背番号は21 コメディ

日本で"特別情報開示に関する法律"通称"背番号法"が成立。15歳以上の男子はある数値が書かれたゼッケンの着用を義務付けられることになった。法律によって森田和真(16)の生活は一変し、彼が拒絶してきた父光太郎(46)との交流が甦る。
市川家の乱 31 0 0 05/01
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第一稿

人物

森田和真(7)(13)(16) 高校生
森田光太郎(37)(43)(46) 和真の父

石毛聡太(16) イケメン高校生
佐藤結衣(16) 石毛の彼女
小林豊 ...続きを読む
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人物

森田和真(7)(13)(16) 高校生
森田光太郎(37)(43)(46) 和真の父

石毛聡太(16) イケメン高校生
佐藤結衣(16) 石毛の彼女
小林豊(50) 国会議員
椎名カケル(30) YouTuber
愛菜(16) 和真の同級生
萌香(16) 和真の同級生
森田さやか(40) 和真の母

担任
男子1、2、3、4、5、6
女子1、2、3
通行人1、2、3
チンピラ1、2、3
係員1
クラスメート
アナウンサー
記者1、2、3
イケメン1

脚本

○ 森田家・リビング(朝)
  制服を着た森田和真(16)、やってくる。※以下映像には和真の背中が映らないようにする。
  母親のさやか(40)が台所で料理している。  
  和真、食器棚から茶碗を出す。
さやか「(気づいて)おはよ」
  和真、炊飯器からご飯をよそう。
  さやか、和真の背中をじっと見つめる。
さやか「割とイケてんじゃん」
和真「…」
さやか「学ランだけじゃなく下のシャツにもちゃんとつけたでしょ」
和真「(めんどくさい)うん」
さやか「(怪しい)どれ。みせてみ」
和真「つけたって」
  和真、箸と茶碗を手にテーブルにつく。
  ご飯にふりかけをかける。
さやか「つけないと警察に捕まっちゃうんだから。テレビでいってたよ。捕まっちゃうって」
和真「…」
さやか「パパもちゃんとつけて出かけてったんだから」
和真「つけたっていってんだろ」

○ 道
  和真、歩いている。
  道行く人々。
  男のみ上着やシャツの背中にゼッケンが貼られている。
  ゼッケンには数字が刻まれている。人によって違うが10から15が多い。たまに8や9。フォントカラーは黒。

○ 電車内
  和真、乗っている。
  やはり男たちの上着やシャツにゼッケン。数字は10から15が多い。
  女子高生が二人、こそこそ話している。
  和真、二人に視線をやる。
  二人、和真と目が合うと、くすくすと笑う。
和真「(気まずい)」

○ 高校・教室
  和真、やってくる。
  和真、窓際の席につく。
  男子は皆、背中にゼッケン。
  室内の空気が何となく重い。皆周りの様子を探っている。
声「18がいたぞ!」
声「しかも銅だ!」
  和真、声に反応する。
  男子1が廊下から教室をのぞき込んで、和真を指さして叫んでいる。
  映像に和真の背中が映し出される。
  ゼッケンに刻まれた数字は18。数字のフォントカラーは銅。
  教室の廊下に他の生徒たちが集まってきて、和真に視線を送る。
女子1「誰?」
男子2「学年一目立たない男だ」
  和真、思わず手で背中を隠す。
いかつい声「ジャマだ! 自分の教室に帰れ!」
  担任の男、廊下の生徒たちを押しのけて教室へ入ってくる。背番号は9。黒。
担任「静かに!」
  生徒たち、騒ぐのをやめ、席につく。
  担任、教壇に立つ。
担任「みんなも知っての通り今日から法律で男子にはゼッケンの着用が義務付けられた。今一度この法律の主旨を理解してもらうため一緒に中身を確認していく」
  担任、プリントを配る。
  生徒、プリントを後ろに回していく。
  プリントには"背番号法のガイドライン"と書かれている。
担任「(プリントを読み上げる)"特別情報開示に関する法律"通称"背番号法"が成立し、本日4月20日より日本全国で施行されます。それに先立って15歳以上の男子を対象に全国一斉身体測定を実施。男性器の勃起時におけるサイズを計測し…」
  室内から生徒たちの笑い声が漏れる。
  担任、睨みつける。
担任「男性器の勃起時におけるサイズを計測し、その結果に基づいて国から配布されたゼッケンの着用が義務化されることになりました。(男子へ)みんなも身体測定したな」

○ イメージ
  色んな長さや形のちんこちゃん(ぬいぐるみ)が列をなしている。
  係員1、ちんこちゃんを巻き尺で計る。
係員1「14」
  机に座る係員2、ペンでゼッケンに14と書く。
  係員1、次のちんこちゃんを計る。
係員1「9」
  係員2、ペンでゼッケンに9と書く。

○ (戻って)教室
  男子たちのゼッケン。
  それぞれに数字が刻まれている。
担任「この法律は衆議院議員の小林豊氏らによる"男性器のサイズを社会的ステータスに用いるべきだ"という…」
  室内から笑い声が漏れる。
担任「そこ! 笑うな!」 
  生徒たち、押し黙る。
担任「という理念によって作られました。ゼッケンを外したり背番号を偽造した場合、最高で懲役刑という厳しい処罰が下ります。(生徒へ)いいな。違反すると退学だぞ」
担任「(プリントを読む)最後に背番号の色について。ゼッケンの数字には色付きのものがあります。これは形、色つや、肌触りのいい男性器に対して特別に与えるもので、金、銀、銅の三ランクがあります」
和真「…」
  和真の銅の背番号が窓から差し込む日差しに照らされる。

○ 同・教室(休み時間)
  黒板の日直欄に森田の名前。
  和真、教壇で黒板を消している。
  愛菜(16)と萌香(16)、教室の隅で男子たちを観察している。
愛菜「まったくおかしな法律ですねえ」
萌香「いやはや目のやりどころに困ります」
  じゃれあう陽キャのイケメンたち。
  背番号は9や10。全体的に数字が小さめ。
  隅っこに固まる陰キャたち。
  背番号は14や15。全体的に数字が大きめ。
愛菜「ほぅ。イケメンはサイズが小さいという説は正しいようですな」
萌香「そうですな」
愛菜「ネット情報によると日本男子の平均サイズは約13センチ。私の調査の結果このクラスの平均は」
萌香「14.5ですよねえ」
愛菜「ですねえ。そして平均を押し上げているのは」
  二人、黒板を消す和真の背中をじっと見る。
和真「(視線を感じる)…」

○ 帰り道(夕)
  和真、通行人の背番号をちらちら見る。
  数字は10から15ばかり。色は黒ばかり。
  通行人たち、和真とすれ違う度、
通行人1 「18」
通行人2「銅」
通行人3「18の銅」
  と感嘆の声を漏らす。
  和真、思わず足早になる。 

