まだ起きていない殺人 ミステリー

寂れた街の喫茶店で、覚醒剤中毒と思われる男が人質籠城事件を起こす。店は警察やマスコミに取り囲まれ、中では爆弾を所持する犯人と人質たちの攻防が始まる。だが無情にも店は轟音と共に吹き飛んでしまう。男は一体何者だったのか? なぜ世間を騒がすこんな事件が起こってしまったのか? その裏には、想像もつかない真実が隠されていた・・・ 
森江雅幸 213 0 0 09/01
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第一稿

○住宅街の道(夕)
   T『木元 香苗』。
   木元香苗(17)と兵藤亜紀(17)が話しながら下校中。分かれ道に来る。
亜紀「じゃあね」
香苗「うん、また明日」
亜紀 ...続きを読む
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○住宅街の道(夕)
   T『木元 香苗』。
   木元香苗(17)と兵藤亜紀(17)が話しながら下校中。分かれ道に来る。
亜紀「じゃあね」
香苗「うん、また明日」
亜紀「ねえ香苗、今度お家に遊びに行ってもいい? だってすごいじゃん、香苗のお家」
   と高台にある大きな屋敷を見上げる。
香苗「・お母さんに聞いとく」
亜紀「本当? じゃ明日ね」
   と別の道を去って行く。
   香苗は坂を上がって屋敷方向へ。

○屋敷・前(夕)
   坂を上がって来る香苗。歩きながら門の中を見ると、玄関に『売家』の貼紙。

○あばら家・前(夕)
   香苗が帰って来る。
香苗「ただいま」
   とドアを開け、中へ。

○同・居間(夕)
   香苗はテーブルにバックを置いて座り、溜め息をつく。ふと背後に何かを感じて振り返る
   と、鴨居にロープを掛け、首を吊っている父の姿。
香苗「キャー!」
   と尻餅をつくが、父だと気付く。
香苗「いや! お父さん!」
   とその体を支える。
香苗「駄目、死んじゃ駄目! お母さん! 誰か! 誰か助けて!」

○南野家・全景(夜)
   T『南野 明日香』。
   2階の部屋の明かりが1つ点いている。

○同・明日香の部屋(夜)
   パジャマ姿の南野明日香(17)が机で勉強中。
   『ガタッ』という音に振り返る明日香。
明日香「・・・」
   引き戸に細い棒を立て掛け、鍵の代わりとしている。引き戸が力で開かれ、棒が大きくし
   なって折れる。
   明日香がハッとして立ち上がる。
   南野茂男(55)が入って来る。
茂男「何の真似だ」
   とゆっくり明日香に歩み寄る。
明日香「お願いします。今日は、今日は・」
茂男「今日は何だ?」
明日香「もうやめて下さい・・」
   茂男、明日香の頭に手を置く。その手が髪を撫でながら下がり、パジャマの胸元に来る
   と、乱暴に引き破る。
明日香「!」
   明日香の下着が露わになる。

○建設中にビル・前(朝)
   T『目黒川 祐一』。
   作業員達が次々ビルに入って行く。

○同・朝礼場(朝)
   整列する作業員たちの中に目黒川祐一(20)の姿。
   監督員・立花英樹(50)が注意事項を述べる。
立花「本日13時、第3ブロックでクレーンによる重量物搬入作業があるので事故のないよう
 に。今の所順調ですが、ちょっとした事故でも工期が遅れる可能性があるので気を引き締める
 ように。じゃ構えて!」
   一斉に安全帯のフックを手に持つ作業員たち。
立花「今日も1日安全作業で頑張ろう!」
作業員達「おう!」
   とフックを突き上げる。

○同・熱源機械室・中
   数人で配管取付作業中。
   配管を溶接する加藤雅治(45)と、傍らで配管を押さえる祐一。
   脚立に立って配管フランジのボルト締めをしている小西邦夫(35)。
加藤「(祐一に)おい、次の配管持って来い!」
   祐一は配管置き場に行き、配管をやっと肩に担ぐと、よろよろ歩き出す。
   脚立の小西がわざとスパナを落とし、祐一の足元に転がる。
小西「おい、スパナ拾え!」
祐一「ちょ、ちょっと待って下さい」
小西「早く拾えよ!」
   配管を担いだまま、腰を落としてスパナを拾おうとする祐一。
加藤「おい、早く配管持って来い!」
祐一「はい、今」
   と立ち上がって加藤の方を向くと、担いだ配管が小西の脚立を倒す。
小西「あぁ!」
   と脚立から落ちる。
祐一「!」
   立花が走って来る。
立花「どうした、おい大丈夫か!」
小西「(立って)大丈夫です、全然」
立花「安全帯はどうした、脚立使用時は安全帯着用だろ!」
小西「ちょっと上を覗いただけなので」
立花「脚立の使用許可証の掲示もないぞ、どうなっているんだ」
加藤「すみません、今書きますので」
立花「今じゃないだろ、作業中止だ(他の者に)おい、そこも作業をやめろ!」
加藤「あの、今日中に終わらせたいんです」
立花「駄目だ、安全作業がなされていない。作業は中止。始末書を書いてもらうからな」
   と去って行く。
   溜め息をつく面々。
   小西が祐一を殴る。

○同・前
   作業車に乗り込む配管工の面々。
   祐一が乗ろうとするとドアが閉まる。
祐一「!」
   小西が中から顔を出す。
小西「乗ろうとしてるんじゃねえよ!」
   と飲み掛けの缶ジュースを投げ付ける。
小西「歩いて帰れ馬鹿!」
   走り去る作業車。
祐一「・・・」

○祐一のアパート・前(夜)
   帰って来る祐一、中へ。

○同・中(夜)
   質素な部屋にそこそこのゴミ。
   パソコンを開いている祐一。

《チャット画面》
※チャーチル(祐一)、りぼん(木元香苗)
チャーチル『こんばんは』
りぼん『こんばんは。今日も鬱?』
チャーチル『万年鬱です』
りぼん『こちらも同じく』
チャーチル『栃木で工場爆発したね』
りぼん『人が死んだね。家族が泣いてるの見てほっとしたんだ。苦しんでいるの、私だけじゃな
 いって。最低だよね私』
チャーチル『ところで、この間の話どう?』
りぼん『会ってみるって話? 確か明日だったよね? 会ったらどうなるの?』
チャーチル『会わないと分からない』
りぼん『私のこと殺す?』
チャーチル『それは君次第かな』
りぼん『本気で頼んだら殺してくれる?』

   少し考える祐一。再びパソコンを打つ。

《チャット画面》
チャーチル『殺します』
りぼん『待ち合わせ場所、バス停だったよね』
チャーチル『そう、川沿いの』
りぼん『了解。ついに会う日が来たね』
チャーチル『待っています』
   
   祐一はパソコンを閉じ、段ボール箱を開けてサバイバルナイフを取出す。
祐一「(見て)・・・」
   とナイフを黒いリュックに入れる。他にもスタンガン、ロープ、ガムテープなどを次々と
   リュックに詰め込む。

○川沿いの土手・バス停
   バスが来て、香苗が1人降りて来る。
   辺りを見回し、ベンチに座る。

○祐一のアパート・前
   黒いリュックを持って祐一が出て来る。
   鍵を掛け、出掛ける。

○土手沿いの下道
   土手から一段下がった道を歩く祐一。
   遠くバス停のベンチに座る香苗の姿を確認し、少し早足になる。
   と、誰かが走って来る足音が聞こえる。
   祐一が見ると、土手を走る風見敏哉(38)の姿。手の甲に蜘蛛のタトゥー。
祐一「・・?」
   
○川沿いの土手・バス停
   ベンチに香苗が座っている。
   風見が走って来て香苗の前へ。荒い息。
風見「よう姉ちゃん、こんにちは」
香苗「俺と遊ぼうぜ」
   遠くから見ている祐一。
香苗「(立って)・・チャーチルさん?」
風見「誰だそりゃ。遊ぼうって言ってんだよ」
   後ずさりする香苗。
風見「怖い? 怖いなんて気持ちあるんだな」
   と自身のズボンのベルトを外す。
風見「ほら、遊ぼうぜ」
   と下半身を露出させる。
香苗「キャー!」
   と走って逃げて行く。
   大笑いしている風見。
   唖然とそれを見ている祐一。
   ズボンを上げた風見と祐一の目が合う。
祐一「!」
風見「おい、なに見てるんだ!」
   祐一は目を伏せ、来た道を戻って行く。
風見「(見送り)・・・」

○祐一のアパート・前
   帰って来た祐一が鍵を開ける。

○同・中
   入って来る祐一。リュックを下ろすと、
   散らかったゴミを蹴飛ばす。
   ×   ×   ×
   夜になっている。
   パソコンを開いている祐一。チャット画面には昨夜の香苗とのやり取りの後、祐一の一言
   が付け加えられている。

《チャット画面》
チャーチル『今日バス停に行きました。会えなかったのは残念です。何かあった?』

   返事はなく、溜め息を吐く祐一。
   ×   ×   ×
   うたた寝をしている祐一。目を開けると、眼前に炎が広がっている。
祐一「うわ!」
   と慌てて部屋の隅へ逃げるが、それは火事のニュースを伝えるテレビ画面。
   画面の中で炎に包まれている家屋。
祐一「・・・」
   とテレビを消し、頭を抱える。
   携帯電話のバイブレーションが鳴る。
   祐一、携帯で別のチャット画面を開く。

《チャット画面》
※アスカ(南野明日香)
アスカ『お久し振りですチャーチルさん、アスカです。覚えてますか?』
チャーチル『もちろんです、元気でしたか?』
アスカ『さっそくですが、緊急です。明日そちらに行っていいですか? 会ったこともないの
 に、いきなりですみません』
チャーチル『何かあったの? もしかして義理のお父さんにこと?』
アスカ『もう耐えられません。詳しくは会って話したいので。それでもいいですか?』
チャーチル『いいですよ。じゃあ前に一度約束した喫茶店はどうですか』
アスカ『あの時は行けずにすみませんでした。今度は必ず行きます』

