岡、列の後ろに並ぶ。
スタッフ「それでは入場開始します」
○同・会場
ステージの近くにオタクが集まっている。
入ってきた松岡、後ろの壁に寄りかかる。
○同・楽屋
汗を拭う立花にカヤが近づいてくる。
カヤ「大丈夫?疲れてない?」
立花「大丈夫です。久しぶりのステージだったので張り切っちゃいました」
カヤ「分かる。でも、本番で出し切ろう」
立花「はい」
カヤ「みんな集まって」
アイドルたちが円になって集まる。
カヤ「お披露目、デビューライブです。解散やトラブル、各自いろいろあったか
もしれないけど、アイドルを諦められなかった私たちが見せれる最高の景色を
会場全員にぶつけましょう!」
アイドルたち「はい!」
○同・会場
ドリンクを飲んでいる松岡、開始を待っている。
会場が暗くなり、ステージにスモーク。
松岡、背筋を伸ばす。
ステージにアイドルたちが位置につくシルエットが見える。
明かりがつき、立花が上手奥にいる。
立花を見る松岡、軽く微笑む。
立花の視線の先に松岡がいる。
曲が鳴り、アイドルたちが踊り出す。
松岡、持っているドリンクを落とす。
その場で倒れる立花。
曲が止まりスタッフが立花に駆け寄る。
ざわつく会場。
立花、スタッフに抱えられてステージを去る。
カヤ「すみません。ライブを一旦中止します」
○松岡家・ベランダ(夜)
松岡、チケットの半券を見ている。
ベランダの下に香織が走ってくる。
香織「松岡くん!ちょっといい!」
松岡「(軽くうなずく)」
○同・前
香織「これ」
と、スマホを松岡に見せる。
スマホに『妊娠した』と立花からのメッセージ。
唖然とする松岡。
香織「何か知らない?」
松岡「今日、ライブで倒れて」
香織「そうじゃないよ。松岡くんが相手なんじゃないの?」
松岡「いや、本人に聞いてよ。そんな事まで把握してない」
香織「そうだよね。ごめん。ちょっと先走ってた。立花が仲良くしてるの、松岡
くんぐらいだと思ってたから」
松岡「……」
香織「立花……過去に自殺未遂した事あるの」
松岡「えっ……」
○駅・ホーム(夜)
立花、茫然と立っている。
○松岡家・前(夜)
香織「前にアイドルやってた時のトラブルが原因でね。立花に非はなかったんだ
けど……まぁ、もし連絡取れたら教えて」
○同・居間
ドアに寄りかかる松岡、座り込む。
松岡「(呟く)妊娠ってなんだよ……。自殺ってなんだよ。聞いてねぇよ」
と、立ち上がり、財布を持って家を出る。
○住宅街(夜)
松岡、走り出す。
○立花家・エントランス(夜)
松岡、立花を呼出するが反応がない。
○公園(夜)
松岡、公園を覗く。
カップルがベンチに座っている。
○駅・ホーム(夜)
松岡、辺りを見渡している。
行き交う人の中、ベンチに座る立花。
立花に近づく松岡、隣に座る。
松岡「何してんの?」
立花「よくわかったね」
松岡「……自殺するならここかなって」
立花「(鼻で笑う)勝手に殺さないで」
松岡「悪い」
立花「少し話そう」
電車が来る。
○電車(夜)
座る松岡と立花。
立花「ごめんね、ちゃんとステージに立つ姿見せれなくて」
松岡「……」
立花「聞いたんでしょ。妊娠だって、実感わかなすぎだよ」
松岡「ごめん。多分あの時だよね」
立花「……あれは仕方ないよ。酔ってたんだし、記憶にないもん。家で気づいた
けど放置してたのは私だからさ」
松岡「せっかくアイドルなれたのに」
立花「どうしよう。どうしたらいい?」
松岡「……わかんない」
立花「だよね」
乗り降りする乗客たち。
松岡と立花、降りずに無言のまま乗り続けている。
× × ×
アナウンス「終電。終電」
○終着駅・前(夜)
一台のタクシーが止まっている。
立ち尽くす松岡と立花。
松岡「乗る?」
立花「歩いて帰ろ」
松岡「うん」
○線路沿い(夜)
松岡と立花が並んで歩いている。
立花、松岡と腕を組む。
立花の顔を見る松岡。
立花、前を向いて歩き続ける。
街灯。
立花、前の街灯に向かって走り、真下に立つ。
松岡、立ち止まる。
踊り出す立花、鼻をすする。
松岡、半歩前に出る。
立花の目から涙が溢れる。
泣きながら踊る立花。
松岡、立花に近寄って抱きしめる。
立花、声を上げて泣き出す。
立花「もっと、もっとアイドルやりたかったよ。歌って踊って、笑顔にしたかっ
た。私が一番輝ける姿を見てて欲しかった。卒業するまで待ってて欲しかっ
た。どうして上手くいかないの?」
松岡、財布を立花の背中に押し付ける。
終わり
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