自殺場の管理人 ドラマ

自殺場。それは首つり、飛び降り、練炭、服毒……等々、あらゆる手段に対応した自殺特化型施設。菅理人(30)はそこで管理人を務めていた。 そんな自殺場にある日、中井戸玲(21)という女性がやってきて……。
マヤマ 山本 18 0 0 08/31
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第一稿

<登場人物>
菅 理人(28)(30)自殺場の管理人
中井戸 玲(21)元アイドル
椛田 圭佑(28)(30)警備員、故人

西郷 (40)(42)自殺場の料理長
遠藤 ...続きを読む
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<登場人物>
菅 理人(28)(30)自殺場の管理人
中井戸 玲(21)元アイドル
椛田 圭佑(28)(30)警備員、故人

西郷 (40)(42)自殺場の料理長
遠藤 (28)自殺場の取引先
嶋井 京樹(22)玲のファン

男A、B
遺族の女
警備員
アナウンサー
審判

女子高生
サラリーマン
主婦
社員
社長



<本編>
○(CM映像)
   制服姿の女子高生。
女子高生「飛び降りたいけど、場所がない」
    ×     ×     ×
   喪服姿の社員達。笑顔で歌う。
社員達「(歌で)自殺なら、自~殺場~」
    ×     ×     ×
   スーツ姿のサラリーマン。
サラリーマン「毒って、どこで買えますか?」
    ×     ×     ×
   喪服姿の社員達。笑顔で歌う。
社員達「(歌で)自殺なら、自~殺場~」
    ×     ×     ×
   エプロン姿の主婦。手には首つり用のロープ。
主婦「事故物件にしてしまうのが申し訳なくて」
    ×     ×     ×
   喪服姿の社員達。笑顔で歌う。
社員達「(歌で)自殺なら、自~殺場~」
    ×     ×     ×
   喪服姿の社長。笑顔。
社長「あなたの自殺、手助けします」
    ×     ×     ×
   自殺場のロゴ。歌に合わせて「自殺場」の文字が躍る。
社員達の声「(歌で)自殺なら、自~殺場~」

○自殺場・管理人室(朝)
   ノートパソコンでCM映像を観ている菅理人(30)。停止ボタンを押し、ディスクを取り出す。ディスクには「テレビCM 没ver.」の文字。
菅「これは没になりますよ。没になりますとも」
   スマホのアラーム音が鳴る。
菅「はいはい、行きますよ。行きますとも」
    ×     ×     ×
   衛生面に気を付けた作業着(帽子、マスク、手袋、保護服等)を着用する菅。掃除用具や消臭剤等を載せた台車を押しながら部屋を出る。

○同・三階廊下(朝)
   両サイドに扉が多数並ぶ廊下。台車を押して歩く菅。扉をノックし開けると、三畳程度の部屋で首つりした遺体。全く動じず、黙々と後片付け(遺体を床に下ろし、リストと照合し、室内を清掃して消臭スプレーをかける等)をする菅。
    ×     ×     ×
   その後も次々と部屋に入り、全ての部屋で自殺者の後片付けをする菅。大半が首つりだが、中には拳銃自殺をした遺体もある
    ×     ×     ×
   次の部屋の扉をノックし開ける菅。室内に居た中井戸玲(21)と目が合う。
菅「あ……」
玲「……すみません。あの……」
菅「どうされます? 今からされるのなら、待ちますよ。待ちますとも」
玲「はぁ……」

○同・外(朝)
   「自殺場」と書かれた看板。

○メインタイトル『自殺場の管理人』

○自殺場・外観(夕)
   T「半日前」

○同・管理人室(夕)
   「本日の受付は終了しました」と書かれた札を窓口に出す菅。
玲の声「あ、あの……」
菅「?」
   窓口にやってくる玲。
玲「もう終わり……ですか?」
菅「大丈夫ですよ。大丈夫ですとも」
   札をどかし、窓口に立つ菅。
玲「あの……私、初めてで。よくわからないんですけど」
菅「そうでしょうね。そうでしょうとも。来られる方のほとんどがそうですから。なかなか二回、三回と来る場所でもないですしね」
玲「まぁ、そうですよね」
菅「ではまず、入場料として二千円頂戴します」
玲「あ、はい。(財布を開き、五千円札を出し)じゃあ、コレで」
菅「五千円、お預かりします。おつりは、要ります?」
玲「はい、もちろん」
菅「そうですか。いえ何分、あちらの世界にお金は持って行けませんのでね。それでもおつり、要ります?」
玲「……やっぱり結構です」
菅「ありがとうございます。では(書類を取り出し)こちらに記入をお願いします。あ、お持ち込みの自殺道具等はございますか? 無ければ貸出を……」
   あくまでも事務的かつ営業スマイルで対応する菅にやや戸惑う様子の玲。渡された書類の氏名欄に「中井戸玲」と書く。
菅の声「一階は訳あって、少々狭いんですよ」

