水か春 ドラマ

容姿にコンプレックスを抱える黄瀬陽翔(21)は全てを時代のせいにし、人体冷凍保存のモニターに応募する事に決めた。未来への期待を馳せながら保存液に入るのであったが、冷凍保存されたのは体の一部だった。
M.K. 12 0 0 06/26
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第一稿

<登場人物>
黄瀬 陽翔(21)   札北大学の大学生

山本 龍二(21)   黄瀬の同級生

工藤 博士(62)   人体冷凍保存の研究者
涼川 美玲(28)    ...続きを読む
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<登場人物>
黄瀬 陽翔(21)   札北大学の大学生

山本 龍二(21)   黄瀬の同級生

工藤 博士(62)   人体冷凍保存の研究者
涼川 美玲(28)   工藤の助手

寺園 心愛(20)   女子大生

女子大生A〜B
宅配
男の子
男A〜B
男性A〜B
チャラ男

<本文>
○居酒屋・大広間(夜)
  グラスの中の氷が溶けて崩れる。
  盛り上がる男女の大学生サークル。
  拍手や煽る声が大きくなる中で、イケてない男二人が無理やりキスさせられ
  ている。
  独りぼっちで周りを伺う黄瀬陽翔(21)、キスさせられてる男と似たよう
  な服を着ている。
  黄瀬の目が泳いでいる。
  黄瀬、カバンを持って大広間を出て行く。
  黄瀬を気にする人は誰もいない。

○同・廊下(夜)
  黄瀬、足早に出口に向かう。
  後ろから山本龍二(21)が肩を叩く。
山本「どうした?なんで帰るの?」
黄瀬「話が違うだろ。こんなのがしたくてサークルに入ったんじゃない」
山本「お前が女の子と話したいって言うから」
黄瀬「こう言う事じゃない。もっと純粋で、綺麗な会に参加したかったんだ。な
 んか下品なんだよ」
山本「そんなやついねぇから。リアルな大学生女子はアレだ」
黄瀬「見た目でマウント取ってる感じも気に食わない」
山本「テンションとキャラクターでモテるやつもいるんだから、もうちょっと頑
 張ってみろよ」
黄瀬「頑張ったさ。流行りの恋愛リアリティショーってやつも見たし。色々話せ
 るように調べて知識を蓄えましたよ。なのに……話してすらもらえないんだ」
山本「数打ちゃ当たる、何度もトラ」
黄瀬「やっぱ顔なんだ。見た目重視なんだ。こんな所に居られるか」
  と、出て行く。
  呆れる山本、大広間に戻る。

○札北大学・外観
  青空の下に校舎。

○同・講義室
  八十人ほど入る講義室、まばらに生徒が座る。
  端でひとり座る黄瀬、スマホを見ながら周囲をチラ見する。
  黄瀬の前に二人の女子大生が座る。
女子大生A「昨日、二人で先抜けたでしょ」
女子大生B「イケメン取っちゃった」
女子大生A「私が狙ってたのに」
女子大生B「イケメンは誰でも狙うんです」
女子大生A「出たーマウント。残った方、童貞でマジ引いたんだけど」
  黄瀬、席を立つ。

○同・食堂
  食べ終わった食器。
  スマホをいじる黄瀬の後ろに人が通り、スマホを隠す。
  黄瀬のスマホに『モテる 都市伝説』で検索されている。
  『黒スキニーはモテる』のサイト記事。
  『バツイチはモテる』のサイト記事。
  黄瀬、スマホを消す。

○同・中庭
  ベンチに座る黄瀬、通り過ぎる人を見る。
  山本、黄瀬の隣に座る。
  黄瀬、山本の首についたキスマークを見る。
山本「その風貌で人見てるとストーカーにしか見えないぞ」
黄瀬「第一声から失礼だな。最初は挨拶から始めろよ」
山本「冗談だ。そんな気にすんな」
黄瀬「人のコンプレックスをずけずけと」
山本「見た目の優劣なんて時代によって変わるんだぞ。卒業後にモテるかもしれ
 ないだろ」
黄瀬「それまで童貞か……」
山本「中身が大事、だろ」
黄瀬「そんなの幻想だ」

○黄瀬家・中
  整ったワンルーム。
  黄瀬、パソコンをいじっている。
  パソコンに『都市伝説』の動画。

○都市伝説の動画
  男二人の動画。
男A「今日のテーマはトランスヒューマニズムです!」
男B「ああ、聞いたことありますよ。人工知能とか人体冷凍保存とか、マイクロ
 チップ埋め込んだりするやつですよね」
男A「そうです。都市伝説の定番ですね」
  動画がスキップされ、次に行く。
男A「今回のテーマは呪い、呪術です!」
男B「ああ、都市伝説らしいですね。丑の刻参りが有名ですよね」

○黄瀬家・中
男Aの声「日本には知られてないけど、その神社だけに伝わる呪いだったり、呪
 文だったりが存在するんですよ」
男Bの声「存在するって言ってますから。都市伝説でもなく、事実じゃないです
 か」
  ベッドにダイブする黄瀬、枕を抱き締める。
  黄瀬の腰がベッドに擦り当てられる。
  黄瀬、天井を眺める。
  動画から広告が流れる。
広告「そこのモテないアナタに必見な情報です!」
  黄瀬、パソコンの方を見る。
広告「アナタがモテいない理由は顔、髪型、脱毛してない、肌が汚い?それとも
 お金?童貞だから?いや違う、時代が悪い」
  黄瀬、パソコンの前に座る。
広告「一重がモテる時代があった、デブがモテる時代があった、ハゲがモテる時
 代もあった。未来に向かって眠りましょう。人工冷凍保存は新技術。未来でア
 ナタはモテ男!」
  パソコン画面に『モニター募集 先着3名様』の文字。
  黄瀬、モニターに応募する。

