出会うとこから、はじめませんか? 恋愛

西澤きみか(26)は、スーパーで残り一つの30%引きの合い挽きに手を伸ばすと、同時に手を伸ばした児玉守(36)と手が触れてしまう。それは、高校生だった頃、きみかが想いを寄せていた人物だった。嘗て二つの弁当箱から始まった想いは、クリスマスイブの夜どこへ向かうのか……
佐藤そら 45 1 0 10/01
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

登場人物
・西澤きみか(26)…時が止まっている女
・児玉守(36)…洋食店『Someday』の店主
・畠中れいか(26)…冷めきった女
・梅村まり(26)…フィーリング女 ...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

登場人物
・西澤きみか(26)…時が止まっている女
・児玉守(36)…洋食店『Someday』の店主
・畠中れいか(26)…冷めきった女
・梅村まり(26)…フィーリング女

・児玉紗羅(8)…守の娘
・浦井朋成(27)…まりの彼氏
・舞香(36)…支援した女
・ソフィア(29)…カナダの女


○厨房
   冷蔵庫にキャンペーンのシールがいくつか貼られている。
   『ハマサキ冬のパンまつり』とある。

○タイトル
   『出会うとこから、はじめませんか?』

○カラオケボックス
   十一月。東京・三軒茶屋。
   西澤きみか(26)、畠中れいか(26)、梅村まり(26)の集い。
まり「あーもう。だから! わたし見ちゃったの!」
   開かれたFacebookに、浦井朋成(27)と外国人女性のソフィア(29)の恋人を感じさせるツーショット写真。
れいか「あなたの知り合いかも!」
きみか「友達の友達は、果たして知り合いなのか。まったくコンピュータはこれだから」
れいか「まっ、所詮それが遠距離恋愛の男の醍醐味よ。まだあの理系男と続いてたなんて、わたし達がびっくりよ」
きみか「でももうすぐ、あの人カナダから帰国するんでしょ?」
まり「うん。でも聞けない。会って別れ話とか嫌だもん……」
きみか「本当に好きだったら、空港にでも行ってとっくに止めてるよ」
れいか「おい、ドラマか」
まり「留学は一年って言ってたのに、大学卒業したら今度は仕事って……」
れいか「ゲス留学」
きみか「わたしと仕事、どっちが大事なの?」
れいか「趣味だよ! そんなの趣味に決まってるだろ!」
きみか「学生の頃は、アクセサリーの恋人って言うか、権力の恋愛って言うか……」
まり「えっ?」
きみか「だって、ゼミの院生じゃん? 要は、野球部のマネージャーは、必ずキャプテンと付き合う説」
れいか「(カメラ目線で)さぁ、ご覧あれっ」

○劇場・舞台
   出囃子が鳴り、きみかとれいかが、センターマイクに駆け寄って行く。
きみか・れいか「はい、どーも。れいたんずです」
きみか「俺ね、留学したいなって思ってるんですよ」
れいか「いいじゃないですか。学生のうちにね、海外を学んでおく。素晴らしいと思いますよ」
きみか「だからまず、留学するには何をしたらいいかなって考えてね」
れいか「やっぱりまず、英語の勉強じゃないですか?」
きみか「だから、彼女を作ろうと思ってね」
れいか「ん? ん? ん? なんの話かな?」
きみか「(遠くを指差し)あの子は、どの男にもスキンシップを欠かさない、イイ女だ!」
れいか「(指差した方向を見て)え?」
きみか「見た目も可愛いし、彼女持ちの男とも腕を組んで歩いている! どの男にでも食いつきそうだ!」
れいか「選ぶ基準最低じゃねーか!」
きみか「あ、あの、俺と付き合って下さい! え、いいんですか? ありがとうございます!」
れいか「即答かよ!」
きみか「じゃあ、俺はこれから一年カナダに留学してきます! これで心置きなく旅立てるよ」
れいか「いや、おかしいだろ。なんで行く前に告白してんだよ!」
きみか「一年待っててくれるんですね。これは代々受け継がれることとなる大恋愛。国境を越えた意思の団結。国境なき意思団!」
れいか「その女もおかしいだろ!」
きみか「だからイイ女なんだよ。これで俺は海外で安心して羽を伸ばせるぞ!」
れいか「(動揺しながら彼女ぶって)わたしと留学どっちが大事なの?」
きみか「選べるわけないだろ? ちょうど留学が決まった時期と、好きになった時期が一緒だったんだよ……」
れいか「留学か恋愛か選べよー!」
きみか「それに、留学してそこで結果を出せたら、良い会社にも入れるだろうし、この先養っていけるだろ?」
れいか「いや、急に真面目!」
きみか「あいつが浮気したらどうしようとかは、心配してないんだ。ただ、他の男に取られたらどうしようって思うよね」
れいか「どう見ても浮気するだろ。てか、お前がするだろ!」
きみか「俺は真剣だよ。留学まであと二週間。親にも挨拶に行こうと思ってるんだ。結婚式はみんな来てくれよな!」
れいか「正気かよ!」
きみか「ホント、かわいいんだよな。あ、俺の彼女ってさ、どういう子? 好きだよとか言葉にして言った方がいいのかな?」
れいか「ま、それは人によるんじゃない?」
きみか「あ、俺の彼女ってさ、メンタル弱いのかな? 俺がいない間さ、気にしてあげてね」
れいか「なんでこっちが世話するみたいになってんだよ」
きみか「あ、俺の彼女ってさ、連絡こまめに取りたいタイプなの? 毎日とか? 俺一週間とか平気で連絡取れないタイプだから」
れいか「お前彼女のこと、なんも知らねーな!」
きみか「だって、あんまり会ったことないし、喋ったこともないし」
れいか「彼女の性格も知らずに結婚まで考えてるのかよ? なのに留学だもんな」
きみか「やっぱり留学したくねぇー。行かないでっていう沢山の女の視線が俺の内臓にまで突き刺さって来る」
れいか「こいつはイカれてるぜ! もういいよ」
きみか・れいか「どうも、ありがとうございました」

