緑の苦海 舞台

葉っぱを切って生計を立てるハキリアリたち。慎ましくも幸福な生活を送っていた彼らだったが、お上の命令でキノコの栽培に着手したことで状況は一変する。 豊かな生活と引き換えに、彼らは大切なものを失っていく・・・。
松横丁 19 0 0 07/29
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第一稿

登場キャラクター
モノ・・・・主人公。「辺境の穴」のベテラン働きアリ。
ダイ・・・・成虫になったばかりの新人働きアリ。モノを父のように慕う。
トリン・・・「辺境の穴」の働きア ...続きを読む
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登場キャラクター
モノ・・・・主人公。「辺境の穴」のベテラン働きアリ。
ダイ・・・・成虫になったばかりの新人働きアリ。モノを父のように慕う。
トリン・・・「辺境の穴」の働きアリ。モノの後輩。
テトロ・・・「辺境の穴」を担当する兵隊アリ。
ペンタ・・・セントラルの学者アリ。
その他可能な限りのモブ。

本文
一場
アリたちの労働歌が流れる。舞台奥には葉っぱが積みあがっている。(以下、これを「葉っぱセット」とする)
オレンジのホリ、歌いながら葉っぱを運ぶアリたちのシルエット。
下手にテトロが控える。テトロの前に葉っぱを抱えたアリたちが並ぶ。トリンは最後尾につく。
地明かりCI。

トリン 時間かかりそうだなあ。

トリン、頭をボリボリと掻く。

モノ  (上手袖から)ぃよう、トリン!

モノ、トリンのそれより巨大な葉っぱをもって上手から入ってくる。

トリン モノさん、お疲れ様で・・(上手側を見て)でっか!
モノ  大漁大漁。どうだ、なかなか旨そうだろう?

モノ、トリンの後ろに並ぶ。

トリン いやはや・・(モノの葉っぱを触って)僕の見立てではサイズA、ランク4ってとこですね。
モノ  A4か。わしもまだ捨てたもんじゃないな、ガッハッハ!
トリン 捨てたもんどころじゃないですよ、まだまだ現役です。
モノ  いやー、どうだろうな。わしももうトシだからな。
トリン って、随分前から言ってますけど?
モノ  あ?そうだっけ?ガッハッハ!

トリン、肩をすくめる。

テトロ 次!

トリン、振り返る。

トリン おっとっと。

トリン、いそいそとテトロの前まで行く。テトロ、トリンが持つ葉っぱを検分する。

テトロ B3。次!

トリン、テトロにお辞儀して舞台奥に葉っぱを置きに行く。
モノ、テトロに葉っぱを見せる。

テトロ A4。
モノ  どうもどうも。

モノ、葉っぱセットのところにいるトリンにサムズアップする。トリンはニカっと笑う。
モノ、速足で舞台奥に行き、葉っぱを置く。モノとトリン、ともに上手へ行こうとする。

テトロ おいそこの。

モノとトリン、テトロの方を向く。モノ、自分を指さす。

モノ  わしですか?

テトロ、手招きする。

モノ  へい。

モノ、トリンに手を振る。トリン、頷いて一人で上手へはける。
モノ、テトロの前へ。

モノ なんですかい?
テトロ、答えず下手の方を向く。

テトロ おい、連れてこい。

下手からダイを連れた兵隊アリが入ってくる。

テトロ (モノに向き直って)今日成虫になったばかりの小僧だ。
モノ  はあ、この集落に新人が来るのも久しぶりですなあ。
テトロ しごいてやれ。
モノ  ようがす。お任せください。

テトロ、ダイの背中を押す。テトロ、下手へはける。

ダイ  ダ、ダイです!よろしくお願いします!
モノ  ガッハッハ、まあそう固くなるな。

モノ、手を差し出す。

モノ  わしはモノだ。今日から頼むぞ。
ダイ  (手を握り返して)はい!よろしくお願いします!
モノ  ようし、そんじゃ早速職場見学と洒落込むか。
ダイ  はい!
モノ  その前に、敬語は使わんでいいぞ。
ダイ  はっ、うん!