○建設中のビル・熱源機械室・中
   小西と作業員達が働く姿。

○同・休憩室・中
   テーブルで喫煙する加藤。
   黒いリュックの祐一が傍らに立つ。
   加藤、祐一の退職届を叩き付ける。
加藤「今日で辞めるって?」
祐一「・・(頷く)」
加藤「こういうものは辞めるその日に持って来るものじゃないんだよ。常識だろ!」
祐一「・でも、雇用契約書も書いてないし」
加藤「喧嘩売ってんのか、てめえ。ま、お前なんて居なくてもどうにでもなるけどよ」
祐一「・・・」
加藤「何突っ立ってんだ、出てけよ」
   祐一は頭を下げ、出て行こうとする。
加藤「今月の分払わねえからな、当然だよな」
   祐一、黙って去って行く。

○駅前通り
   リュックの祐一が歩いている。

○喫茶『雅』・前
   ひとけのない、寂れた店が並ぶ通り。
   祐一が来て、喫茶『けやき』に入ろうとして立ち止まる。
   扉に『CLOSE』の札。
祐一「・・・」
   と周りを見ると、向かいに喫茶『雅』を見つける。

○同・中
   レトロな造りの店内。
   カウンターで新聞を読むマスターの金村義明(65)と暇そうな望月八重子(62)。
   客が居ない店内に祐一が入って来る。
八重子「いらっしゃい。そちらの席にどうぞ」
   祐一、席に着いて店を見回す。
   八重子が水とおしぼりを持って来る。
八重子「何か?」
祐一「ここに喫茶店があるの知らなくって」
八重子「あら20年もやってるんだけどね、そんなに目立たない? ご注文は?」
祐一「ホットコーヒーを」
   八重子、カウンターへ。
八重子「お父ちゃんコーヒー。ホットね」
金村「はいよ」
   祐一、携帯でチャットを始める。

《チャット画面》
チャーチル『約束の店が閉まっているので、向かいの『雅』という喫茶店にいます』

   ×   ×   ×
   コーヒーを淹れている金村。
北島の声「こんにちは」
   警官・北島誠(50)が入って来る。
   緊張する祐一。リュックに目をやる。
北島「ごめんなさいね、営業中に」
金村「ああ、お巡りさん」
北島「マスターこの間の差入れ、受け取れなくてごめんなさい、上がうるさくて」
金村「いや気にしないで。何かありました?」
北島「ちょっと見回り中なんですけど、実はね、昨日女性の前でこう、下半身を露出させた男が
 現れましてね」
八重子「いやぁ、何それ!」
   ハッとする祐一。北島と目が合い、目を伏せる。
北島「・・・」
金村「いわゆる変質者ってやつか」
八重子「でもさ、ちょっと見て見たいわね」
金村「馬鹿言ってんじゃないよ」
八重子「冗談に決まってるでしょ、いやぁね」
北島「最近怪しい人物を見ていませんか?」
金村「いやぁ、そういうのはないな」
八重子「店に来るのは常連客ばっかりだし」
   北島、祐一に歩み寄る。
北島「お寛ぎ中すみません、あなたも誰か見掛けませんでしたか?」
祐一「・い、いえ僕は」
北島「さっき『あっ』って顔しましたよね」
祐一「え、ええ(観念して)実は昨日見たんです、その変質者が露出したところを」
北島「え! あの土手のバス停の所で?」
祐一「はい」
八重子「あら、あんた見たの? どんな男?」
北島「(八重子に)奥さん、私が聞くので」
八重子「あーら、ごめんなさい」
北島「どんな男でした? 例えば体格とか」
祐一「痩せ形で、背は高かったような」
北島「180センチくらい?」
祐一「近くあったような。髪はぼさぼさで黒いシャツ。目付きが悪い印象でした」
北島「他に何か特徴はありませんでしたか?」
祐一「手の甲に蜘蛛のタトゥーがありました」
北島「確かですか?」
祐一「(頷き)視力だけなんです、人に自慢出来るところ」
八重子「そんなことないわよ、男の特徴ちゃんと掴んでるし、頭良さそう、自身持って。
 あら、また余計なこと言っちゃったわ」
北島「いやぁ、これは有力な情報だ」
   と手帳にメモを書き始める。
北島「あなた、お名前は?」
祐一「目黒川祐一と言います」
北島「身分を証明するものってあります?」
   祐一が免許証を出し、北島がメモする。
   祐一、ハッとリュックの存在を思い出す。ちらりとリュックを見て視線を戻すと、じっと
   こちらを見ている北島。
   祐一、思わず目を伏せる。
北島「どうかしましたか?」
祐一「・いえ」
   北島、訝しげに祐一のリュックを見る。
北島「そのリュック、あなたの?」
祐一「はい」
北島「中を確かめさせて貰っていいですか?」
祐一「(驚き)え、何でですか」
北島「疑っている訳じゃないんですが、一応」
祐一「・・・」
北島「いいですかね?」
祐一「・・・」
   警官・戸塚剛(28)が入って来る。
戸塚「北島さん、不審者の目撃情報がありました! ショッピングモールです」
北島「俺たちが出張るのか?」
戸塚「一番近いんで」
北島「了解(祐一に)ありがとうね(金村たちに)お騒がせしました」
   と戸塚と共に出て行く。
祐一「・・・」
   八重子がコーヒーを持って来る。
八重子「お待ちどうさま」
   コーヒーを飲む祐一。扉のベルが鳴り、見ると南野明日香が立っている。
金村「いらっしゃい」
   明日香、祐一と目が合うと祐一の元へ。
祐一「(立って)こんにちは」
明日香「チャーチルさん?」
   頷く祐一。
明日香「初めまして、明日香です」
   立ったまま見つめ合う2人。
   水を持った八重子が来る。
八重子「お連れさん・・だよね?」
祐一「はい」
八重子「座ったら?」
   席に着く祐一と明日香。
祐一「何か飲む?」
明日香「じゃ、アイスコーヒーを」
八重子「かしこまりました。何かいいね、2人。初々しい感じで」
金村「(たしなめて)お母ちゃん」
八重子「あらやだ(金村に)アイスコーヒー」
金村「はいよ」
   黙って向かい合う祐一と明日香。
   明日香が祐一の長袖シャツから見える火傷跡に気付き、祐一が隠す。
祐一「緊急って、やっぱりお父さんの件?」
明日香「戻ったらまたあいつの玩具にされる」
祐一「部屋に鍵を付けたって言ってたよね」
明日香「扉が開かないように、色々試しました。この前はホームセンターで鍵買って付けたけ
 ど、学校に行ってる間に壊されました。だから家を出て、マン喫に泊まってました」
祐一「そうだったんだ」
明日香「でもお金も無くなっちゃったし、もういいかなって」
祐一「・・・」
明日香「前にした約束、果たしてくれますか?」
祐一「取り敢えず、今夜はうちに泊まったら?」
明日香「じゃあ、今夜殺してくれますか?」
祐一「・・・」
   扉が開いて風見が入って来る。祐一と似たリュックを持っている。
祐一「(見て) !」
金村「いらっしゃい」
   風見、祐一に気付かず奥の席へ。
   八重子が風見に水を運ぶ。
   落ち着きがなくなる祐一。メニューを見る風見をちらちら見る。
明日香「お知り合いですか?」
祐一「え、いや」
   風見、カウンターに手を上げる。
風見「おばちゃん、ハムサンドとコーヒー」
八重子「かしこまりました」
   明日香に視線を戻す祐一。
祐一「今夜、色々話しましょう」
明日香「もしかして、迷ってます?」
祐一「違う、君に迷いがないか確かめたい」
明日香「迷いなんてない。今夜お願いします」
祐一「本当にいいの?」
明日香「このままじゃ、いつかあいつの子供を妊娠しちゃう。あんな男の・絶対いや」
祐一「お母さんに打ち明けるのは無理?」
明日香「そんなの、お母さん気が変になっちゃう。そんなことしても事実は消えない」
祐一「確か両親は再婚同士で、向こうにも息子がいるんだよね、義理のお兄さん」
   頷く明日香。
祐一「助けを求められないかな?」
明日香「ドラッグやってるような人に?」
祐一「・・・」
明日香「兄もね、私を狙っていたんです。付き合いたいって言って来た。だから言ったの、あな
 たの父親に犯されてるけど、それでもいいの?って」
祐一「・・・」
明日香「ドン引きしてた。それからは何も言って来ない。助けてくれるかもって少しは期待した
 けど。それからは、ただ汚いものを見るように私を見るだけ」
祐一「・・・」
明日香「私が消えればいいの、消えれば」
   祐一、煙草を吹かす風見を見て、明日香に視線を戻す。
祐一「今夜にしよう。君が抵抗しないならロープにする。ロープで首を絞めるよ」
明日香「一人で死ねなくて、ごめんなさい」
祐一「君が死んだら、僕もすぐ死ぬから」
   と風見に目をやると、祐一をじっと見ている風見。
   祐一、慌てて目を伏せる。
明日香「どうかしましたか?」
祐一「ううん」
   と風見を見ると、風見の姿がない。
祐一「・・?」
   と、祐一の真横に立っている風見。
祐一「うわっ!」
風見「よう、昨日はどうも」
祐一「・・・」
風見「ちょっと来いよ」
   と祐一を外へ誘う。
   風見に続いて外に出ようとする祐一。リュックに気付き、持って出る。
祐一「(明日香に)ちょっとごめん」
   と外へ出て行く。