○同・食堂(夕)
   菅に連れられてやってくる玲。何人かの客が食事中。厨房では西郷(42)が腕を振るう。
菅「管理人室と、あとはこの食堂くらいです」
玲「食堂? 自殺場に、何で?」
菅「目的は二つです。一つは、最後の晩餐。頼めば大概のものは作ってくれますよ。作ってくれますとも。(厨房に向け)ねぇ、料理長?」
西郷「(ため息をつき)か~っ、おめぇさんも相変わらず、かわいいお嬢ちゃんが来た時だけ施設の案内しやがって」
菅「受付の時間は終了しましたから」
西郷「この職権乱用野郎が」
菅「否定しませんよ。否定しませんとも」
玲「(話題を変えようと)で、もう一つの目的は?」
菅「奥の扉、わかります?」
   厨房の奥にある扉。
玲「あ~、はい。あの扉が、何か?」
菅「服毒自殺用の部屋です。毒だけ食べるというのも、味気ないですからね」
玲「(絶句)」
菅「あ、ご安心ください。正確には『地下一階にある服毒自殺用の部屋に続く扉』ですので、この食堂に衛生的な影響はありませんよ。ありませんとも」
玲「……はぁ」
菅「では……先に地下をご案内しましょう」

○同・練炭部屋(夕)
   密閉された室内。中央に練炭、その周囲に数名の人。
菅の声「地下には服毒自殺用の部屋の他、練炭自殺用の部屋と、あと……」

○同・駅(夕)
   改札口の前に立つ菅と玲。視線の先には地下鉄のホームがある。
菅「地下鉄の駅があります。もちろん、乗車用の切符は別料金ですよ。別料金ですとも」
玲「駅?」
菅「この電車は、当自殺場の別塔に続いておりまして、飛び降り自殺をご希望の方は、そちらへ移動をお願いしています」
玲「そのために、わざわざ電車を?」
菅「まぁ『電車に飛び込みたい』というお客様もいるので、ニーズにお応えした次第ですよ」
玲「……」

○同・二階広間(夕)
   菅に連れられて歩く玲。周囲には多数の客がいる。
菅「二階は大広間となっております。『皆と一緒に死ぬ』『一人じゃないから怖くない』。自殺場ならではの空間ですね」
玲「……ですね」
菅「他にも、あちらに大浴場が」
玲「死ぬ前に体を清める、って事ですか?」
菅「いいえ、リストカット用です」
玲「……」
菅「それから……」

○同・プール(夕)
   菅に連れられてやってくる玲。巨大なプールが複数ある。いずれも底は一階部分まである深さ。
菅「こちらにプールも」
玲「入水自殺用、ですか?」
菅「ご名答。まぁ、稀に感電死なさりたい方もいらっしゃいますが。ちなみに深さは三メートル程あるので、ご安心を」
玲「三メートルって、それじゃ一階まで……あ、だから一階が狭かったんですか?」
菅「またも、ご名答」

○同・三階廊下(朝)
   冒頭のシーンに戻る。
   台車を押して歩く菅。
菅の声「そして、三階は個室となっております。『死ぬ瞬間は一人で』という場合は、コチラをご利用ください」
    ×     ×     ×
   次々と部屋に入り、全ての部屋で自殺者の後片付けをする菅。
菅の声「尚、自殺に必要な道具、例えばロープや重石、刃物や拳銃、睡眠薬などを所望の場合は管理人室までお越しください」
    ×     ×     ×
   次の部屋の扉をノックし開ける菅。室内に居た玲と目が合う。

○同・外観
   遺体の入った棺桶を積むトラック。
遠藤の声「店長、おぉはようございまぁす」

○同・管理人室
   菅に書類を差し出す遠藤(28)。
遠藤「ここにサイン、おぉ願いしまぁす」
菅「(サインをしながら)しますよ。しますとも。ただ、僕は店長じゃなくて、ただの管理人ですからね」
遠藤「(サインされた書類を受け取り)あぁりがとうございまぁす。ところで店長、聞きましたよ? 大阪に二号店建てようとしてる、って」
菅「だから、僕は店長じゃなくて、ただの管理人です。そんな事はいちいち知らされないんですよ。知らされないんですとも」
遠藤「もう、口堅いんだから。まぁ、いいや。おぉ疲れ様でした~」
   去っていく遠藤。
菅「ふ~、今日も働きましたよ。働きましたとも」
   腹をさする菅。