モノ、ダイを伴って舞台奥へ。

モノ  お前さん、飯を食うのは好きか?
ダイ  うん、大好き!

ダイ、恥ずかし気に口を押える。

モノ  ガッハッハ、わしもだ。その飯、を集めるのがわしらの仕事だ。

モノ、葉っぱセットの前で手を広げる。

ダイ  うわあああ・・。
モノ  ん、これはわしが今日とってきた葉っぱだな、うん。
ダイ  これ、ぜーんぶご飯にしていいの!?
モノ  いや、そうはいかん。
ダイ  えっ・・そうなんだ。
モノ  うむ。

モノ、葉っぱセットの下手端へ。

モノ  このランク5から(舞台中心線のあたりまで)ランク3までの特に旨い葉っぱはセント
    ラル、あー女王様がおわす集落へ送らねばならん。
ダイ  じゃあ、オイラたちが食べれるのは(舞台中心線のあたりへ)こっから(ハッパセットの上
    手端へ)ここまでってこと?
モノ  そうそうそう。ランク2と1の葉っぱだな。
ダイ  そうかあ。

モノ、ダイのそばへ。

モノ  まあそう気を落とすな。ボーナスがある。
ダイ  ボーナス?
モノ  うむ。たまにだが、ランク3の葉っぱを食べてもよいというお達しが来るのだ。

ダイ、何度も頷く。

ダイ  楽しみだな~。
モノ  ガッハッハ、精々頑張るこったな。
ダイ  うん!

下手からテトロがペンタを伴って入ってくる。

テトロ おい。
モノ  なんですかい?
テトロ こちらの先生がお前に聞きたいことがあるとの仰せだ。
モノ  先生?セントラルの学者さんか?
ダイ  そうみたい。
モノ  ん?なんで知ってるんだ?
ダイ  オイラと一緒に来たから。
モノ  ほう、合点。

テトロ、咳払い。

モノ  へいへい、今行きますよ。

モノとダイ、テトロたちのところへ。

モノ  へへっ、どうも。
ペンタ (テトロを指して)こちらの彼から聞いたんだが、ここに勤めて随分長いんだって?
モノ  へい、この集落じゃあわしが一番の古株です。
ペンタ ふぅむ。近頃の葉っぱの回収量はどうだね?
モノ  どうってのは・・?
ペンタ 以前に比べて増えてるか、減ってるか。
モノ  へい。最近めっきり寒くなってきたもんで、わしが若い頃みたいには取れんです。
ペンタ んなるほど。

ペンタ、葉っぱセットのところへ。

ペンタ それにしては中々質の良い葉っぱが揃っているね。
モノ  へい、ありがとうございます。
ペンタ なるほどなるほど。あー、もう結構結構(追い払うように手を振る)。
テトロ お前たち、仕事に戻れ。
モノ  へい。(ダイの方を向いて)そんじゃあいっちょ葉っぱ取りに行くか。
ダイ  ふえ!?いきなり?
モノ  ガッハッハ、みんなそうやって一人前になるもんだ。ほれ、行くぞ。
ダイ  ひー。

モノ、ダイを伴って上手へはける。
ペンタ、テトロのもとへ。

テトロ いかがでしょうか。
ペンタ ん。悪くないね。
テトロ では・・。

ペンタ、頷く。テトロ、お辞儀する。
ブル転。労働歌かかる。

二場
地明かりCI。モノ、トリンを含め働きアリたちが舞台にいる。ダイは不在。

トリン へえ、もうサイズBの葉っぱを運べるようになったと。
モノ  そうそう。
トリン 相当な速さじゃないですか、それ。
モノ  んーまあ確かに早いが、わしが教えた連中はみんなこんなもんだったと思うがな。

トリン、眉を顰める。

モノ  そうむくれるな。お前が頭脳派の大器晩成型だってのはわしが良く知っとる。
トリン 物は言いようですね。
モノ  ガッハッハ。
モブ  トリン!

