人 物
筒井笑(21)大学3年生
矢田柊斗(21)大学3年生
蒼井陽向(21)大学3年生
電堂社員
博通面接官
○電堂・外観
○電堂・面接控室
スーツ姿の学生たちが大勢座っている。
余裕の表情で足首を回している矢田柊斗(21)その後ろには、背筋を伸ばして座るできる女風の筒井笑(21)
電堂の社員が出てくる。
社員「じゃあ次、金井寛太さん、高倉諒さん、大池真美さん、矢田柊斗さん…」
矢田、振り返って笑にキメ顔を見せる。
笑、真面目な表情を崩さず頷く。
矢田、立ちあがり、局員と4人の就活生に続いて面接が行われているブースに入って行く。一度立ち止まり、ハートの尻文字をかく。
笑、小さく吹き出し、慌てて口を押さえる。
○電堂・玄関外
矢田、蒼井陽向(21)と談笑している。
笑が出てきて、矢田に駆け寄る。
笑「待っててくれたの?」
矢田「おう。どうだった?」
笑「まずまず。(蒼井を見ながら)えっと」
矢田「あ、蒼井。これ系の面接でよく会うん
だよ」
笑「筒井笑です。私も広告志望」
蒼井「蒼井陽向」
蒼井、何か聞きたそうに両手で矢田と笑を交互にさす。
矢田、笑の肩に腕を回す。
蒼井、わかったように頷く。
○居酒屋・店内(夜)
矢田、蒼井の手にはビール。
笑の手にはウーロン茶。
笑・矢田・蒼井「かんぱーい!」
蒼井「飲めないの?」
笑「あんまり」
矢田「このギャップがいいんだよ」
蒼井「でもこの業界でやっていくなら酒弱い
のは辛いんじゃ」
テーブルに伏せて置いてあった矢田のスマホが鳴りだす。
矢田、画面を確認して、席を立つ。
矢田「悪い」
姿勢を正したまま頷く笑。
BGMでかかるUSAに合わせて小躍りしながら出て行く矢田。
蒼井、矢田の背中を見送りながら
蒼井「陽気だねー」
蒼井が視線を戻すと、そこにはテーブルについた片手に顎をのせ、背中を丸めた笑。
蒼井、思わず二度見する。
蒼井「え?」
笑、そのままの姿勢で、矢田のビールを飲みながら
笑「なに」
蒼井「え、飲めるの?」
笑、何も答えず、ビールを飲み干す。
蒼井「っと…どっちが本当?」
笑「自己分析とかもう疲れたから。飲んでる時くらいそういうの離れたいの」
蒼井、矢田が出て行った先を見る。
笑「戻ってこないよ」
蒼井「なんで?」
笑「彼女のとこ行ったんでしょ」
蒼井「え、だって彼女って」
笑「こっちは日陰」
蒼井、理解したように頷く。
笑「だから、この後いけるとか思わないでよ」
蒼井「いやいや俺にも選ぶ権利あるし」
笑「別に選ばれるとは思ってないし。男にと
ってそれって疲れてる時に飲む酒の軽いつまみみたいなもんなんでしょ」
蒼井「一緒にしないでくれる?」
笑「柊斗をディスらないでくれる?だいたい私は一度きりのつまみじゃありません」
笑、枝豆の豆を小皿に出している。
蒼井「てかこれ、いいの俺に見せて?」
笑「どういう意味?」
蒼井「俺が矢田に筒井さんのこういうのチクったらどうすんの?」
笑「2人ただの就活仲間でしょ?大体誰が私のこと何か言ったとしても柊斗は別に気にも留めないと思うしね」
蒼井「日陰は気に留めるにも値しないか」
笑、無視して、店員に向かって
笑「あ、お姉さん。生もう1つ」
笑、テーブルに置いてあるマッチ箱を手に取り
笑「人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのはばかばかしい。しかし重大に扱わなければ危険である」
蒼井「誰の言葉?」
笑「筒井笑」
蒼井「本当は?」
笑「芥川龍之介」
笑「偉人は偉人。私なんて所詮『重大に扱うのはばかばかしい』止まり」
蒼井「それって矢田視点?自分視点?」
笑「さっきからなんか失礼。自分視点です」