○同・食堂
   向かい合って座る菅と玲の元にラーメンを二つ運んでくる西郷。
西郷「へい、お待ち。塩ラーメンと、醤油ラーメン」
菅「ありがとうございます」
玲「……(軽く会釈)」
菅「あ、遠慮なさらず。今日は僕の奢りですよ。奢りですとも」
玲「……」
菅「早く食べないと、麺が伸びてしまいますよ? それに……」
   玲に箸を差し出す菅。
菅「死なないんだったら、食べた方がいいと思いますよ?」
玲「(箸を受け取り)……すみません。死ねなくて」
菅「(笑顔で)構いませんよ。構いませんとも。珍しくありませんから。死にきれなかったお客様は」
玲「……」
菅「さぁ、食べましょう。いただきます」
   食べ始める菅。
玲「……いただきます」
   ここで初めて器の中を見る玲。菅の方は具なしラーメン。
玲「え、具なしですか……?」
菅「? 具って、必要ですか?」
玲「まぁ、人それぞれかと」
菅「そうですよ。そうですとも」
    ×     ×     ×
   空になった器を洗う西郷。
   菅に一礼する玲。
玲「ごちそうさまでした」
菅「いいえ。それより、お帰りになれる場所はあるんですか?」
玲「え?」
菅「当施設をご利用の方の中には、住居を引き払ってから来られる方もいらっしゃいますので」
玲「あぁ、そうか。引き払ってから来れば良かったのか」
菅「良いか悪いかはわかりませんよ。わかりませんとも。では、くれぐれもお気をつけて」
   と言って玲に三千円を渡す菅。
玲「? このお金は……?」
菅「おつりですよ。生きていくなら、必要でしょう?」
玲「まぁ、はい」
菅「死ぬにしても、次回の入場料として必要でしょう?」
玲「……ありがとうございます」
   三千円を受け取り、出ていく玲。
菅「では、またのご利用お待ちしておりますよ。お待ちしておりますとも」
   そこにやってくる西郷。
西郷「なぁ。あのお嬢ちゃん、どうも見覚えある気がしてならねぇんだけどよ」
菅「そうですか。じゃあ、思い出したら教えてくださいね」
西郷「心にも無ぇ事を」
菅「思ってますよ。思ってますとも。それじゃあ、お疲れ様でした」
   出ていく菅。
西郷「……ふん」

○路地
   歩いている玲。横の道から不意に通行人の男性が飛び出してくる。
玲「!?」

○(イメージ)ライブハウス
   笑顔で歌い踊るアイドル達と客席で盛り上がるファン達。後列で歌う玲。やがてフォーメーションが変わり前列に出てくる。すると客席から突如、嶋井京樹(22)が現れ、不意に刃物を手に取る。
玲「!?」
    ×     ×     ×
   血しぶきが顔にかかる玲。

○路地
   玲の脇を通り過ぎていく通行人の男性。呼吸が荒くなる玲。

○自殺場・外観(夕)
遺族の女の声「息子を返して!」

○同・管理人室(夕)
   窓口に立つ菅と揉めている遺族の女。
遺族の女「こんな建物があるから、ウチの息子は自殺を選んだのよ! どう責任を取るつもり!?」
菅「責任なんて取れませんよ。取れませんとも」
遺族の女「開き直る気?」
菅「失礼ですが、息子さんとはご同居されていたんですか?」
遺族の女「いいえ。息子は一人暮らしでしたよ。それが何か?」
菅「では、もし息子さんがご自宅で自殺されていたら、どうなっていたと思います?」

○(イメージ)アパート・室内
   清掃やリフォームをする業者や、契約に四苦八苦する不動産屋の姿。
菅の声「大規模な清掃や、場合によってはリフォームも必要になる上、その物件は事故物件となって借り手はつかなくなり、見つかったとしても家賃は格安。その状況が八年~十年続きます。その分の損害賠償は当然、遺族に請求されます」

○自殺場・受付(夕)
   窓口に立つ菅と揉めている遺族の女。
菅「その物件の家賃にもよりますが、その額は一千万円に達しても文句は言えないそうですよ」
遺族の女「一千万……」
菅「当自殺場は、そういったご遺族を『二重苦』『三重苦』から救うために設立されたんです。それでも尚、文句がおありならば聞きますよ。聞きますとも」
遺族の女「……」
   壁を蹴り、その場を去る遺族の女。その背後に立つ玲。
玲「あ……」
菅「いらっしゃいませ」
玲の声「聞かないんですね?」

○同・食堂(朝)
   向かい合って座る菅と玲。
菅「聞かない……? 何をですか?」
玲「私が、死のうとする理由」
菅「あ~、そうですね。聞かないです」
玲「それは、気を使って……?」
菅「いえいえ。単純に、聞くことがないだけですよ。だけですとも」
玲「え?」
菅「中井戸さんは、この国で年間何人くらいの自殺者が居るか、ご存知ですか?」
玲「……一万人行くか行かないか?」
菅「二万~三万人だそうです」
玲「あ、そんなに……」
菅「そう考えると『人が自殺する』なんて、それほど珍しい事でもないでしょう?」
玲「そう……ですかね?」
   そこに焼きそばを二皿持ってやってくる西郷。片方は具なし。
西郷「無駄だよ、お嬢ちゃん。コイツは人間ってものにこれっぽっちも興味がねぇんだよ」
菅「これっぽっちはありますよ。ありますとも」
西郷「あと、食にもな」
菅「そこは同意しますよ。同意しますとも」
玲「また具なし……」
菅「では、いただきます」
玲「いただきます」
   食べ始める菅と玲。
菅「六五歳」
玲「え?」
菅「僕が死のうと思っている年齢です」
玲「え!? 管理人さんも!?」
菅「ね? 珍しい事でもないでしょう?」
玲「でも、何で六五歳……?」
菅「まぁ、年齢自体はおおよその目安ですけどね。年金とか、そうじゃないですか」
玲「はぁ……でも、逆にやっと年金貰える歳なんじゃ?」
菅「僕が六五歳の時に、年金なんてもらえると思ってませんよ。思ってませんとも。七〇歳か七五歳か……最悪、年金制度自体が破綻しているかもしれませんしね」
玲「随分と悲観的な考え方ですね」
西郷「コイツは人間ってものにこれっぽっちの期待もしてねぇんだよ」
玲「あぁ、なるほど」
菅「で、話を戻しますと、例えば……中井戸さんは、夏休みの宿題って、どういうペースでこなされてました?」
玲「あ~……私は、八月三一日にまとめてやるタイプでしたね」
菅「僕は、割と計画的にやるタイプでした」
玲「偉いですね」
菅「……と言いつつ、少しずつ計画から遅れが出るので、最後の二日間くらいで帳尻合わせましたよ。合わせましたとも」
玲「やっぱり、そうですよね」
菅「人生もそうだと思うんですよ。ゴールがあるから、計画も立てられるし、ラストスパートも出来る」