トリン、振り返る。

トリン ちょっと失礼。
モノ  ん、そうか。

トリン、モブの下へ行く。そのまま当該モブと会話。
上手からお腹をさすりつつダイが入ってくる。

ダイ  はー、出た出た。
モノ  あー、一歩遅かったなあ。
ダイ  なにが?
モノ  今お前の先輩としゃべってたんだ。
ダイ  先輩?ヘッキーさん?
モノ  あいつじゃないあいつじゃない。トリンってやつだ。
ダイ  トリンさん。
モノ  頭のいいやつでな。葉っぱのサイズとランクをピッタリ当てられるのはここじゃああい
    つくらいのもんだ。
ダイ  へえ、それはすごい。

草笛SE。働きアリたち、一斉に下手を見る。
テトロが草笛を吹きつつ下手から入ってくる。その後ろから兵隊アリたちが巨大なユウキダケを持ってくる。

ダイ  何あれ?
モノ  わしも長いこと生きてきたが・・・こんなモンは見たことがない。

ユウキダケが舞台中心線に着いたらテトロが草笛を大きく吹き鳴らす。
テトロ、働きアリたちの方を向く。

テトロ 整列!

働きアリたち、整列する。

テトロ ただいまより特別講話を始める。心して聞くように。

ペンタ、下手から入ってくる。テトロ、ペンタのために場所を開ける。

ペンタ (咳払い)えー、諸君、諸君らは非常に幸運である。我らの巣にある47の集落から諸君らは選ばれたのだ。これは(ユウキダケを指して)近日発見された食糧で、植物とは似て非なるものである。我々はこれを、発見者の勇気を讃え、ユウキダケと呼称することとした。ユウキダケは太陽の光が届かない我らが巣の中でも栽培可能という点で植物に比べ圧倒的アドバンテージを有する。すなわちユウキダケはここ最近の葉っぱ不足に対する解決策たり得ると目されている!そして諸君らはこのユウキダケを栽培するという名誉を得たのである。
テトロ 以後、当集落ではランク3以上の葉っぱは全てユウキダケの栽培に用いる。

働きアリたち、どよめく。

モブ1  じゃあセントラルに納める葉っぱはどうなるんだよ!
モブ2  それよりボーナスだ!俺たちからボーナスを奪うってのかよう!


働きアリたち、口々に不安をノベル。

ペンタ 心配ご無用!諸君らはこれからユウキダケの傘を切り取り、セントラルへ納めればそれ
でよい。もちろん、ボーナスのこともしかと考えてある。
テトロ 以後、ランク4の葉っぱの一部をボーナスとして割り当てる。

間。

ダイ  今、なんて?
ペトロ (ダイを指さして)言っただろう、名誉ある職だと。名誉に見合った報酬を。ランク4の葉ぱが諸君らのボーナスだ。

働きアリたち、歓声を挙げる。

モノ  信じられん。ランク4の葉っぱ、生きてるうちに食えるとは思わなんだ。
ダイ  やったね!モノさん!
ペンタ えーっと栽培の手順をレクチャーしておきたいんだが。
テトロ はっ。そこの、そこの、そこの。前へ。

テトロ、トリン含む三人のアリを指さす。(人数可変。最悪トリンのみでも可)

テトロ 他の者は作業に就くように。

トリン含む指名されたアリたちは前へ。それ以外の働きアリたちは嬉々として解散。
労働歌が流れる。ブル転。働きアリたちは作業を続ける。
下手サスCI。モブの働きアリがその中へ。小さな葉っぱを持っている。

モブ1 ん?あんた、隣のコロニーの・・・ああ、もう昔みたいにセコセコ働かなくていいんだ
よ。あのユウキダケってやつぁちょっとの葉っぱでグングン育ちやがるからな。いい時代になったもんだよ。へっへっへー。

下手サス上手サスCC。上手サスへトリンが入る。モブは作業に戻る。

トリン ああどうも。お久しぶりです。ふっ、表情が柔らかくなったって・・・そうですかね。仕事ですか?順調です。・・・・確かに、性に合ってるんでしょうね。そういう意味ではユウキダケ様様、かもしれません。