○カラオケボックス
   マイクを握って中森明菜の『DESIRE-情熱-』を熱唱しているれいか。
れいか「まっさかさまに堕ちて desire 炎のように燃えて desire 恋も dance,dance,dance,danceほど 夢中になれないなんてね 淋しい……」
   れいかの歌が続く中、
きみか「ってなわけで……大学時代からあの人に良いイメージなんて、わたし達にはないのよ」
まり「……」
  ×  ×  ×
   歌い終わったれいかがやって来る。
まり「出国、止めれたらよかったのかな」
きみか「今更あいつに執着?」
れいか「いっそのこと、わたしみたいに別れちゃえば?」
まり「ダメ! 顔がカッコ良すぎて別れられないの!」
きみか「そこかよ!」
れいか「今年の夏の涙量は記録的なもので、冷夏となります」
まり「?」
れいか「一日のうち日が差す時間はとても短く、場合によっては雷雨、雹をもたらすでしょう」
きみか「お、天がお怒りだ」
れいか「わたしにサーモグラフィーかけたら真っ青並みの冷ややかさよ!」
まり「そんなこと言って、れいかはもう、一人で生きてくつもり?」
れいか「そうね。もう夏には戻りたくないの」
きみか「うちのおじいちゃんとおばあちゃん、人違いで声かけて、それが恋愛の始まりだったらしいよ」
れいか「それ、ドラマの世界のやつ」
まり「じゃあ、わたしも人違いで声かけられたら運命だと思うことにしよっ!」
れいか「きみかも、そういうの憧れてんの?」
きみか「えっ? まさか……」
れいか「図書館で同時に同じ本に手が伸びてキャッみたいな?」
まり「遅刻するーって、角でぶつかった人とかね」
きみか「……!」
れいか「あれは反対の角で、パン加えてぶつかり待ちしてんのよ。ねぇ? きみか」
きみか「(他事を考えていて)……」
れいか「きみか?」
きみか「ん? あー、頭ポンポンとか三次元だと笑っちゃうよね。ナルシストかよって」
れいか・まり「え……?」
きみか「形がなくなっても待ってる。その光景はとてもいかれている。でも、それ以上に幸せだった日々が常識を壊してしまう」
まり「へ?」
れいか「あの日の想い。いつまでも消えていかぬ、濃厚さ……」

○雑貨屋『Simple』前(夜)
   仕事帰りのきみかが、物思いにふけながら歩く。
   店の前で足を止め、ウインドウに映る自分の姿を見つめる。
きみか「四捨五入したら、わたしも30かぁ……。(ウインドウに向かって)OLさんだぞっ」

○スーパー(夜)
   30%引きのシールが貼られた合い挽きのパックが棚に一つ。
   サッと手を伸ばす、きみか。
きみか「!」
   同じ合い挽きに同時に手を伸ばした男性と手が触れ合う。
きみか「すみません……」
   男性の顔を見るきみか。
   申し訳なさそうな顔をした児玉守(36)がきみかの方を振り向く。
きみか「!?」
守「……?」
きみか「どうして……」
守「え?」
きみか「守……守さん……!」
守「!?」
きみか「(動揺して)……」
   きみかの鞄に、目玉焼きの乗った食パンのキーホルダーが付いていることに気が付き、
守「……。え、ウソ……。もしかして、きみかちゃん?」
きみか「はい……」
守「きみかちゃんかぁ。そうだよね。いやぁ、全然分かんなかったよ。大人っぽくなったね(笑顔)」
きみか「いや、あぁ、そりゃもう大人なんで。ただ老けたというか、なんというか」
紗羅の声「お父さーん」
   児玉紗羅(さら)(8)が守に向かって駆けて来る。
きみか「あらやだ、娘がいるというオプション付き!」
守「紹介するよ、娘の紗羅だ」
きみか「(一人ぶつぶつと)サラダ? 皿だ! それはパンまつり……」
守「?」
きみか「へぇー、もうお父さんなんですね。そりゃそうか、そうですよね」
守「実はバツイチでね。ペケちゃんなんですよー」
きみか「へ……」
守「今は洋食店やりながらのシングルファザーってとこで」
紗羅「ねぇ、お父さん、今夜のメニューはハンバーグなんでしょ? 30%引きの合い挽きを使ったハンバーグなんでしょ?」
きみか「(棚の合い挽きを見て)……」
守「(棚の合い挽きを見て)いや、それはその……」
   棚から合い挽きを手に取り、守に差し出す、きみか。
きみか「わたしも鬼じゃないんで。娘さんにハンバーグ作ってあげてください」
守「いや、でも……」
きみか「いいんです、もう……」
守「なら、一緒に食べる?」
きみか「えっ……!?」
守「これも何かの縁だし、僕のお店でご馳走するよ」