○(イメージ)
   六十代、五十代、四十代の菅。
菅の声「そう決めておけば『五十代はこういう事をしよう』『四十代のうちにコレは終わらせよう』って逆算も出来るじゃないですか? むしろ『いつ終わるかわからない人生』なんて、とてもじゃないけど生きていられませんよ」

○自殺場・食堂(朝)
   向かい合って食事をする菅と玲。
菅「中井戸さんは、そのタイミングを僕より少し早く設定されただけ。聞く事なんてありませんよ。ありませんとも」
玲「……そうですよね。私は決めたんです、もう終わらせようって」
   涙を流す玲。
玲「なのに結局、今日も死ねなかった。生きる事も死ぬ事も、私はどっちも……」

○歩道橋
   線路をまたぐ歩道橋。手すりに手をかけて下を見る玲。電車が走ってくる。
玲「……」
   手に一瞬力をこめるも、何も出来ず、電車は通過していく。
玲「私は……」
   その場に泣き崩れる玲。

○自殺場・前
   やってくる玲。閉まっている扉。
玲「あれ?」
   「定休日」の文字。
玲「休みとか、あるんだ」

○野球場・外観

○同・グラウンド
   草野球の試合が行われている。ランナーを一塁に置いて打席に立つ菅。相手投手の投げる速球に空振り三振。
審判「ストライク。バッターアウト!」
   悔しそうなそぶりも見せず、ベンチに戻る菅。ベンチには西郷と遠藤もいる。
遠藤「店長、おぉ疲れ様でぇす。(打者に向け)リョウさん、一発おぉ願いしまぁす」
西郷「あっさり三振しやがって。ちったぁ意地見せやがれってんだ」
菅「無理ですよ。無理ですとも。あのピッチャー、多分一四〇キロくらい出てますよ」
遠藤「何でも、大学時代は神宮でも投げてたらしいですからね。ちょっとした有名人ですよ。(試合状況を見て)おっ、言ってるそばからデッドボールだ」
西郷「か~っ、そんなヤツを草野球に連れてくんなってんだ」
遠藤「でも店長、聞きましたよ? あの自殺場にも、なかなかの有名人が出入りしてるそうじゃないですか。(試合状況を見て)おっ、ダブルスチール。完全にモーション盗んでたな」
菅「有名人?」
遠藤「とぼけたって無駄ですよ、店長。元just do itの中井戸玲ですよ」
西郷「(思い出したように)あ! そうだ、それだ。あのアイドルやってた中井戸玲だ。やっと思い出した」
菅「有名なんですか?」
西郷「いや、まぁ、グループ自体の知名度は大(てぇ)した事ねぇけど……なぁ?」
遠藤「料理長、ひょっとしてジャス民?」
菅「ジャス民とは?」
遠藤「just do itのファンの愛称ですよ」
西郷「違ぇやい。だとしたら、とっくに気付いてるってんだ」
菅「有名でもないし、ファンでもないけど、知っていると?」
遠藤「まぁ、色々ありましたからね。(試合状況を見て)おっ、犠牲フライか? ……って刺されんのかよ。実質併殺打って事じゃん」
菅「色々、ですか……」

○CDショップ
   just do itのCDを手に取る玲。
   歓声。

○(回想)ライブハウス
   ライブをする玲らアイドル達。
    ×     ×     ×
   握手会をする玲らアイドル達。

○(回想)CDショップ
   玲らのアイドルグループのCDが棚に並んでいる。

○(回想)握手会会場
   ブースごとに配置に付くアイドル達と並ぶファン達。アイドル達の中に玲もいる。また各ブースには椛田圭佑(30)ら警備員もいる。
   玲の前にやってくる嶋井。
玲「こんにちは。初見さんですかね?」
   不意に刃物を手に取る嶋井。
玲「!?」
椛田「危ない!」
   玲を庇い、嶋井に刺される椛田。その返り血が玲の顔にもかかる。
   声にならない悲鳴をあげる玲。

○(回想)自殺場・管理人室
   無人の部屋。つけっぱなしのテレビから流れるニュース映像。
アナウンサー「殺人の容疑で逮捕されたのは無職の嶋井京樹容疑者で、嶋井容疑者はアイドルグループ『just do it』の握手会会場内で突如刃物を振りかざし、止めに入った警備員を……」