○同・前
   風見に続いて、祐一が出て来る。
風見「昨日のこと誰にも喋ってねえよな?」
祐一「・・はい」
風見「本当だろうな?」
   と祐一の顔を覗き込み、不意を突いてリュックを奪う。
祐一「あっ!」
風見「随分大事そうに抱えてるじゃねえか」
   と中からナイフを取り出す。
風見「何だこりゃ」
   とスタンガンを出し、スパークさせる。
風見「おいおい、本当かよ」
   と更に小型の斧を出す。
風見「お前、一体何者だよ」
祐一「・・・」
風見「俺への護身用で持って出たか。だけどよ、何で普段からこんな物持ってるんだ。人殺しで
 もするつもりか?」
祐一「・・・」
風見「知ってるよ、あの女殺すんだろ今夜」
祐一「!」
風見「(笑って)こんな小さな店なんだぜ、お前らの話なんて丸聞こえだよ」
祐一「・・・」
風見「まあいい、こいつは頂くぜ、襲われたら困るしな(辺りを見て)ここはやばい、奴らが見
 張ってるかも知れねえ」
   と店に入って行く。
   祐一も続いて中へ。

○同・中
   風見が入って来て、奥の席へ。
   入って来た祐一は、仕方なく元の席へ。
明日香「大丈夫ですか?」
祐一「・・・」
   風見が来て、自分のリュックを祐一の横に置く。
風見「代わりにやるよ」
   と奥の席へ戻って行く。
祐一「(明日香に)あの人のバックを、間違えて持って来ちゃったみたいで」
明日香「・・・」
   風見の様子を見ながら、ひそひそ話す金村と八重子。
   八重子がアイスコーヒーを持って来て、祐一に小声で話し掛ける。
八重子「ちょっとあんた。あの男ほら、手に蜘蛛の入れ墨が。あんたがさっき話してた男じゃな
 いのかい。違うのかい?」
祐一「いや、それは・・」
   扉が開いて、北島と戸塚が入って来る。
北島「度々すみません、先程はどうも」
金村「(驚き)お巡りさん」
北島「ああ、そんなに心配しないで。さっきの不審者の情報でしょ、いたずらの通報でしたよ(祐一に)それよりあなた、あなたが言っていた男、蜘蛛のタトゥーの男の身元が分かりました
 よ」
   警官以外、緊張に包まれている。
   風見は頬杖をつき、そっぽを向く。
北島「(手帳を見て)名前が風見敏哉と言いましてね。まあ捜査情報なので詳しくは言えません
 が、前科6犯。覚醒剤使用の常習者で、最近も逮捕寸前で逃走しています」
戸塚「(たしなめて)北島さん」
北島「近くに潜伏していたアパートがありましてね、今行って来ました。それがねマスター、ち
 ょっと厄介なことになるかも」
金村「厄介というと?」
北島「アパートにね、爆発物を製造した痕跡があったのですよ」
金村「爆発物?」
戸塚「北島さん、捜査情報ダダ漏れです」
北島「あ、いかんいかん。皆さん、今のはここだけの話ってことで」
   静まり返っている祐一たち。
北島「ごめんなさいね、そんなに心配することではないので」
   皆、目を伏せて黙ったまま。
北島「・皆さん、何かありました?」
   と金村を見ると、金村が目配せで風見の存在に気付かせる。
北島「・・・」
   とゆっくり風見に近づいて行く。
   見守る一同の中、祐一がふと風見が置いたリュックを見る。
祐一「・・・」
   とリュックに手を伸ばす。
   風見の横まで来た北島が、風見のタトゥーを確認する。
北島「・あの、ちょっと宜しいですか?」
風見「・・・」
北島「お前、風見敏哉じゃないのか?」
風見「・・・」
祐一の声「あっ!」
   驚いて振り向く北島。見ると、リュックから時限式爆弾を出している祐一。
北島「何だ君、それは!」
   北島にスタンガンを浴びせる風見。
北島「あぁ!」
   気を失う北島を抱え込む風見。
戸塚「貴様!」
   と腰の拳銃に手を置く。
風見「動くな!」
   と北島の首にナイフを押し当てる。
戸塚「・・・」
風見「上司が死ぬぞ。どんな顔してこいつの葬式に出るつもりだ」
戸塚「・・・」
風見「(明日香に)そこの御嬢ちゃん、そいつの拳銃を取って、こっちへ持って来い。
 (戸塚に)おい、銃をその子に渡せ」
   戸惑う戸塚と明日香。
風見「早くしろ、死ぬぞこいつ!」
   明日香が戸塚から拳銃を受け取る間、風見は北島の拳銃を奪う。
   明日香が風見に拳銃を渡す。
風見「よーし、よくやった」
   と拳銃を明日香の頭に押し当てる。
明日香「!」
祐一「やめろ!」
風見「この距離で撃っても、弾丸が脳内に残って確実に死ねるかどうか分からない。口を開け
 ろ」
   明日香の口に銃口を入れる風見。
風見「そう、これなら小脳が吹っ飛んで、呼吸中枢が破壊されるから死ねる確率も上がる。死ね
 なかった場合、死んだ方がマシだと思うほど苦しむけど、ごめんよ」
   明日香の足が震えている。
風見「おいおい、泣いているのか」
   明日香の目に涙が見える。
風見「泣くなよ。死にたいんだろ、お前。俺が殺してやるよ」
戸塚「死にたい訳ないだろ!」
風見「死にたいんだよ、こいつは!」
   と戸塚に銃口を向ける。
風見「(明日香に)なあ、そうだろ? 義理の父親か何かに犯されて死にたいんだってさ。そこの
 兄ちゃんが殺す約束してたぜ (祐一に)なあ、さっき話してたもんなぁ」
戸塚「(祐一を見て)君・」
祐一「・・・」
風見「お嬢ちゃん殺した後、自分も死ぬんだってよ。心中ってやつかな」
   と祐一のリュックの中身をばらまく。
風見「これも全部、その兄ちゃんの物だから」
戸塚「(祐一に)まさか、本当の話か?」
祐一「・・・」
風見「親切な兄ちゃんだねぇ。お前も人生に絶望しちゃってる口か? 虐めでも受けたか? そ
 れともお前も犯されたか?」
   と笑う。
祐一「彼女を馬鹿にするな! あんたに人の痛みなんて分からない」
風見「へえ、お前には分かるのか。その子の痛みが分かるから殺して楽にしてやる。ついでに自
 分も生きて居たくないから一緒に死んでやるってか? 人の命も自分の命も、勝手な理屈付け
 りゃ奪い取っていいなんて。何だ、神様にでもなったつもり?」
祐一「・・・」
風見「ごめんごめん、非難してる訳じゃないんだ。大事なこと言い忘れてた。俺はさ、お前たち
 の敵じゃない、仲間なんだよ」
戸塚「お前が仲間な訳ないだろ!」
風見「黙ってろ! 俺はその爆弾で粉々になる。死にたいんだよ、だから仲間だ」
北島「(目覚めて)・死にたいだと? 何でお前が死にたいんだ?」
風見「・追われてるからさ」
北島「犯罪を犯したから警察は追うんだ」
風見「警察じゃねえ」
北島「じゃ誰だ」
風見「奴らだよ。誰だかは知らねえ、あいつらには目がねえんだ」
北島「・何言ってるんだ、お前」
風見「目だよ。いいか、人の瞳は瞳孔とも言われる。真ん中にある穴が光の入り口だ。明るいと
 縮み、暗いと大きくなって光の量を加減する。だが奴らのはただのビー玉だ。瞳孔が開きも縮
 みもしねえ。でもあいつらには全部見えてるんだ。俺がどこにいて何をしているかも」
   唖然としている一同。
風見「奴らは俺を自由に操るつもりだ。くそ、その前にチップ諸共吹き飛んでやる!」
北島「チップ?」
風見「奴らが俺の頭に埋め込んだチップだよ。俺を操ろうなんて、そうはさせねえ」
北島「風見お前・・ヤクのやり過ぎだ」
風見「ヤクでイカれてるんじゃねえ!」
   とポケットから起動スイッチを出す。
風見「見ろ」
   とスイッチを押すと、テーブルの爆弾がカウントダウンを始める(3分から)。
   一同がハッとすると、風見がもう一度スイッチを押し、カウントダウン停止。
風見「イカれた奴に、こんな物作れるか?」
北島「・イカれてるから作れるんだ」
風見「黙れ!」
   とカウンターに向けて発砲。コーヒーカップなどが砕け散る。
   八重子の悲鳴。
   風見、窓に銃口を向ける。