上手サス手前サスCC。手前サスへモノとダイが入る。トリンは作業に戻る。

モノ  いやー、快調快調。まるで若返った気分だ。
ダイ  やっぱり良いもの食べると違うんだね。
モノ  ほれみろ、こんなこともできるぞ。(コサックダンスをしながら)
ダイ  あはは!これでランク5の葉っぱなんて食べたらどうなっちゃうんだろ?
モノ  ふっふっふ。
ダイ  どうしたの?
モノ  これはまだ内緒だが、食えるらしいぞ。
ダイ  えっ?
モノ  ランク5の葉っぱだ。女王様にわしらの功績が認められたらしい。
ダイ  ホントに?やっほーい!フウウウウ!
モノ  こらこら、まだ内緒だと言っとろうが。
ダイ  (口元に指をあてて)シーッだね。

モノも口元に指をあてる。見つめあい、笑う二人。
ダンスシーン。(「返せ!太陽を」?)
ダンスが終わってアリたちが解散し、はける中、一人のモブアリが床に倒れ、手足をけいれんさせている。モノ、モブアリに駆け寄る。

モノ  どうした?大丈夫か?
モブ1 モノさん、体が、変だ!(呂律が回っていない)

後ずさりするモノ。
ブル転

三場

ブルー照明の中、モブ1の闘病が描かれる。例)立ち上がろうとするが手足が震えて倒れてしまう。
背景では働きアリたちが働いている。今までのブル転シーンと異なり、一部の働きアリは痙攣したり、倒れたりする。
モブ1,動かなくなる。働きアリたちがモブ1を抱えてはける。
テトロ下手から入ってくる。テトロの前に葉っぱを持った働きアリたちが並ぶ。最後尾にはダイがやはり葉っぱを持って並んでいる。
ユウキダケの前にはトリンがいる。
地明かりCI。
ダイ、周囲の匂いを嗅ぐ。首をかしげる。

モノ  (上手袖から)しっかりしろ、もう少しだ!

モノ、モブ2に肩を貸しながら入ってくる。モブ2はだらんとしており、自力で歩こうとしても痙攣して力が入らない様子である。

モブ2 モノさん、すまねえ。(一言一言はっきりかつゆっくりと)
モノ  気にするな。運ぶことには慣れてる。
モブ2 俺、情けなくって。(呂律が回っていない)

モノ、無言でモブ2の背中を叩く。

テトロ おい、そこの。
モノ  へい。
テトロ 葉っぱはどうした?

並んでいるアリたち、愕然とした面持ちでテトロを見る。

モノ  (一瞬言葉に詰まり、咳払い)こいつが、倒れちまったんです。

テトロ、無言のままモノを冷ややかな目で見つめる。

モノ  置いていくわけにはいかないでしょう?
テトロ (鼻を鳴らして)ならば、そいつが取ってくるはずだった分もお前が取ってくるんだな。
モノ  兵隊さん。

モノ、モブ2を降ろす。

モノ  あんたは何とも思わんのですか?
テトロ 何がだ。
モノ  (モブ2を指して)こいつで何十匹目だと思っとるんですか?
テトロ 疲労で倒れる働きアリなど珍しくない。
モノ  疲労?(息を軽く吸う)兵隊さん。わしは長らくこの集落に勤めとりますが、こんなぶっ倒れ方は見たことないです。あんな、あんな死に方も・・・。
テトロ ふん。
モノ  なんでかはわからんけども、何かが起きとるんです。
テトロ わからん尽くしではどうしようもない。
モブ2 だったら、だったら調べてくれよぅ(呂律が回らず、ほとんど聞き取れない)
テトロ 何?
ダイ  わからないんだったら調べてくれって、言ってるんだ。

モブアリたち口々に「そうだそうだ」という。
モノ、テトロを見据える。

テトロ (小さく呻って)私の一存では決められん。今は働け!

