俺とカレーと24年 ドラマ

尾崎豊が盗んだバイクで走っていたかもしれない昭和57年。 不良と昔気質ヤクザのお話。
muer 153 0 0 07/30
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第一稿

・ガメる…盗む
・チンチロリン…賭博の一種。サイコロを使う
・張る…掛け額を提示する
・シゴロ…勝ち、掛け額の2倍を受け取る
・ロッポウ…6の目のこと
・ピンゾロ…1の目 ...続きを読む
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・ガメる…盗む
・チンチロリン…賭博の一種。サイコロを使う
・張る…掛け額を提示する
・シゴロ…勝ち、掛け額の2倍を受け取る
・ロッポウ…6の目のこと
・ピンゾロ…1の目が3つ出ること。3つ同じ目が出るのがアラシといい、掛け額の3倍受け取る
・カシラ…若頭
・チンコロ…密告

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登場人物

本出正親(16)(21)(26)(40)不良

菅生勝行(16)(21)(26)不良
彦坂源(16)(21)不良

宮下力(40)(45)三代目愛仁会の会長
向谷美憲(28)(32)(38)三代目愛仁会向谷組の若頭

村田充成(45)四代目引田会園田組の組長
我妻(23)(28)(33)組織犯罪対策課の刑事

彦坂優(8)源の息子
園田陽(16)引田会名誉顧問・園田氏の孫

向谷昭義(当時55)故人。美憲の父親・向谷組組長

ヤクザA、B、C
看守A
用心棒A、B、C
煮方A、B

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〇T・昭和57年

〇神社
   夏祭り。
   的屋の露店が並ぶ中、木陰で段ボールなどを台に、スエットやらポロシャツやら、ソックスやらをたたき売りしている不良3人。
   売り物を見に数人の若者がたむろしている。
   本出正親(16)は客に、にこやかに商品を渡す。
正親「まいどー!」
   菅生勝行(16)は、客相手にガンを飛ばす。
勝行「安くだぁ?誰に向かって言ってんだてめぇ!」
   彦田源(16)はノートで価格計画を練っている。
源「んー…」
正親「おいおいおい!安いよそれダメダメ!源!おい!」
宮下「食うか?」
   いつの間にか宮下力(40)が、不良3人のそばに。
勝行「あん?」
   焼きそばを3パック差し出す宮下。
正親・勝行・源「…(誰?という顔)」
   腹が鳴る源。
源「い、いいんですか?」
正親「おい!」
宮下「値引くんだよ、たたき売りってのは」
正親「…」
   何かに気付いた勝行。
勝行「いるぞ!」
   勝行は慌ててバイクのエンジンをかける。
   正親、手早く売り物をしまい、正親、勝行に続く。
   源は宮下から焼きそばを半ばふんだくって、勝行にひとつ差し出す。
源「もらっときます!」
勝行「(焼きそばを手に取る)」
正親「バカ!」
宮下「(笑う)」
   勝行はさっさとバイクで行ってしまう。
   源は正親の後ろにまたがる。
源「ハイ(正親に焼きそばを差し出す)」
正親「…」
   正親、焼きそばを懐へ突っ込み、宮下に会釈。
   正親(と源)、バイクで走り去る。
   しばらくして、先生と思われる人物が、家族を連れてにこやかにやってくる。
   木陰には目もくれず、露店で焼きそばを買う。
   宮下はヤレヤレという顔。

〇道
   バイクにまたがり疾走している正親と勝行。
   2人はなにやらジェスチャーでやりとりしている。
   正親の後ろの源は、口がもぐもぐしている。
   バイクの停止中など、源は時々焼きそばをすする。

〇裏山(夕)
   焼きそばをすすりながら、乗って来たバイクを解体している正親。
正親「(鼻歌)」
勝行「どぉーだったんだよぉー、売上はさぁ」
源「さっきマサがノートふんだくったから知ぃらない」
勝行「おい!」
正親「騒ぐなよ、集中出来ねぇ!」
   勝行は正親の胸ぐらを掴む。
勝行「俺の苦労コケにすんのかお前!」
正親「ラコステじゃなくてバレンチノとかガメてこいよなぁ!これ(バイクの部品を振って)に比べれば屁でもねぇ!」
勝行「バ、バレンチノ…」
正親「ダセーの、お前は」
   源は正親の持ち物を漁り、ノートを取り出して見ている。
正親・勝行「(喧嘩)」
   源、腰をフリフリ踊る。
正親・勝行「!」