○洋食店『Someday』(夜)
   オシャレな外観に、扉には『CLOSE』の札。

○同・店内(夜)
   カウンター席に座っているきみか。
   出来立ての手作りハンバーグが、きみかの前に出される。
守「昔よりも更においしくなったハンバーグです。召し上がれ」
   ハンバーグを食べて、
きみか「わー! とても30%引きとは思えない!」
守「あれから脱サラして、修行して店を持つことができたんだ。きみかちゃんのおかげだよ」
きみか「え……」
守「転勤してからさ、何やってんだろって日々でね。諦められない想いが込み上げて来て、結婚したのに離婚に至ってしまって」
きみか「……」
守「ほら、昔おいしいって言ってくれた人がいたから」
きみか「(小声で)男ってずるい」
守「その後どう? いい人はいるの?」
きみか「(動揺して)えぇ?」
守「きみかちゃんのことだから、素敵な人と出会ってるかなって」
きみか「ま、まさか。きみかの周り、どこでもあいてますよ?」
守「ふーん、そっか」
きみか「守さんこそ、再婚のご予定は?」
守「僕はもう、結婚とかいいかな」
   二人の様子を見ている紗羅。

○カラオケボックス
   きみか、れいか、まりの集い。
まり「来週ね、彼が帰って来るの」
れいか「へー」
まり「ちょっと、少しくらい興味持ってよ!」
きみか「年末はこっちで、みたいな?」
まり「うん、一緒に過ごそうって」
れいか「よー続くわ。国内の遠距離だって厳しいのに。恋人関係はとっくに破綻してるじゃないのかよ」
まり「クリスマスが待ってるからね!」
れいか「その日に限ってわざわざ混み合うデートスポットに行って、二人で写真撮って思い出作らないといけないのか……」
まり「作りたいからよ!」
れいか「そうか、作りたかったのか! カップルの義務かと思ってたわ。わざわざ長蛇の列に並んでまで記念写真撮って」
きみか「でもこれが、好きなアーティストとのツーショット写真だったらって考えてみて」
れいか「好きなあの人と一緒に写真が撮れる!? 並んででも欲しい! 炎天下の中、等身大パネルだとしても3時間は並べるわ!」
まり「まっ、所詮男と女なんだから。恋なんてフィーリングよ! はじめは顔しか分からないんだから」
れいか「周囲の、お似合いのカップルですねとか、いや似合うか似合わんか、お前の物差し知らんがな」
まり「イケメンに出会えるお見合いならありかなぁ」
れいか「えー嫌だ。お見合い回転寿司とか、あたしゃネタかって話だもの!」
きみか「れいかはこだわり強いから。それじゃ恋愛できないよ」
れいか「結婚しても幸せになれないこの時代に、わたし達は不倫するのです! 結婚が幸せとは限らない時代はもう来てるのよ!」
まり「だけど、きみかからは浮いた話聞かないね」
きみか「それは……」
れいか「一に女、二に年齢、三が顔で、四からだ。性格なんて四の次。若ければ若い方がいいのよ。これはジジイに顕著に表れる」
まり「偏見がすごーい。からだが一の人だっているわ」
れいか「あんたが言うと生々しいの!」
きみか「この前、同窓会のお知らせがポストに届いてて『旧姓表記です』って書いてあった。震えたね」
れいか「結婚する気がないなら、もう震えもしないわ」
まり「わたしは最近、孤独死について考えたんだけど、ほら、よく事故物件ってあるじゃない?」
きみか「お化け出るから家賃安いよーでしょ?」
まり「あれって、嫌だ住みたくないって思ってたけど、下手したらわたし自身が事故物件を作ってしまう可能性があるわけよ!」
れいか「確かにそれは人事じゃないよね。まずいわ。完全にわたしの住んでるとこ事故物件行きが決定してる!」
まり「きみかはいい人いないの? それとも事故物件行き?」
きみか「いい人……。その質問、昔好きだった人に聞かれた」
まり「えっ?」
きみか「この前ね、好きだった人に偶然再会したの。スーパーのお肉コーナーで」
れいか・まり「えっ!?」
れいか「それって、昔てんやわんやのきみかに料理を教えてくれたって人?」
きみか「うん」
まり「何それ、誰?」
きみか「高校の時、お母さんが亡くなって、いきなり家事が自分の仕事になって、そんな時に出会った人」
れいか「どこ行ったか分からないんじゃなかったの?」
きみか「いつの間にか脱サラして、洋食店開いてた」
   きみかがお店の名刺を、れいかに差し出す。
れいか「(名刺を見て)マジか」
きみか「ラス一の合い挽きの取り合いになってね、あの人の店で一緒にハンバーグ食べた」
れいか「うわっ!」
きみか「『いい人はいるの?』って、聞かれた」
まり「それって、脈ありだよ! だって気にならなきゃ聞かないもん!」
きみか「どうかね……」
まり「で、逢い引きしちゃったのね?」
きみか「まさか。娘見てたし、『もう、結婚とかいいかな』って言ってたし」
れいか「娘!?」
きみか「バツイチなんだって」
   思わず息を吸い込む、れいかとまり。
  ×  ×  ×
   Mr.Childrenの『NOT FOUND』を熱唱しているきみか。
きみか「あぁ 何処まで行けば解りあえるのだろう? 歌や詩になれない この感情と苦悩 君に触れていたい 痛みすら伴い歯痒くとも 切なくとも 微笑みを 微笑みを……」
  ×  ×  ×
れいか「見つ……から……ない」