○(回想)葬儀場・外観

○(回想)同・中
   椛田の葬儀が行われている。参列者の中に玲の姿。椛田の遺影を見て呼吸が荒くなる玲。
玲の声「私のせいで、あの警備員さんは亡くなったんです」

○自殺場・外観(朝)
玲の声「私みたいな、何の価値もない売れないアイドルを庇って……」

○同・食堂(朝)
   向かい合って座る菅と玲。二人の前にはご飯とみそ汁だけが置いてあり、菅のみ食事をしている。
玲「あの事件のすぐ後に、私もアイドルを辞めました」

○(イメージ)ライブハウス
   笑顔で歌い踊るアイドル達と客席で盛り上がるファン達。後列で歌う玲。やがてフォーメーションが変わり前列に出てくる。すると客席から突如、嶋井が現れ、不意に刃物を手に取る。
玲「!?」
椛田「危ない!」
   玲を庇い、嶋井に刺される椛田。その返り血が玲の顔にもかかる。
玲の声「これ以上続けて、また同じ事が起きたら、また誰かが犠牲になるんじゃないか、って恐くなって」

○自殺場・食堂(朝)
   向かい合って座る菅と玲。
玲「それが今はもう、自分が生きてるだけで、誰かが犠牲になるんじゃないかって思えてきて。だったらいっそ……」
菅「自分が死んでしまった方が……といった所でしょうかね?」
玲「でも結局、今日も死ねなかった。私は本当、何も出来ないんです」
菅「ご自分を卑下しすぎでは?」
玲「実際、そうなんです。そもそもアイドルって、職業として扱われてなくて」
菅「そうなんですか?」
玲「テレビに出るような人でも、肩書は『タレント』ってなりますし、結局は歌手ほど歌が上手い訳でもない、ダンサーほどダンスが出来る訳でもない、女優さんほど演技力がある訳でもない……何も出来ない人が、アイドルなんです」
西郷の声「芸能界で売れるってのは、大(てぇ)変なんだな」
   そこにやってくる西郷。玲の前にだけおかずを置く。
西郷「お嬢ちゃん、可愛いのによ」
玲「いえ。全然、そんな事ないです」
菅「中井戸さんは可愛いですよ。可愛いですとも。というか、人が何を『可愛い』と思うかはその人の美的感覚なんですから、それを勝手に否定するのは、失礼なんじゃないですかね?」
玲「あ……(西郷に)すみませんでした」
西郷「そんな小せぇ事、気にしてねぇよ。でも芸能人なんて、顔が可愛いってだけで売れてる連中もべらぼうにいるだろ? お嬢ちゃんと、何が違ぇんだ?」
菅「一四〇キロのストレート」
玲&西郷「?」
菅「先日、草野球の試合の相手に居たじゃないですか、一四〇キロのストレートを投げるピッチャーが」
西郷「それが何だってんだ?」
菅「あの球は草野球レベルじゃありませんし、プロでも通じるでしょうね。でも、プロはほぼ全員が一四〇キロ投げられますから、武器にはなりません。プロでストレートを武器にしようと思ったら、最低でも一五〇キロは必要ですよ。必要ですとも」
西郷「何の話してんだ?」
菅「一四〇キロしか出せないなら、コントロールを磨くなり、決め球になる変化球を習得するなりしないとプロではやっていけません。芸能界も、そういう所でしょう?」
玲「……一四〇キロレベルのビジュアルだったら、他に武器がないとやっていけない、って事ですか? 歌とか、ダンスとか、トークとか」
菅「それか、プロの舞台で勝負しないか、です。中井戸さんクラスなら、普通の会社に入れば『社内一の美女』になれると思いますよ。思いますとも」
玲「普通の会社員、か……。私には無理ですね。大変そうですもん」
菅「まぁ世の中、出来る人には簡単に出来ますし、出来ない人は大変な苦労をしても出来ないものですよ。アイドルも、会社員も、自殺も」
玲「……すみませんね。すっかり、常連さんみたいになっちゃって」
菅「構いませんよ。構いませんとも」
玲「初の常連さん、ですか?」
菅「う~ん……二人目ですかね?」
玲「へぇ。一人目は、どういう人だったんですか?」
菅「それは……次の機会に」
玲「(笑って)じゃあ、そうします」
   一礼し、出ていく玲。

○同・管理人室
   パソコンを操作する菅。「just do it」「握手会」「死者」というワードで検索している。
   検索結果で出てきたニュースのページを読む菅。被害者の名前に「椛田圭佑」の文字。
菅「椛田圭佑……」

○同・外観(夜)

○同・二階広間(夜)
   周囲を見回す玲。多数の自殺志願者が居る。
玲「昨日見た人は誰もいない、か……。みんな凄いな」
   階段を上っていく玲。その後を追っていく男A。