○廃ビル・外観
  路地裏の光の当たらないビル。

○同・地下階段
  黄瀬、恐る恐る下を覗く。
  ネズミが逃げて行く。

○工藤新技術研究所・入り口
  木造のドア。『研究所』の立て札。
  黄瀬、ドアを開けて入る。

○同・中
  真っ暗な室内、カーテンが閉じている。
  黄瀬、恐る恐るカーテンを開ける。
  真ん中に実験台、周囲に動物の入った水槽が並ぶ。
  慌ただしく書類めくる工藤博士(62)とパソコンを高速で入力する涼川美
  玲(28)がいる。
工藤「何時になったら来るんだ。液の濃度が薄まるぞ」
美玲「先生、濃度は基準を超えていますので問題ないかと思います」
工藤「電圧は問題ないか。低くなると一瞬の凍結にヒビが入ってしまうからな」
黄瀬「あのー」
  黄瀬を見る工藤、無言で近づく。
工藤「君が寺園くんだね。待っていたよ。さぁ、早く始めよう」
黄瀬「いや、僕は黄瀬です」
工藤「黄瀬?誰だね?」
美玲「寺園さんは一人目のモニターですよ。黄瀬さんは二人目のモニターです」
工藤「何?君が黄瀬くんか。待っていたよ。さぁ、早く始めよう」
黄瀬「ちょっと待ってください。話を聞きに来ただけなんで」
工藤「なんだ、やらないのか。ならば帰ってもらってかまわん。美玲くん次は誰
 だい」
黄瀬「いや、その説明を聞いてから……」
美玲「先生、説明しないと犯罪になりますよ」
工藤「犯罪?それは大問題だ。説明しよう。ネットに書いてある通りだ。それを
 読んでくれ。ネットというのは、とても便利だ」
  黄瀬、美玲に見惚れる。

○ファミレス・中
  スマホに『人工冷凍保存』のページ。
  黄瀬と山本が対座する。
山本「本当にやるの?」
黄瀬「未来に行ってくる」
山本「親は了解した?」
黄瀬「言ってない。保護者のサインは要らないし」
山本「一人で決めていい問題じゃないと思う。もっと相談して」
黄瀬「あのさ、モテる時代が来るって言ったのは誰?素直に応援してくれていい
 じゃん」
山本「やりたいなら止めないけどさ、親は心配するだろ」
黄瀬「僕は親が嫌いないんだ。こんな顔に産んだ訳だし。キセハルトなんて名付
 けてさ、名前負けさせたんだ」
山本「……勝手にしろ。一人になりたいなら未来でもどこでも行けよ」
  と、出て行く。
  コーヒーを飲む黄瀬、むせる。
黄瀬「男は度胸だ」

○札北大学・講義室
  一人座る黄瀬、入ってくる山本を見る。
  山本、黄瀬を気にせずに他のグループに入って行く。
  黄瀬、窓の外を見る。

○繁華街・交差点
  赤信号。
  信号待ちしている黄瀬。
  男友達と盛り上がる山本が来る。
  黄瀬、イヤホンをして下を向く。

○札北大学・テニスコート
  男女で仲良く話す山本、通り過ぎる黄瀬を見る。

○同・廊下
  黄瀬と山本、無言ですれ違う。

○黄瀬家・中(夜)
  部屋を掃除する黄瀬、ベッドの下から写真を見つける。
  中学時代の黄瀬と山本の写真。
  黄瀬、ベッドの下に戻す。

○居酒屋・テーブル席(夜)
  四人席で盛り上がる山本たち。
  スマホを気にする山本、話に集中できていない。

○空(夜〜朝)
  夜が開けて、朝日が出る。

○黄瀬家・中
  玄関に立つ黄瀬、頭を下げる。
黄瀬「ありがとうございました」

○繁華街・道路(朝)
  ゴミ袋に群がるカラス。
  その横を黄瀬が通り過ぎる。

○廃ビル・地下階段(朝)
  立ち止まる黄瀬。
  山本、壁に寄りかかって寝ている。
  黄瀬、山本を軽く蹴る。
黄瀬「そんな所で寝てたら風邪ひくよ」
山本「(目を覚ます)」
黄瀬「邪魔なんだけど。通れない」
山本「んだよ。第一声から嫌味な事言いやがって。普通、おはよう。だろ」
黄瀬「(鼻で笑う)何?真似?」
山本「お見送りしてくれる友達は大切に扱え」
黄瀬「別に龍二と離れたい訳じゃない。でも可能性を信じてみたい。見た目を気
 にしなくていい世界で……そしたら変われる気がする」
山本「そんな事を言うからモテないんじゃないの?でも、待ってるよ。俺も冷凍
 保存するかもだけど」
黄瀬「……ありがと」
山本「おう。じゃあな」

○工藤新技術研究所・中(朝)
  パジャマ姿の工藤が出迎える。
工藤「今日という日が楽しみで、一睡もできなかったよ」
黄瀬「……」
工藤「もう準備はできている。服を脱ぎなさい。服は凍結の阻害になるからな」
  × × ×
工藤「作業台の水槽に入ってくれ。まだ冷たくない溶液だ。栄養がたっぷり含ま
 れてるぞ。化粧水にしたいくらいの代物だ」
  キーボードで設定する工藤、随所で頭を掻いている。
  裸の黄瀬、水槽に入る。
  モニターに水槽のデータが算出される。
工藤「顔まで浸かるんだ。でなければ初期冷凍に顔だけ耐えられない可能性があ
 る」
  潜る黄瀬。
  モニターに『OK』の文字。
  工藤、赤いボタンのリモコンを持つ。
工藤「準備オッケーだ。扉を閉めよう」
  水槽の扉が自動で閉まる。
  黄瀬、水の中で目を閉じる。
  キーボードのつまみが回される。
工藤「解凍技術が生まれる頃に会おう。まぁ私は死んでると思うがね。今のは笑
 う所だ」