〇学習塾の前(夕)
   溜息をつく源。髪型は割とまとも。
   ドアを開けて中へ入る。

〇道(夜)
   解体したバイクの部品を持って、ゴロツキと何やらやりとりしている正親。

〇T・3日後

〇学習塾(夕)
   黒板の前に講師。生徒の人数は少ない。
   源は板書を写している。
   ドアの外のところに、正親と勝行がいる。
   2人はドアに触れて合図。
   源以外は誰も気付かない。
   正親と勝行はジェスチャーで「出ろ」と合図している。
   源はそっと立つ。
   他の生徒はお構いなし。
   しばらくして講師が振り返ると、源の姿がない。

〇ディスコ(夜)
   正親、勝行、源。
   それぞれ、少女3人を連れている。
   ソウルトレインが流れている。
   勝行、ボトルを持ちステージに上って踊る。
   踊り方がキレキレである。
   正親はステージには上がらず、腰をフリフリ踊る。
   源はそれを座って遠目に見ている。
   正親、踊りをやめて源の元へ。
正親「具合悪いのか?」
源「ねぇ、楽しい?踊ってて」
正親「いや…腰いてぇ」
源「年だね」
正親「同い年だろ」
源「(笑)ちょっと立つね」
正親「おう」
   源、少女を連れて行かず、出て行く。
   すれ違いざま向谷美憲(28)と肩がぶつかる。
向谷「オイ」
源「(無視)」
向谷「…」

〇T・2週間後

〇賭場
   チンチロリンをしている正親と勝行。
正親「付き合い悪いよなーアイツ」
   勝行、目無しを出す。
勝行「ゲッ!」
正親「ウィー!お前運ねぇなー。ホイッ!ロッポウ!(シゴロが出る)」
勝行「イカサマだろマサァ!」
正親「してねーよ!ホレホレ!金ー」
   向谷がやって来て、2人を覗き込む。正親は気付くが、勝行はお構いなし。
   サイコロを振って
勝行「(ピンゾロを出す)来たーーー!見ろ!」
正親「げぇ」
向谷「集中だよ集中。いい手相してんだから」
勝行「あ?なんだよアンタ」
向谷「あの子は?今日いないの?」
正親「(むすっとして)来ませんよ。最近付き合い悪いし」
   向谷、勝行の席へ。尻でどつく。
勝行「何だよ!」
向谷「(正親に)じゃ、俺としよう。肩がぶつかった分。2万円張る。どう?」
正親・勝行「…」

   × × ×

   正親の手元には数10万円が。
向谷「…」
正親「してませんよーイカサマはー」
勝行「(羨望の眼差し)」
正親「その恰好ダサいっすねー。センス考えた方が良いんじゃないすか」
向谷「…!」
正親「(サイコロを振る)ハイ。シーゴロ!おねしゃす!(手を出す)」
   突然、正親を抑え込み首にナイフをあてる向谷。
正親「!」
勝行「お…ぃ」
   騒然。
   向谷はナイフに力を入れるが、緩め、首を振って、正親を離す。
   数10万円を奪って出て行く。
正親「おい待て!」
勝行「(正親を止める)あ、危ねぇよアイツ!」
正親「勝行、あとでちゃんと払え。俺は奴を追うからな」
勝行「おい!あ…」
正親「(出て行く)」
   勝行。

〇道
   向谷、車に乗り込む。
   正親は乗り捨ててあったバイクに乗り込み、後を追う。

〇公衆電話ボックス
   110番にかける勝行。
   が、つながると同時に受話器を置く。
   手帳を広げて源の家の番号を見、かけ直す。
勝行「出ない…!」

〇愛仁会館前(向谷組、そのほか傘下が入る事務所)
   向谷、車から降りて会館へ入って行く。
   正親は通り過ぎる。
   正親の耳に小型盗聴器。
   音声。
   竹刀で叩く音。
宮下の声「お前、破門にするぞ…」
   正親、Uターン。
   バイクを捨て会館に飛び込む。
用心棒A「何だてめぇは!」
正親「(すり抜けて)」
   2階に上がる正親。
   宮下と向谷、子分数名がいる。
   向谷は左手の指から血を流している。
向谷「すいません、すいません宮下会長!(土下座)」
宮下「!(正親に気付く)」
向谷「!」
宮下「何しに来た。こんなとこへ」
正親「金を返して欲しくって。その人に取られたので」
宮下「(向谷を踏みつけ)そうか」