○洋食店『Someday』
   きみかが窓から店内をそっと覗き込む。
   守が大人の色気を身にまとった舞香(36)と親しげに会話しているのを目撃。
きみか「え……誰?」
   守が穏やかな表情でにこにこしている。
きみか「まさか、恋人……。あんな綺麗な人が……」
   守が封筒を取り出し、舞香に差し出す。
   舞香が封筒をあけると、お札が見える。
きみか「はっ、札! 元嫁? いやいやいや、穏やかだし、もしや慰謝料の分割払い!?」

○カラオケボックス
   きみか、れいか、まりの集い。
れいか「で、札束笑顔で渡してたと」
きみか「うん」
まり「それ、結婚詐欺なんじゃないの?」
きみか「えぇ?」
まり「お色気むんむん女なんでしょ? 怪しいって。ほら、母が病気でとか言って、歌舞伎町並みにぼったくるのよ」
れいか「よし、じゃあ今度、みんなで張り込みするか」
きみか「えぇ?」

○洋食店『Someday』
   きみか、れいか、まりが、外から店内をそっと覗き込む。
   れいかとまりは、派手な服装。サングラスにオシャレなハットをかぶっている。
きみか「あのさ、二人ともその格好目立ち過ぎ!」
れいか「大丈夫。どんなに派手な格好で覗き込んでいても、絶対ばれないのがドラマの相場なの!」
きみか「オシャレする場じゃないのよ?」
まり「ハットがオシャレとは限らないわ。顔を隠すためのアイテムかもしれない。眼鏡だってそうよ!」
れいか「これは、正式な張り込みなの!」
   あんパンと牛乳を取り出し、
まり「大丈夫。あんパンと牛乳もバッチリよ!」
きみか「あのねぇ……」
れいか「誰か来た! 隠れて!」
   舞香がやって来て、店内に入って行く。
まり「あれが噂の色気のおばさん!」
  ×  ×  ×
   窓から店内をそっと覗き込む三人。
きみか「また封筒渡してる!」
   舞香が守の手に触れながら封筒を受け取る。
   封筒をあけると、お札が見える。
れいか「お札!」
まり「ボディータッチが多い! 完全に誘惑に走り始めてるわよ!」
れいか「それはいつしかの、あなたじゃない!」
まり「あれは、フェロモン結婚詐欺よ!」
れいか「あの男もまんざらじゃない顔しちゃって! これだから男は!」
きみか「(焦って)えぇ!」
   きみかの顔を見つめる、れいかとまり。
れいか「行くわよ!」

○同・店内
きみかの声「その札束、ちょっとまった!」
きみか・れいか・まり「トゥ!」
   店内に登場する三人。
きみか・れいか・まり「密会戦隊、それは結婚詐欺ジャー!」
守「……」
舞香「……」
   サングラスを外し、投げ捨てるれいかとまり。
守「きみかちゃん? えっと……どちら様?」
きみか「わたし達は、正義のヒーローよ」
まり「ズバリ、あなた! 結婚詐欺ね!」
舞香「へっ?」
れいか「だってお金ぼったくってるじゃない!」
守「違うよ。(笑って)それは勘違いだ」
きみか・れいか・まり「……?」
守「こちらは、幼馴染みで、香りが舞う舞香さんだよ」
舞香「どうも、フェロモン舞香でぇす」
まり「ぬわっ! 自分で言ってる……」
守「この店を開く時に支援してもらってね。今生活費を詰めながら、少しずつ返してるんだ」
   ズッコケる、きみか、れいか、まり。
舞香「あなたの今後の人生も支援してあげてもよくってよ?」
   守の手を触る舞香。
きみか「(それを見て息を吸い込み)はっ!」
   舞香はきみかに近づき、
舞香「あら、もしかして、あなたにとっては、わたしが悪の組織役かしら?(にっこり)」
きみか「……!」

○厨房(夜)
   守が棚の引き出しをそっと開ける。
   中から牛乳パックのキーホルダーを取り出し、見つめる。

○浅草
   まりが、朋成の姿を探している。
まり「あっ、いた!」
   朋成に向かって、
まり「朋成くーん!」
   まりに手を振る朋成。
   隣に着物を着た外国人女性の後ろ姿。
まり「(表情が一気に曇り)え……」
   外国人女性ソフィアが振り返る。
まり「あいつ……なにやつ、こやつ! 日本にまで押しかけたか!」
朋成「まりに、紹介したい人がいるんだ」
まり「あーーーー!」
朋成「まり?」
まり「来ないで、近づかないで!」
   両耳をふさいでいるまり。
朋成「何か勘違いしてない? この方は……」
ソフィア「ハハヲタズネテ、ナンゼンリデス」
まり「はぁ?」
朋成「日本にいるお母さんを探しに来たんだよ。それを一緒に手伝っててね。彼女とはカナダで知り合ったんだけど……」
まり「何よ、あんたの浮気相手じゃないの!(ソフィアを顎で指し)この、カタコト!」
朋成「それは誤解だよ」
まり「あんたなんてね、ひとりで勝手に国際化すればいいわ!」
   その場から逃走する、まり。
朋成「(その場に残されて)えぇ……」