○廃ビル・地下階段(朝)
  山本、階段を降りて行く。

○工藤新技術研究所・中(朝)
  工藤、赤いボタンを押す。
  水槽の中が冷気に包まれる。
  入ってくる山本。
  モニターを見つめる工藤、山本に気づく。
工藤「誰だい。三人目のモニターかな?」
山本「いえ、彼の友達です」
工藤「友情は素晴らしい。時に科学を覆すエ
ネルギーを生む。三人目にならないか?」
  美玲が奥から出てくる。
美玲「先生、冷気用の出力装置が三人は耐えられませんよ」
工藤「そうだった、そうだった」
山本「俺は、こいつが目覚める日を待ちます」
  × × ×
  目を瞑った黄瀬、ゆっくりと目を覚ます。
  水槽の扉が開き、冷気が漏れる。
  黄瀬の視線、研究所の天井が見える。
黄瀬「(心の声)解凍技術ができるまでの長い年月が昨日の事だった。とか言う
 のか。龍二が大人か……居なくなってたりはしないと思うけど……」
  工藤と美玲が覗き込む。
工藤「失敗だ。失敗だ。やはり冷却装置の出力が足りなかったか」
美玲「ですね。改善が必要です」
  起き上がる黄瀬、工藤と美玲を見る。
工藤「あまり動かない方がいい」
美玲「(うなずく)」
黄瀬「痛い痛い痛い痛い!」
  黄瀬の股間だけが凍っている。
黄瀬「痛い!」
工藤「君の股間だけは凍結に成功したようだ」
黄瀬「なんで、ピンポイントに成功してるんだよ!」
工藤「とりあえず、これを飲みなさい。痛み止めだ」
  と、錠剤を渡す。
黄瀬「(薬を飲む)これは大丈夫なんですよね?」
美玲「はい。私が作りましたので」
工藤「美玲くん。あれを持ってきてくれ」
美玲、机の上のパンツ型の袋を持ってくる。
黄瀬「どうしてくれるんですか!」
工藤「これは非常事態だ。しかしチャンスと捉える。それが科学者というもの
 だ」
黄瀬「圧倒的にピンチですよ。何のチャンスでもない」
  美玲、パンツ型の袋を黄瀬に渡す。
黄瀬「(受け取り)なんですか?」
工藤「それは温度調整を自動で保つことのできる発明品だ。通称、玉袋。優れも
 のだ」
黄瀬「しょうもな!」
美玲「その玉袋を装着しないと、溶けてなくなりますよ」
黄瀬「……」

○繁華街・道路
  壁の方を向いて歩く黄瀬、股間が大きくなっている。

○黄瀬家・中
  入ってくる黄瀬、ベッドに腰掛ける。
  装置で大きくなった股間。
  チャイムが鳴る。
  黄瀬、ドアを見る。
宅配「お荷物でーす!」
黄瀬「はーい、今行きます」
  と、ドアを開ける。
  腰を引いた黄瀬、苦笑い。
  机の上に段ボール。
  段ボールを開ける黄瀬、中に大量の薬。
  薬の中にレコーダーが混ざっている。
  黄瀬、レコーダーを再生。
工藤の声「(咳払いが続く)見たら分かると思うが、これは薬だ。必ず三十六時
 間以内に一錠は飲む事を忘れるな。ちなみに薬の名前はモンゼ2だ」
  黄瀬、レコーダーを二つに割る。

○札北大学・中庭
  舞い落ちる木の葉。
  ベンチに座る山本、空を見上げる。

○同・講義室
  授業を聞く山本、上の空。

○同・テニスコート
  テニスウェアの山本、中に入らずに通り過ぎる。

○工藤新技術研究所・入り口
  山本、ドアの前に立っている。
山本「(心の声)俺は、お前が凍っていく様を直視する事ができず、逃げ出し
 た。決意は変わらないお前の背中を押したい。でも、やっぱ何か足りない。も
 う一度お前に会いたいんだ」
  と、中に入る。

○同・中
  カーテンの前に立つ山本、入るか迷う。
工藤の声「変わらずだ。問題はない。玉袋は素晴らしい賜物だ」
美玲の声「まさに珠玉ですね」
  黄瀬、全裸で立っている。
  工藤と美玲、玉袋の点検をしている。
黄瀬「たまたまたまたま、うるさいよ。珠玉でもなんでもないから。蒸れて痒い
 んだよ」
工藤「むれる?そんなはずはない、何故なら君は友達がいない。独りだ」
黄瀬「字が違う!独りを変えたくて冷凍保存をしたんだ。よりによって何で股間
 が凍るんだ……」
工藤「長持ちするぞ」
黄瀬「したところで意味ない。今、使いたかったんだ」
工藤「……では、美玲くん。解凍された際は、相手をしてあげなさい」
黄瀬「本当?」
美玲「それは無理です。その頃には閉経していますので」
工藤「だそうだ」
黄瀬「そんな生々しい事聞いてないよー」
  カーテンが開き、山本が現れる。
  黄瀬、山本を見る。
  × × ×
  大爆笑する山本、笑い転げる。
  黄瀬、不貞腐れている。
山本「お前、最高だよ。生まれて一番笑った」
黄瀬「笑うな。こっちは大変なんだ」
山本「これで童貞卒業もお預けだな。でもあれじゃん、言い訳にできるからいい
 な」
黄瀬「チンコ凍ってます。が言い訳になると思う?」
山本「こうなった以上はプラスに考えるしかないだろ。元気出せよ。それに女は
 太くて硬いのが好きなんだぜ」
玉袋を装着した黄瀬の股間。