○同・前
   銃声と同時に割れる窓。
   慌てて逃げる通行人の主婦2人。
   周りの店などから人々が出て来る。
   『何だ』『何の音?』などの声。

○同・中
   北島に銃口を向ける風見。
風見「お前がまともで俺がイカれてるって証拠がどこにある。警察なら証拠を出せ」
   と北島の頭に銃口を押し当てる。
風見「俺がイカれてるだと?」
北島「・・やめてくれ」
風見「お前の頭にもチップがあるかもなあ。吹き飛ばしてやろうか」
   北島の額に汗がにじむ。
風見「何? 怖いの?」
北島「・・怖い」
風見「(笑い)警察でもそんなこと言うんだ」
戸塚「おい、やめるんだ」
風見「さあ歯を食いしばれ、脳みそ飛び散るかな(皆に)ちゃんと見ておけよ」
   ぎゅっと目を閉じる北島。
明日香「やめて下さい!」
風見「・・・」
   明日香、風見の目の前へ。
明日香「私を・・殺して下さい」
祐一「そんな奴。駄目だ!」
明日香「あなたが言う通り、どうせ死のうと思っていたし。その代わり、他の人は助けてあげて
 下さい。お願いします」
   と頭を下げる。
風見「・・・」
八重子「駄目よ、あんたが死ぬことはない!だって、あんた何も悪くないじゃない!」
明日香「・・・」
八重子「ごめんね、さっきの2人の会話聞いちゃったんだよ私たちも。あんたは何にも悪くな
 い、悪いのは父親でしょ。何であんたが死ななきゃならないの!」
明日香「・・・」
風見「ばばあ、誰が喋っていいと言った」
八重子「お願いです。どうか、この子たちだけでも助けてやって下さい」
明日香「おばさん」
八重子「この子たちは、まだ人生の半分も生きてやしない。まだこれからなんだよ。どうか助け
 てやって下さい」
金村「・俺たちだって死にたかない。でも、この子たちはもっと駄目だ」
風見「美しいお話だけど、この2人にとっちゃ命なんて何の価値もないんだよ」
八重子「そんなことない!」
風見「まあいいや、そんなに死にたきゃお前が先に死ね」
   と八重子に銃口を向ける。
   恐怖で後ずさりする八重子。
八重子「ああ・・ああ、怖い」
   と躓いて倒れる。
八重子「怖い、お父ちゃん怖い!」
金村「どうか勘弁してくれ。お願いします!」
   と土下座する。
風見「あ、そう。じゃ、お前が先ね」
   と金村に銃口を向ける。
   突然、風見に掴み掛かる北島!
風見「てめえ!」
   風見と北島が揉み合いになり、あちこちを向く銃口。
戸塚「北島さん!」
   と加勢しようと駆け寄る。
   風見が発砲して戸塚の腹部に命中!
北島「戸塚!」
戸塚「い、痛え」
   戸塚が倒れて、更に揉み合いになる風見と北島。テーブルや椅子が倒れる。
   加勢すべきか迷う祐一。
北島「(祐一に)君は来るな!」
   風見が懐からもう1丁の拳銃を出す。
   風見の両手を押さえる北島。2人が倒れ、2丁の拳銃が床を転がる。
風見と北島「!」
   2人がそれぞれの拳銃に飛び付き、構える。が、一瞬早かった風見が発砲して、北島が胸
   に被弾する。
金村「お巡りさん!」
   痛みで膝をつく北島。
祐一「やめてくれ!」
北島「(祐一に)ここから、抜け出せ」
   風見が更に2発発砲。被弾した北島が倒れる。
明日香「いやー!」
   風見が北島の拳銃を奪い、窓から外の様子を窺うと、数人の人が走って来る警官・田沢
   (25)を手招きしている。

○同・前
   風見が出て来て、拳銃を発砲すると、街灯が砕け散る。
田沢「(人々に)伏せろ!」
風見「人質を取ってるぞ! おい、お巡り! もっと大勢連れて来い!」
   と中へ入って行く。

○同・中
   倒れた北島と戸塚を目の前に、呆然としている祐一たち。
   風見が入って来て、明日香の元へ。
風見「え、嘘だろ? まさかショック受けちゃってる訳じゃないよな? お前にとっちゃ命なん
 てどうでもいいものだろ」
明日香「・・・」
戸塚「うわー!」
   と立ち上がって風見に襲い掛かる。
   風見が発砲して、胸に被弾した戸塚が再び倒れる。
風見「ほら死んだ、簡単だろ」
明日香「・・何てことを」
風見「(祐一に)おい、それより朗報だ。これから騒がしくなるぞ、警察やマスコミまで来るか
 らな。俺たち有名人になれるぞ。皆ここで死ぬことになるが、お前は殺人犯じゃなく、被害者
 として名前が残る」
祐一「・・・」
風見「あ、殺人犯が良ければ、先に殺していいぞあの女。どうせ殺す気だったんだろ」
祐一「・・・」
風見「(金村に)おいジジイ、死体を奥へ運んでおけ! ショーが始まるぞ!」

○同・前
   防弾シールドを構える警官たちの後方には数台の警察車両。更に後方には、テレビ中継の
   マスコミと野次馬たち。
   テレビレポーターがカメラと向き合う。
レポーター「えー、現場から中継です。あちらに見えます喫茶店で人質籠城事件が発生した模様
 で、ご覧のように警官隊が取り囲んでおります。銃声を聞いたとの情報や、犯人の男の目撃情
 報もあり、店内の状況が心配されるところです」
   警部・達川俊作(50)がやって来る。
達川「(警官たちに)おい、もっとマスコミを下がらせろ! 野次馬を追い払え!」
   と刑事・三島勇人(30)の元へ。
三島「あ、達川警部」
達川「状況は?」
三島「男が人質を取って立て籠もっております。拳銃を所持しています」
達川「犯人は1人か?」
三島「今確認出来ているのは1人です。顔写真を科捜研に送って照合しました。名前は風見敏哉
 38歳、覚醒剤の売買及び使用の前科があります」
達川「ヤク中か、厄介だな。人質は?」
三島「数名確認しましたが、正確な人数は・」
達川「武器は拳銃だけか?」
三島「おい、君」
   と田沢を招き寄せる。
三島「銃声を聞いたんだね?」
田沢「自分が訊いたのは6発。その他にも2発の銃声を聞いたとの情報があります」
   腕組みをして考える達川。
三島「・・どう致しますか?」
達川「どうせまともな要求もして来ないんだろう(呟き)めんどくせぇな」

○同・中
   窓際で外の様子を見ている風見。
風見「よし、顔見せだ」
   と明日香の前へ。
風見「悲劇のヒロイン登場」
   と明日香の腕を取り、入口へ。
八重子「ちょっと」
風見「すっこんでろ!」
   と明日香と外へ。

○同・前
   扉から明日香と、明日香に銃を押し当てた風見が出て来る。
達川「おい、出て来たぞ」
   三島が達川に拡声器を渡す。
達川「(拡声器で)私は警視庁の達川という者だ。話は私が聞こう。人質を解放してくれ」
風見「・・・」
達川「悪いようにはしない、君の要求を聞かせてくれないか。何か要求があるんだろ?」
風見「・・・」
達川「おい君、聞いているのか?」
風見「あいつらを探し出せ!」
達川「あいつらとは?」
風見「野次馬の中に紛れ込んでいる筈だ!」
達川「一体誰のことかな?」
風見「俺を見張っている連中だ。目を見りゃ分かる、奴らの目はただのビー玉だからな。
 分かるだろ、奴らは人間じゃないんだ!」
三島「(達川に)・何を言っているんですか」
達川「やっぱりイカれポンチだ(風見に)分かった、探してみよう。他に何かあるか?」
風見「人を集めろ、沢山集めるんだ!」
達川「どういうことかな?」
風見「うるさい、黙って集めろ!」
明日香「駄目、来ちゃ駄目!」
風見「お前は黙ってろ!」
明日香「爆弾があります! 皆離れて!」
風見「お前!」
   と明日香を引っ張って店の中へ消える。
達川「・・爆弾?(警官たちに)おい、もっと下がれ! 全体後ろへ! 早く!」
   警官隊が下がって行く。

○同・中
   明日香を引っ張って入って来る風見、明日香を引き倒す。
風見「よくも余計なことを!」
   と明日香を蹴ろうとする。
八重子「やめて!」
   と明日香に覆い被さる。
   八重子を何度も蹴る風見。
風見「どけババア! どけ!」
八重子「痛い、痛い!」
   止めようとする金村。
金村「やめてくれ!」
風見「うるせえ!」
   と金村を殴り、倒れる金村。

○同・前
   達川の元へ三島が走って来る。
達川「消防隊は?」
三島「ワンブロック後ろに待機させました」
達川「爆弾か、本当だろうな」

○同・中
   ロープで後ろ手に縛られ、床に座らされている祐一たち。4人が背中合わせに固まって座
   る。
   風見は窓際で外の様子を窺っている。
風見「あーあ、だいぶ後ろに下がっちまった。(祐一たちに)だがまだ踏み込んじゃ来ない。こ
 っちの人数も把握出来てないからな」
   店の電話が鳴り、風見が出る。
風見「ああどうも。警察? あんたさっきの責任者? 達川とか言ったっけ・・何、人質? あ
 あ、いるよ・・元気そうだけど・・はあ? 人数までは教えられるかよ。踏み込もうとしてる
 んだろ、あんたら。簡単には教えられねえな、仲間がいるかどうかも」
   と会話が続く。
   電話の間、金村が隠していたカッターナイフを取り出そうとする。
   床に落ちるカッターに気付く祐一。
   電話の風見は気付いていない。
   祐一に目配せする金村。
   祐一がカッターを取る。
風見「(電話)差入れ? いるかよ、そんな物。飲食店だぞ、ここは」
   と電話を切る。
風見「さあ、計画が邪魔される前にやるかな」
   と起動スイッチを押すと、爆弾がカウントダウンを始める。
祐一たち「!」
風見「ああ悪いね、もっと引き延ばすと思った? そういう気ないんで。さあ、残りの時間を思
 い切り味わえ! 大きく息を吸い込め、吸えるのは今のうちだぞ! 皆で吹き飛ぶぞ、皆粉々
 になるんだ!」
   電話が鳴って、風見が出る。
風見「あんたか。しつこいよ、達川さん・・何か要求があるかって? さっき言っただろ。それ
 よりあんたこそ探したか? 奴らのことだ、野次馬の中にいるんだよ!」

○同・前
   双眼鏡で店を見る三島と傍らの達川。
三島「犯人が電話中です」
達川「・仲間か?」

○同・中
   電話をする風見。
風見「本当に調べてるのか! だから目を見りゃ分かるって。ビー玉なんだよ、奴らの目は! 
 お前ら探す気あるのか!」
   電話の間、ロープを切る祐一。自分と、続けて全員のロープを切る。
   電話中で背を向けている風見。
   4人、顔を見合わせる。
金村「(祐一に)俺たちが奴を食い止める」
祐一「・何を言っているんですか」
金村「君は彼女を連れて逃げるんだ、その間ぐらい何とか抑えてみせる」
祐一「でも・」
八重子「(明日香に)私たちに任せて。あんたは生きるの、いいね?」
明日香「おばちゃん」
八重子「死ぬなんて駄目。生きてりゃきっといいこともある。いつか分かるから」
明日香「私なんて、どうなってもいいんです」
   八重子、明日香の頬を叩く。そして抱き締める。
八重子「可哀想に。いっぱい辛いことあったね。その分、いっぱい幸せにならなきゃ。自分の為
 に生きるのが辛かったら、人の為に生きなさい。いいね?」
   泣いている明日香。
   爆弾のカウントダウンが1分を切る。
金村「(八重子に)時間がない、行くぞ」
   と雄叫びを上げて風見に突進する!
風見「!」
   金村の体当たりで倒れる風見。
   2人、そのまま拳銃の奪い合いで揉み合う。
風見「てめえ!」
   風見の拳銃が窓に向け、1発放たれる。