○ 森田家・リビング(夜)
  和真とさやか、夕飯を食べている。
さやか「あんた、今日どうだった?」
和真「…どうって?」
さやか「どうって銅のことじゃないよ。ほらあんた銅じゃん。そうじゃなくて。やだもー何いってんだろ(と焦る)」
和真「…」
さやか「いやさ、友達にあんたの話したらびっくりされちゃって。知らなかったんだけど18って結構な数なのね。13と14だってさ。友達の子供」
和真「…息子に聞かせる話じゃないだろ」
さやか「息子って。やだもー。変な想像しちゃったじゃん(と照れる)」
和真「…」
  玄関で音がする。
さやか「パパ帰ってきた」
  和真、食器を手にして立つ。
和真「ごちそうさま」
さやか「またそうやって」
和真「何だよ」
さやか「息子にシカトされ続けてパパ寂しいってよ。あ息子ってあんたのことね。ふふふ(と笑う)」
和真「…」

○ 同・部屋
  和真、学校で配られたプリントを見ている。
  衆議院議員小林豊(50)の顔写真と共にコメントが載っている。
和真「(読む)男性器はステータス。可視化することで、容姿、職業、収入のように社会的ステータスになります…」

○ 小学校・教室(回想)
  7歳の和真、作文を発表している。
和真「(得意げに)僕のお父さんはコンビニの店員さんです。余ったおにぎりをたくさん持って帰ってきてくれるから大好きです」
クラスメート「和真の父ちゃんはアルバイトだ!」
  室内から笑い声が起きる。
  和真、きょとんと立ち尽くす。

○ (戻って)部屋
和真「…」

○ 同・洗面所
  和真、洗面台の前に立っている。
  和真、背番号を鏡に映す。
和真「(満更でもない)」
  和真、歯ブラシを取る。
  和真、歯磨き粉をつけて歯をみがく。
  風呂場から野太い鼻歌。
声「♪紅に染まったこの俺を慰める奴はもういない…」
和真「…」
  和真、足下を見下ろす。
  和真、脱ぎ捨てられたパンツを踏んでいる。
和真「げ」
  和真、パンツを蹴飛ばす。
  その先に洗濯カゴ。脱ぎ捨てられた衣類の奥からゼッケンの端がちらと見える。
和真「(見て)…」
  和真、風呂場を窺いつつ、ゼッケンを覆っているズボンを指でつまみあげる。
和真「(息をのむ)」
  姿を現したゼッケン。
  刻まれた背番号は21。金。

○ タイトル

○ 高校・教室(翌日)
  黒板にチョークで"おちんちんランキング"。
  "田中"、"吉岡"、など10位から2位までの名前が書かれている。
  黒板の前に群がる男子たち。
  和真、一人机で気まずそうにしている。
  男子3、チョークを手にして、
男子3「学年1のおちんちんはこの男だ!」
  "森田和真"とデカデカと書く。
  男子4、名前の横にデカチンの絵を書く。
男子4「(和真へ)森田、お前の息子」
  和真、たまらず立ち上がる。
  和真、教壇に上がり、デカチンの絵を消しはじめる。
和真「(ふと視線を感じ)…」
  和真、振り返る。
  生徒たち、和真の背中を凝視している。
  和真、逃げるように教壇から降りる。
男子3「続いて学年ワースト1位を発表!」
  男子3、チョークを動かし始める。
  黒板を見る生徒たち、ざわめく。

○ 同・隣の教室(昼休み)
  石毛聡太(16)と佐藤結衣(16)、仲良く机をくっつけている。
  石毛、壁側に座っていてゼッケンが見えない。
  石毛の机には可愛らしい弁当箱。
  石毛、フタを開けると、結衣の手作り弁当。
石毛「おー(と感動)」
結衣「(甘える)今日は聡太の大好きな唐揚げにしたよ」
  石毛、スマホを手にし、弁当箱にカメラを向ける。
  結衣もスマホを手にし、そんな石毛にカメラを向ける。
  石毛と結衣、シャッターを押す。
  二人、インスタを開く。
  石毛のホーム画面に結衣との写真や手作り弁当の写真。
  フォロワー数は2万。
  石毛、撮った写真を投稿。
  結衣のホーム画面に自撮り写真や石毛との写真。
  フォロワー数は1万。
  結衣、撮った写真を投稿。
結衣「(スマホをしまう)じゃ、食べよっか」
石毛「いただきます」

○ 同・廊下
  大勢の生徒たちが石毛の様子を窺っている。
  和真の姿もある。
女子2「見える?」
女子3「ううん」

○ 同・隣の教室
  石毛と結衣、食べ終わる。
  石毛、空になったペットボトルを持っている。
石毛「(廊下の人だかりを見て)…」
  石毛、壁に張りついたまま動かない。
  結衣、立ち上がる。
結衣「(察して)捨ててきてあげる」
石毛「いいよ」
結衣「いいから」
石毛「自分で捨てる(と立つ)」
  石毛、ゴミ箱のあるドアの前までいく。
  露わになった背番号。
  ゼッケンに刻まれた数字は4。黒。

○ 同・廊下
  あ然とする生徒たち。
女子2「4…」
男子5「キューピーじゃん」
和真「…」
男子6「森田。格の違いを見せつけてやれ」
和真「え?」
  生徒たち、和真を教室へ押し込む。
和真「ちょっ…」

○ 同・隣の教室
  押された和真、バランスを崩し、転んだ拍子に石毛とぶつかる。
和真「あ」
石毛「(和真を見て)何だよ」
和真「…すいません」
石毛「(舌打ち)」
  結衣、やってくる。
結衣「何してんの?」
石毛「…コイツが勝手にぶつかってきたんだ」
  結衣、和真の背番号に目を奪われる。
  和真、結衣の視線に気づく。
結衣「(ふんっ)」
  結衣、和真に背を向ける。

○ 同・廊下
  愛菜と萌香、教室内の三人を眺めて、
愛菜「これは一波乱ありそうですねえ」
萌香「ありそうですねえ」

○ 同・グラウンド風景
  男子たち、授業でサッカーをしている。
  教師、ホイッスルを吹く。
教師「(怒鳴る)13番! こい!」
  四人くらいの男子が反応する。

○ 同・教室(放課後)
  和真、帰り支度をしている。
  男子1、廊下から飛び込んでくる。
男子1「金の21だァ!」
  室内がざわつく。
男子6「金の21だと?!」
男子4「どこだ! どこにいる!」
男子1「(息を切らして)コンビニのおっさんなんだけど、クラスの奴が目撃したって」
  和真、そわそわしだす。
男子2「おい。これからそのコンビニ寄っていこうぜ」
男子4「森田もこいよ」
和真「え」
男子5「お前といると映えるんだよ」
和真「…いや、ちょっと」

○ コンビニ前
  男子2、3、4、5、6、店内をのぞき込んでいる。
  その後ろで和真、不安げ。
  店内で和真の父光太郎(46)がレジ打ちをしている。
和真「(光太郎を見て)…」