○黄瀬家・外観(夜)
  二階建てのアパート。

○同・中(夜)
  山本、ベッドに寝転がる。
  薬を飲む黄瀬、椅子に座る。
山本「色々と散々だったな」
黄瀬「人体改造された方が良かったよ」
山本「これからどうする?大学とか」
黄瀬「単位的には問題ないよ。色々生活して気づいたのは食料問題があってさ」
山本「あー、外出れないもんな。出前じゃ金かかるし」
黄瀬「誤魔化すために、サルエルパンツを注文してみた。あとスカートも」
山本「ダメだ!サルエルパンツと男のスカートは時代遅れすぎる」
黄瀬「急に何だよ」
山本「モテたい。という気持ちは忘れない方がいい。でないとお前、死んじまう
 だろ」
黄瀬「死なねぇよ。チンコ凍ったまま死ねるか!」
山本「あ、そう。なら安心した。じゃあ、その辺はゆっくり考えようぜ」

○繁華街・道路(夜)
  信号が点滅して赤になる。
  信号待ちする山本の前をウサギの着ぐるみが通り過ぎる。
  山本、ウサギの着ぐるみを目で追う。

○黄瀬家・中(夜)
  窓が開く。
  窓から顔を出す黄瀬、下の道路を眺める。
  ド派手なEDM音と共に、広告用トラックが通り抜ける。
  黄瀬、トラックを目で追う。

○道路
  ウサギの着ぐるみが歩いている。

○黄瀬家・外観
  ウサギの着ぐるみが階段を上っている。

○同・中
  チャイムの音。
  パソコンをいじる黄瀬、立ち上がり、ドアの覗き穴を見る。
  目の前にウサギの着ぐるみが立っている。
  黄瀬、ドアを開ける。
  ウサギの着ぐるみ、顔を外すと山本が出てくる。
山本「これなら外出れるぞ。薄汚れてるけど、気にすんな」
  黄瀬、ベッドの上を指差す。
  部屋の真ん中にロボットが立っている。
山本「お前も思いついてたか」
黄瀬「股下が入らなかったけどね」
山本「やっぱ玉袋問題か。たぬきの着ぐるみとかあれば合いそうだけど」
黄瀬「調べたけど無かったよ。狐はあるけど」
山本「どうしたもんかね」
  ロボットの目が光る。
工藤の声「話は聞かせてもらったよ。お困りのようだね。どうしたんだ?」
黄瀬「(呟く)聞いてたんだろ」
山本「どこからだ?」
工藤の声「君たちの言動、行動は玉袋を通じて、こちらに送られる。夜に出会い
 系サイトを見ている事も把握済みだ」
黄瀬「ロボットの関係ないんかい!」

○工藤新技術研究所・中
黄瀬の声「勝手に把握するな!」
山本の声「お前の玉袋スゲェ」
  モニターに黄瀬の部屋の様子が映る。
  工藤、コーヒーを飲みながらモニターを見ている。
工藤「問題を解決しよう。早速、着ぐるみとロボット持ってきなさい。待ってる
 ぞ」

○黄瀬家・中
  ロボットの目が暗くなる。
山本「お前、出会い系やめるって言ってなかった?」
黄瀬「それは……あれだよ、協力者。協力してくれる人探してたんだ。龍二も毎
 日だと負担になるし」
山本「……それはいい考えだ!」
黄瀬「えっ?」
山本「さすがに俺一人じゃキツいって思ってたところだし。あわよくば彼女でき
 るかも」
黄瀬「そうだよね。そうだよ。負担は良くないし。彼女もできる」
工藤の声「さっさと持ってこい!」
山本「切れてなかった」

○繁華街・交差点
  ウサギの着ぐるみがロボットを背負って、走り抜ける。

○出会い系サイト画面
  黄瀬のプロフィール。
  『協力しあえる方』と入力される。

○黄瀬家・中
  パソコンをいじる黄瀬、頬杖をついてる。
黄瀬「性格か……クール……だよな、色々と」
  パソコン画面の出会い系からメッセージが届く。
  驚く黄瀬、後ろに倒れる。
  パソコンのメッセージが自動で開かれる。
  黄瀬、パソコンを見る。
  パソコン画面に寺園心愛(20)の顔写真。
黄瀬「うわぁぁぁぁぁ」

○工藤新技術研究所・中
  美玲、着ぐるみとロボットを台車で運ぶ。
  凍結用の水槽を整備する工藤。作業を見る山本。
山本「何で、凍結保存をしようと思ったんですか?」
工藤「何で?そんな理由はない。作りたいと思った、ただそれだけだ」
山本「意外と大雑把ですね」
工藤「行動に理由なんてあってたまるか。気づいたら動いてた。それこそ本当の
 理由だ」
山本「カッコいい」
  山本のスマホに黄瀬から電話。
山本「(電話に出て)どうした?」
黄瀬「(電話越し)きょきょきょきょ協力者が見つかったんだ」
山本「マジか。どんな人?」
黄瀬「(電話越し)画像は可愛い」
山本「おい、すぐ送ってくれよ」
黄瀬「(電話越し)うん、すぐ送る。とりあえず報告」
山本「はいよー」
  と、電話を切る。
工藤「女ができたんだな。私には分かる」
山本「だそうですよ」
  スマホを見る山本、工藤にスマホを見せる。
工藤「(スマホを見て)これは良い」
山本「いや、お世辞にもって顔でしょ」