間。

モノ  わしは(モブ2を抱えて)こいつを寝床まで連れてきます、

テトロ、鼻を鳴らす。
モノ、モブ2を連れて下手へはける。

テトロ 次!

先頭の働きアリ、前へ出る。
ブル転。働きアリたちがはける中、トリンのみユウキダケの前にたたずんでいる。
ユウキダケサスCI。
ユウキダケにそっと手を伸ばし、触れるトリン。

ペンタ (下手袖から)何をしているのかね?

下手へ振り向くトリン。
ペンタ、下手からサス内へ入る。

ペンタ 調査があるからここら一帯には近寄るな。そう周知させたはずだがね。
トリン 申し訳ありません。
ペンタ ふーん、それで、なにを?
トリン いえ、ただユウキダケの生育状況を確認しようと思いまして。
ペンタ わざわざ?
トリン はい。

間。

ペンタ んまっ、とにかく邪魔だからお帰んなさい。
トリン はい、失礼します。

トリン、一礼後サスから下手へはける。
ペンタ、その背中を見つめる。
ブル転、ただしユウキダケサスは点いたまま。
ペンタがユウキダケやその周辺を観察する間、働きアリたちが入場して整列する。トリンら栽培アリは働きアリとはズレた位置に整列する。
テトロ、2場の講話と同じ位置につく。
地明かりCI 。

テトロ お前たちの要望を受け、学者先生が調査をしてくださった。重々感謝して聞くように。
ペンタ ェヘンェヘン。諸君らは此度の奇病に強い不安を覚えていることと思う。だがもう 安心だ。私がその原因を特定した。すなわち、これだ。

ペンタ、一枚の葉っぱを掲げる。

ペンタ これはエニマグサという植物である。この植物に含まれる毒素が諸君らの体を蝕んでいるのである。どうやら最近この近くに根付いた種のようであるからして、くれぐれも食用の葉っぱと誤認しないようにしたまえ。
テトロ 以上である。礼っ!

働きアリ、栽培アリ、お辞儀をする。
ペンタ、何度も頷く。

テトロ では、本日の作業につけぃっ!

働きアリたち、一斉に上手へ向かう。
ペンタ、下手へ向かうがすれ違いざまにテトロに「では後は指示通りに」と囁く。
テトロ、小さく頷く。
ペンタ、下手へはける。テトロもそれに続く。
この2人の背をトリンは見続ける。
上手からモノが戻ってくる。
モノ、しゃがみ込んで葉っぱセットを見つめる。
トリン、モノに近づく。

トリン どうかしましたか?

モノ、立ち上がる。

モノ  エニマグサ、だったか?
トリン ええ。
モノ  わしにはわからんかったなあ。
トリン 何がです?
モノ  あの先生が持ってた葉っぱも、いつも食ってた葉っぱもおんなじに見えちまってなあ。

間。

モノ  なあトリン、エニマグサってのは本当に・・・。
トリン (食い気味に)先生を!疑ってるんじゃないでしょうね。
モノ  疑ってるわけじゃないが、だがな・・・。
トリン 先生とユウキダケのおかげでこの集落はここまで発展したんですよ!
モノ  わかっとるよ、トリン。お前さんどうかしたのか?

トリン、唇を噛み締める。

トリン いえ、なんでもありません。それより作業に戻った方がいいんじゃないですか?
モノ  おお、そうだった。邪魔して悪かったな。

モノ、上手へはける。
トリン、かぶりを振って作業に戻る。
ブル転。
アリたち、作業を行いながら以下の台詞をいう。

モノ  エニマグサなんて本当にあるのか?
モブ3 先生を疑ってるって?恩知らずな奴らだ 
モブ4 栽培担当のやつら、最近感じわりーな。  
テトロ もっと疑え、もっと争え。

ダイ、手前サスの位置へ。

モブ3 この葉っぱ、本当に大丈夫なんだろうな?
モブ4 んだと!?疑うってのか?
モノ  喧嘩はやめろ!わしらは仲間だろ!
モブ2 辛い、苦しい(呂律回らない)。

モブ2、倒れる。

モノ  逝っちまった。また、逝ってしまった。
トリン 気のせいだ。僕の気のせいなんだ。
テトロ もっと働け!ユウキダケのため、我らの巣のために!