○同・三階廊下(夜)
   歩いている玲。その背後から襲い掛かり、個室に連れ込む男A。
玲「!?」

○同・三階個室(夜)
   男Aに押し倒される玲。手で口を塞がれ声も出せない。
男A「こないべっぴんさんが居るとはな。最期の最期で、俺にも運が巡ってきたんやな」
   ズボンを脱ぎ始める男A。必死に抵抗する玲。
男A「えぇやんか、お嬢ちゃん。どうせ死ぬつもりやったんやろ? 最期にちょっと楽しませてや」
   尚も抵抗する玲の服を破っていく男A。
玲「いや~!」
男A「(再び玲の口を塞ぎ)騒ぐなや。こっちはお嬢ちゃんの事殺したかて、痛くもかゆくもないんやぞ!」
   諦めたような表情を浮かべる玲。その時、部屋の扉が開き、菅が男Aを取り押さえる。
男A「痛たたた……何すんねん!」
菅「お客様、他の自殺者の方のご迷惑になる行為は、困るんですよ。困るんですとも」
玲「管理人さん……」
菅「大丈夫ですか?」

○同・外観(朝)

○同・食堂(朝)
   向かい合って食事をする菅と玲。玲は「自殺場」とデカデカとプリントされたシャツを着ている。
玲「(シャツをまじまじと見て)……」
菅「すみませんね。着替えはそのシャツか死装束しか置いてないので」
玲「いえ……ありがとうございました」
菅「たまにいらっしゃるんですよね。『相手は自殺志願者だから、何をやってもいい』と勘違いされる方が」
玲「それで、ああいう護身術というか、身に着けらてるんですか? 管理人さんも、意外と大変なんですね」
菅「まぁ、必要に迫られてですね。教えていただきました。一人目に」
玲「一人目?」
菅「例の、常連さん第一号ですよ」
玲「そうだ。今日はその話、聞かせてもらえるんでしたよね」
菅「……その人が来たのは、今から二年前でしたかね」

○(回想)百貨店・外観

○(回想)同・店内
   営業中の店内。客足も多い。
   巡回警備をする椛田(28)。
菅の声「その方は当時、百貨店で施設警備の仕事をしていたそうですよ」

○(回想)同・受付
   受付業務をする椛田。

○(回想)同・店内(夜)
   営業終了後の店内。
   懐中電灯を片手に巡回警備をする椛田。

○(回想)同・外観
菅の声「ところが、そんなある日……」

○(回想)同・店内
   巡回警備をする椛田。
   目の前で一人の客が胸を押さえ、倒れる。
椛田「!? お客様!?」
   客に駆け寄る椛田。意識のない客。
椛田「お客様、大丈夫ですか? お客様! (無線で)か、椛田から防災センター、七階南エスカレーター前でお客様が倒れています。意識ないです。き、救急車を」
   周囲に人が集まり出す。
椛田「えっと、俺は何をすれば……?」
   動けない椛田。
椛田「えっと……えっと……」
   AEDを持ってやってくる警備員。
警備員「バカ野郎! 椛田、お前何ボケ~っとしてんだ」
椛田「あっ、先輩……」
警備員「気道確保やら心臓マッサージやら、やれる事なんていくらでもあるだろ!」
椛田「あ……あ……」
警備員「どけっ!」
   倒れた客の気道確保をし、心臓マッサージを始める警備員。
警備員「椛田、AEDの準備しろ!」
椛田「え……? 俺、やった事ありません」
警備員「あぁ、もう!」
   心臓マッサージの手を止め、AEDの準備を始める警備員。

○(回想)同・屋上
   椛田の胸倉をつかむ警備員。
警備員「客の前で警備員が『できません』だなんだ言ってんじゃねぇぞ! 俺だって実際にやった事なんてねぇんだよ。でもそれが俺達の仕事だろうが! そのために訓練してんだろうが!」
椛田「……すみませんでした」
警備員「……ったく、胸糞悪ぃ」
   出ていく警備員。力なく座り込む椛田。

○(回想)自殺場・外観

○(回想)同・管理人室
   受付業務をする菅(28)に書類を渡す椛田。
菅「椛田圭佑さん、二八歳ですか……」
   椛田を見る菅。
椛田「……何か?」
菅「いえ、何も」

○(回想)同・食堂(夜)
   豪華な食事をする椛田。その様子を厨房から見ている西郷(40)。

○(回想)同・三階個室(朝)
   輪になったロープに首をかけようとするも、ふんぎりがつかない椛田。
椛田「うぅ……」

○(回想)同・三階廊下(朝)
   個室から出てくる椛田。異臭に鼻をつまむ。
椛田「臭っ……」
   足元、別の個室から血や尿が流れてきている。
椛田「!?」

○(回想)同・二階広間(朝)
   やってくる椛田。周囲には多くの死体。
椛田「うっ……」
   壁に向かって嘔吐する椛田。涙目。そこにやってきて椛田の背中をさする菅。
菅「大丈夫ですか?」
椛田「あっ……はい」
菅「でしたら(ほうきとちり取りを渡し)掃除はご自分で」
椛田「え?」
菅「僕の仕事に『生きている人の後始末』は含まれていませんよ。含まれていませんとも」
椛田「その喋り方……(菅の顔を見て)お前、菅か?」
菅「御無沙汰してますね」