○黄瀬家・中(夜)
  暗い部屋、ベッドにスマホの明かり。
  黄瀬、ベッドでスマホを握りしめる。
心愛メッセージ「もう寝ました?」
黄瀬メッセージ「起きてます」
心愛メッセージ「私、コスプレ好きなんです。黄瀬さんは好きですか?」
黄瀬メッセージ「好きですよ」
心愛メッセージ「コスプレデートしませんか?」
黄瀬メッセージ「コスプレデート?」
心愛メッセージ「好きなコスプレして、デートするんです」
  黄瀬のメッセージを打つ手が止まる。

○廃ビル・外観
  窓に朝日が差し込んでいる。

○工藤新技術研究所・中
  黄瀬が勢いよく入ってくる。
  誰もいない研究所。
黄瀬「あのー!」
  工藤、奥の部屋から手招く。

○同・地下部屋
  黄瀬、見上げる。
  満足げな工藤。
  工藤のロゴが入った鋼鉄のボディ。
  鉛でできた手と足。
  ライトアップされたウサギの顔の面。
  三十メートルほどのウサギロボット。
  黄瀬、口をあんぐりさせている。
工藤「カッコよさを重視し、機動性に加え、オート戦闘モードを搭載。さらに」
黄瀬「こんなデカブツを誰が頼んだ!」
工藤「はて。玉袋が目立たないよう、全身をシンクロさせる仕様だ」
黄瀬「もっと普通の着ぐるみ!下半身を布でオ隠してバケみたいにしてもらう予
 定だったのに」
工藤「それならできてある」
  ウサギロボットの拳が黄瀬に向かって飛んでくる。
  部屋の片隅にタヌキの着ぐるみ。

○動物園・入り口
  タヌキの着ぐるみを着た黄瀬、黄色い風船を持っている。
  タヌキの口の覗き穴から、ウサギの着ぐるみが見える。
  ウサギの着ぐるみ、ちょこんとうなずく。
心愛「心愛です。黄瀬さんですか?」
黄瀬「はい」
心愛「早速、入りましょうか」

○同・鳥エリア
  野鳥が自由に飛んでいる。
  ウサギとタヌキの着ぐるみが歩いている。
心愛「黄瀬さんは、なぜタヌキに?」
黄瀬「色々と試行錯誤の結果ですかね」
心愛「奇遇ですね。私もウサギの理由が結果的に、なんですよ」
黄瀬「コスプレって言ってたから本格的なやつだと思いました」
心愛「カッコつけたくて、着ぐるみって言うとダサい気が」
黄瀬「ダサくないですよ。可愛い印象です」
心愛「(クスッと笑う)黄瀬さんは、なぜ着ぐるみなのか聞かないんですね」
黄瀬「聞いていいの?」
心愛「ダメです」
黄瀬「なら言わないでよ」

○同・屋外の売店
  ウサギとタヌキの着ぐるみが並んでいる。
黄瀬「食べる時に顔見れますね」
心愛「ちょっと恥ずかしいです」
黄瀬「プロフィールで見せてるじゃないですか。まさか、別人!?」
心愛「本人ですよー」
黄瀬「良かった。すごい好みだったんで、嬉しかったんです」
心愛「……いきなり、口説いてます?」
黄瀬「(焦って)そんな事ないですよ」
  男の子が駆け寄ってくる。
男の子「タヌキとウサギ、写真撮ろー!」
心愛「まだ夢は壊さないようにしましょうか」

○工藤新技術研究所・中
  工藤、玉袋を整備している。
  書類を物色する山本、適当に目を通す。
山本「あいつ最近、生き生きしてますよ。今日は山でピクニックだとか」
工藤「それは良い事だ。しかし、クリエイティブの世界では別だがね」
山本「連日の着ぐるみデートだけが良い事ですか?」
工藤「良いに決まっている。本人が良いとすれば。それが一番良い」
山本「そうですけど……美玲さんどこ行ったんですか?最近見ないですけど」
工藤「海外に飛んでもらってる。完成じゃ」
  玉袋が小型化されている。

○海外・道
  アタッシュケースを持つ美玲、サングラスを外す。

○黄瀬家・中(夜)
  タヌキの着ぐるみの顔がベッドに置かれる。
  ニヤつく黄瀬、踊り出す。
  チャイムが鳴る
  黄瀬、ドアを見る。
宅配「お荷物でーす!」
黄瀬「はーい、今行きます」
  ドアを開ける黄瀬、満面の笑み。
  机の上に段ボール。
  段ボールを開ける黄瀬、中に小型化された玉袋。
  段ボールの中にレコーダーがある。
  黄瀬、レコーダーを再生する。
工藤の声「(咳払いが続く)新作だ。小型化した玉袋は最高だ」
  黄瀬、ベッドの上で飛び跳ねる。

○心愛家・中(夜)
  鏡を眺める心愛、化粧道具を並べている。
心愛「もっと可愛かったら良かったのに」
黄瀬メッセージ「今日もありがとうございました。また遊びに行きましょう」
心愛「こんな私でも良いのかな」

○黄瀬家・中(夜)
  黄瀬の股間、玉袋が目立たない。
黄瀬「最高じゃん。あの博士もやるもんだ」
心愛メッセージ「次の土曜日、繁華街で会いましょう。着ぐるみなしで」
黄瀬メッセージ「もちろんです!」

○繁華街・駅・前
  大きい心愛の胸。
  ワンピースを着た心愛、胸が目立つ。
  黄瀬、心愛の胸をチラ見する。
心愛「黄瀬さんは、写真通りですね」
黄瀬「う、うん。心愛さんは予想以上です」
心愛「それは良い意味?」
黄瀬「良い意味に決まってるじゃないですか」
心愛、髪を耳にかける。

