バックレ ドラマ

「最後まで生き残る人間ってのは、最後まで逃げ切った人間だ」 そんな父親の言葉を胸に、今日も呉田驀進(20)は逃げて逃げて逃げまくる。
マヤマ 山本 25 2 0 06/02
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第一稿

<登場人物>
呉田 驀進(8)(20)大学生
鵜飼 日奈(20)呉田の幼馴染

半崎   (21)呉田らの先輩、半グレ
呉田 莫大(30)呉田の父、回想シーンのみ
強盗 ...続きを読む
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<登場人物>
呉田 驀進(8)(20)大学生
鵜飼 日奈(20)呉田の幼馴染

半崎   (21)呉田らの先輩、半グレ
呉田 莫大(30)呉田の父、回想シーンのみ
強盗A、B
店長



<本編>
○居酒屋・外観
呉田の声「シフトは、ガンガン入ります」

○同・事務所
   店長と面接をする呉田驀進(20)。店長の手には呉田の履歴書。
呉田「経験はないですけど、やる気だけはあるんで、よろしくお願いします!」
店長「うん、いい笑顔だね。気に入った。採用」
呉田「ありがとうございます!」
店長「じゃあ、早速だけど来週の月曜日からお願いできる?」
呉田「もちろんです。一生懸命頑張ります!」

○大学・ラウンジ
   向かい合って座る呉田と鵜飼日奈(20)。
日奈「……で、バックレたんだ」
呉田「何か面倒くさくなっちゃってさ」
日奈「まったく、やっと面接まで行ったと思ったのに……」
呉田「へへへ」

○メインタイトル『バックレ』

○(回想)呉田の生家・外観
   一軒家。
莫大の声「いいか、驀進」

○(回想)同・リビング
   呉田(8)の頭を撫で、出ていく呉田莫大(30)。
莫大の声「最後まで生き残る人間ってのは、最後まで逃げ切った人間だ」
   莫大の姿を笑顔で見送る呉田。テーブルの上には借金の督促状。
莫大の声「たとえ何と言われても、逃げる事を恐れるな。いいな?」
幼い呉田の声「うん!」

○コンビニ・店内
   商品を選ぶ呉田と日奈。店内には他にも数名の客が居る。
日奈「……というのが親父さんの遺言だとしてもさ」
呉田「まだ遺言とは決まってないよ。親父の事だ、どっかでしぶとく生き延びてんだろうよ」
日奈「まぁ、仮にそうだとして。たまには逃げずに立ち向かいなさいよ。何もできなくなるよ?」
呉田「じゃあ、日奈は俺が、戦って死んでもいいっていうのか? 死んだら、それこそ何もできなくなっちゃうのによ」
日奈「ああ言えばこう言う……」
   店内に入ってくる二人の強盗。店員に刃物を突き付ける。
強盗A「動くな。金を出せ!」
   怯む店員。
日奈「え、強盗!?」
強盗B「(客達に)お前らも、下手に騒ぐんじゃねぇぞ!」
強盗A「おら、早く金出せ!」
日奈「これ、どうすれば……」
呉田「(小声で)おい、日奈」
   振り返る日奈。いつの間にか棚の影(強盗達から死角になる位置)に隠れている呉田。日奈を手招きしている。もう片方の手には商品が握られている。強盗に見つからないように呉田の元に来る日奈。
呉田「(小声で後方を指し)そこから裏口に抜けられっから」
日奈「(小声で)何で知ってんの?」
呉田「(小声で)常に逃げ道は頭に入ってんだよ」
日奈「(小声で)でも、どうやって? バレたら……」
呉田「(小声で)俺の事、信じられないか?」
日奈「(小声で)逃げる事に関して言えば、誰よりも信じてる」
呉田「(小声で)それでいい。ついて来いよ」
   持っていた商品を、裏口に続く扉と反対方向の壁に向けて投げる呉田。
強盗B「(物音に気付き)何だ!?」
   物音のした方に強盗達が気を取られる。
呉田「(小声で)今だ」
   日奈を連れ、裏口に続く扉をくぐる呉田。