〇学習塾
   源が机に向かっている。
   勝行がドアの外でピンチの手信号を送るが、源は無視。
   勝行。

〇愛仁会館・向谷組事務所
   宮下と正親、向かい合って座っている。
   向谷は子分と共に控えている。
宮下「すまなかったな。うちの向谷が。(札束を出す)」
正親「…」
宮下「博打をしてるのか。ご両親は何も言わんのか」
正親「…帰って来ません。あの人たちは」
   間。
   宮下、正親の頭にポンと手を置く。
   撫でる。
正親「!」
   当番が菓子を持ってくる。
宮下「食うか」
正親「…」
宮下「(子分に)カシラの手当してやれ」
   向谷の左手を、包帯でぐるぐる巻く子分。
正親「あの…」
   宮下、正親の頭から手を離す。
正親「この前も、ありがとうございました。焼きそば」
宮下「腹くだしたか?」
正親「(首を振る)あと、あなたの子分を負かしてすみません」
向谷「!」
宮下「(笑う)そいつは若頭だよ」
正親「あの!俺からも、あなたに何かしたいです」
宮下「…」
正親「料理させてください!」
向谷「何ほざいてんだガキ!」
宮下「(ちょっと考えて)分かった。お前の好きなものでいい。作れ。(向谷に)ヨシ、案内」
向谷「…」
正親「(立ち上がり)本出正親といいます(深々とお辞儀)」
宮下「愛と仁の会長、宮下力サマだ(手を出す)」
正親「(困惑するが、握り返す。苦笑)」

〇同・台所
   台所を偵察する正親。
   冷蔵庫を開けたり閉めたりいろいろしている。
   それを目で追う向谷。
正親「大丈夫ですか?手」
向谷「お前のせいだろ。元はと言えばお前の友達…」
正親「(向谷の胸ぐらを掴み)源に手ぇ出したらなぁ。なぁ、オイ。てめぇなんざなぁ!締めて食うぞゴルァ」
正親・向谷「(にらみ合い)」
   向谷から手を離す正親。偵察しながら
正親「ガキ相手に博打する大人が悪いんでしょー」
向谷「…っ」
正親「(鼻歌)」
   何やらメモする正親。

〇道
   買い物かごとメモを手に、会館を出る正親。
正親「(鼻歌)」
   銃声。
   四代目引田会園田組のヤクザ数名がいる。
   ヤクザA、会館に向けて銃を構えている。
正親「!」
   ヤクザA、正親に向けて発砲。

〇愛仁会館・向谷組事務所(夕)
向谷「か、会長!それは!」
宮下「引田会名誉顧問からのだ。なので、目には目をっとぉ」
   宮下、窓から壺を落とす。
ヤクザA「(悲鳴)」
向谷「(ニヤける。子分に)戦闘用意!」

〇愛仁会館前
   ひたすらヤクザAを殴る正親。
   向谷組の子分らも参戦して力戦奮闘。

〇道(夕)
   正親、ボロボロで歩いている。
   向かい側から勝行も歩いてきて、気付き
勝行「マサ!」
正親「勝行!」
勝行「無事だったか!(抱きつく)」
正親「無事だー!(抱き返す)」
勝行「ポリじゃまずいと思って源にヘルプしたらよぉ、来なくて…」
正親「冷たいなぁ(苦笑)そうだ金!取り返した!利子も付いた!ウィー!(札束を見せびらかす)」
勝行「(満面の笑み)」
正親「お前の負けた分はチャラな。山分けだ」
勝行「(気付いて)マサ…ボロボロじゃねぇか」
正親「喧嘩はいつもだろぉ」

〇愛仁会館前(夕)
   パトカーなど数台。
   刑事らがヤクザたちを捕まえている。
   我妻(23)、先輩刑事に混じってオロオロ。
宮下「無事か」
正親「材料買ってきました!すぐ作ります!」
宮下「そうか」
宮下「(パクられるヤクザたちを見ている)…」

〇同・台所(夕)
正親「(鼻歌)」
向谷「カレーかよ」
正親「大変な時だからこそ!」
向谷「シーフードか」
正親「肉ですよ!」
向谷「ちっ」
宮下「オイ!釣り行くぞ」
正親・向谷「!」
宮下「うちのもパクられた。釣りしたら会議!」
正親「あ、あのぉ…(鍋と宮下を交互に見て)えぇー」
   向谷、ヤレヤレの顔。