○雑貨屋『Simple』前
   突然、強い雨が降ってくる。
   買い出しした袋を両手に、守が慌てて軒下へ入って来る。
守「(空を見上げ)まいったな……」
   店の扉が開き、中からきみかが出て来る。
守「きみかちゃん!?」
きみか「守さん……!」
   その場にいる気まずさから、
きみか「あ、あれ? 雨……」
   軒下に並ぶ二人の姿。雨音だけがしている。
   きみかが守の鞄に牛乳パックのキーホルダーが付いていることに気が付く。
きみか「牛乳……」
守「え……。あ、これ……」
きみか「まだ、持っててくれたんだ……」
守「……うん」
きみか「もう同じの、今は売ってませんでした……(店の中を見つめる)」
   きみかは目玉焼きの乗った食パンのキーホルダーを守に、守は牛乳パックのキーホルダーをきみかに見せ、
きみか・守「つなぎは大事だよ」
   互いに顔を見合わせ、表情がほころぶ。
守「雑貨なのにSimpleって……」
きみか「それ、昔も言ってました」
守「そうだっけ」
   雨が小降りになり次第に止む。
きみか「(空を見上げ)雨……止みましたね」
守「……そうだね」
きみか「じゃあ、わたしはこれで」
   軒下から立ち去ろうとするきみか。
守「きみかちゃん!」
きみか「?」
守「きみかちゃんの言った通りだった」
きみか「え?」
守「どれだけ時が経っても、必ずこれを持っていれば分かるでしょって」
きみか「……」
守「僕もずっと、付けていればよかったね」
きみか「(動揺して)いいですよ。もう、そんなこと……」
   水たまりを踏みつけ、足早に去って行くきみか。
守「(きみかの後ろ姿を見つめ)……」

○カラオケボックス
   守が、中島みゆきの『糸』を自分の世界に入り込み熱唱している。
守「なぜ めぐり逢うのかを 私たちは なにも知らない いつ めぐり逢うのかを 私たちは いつも知らない どこにいたの 生きてきたの 遠い空の下 ふたつの物語……」
紗羅「(守を見て呆然と)おい、父上……」

○街(夜)
   クリスマスムードが高まり始めている街並み。

○曲がり角
   守がやって来ると、懐かしそうに遠い目をしている。
   空を見上げ、ため息。
   地面に目を移すと、曲がり角に女性ものの赤い財布が落ちていることに気が付く。
守「財布? これって……拾うと天使と悪魔が出て来て、いわゆる脳に直接話しかけて来るやつじゃないか! (興奮気味)」
   財布を手にする守。一人でミニコントを始める。
守「(天使になりきり)交番に届けなさい。困ってる人がいるわ」
   頷く、守。
守「そうなんだよな。今頃焦って探してるよ。クレジットカードとか慌てて止めてさ、結局またあとから再発行の手続きだよ」
   親身になった様子の守。
守「(悪魔になりきり)誰も見てねぇよ。盗んじまえよ」
   頷く、守。
守「そうなんだよな。誰も見てないんだよ。水たまりに落ちてた千円札ドライヤーで乾かして使えるって言ってた友達もいたもん」
   腹黒い顔をする守。
守「果たしてその心は……。(一人でぶつぶつと)てか、なんで天使は女で、悪魔は男って相場なんだろうな……」
   中を確認することなく、その場から財布を持ち去る守。

○カラオケボックス(夕方)
   まりが一人、山下達郎の『クリスマス・イブ』を熱唱している。
まり「きっと君は来ない ひとりきりのクリスマス・イブ Silent night,Holy night……」
   きみかが入って来る。きみかに駆け寄り、
まり「きみか! ついに先日別れましたー!」
   きみかに抱き付く、まり。
きみか「えぇ?」
まり「今日れいか呼んだら泣かされると思ったからーきみかやけ酒付き合ってぇーー!」
きみか「はいはい……」
   テーブルを見るとメロンソーダ。
きみか「いや、炭酸かーい!」
まり「もう今年のクリスマスは一人決定であります」
きみか「なら、今年は三人で過ごそうよ」
まり「それはダメ。きみかには大事な人がいるから」
きみか「何……言ってるの? (苦笑)」
まり「わたし、再会ってこの世で一番のドラマだと思うの!」
きみか「……」
まり「きみか、このままでいいの?」
きみか「出会い方が違ったら、今は少し変わってたかもね。わたしは子供としか思われてないし。何を今更……」
まり「離れていけば、きっと忘れられる。なのに、また出会ってしまう。運命なら何度でも再会するんだよ」
きみか「ドラマは、良いところまでしか描かない。その結末のあとに、必ずしも素敵な未来があるとは限らないよ」
まり「でも、それでも、これがドラマなら、やっぱり素敵な結末にしてほしいじゃない?」
きみか「え……」