○同・外
   裏口から逃げてくる呉田と日奈。呉田は顔を隠しながら走っている。
日奈「危なかった……さすが、驀進」
呉田「バカ野郎、まだ顔上げんのは早いって」
日奈「あ、ごめん……」
   その時、駐車場に停められた一台の車に乗った半崎(21)と目が合う日奈。
日奈「?」
   そのまま逃げ去る呉田と日奈。

○大学・外観

○同・ラウンジ
   向かい合って座る呉田と日奈。日奈の持つスマホには「コンビニ強盗、逮捕」のニュース記事。
日奈「良かった、逮捕されたんだね」
呉田「まぁ、どうでもいいけど」
日奈「でも逮捕された二人はまだ未成年なんだって。恐いわ~」
呉田「? 逮捕されたの、二人だけ?」
日奈「そうでしょ。っていうか、実際二人しかいなかったじゃん」
呉田「いや、ほら、見張り役とか」
日奈「あ~、そういえば……」

○(フラッシュ)コンビニ・外
   車に乗った半崎と目が合う日奈。
日奈の声「あの時……」

○大学・ラウンジ
   向かい合って座る呉田と日奈。
日奈「あの人、何か見覚えがあるような、無いような……。驀進、わかる?」
呉田「知る訳ないだろ? 俺、顔見られないように走ってたんだから」
日奈「そっか」

○鵜飼家・外観(夜)
   一人で歩く日奈。
日奈「あ~、疲れた。今すぐ寝たい。でもレポートやんなきゃ……」
   背後から日奈に襲い掛かる半崎。
日奈「!?」

○アパート・外観(夜)
   スマホの着信音。

○同・居間(夜)
   スマホを手に取る呉田。日奈からの着信を示す画面。
呉田「(電話に出て)はいはい?」
半崎の声「呉田驀進、だな?」
呉田「!?」

○倉庫(夜)
   口元、手足を縛られている日奈を見ながら日奈のスマホで通話をする半崎。その周囲には一〇代の半グレの男達が多数。
半崎「女を返して欲しけりゃ、言う通りにしろ」

○アパート・居間(夜)
   スマホで通話中の呉田。
呉田「……わかった。明日の一〇時だな」
   通話を切る呉田。神妙な面持ち。

○倉庫(夜)
   口元だけ自由になった日奈を見下ろす半崎ら半グレの男達。
日奈「思い出した。中学の時の一個上だった、半崎先輩」
半崎「いっそ、思い出さなかった方が良かったかもしれねぇけどな」
日奈「驀進を呼び出して、何する気?」
半崎「決まってんだろ? 俺を目撃したかもしれねぇ奴の口を永久に塞ぐんだよ。この場所で、(他の半グレを指し)こいつらがな」
   ニヤニヤ笑う半グレの男達。
半崎「まぁ、安心しな。俺達は安全だ」

○アパート・外
   覚悟を決めた顔で出てくる呉田。
半崎の声「万が一にも巻き込まれねぇよう……」

○車内
   停められた車に座る日奈と半崎。日奈は口元、手足を縛られた状態。
半崎「俺達は別の場所で高みの見物だ」
日奈「(卑怯者!)」
半崎「さて、そろそろだ。向こうは始まったか?」
   車を降り、スマホで通話を始める半崎。
   その隙に日奈側のドアが開き、呉田が日奈を縛るロープをナイフで切っていく。
日奈「!?」

○駐車場
   人通りの少ない場所。スマホで通話する半崎に気付かれぬよう、日奈を下ろす呉田。
日奈「(小声で)驀進、どうしてここが?」
呉田「(小声で)静かに。話は後」
日奈「(小声で)でも驀進は倉庫に呼ばれて……あ、まさかバックレようとしたんじゃ」
呉田「……」
日奈「(小声で)最っ低」
呉田「(小声で)いいだろ、結果オーライ」
   半崎が通話を終え戻ってくる。
呉田「(小声で)まずは逃げんぞ。説教は生き延びた後だ」
   日奈の手を引き、駆け出す呉田。
                   (完)

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