〇菅生家(夜)
   手にブランド品の入った紙袋を下げ、そっと玄関へ入る勝行。
   パチンコ帰りの風体。
   倒れている母親を見つける。
勝行「おふくろ!」

〇彦坂家・部屋(夜)
   電話が鳴っているが、源は取らない。
   カット用ウィッグを見ている。
   音に気付き、玄関へ。

〇堤防(夜)
   宮下、向谷、子分数名。
   宮下は釣りに没頭。
   正親は鍋その他一式持ってきて、ミニコンロでカレーを作っている。
宮下「おー!(タコを吊り上げる)でかい!」
向谷「(クーラーボックスを持って動き回る)」
正親「こっちも出来ましたー!どうぞー!」
   一同、正親の元へ。
   カレーを食べる。

〇T・5年後

〇堤防
   血を流しながら、レトルトカレーを飲んでいる正親(21)。

〇菅生家
   勝行の母の神葬、帰家祭。
   直会の儀(会食)。

〇同・外
   桜が咲いている。
   しゃがんでタバコを吸う勝行(21)。
   源(21)は御玉串料の封筒を渡す。
   勝行、それを叩き落として
勝行「来るなって言ったろ」
源「だって…」
勝行「目障りだ!」
正親「俺も来たぞ!(花束と線香を持っている)」
勝行・源「!」
源「殴り合いか?見苦しいったらねぇな。反社が」
正親「冷てぇなぁ…」
勝行「お前ら失せろ!」
正親「長居はしないよ。これ、おばさんに」
勝行「神葬なんだようちは。線香じゃねぇ」
源「…」
正親「反社はここらで退散します!お邪魔しましたぁ!(お辞儀)」
源「さっさと失せろー。社会の毒だからな」
   勝行、源の胸ぐらを掴む。
勝行「お前が社会の毒だ。二度と現れるな」
源「…」

〇三代目引田会園田組・事務所
   正親、向谷(32)、子分たちが、園田組のヤクザらと戦っている。
正親「おんどれぁー!タマ腐ってんのかー!」
   向谷、正親のパンチをまともに食らう。
向谷「どこ見て殴ってんだ!」
正親「ウワァ、スンマセン!」

〇愛仁会館・部屋
   ヤクザBを捕まえている宮下(45)。
   ヤクザBは既にのびている。
   ヤクザCが宮下に銃を構えている。
正親「会長!」
   宮下、びっくりして
宮下「なにしてる!」
正親「俺、カシラじゃ調子出ません!」
   ヤクザC、正親に発砲。
   それを避けて正親、ヤクザCを持ち上げる。
   敵陣に投げつける。
正親「俺は毒じゃねぇー!」
   ヤクザら、それを皮切りに再び激しく戦闘。
   宮下、ヤクザBを捨て
宮下「カシラどうしたカシラ!」
正親「俺は会長のおつきです!」
宮下「アイツの秘書だろが!遊びじゃねえんだ!」
正親「俺は会長一筋です!」
宮下「(苦笑)早く、持ち場へ行け、な」
正親「…っ」
   向谷、やってきて正親に後ろから抱きつく。
正親「(悲鳴)」
向谷「会長!アイツ、本出が逃げました!」
宮下「会長かそいつは?」
向谷「!」
正親「(半ベソ)」
向谷「(正親を捨て)その…向谷組長が…」
宮下「!」

〇T・2週間後

〇手打ち式会場の旅館・大広間宴会場
   幹部をはじめ、ヤクザが集結している。
   三代目愛仁会向谷組、四代目引田会園田組の手打ち。
   両組の間の屏風が取り払われる。
   紋付羽織袴の宮下、音頭を取る。
   同じく紋付羽織袴の向谷と、村田充成(45)が部屋中央に座っている。
   作法に乗っ取る宮下、三宝に乗せた鯉2匹を腹合わせにする。
正親「…」
   向谷、盃を交わし村田と手を握り合い、会釈。
   会場一同、拍手。
   正親、それを見てもぞもぞしだす。

〇同・厨房
   正親、来て。
   故・向谷昭義(当時55)の在りし日の写真が入った写真立てを、作業台に置く。
   正親、合掌。
   厨房の調理師一同、唖然。
正親「(花板に)あのー、カレー作ってもいいですか。シェフ」

〇同・大広間宴会場
   宴会状態。
   宮下、村田にお酌をしている。
   その様子を向谷が見つめている。
   正親、厨房にいた煮方A、Bと鍋を持って登場。
正親「み、みなさま!このおめでたい…、いや有難い、いや仲直りの席にあたりまして、ぜひとも自分は皆々様のような任侠道を歩んでいきたく、カレーを作りましたー!」
   宮下、向谷は絶句。
   しかし、周りのヤクザたちは歓声を上げる。
村田「(宮下に)良い若衆だなー!」
   宮下の顔は真っ赤、正親の頭をぶつ。
正親「ヒッ」
   そのまま正親の頭をグリグリする宮下。
正親「(苦笑)」
宮下「(煮方らに謝り、厨房へ向かう)」
   鍋を持っている煮方と正親、カレーをみんなに振舞う。
向谷「(曇った表情)」
正親「(向谷に)新組長!俺は組長を守ります!逃げませんよ!」
向谷「…」
正親「…」