○ 森田家・和真の部屋(回想)
  13歳の和真、勉強机でふさぎ込んでいる。
  アウトドアの格好をした光太郎、やってきて、
光太郎「何だ和真。早く出かける支度をしないか」
和真「(キレる)死ねよ! 父親がバイトなんて恥ずかしくて外歩けねえんだよ!」
光太郎「…」

○ (戻って)コンビニ前
和真「…」 

○ コンビニ・店内
  レジの前に男子2、3、4、5、6。
  少し離れたところに和真。
  レジカウンターに光太郎。
  が、正面からではゼッケンが見えない。
男子2「(目敏く)切手一枚ください」
  光太郎、切手を取るためカウンターに背を向ける。ゼッケンに刻まれた金の21。
男子たち「(大興奮)」
  光太郎、カウンターに戻る。
光太郎「一円になります。このままでよろしいですか?」 
  光太郎、切手を差し出す。
  光太郎、和真がいるのに気づく。
光太郎「(驚く)和真、どうしてここに」
和真「(気まずい)…別に」
光太郎「学校帰りか?」
和真「…」
男子4「(和真へ)え、お前、金の21の息子?」
和真「(口ごもる)息子っていうか…」
男子3「お前、すげーな!」
和真「え?」
男子6「(光太郎へ)一緒に写真撮ってください!」
     ×   ×   ×
  男子たち、光太郎と写真を撮っている。
  和真、その様子を不思議そうに見ている。
男子2「(スマホをいじり)しゃー! インスタに投稿! バズった!」
男子4「早くね?」
男子5「俺Twitter! バズった!」
男子4「だから早くね?」
  男子たちのはしゃぎっぷりに、
和真「(笑みがこぼれる)」

○ ラーメン屋・店内(夜)
  和真と光太郎、テーブル席でラーメンを食べている。
光太郎「しかしお前と外食なんていつぶりだ」
和真「…」
光太郎「(嬉しい)こんな日がくるとはな。頑張って生きてればいいこともあるってことだ」
和真「…大げさだよ」
光太郎「そうだ。ママには連絡入れてくれたか?」
和真「忘れてた」
  カウンター席にチンピラ1。背番号7。
  チンピラ1、大声で電話している。
チンピラ1「兄貴、もう着きました! はい!(と電話を切る)」
チンピラ1「(店員へ)おい、ビールまだか! 遅えぞ!」
  和真と光太郎、チンピラ1と目が合う。
  二人、急いで目をそらす。
  チンピラ1、テーブルに近づいてきて、
チンピラ1「何見てんだ?」
光太郎「すみません」
チンピラ1「あ?」
光太郎「すみません」
  チンピラ1、光太郎の背番号をちらりと見る。
  チンピラ1、カウンターに戻ると椅子を蹴る。
チンピラ1「クソがっ」
  和真、スマホをいじる。
和真「食べてくるってメールしといた」
光太郎「悪いな」
和真「これ」
  和真、スマホ画面を光太郎に見せる。
  画面には振り向き様の光太郎。金の21の背番号がでかでかと映っている。
和真「さっきの写真。Twitterでバズってる」
光太郎「あれだろう。インフルエンザーって奴だ」
和真「インフルエンサーだけど」
光太郎「インフルエンザーじゃ病気になっちゃうか(と笑う)」
和真「…」
光太郎「そうか。俺の背番号は人気か。じゃこれからはインフルエンサーで食っていくかな。なんてな」
  チンピラ2とチンピラ3、店内へ入ってくる。
チンピラ3「おう!」
チンピラ1「兄貴、お先頂いてます!」
  和真、スマホをしまう。
  和真、ラーメンをすする。
光太郎「(微笑む)和真。餃子でも頼むか」
和真「(うなずく)」
  光太郎、顔をあげてカウンターを見る。
  カウンター席に仲良く並んだチンピラたちの背番号。
  7、5、3。

○ 同・外
  和真と光太郎、ボコボコにされて地面に倒れている。
  チンピラ1、2、3、二人を睨みつける。
チンピラ3「ナメくさりやがって!」
  チンピラたち、去っていく。
  和真と光太郎、へなへなと立ち上がる。
光太郎「…おい、大丈夫か?」
和真「(体が痛い)…親父は?」
光太郎「(痛い)どこか休めるところを探そう」

○ 公園
  和真、水道で肘を洗っている。
  光太郎、レジ袋を持ってやってくる。
  光太郎、レジ袋からバンドエイドを取り出して和真に渡す。
光太郎「ケンカは初めてか?」
和真「…ケンカにしては一方的過ぎんだろ」
光太郎「(笑う)しかし七五三はないよな」
和真「やめろよ。笑うと体が(と痛がる)」
  光太郎、レジ袋から缶ビールを二本取り出す。
和真「…?」
光太郎「ケンカついでに酒もいっとくか。痛みに効くぞ」
和真「…」
     ×    ×    ×
  和真と光太郎、缶ビール片手にベンチに座っている。
光太郎「学校は楽しいか?」
和真「何だよそれ」
光太郎「(笑う)」
和真「まあ、ぼちぼちやってるよ」
  光太郎、ビールをあおる。
  和真、ビールをあおる。苦味で顔が歪む。
光太郎「知ってるか。昔アメリカに禁酒法という法律があった。法律で酒が禁止されたから密造酒を飲むしかなかった」
和真「…」
光太郎「その時に暗躍したのがアルカポネだ。酒の密売によってギャングたちはこの世の春を謳歌した。一方で真面目に酒を販売していたビール会社は倒産だ」
和真「…急に世界史の授業かよ」
光太郎「なあ和真。たった一つのルールで世界が変わる。禁酒法と同じようにこの背番号にはそんな力がある気がしてならない」
和真「…」
光太郎「お前も感じたはずだ。周りの目が今までとはまるで違うのを」
和真「…」
光太郎「さっきのチンピラみたいな客がコンビニにはうようよしてる。そんな連中に頭を下げるのはもうゴメンだ。ここからは俺の時代だ。俺がアルカポネだ」
和真「親父…」
光太郎「なんてな(と笑う)」
  光太郎、ビールを飲み干す。
光太郎「帰るか(と立つ)」
  和真、光太郎の背中をじっと見る。
光太郎「(振り返り)どうした?」
和真「…親父の背中がデカくみえる」
光太郎「さては酔ってるんだろう」
和真「デカくて、光ってる」
光太郎「光ってはないだろう」
  光太郎、和真に背中をじっくり見せる。
和真「光ってる」
光太郎「光ってるはずない。もう一回見ろ(と見せる)」
和真「光ってる」
光太郎「いやいや、もう一回よおく見ろ(と見せる)」