○同・前
   銃声と共に割れる店のガラス。
達川「(周りに)伏せろ! 物陰に隠れろ!」

○同・中
   揉み合う風見と金村。
   風見が金村に銃口を向ける。
八重子「お父ちゃーん!」
   と風見に体当たりする。
   風見を壁に押さえ付ける金村と八重子。
金村「(祐一に)行けー! 早く!」
   明日香の手を取る祐一。
祐一「行こう!」
明日香「置いてけない!」
八重子「早く!」
祐一「行くぞ!」
   と明日香と扉に向かって走る。

○同・前
   祐一と明日香が出て来る。
三島「誰か出てきました!」
   倒れ込む祐一と明日香が振り返る。
   と、店が轟音と共に爆発する!
   砕け散る窓ガラスと人々の悲鳴!
   店はそのまま炎に包まれる。
   呆然と見つめる祐一と明日香。
祐一「・・・」
   と胸に何かが込み上げてくる。
祐一「うわー!」
   と店内に戻って行く。
達川「駄目だ君! 戻りなさい!」
明日香「!」
   静まり返る人々。
   と、八重子を抱え、金村の手を引いた祐一が出て来る!
達川「出て来た!(警官に)救護!」
   火が付いた体で倒れ込む3人。
明日香「おばちゃん!」
   毛布で3人の火を消す警官たち。
   倒れたまま空を見上げる祐一。
   達川が祐一の元へ。
達川「君、大丈夫か! 君!」
   荒い息の祐一。気が遠くなっていく。
   フェードアウト。

○風見の寝室(早朝)
   T『2080年』。
   T『風見 敏哉』。
   ベッドで寝ている風見。
   アラームが鳴ると、風見莉子(7)が入って来る。
莉子「パパ、ねえパパ起きて」
   眠い風見。
莉子「パパ早く。ママ、パパが起きないよ」
   風見楓(32)が来る。
楓「パパ、朝よ。起きて」
莉子「大人なのに起こしてもらうなんて、変だよねえ」
楓「本当よねえ」
   体を起こす風見。
   楓と莉子が笑顔で並んで立っている。
   2人を見つめる風見。手首を触ると、空間にタッチパネルが現れ、タップするとアラーム
   音と2人の姿が消える。
   項垂れる風見。

○国立科学研究所・全景
   緑に囲まれた近代的施設。
   T『国立科学研究所』

○同・講義室・中
   風見が研究生の前で講義中。
風見「タイムトラベル、時間を飛び越える技術は2年ほど前に開発されたが、まだ世間的には公
 表されていない。実際の使用に関しても、厳しい規則が設けられているが、なぜだと思う?」
   研究生・里中博之(22)が挙手。
里中「皆が自由に過去や未来に行くと、歴史が変わってしまうからじゃないですか」
風見「その通り。君たちだって未来や過去に行ってみたいだろう。しかし未来が決して明るいも
 のとは限らないし、過去に戻って歴史を変えてしまえば、この世界にも変化が起きてしまうか
 らね。ただ昨年度より、実験的に我々工作チームにだけ、使用許可が下りた」
里中「噂で聞きました。過去に起きた殺人事件なんかを未然に防ぐというプロジェクトですよ
 ね」
風見「どこから得た情報だ? まぁいい、君たちももう関係者だ。歴史を簡単に変えることは出
 来ない。ただ過去に起きた犯罪を1つ1つ消して行くことで、現在に良い影響が出るかも知れ
 ない。犯罪が起きることが当たり前の世の中ではなく、犯罪が起きないことが当たり前の世の
 中に変わって行くかも知れない。そんな実験的なケースとして、許可が下りたという訳だ」
   研究生・中田麗(22)が挙手。
中田「教官、実際のタイムトラベルはどのように行われるのでしょうか?」
風見「ああ、今見せるよ」
   と手首を触って空間にタッチパネルを出し、タップすると目前に2メートル程の門型フレ
   ームが現れる。内側は波立っている。
風見「このフレームを使用する。これで出来ることは2つある。まずは1つ目」
   とフレームに飛び込むと、風見とフレームが同時に消えて無くなる。
   驚く研究生たち。
    と、風見がドアから入って来る。
風見「マジックじゃないぞ。1つ目はそう、空間移動。今はここから廊下へと移動した。いわゆ
 る『どこでもドア』だ。但しこの機能も、まだ半径1キロ以内しか移動出来ない。そしてもう
 1つの機能がタイムトラベルだが、実際に目標を設定しても、多少のズレが生じることもある
 ようだ。例えば設定した時間の数分前に飛んでしまうとか、駅のホームに飛ぶ筈が、線路に飛
 んでしまうとか。開発チームの努力で、日に日に精度も増して来ているようだがね」
中田「タイムトラベルも、今見られますか?」
風見「タイムトラベルも見た目は同じ、今のようにフレームに飛び込むだけだ。ただその前に使
 用計画書の作成や、各部署への承認許可申請をして、特別なアクセスコードを手に入れなけれ
 ば使用出来ない」
   後方のドアから金村が入って来る。
   風見、金村に気付く。
   研究生・清原幸正(22)が挙手。
清原「教官、ちょっと聞きにくい質問ですが、工作チームが過去に行って犯罪を防ぐということ
 は、犯人を殺すのですか?」
風見「我々は殺し屋でも死刑執行人でもない。綿密に計画を練り上げ、犯人を殺すことなく事件
 を解決する。これが原則だ」
清原「犯人を殺さず・・どうやって?」
風見「殺人事件なら犯人と被害者が出会わないようしたり、犯人が犯罪を実行しないよう導いた
 りね。事件の背景は様々だから、これといったやり方はない。チームを組み、話し合いを重ね
 て方法を模索するんだ」
中田「ちょっと質問が変わりますが、時間を飛び越えた人が戻って来た場合、その人に何か変化
 はありますか?」
風見「良い質問だけど、それは分からない」
中田「分からない?」
風見「テストパイロットが何度か飛んで、研究チームが結果を考察している最中だ。我々工作チ
 ームは、まだ誰も過去に飛んでないからね。よーし、今日はここまでだ」
   ざわざわ出て行こうとする研究生たち。
風見「あー、すまない。さっきタイムトラベルは犯罪の阻止だけに許可されていると言ったが、
 訂正する。特例があるんだ。任務を達成した工作員に、一度だけ過去に行く権利が与えられて
 いる」
里中「好きな過去に行けるんですか? それなら僕も行ってみたいです。工作員に志願出来ます
 か?」
風見「残念だが、ここにいる者はおそらく開発か研究チームに回されるだろう」
里中「どうしてですか?」
風見「条件があるからだ。家族がいないこと。それだけ危険を伴う任務ということだ。じゃ終わ
 ろう」
   出て行く研究生たち。
   金村が風見の元へ。
風見「カネさんが顔を出すなんて珍しいね。何ですか、講義内容のチェック?」
金村「やっと決まったよ、風見くん。俺たちの記念すべき初仕事だ」
風見「初仕事」
金村「準備はいいかい?」
風見「はい。いつでも飛べます」

○同・講義室・廊下
   研究生たちが出て来る。
   最後に金村と風見が出て来る。
飯島の声「お願いします!」
   飯島俊夫(35)が、所長の畑中勇造(58)に懇願している。
畑中「飯島くん、やめようよ」
飯島「タイムトラベルの許可を下さい!」
畑中「ほら、研究生もびっくりしてるから」
飯島「過去に戻らなきゃならないんです。死んだ妹を助けたいんです!」
畑中「もちろん、君が事件を解決したなら、権利は発生するさ」
飯島「解決したんです」
畑中「・そうなのか。で、いつどんな事件を解決したって言うんだい?」
飯島「それが・・いや、確かにうちのチームで任務に行って・・」
畑中「いつ?」
飯島「それは・・」
畑中「どこに行ったんだ?」
飯島「・・・」
畑中「飯島くん、焦る気持ちは分かるよ。でも規則があるからね。実績がなければ、権利を与え
 る訳にはいかないんだ」
飯島「お願いします、お願いします!」
   と土下座する飯島を見つめる風見。
   風見の脳裏に娘・莉子の声が聞こえる。
莉子の声「パパ、またあの場所で花火見たい。パパ、連れてって」

○(回想)病院・廊下
   話し合う風見と楓。
楓「(泣いて)もう限界だって。今夜にでも息を引き取るだろうって」
   呆然とする風見。

○(回想)同・病室・中
   呆然としたまま入って来る風見。
   ベッドで力なく横たわる莉子。
   風見、莉子を抱きかかえ、車椅子に乗せて病室を出る。

○(回想)同・廊下
   莉子の車椅子を押す風見。
   看護士が気付く。
看護士「風見さん、駄目ですよ、風見さん!」
   と風見の車椅子を追う。

○(回想)同・正面玄関
   車椅子を押して来る風見と追う看護士。
看護士「風見さん!」
   看護士を止める楓。
楓「あなた行って、早く!」
看護士「困ります!」
楓「行かせてあげて!」