蒼井「そんな風に割り切れてる感じじゃないけど。でもある意味ではその言葉、筒井さんが必要としてるから寄ってきてるのか」
笑「お。深いね!…って全然言ってる意味わかんないんだけど」
蒼井「もう21でしょ」
笑「私はそれをまだ、と捉えているけど」
蒼井「ばかばかしいって考えるの放棄した結果が日陰でしょ。もしそこに火のついたマッチが一本でもあったら、残るのは灰だよ」
笑「初対面でお説教くらうとは思わなかった」
蒼井「そこは、心配してくれてありがとう、でしょう」
笑「…私のこと狙ってる?」
蒼井「だから、俺にも選ぶ権利あるから。筒井さんと俺は今日たまたま共通の友達がいたことで、たまたま同じ席で飲むことになっただけの関係」
笑「ふーん、優しいんだね」
蒼井ふっと笑う。
笑「なんで広告?その優しい心削ぎ取られる
よ」
蒼井「別に自分のことを優しいって言ってるわけじゃないけど、でも温度がある言葉じゃないと人の心に響いていかないでしょ」
笑「あ、クリエイティブ志望?」
蒼井、頷く。
笑、ほーと頷く。
笑のスマホのアラームがなる。
時刻は20:00
笑「きた」
笑、蒼井無言でスマホを操作する。
笑、テーブルにうつ伏せに倒れ込む。
間があったあと、笑、顔を上げ、蒼井を見上げながら、小声で投げやりに
笑「ノーリアクションかよ。聞きたくないけど、聞くしかないよね。いや聞くまでもないか。おめでとう…」
蒼井、笑のスマホを手に取り、笑の手元にあるマッチ箱からマッチを1本取り出し、画面のお祈りメールに沿うように置く。
蒼井「ぴったり同じ長さ」
蒼井、マッチ箱を振りながら
蒼井「重大に扱うのはばかばかしいんでしょ」
笑「そう考えた先にあるのは破滅でしょ」
蒼井「いや、この場合のポイントは、人生は
一箱のマッチってとこ。一箱分あるから。
これは火のついたマッチじゃないかも」
笑「優しいんだね」
蒼井「だからって俺に乗り換えないでよ」
笑「心配ご無用。絶対ないです」
蒼井、ふっと笑って、
蒼井「なんでそこまで矢田を想うの?」
笑「いつも全力で笑わせてくれるんだよ。柊
斗の中には一緒に楽しもうって気持ちしか
ないの。マイナスな感情全部どこかに置い
て会いに来てくれる。彼女、3つ上なんだけど、仕事が合わないみたいで、メンタルやられてるって。柊斗の助けが必要なんだ」
蒼井「だから筒井さんは矢田の負担になら
ず支えになるよう完璧を演じてるって?…脳内お花畑だな」
笑、無視して、店員に向かって
笑「あ、お姉さん。生もう1つ」
蒼井「なんで矢田が楽しい気持ちだけくれるかって、それは日陰だから。筒井さんの将来に責任がないからだよ。ネガティブな部分も含めた感情を分かち合わないで先のある関係築くなんて無理でしょ。日陰だ…」
笑「日陰日陰ってうるさいな。いいよね、名づけられた時から太陽浴びちゃってる人は」
蒼井「そこ?」
笑「ごちそうさま」
笑、お店を出て行く。
笑が座っていた席にはビールジョッキが3つ。蒼井の前にはビールジョッキが1つ。
蒼井、ふっと笑う。
○博通・面接会場
笑、蒼井、矢田と就活生2人が、面接官2人の前に座っている。
面接官「最後に何か言いたいことはあります
か?」
笑、突然立ち上がり、大声で
笑「嘘なんです…!本当は私、人を引っ張っていくタイプではないし、よくテンパる。グループの中では脇役。恋愛をすれば日陰。ヘタレなんです私。こんな堅苦しい場所用意させたら、それもう自分取り繕って挑むしかないでしょ、だってこっちはヘタレなんだから。だけど、ヘタレだってねぇ、」
矢田、驚いた顔で笑を見つめる。
蒼井、吹き出す。
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