○ゲームセンター・中
  黄瀬、必死にワニをハンマーで叩く。
  心愛、出てくるワニを指差す。

○カフェ・テラス席
  パンケーキを食べる黄瀬と心愛。

○映画館・中
  スクリーンに恋愛映画。
  映画を見る黄瀬と心愛。

○繁華街・交差点
  談笑しながら渡る黄瀬と心愛、男性とすれ違う。
男性A「今の見た?デカくね」
男性B「でも顔が」
  男性の会話で下を向く心愛。
黄瀬「僕は好きです」
心愛「大丈夫です。顔の事は慣れてますから」
黄瀬「本気……だから。顔なんか関係なく、一緒に居たいと思える人です」
心愛「でも……」
黄瀬「来て」
黄瀬、心愛の手を引っ張る。

○ラブホテル・前
  入り口の前に立つ黄瀬と心愛。
心愛「どうしたんですか」
黄瀬「正直に言います。僕は今まで、付き合った事とか、エッチしたとかないで
 す」
心愛「……急に」
黄瀬「本気で、そういう事したいと思いました。だから来ました」
心愛「……私もありません。なので、すごく恥ずかしいです」
  黄瀬の頬が赤くなる。
  心愛、黄瀬の手を取り、入って行く。
心愛「……私を知ってください」

○同・302号室
  ベッドに腰掛ける黄瀬と心愛。
  黄瀬、心愛の胸をチラチラ見ている。
心愛「触りたいですか?」
黄瀬「え、あ、いや」
心愛「いいですよ。ここって、そういう場所じゃないですか」
黄瀬、生唾を飲む。
  黄瀬の手が心愛の胸に近づく。
  心愛、黄瀬の手を見る。
  黄瀬、心愛の胸を鷲掴みする。
黄瀬「……」
  黄瀬の手が何度も心愛の胸を掴む。
  変形しない心愛の胸。
  心愛、ワンピースのボタンを外す。
  心愛の胸に、玉袋と同じ素材のチューブトッブ。
黄瀬「……これって」
心愛「私の胸、凍ってるの。今は溶けないように、機械で何とかしてもらって
 て……いつか溶けたら触って欲しい」
黄瀬「……」
心愛「さすがに引いたよね」
  黄瀬、ズボンをおろす。
黄瀬「自分もです」
  心愛、松岡の股間の玉袋を見る。
心愛「黄瀬くんもなの?」
工藤の声「大事な三つの袋と言うが、堪忍袋、玉袋、乳袋。と変わる瞬間に立ち
 会えて嬉しいよ」
黄瀬「プライベートまで干渉するな!」
工藤の声「おっと、堪忍袋を忘れているな。しかし朗報もある。解凍装置の開発
 に着手する事が決まった。これは第一歩、第二歩」
黄瀬「……終わった?」
心愛「みたいです」
黄瀬「解凍装置だって」
心愛「はい」
黄瀬「やったー!」
  と、心愛を抱きしめる。
  心愛、目を丸くする。

○札北大学・中庭
  ベンチに座る黄瀬、木を見てニヤける。
  山本、黄瀬を軽蔑して見る。
山本「いや、ヤベェよ」
黄瀬「何がぁ」
山本「その顔は終わるぞ」
黄瀬「そう。終わるんだよ。この凍ったチンコとの生活も」
山本「あー、それでか。美玲さんの交渉が上手くいったとかで、だいぶ進むらし
 いよ」
黄瀬「元に戻れるっていいよね」
山本「そしたら、これまでの事も元に戻ったりしてな」
黄瀬「戻らんよ」

○工藤新技術研究所・中
  オレンジ色の水槽でできた解凍装置。
  解凍装置を製作する工藤、汗を拭う。
  モニターに計算式が映っている。
  美玲、キーボードを操作する。
工藤「これでどうだ。出力の精度は上がっただろ」
美玲「上がってます。パーツ強度の耐久値が負荷に耐えられません。分散させ
 て、緩和できないでしょうか」
工藤「やはり冷却部分の負荷は大きい。いや、逆にしてみよう」

○服屋・中
  心愛、ワンピースを見比べる。

○心愛家・中(夜)
  ワンピースがベッドに置かれている。
  鏡を見る心愛、胸に装置。
  心愛のスマホに通知。

○カフェ・テラス席
  食べ終わった二人分の食器。
  対座する心愛と黄瀬。
黄瀬「博士からの呼び出し……完成したのかな?」
心愛「だといいね」
黄瀬「変な失敗だけはして欲しくないよ」
心愛「あの博士ならありえる」
黄瀬「だよね。でも……戻れると思ったら、何故か信じちゃう」
心愛「私も」
  テーブルの心愛のスマホに通知。
  黄瀬、心愛のスマホが目に入る。
  出会い系サイトのアイコン。
  心愛、スマホの画面を消す。
黄瀬「まだ出会い系やってるの?」
心愛「ううん。消してないの。黄瀬くんは?」
黄瀬「消したー」
心愛「だよね」

○工藤新技術研究所・中
  パジャマ姿の工藤が出迎える。
工藤「今日という日が楽しみで、一睡もできなかったよ」
黄瀬「嫌な予感なんですけど」
工藤「それはあながち間違いではない。人間の第六感というのは信じるべきだ」
黄瀬「マジ?」
心愛「吉報ですよね?」
工藤「解凍装置は完成した。しかし、現状は一人しかできない」
黄瀬「……」
心愛「……一人ですか」
  美玲がバスローブを持ってくる。
美玲「現在の技術で解凍できるという事は、学界にも影響を与えるほどの事象な
 んです」
工藤「大事なのは学界ではない。どちらがやるかだ。どっちにする」
  黄瀬と心愛、顔を合わせる。