○洋食店『Someday』・店内(夜)
   店の扉が開く。
守「いらっしゃいませ」
   れいかが入って来る。
守「あれ、あなたは……。今日はきみかちゃん一緒じゃないんですね」
れいか「きみかの方がよかった?」
守「いや、そういう意味では……」
れいか「(イイ女風に)その、美味しいハンバーグとやらを一つくださる?」
  ×  ×  ×
   カウンター席でハンバーグを食べるれいか。
れいか「これが、きみかを落とした味なのね」
   ハンバーグを食べているれいかに、
守「今日ね、曲がり角で女性の財布を拾ったんですよ」
れいか「財布?」
守「そう。天使と悪魔が出て来て、交番に届けるか、僕の脳内で言い争うんです」
れいか「で、どうしたの?」
守「もちろん、交番に届けましたよ。僕も正義のヒーローなんで」
れいか「ふーん。でもそれは、残念ながら天使でも悪魔でもない」
守「え?」
れいか「あなたの下心よ!」
守「!」
れいか「交番に届けたら、見返りが生まれる。あなたは、権利を放棄した?」
守「いや、それは……」
れいか「持ち主からの連絡を待っている。どこか期待している。それが女性の財布だったから!」
守「……!」
れいか「心のどこかで、その場所で出会った人が運命の人って思いたいんでしょ?」
守「え、まさか……そんなこと……」
れいか「無意識でもそうなのよ。どうせ男って」
守「グサグサ言っちゃうねぇ、おねぇさん。怖いな……」
れいか「(気取って)今年の夏は冷たかった。どうも、れいかです」
   苦笑する守。
れいか「このお店って、きみかがきっかけでしょ?」
守「まぁ、そう言われると、そうでもあるかな」
れいか「この街に戻って来てお店を開くってことは、食べてほしい人がこの街にはいるってことよね」
守「……。昔、いつか自分のお店を持ちたいって夢があって、でもどこか夢のままで、気付けばサラリーマン」
れいか「料理好きだったんだ」
守「まぁ。死んだ僕の父がね、何故か僕が風邪を引いた時に、いつもハンバーグを作ってくれて」
れいか「そこ、おかゆじゃないのかよ。胃もたれするわ」
守「それが特別美味しくてね。胃が強かったのかな」
れいか「きみかに料理を教えたのは同情?」
守「それは違います」
れいか「ねぇ、なんで、さよならのキスをしたの?」
守「! なんで、それを……! あの時は雰囲気にのまれて……」
れいか「雰囲気にのまれるのは女って相場で決まってるの。その一度が忘れられなくて、それが女なの(遠い目をしている)」
守「あの頃はまだ若かったから……」
れいか「言い訳ばっかりよ。まったく男って」
守「(小声で)あなたに何があったかは知らないけどさ……」
れいか「頭ポンポンもしたらしいじゃない。ナルシストかよ。でもね、惚れてたらもう、そんなの、なんでもありなのよ!」
守「……!」
れいか「きみかはそこで時が止まってる」
守「仕方なかったんですよ、あの時は辞令が出て……」
れいか「偽りの愛ですら国境を越えることもある。守、あなたは一体自分の何を、いつまで守ってるの?」
守「呼び捨て!」
れいか「きみかには、さぞかし一人泣いた夜もあったろうに。女にとって一番見られたくない顔って分かる?」
守「え、すっぴんとか? あっ、寝顔! 疲れた顔! あと、油断した顔」
れいか「違う。そんなこと答える奴はどこか自分に酔いしれてるのよ。だいたい寝顔って、見られてる段階でリア充じゃない!」
守「……」
れいか「一番見られたくないのは、泣いた翌日の顔」
守「!」
れいか「泣いてる最中なんてかわいいもんよ。翌日は人相変わってるし、何かあったと他人に悟られる。だから夏に戻りたくない」
守「え……?」
れいか「相当泣いたって100%ばれる。れいか100%なの!」
守「へ?」
れいか「とにかく、目は証拠を残す。いつだって想いがあふれてる。きみかの目にだって!」
守「(小声で)どうやら、今年の夏には触れちゃまずそうだ」

○カラオケボックス(夜)
   まりのスマートフォンに朋成からの着信。
まり「あの男……。(電話に出て)はい、まりです」
きみか「すぐ出るんかーい!」
  ×  ×  ×
   空港から電話をかけている朋成。
朋成「ソフィアなら国へ帰ったよ。なぁ、俺らやり直さないか?」
まりの声「今更何言ってるのよ」
朋成「俺ら、両親に挨拶もして、結婚式にゼミの人みんな呼ぶって約束したじゃないか」
  ×  ×  ×
まり「もうほっといてよ! わたしの心の中は血まみれなの!」
朋成の声「そりゃ、そこから全身に血液を送り出しているから。でも、心は脳にある」
まり「そういうところで理系出してこないで!」
朋成の声「もうすぐクリスマスだろ? 一緒に……」
まり「(かぶせて)学生の頃はね、この時期に恋人がいることがステータスなの! でももうわたしは大人だから!」
   電話を切るまり。
  ×  ×  ×
朋成「……」
   空港で立ち尽くす朋成。
   急に走り出し、
朋成「ソフィアーーー!」
  ×  ×  ×
まり「あの人は明後日の方向を向いている。空港まで止めに行かなかったのが、もう答えだったのよ」
きみか「え……」
まり「失った時、あいつが一番だったって気付かされて走るの。追いかけた方とくっつく。それがドラマの相場なの!」
  ×  ×  ×
   互いに走って来るソフィアと朋成。
ソフィア「トモナリ!」
朋成「ソフィア!」
   空港で抱き付く二人。