ダイ、座り込む。
ブル転手前サスCC。

モノ ふぃー。全く人手が減ると大変だ。

モノ、手前サス内へ入る。
ダイ、モノの方を向く。

モノ  ダイ?
ダイ  モノさん、そこにいるの?
モノ  何を言っとる、わしはここに・・・。

ダイ、モノに手を伸ばすがその手は痙攣している。それを見て言葉を失うモノ。

ダイ  見えない、見えないよぅ。
モノ  ダイ!

モノ、ダイに駆け寄り抱きしめる。
手前サスそのままブルーIN。


モブ3 あの坊主が?
モブ5 ああ。
モブ3 それで最近モノさんを見ねえのか。

ユウキダケサスFI。中にはトリンがいる。

モブ3 可哀そうにな。あの坊主も、モノさんも・・・。

テトロ、手前サスの後ろに立つ。

テトロ おい!ここを開けろ!
モノ  (小声で)いやだ。
テトロ かの奇病は感染の恐れがある!患者は隔離しなくてはならない!
モノ  いやだ!あんたらはそう言ってわしから仲間を次々に奪っていった!この子だけは絶対に渡さん!
テトロ ふざけるな!この巣がどうなってもいいのか!
モノ  あんたこそ!この集落を何だと思ってるんだ!エニマグサだと?そんなものは存在せん!この病の原因は、きっと・・・・!
ダイ  (モノの台詞にかぶせて、小声で。そして呂律が回っていない)モノさん。

ブルーCO。以後、ダイの台詞は全て呂律が回っていない。

モノ  ダイ、わしがわかるか?
ダイ  わかるよ、当然でしょ。オイラのモノさんだ。
モノ  ああそうだ、わしはずっとここにいるからな。

ダイ、力なく首を振る。

ダイ  モノさんとまた一緒にご飯食べたかったな。

ダイ、死去。だらんと垂れさがる。(ピエタのイメージ)

モノ  ダイ?そうか、寝とるのか。全くまだまだ子供だなあ。よしよし、ねんねんころりよおこーろりーよ、なんてな。はっはっは・・・。

モノの力ない笑い声と子守歌の中、暗転。

四場

ユウキダケサスFI。中にはトリンとモブが。

トリン 異臭?モノさんの寝床から?
モブ3 そうそう。てかモノさんっていつから引きこもってたっけ?
トリン ・・・随分経ってるな。きっともうダイは・・・
モブ3 正直そうだろうね。
トリン すまない、今日は先に上がらせてくれないか。
モブ3 え?!
トリン 埋め合わせはきっとする。

トリン、一礼してサスの外へ。ユウキダケサスFO。
下手サスCI。駆け込むようにトリンが入ってくる。
ガヤSE。

トリン 皆来ていたのか。確かに酷いにおいだ。

トリン、手前サスの位置へ。手前サスの中でモブアリたちが密集している。

トリン すまない、皆通してくれないか。

モブアリたち、トリンを睨みつける。モブアリたち、一斉にはける
無数の菌糸に覆われたモノとダイの死体がある。

トリン そんな、嘘だ。

トリン、膝から崩れ落ちる。そのまま這うようにしてモノの死体に触れる。

トリン うわああああああ!

トリン、叫ぶや否や菌糸の束を引きちぎり、ユウキダケの下へ。
ユウキダケサスCI。
トリン、ユウキダケの傘を攻撃する。

モブ3 やめろ!トリン!
モブ5 ユウキダケを壊すな!
モブ3 俺たちの集落が!
トリン うるさああああああい!

トリン、ユウキダケの傘を引き剥がす。そのまま傘の後ろの菌糸を引きちぎる。

トリン やっぱり・・・。

トリン、正面を向く。

トリン 見ろ!わかるか?モノさんの死体に生えていた糸と同じだ!