○ 椎名の部屋(一ヶ月後)
  椎名カケル(30)、パソコンの前で一心にキーボードを叩いている。椅子の背もたれに隠れて背番号は不明。
  椎名、手を休める。
  椎名、伸びをする。
  カメラ、じっと椎名を捉えている。
椎名「(カメラに気づいて)あ。どうも」
  カメラが椎名に近づく。
  パソコンには動画編集の画面が表示されている。たくさんのグラフや数字。
椎名「YouTubeの新作動画、今夜中に仕上がりそうです。もう一息ですよ」
  椎名、コーヒーを飲む。
椎名「(しみじみ)あれから一ヶ月ですか」
  カメラ、椎名の背中をズームで映す。
  背もたれに隠れて背番号は見えない。
椎名「ちょっと、何してるんですか(と慌てる)」
  カメラ、仕方なくパソコン画面を映す。
椎名「グラフ動画です。ほら、人口の推移とか歴代ホームラン数ランキングとかグラフが動いていく動画。ああいうのを専門に作ってるんです。まあ詳しくは完成してからのお楽しみということで」
  カメラ、仕方なく椎名を映す。
椎名「さてと。ではまだ作業が残っているのでこれで(と頭を下げる)」
  椎名、パソコンに向かい作業を始める。

○ YouTube画面
  動画のタイトル。「"背番号は21"に登場する人物のインスタフォロワー数の推移」
  再生ボタンが押される。
  動画内の画面上に日付。
  左端に登場人物たちの顔写真。
  顔写真の横にインスタフォロワー数が棒グラフで表示されている。
  ランキング形式で、上から、石毛、フォロワー数2万。結衣1万。いずれも長い棒グラフ。
  一気に下がって、男子2、男子3、男子4、男子5、チンピラ1、愛菜、萌香。どれも同じようなフォロワー数。
  ドベは和真。フォロワー数0。
  再生直後に以下のテロップが出る。
  テロップ「4月20日 背番号法施行」
  テロップと共に一枚の写真。
  朝の新宿駅。ゼッケンをつけた男たちの通勤風景。
  4月21日、22日、23日、と日付が変わるごとに棒グラフが動き出し、各々のフォロワー数が微増減を繰り返す。
  4月24日。和真のフォロワー数が100増える。和真、上位に躍り出る。
  テロップ「4月24日 和真、家族でキャンプ」
  テロップと共に写真。
  テントを建てる光太郎の姿。背番号の金の21が輝いている。
  4月27日。突然、石毛のフォロワー数が3000ほど減る。
  テロップ「4月27日 石毛と結衣、破局」
  テロップと共に写真。
  昼休み、別々に弁当を食べる二人。
  4月28日。結衣のフォロワー数が増える。
  テロップ「4月28日 結衣と和真、交際」
  テロップと共に写真。
  帰り道。結衣と和真、手をつないでいる。
  5月3日。突如一番下から光太郎の顔写真と棒グラフがすごい勢いで出てくる。
  ごぼう抜きで首位。フォロワー数3万。
  テロップ「5月3日 光太郎、インスタ開始」
  テロップと共に写真。
  光太郎の背中のアップ。金の21。
  5月4日。石毛のフォロワー数が5000減る。
  テロップ「5月4日 石毛、退学処分(ナンバー偽造)」
  テロップと共に写真。
  石毛の背中。金の22。
  伸び続ける光太郎のフォロワー数。
  減り続ける石毛のフォロワー数。
  5月10日。光太郎のフォロワー数が加速。
  テロップ「5月10日 光太郎、店長に昇格」
  テロップと共に写真。
  大繁盛のコンビニ。満面の笑みを浮かべる光太郎。
  5月16日。光太郎のフォロワー数がさらに加速。
  テロップ「5月16日 光太郎、コンビニ本店にヘッドハンティング」
  テロップと共に写真。
  オフィス。光太郎、まっさらなスーツを着ている。
  5月18日。光太郎のフォロワー数がさらに加速。
  テロップ「5月18日 光太郎、衆議院議員の小林豊(背番号銀の21)と会談」
  テロップと共に写真。
  光太郎、小林、握手を交わす二人。
  5月20日で動画は終わる。
  圧倒的首位の光太郎。
  テロップ「この動画が気に入ったらチャンネル登録をお願いします」

○ 高校・教室(5月21日・昼休み)
  和真と結衣、机を仲良く並べている。
  和真の机の上に結衣の手作り弁当。
結衣「(甘える)今日はタコさんウィンナーだよ」
  和真、タコさんウィンナーを箸でつまむ。
結衣「撮るね」
  結衣、スマホを出す。
  結衣、和真の背中に回る。
結衣「和真、こっち見て」
  和真、顔だけ振り返ってタコさんウィンナーを食べる。
  結衣、シャッターを切る。
  写真には和真の背番号がバッチリ。
和真「…(釈然としない)」

○ 街中(放課後)
  和真と結衣、アイスを食べている。
声「結衣!」
  私服姿の石毛が二人の前にやってくる。
石毛「…結衣、俺とやりなおそう」
結衣「(冷たく)開口一番何いってんの?」
石毛「結衣が好きなんだ」
結衣「キモい。いこ」
  結衣、和真の手をとって歩きだす。
石毛「(和真を見て)ソイツは見かけ倒しだ! 結衣、見かけではなく中身を見てくれ!」
  石毛、結衣に迫る。
結衣「触んな!」
石毛「結衣!」
結衣「お前といるとインスタ映えしねえんだよ!」
石毛「頼む! 結衣!」
和真「(何もできない)」
男の声「何だ、騒がしい」
  三人、男の方を見る。
  高級スーツをキメた光太郎が立っている。
和真「…親父、何でここに」
光太郎「この付近のコンビニを回っていたところだ。今はエリアマネージャーだからな(と誇らしげ)」
結衣「おじさま!(と助けを乞う)」
光太郎「(石毛へ)君は確かキューピーちゃんだったな」
石毛「…」
光太郎「俺の息子に何の用だ?」
石毛「(股間に威圧され)…くっ」
  石毛、逃げるように去っていく。
光太郎「(結衣へ)次またストーカー被害に遭ったら私にいいなさい」
結衣「(感動)」
  光太郎、和真の隣に立つ。
光太郎「和真、今晩ヒマか」
和真「…ヒマだけど」
光太郎「一緒に飯でも食おう。相談がある」
和真「…?」
光太郎「(結衣へ)じゃ、私はこれで。息子と楽しんでくれ」
  光太郎、悠然と去る。