○洋食店『Someday』・店内(夜)
   れいかと守が語り合っている。
守「はじめて、すごろくを羨ましいと思った。ふりだしに戻れないんだ、現実の人生は……」
れいか「過去には戻れないけど、すごろくみたいに、未来も決められてないのよ? 現実は……」
守「……!」
れいか「あったことは、なかったことになんてできない。過去は永遠に自分を追いかけて来る」
守「そうですね」
れいか「だからこそ、その過去を受け止めて、向き合わなければいけない」
守「……」
れいか「最後の走馬燈がいいことだけとは限らないし、たとえ忘れたふりしても、死んだら閻魔様に掘り起こされるの」
守「他人から見れば滑稽な出来事も、本人がそれをコメディーに変えるのは難しい」
れいか「でもこれだけは思う。引き裂かれてこそ運命。引き裂かれるほどに運命」
守「運命……」
れいか「本当は、自分の答えなんて知っている。ただ、見えない何かに背中を押されるのを待っている」
守「……」
れいか「神様は簡単に微笑んでなんてくれないけど、それが答えなら、きっと奪いもしないのよ」

○カラオケボックス(夜)
きみか「もう昔のことって思おうとしてた。でも、舞香さんを見た時に、嫌だって思った自分がいた……」
   頷く、まり。
まり「転勤でさよならなんて興奮する」
きみか「何それ」
まり「だって、その方が盛り上がるじゃない? それでも出会うんだもの、二人は……」
きみか「ドラマかよ」
まり「ドラマだよ」
きみか「……昔ね、何年か後にコスモスの花を一輪ずつ持って、思い出の場所で再会する、みたいなの憧れてたの」
まり「(笑って)何それ」
きみか「たとえ姿が変わっても、二人は互いにあの人だって必ず分かる。そういうの。コスモスの花言葉は、乙女の純情」
まり「やっぱりきみかは、夢見る少女ね。でも、それが本当の愛か……」
きみか「(笑って)へっ?」
まり「さて。わたしは終活でも始めないと」
きみか「え、就活? まり転職するの?」
まり「孤独死することも考えて」
きみか「そっちの終活? まだわたし達26だよ? 出会いあるでしょ」
まり「だって相席屋なんて変な人しかいなさそうだもん」
きみか「偏見がすごい。てか、何も相席屋じゃなくたって」
まり「フェロモン舞香さん並みのフェロモン出せないし。綺麗なまま死にたいし」
きみか「今が綺麗だと思ってるのかよ。自画自賛!」
まり「さ、帰ろ帰ろ」
きみか「あっけらかんね。今日の追加料金は、わたしが払ってやるよ」
まり「うん、ありがと」
きみか「(何かを探した様子で)あれ? ウソ! 待って? ウソ!」

○夜空(夜)
   夜空にきみかの声が響く。
きみかの声「あれーーー?」

○曲がり角(夜)
   惣菜パンの袋だけが風に吹かれて転がって行く。

○洋食店『Someday』・店内(夜)
   守のスマートフォンに、登録されてない番号からの着信。
   電話に出る守。
守「はい、もしもし」
きみかの声「(動揺した様子で)えっと……あのぉ、西澤きみかです……」
守「(動揺して)えぇ?」
  ×  ×  ×
   交番前で電話しているきみか。
   手には赤い財布。
きみか「財布、拾って頂いてありがとうございました。赤い財布」
守の声「あぁ、え? あれ、きみかちゃんのだったの?」
きみか「はい……」
  ×  ×  ×
守「そ、そうだったんだ。……赤、お好きなんですね?」
きみかの声「いや……。好きな色は透明です」
守「え?」
  ×  ×  ×
きみか「あの……今度、財布のお礼させてください。とりあえずまた、連絡します。それでは……」
   慌てた様子で電話を切るきみか。
きみか「不本意な形で、あの人の電話番号をゲットしてしまった……」
  ×  ×  ×
   スマートフォンを握りしめたまま、呆然と固まっている守。
守「運命の……君か……」

○厨房
   冷蔵庫に『ハマサキ冬のパンまつり』のキャンペーンのシールが以前よりも多く貼られている。
   紗羅が惣菜パンからシールを剥がし一枚貼り付け去って行く。

○洋食店『Someday』
   守が店の看板を見つめて
守「Somedayか……」
   店の扉から紗羅が顔を出し、
紗羅「お父さん、店の電話鳴ってる」
守「おぉ、今行く」