○(回想)同・食堂(朝)
   向かい合って座る菅と椛田。
菅「そうですか。そんな事が……」
椛田「もし、あの時巡回していた警備員が俺じゃなかったら、あの人は助かってたかもしれないんだ。それなのに……。俺が殺したも同然だ」
西郷の声「よぉ。盛り上がってるか、同級生トーク」
   そこに具入りのラーメンを持ってくる西郷。
西郷「ほれ、遠慮しないで、食いねぇ」
菅「いただきます」
   食べ始める菅。ラーメンを見ただけでまた嘔吐しそうになる。
西郷「しっかし、こんな所で再会するたぁ、大(てぇ)した偶然だよな。中学のクラスメイトだったんだって?」
菅「そうですね。僕も受付した時は驚きましたよ。驚きましたとも」
西郷「だったら、そん時に言うもんだろ?」
菅「そういうものですかね? (椛田に)どう思います?」
椛田「お前、良く食えるな。あんだけ死体見た後で」
菅「言われてみれば、そうですね」
椛田「特に肉とか無理。麺だけでいいわ」
菅「僕も今度からそうしてもらいますね」
椛田「……で、悪い。何の話?」
西郷「元クラスメイトの自殺を黙って見過ごすなんて随分と冷てぇな、話だ」
菅「そうでしたっけ?」
椛田「まぁ、クラスメイトって言っても、別に仲良かった訳じゃないしな」
西郷「どうせ(菅に)おめぇさんが仲良くしようとしなかったんだろ?」
菅「そうですよ。そうですとも。僕は別に、自分の意思で椛田君と同じクラスになった訳ではありませんから」
椛田「まぁ、そりゃそうだけど」
菅「クラスメイトなんて、人工的に区切られた時期に、人工的に区切られた区域で生まれた子供を、人工的に振り分けただけでしょう? それなのに『あなた達はこの人達と仲良くしなければなりません』なんて、おかしな話ですよ。おかしな話ですとも」
西郷「よくわからねぇけど、おめぇさんが冷てぇ人間だって事は良ぉくわかったよ」
   その場を立ち去る西郷。
椛田「菅さ、何でこんな所で働いてんの?」
菅「割がいいんですよ。拘束時間は長めですが、仕事内容はほぼ受付業務と片付けだけですし、何より大半は生きている人間を相手にしなくて済みます。面倒がなくていいですよ。いいですとも。ただ……」
椛田「ただ?」
菅「一年以上続いたのは、僕が初めてらしいです」
椛田「確かに『人に興味ない』くらいのヤツじゃなきゃ、精神的にもたないだろうな」
菅「おそらく、僕が警備員だったら、人が死んだくらいで気にしないかもしれませんね」
椛田「……お前みたいなヤツの方が、警備員向いてんのかもな」
   席を立つ椛田。
椛田「何か、お前に話したのが間違いだった気がしてきたよ」
菅「お帰りですか?」
椛田「あぁ」
菅「次は、死ねるといいですね」
椛田「俺に死んでほしいのか?」
菅「少なくともココは、死にたいと思っている人を支援する、そういう施設ですよ。そういう施設ですとも」
椛田「……次来るときは、菅が居ない日にするわ。明日は?」
菅「定休日です」
椛田「自殺場って、定休日あんの?」
菅「土曜日に自殺する人は、比較的少ないんですよ。少ないんですとも」
椛田「……確かに、月曜まで待つわな」
菅「定休日を除くと、僕は全ての曜日に出勤していますよ」
椛田「……マジかよ」

○(回想)同・外観

○(回想)同・管理人室
   受付対応中の菅。その隙に、菅に見つからぬように中に入っていく椛田。

○(回想)同・二階広間
   歩いている椛田。周囲には多数の自殺志願者。
椛田「受付でアイツと顔合わすのも癪だしな。ポケットに入場料入れときゃ、あとは上手くやってくれんだろ」
男Bの声「死ねぇ!」
   悲鳴が上がる。
椛田「何だ!?」
   刃物を振り回す男B。その近くには既に刺されたと思しき人の姿もある。
男B「お前ら、どうせ死ぬつもりで来たんだろ! だったら俺に殺させろ! 俺が殺してやる!」
椛田「やべぇヤツ来たな。ったく」
   男Bに向かって一歩足を踏み出す椛田。
菅の声「お客様、お止めください」
   そこにやってくる菅。それを見て、物陰に隠れる椛田。
菅「他の自殺者の方のご迷惑になる行為は、困るんですよ。困るんですとも」
男B「うるせぇ。だったら、お前から死ね!」
   菅に向け刃物を振るう男B。避けるだけの菅。
菅「止めてくださいよ。止めてくださいってば」
椛田「……あぁ、もう」
   こらえきれず出ていく椛田。男Bを背後から取り押さえる。
男B「痛ぇ! 何すんだ、この野郎!」
椛田「うるせぇ。お前が何してんだこの野郎」
菅「さすが椛田君、元警備員だけありますね」
椛田「お、おう」