○(回想)丘の上のベンチ(夜)
   ベンチに座る莉子と風見。
   遠くに花火が見え始める。
風見「莉子、ほら花火だよ、莉子」
   うっすらと目を開ける莉子。
莉子「・・綺麗」
   花火が続く。
莉子「・・パパ、莉子が死んでも、莉子のこと忘れないでね」
風見「何言ってるんだ、来年も再来年も一緒に来るんだよ」
莉子「パパ・・ありがとう・・」
   と息を引き取る。
風見「・・莉子・・莉子! あぁ、あぁ誰か! あぁ神様、神様! あぁ莉子!・・ごめん、莉
 子、パパ、ごめん」
   と泣きながら抱き締める。
   ×   ×   ×
   遠く続く花火。
   莉子を抱いて立っている風見。
   風見の絶叫。

○元の国立科学研究所・講義室・廊下
   ハッと我に返る風見。
   泣いている飯島をなだめる畑中。
畑中「もうやめよう飯島くん。さあ立って」
   飯島、力なく頭を下げて去って行く。
畑中「(周りに)何でもない。お騒がせしたね」
   飯島の背中を見送る風見と金村。

○同・ミーティング室・前
   八重子、北島、戸塚が座っている。
   金村と風見が入って来る。
   金村が説明を始める。
金村「では事件の概要を説明する。事件の発生は2020年、2人の女性が殺され、犯人も自殺
 を図ったという案件だ。犯人は目黒川祐一、当時20歳の配管工」
   と後方の透明ボードにタッチする。
   ボードに祐一、香苗、明日香の写真と名前が浮かび上がる。
金村「1人目の被害者は木元香苗17歳。目黒川とはネットで知り合い、初めて会ったその日に
 殺害されている。2人目の被害者は南野明日香17歳。香苗が殺された翌日に、やはり初対面
 の目黒川に殺された。2人を殺した後、目黒川も首を吊って自殺した。大まかには、そんな事
 件だ」
北島「目黒川の殺害動機は?」
金村「当時のメールのやり取りなどから察するに、『救済』が目的だったと思われる」
戸塚「救済? 本人は助けているつもりで殺したってことですか?」
金村「目黒川祐一は死のうとしていた。だが自分が死ぬ前に、同じように死のうとしている人間
 を手助けした訳だ。最初の被害者、木元香苗は裕福な家庭で育ったが、父親の会社が倒産し
 て、住んでいた家も失い、その後父親は自殺した」
   ×    ×    ×
【インサート】
   香苗が首を吊った父親の体を必死で支えるシーン。
   ×    ×    ×
金村「2人目の被害者、南野明日香は義理の父親から性的暴力を受けていた。母親に打ち明けら
 れない明日香の弱みに付け込み、父親は関係を迫り続けた」
   ×    ×    ×
【インサート】
   茂男が明日香のパジャマを引き破るシーン。
   ×    ×    ×
   突然デスクを叩く八重子。
   皆が一斉に八重子を見る。
金村「八重子さん?」
八重子「・すみません」
金村「2人とも、死にたい、殺して欲しいと目黒川に相談していたようだ」
北島「目黒川はなぜ死にたかったんですか?」
金村「目黒川は幼い頃から、父親の暴力を受けていた。味方である筈の母親は彼に無関心、いわ
 ゆるネグレストってやつだ。10歳の時に家が火事になったが、両親は彼を置き去りにして逃
 げ出した」

○(回想)目黒川家・祐一の部屋(夜)
   一人で寝ている目黒川祐一(10)。部屋が白い煙に包まれ、咳込んで起きる。
祐一「お母さん!」
   とドアを開けると、向こうは火の海!
   祐一、窓を開けて2階から顔を出す。
祐一「お母さん、火事だ! 助けてお母さん!」

○元の国立科学研究所・ミーティング室・中
   話し合う金村チームの面々。
金村「全身大火傷を負ったが、何とか一命を取り留めた。そして両親は逮捕された」
戸塚「逮捕?」
金村「保険金目的の殺人未遂だ」
北島「まさか・・息子を?」
金村「(頷き)その後、遠い親戚に預けられるが、物置小屋で育てられ、食事もろくに与えられ
 なかったらしい。草や虫まで食べて生き延びたようだ」
   言葉を失っている面々。
金村「数ある案件の中で、私はこの事件を選んだ。こんな救いようのない事件、起こってはいけ
 ないんだ」

○同・訓練室・中
   パネルに喫茶『雅』の見取り図があり、金村たち5人が話し合ってる様子。
   ×   ×   ×
   戸塚に教えてもらいながら、サイフォンを使ってコーヒーを入れる金村。
   ×   ×   ×
   話し合いに熱が入る5人。
風見「やっぱり大事件にするってことが大事。マスコミとか沢山集めて」
金村「有名にしてしまえば、そのあと殺人て流れにはなりにくくなるな」
北島「大事件て、どうする?」
戸塚「爆破?」
風見「爆破? ・・ありかも」
   ×   ×   ×
   風見と北島が拳銃を奪い合うシーンの練習風景。テーブルや椅子が、現場と同じように配
   置されている。
   ×   ×   ×
   トレーでグラスを運ぶ練習をする八重子。油断してコケる。
   ×   ×   ×
   話し合いに熱が入る5人。
金村「記録から推察しても、祐一と明日香は決して悪人ではない。むしろ逆だ」
北島「彼らには与えられるべき愛情が足りなかった。それが元凶か」
八重子「きっといい子たちだったのよ。だからその心に訴えるというか、揺さぶることが出来れ
 ば未来は変わるかも」
風見「その場合、やっぱりカネさんと八重子さん夫婦の存在が、大きな鍵ですね」
   ×   ×   ×
   風見、金村、八重子が格闘するシーン の練習風景。
   ×   ×   ×
   練習後、風見が皆に喝を入れる。
風見「演技はいらない、魂込めて! 命掛かってるから! 1つじゃないよ、色んな命掛かって
 るから!」
   真剣に聞く他の4人。

○同・準備室・中
   自身のバックに着替えや必要品を詰め込む金村、北島、戸塚。
   戸塚の持っているスマホを見る北島。
北島「何だそれ?」
戸塚「ああ、当時使われていた携帯電話です」
   専用の機器で風見の手に蜘蛛のタトゥーを描いている八重子。
風見「・八重子さん、大丈夫ですか?」
八重子「大丈夫よ、時間と共に少しずつ消えていくから、これ」
風見「そうじゃなくて。この事件の被害者と、もしかして娘さんが重なっていませんか」
八重子「そうね、私の娘も自殺したからね」
風見「・・・」
八重子「私ね、タイムトラベルの権利が貰えたら、娘が生きていた時代に戻りたいの。戻って救
 いたいの、あの子を。あの頃、私何にも気付いてやれなかった、あの子の気持ちに。死にたい
 ほど苦しんでたのに・」
風見「・・・」
八重子「ごめんね、自分のことばっかり。風見くんも、娘さんと奥さんを救うんでしょ」
風見「・実は、最近になって娘が患った難病の特効薬が開発されたんです」
   とピルケースを出す。
風見「娘が生きていれば、妻だって後を追うこともなかった」
八重子「やろう風見くん。彼らを救って、私たちも救われるの」
   ×   ×   ×
   着替えを済ませている5人。
   風見、手首を触ってタッチパネルを出し、タップするとフレームが現れる。
   5人、握手やハグで互いを励まし合う。
金村「(風見に)頼んだよ。ズレなきゃいいが」
   風見、フレームを見て深呼吸。
北島「俺たちもすぐに飛ぶから」
風見「了解」
   とタッチパネルを数回タップ。
風見「じゃ、お先です!」
   とフレームにジャンプする。

○河川敷A
   T『2020年』。
   香苗と祐一が待ち合わせた日。
   空間の一部が波打ち、中から風見が現れ、草むらに倒れ込む。フラフラと立ち上がり、タ
   ッチパネルを確認する。
風見「2020年10月15日午前10時。飛べたぁ」
   と安心するが、周りを見る。
風見「バス停は?」
   とタッチパネルで確認。
風見「2キロズレた。そうだ空間移動」
   とフレームを出すが、すぐに消す。見ると、近くに犬の散歩の女性がいる。
風見「くそっ!」
   と走り出す。

○河川敷B
   必死に走る風見の姿。

○川沿いの土手A
   走って来る風見が疲れて止まる。見ると、遠くでベンチに座る香苗の姿。
風見「!」
   と走り出す。走りながら一段下の道を見ると、リュックを持った祐一の姿。
風見「!」

○川沿いの土手・バス停
   ベンチに座る香苗。
   風見が走って来て香苗の前へ。荒い息。
風見「よう姉ちゃん、こんにちは」
香苗「何ですか?」
風見「俺と遊ぼうぜ」
   離れて見ている祐一。
香苗「(立って)・・チャーチルさん?」
風見「誰だそりゃ。遊ぼうって言ってんだよ」
   後ずさりする香苗。
風見「なに怖いの? 怖いなんて気持ちあるんだな」
   と自身のズボンのベルトを外し、
風見「ほら、遊ぼうぜ」
   と下半身を露出させる。
香苗「キャー!」
   と逃げ去って行く。
   大笑いしている風見。
   唖然とそれを見ている祐一。
   風見がズボンを上げ、祐一と目が合う。
祐一「!」
風見「おい、なに見てるんだ!」
   祐一は目を伏せ、来た道を戻って行く。
   祐一を見ている風見。
風見「・・・」
   と今度は走り去って行く香苗を見る。
風見「・・・」

○河川敷C
   空間の一部が波打ち、その中から北島と金村が現れ、倒れ込む。
戸塚「目が回る!」
   北島、川沿いの土手を駆けて来る香苗の姿を見つける。
北島「来たぞ!」
   土手を駆け上がる北島と戸塚。