○同・店内
   店内の電話を手に、
守「はい、こちら『Someday』です」
きみかの声「あっ、あの……きみかです」
守「あぁ、きみかちゃん? ケータイに連絡くれればよかったのに」
きみかの声「あ、いや、それは……なんというか下心みたいになるんで……」
守「(ドキッとして)え!」
きみかの声「あの、先日のお財布のお礼……まだしてなかったので」
守「あぁ……。なら、そうだな……。こっちからお願いしてもいい?」
きみかの声「え?」
守「クリスマスイブに、『Someday』に来てよ」
きみかの声「えっ……」
   紗羅が守の電話を取り上げきみかに、
紗羅「どーせ、クリスマスイブはお暇でしょ? お店に来るといいよ。気になる人も待ってますし」
  ×  ×  ×
   自分のスマートフォンを睨み付け、
きみか「なによ、このクソマセガキ!」

○劇場・舞台
   出囃子が鳴り、れいかとまりが舞台に出て行く。
れいか・まり「はい、どーも」
まり「まりです!」
れいか「れいかです!」
れいか・まり「ねっしんずでーす」
れいか「ねぇ、ところで肝心な二人の出会いって皆さんご存知?」
まり「(客席から言われているかのように)存じ上げなーい! 教えてー!」
れいか「コント、出会い」
まり「きみか、高校一年生でーす。大変! 遅刻する!」
   弁当箱を手に、惣菜パンを口にくわえるまり。
   ビジネスバッグに、同じ弁当箱を手に持ったれいかと、ぶつかり弁当箱を落とす二人。
れいか「すみません、大丈夫でしたか?」
まり「あ、もうくっそ、こんな曲がり角で。わたし急いでるんで!」
   れいかの持っていた弁当箱を持って立ち去るまり。
   それに気付かず、まりの持っていた弁当箱を手にするれいか。
まり「キーンコーンカーンコーン。お昼の時間」
   弁当箱をあける二人。
れいか「もしかして」
まり「わたし達」
れいか・まり「弁当が入れ替わってる」
れいか「先にこんなところで一世風靡してたのかよ!」
まり「なぬ、容器は同じなのに、弁当の具だけが時空を超えて!」
れいか「いや、弁当箱が入れ替わってるんだよ! これはハマサキ冬のパンまつりの、シールを集めれば必ず貰えるプレゼント」
まり「このハンバーグうまい!」
れいか「勝手に食ってるのかよ!」
まり「この人お店出した方がいいよ。お店出してください! お店出してください! いつか……お店出してください」
れいか「こっちの卵焼きは焦げとるやないか!」
まり「お前も勝手に食っとるやないか!」
れいか「彼にくだされる転勤の辞令」
まり「高校生という壁」
れいか「新しい地で出会った人との結婚」
まり「追いかけたい、一度は押し殺した夢」
れいか「本当に大切だったもの」
まり「忘れちゃダメな人、忘れたくなかった人……」
れいか「ちょ、それ別の作品!」
まり「あぁ……」
れいか「想いを込めてこねて。しっかりと空気も抜いて」
まり「さて、ハンバーグにルーをかけまして、遠い街へ行ってしまう、愛する人と解きます」
れいか「その心は」
まり「どちらも、つなぎが大事です」
れいか「恋も素敵な、ものですね」

○洋食店『Someday』(夜)
   クリスマスイブ。扉には『CLOSE』の札。
   店前で深呼吸をするきみか。
きみか「空気が入ってこない……」
   店の扉を開ける。

○同・店内(夜)
守「いらっしゃい」
きみか「どうも」
   カウンター席に座るきみか。
守「今日は、きみかちゃんにクリスマスプレゼントがあって」
   守は弁当箱を取り出し、きみかの前に差し出す。
きみか「これは、この冬貰えるお弁当箱」
守「そう。ハマサキ冬のパンまつり」
   弁当箱に微笑むきみか。
守「ちゃんと、言うべきだった」
きみか「え?」
守「きみかちゃんが最初に美味しいって言ってくれた人なんだ」
きみか「……」
守「小学生の頃、将来の夢コックさんって書いてた」
きみか「その頃から」
守「だけど、気付けばサラリーマンになって、自分だけのためのハンバーグになってた。それを君が美味しいって言ってくれたんだ」
きみか「あの日……」
守「そう、あの日会わなかったら、いつか……そう思った日はやって来なかったんだ。だから、ありがとう」
きみか「(言葉を噛み締めて)そんな……。あの、わたしからもお礼と言うか、プレゼントがあります」
   きみかは同じ弁当箱を取り出し、守の前に差し出す。
   驚きつつ微笑む守。
   交換した互いの弁当箱をあける二人。
きみか「前よりうまく焼けました」
守「前よりコクが出ました」
   口にハンバーグを運ぶきみか。
きみか「(噛み締めるように)この味……」
守「(箸ではさみ)卵焼き、うまくなったね」
きみか「もう、高校生じゃないですから」
   にっこり笑うと、きみかの卵焼きを食べる守。
   にこにこと、楽しそうに交換した弁当を食べる二人。
   その様子を、女の子のサンタクロースの衣装を着た紗羅が、微笑んで見守っている。
守「あの……」
きみか「わたし達……」
きみか・守「出会うとこから、はじめませんか?」
END

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。