○ 高級焼肉店・店内(夜)
  テーブル席に和真と光太郎。
  光太郎、肉を焼いている。
  光太郎、焼きあがった肉を和真の皿に入れてやる。
光太郎「さぁ食え」
  光太郎、自分の皿にも肉をのせる。
  光太郎、箸をつける前にスマホで肉を撮る。
光太郎「イマイチ映えないな」
和真「…」
  光太郎、別のアングルを探している。
和真「…それで相談って何だよ」
光太郎「そうだった」
  光太郎、スマホをおく。
  光太郎、網の肉を箸で裏返していく。
光太郎「実はな、インスタグラマーになろうと思ってるんだ」
和真「…は?」
光太郎「これ、焼けたぞ(と和真の皿に肉をおく)」
和真「(戸惑う)インスタグラマー?」
光太郎「インスタグラマーというのはインスタでお金を稼いでる人たちのことだ。いわばYouTuberのインスタ版だ」
和真「それは知ってる。コンビニはどうすんだよ。エリアマネージャーになったんだろ」
  光太郎、自分の皿に焼いた肉をおく。
  光太郎、スマホを構えて肉を撮る。
和真「親父、聞いてんのかよ」
光太郎「ああ悪い。俺な、エリアマネージャーはやめようと思ってる」
和真「…」
光太郎「何。金のことなら心配するな。勝算がないわけじゃない」
  光太郎、ポケットを漁る。
  光太郎、テーブルに何枚もの名刺をのせる。
光太郎「この半月、色んな企業から広告の話を持ちかけられてな。ファッション関係、スイーツ関係、ダイエットサプリなんてのもあった」
和真「…」
光太郎「インスタグラマーになればもっとお前に贅沢な暮らしをさせてやれるからな」
和真「別に俺は…」
光太郎「(店員へ)特上カルビ追加で!」 
和真「おい」
  光太郎、店員のゼッケンを眺める。背番号10。
光太郎「いかんな。ああいうみっともない背番号を見ると肉がまずくなる。あとで店にクレームを入れておくか」
和真「…調子乗りすぎだろ」

○ 高校・教室(翌日)
  和真、ぼんやりとスマホを見ている。
  結衣のインスタに映る和真。どの写真も背番号に焦点を合わせて撮られている。
  結衣、やってくる。
結衣「あ、今私のインスタ見てた?」
和真「…まあ」
  和真、スマホをしまう。
結衣「(和真の様子に)何?」
和真「いや…」
結衣「えーやだ!」
和真「え、まだ何もいってないけど」
結衣「和真は真面目か(とツッコむ)」
和真「いや…俺のことどう思ってるのかなって」
結衣「(きっぱりと)大好き」
和真「…」
結衣「大好きだよ。好きじゃなかったらこうして一緒にいるわけないじゃん、大大大好き」
和真「(納得する)」
結衣「じゃ一緒に写真撮ろっか」
  結衣、スマホを構える。
  和真、カメラに正面を向ける。
結衣「もー違うよ。和真は後ろ。顔だけ振り向く感じで」
和真「…ごめん」
  和真、結衣から離れる。
結衣「え」
和真「ごめん…」
  和真、教室から出ていく。
  教室の隅に愛菜と萌香。
  二人、去っていく和真を眺める。
愛菜「恋に迷いが生じてますねえ」
萌香「生じてますねえ」

○ 森田家・リビング(夜)
  和真とさやか、夕飯を食べている。
さやか「パパ仕事で帰り遅くなるって」
和真「…」
  和真、浮かない顔をしている。
和真「…何で親父と結婚したの?」
さやか「どしたの、急に」
和真「…いや、女の人ってイケメンと金持ちが好きなんだろ。親父、どっちでもないし」
さやか「女の人(とからかう)」
和真「…うるさいな」
さやか「うーん。それいったら男だって同じようなもんじゃん」
和真「…」
さやか「(考えて)結婚の理由かー。うふ(と照れる)」
和真「え?」
さやか「(照れる)ママがパパを選んだ理由はね」

○ 同・和真の部屋
  和真、机でうなだれている。

○ イメージ
  さやか、ちんこちゃん(ぬいぐるみ)を抱きしめている。

○ (戻って)和真の部屋
和真「(ため息)聞かなきゃよかった」
  和真、スマホを見る。
  和真、光太郎のインスタを見る。
  最新の画像が投稿されている。
  ダイエットサプリを手にした光太郎と共に以下の文章。
  "偶然見つけたダイエットサプリ"
  "これで5キロ痩せました"
和真「(顔色が変わる)これって…」

○ キャバクラ・店内
  光太郎、女の子1、2をはべらせている。
  女の子1、光太郎の背番号をさすっている。
女の子2「私にも触らせて」
光太郎「国のお墨付きだぞ」
女の子1「ねえ。今度くるときは息子さんも連れてきてね」
光太郎「(股間を見下ろし)こんにちわ(と豪快に笑う)」
女の子たち「…(笑う)」
  光太郎の電話が鳴る。
  着うたはXJAPANの紅。
光太郎「(出る)和真か。今ちょうどお前の話をしていたところだ」
和真の声「(焦って)インスタの写真、どういうことだよ?!」
光太郎「どうした? 落ち着け」
和真の声「ダイエットサプリの奴だよ。あれって」
光太郎「あーあれか」

○ 森田家・和真の部屋
光太郎の声「広告だとわからないように宣伝したほうが効果的だからとスポンサーの人にいわれてな」
和真「やっぱり。それってステマだろ」
光太郎の声「大丈夫。バレなきゃ問題ない」
和真「大丈夫って、ステマは違法だぞ。親父、わかってんのか」
光太郎の声「違法が何だ。俺はアルカポネだ」
和真「…あんたは光太郎だろ」
光太郎の声「和真、ステルスマーケティングという言葉を知ってるか」
和真「さっきからそのことを話してるんだよ」

○ キャバクラ・店内
光太郎「ステルス、つまり目に見えない。絶対にバレないからステルスマーケティングと人はいうんだ(とニヤリ)」

○ テレビのニュース(数日後)
  テロップ「人気インスタグラマー、詐欺で逮捕」
アナウンサーの声「製薬会社社長と共謀してニセのダイエットサプリを宣伝した容疑で逮捕されたのはインスタグラマーの森田光太郎容疑者46歳」
  映像に光太郎。
  背番号の金の21が映し出される。
アナウンサーの声「ここ最近、背番号によるトラブルや犯罪が相次いでいることから背番号法への疑問の声があがっています」

○ 警察署・留置場風景
  光太郎の他に6人の男が同室に入れられている。
  看守、やってくる。
  看守、扉を開ける。
看守「13番と21番、面会だ」
  光太郎と四人くらいの13番が立つ。