〇T・5日後

〇丼屋すごう(勝行のかつ丼屋・夕)
   丼屋すごうの看板。
   入口の扉には、「本日は閉店しました」の札。
   勝行は厨房で、カツを揚げたり卵でとじたりしている。
   店内席には正親と宮下の2人だけ。
   向かい合って座っている。
正親「会長」
宮下「うん」
正親「俺、考えたんですけど。なんで手打ちをしたんですか?」
宮下「本出は引田会を潰して嬉しいか?」
正親「え」
宮下「向谷組が潰れたら嬉しいか」
正親「ヤですよそんなの!」
宮下「そういうことだ。このまま潰しあったら共倒れになる。それが嬉しいか?お互いに手を抜かない。死人が出る。組が潰れりゃ路頭に迷う者が出る。そいつらはどうするんだ?お前はそれでもいいか?」
正親「…」
宮下「だから手打ちをしたんだ」
正親「でも、向谷さんはつらいと思います」
宮下「…」
正親「俺、実の親とかどうでもいいですけど、あの人は自分の実のオヤジが撃たれた。俺はもし会長が撃たれたら、撃った奴を許しません」
宮下「(正親の頭を撫でる)」
正親「オヤジの命は自分の命より大事ですよ」
   勝行、かつ丼を持ってやって来て
勝行「大盛2丁お待ちーぃ」
正親「うおっほー!(箸を割ろうとする)」
勝行「(払いのけ)手を拭け」
正親「…」
   宮下、ライターに火を点ける。
   勝行の方へ向き、目で促す。
勝行「!」
   勝行、加えたタバコを宮下のライターへ近づける。
   タバコをくゆらし、会釈。
宮下「いただきます」
   用心棒Aが入って来る。
正親・勝行「?」
   用心棒A、宮下に何やら言う。
宮下「分かった」
   ズボボボボ、という音とともに、かつ丼を3口でかっこむ宮下。
勝行「!」
宮下「(立ち上がり)正親、お前は食ってろ。(勝行に)旨かった。ごちそうさま」
   札束を置いて出て行く宮下。
正親「お、俺、俺!会長に!正親って呼ばれたぞ!なぁ、聞いたか!」
   勝行。

〇理容HIKOSAKA(源の理容室・夕)
   理容HIKOSAKAの看板。
   店内には源、向谷、用心棒2名ほど。
   源が向谷をシャンプーしている。
向谷「肩ぶつかった日とねぇ、同じなんだよ。今日」
源「何がですか」
   向谷、源の顔を掴んで引き寄せて
向谷「お前の目つき」
源「(慌てて離れる)」
向谷「(笑う)変わらねぇなぁ!お前、逃げて正当化したいタイプだろ。逃げて、自分が正しいと思いたい。俺もさ、逃げ腰なの。でも、お前の目はずぅっと恥じている。俺は恥じねえ」
   向谷、立ち上がり、行く。
   頭は濡れたまま。
源「ちょ、ちょっと!」
用心棒B、C「(遮る)」

〇愛仁会館・向谷組事務所(夜)
   正親、ソファでひとり寝ている。
   向谷、濡れた頭が少し乾いた状態で、来る。
向谷「オイ起きろ!(蹴る)」
正親「(起きない)」
向谷「(イラっときて殴る)」
正親「イテ…あ、組長」
向谷「起きろ!」
正親「どしたんですか頭」
向谷「喧嘩だ。加勢しろ」
正親「喧嘩?」
向谷「弔い合戦だよ。俺の親父が浮かばれねぇからな」
正親「この前手打ちやったばかりじゃないですか!」
向谷「手打ちをした。だから何だ?何かあのか?俺の親父はどうなる!」
正親「(血の付いた向谷の手を見て)!」
向谷「…」
   正親、向谷の胸ぐらを掴む。
   向谷、正親の顔に、手の血を塗りたくる。
正親「お前…会長に何した…!」
向谷「貴様。俺は誰だ?組長サマだぞコラ!」
   向谷、正親を突き飛ばす。
向谷「アイツは保身に走った!手打ちだぁ?ここにはバカしかいねぇ!お笑い種だよ!」
   正親、向谷に蹴られる。蹴られる。
向谷「お前は兵隊だ。ただの捨て駒だ!邪魔する奴は潰す潰す潰す潰す!俺は逃げねぇ!」

