右に左に揺れる ドラマ

ヒジリが屋上に行くと、いつもユウがいる。ある日、ふたりが付き合っていると噂が流れて、ヒジリは激怒した。屋上の、男女の物語。
堀江陸と 68 0 0 09/03
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第一稿

登場人物
ヒジリ(16)…高校一年生。
ユウ(16)…高校一年生。
ミキ(16)…高校一年生。

ヒジリの母
男子生徒

〇デパート・屋上
   景色を眺めてい ...続きを読む
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登場人物
ヒジリ(16)…高校一年生。
ユウ(16)…高校一年生。
ミキ(16)…高校一年生。

ヒジリの母
男子生徒

〇デパート・屋上
   景色を眺めているユウ(16)。
   首にヘッドフォンをかけている。
   そこから、アヴリル・ラヴィーンの『Sk8er Boi』が聞こえる。
ユウ「『He was a boy, she was a girl』」
   と口ずさむ。
   ヒジリ(16)、登場。
ヒジリ「アヴリル・ラヴィーンだっけ?」
ユウ「好きなの」
ヒジリ「キャッチ―なメロディーだよね」
ユウ「違う。歌詞」
ヒジリ「俺には英語よくわからない。赤点しかとったことないよ」
Nヒジリ「ユウと出会ったのは、入学して間もない頃――」

〇(回想)マンション・屋上(夕)
   ユウ、景色を眺めている。
   ヒジリ、登場。
   絶望した表情。
   ユウを見つけて、驚く。
ヒジリ「どうして、ここにいるの?」
ユウ「高いところ、好き」
ヒジリ「へえ」
ユウ「景勝」
ヒジリ「ただの街並みじゃんか」
ユウ「日常的なのがいい」
ヒジリ「わからないな」
ユウ「わたしはここにいる。みすぼらしい街に見捨てられていない」
   胸を打たれるヒジリ。
ヒジリ「俺は……」
ユウ「聞いてない」
   と淡白に。
   ヒジリ、キョロキョロする。
   ユウの裸足。
ヒジリ「どうして、靴履いてないの?」
ユウ「窮屈」
ヒジリ「どうして、そんな短く話すの?」
ユウ「声が嫌い」
   ヒジリ、会話が続かないことに困る。
   ため息をつく。
ヒジリ「もう帰るよ」
   と去る。
ユウ「わたしも」
   とヒジリを追う。

〇同・廊下・玄関前
   ヒジリ、鍵を開ける。
   ふたつ隣にユウ。
   ヒジリ、ユウを見る。
   ユウ、ヒジリのことは気にせずに部屋に入る。

〇同・ヒジリの家・リビング
   脱ぎっぱなしの制服。
   ヒジリ、テレビを見ながら、宿題をする。
   テーブルの上のゲーム、お菓子。
   ヒジリの母、登場。
   心配そうに大きくため息を吐く。
ヒジリの母「あなた、また……」
ヒジリ「大丈夫」
   と答えを記入して、テレビを見る。

〇(戻って)高校・教室
   昼休み。
   食べ終えたヒジリとミキ(16)。
ヒジリ「ねえ、ミキ」
ミキ「何?」
ヒジリ「ユウってどんな人なの?」
ミキ「何? 好きになったの?」
ヒジリ「そういうんじゃなくて」
ミキ「いいじゃん、お似合いじゃん」
ヒジリ「いいから」
   と怒気混じりの口調。
ミキ「まあ、同じ中学とはいえ、わたしもあまり関わったことないから、詳しくは知らないけど」
ヒジリ「ユウが人と関わる姿が想像できないもん」
   ヒジリをまじまじと見るミキ。
ヒジリ「なんだよ?」
ミキ「ヒジリってユウ、ユウって呼び捨てじゃん。なんで仲よくないの? てか、同じマンションじゃん」
ヒジリ「そうだけど、知り合い程度なんだよ。質疑応答みたいな会話しかしてないし。ユウはいつも一言しか返さないから」
ミキ「ふーん。まあ、なんでもいいんだけど。そうだな、寡黙な子だったね。頭がすごくよくて……って今もか」
ヒジリ「今回の期末試験も五教科、全部十位以内だもんな」
ミキ「あと、ずっと本読んでたかな。地味っていうか、周りと関わらないようにしている、みたいな」
ヒジリ「ふーん」
   と何気なく外を見る。
   曇り空。
ヒジリ「曇ってる」
ミキ「午後から雨だってよ。傘持ってる?」
   ぎょっとするヒジリ。
   かぶりを振る。
ヒジリ「また母さんに文句言われる……」
ミキ「ヒジリのお母さん、ヒジリのことすごく心配してるもんね。折り畳みあるから、貸すよ。あ、柄は我慢してね」
   と折り畳み傘を渡す。
   パステルカラーの花柄。
   しかめっ面のヒジリ。
ミキ「いいじゃん」