○ 同・面会室
  和真、座っている。
  アクリル版の向こうから光太郎、やってくる。
  光太郎、椅子に座る。
光太郎「和真、最近どうだ?」
和真「どうもこうも。親父が捕まったせいでパニクってる」
光太郎「そうじゃない。俺のインスタフォロワー数はどうなってる」
和真「…気にするとこそこじゃないだろ」
光太郎「しかし捕まる前にインスタグラマーになってよかったよ。エリアマネージャー森田光太郎46歳じゃイマイチ格好がつかないからな(と笑う)」
和真「…全然反省してないんだな」
  光太郎、ポケットからタバコとライターを取り出す。
  光太郎、火をつけて吸う。
和真「親父、タバコなんか吸うのかよ」
光太郎「皆が分けてくれるもんでな。背番号のおかけで好待遇だよ。快適だ」
和真「…」
光太郎「それより和真、彼女とはどうだ?」
和真「(うつむく)」
光太郎「(驚く)うまくいってないのか?」
和真「別にそうじゃないけど」
光太郎「どうした? 訳を話せよ」
和真「(ぼそっと)…彼女が好きなのは俺じゃなくて背番号なんだよ。背番号しか見てくれないっていうか。だからなんというか」
光太郎「(鼻で笑う)くだらない。そんなことで悩んでるのか」
和真「そんなことって」
光太郎「当たり前じゃないか」
和真「え?」
光太郎「お前から背番号をとったら何が残るんだ。背番号のおかげでかわいい彼女と付き合えてるんだ。図に乗るな」
和真「(面食らう)急にどうしたんだよ」
光太郎「(けろりと)お前に彼女がいるのも俺がインスタグラマーなのも全部背番号のおかげだ。それ以外ない」
和真「…親父、本気でいってんの?」
光太郎「マジだよマジ。本気と書いてマジ。お前だって人を背番号でしか見てないだろう。この背番号のおかげで俺はコンビニ店員から父親になれた。違うか」
和真「…」
光太郎「別に責めてるわけじゃない。人間の心はそういうふうにできてるんだ。だからチャンスを逃すな。父親としてのアドバイスだ。贅と快楽の限りを味わい尽くせ。彼女の乳首が腫れ上がるまで吸いついて離すな」
和真「…」
光太郎「やれ。とにかくやってやってやりまくれ」
  和真、立ち上がる。
和真「…親父、すっかり変わったな」
光太郎「結構なことだ。昔の俺ならお前は会いにきてすらくれなかった」
和真「…帰るよ」
  和真、ドアへと向かう。 
光太郎「(叫ぶ)迷うな! 揉みしだけ!」

○ テレビニュース(数日後) 
  アナウンサー、原稿を読んでいる。
アナウンサー「背番号法の廃止を求めるデモが全国各地で起きています」

○ ニュース映像
  イケメン集団、デモ行進をしている。
  参加者、全体的に数字が小さめ。
  "背番号を廃止しろ""差別撤廃"といったプラカードを掲げている。

○ ニュース映像2
  イケメン1、インタビューを受けている。
イケメン1「(いきり立つ)人を見かけで判断するのはやめてほしいといいたい」

○ ニュース映像3
  国会議事堂が映し出される。
アナウンサーの声「デモが活発化する中、背番号法反対派の議員によって廃止法案が国会に提出され、近く審議される予定です」

○ ニュース映像4
アナウンサーの声「一方、この法律で一躍脚光を浴びた森田光太郎容疑者ですが、今朝方保釈されました」
  光太郎、警察署から出てくる。 
  報道陣によるフラッシュの嵐。
アナウンサーの声「一部情報では小林豊議員によって森田容疑者への保釈金が支払われたとのことです」

○ 小林の写真
アナウンサーの声「森田容疑者とは背番号が同じ21であることから親睦を深めており、廃止法案の阻止に向けて何らかの思惑があるのではと見られております」

○ 森田家・リビング(夜)
  和真、光太郎、さやか、食卓についている。
  テーブルの上に豪華な寿司。
  光太郎、スマホで寿司を撮る。
  光太郎、インスタに写真を投稿。
  光太郎のインスタ画面、フォロワー数50万。
光太郎「(ボヤく)大分減ったな」
さやか「パパわさびとって」
光太郎「それでも50万フォロワーだがな」
さやか「わさび」
光太郎「(チューブのわさびを渡す)」
さやか「そんなにいるんだ、パパのファン」
光太郎「当然だ。俺はアルカポネだ。なあ和真?」  
  和真、ひとり浮かない顔をしている。
さやか「…アルパカ?」
光太郎「(和真を見て)和真、まだ悩んでるんじゃないだろうな」
和真「…」
光太郎「いったろう。人は見た目がすべてだ」
和真「…」
光太郎「だからこそ俺とお前はそのアドバンテージを存分に活かせばいい」
さやか「(寿司をもぐもぐ)何の話?」
光太郎「男同士の秘密だ」
さやか「すっかり仲良しになっちゃって」
光太郎「(念を押す)和真。今を楽しめ」
和真「…」

○ 同・和真の部屋
  和真、机でぼんやりしている。

○ (回想)和真の部屋
  13歳の和真、机で塞ぎ込んでいる。
  アウトドアの格好をした光太郎がドアの前に立っている。
和真「(叫ぶ)親がバイトなんて恥ずかしくて外歩けねんだよ!」
  光太郎、和真のそばへ寄り、
光太郎「和真、それが何だ。バイトの人間なんかそこら中にいるぞ(と笑う)」
和真「…」
光太郎「さ、ママも支度が済んだようだからお前も早く(と和真の腕をとる)」
和真「(振り払う)離せよ!」
光太郎「和真…」  
和真「マジで死ねよ! バイトのクセに子供作ってんじゃねえよ!」
光太郎「…」

○ (戻って)和真の部屋
和真「…」

○ 国会議事堂前(数日後)
  小林豊、取材陣に囲まれている。
  周囲にプラカードを掲げた集団。
声「背番号法を今すぐ廃止しろ!」
声「差別主義者は日本から出ていけ!」
  などと飛び交う。
小林「(見渡して)私を目の敵ですな」
記者1「背番号法廃止法案の審議を終え、採決が間近に迫っています。今のお気持ちを」
小林「お宅らマスコミはこの騒ぎを煽り立てているようだが、法律の効果はしっかりと表れている。今一度その有効性を」
記者2「(遮って)多くの差別や偏見が実際に生まれています」
記者3「それでも廃止すべきではないと?」
小林「まあ人の話は最後まで聞きなさい。今一度法律の有効性を国民の皆さんに正しくお伝えすべく、来る採決の前にシンポジウムを実施します。反対意見のある人はその時にどうぞ。以上」

○ 高級焼き肉店・中(夜)
  テーブル席に和真と光太郎。
  光太郎、紙を広げて鉛筆を走らせている。
和真「さっきから何してんだよ」
光太郎「んー…小林先生にスピーチを頼まれてな…ここはユーモアを挟んでおくか(と鉛筆を走らせる)」
和真「スピーチ?」
光太郎「(顔をあげる)近くシンポジウムがあるのはお前も知ってるだろう。そのスピーチ原稿を書いてるんだ(と誇らしげ)」
和真「親父が?」
光太郎「和真、お前も彼女を連れて俺の勇姿を見に来い」
和真「…」
光太郎「そうだ。今肉を焼いてやるからな(とトングを掴む)」
和真「自分でやるって」 
光太郎「いいから」
  光太郎、肉を網にのせる。
  肉が焼けるのを待つ間、光太郎、鉛筆と間違えてトングで紙に文字を書こうとする。光太郎「しまった。トングじゃ書けないな(と笑う)」
  光太郎、鉛筆に持ち替える。
  光太郎、しこしこ筆を走らせる。
和真「(光太郎を眺めて)親父、前からずっと聞きたかったんだけど」
光太郎「ん?」
和真「何でコンビニなんだよ?」
光太郎「(筆がとまる)」
和真「いや、仕事なら他にもあるだろ。何で」
光太郎「仕事か。もちろん他にもやったさ。車の整備、配達、引っ越し業、色々やったがどれもクビ。自慢じゃないが俺は仕事ができない」
和真「…」
光太郎「大ポカやって毎回クビ。結局慣れていたコンビニの仕事に落ち着いた」
和真「…そうだったんだ」
光太郎「しかしコンビニだって楽じゃない。給料の割にはやることが多いし、店員を人とも思わない客がごまんといる中での仕事だ。俺はポカが多いからよく怒鳴りつけられていたよ(と笑う)」
和真「…」
光太郎「あんな生活に逆戻りしないためにもびしっとスピーチを決めてやらんとな(と筆を動かす)」
和真「…」