○川沿いの土手C
   走って来る香苗が、前方を歩いて来る北島と戸塚を見つける。
香苗「お巡りさん!」
   と北島たちの前で、荒い息。
北島「どうしました、何かありましたか?」
香苗「あの、向こうのバス停で、変な男が私の前でズボンを下ろしたんです」
北島「ええ? 変質者ですか!」
   頷く香苗。
北島「(戸塚に)おい、ちょっと様子を見て来てくれるか」
   戸塚、走り去って行く。
北島「いやぁ大変な目に合いましたねぇ、怖かったでしょ。お嬢さん、この辺の人?」
香苗「・あ、いえ」
北島「バス停で何をしていたのかな?」
香苗「えっと、ちょっと人を待ってて」
北島「バスじゃなくて? お友達か何か?」
香苗「友達じゃなくて・」
北島「あ、親御さんの連絡先教えてくれる?」
香苗「(驚き)親に連絡するんですか?」
北島「見たところ、お嬢さん未成年でしょ。そりゃあ娘さんがこんな目に合って、連絡しない訳
 にもいかないよね」
香苗「・連絡しないで下さい」
北島「いやいや」
香苗「お願いします!」
北島「・・どうやら、何か訳ありみたいだね。そうだ! 今日は天気もいい。土手にでも座っ
 て、お巡りさんに全部話してみない?」
   戸惑う香苗。
北島「こう見えて私ね、日本一気さくなお巡りさんて言われているんですよ。それに大きな声じ
 ゃ言えないけど、我々警察はね(耳打ちして)市民の味方なんですよ」
   と人懐こい笑顔。
   香苗、少し微笑む。

○喫茶『雅』・中(深夜)
   椅子やテーブルなどがばらばらに置いてある店内。
   箒で床を掃く風見。
   空間の一部が波打ち、その中から金村と八重子が現れる。
風見「良かった、心配しましたよ」
   と倒れ込んだ2人を立たせる。
八重子「ありがとう」
   フラフラの2人。

○同・外(深夜)
   ひとけのない通りに、トラックが入って来て、北島と戸塚が降りて来る。
   トラックの荷台に上がる戸塚。
   戸塚から看板を受け取った北島が、入口に設置。『喫茶 雅』の文字。

○同・中(深夜)
   テーブルや椅子を設置している風見。
   食器類を配置している金村と八重子。
   椅子を持って入って来る北島。
北島「風見くん、荷下ろし頼むよ」
風見「はい(気付いて)北島さん、あの子大丈夫でしたか?」
北島「ああ、胸の内を全部打ち明けてくれたよ。もちろん死のうとしていたこともね。私が電話
 で、お母さんに全て説明した。迎えに来てくれたよ」

○(回想)川沿いの土手C
   土手に並んで座っている北島と香苗。
   突然立ち上がる北島。
北島「よーし、やるか(香苗に)さあ立って(構えて)さあ来い、私を思い切り押し倒してごら
 ん! 来い!」
   香苗、意を決して飛び込んで行く。
香苗「うわー!」
   と北島を押し倒そうとする。
北島「よし、いいぞ! でもまだ行けるぞ!」
   押し合う2人。
北島「そんなもんか、もっと来い!」
香苗「くそう!」
   香苗が北島を押し倒し、そのまま倒れ込む2人。息を切らせる。
   見ると、木元静子(48)が来る。
香苗「・お母さん」
   何も言わず見つめ合う静子と香苗。
   静子、香苗を強く抱き締める。
   泣いている親子を見つめる北島。
静子「(北島に)申し訳ありませんでした。この子が沢山苦しんでいたのに、私がちゃんと向き
 合ってやれなかった。もうこの子を1人にはしません、私が守ります」

○元の喫茶『雅』・中(深夜)
   話す北島と風見。
北島「きっと大丈夫だ」
   と風見の肩を叩く。
   ×   ×   ×
   ストレッチャーで袋詰めの遺体を運ぶ風見と戸塚。
   客席のセッティングをする金村。
   カウンターを拭く八重子。
   入り口側の壁に、噴霧器を使って霧を噴き掛けている北島。
   ×   ×   ×
   話し合う5人。
   戸塚、拳銃を皆に見せる。
戸塚「まず拳銃ですが、もちろん実弾は入っていません。火薬は計画通りに仕込みました。カウ
 ンターに1カ所、窓に2カ所、表の街灯に1カ所、それと北島さんと僕にも。予定通り北島さ
 ん3発、僕が2発です」
   とテーブルに時限式爆弾を置く。
戸塚「見た目はレトロですが、特殊な爆弾です。この向きで置いた場合、ここから入り口側に向
 かって爆風が起こります。ですから爆発の際は、皆さん必ず反対側にいるようにして下さい。
 入り口側には発火剤を噴き掛けてあるので、すぐに火災が発生します。奥まで火が燃え広がる
 前に、遺体のセッティングをお願いします」
   5人、並べた遺体袋の所へ。
戸塚「袋のままで結構です、熱で消えるので」
風見「・これも飛ばして来たのか?」
戸塚「はい、身元不明の遺体です。遺伝子操作も済んでいるので、正真正銘皆の遺体となりま
 す。この時代のデータベースに全員の戸籍も作ってあります」
八重子「セットしたら、戻れるのよね?」
戸塚「タイムトラベルは、各自アクセスコードの入力が必要です。空間移動で一旦人目につかな
 い河川敷に移動して、そこから改めて戻りましょう」
金村「分かった」
   5人、遺体に向かって合掌。

○祐一のアパート・前(明日香と会うシーン)
   黒いリュックを持った祐一が出て来る。鍵を掛け、出掛ける。
   物陰から見張る北島と戸塚。

○喫茶『雅』・前(明日香と会うシーン)
   風見が立っている。遠くから来る祐一の姿を確認すると、喫茶『けやき』の札を『CLO
   SE』に変えて隠れる。
   祐一が来て札を見ると、向かいの喫茶『雅』を見つけて、中へ入る。
   ×   ×   ×
   明日香が来て『雅』の中へ。
   明日香が入ると、雅の『営業中』の札を『準備中』に変える風見。

○同・中(籠城シーン)
   ロープで後ろ手に縛られ、床に座らされている祐一たち。祐一は金村と、明日香は八重子
   と一緒に縛られ、4人が背中合わせに固まって座る。
   風見が窓から外の様子を窺う。
風見「あーあ、だいぶ後ろに下がっちまった(祐一たちに)だがまだ踏み込んじゃ来ない、こっ
 ちの人数も把握出来てないからな」
   店の奥、スマホで電話を掛ける戸塚。
   店の電話が鳴り、風見が出る。
風見「ああどうも。警察? あんたさっきの責任者? 達川とか言ったっけ」

○同・外(籠城シーン)
   双眼鏡で店を見る三島と傍らの達川。
三島「犯人が電話中です」
達川「・仲間か?」

○同・中(籠城シーン)
   爆弾のカウントダウンが1分を切る。
金村「(八重子に)時間がない、行くぞ」
   と雄叫びを上げて風見に突進する!
風見「!」
   金村の体当たりで倒れる風見。
   2人、そのまま拳銃の奪い合いで揉み合う。
風見「てめえ!」
   風見の拳銃が窓に向け、1発放たれる。   

○同・外(籠城シーン)
   銃声と共に割れる店のガラス。
達川「(周りに)伏せろ! 物陰に隠れろ!」

○同・中(籠城シーン)
   揉み合う風見と金村。
   風見が金村に銃口を向ける。
八重子「お父ちゃーん!」
   と風見に体当たりする。
   風見を壁に押さえ付ける金村と八重子。
金村「(祐一に)行けー! 早く!」
   明日香の手を取る祐一。
祐一「行こう!」
明日香「置いてけない!」
八重子「早く!」
祐一「行くぞ!」
   と明日香と扉に向かって走る。
   出て行く2人を確認する風見、金村、八重子。
風見「伏せて!」
   床に伏せる3人。

○同・外(籠城シーン)
   倒れ込む祐一と明日香が振り返る。
   と、店が激しく爆発する!
   砕け散る窓ガラスと人々の悲鳴!
   店はそのまま炎に包まれる。
   呆然と見つめる祐一と明日香。

○同・中(籠城シーン)
   炎に包まれる店内で立ち上がる風見。
風見「大丈夫ですか、2人とも!」
   咳き込んで頷く金村と八重子。
風見「北島さん、戸塚!」
   奥から北島と戸塚が遺体袋を持って来ようとするところ。
   と、叫び声を上げながら祐一が炎の中を入って来る!
金村と八重子「!」
   とっさに隠れる風見、北島、戸塚。
   祐一は金村と八重子を見つけ、2人を引っ張って出て行く。
   唖然とする風見たち。

○同・外(籠城シーン)
   八重子を抱え、金村の手を引いた祐一が出て来る!
明日香「!」
達川「出て来た! (警官に)救護!」
   火が付いた体で倒れ込む3人。
明日香「おばちゃん!」
   毛布で3人の火を消す警官たち。

○同・中(籠城シーン)
   遺体袋を1体担ぐ風見。
風見「2体運ぶぞ!」
   戸塚がもう1体を担ぐ。
   タッチパネルでフレームを出す北島。
北島「飛ぶぞー」
   3人が次々とフレームに飛び込む。

○河川敷D
   空間の一部が波打ち、その中から現れる風見、北島、戸塚。遺体袋と共に草むらに転が
   る。
   荒い息の3人。土手を上がって行く。

○川沿いの土手D
   土手を上がって来る風見、北島、戸塚。
   遠くに燃えている喫茶『雅』が見える。
風見たち「・・・」

○夕日
   川向こうに夕日が沈んで行く。

○河川敷D(早朝)
   草むらで寝ている戸塚と北島。
   川の水で顔を洗う風見。
金村の声「おーい」
   金村と八重子が歩いて来る。
   駆け寄る風見たち。
風見「カネさん、無事でしたか」
金村「2人とも病院に運ばれちゃってさ」
風見「怪我は?」
八重子「軽いやけどよ、髪も燃えたけど」
北島「警察の事情聴取は?」
金村「適当に対応しておいたよ。そっちは?」
風見「ええ、何とか」
戸塚「2人分の遺体を運ぶことになりました」
金村「まさか目黒川祐一が助けに来るとは」
北島「カネさんたちも焼け死ぬ筈だったのに」
風見「・でも、祐一は子供の頃に、火事で大火傷を負っているんですよね?」
金村「そうだ。あの炎の中に飛び込むなんて、どれだけ勇気がいったことか」
八重子「病室にね、2人が来てくれたの。明日香ちゃん、父親を告発するそうよ。祐一くんが協
 力するって」
風見「そうですか」
金村「早く帰って、この事件の記録が綺麗になくなっていることを確認したいね。すぐ所長に報
 告しよう」