〇同・廊下(夜)
   正親、ボロボロになりながら歩いている。
   台所に宮下がいるのを見つけて
正親「!」

〇同・台所(夜)
   宮下、血を流して苦笑い。
正親「宮下会長…」
宮下「何か作ってくれるか」
正親「何を言って…!」
宮下「カレーを食おう。作ってくれ。大変な時はお前のカレーが食いたい」
正親「かつ丼食ったじゃないですか!じゃくて、ケガ!」
正親、電話の受話器に手を掛けるが、宮下はそれを止める。
   正親は宮下の手が触れた途端、驚愕する。
宮下「(首を振る)正親、頼む」
正親、宮下の首筋や脈などいろんなところを触って
正親「会長…そんな…」
宮下「食べれば元気になるよ」

   × × ×

   正親、コンロの前で泣いている。
正親「米がまだ炊けません。カレーは出来ました」
宮下「もう泣くな。分泌液はいらん」
   宮下、来て、カレーを皿に盛る。
   正親が見るのも構わず、宮下はカレーをかっこむ。
   ズボボボボ、と、3口で食べ終わる。
正親「(しゃくり出す)うっ…うっ…」
宮下「(自分の傷を指して)俺を殺らなきゃ、アイツは自害したろう。ヨシを恨むなよ」
正親「恨むなよって!無理ですよ!あなたの命はそんな簡単なもんじゃない!」
宮下「…」
正親「足りないですよ…恨んだだけじゃ…」
宮下「(笑う)お前のカレーも一杯だけじゃ足りないな。おかわり」
正親「…」
宮下「(笑う)正親、顔が妖怪になってるぞ」
正親「妖怪でも何でもいいっす」
宮下、カレーをおかわりしようとコンロへ。
   正親、宮下の腕を掴んで
正親「生き返ってください!コーヒーも飲んで!そしたら!生き返って…!」
宮下「(正親を抱く)顔を拭け、妖怪」
正親「俺は妖怪じゃないです。捨て駒でもない!」
宮下「…」
正親「キョウキャクです」
宮下「(笑う)キャクじゃない、カクだ。大事なとこだ」
   電話が鳴る。
   正親、取る。

〇理容HIKOSAKA(夜)
   店内は荒らされている。
   電話が受話器から外れ、源は気絶している。
   正親、来る。
   源をシャンプー台に寝かせる。
   その辺の花瓶にさしてあった花を数本抜き取る。

〇道(理容HIKOSAKA付近・夜)
   引田会のヤクザたちと向谷率いるヤクザたちが入り乱れて戦っている。
   村田、ボロボロになって倒れている。
   向谷は村田に、日本刀でトドメをさそうとしている。
   正親、手に袋を下げて来る。
   缶コーヒーを取り出し、敵ヤクザへぶっかける。
   今度はレトルトカレーを取り出して向谷へぶっかける。
向谷「!」
   向谷、逆上。
   カレーで目が潰れているが、正親へ向けて日本刀を振り回す。
   正親はそれを真剣白刃取り。
   刀を取り上げ、向谷の股間を蹴り上げる。
向谷「(吹っ飛び悶絶)」
   一同唖然。
正親「アンタの親父の弔いになりますか!こんなのが!こんなのが!」
   向谷を蹴る正親。蹴る。蹴る。
正親「どうしたら恨まなくって済むんだよ…」
   向谷の開いた口に、花を突っ込む正親。
   刀を持って立ち上がったところへ、我妻(28)、刑事らが捕まえに来る。
   源が走りながら来て
源「待ってください!」
正親「(刑事に捕えられながら)!」
源「彼は喧嘩を止めに来たんです!何も悪くない!」
我妻「気が動転してますね。落ち着いて!」

〇T・半年後

〇神社
   木々が紅葉している。
   勝行、拝殿の前に来て、二礼二拍手一礼。
   花束と線香を持っている。
   少し遅れて、源が来る。
   花束を持っている。
   勝行が振り向く。
   源。
   勝行は源を無視し、素通りする。
   源、勝行の背中に花束を投げつける。
宮下「食うか?」
勝行・源「!」
   宮下の姿は2人には見えない。
   宮下は社の前に紙袋を置く。
   勝行と源、紙袋に気付いて駆け寄る。
   中には焼きそばが3つ。
源「(手を伸ばす)」
勝行「(制止する)」
宮下「熱いうちに食え。毒は入ってない」
   宮下の姿は見えない。
勝行・源「…」
源「ねぇ、線香は神社じゃないよ」
勝行「しょうがねぇだろ。誰かさんのご親切で余ったやつだ」
源「(笑う)」