○廃ビル・前
  足早に来る山本、階段から上がってくる黄瀬と鉢合わせる。
山本「おお、早いな。終わったの?」
黄瀬「……」
山本「何だよ」
  と、黄瀬の股間を触る。
  黄瀬、無反応。
山本「何があった?」

○松岡家・中
  部屋の隅にタヌキの着ぐるみ。
  山本、ベッドで恋愛本を読む。
山本「男らしくなったと思えばいい。とはならないか」
黄瀬「(薬をいじる)」
山本「頑張ってたと思うよ。凍る前は変に卑屈で、暗かったけど。今は楽しそう
 じゃん。あの子が変えてくれたんだろ」
黄瀬「自分でもそう思う。ふと考えると、同じ境遇だったから仲良く慣れたと思
 うんだ」
山本「……」
黄瀬「彼女が普通に戻ったら、今の関係も元に戻る気がする」
山本「それは関係ないって、お前も」
黄瀬「だって、彼女は……彼女には普通で居て欲しい」

○繁華街・交差点
  人々が行き交う。

○札北大学・外観
  青空の下に校舎。

○同・講堂
  講義中。黄瀬、真剣に講義を受ける。

○同・食堂
  黄瀬、一人で定食を食べている。

○同・テニスコート
  ネット上にボールが飛び交う。
  ジャージを着た黄瀬、コートの隅で球拾いをしている。

○工藤新技術研究所・中
  手土産が渡される。
  手土産を見る工藤、中を開けて食べる。
  苦笑いの心愛。
工藤「美味い。糖分は最高の産物だ」
心愛「良かったです」
工藤「その後の容態は変わりないか?」
心愛「はい。元に戻りました。特に違和感もありません」
工藤「数値は完璧なものになった。これは前進と言える」
心愛「すぐに解凍はできませんか?」
工藤「無理だ。部品がない。凍結ならできるがね。しかし出力が弱い」
心愛「そうですか。黄瀬くんは何か言ってませんでした?」
工藤「知らないな。玉袋の監視も外されてしまった。薬を取りに来る時しか会わ
 ない」
心愛、作業する美玲を見る。
美玲「私も知りません。今まで通りに戻った。とだけ聞いています」
心愛「……」

○歩道(夕)
  山本が歩いている。

○黄瀬家・中(夕)
  黄瀬、パソコンで動画を見ている。
  パソコンに都市伝説の動画。

○都市伝説の動画
  男二人の動画。
男A「今日のテーマは心霊写真です!」
男B「うわー、ホラー回ですか」
男A「早速一枚見てもらいましょう。こちら」

○黄瀬家・中(夕)
  パソコンに顔を近づける黄瀬、チャイムが鳴って驚く。
  黄瀬のスマホ通知。
  スマホに『行くぞ』と山本からのメッセージ。

○繁華街・道路(夕)
  並んで歩く黄瀬と山本。
黄瀬「今日こそは連絡先を何とか」
山本「まず話しをするところからだぞ」
黄瀬「分かってる」

○居酒屋・大広間(夜)
  空になったジョッキ。
  座っている黄瀬、一人浮いている。
  集団の中にいる山本、黄瀬を呼び寄せる。

○同・前(夜)
  看板の電気が消える。
  黄瀬、山本を介抱して出てくる。

○住宅街・道(夜)
  黄瀬、山本を介抱して歩いている。
山本「(酔って)お前は結局ダメだなぁ」
黄瀬「やっぱり容姿のアドバンテージは大きいんだ。大学生は顔なんだよ」
山本「(酔って)顔じゃねぇよ。ボンクラ。一番大事なのはな、心だよ。分かる
 かぁ?」
黄瀬「酔いすぎ。明日、恥ずかしくなるよ」
山本「(酔って)お前の心が他の人に向いてないんだよ。仲良くなりたいとか思
 ってないだろ」
黄瀬「思ってるし」
山本「(酔って)嘘が下手だねぇ。うぃ」
  と、バランスを崩して電柱にぶつかる。
  呆れる黄瀬、黙って山本を見る。
山本「いってぇ」

○黄瀬家・中(夜)
  ベッドに倒れ込む黄瀬、スマホを見る。
  心愛からのメッセージが来ている。
  黄瀬、心愛のメッセージを消す。

○廃ビル・外観
  黄瀬、地下の階段に入って行く。

○工藤新技術研究所・中
  黄瀬がカーテンを開けて入ってくる。
  解凍装置を整備する工藤、黄瀬を見て奥に入って行く。
  黄瀬、モニターの前に立っている心愛に気づく。
心愛「……黄瀬くん」
黄瀬「(苦笑い)」
心愛「どうして連絡くれなかったの」
黄瀬「ちょっと忙しくてさ、いろいろあるし」
心愛「私が元に戻ったからでしょ」
黄瀬「……」
心愛「黄瀬くんはずっと変わらないのかと思ってたけど違うみたいね」
黄瀬「普通に戻ったんだし、僕みたいな人じゃなくて、普通の人がいいと思う。
 買い物行ったり、飲み会とか行ったりしてさ」
心愛「頷かないの分かるでしょ。見た目じゃなくて、中身を見てくれる。気を使
 ってくれてる。そんな黄瀬くんがいいの」
黄瀬「ごめん。僕が無理なんだ。自分が情けないんだよ。普通じゃない。それだ
 け、それだけで全て受け入れられなくなる」
心愛「カッコつけるな!顔もそんなカッコよくない。性格だけはカッコ悪くなら
 ないで」
  工藤と美玲、陰から覗いている。
黄瀬「ごめん」
心愛「もういい」
  と、出て行く。