○国立科学研究所・全景
   T『2080年』。

○同・所長室・中
   デスクの畑中が、ホログラムの大臣・井上晴彦(55)と話し中。
井上「飯島という工作員からタイムトラベルの権利を求められた? そいつは何か事件を解決し
 たのか?」
畑中「その・可能性はあります」
井上「可能性があるとは、どういうことだ?」
畑中「実は研究チームから中間報告を受けたのですが、どうやら過去から戻った人間に記憶の入
 れ替え現象が起こるようです」
井上「何だね、それは?」
畑中「事件を解決して戻った場合、戻った世界にはもうその事件は存在しない訳です。でもその
 人間には存在しない事件を解決した記憶が残るという矛盾が生じる。脳はその矛盾を解決する
 為に、記憶の入れ替えを行うのです。事件を解決したことを忘れ、解決したことで生じた変化
 があれば脳に上書きされるということです」
井上「分かり易く説明しろ」
畑中「例えば井上大臣の母上が、大臣を産む前に事故で亡くなった世界があるとします。その場
 合、井上大臣はその世界に存在しません」
井上「私が存在しない?」
畑中「あくまで例えです。そこで工作員が過去へ行って、事故を未然に防いで戻ったとします。
 戻った世界には事故の事実なはく、いなかった筈の大臣が存在している訳です」
井上「そうか。それで事故や任務に行った記憶が消えて、代わりに私の存在が脳に上書きされる
 ということか」
畑中「その通りです。もしそれが起こったとすれば、任務の計画などは私も聞いてる筈ですか
 ら、私の記憶も消えたのかも知れません。そういえば、何か任務があったような・」
井上「戻ってどれくらいで忘れるんだ?」
畑中「報告では2、3日かと」
井上「工作チームはまだ知らないんだな?」
畑中「はい」
   急に大笑いする井上。
井上「畑中くん、そりゃ好都合だ。それを利用すればいい。2、3日しらばっくれていれば記憶
 は無くなるんだろ。それならタイムトラベルの権利など与えずに済む」
畑中「しかしそれは・」
井上「自由に過去に行ける権利なんて、元々餌だったんだよ。それくらいの見返りがないと、命
 がけでやる気にはならんだろ。かといって好き勝手に歴史を変えられても困る。記憶が消える
 なんて大助かりだ」
畑中「彼らの殆んどは、失った家族に会いたいとか、救いたいという願いを持ってます」
畑中「尚更いいじゃないか、毎回命がけでやってくれるさ。後は上手くやってくれよ」
   とホログラムが消える。
畑中「・・・」
   呼び出し音が鳴る。
補佐の声「所長、金村さんのチームの皆様が面会したいと来ております」
畑中「・チーム全員か?」
補佐の声「はい」
畑中「(考えて)不在だと言ってくれ」
補佐の声「は?」
畑中「いいか、こう伝えるんだ」

○同・所長室・前
   金村たち5人が待っていると、中から所長補佐が出て来る。
補佐「すみません、本日所長は不在でして」
金村「今日はいらっしゃる筈ですが」
補佐「省庁からの急な呼び出しを受けて、少し前に出掛けました。明日には戻ります」
金村「連絡は取れませんか?」
補佐「連絡は一切受付けないと言われました」
   中に戻る補佐。
金村「・ま、明日早々にも報告しよう」
   廊下を歩き出す5人。
戸塚「さっき戻ってから、少しだけ記録を調べました。目黒川祐一が起こした連続殺人事件は記
 録から消えています」
北島「やったな。で、若者たちは皆あの後どうなったんだ?」
戸塚「それはまだちょっと」
八重子「私が調べたわよ。まず北島さんが助けた木元香苗ちゃん。彼女は警察官になってたわ。
 それと私たちが起こした人質籠城爆破事件が記録にあった。あの後祐一くんと明日香ちゃんは
 マスコミに連日取材を受けてね、祐一くんはヒーロー扱いされたみたい。明日香ちゃんは父親
 を告発して、父親は刑事でも民事でも有罪。その後2人は・・」
   とニヤつく。
戸塚「まさか」
八重子「そう、結婚してるわ」
戸塚「そうなんですか!」
北島「殺人事件の犯人と被害者が一転して結婚かぁ、予想以上の展開だ」

○同・正面玄関(朝)
   T『3日後』。
   職員や研究生たちが建物に入って行く。
   こそこそと来る畑中。
畑中「(周りに)おはよう。ああ、おはよう」
金村の声「おはようございます」
   畑中が驚いて振り返ると、金村がいる。
畑中「・・ああ金村くん、おはよう。すまなかったね、暫く留守にして」
金村「・・・」
畑中「いや、すぐ戻る予定が長引いてね」
金村「所長、ちょっとお話が。実はこんなレポートが残っていまして」
   と空間にタッチパネルを出し、タップするとレポートが現れる。
金村「私が3日前に作ったものです」
畑中「(読んで)これは任務計画書かい? ふーん、人質を取って籠城かぁ、ちょっと過激だけ
 ど、これくらいやらないと殺人事件は止められないかもなぁ。分かった、承認が得られるよう
 上と掛け合ってみよう」
金村「それが、これは計画書ではなく、事後報告書なんです」
畑中「事後報告書?」
金村「記録上、この人質籠城爆破事件は既に起こっています。逆にここに書かれている連続殺人
 事件の記録はありません」
畑中「・どういうことだ。まさか君たちのチームが既に事件を解決したとでも言うのかい?」
金村「それが・・よく分からないんです」
畑中「君が作ったんだろ、この報告書」
金村「・多分」
畑中「多分?」
金村「この3日ばかり、ちょっと変なんです。何か大事なことを忘れたような気がして」
畑中「君、疲れているんじゃないのか。まぁこれがどういうものか分からんが、君が覚えていな
 いんじゃ話にならんだろ」
金村「・・・」

○同・講義室・中
   風見の講義を熱心に聞く研究生たち。
風見「よし、今日の講義はここまでにしよう。レポートの提出は、今日が締切りだぞ」
   ざわざわと出て行く研究生たち。
   風見、手の甲に僅かに残ったタトゥーの跡を不思議そうに見る。
風見「・・・?」
   目黒川詩織(22)が風見の元へ。
詩織「教官、レポートの提出、明日まで待って貰えませんか? 明日必ず提出します」
   詩織を不思議そうに見ている風見。
風見「まぁいいだろ。君、見掛けない顔だね」
詩織「(驚き)何言ってるんですか、1年前から居ますけど」
風見「(考え)1年前」
詩織「からかってます?」
風見「(考え)そうか、そうだったな」
詩織「忘れちゃった訳じゃないですよね。私ですよ、目黒川詩織」
風見「・目黒川? 君のご両親はもしかして・・祐一と明日香」
詩織「何で知ってるんですか? でもちょっと違います。祐一と明日香は両親ではなく、祖父母
 の名前です」
風見「そうか・・2人ともお元気で?」
詩織「はい、今も手をつないで散歩しています。知り合いですか?」
風見「いや、何となく浮かんだというか・・」
   と考え込む。
詩織「大丈夫ですか?」
風見「ああ。レポート、明日朝までな」
詩織「はい」
   と去って行く。
   風見が手の甲を見ると、タトゥーの跡は全て消えている。
風見「・・・」
   八重子が入って来る。
八重子「風見くん」
風見「八重子さん。どうしました?」
八重子「やっと決まりそうなのよ、私たちの初仕事が」
風見「・初仕事」
八重子「戸塚くんがね、何とか解決出来そうな事件を見つけてくれたの。これからミーティング
 よ。風見くん、準備はいい?」
風見「(きっぱり)はい、いつでも飛べます」

○同・所長室・中
   ゴルフの素振りをする畑中が振り返ると、ホログラムの井上が居る。
畑中「大臣! すみません、気付きませんで」
井上「畑中くん、今日は君と話したいという方がいるんだ。お呼びしてもいいかな?」
畑中「はい、構いません」
   井上の横に、目黒川祐一(80)のホログラムが現れる。
祐一「初めまして。目黒川祐一と申します」
畑中「目黒川大臣! いや元大臣」
祐一「急にすまないね。孫がいつもお世話になっています。実はそちらの研究所に関して良から
 ぬ噂を聞いたものだから、少し確かめたくてね」
畑中「・良からぬ噂といいますと?」
祐一「例の過去の犯罪を食い止めるプロジェクトだがね、任務を達成した工作員のタイムトラベ
 ルの権利を、不正に揉み消しているという噂だ」
畑中「いや、そんなことは・」
   と井上を見る。
井上「まさか君、そんなことしていないよなぁ。彼らに与えられた権利だぞ」
畑中「・もちろん、しておりません」
畑中「そうか。ただ今後のことを見据え、本当に権利が履行されているか、第三者機関を設けさ
 せてもらうことにした。いいかね?」
畑中「・承知致しました」

○林道
   空間に浮いたタッチパネルに話す祐一。
祐一「まぁ私は引退した身だがね、まだこの国を良くしたいと思っている。少しは影響力も残っ
 ているのでね」
   とタッチパネルを消す。
   目黒川明日香(77)が歩み寄る。
祐一「すまない、待たせたね」
   並んで歩いて行く2人の後ろ姿。
   やがて手をつなぐ。
   
                    【END】

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