   × × ×

   勝行と源、焼きそばを食べている。
   源、紙袋の中の残りのひとつを見ている。
勝行「お前が食え」
源「!」
勝行「食って詫びろ。アイツにも、宮下さんにも」
源「詫びて、俺の卑怯、なおるのか」
   勝行、源の首根っこをつかまえる。
源「マサ、懲役受けるって。受けるって、なんだよ…。断れよ…。俺のせいだ」
勝行「だったらアイツの赤落ち分詫びろ。赤落ち分食って詫びて腹壊して死んじまえ!」
源「(泣く)」
勝行「(源を離して)冷めてるぞ。食え」

〇T・平成4年

〇愛仁会館・向谷組事務所
   向谷(38)は目に眼帯。
   でんと構えて座っている。
   子分たち、鋭い表情。
   向谷は立つと、何やら子分たちに指示をする。
   テーブルの上にペン。

〇丼屋すごう(深夜)
   勝行(26)。
   タバコをふかして座っている。
   店の外では、市民の悲鳴、ヤクザの怒声など。
   テーブルには新聞。
   手紙の束を見ている勝行。
   手紙の字は、ところどころ平仮名で、字が壊滅的に汚い。
正親の声「源は返事を書いてくれない。アイツによろしく。大分漢字が書けるようになった。オレはえらい」
   勝行、ポケットから、向谷組事務所のテーブルの上にあったのと同じ型のペンを取り出す。

〇刑務所・独房(早朝)
   翌日。
   正親(26)。
   坊主頭である。
   布団からはみ出して大の字で寝ている。
   読みかけの本、書きかけの手紙、新聞などが床に散乱している。
   正親の耳元には、勝行が持っている型と同様のペン。
   そのペンから音がする。
   かすかに向谷の声。
   正親、その音で目が覚める。
正親「(聞いている)」

〇同・面会室(夕)
   正親と勝行。刑務官が後ろに。
正親「老けたなぁ(苦笑)」
勝行「お前もな」
正親「…」
勝行「…」
正親「面倒掛けてるな」
勝行「いや」
正親「…」
勝行「…」
正親「俺さ、読書してるんだよ。俺が読書!」
勝行「字が読めない。あれじゃあ誰も返事は書かん」
正親「(苦笑)」
勝行「暴対法…」
正親「!」
正親・勝行「(お互いに声を出さずジェスチャーで会話。向谷と暴対法について話しているようだ)」
正親「そうか」
勝行「今年に入ってその暴…が出てから、一層酷くなった」
正親「…」
勝行「辛気くせぇ顔するな」
正親「納得出来ないんだ」
勝行「お前も奴と同類だろ」
正親「違う!」
勝行「!」
正親「会長はカタギを傷つけなかったぞ」
勝行「…」
正親「向谷さんは、だれかれ構わず傷つける。そんなのはヤクザじゃない。会長は、カタギもヤクザも大事にした。目の前の敵には容赦なかったけど」
勝行「…」
正親「同類じゃないよ。俺は。俺は…俺はヤクザだ。ヤクザだったんだ」

〇同・独房(夜)
   正親。手紙を書いている。
   中には企業宛のものも。
   その中の1枚の宛名に、刑事署御中の文字。
   「愛仁会向谷組脱退届」も傍らに。

〇T・3日後

〇バー・店の外(夜)
   向谷率いるヤクザ一同。
   班に分かれて店を取り囲んでいる。
   刀を持つもの、など様々。
   ひとりが手榴弾を持って、ヤクザらに合図。
   刑事一同、来る。
   我妻(33)もいる。
向谷「!」
刑事一同「(ヤクザらに突進)」
ヤクザ・刑事「(打々発矢)」
向谷「!」
我妻「(向谷を捕える)」
向谷「離せ!離せ!お前何してるのか分かってんのか!」
我妻「もう観念してください!組長さん!宮下さんのことも!」
向谷「!」
我妻「ダメですよ。アンタは。もう」
向谷「チンコロか」
我妻「…」
向谷「誰だ…誰がチンコロした!言え!言え!お前か!お前か!やめろ!俺はーーー!」
   我妻、向谷を羽交い絞めにし、刑事数人も飛び掛かって押さえ込む。
ヤクザ・刑事「(打々発矢)」