○札北大学・入り口
  山本、電話に出る。
山本「もしもし、あ、はい。すぐ行きます」

○工藤新技術研究所・中
  山本が入ってくる。
  凍結装置をいじる工藤、トイレを指差す。

○同・トイレ
  個室からすすり泣く音が聞こえる。
  山本、ドアを叩く。
山本「出てこいよ。トイレ使えなく困ってるって。歳とるとトイレ近いって言う
 だろ」
黄瀬「……」
  頭を掻く山本、ドアを蹴り倒す。
  目を腫らした黄瀬が驚いている。
山本「迷惑かけるなっつうの。飲みに行くぞ」
黄瀬「お前が言うか」

○居酒屋・カウンター(夜)
  黄瀬と山本が並んで座る。
山本「不器用な男は嫌いじゃないが本当にそれでいいのか?」
黄瀬「今はいい。元に戻ったら、言うつもり」
山本「手遅れにならないといいけど」
黄瀬「信じるよ。もしダメでも彼女が決めた事なら、素直に受け入れる」
山本「俺も言っていいか?」
黄瀬「何?」
山本「カッコつけるな!」
黄瀬「最低」
山本「博士の口癖でさ。ちょっとトイレ行ってくるわ」
  と、トイレに行く。
  大広間から盛り上がる声。
  黄瀬、大広間の方を覗く。

○同・大広間(夜)
  下品に盛り上がる大学生たち。
  拍手や煽る声が大きくなる中で、イケてない男女が無理やりキスさせらそう
  になっている。

○同・カウンター(夜)
  呆れる黄瀬、女の方が心愛である事に気づく。

○同・大広間(夜)
  チャラ男、キスコールで盛り上がる。
  抵抗する心愛の力が抜ける。
  心愛が下を向く。

○同・カウンター(夜)
  戻って来る山本、黄瀬の姿はない。
  皿の割れる音が響く。

○同・大広間(夜)
  黄瀬、心愛を押さえてた男を蹴り飛ばす。
  周りが騒然とする。
  チャラ男、黄瀬を宥める。
チャラ男「おいおいおい。何?この子、酔ってるの?場所間違えてるよ」
  無視する黄瀬、心愛の手を引く。
  チャラ男、黄瀬の肩を掴む。
チャラ男「あのさ。勝手に入って来て、何してんの」
黄瀬「(チャラ男を押して、突き飛ばす)」
チャラ男「何すんだよ。君みたいな陰キャがでしゃばっていい場所じゃないよ」
  と、黄瀬に向かって殴りかかる。
  山本がやって来る。
  黄瀬とチャラ男が殴り合う。
黄瀬「人を見た目で判断するな!」
チャラ男「見たそのままを言っただけだよ」
黄瀬「何も見えてないくせに」
チャラ男「見えてるよ。周りもそう思ってる」
  チャラ男に馬乗りする黄瀬、周囲を見る。
  黄瀬、ズボンを下げ、凍った股間を見せる。
  周りが黄瀬を見て、悲鳴を上げる。
  心愛と山本、黄瀬を見守る。
黄瀬「こんな見た目なんだ。誰も分からなかっただろ」
チャラ男「気持ち悪る」
  と、黄瀬を蹴り倒す。
黄瀬「人の見た目に優劣はない。勝手に上に立つな」
チャラ男「ブサイク陰キャが粋がるな。ヒーロー気取りか」
黄瀬「ブスがイケメンに楯突いて何が悪い」
  鍋が掴まれる。
  鍋を持つチャラ男、股間に向かって鍋をかける。
チャラ男「凍ってるなら溶かしてやるよ。少しはマシになるかもな」
  鍋がかかって悶える黄瀬、悲痛の叫び。
  黄瀬に駆け寄る山本、上着をかける。
  黄瀬の体から湯気が上がってる。
山本「大丈夫か?」
  汗だくの黄瀬、チャラ男を睨む。
黄瀬「こんな自分が……今の自分が……一番カッコいいんだ」
チャラ男「さっさと出てけよ。下げやがって」
  チャラ男の足を掴む黄瀬、気を失う。

○繁華街・路地裏(夜)
  黄瀬をおんぶする山本と心愛が歩く。
山本「だいぶ熱い。大丈夫かな」
心愛「急ぎましょ」
山本「こんな奴だけど、今後ともよろしくね」
心愛「でも私は」
山本「あー、溶けたら告白するらしいよ」
心愛「本当!?」
山本「こいつには内緒な」
心愛「はい」

○工藤新技術研究所・中
  工藤、黄瀬の熱を測る。
工藤「これはまずいぞ。熱暴走を起こしている。冬眠状態が急に解除された事で
 体温のコントロールに障害が発生している」
山本「治るんですか?」
工藤「一度、全身を冷やし、リセット必要がある」
心愛「凍結保存の」
工藤「それなら整備が済んである。しかし、三人目のモニターの予約が入ってい
 るんだ」
山本「そこを何とか」
心愛「元はと言えば、博士の失敗のせいなんですよ!」
工藤「……彼を入れなさい」
  山本、凍結装置の中に黄瀬を入れる。
  キーボードのつまみを回す工藤、赤いボタンを押す。
  凍結装置の扉が閉まって行く。
  心愛、扉の隙間から黄瀬の顔を見つめる。
工藤「凍結開始だ」
  凍結装置の中が冷気で包まれる。
  × × ×
  凍結装置の扉が開き、冷気が漏れる。
  水溶液の中から黄瀬が浮かび上がる。
  目を覚ます黄瀬、ゆっくりと起き上がる。
  研究所内が荒廃している。
  開いた天井から桜が舞う。
  黄瀬、口をパクパクする。
黄瀬「あ、あ、あ……あー、あー。あー!あああああ!」
  終わり

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