○ 道(翌日・放課後)
  和真、歩いている。
  赤信号で立ち止まる。
  正面にコンビニが見える。
  コンビニ前に父親らしき男と幼い少年。
  男、少年を肩車する。
和真「(二人を見つめて)…」

○ (回想)風呂場
  7才の和真、光太郎の背中をタオルで洗っている。
和真「パパ、今日もお仕事ご苦労さまでした」
光太郎「あーいい心地だ。もっと強く」
和真「(こする)」
光太郎「(爽快)」

○ (回想)和真の部屋
  机の上に破かれた作文。
  タイトルに"大好きなぼくのパパ"と書かれている。
  和真、布団に潜り込んでいる。
  光太郎、やってくる。
光太郎「どうした?」
和真「(返事しない)」
光太郎「なんだ。スネてるのか?」
和真「(返事しない)」
光太郎「和真、パパを見ろ」
和真「(見る)」
  光太郎、上着のポケットを漁る。
  ポケットから100円おにぎりがどっさり。
光太郎「どうだ。パパのポッケはドラえもんの四次元ポケットだぞ」
和真「…」
光太郎「パパが全部食べちゃうぞ(と笑う)」

○ (回想)道
  13歳の和真、友達と歩いている。
  近くのコンビニから、コンビニの制服を着た光太郎、出てくる。
  和真、思わず電信柱に身を隠す。
  光太郎、ゴミ箱からゴミを回収する。
  チンピラ1、大声で電話しながら店から出てくる。
チンピラ1「兄貴! 今から向かいます!」
  ゴミ袋を持った光太郎、入り口でチンピラ1とぶつかる。
  ゴミ袋がチンピラ1の足にあたる。
チンピラ1「おい! あたっただろうが!」
光太郎「申し訳ありません!」
チンピラ1「くそがっ!」
  チンピラ1、ゴミ袋を蹴り飛ばす。
  地面に落ちたゴミ袋からゴミが飛び散る。
  光太郎、散乱したゴミを必死に集める。
  光太郎の額から汗が滴る。
和真「(睨むように光太郎を見つめて)」