○(回想)同・外観(朝)
椛田の声「あーあ、今日も死に損ねちまったよ」

○(回想)同・食堂(朝)
   向かい合って食事する菅と椛田。食べているのは具なし焼きそば。
椛田「あの変な男のせいでよ」
菅「また今度、出直されます?」
椛田「そうなるかな」
菅「じゃあ、その時に入場料二倍で払ってもらいますよ。払ってもらいますとも」
椛田「……気付いてたか」
菅「それはもう。別の方の受付をしている隙にコソコソ入っていく所から見ていましたから」
椛田「そこから!? ……じゃあ、言えよ」
   ポケットから二千円を取り出し、菅に渡す椛田。
菅「頂戴します」
椛田「勘違いすんなよ? 入場料ちょろまかしたかった訳じゃないんだ。ポケットに入れておいて、後で菅が抜いといてくれれば、それでOKだろ?」
菅「残念ですが、椛田君が亡くなった瞬間にポケットの中のお金は遺産となるので、僕が勝手に抜き取ることは出来なくなりますよ」
椛田「そうなの? ……じゃあ、何で俺の不正入場見逃してたんだ?」
菅「まぁ、同級生のよしみというヤツですよ」
椛田「どうだか」
   しばしの沈黙。
菅「どうして、助けに入ろうとしたんですか?」
椛田「ん?」
菅「僕が到着した時、椛田君も止めに入ろうとしてましたよね?」
椛田「お前、意外と良く見てんだな」
菅「やっぱり、元警備員の血が騒ぎました?」
椛田「……というよりは、もうこれ以上目の前で人が死ぬのを見たくなかった、って方が強いかもな」
菅「椛田君、やはり警備員に向いているのかもしれませんね」
椛田「え?」
菅「この前は『僕の方が向いている』とおっしゃっていましたけど、椛田君は今、人の命が失われる事の重さを知っていますから、誰かの命を守る事が出来るかもしれません」
椛田「……」
菅「むしろ、僕はそういうものがわかりませんから、警備員をやっても、誰も守れません。むしろ、今のこの仕事が一番向いているんでしょうね」
椛田「それは間違いないな」
   しばしの沈黙。
椛田「……サンキューな、菅」
菅「はい?」
椛田「俺、死ぬの止めるわ」
   席を立つ椛田。
椛田「人を死なせちまった事は、仕方ない。仕方なくないけど、もう仕方ない。だったらその分、人の命を救う。それで償っていくしかないよな」
菅「そうですか。それもいいと思いますよ。思いますとも」
椛田「なぁ、菅。何か、お礼させてくれよ」
菅「お礼、ですか?」
椛田「何か色々世話になったし」
菅「……じゃあ、さっきの、人の取り押さえ方を教えていただいてもいいですか?」
椛田「何だ、そんなんでいいのか?」
    ×     ×     ×
   西郷を練習台に護身術を菅に教える椛田。

○(回想)握手会会場
   ブースごとに配置に付くアイドル達と並ぶファン達。アイドル達の中に玲もいる。玲のブースの警備に立つ椛田。
   玲の前にやってくる嶋井。
玲「こんにちは。初見さんですかね?」
   不意に刃物を手に取る嶋井。
玲「!?」
椛田「危ない!」
   玲を庇い、嶋井に刺される椛田。

○(回想)自殺場・管理人室
   テレビでニュースを見ている菅。
アナウンサー「ナイフで刺された警備員の椛田圭佑さん、三〇歳が亡くなりました」
   驚き、部屋を出る菅。つけっぱなしのテレビから流れるニュース映像。
アナウンサー「殺人の容疑で逮捕されたのは無職の嶋井京樹容疑者で、嶋井容疑者はアイドルグループ『just do it』の握手会会場内で突如刃物を振りかざし、止めに入った警備員を……」

○(回想)葬儀場・外観

○(回想)同・中
   椛田の葬儀が行われている。参列者の中に菅の姿。そして菅と入れ違いにやってくる玲。椛田の遺影を見て呼吸が荒くなる玲。

○同・食堂(朝)
   向かい合って食事をする菅と玲。玲の目には涙。
菅「……という次第です」
玲「じゃあ、あの警備員さんが……」
菅「彼もきっと、誰かの命を救えて、本望だったと思いますよ。思いますとも」
玲「……」
菅「もちろん、だから『生きろ』とは言いません。ですけど、彼が命を懸けた意味というものを、少しは汲んでいただけると、かつてのクラスメイトとしては嬉しいです」
   頷く玲。
   窓から光が差し込む。

○(CM映像)
   暖かい日の光が差し込むさわやかな映像。さわやかな服装を着た玲が笑顔で歩き回っている。
    ×     ×     ×
   振り返る玲。
玲「あなたの力になりたい」
    ×     ×     ×
   自殺場のロゴ。歌に合わせて「自殺場」の文字が躍る。
玲の声「(歌で)自殺なら、自~殺場~」

○自殺場・管理人室(朝)
   ノートパソコンでCM映像を観ている菅。停止ボタンを押し、ディスクを取り出す。ディスクには「テレビCM 没ver.2」の文字。
菅「これは没になりますよ。没になりますとも」
   スマホのアラーム音が鳴る。
菅「はいはい、行きますよ。行きますとも」
                  (完)

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