〇デパート・屋上
   雨が降っている。
   傘を差して景色を見ているユウ。
   ヒジリ、パステルカラーの傘をさす。
   ユウの隣に並ぶ。
ヒジリ「雨だから綺麗じゃないでしょ?」
ユウ「空はね」
ヒジリ「ほかに何があるの?」
ユウ「傘」
ヒジリ「なるほど、確かに。思った以上に色んな色があるんだね」
   と下を覗いて言う。
ヒジリ「ミキってわかる?」
   ユウ、うなずく。
ヒジリ「ユウの中学時代の話になってさ、昔から頭がよかったんだね」
ユウ「勉強しかすることないから」
ヒジリ「俺なんて勉強もできない。才もない。取り柄のない落ちこぼれ人間だよ。もう底辺」
ユウ「じゃあ、これ以上落ちるところなんてないんじゃない?」
ヒジリ「そうかもね」
   と苦笑。
   強い風が吹く。
   ユウの傘が壊れる。
ヒジリ「大丈夫?」
   とパステルカラーの傘にユウを入れる。
   折れた傘。
   唖然とするふたり。
ユウ「……ふふっ」
   と笑う。
   ヒジリ、笑う。
ヒジリ「帰ろう。狭いけど」

〇道
   相合傘をするヒジリとユウ。
ヒジリ「傘っておかしいよな。絶対に四人も入らない」
   と『傘』を宙で書きながら。
ユウ「違うよ。あれは人じゃない」
ヒジリ「妖怪?」
ユウ「違う。傘の皺とか骨を示したもの」
ヒジリ「へえ、さすが」
   パステルカラーの花柄の傘。
ユウ「可愛い傘」
ヒジリ「俺のじゃない!」
ユウ「悪くないと思うけど」
   ため息をつくヒジリ。
ユウ「違うよ。周りなんて気にしたって意味ない。どうせ誰もわかってくれないんだから」

〇高校・教室(朝)
   晴れた日。
   ヒジリ、席で勉強している。
   駆けこんでくるミキ。
ミキ「ヒジリ!」
ヒジリ「何?」
ミキ「ユウちゃんと付き合ってるって、本当⁉」
   驚くヒジリ。
ヒジリ「付き合ってない」

〇同・廊下(朝)
   ヒジリ、男子生徒を殴る。
ヒジリ「だから、付き合ってねえって言ってんだろ‼」
   野次馬生徒が集まる。
   中からミキ、飛び出す。
ミキ「ヒジリ、何してるの!」
   我に返るヒジリ。
ヒジリ「……ごめん」
   と小声。
男子生徒「女のくせに‼ 男装野郎‼」

〇(回想)マンション・廊下
   歩いているヒジリ。
   絶望した表情で屋上に向かう。
Nヒジリ「体が思うように発達しないことがもっともストレスだった。もともと男勝りな性格で幼稚園では手を焼く問題児だった。最初はスカートがどうしても履きたくなくて、切り刻んだ。小学生低学年の時に母さんは俺を心配して病院に連れていき、トランスジェンダーすなわち性同一性障害とされた。その頃はまだ男子も女子も関係なく遊んでいたが、歳が上がるにつれて、男女は別れ、右も左も選べない俺ははみ出し者となった。高校に入って、ミキが俺に居場所を作ってくれた。ミキは俺をどちらとも扱わず、ヒジリという単一の生物として関わってくれたんだと思う。でも、つらくて、どうしても耐えられなくなった時期があった。もうだめだ、俺は屋上に来た。飛ぼうとした」
   屋上に近づく。
アヴリル・ラヴィーンの『Sk8er Boi』が聞こえる。

〇(戻って)同・屋上
   ヒジリ、屋上に出る。
   ユウ、景色を眺めている。
ヒジリ「なんでいるんだよ」
ユウ「巻き添え」
ヒジリ「あ……ごめん」
   とうつむく。
   足元の景色。
   ただの街並み。
ヒジリ「確かに景勝だ」
ユウ「だから言ったじゃん」
ヒジリ「そうだね」
   とユウを見る。
Mヒジリ「きっとユウは俺が飛び降りるのを止めるためにいつも屋上にいるんだと思う」
ヒジリ「なあ、どうして、俺を助けてくれるんだよ?」
   嘲笑して、微笑むユウ。
ユウ「そんなの――同士だからだよ」
   柔らかく風が吹く。
Nヒジリ「微笑んだユウのスカートは、右に左に揺れていた」

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