○ (戻って)道
  信号が青に変わる。
  和真、我に返る。
  コンビニ前、父親と少年の姿は消えている。

○ 文化ホール・外(数日後)
  "背番号法に関するシンポジウム"の看板。

○ 同・中
  満員の館内。 
  聴衆の背番号は様々で、背番号賛成派と反対派とが入り乱れている。
  和真と結衣、入り口からやってくる。
  二人、席に座る。
結衣「楽しみだね」
和真「…」
  壇上には両サイドに椅子が並べられている。
  二つの陣営に分かれており、一方は小林を筆頭に大きめの背番号の男たち。
  もう一方には小さめの背番号の男たち。石毛の姿もある。
  小林、マイクを持って立ち上がる。
小林「(聴衆へ)本日はお集まり頂きましてありがとうございます。早速始めさせて頂きます」
  聴衆、静まる。
小林「背番号法を作った理由は一つです。"男性器のサイズを可視化することで社会的ステータスにする"。日本は競争社会です。競争に勝つために、容姿、年齢、収入、地位、家柄、あらゆるものを利用しています。私は長年不思議に思っていました。なぜもっと原始的でシンプルなもの、つまり、男性器のサイズをステータスにすることをしないのか、そしてしてはいけないのか。私のこの理念のもと、多くの方々が惜しまぬ協力をしてくれました(と自陣営を振り返る)」
  大きな背番号の男たち、頷いている。
小林「一方で競争の達者な人たちがこと背番号の話になるとなぜ難色を示すのか、私にはわからない(と相手陣営をちらりと見る)」 
  小さな背番号の男たち、険しい顔。
小林「背番号法は多くの国民を救っています。そのことを皆さんにお伝えするために今日は大切な友人にきてもらいました」
  光太郎、壇上の袖から現れる。
  館内が騒がしくなる。
聴衆「(怒号)犯罪者!」
聴衆「一生塀の中に入ってろ!」
  光太郎、小林からマイクを渡される。
光太郎「(マイクの感触を味わい)自分の息子を持ったのだと思った」
聴衆「(笑い声)」
光太郎「(堂々とした口調で)"たった一つのルールで世界が変わる"。かつてアメリカには禁酒法という法律が存在しました。正義が滅びギャングが栄えたことから世紀の悪法として今なお語り継がれています。そして背番号法こそ現代の禁酒法だと私は感じています」
小林「(訝しげに)…」
光太郎「しかし違う点が一つある。それは栄えるのがギャングではなく善良な市民ということです。真面目にコツコツと頑張っている人間が救われる可能性があるということです。反対に滅びるのも正義ではなく、肩書きや外見にモノをいわせて偉そうにしている連中ばかりのような気がするのは私だけでしょうか。その意味で背番号法は世紀の妙法と呼ぶに相応しい。いや、男性器の妙法とでもいいましょうか」
聴衆「(笑い声)」
小林「(大きく頷く)」
光太郎「背番号法で私は変わりました。いや、私に対する周囲の態度が変わった。自ずと自信が漲り、仕事に精が出る。結果出世する。収入が増える。まさに相乗効果です。女性は自信のある男が好きだ。女性にモテるようになる。人気が金を呼び、金が人気を呼ぶ。調子に乗った私はステマという大きな失敗を犯しました。しかし罪を犯してもなおこうして舞台に立てる。いいことづくめではありませんか」
聴衆「(拍手)」
光太郎「かつての私はコンビニ店員でした。私には妻と息子がいます。"バイトのくせに結婚しやがって。バイトのくせに子供まで作りやがって。いい歳してアルバイトなんかして恥ずかしくないのか"…世間の風当たりは冷たい。私にはまるで人権がなかった。しかしどうでしょう。背番号をつけた途端そんな声はぴたりとやんだ。それだけではない。私を長年無視し続けてきた息子からも尊敬されるようになりました」
和真「…」
光太郎「あの夜のことは忘れません。息子は私にいいました。"オヤジの背中が光って見える"。息子の口から未だかつて聞いたことのない言葉でさえこの背番号があれば聞くことができる」
和真「(うつむく)」
光太郎「背番号法を廃止することは私と息子との絆を引き裂くに等しい。私は断固として背番号廃止に反対する」
聴衆「(拍手)」
光太郎「それから廃止を求める人たちにいいたい。君たちは努力が足りない。こんなところに集まっている暇があったら自分を磨け。努力しろ。背番号が小さくたって成功してる奴はたくさんいる。自分たちが報われないのを法律のせいにするのはやめろ。社会のせいにするのはやめろ。粗ちんくらいでぴーぴーわめくような連中には日本の将来は任せられない!」
聴衆「(怒号と拍手が入り乱れる)」
光太郎「皆さん、我々の力でよりよい社会を作っていこうではありませんか」
  光太郎、一礼する。
  聴衆から割れるような拍手と怒号。
小林「(満足げ)」
  光太郎、小林と固く握手する。
  光太郎、マイクを返して椅子に座る。
小林「廃止派の意見も伺いましょう」
  壇上の石毛、立ち上がる。
  石毛の背番号4を見て、館内がざわめく。
小林「どうぞ(と石毛にマイクを渡す)」
石毛「(聴衆へ)背番号法は差別主義者によって作られた史上最悪の法律であり…」
聴衆「(野次る)キューピーちゃん!」
石毛「私はこの法律のせいで全てを失い…」
聴衆「キューピーちゃーん!」 
石毛「(野次へ)茶化すな! 俺は真剣にしゃべってるんだ!」
聴衆「キューピーターイム!」
石毛「…全てを失い、いわれなき差別と偏見を受け続けて…街を歩いていても…(やまない野次にとうとう泣き出す)」
小林「(隣の光太郎へ)呆れたね。だらしのない」
光太郎「ママのおっぱいの時間なんでしょう(と笑う)」
  和真、突然、座席から立ち上がる。
  和真、壇上へと歩き出す。
結衣「和真?」
  和真、壇上にあがる。
光太郎「(気づいて)…?」 
  森田、石毛の震える手からマイクを取る。
石毛「…森田」
  和真、聴衆を見る。
和真「森田光太郎の息子です。石毛君の代わりに話をさせてください」
聴衆「(ざわつく)」
和真「僕は父のことが嫌いでした。昔から父が恥ずかしくてたまらなかった。友達に父の仕事を聞かれるのが怖くて、いつも教室の隅で目立たないようにしてきました」
光太郎「…」
和真「でも背番号法ができてから変わりました。父は人気者となり、そんな父を僕は誇らしく思うようになりました」
光太郎「…」
和真「背番号をつけてからいいことがたくさん起きました。学校で目立つ存在になれたり、高い焼き肉を食べたりもしました。でもいいことばかりではありません。父は他人を見下すようになり、周りの人たちは背番号でしか僕のことを見てくれない。そんなことに疑問を感じるようになりました」
結衣「…」
小林「(焦る)とめたほうが」
光太郎「待ってください(と制止する)」
和真「そんな時、昔の父を思い出すことが多くなりました。父は僕に優しかった。優しくて、明るくて、愛情を持って育ててくれた。それなのに僕は父のことが大嫌いだった。理由は一つです。父がコンビニ店員だったからです」
光太郎「…」
和真「そうです。偏見を持っていたのは他の誰でもない自分自身でした。僕は父の背中にコンビニ店員という背番号を貼り付けて、父の本当の姿を見ようとはしませんでした」
光太郎「…」
和真「"たった一つのルールで世界が変わる"。父の言葉に今の自分はこう返します。"変わりやすい世界の中で変わらないものを僕は大事にしたい"」
  和真、上着を脱ぐ。
  和真、上着からゼッケンを剥がす。
  ゼッケン、壇上に落ちる。
和真「この社会から一つでも多くの偏見をなくすためにこの法律が廃止されることを望みます」
  静まり返った館内。
  やがて静かに拍手が起こる。
光太郎「(和真を見つめる)」

○ 森田家・リビング(一週間後)
  さやかと和真、テレビを見ている。
  テレビから国会中継が流れている。
さやか「もう結果出る?」
和真「たぶん」
さやか「(そわそわと)あーどっち? 緊張してきた。もう一回お手洗いいっとこ」
  さやか、トイレへと立つ。
  光太郎、やってくる。
光太郎「ママ、盛り上がってるな」
和真「一番関係ないのに」
  光太郎、和真の隣に座る。
光太郎「…この前のスピーチよかったよ。お前には負けた」
和真「(照れる)」
光太郎「こうなったら可決でも否決でも恨みっこなしだ(と笑う)」
和真「(笑う)」
光太郎「(廊下へ)ママ! 急がないと結果出ちゃうぞ!」
さやかの声「えー! こっちも出そう!」
  二人、顔を見合わせて笑う。
和真「親父は何で結婚したの?」
光太郎「…」
和真「いや、そういう意味じゃなくて。何で母を選んだのかなって」
光太郎「(にやり)そりゃお前…」
和真「あ(とテレビを見る)」
  結果を読み上げる議長の姿。
議長の声「投票総数239。白色票…」

○ 森田家・和真の部屋(一ヶ月後・朝)
  和真、制服に着替えている。
  背中にはゼッケンがついていない。
  和真、スマホを手にする。
  結衣のインスタ画面。
  石毛とのツーショット写真で溢れかえっている。
和真「(少し寂しい)」

○ コンビニ・店内
  光太郎、品出しをしている。
  光太郎、手を休め、ポケットからスマホを取り出す。
  光太郎のインスタ画面。
  フォロワー数16。
  最新の投稿写真には休憩室で百円おにぎりを食べる光太郎が映っている。
  いいね数は0。
光太郎「お」
  画面に以下の通知が出る。
  "和真さんがあなたの投稿にいいねしました"
光太郎「…頑張るか(と微笑む)」

○ 森田家・リビング
  和真、食卓でふりかけご飯をかき込む。
  和真、食べ終えると、カバンを持って立つ。
和真「(台所のさやかへ)いってきます」
さやかの声「いってらっしゃい」
  テレビからニュース映像。
  テロップで「新背番号法」の文字。
アナウンサー「背番号法が廃止されて一ヶ月。その間に女性議員が急速に勢力を増したことで"特別情報開示に関する法律"通称"新背番号法"が成立、本日より施行されます。この法律は15歳以上の女子を対象にしたもので、背番号には女性器の…」

○ 道
  和真、歩いている。
  女たち、背番号をつけている。
  12 、18、20、32 …数字はまちまちだ。さやかの声「和真!」
  和真、振り返ると、弁当箱を持ったさやかが駆けてくる。
さやか「ほい。忘れ物」
和真「ありがと」
  周りがさやかを見てざわめく。
和真「…?」
さやか「じゃ、気をつけてね」
  さやか、きびすを返す。
  和真、さやかの背中を見て、
和真「(息をのむ)」
  映し出されるゼッケン。
  刻まれた背番号は210。桃。

(おわり)

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