どよめき。

トリン ユウキダケの糸がモノさんの、皆の体に入り込んで殺したんだ!やっぱり、やっぱ    りそうだった、僕はわかっていたんだ・・・。

トリン、泣き崩れる。ひとしきり泣いたあと、立ち上がる。

トリン 皆、セントラルに行こう!女王陛下に直訴するんだ!こんな恐ろしいものをそのま    まにはしておけない!

オーッ!という叫び声。
トリン、手前へ走り出す。ユウキダケサス、手前サスCF。
トリン、手前サスの中へ。

トリン なんだ、これ・・・。

トリン、茫然と見上げる。(巨大な岩があるイメージ)

トリン 誰か!誰かいないか!恐ろしい報せがあるんだ!
テトロ それはユウキダケのことか?
トリン どうしてそれを・・そちらにいるならここを開けてください!
テトロ それはできない相談だ。
トリン なぜです!
ペンタ 諸君の役割は終わったからさ。
トリン (一瞬目を見開いて)先生。

トリン、つばを飲み込む。

トリン やっぱりあなたは知っていたんですね。ユウキダケが奇病の原因だと。
ペンタ 然り!ユウキダケそれ自体は有毒ではないが、菌糸が土壌を介して葉っぱに入り込むことで我々の神経を破壊する毒となる。君こそよくぞ自力で気づいたものだ。称賛するよ。
トリン どうしてエニマグサなんて存在しない植物をでっちあげたんですか?
ペンタ ユウキダケの栽培を、うんにゃ、実験を中断する訳にはいかなかったからだよ。
トリン 実験?
ペンタ 安定的な食料資源の供給のためにはキノコ類の栽培が不可欠だった。しかし、この近辺にあるキノコのうちどれが栽培に適しているかは不明だった。諸君の犠牲がユウキダケの危険性を証明したんだ。
トリン 犠牲?あなたたちははじめから僕達が死ぬとわかってあんなものを!

ユウキダケサスCI。

ペンタ そんなことはない。ただ安全かどうかわからなかっただけさ。そしてそういうものを栽培するのにはセントラルから遠い集落でなくてはならなかった。セントラルを危険にさらすわけにはいかないんでね。
トリン そしていざユウキダケが危険とわかったらこの集落ごとユウキダケを封印しようというわけですか。
ペンタ ユウキダケの菌糸が我々を蝕むとわかった以上は仕方のないことだ。それに諸君が自身の被害を喧伝することで女王陛下のイメージがダウンしては大変だからね。 
トリン 女王が、僕達の母がこの集落を見捨てたんですか?!
ペンタ 一面的に見ればそうなる。しかし大局的に考えたまえ。諸君は無駄死にじゃあない。諸君の犠牲が齎したものに女王陛下もお喜びになっておられる。巣の発展の礎となったことを誇りに思ってはいかがかな?
トリン ふざけるなあ!僕達は礎なんかじゃない!生きてるんだ、命なんだ!
ペンタ まあ、その命もユウキダケの毒で風前の灯だ。せめてもの餞にランク5の葉っぱを残しておいたから残り短い余生を楽しむことだね。
トリン そんなものいらない!僕たちの命を、健康な体を返せ!

トリンが突き出した腕が痙攣している。トリン、その腕をぎゅっと押さえる。
ユウキダケの柄の先から出るようにスモークを炊く。(さながら煙突から出る煙のように)

トリン 僕達は絶対に忘れない。あなたたちが何をしたか。巣の発展とやらのために犠牲を強いて、田舎の集落だからって僕達の命を弄んだことを絶対に忘れない!

間。

トリン そして絶対に忘れさせない!僕達を虐げたあなたたちにも、僕達の犠牲を顧みずにのうのうと繁栄を享受する他のアリたちにも!いつかここを脱出して教えてやる!達の苦しみ、悲しみ、そして怒りを!忘れさせない、絶対に!

観客を睨みつけるトリン。

幕。

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