〇T・1か月後

〇刑務所
   正親。
   独房へ戻ろうとしたところへ、刑務官が手紙を持ってやって来る。
看守A「本出、ラブレターが来たぞ。想いが通じたな」
   封筒には「彦坂源」の文字。
正親「(受け取る)」

〇同・独房(夜)
   正親、源からの手紙を読んでいる。
源の声「守るべき人が出来ました。卑怯な俺に。マサに相談したいよ。会えなくてつらい。面会に行けなくてごめん。早く出て来てくれ」
   正親、ペン型の盗聴器を壊す。

〇T・1か月後

〇刑務所
   正親、向谷、刑務官数名。
   向谷、刑務官に捕まっているが、千枚通しを手に持ち暴れている。
   正親も刑務官に捕まっている。
向谷「お前が、お前があ!」
正親「アンタは組のオヤジです!オヤジを守りたいから子はヤクザなんですよ!でも!アンタは!愛仁会のオヤジを殺した!俺は罪を被ったけど!アンタは自分の恨みだけで動いた!そんな人に子がついて行きますか!」
向谷「うるせぇ…ほざくな…誰に向かって口きいてる!」
正親「俺はアンタを裏切りました。でも向谷組も、愛仁会のことも愛しています!」
向谷「捨て駒がごちゃごちゃ言うなーーー!」
正親「暴力団にしないでくれ!俺の愛した組と会を!…どうか…」
   正親、土下座。

〇同・懲罰房
   正親、裸。
   手を括られている。
   一定の方向を見つめたまま、姿勢を崩さない。
正親「…格好つかねぇなぁ…」
   宮下、正親の頭を撫でる。
   正親は辺りを見回すが、宮下の姿は見えない。
正親「会長…」
   宮下、さらに撫でる。
正親「…」
   苦笑して
正親「俺、頑張ります。会長」

〇T・平成16年

〇道(早朝)
   ランドセルを背負い、急ぐ彦坂優(8)。

〇俺のカレー(正親のカレー屋)・外観(朝)
   理容HIKOSAKAの隣にある店舗。
   優、店の前に着くと
優「(大声)マーサー!」

〇同・店内(早朝)
   正親(40)。
   優の声に気付いて目を覚ます。
   慌ててコンロの火を止め、店のドアを開ける。
   笑顔の優がいる。
優「ヨッ」
正親「ヨッ!じゃない。俺はマサじゃなくて正親おじさんだって言ったろ!」
優「なげーよ!めんどくせぇ」
正親「お前のパパだけなの!彦坂パパさんだけなのぉー。マサって言っていいのはよぉ」
優「勝行はー?」
正親「(面倒臭そう。頭を掻いて)ユウ。なぁ、お前大人に対してだなぁ、もう少しうやま」
優「(正親の手を引っ張ってはしゃぐ)」

〇神社(朝)
   優に手を引かれる正親。
   拝殿近くに来ると、優、正親に向かって手を出す。
   正親はヤレヤレとばかり、がま口を取り出す。
   小銭を出して優の手へ。
   優、それを勢いよく投げる。
   賽銭箱にイン。
優「おっしゃあ!」
正親「(優の頭を撫でる)」
   2人、合掌。
   もと来た道を戻る。
   木陰にへたり込んでいる園田陽(16)。
   正親と優、陽に気付いて近づく。
   陽は2人をにらむ。
   陽の顔は、勝行の16歳の頃の顔にとても似ている。
正親「(しゃがみ)喧嘩か?朝から」
陽「(首を振る)」
正親「腹減ってるか?」
陽「…」
   正親、陽の頭に手を置く。撫でる。
陽「!」
正親「カレー食うか?」
優「カレー食うか!」
   顔がちょっとほころぶ陽。
陽「カレー屋さんですか」
優「うん。そう」
正親「(立ち上がり)じゃ、ユウは学校行け。(陽に)君はカレーを食え。俺のとこで。な」
   陽の前に手を突き出す優。
   インタビュアー気取りで
優「お名前は!」
陽「園田陽…」
正親「!」
優「おっしゃあーーー!」
正親「(つられて)うおーーー!」
優「うるせーよ!大人のくせに!」
正親「んだとガキ!」
優「ガキって言っちゃいけないんだよぉ」
正親「(渋い顔)」
   陽は微笑。立ち上がる。
   正親、陽の肩に手を回す。
   優は陽の肩に手が届かないので、正親と陽の間に無理矢理潜り込んで、手をつなぐ。
陽「…」
   正親、優の頭をポンポンと触る。
   3人、歩き出す。

(了)

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